内部統制

コンプライアンスを強化して企業を守る!法令遵守の取り組みとポイント

更新日:2024.11.21

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コンプライアンス_強化

今や企業が競争力を保っていく上で、コンプライアンスの強化は必須となっています。ただ、「コンプライアンス」とはよく聞く言葉ではあるものの、しっかりと取り組めている自信がある企業は多くないのではないでしょうか。

そのため、ニュースでコンプライアンス違反の報道を見る度に自社は大丈夫なのかと漠然と思っている経営層や管理者もいるかもしれません。

具体的な例として挙げられるのが、SNSを中心に話題となっているバイトテロです。SNSが普及し、経営層や管理者が気付かないまま企業内の不祥事が従業員によって発信されるリスクが高まっています。

また、公式アカウントで情報発信している企業も多いものの、投稿に少しでもコンプライアンスに違反するような内容が含まれていると、すぐに「炎上」するリスクを抱えています。

このようなリスクを回避するには、企業全体でコンプライアンスを強化していくことが重要です。

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本記事では、コンプライアンスの意味からその強化方法までお伝えしますので、ぜひ参考にして下さい。

コンプライアンスとは?

そもそもコンプライアンスとはどのようなものなのでしょうか。正確な意味を理解するために、ここではコンプライアンスとは何かについて解説します。

コンプライアンスの指すもの

コンプライアンスとは、日本語で「法令遵守」と訳される言葉です。ただし、ビジネスでは、法律に加え、次の点についても遵守を求められます。

  • 法規範

法規範とは、法律や条例など特定の場所、時間において拘束力を持つ規則を指すものです。ビジネスにおいては、会社法や労働基準法、会計法などが挙げられます。

  • 社内規範

社内規範とは、企業内で定められたルールや規則を指すものです。具体的には就業規則や社内規定、業務手順書、マニュアルなどが挙げられます。

  • 倫理規範

倫理規範とは、ビジネスを行う上で欠かせない企業もしくは人として守るべき倫理を指すものです。具体的にはジェンダー平等、環境保護などが挙げられます。

CSRとの関係

CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略称で、「企業の社会的責任」と訳されます。具体的には、従業員や関連会社、ステークホルダーの他、地域社会など自社と利害関係のあるものに対して責任ある行動を取るとともに説明責任を果たす考え方です。

利害関係者はもちろん、顧客や社会からも信頼されるには、長時間労働などの社会的課題の解決を目指すことが求められます。

そのためには社会的公正や環境への配慮をした上で、CSRの徹底が欠かせません。コンプライアンスの遵守は、CSRを徹底していくなかの一部として重視されるようになったのです。

参考:厚生労働省|CSR(企業の社会的責任)

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コンプライアンスが着目される背景

コンプライアンスが注目されるようになったのは、2000年代に入ってからです。ここでは、なぜ、2000年代に入ってコンプライアンスが注目されるようになったのか、その背景について解説します。

相次ぐ企業の不祥事

集団食中毒や食品偽装、保険料過徴収、建設工事入札の談合、データ改ざんなど2000年以降、大手企業による不祥事が相次ぎました。その結果、いくつかの企業は社会的信用の失墜から破綻に追い込まれています。

同時期、粉飾決済が相次いだアメリカでは2002年に企業改革法が制定されました。これは監査の独立性を担保すること、財務情報の開示を強化することなどを目的としたものです。

この企業改革法の制定をきっかけに全世界でコンプライアンス強化の流れが生まれ、同様に企業の不祥事が続いていた日本でもコンプライアンスが注目されるようになりました。

参考:国立国会図書館デジタルコレクション|日本企業の不祥事とコーポレートガバナンス

政府による法整備

2000年以降、コンプライアンスが注目されるようになった日本でも、政府は企業に対しコンプライアンス体制を強化するための法整備を開始しました。具体的には次の通りです。

  • 金融商品取引法

投資者が投資判断に必要な情報を開示する際の不正に対する刑事罰・損害賠償・行政処分の強化をするための法律

  • 公益通報者保護法

企業内で法令違反行為があり、それを知って内部告発をする従業員を保護するための法律

  • 改正独占禁止法

カルテルや入札談合の防止を目的として、独占禁止法を改正し、課徴金減免制度を導入

  • 会社法

資本金5億円以上もしくは負債額200億円以上の企業で取締役会のある株式会社は、企業の内部統制システムを設置することを義務化する法律

参考:消費者庁|公益通報者保護法と制度の概要

参考:公正取引委員会|課徴金制度

コンプライアンスを強化するメリット

企業はコンプライアンスを強化することで「企業イメージの向上」「従業員の信頼回復」「法的違反の罰則回避」などのメリットが得られます。具体的には次の通りです。

企業としてのイメージの向上

コンプライアンスを強化することで、従業員はこれまで以上に法令遵守を意識するようになり、法令違反を犯してしまうリスクの大幅な減少が可能です。

その結果、企業に対するマイナスイメージが世間に広がることを防ぎ、企業イメージが向上する可能性が高まります。

企業イメージの向上により顧客の購買意欲が高まれば、それが取引先へも影響し、安定した取引が可能になり、経営上も大きなメリットが期待できるようになるでしょう。

従業員の企業への信頼強化

コンプライアンスの強化は、従業員の企業に対する信頼強化にもつながります。長時間労働やパワハラ、セクハラなどによるストレスの増加、不当解雇などが常態化すれば、企業と従業員の間でトラブルが絶えない状況に陥ってしまうでしょう。

しかし、経営層がコンプライアンスを意識し、社内環境の改善、社内規範の整備を徹底し、コンプライアンスが強化されれば、従業員の不満解消につながります。

その結果、従業員の企業に対する信頼感が回復し、生産性向上や離職率低下も実現可能です。

法的違反による罰則を回避

コンプライアンスの強化により、経営層はもちろん、従業員による法的違反リスクが減少する効果も期待できます。

金融商品取引法や会社法などコンプライアンスに関する法律が施行されたことで、これまで以上に法令違反による罰則を受けるリスクは高まっています。

もし法令違反をしてしまえば、罰金を受けるだけではなく、社会的信用が失墜してしまう可能性も高まり、大きな損害につながってしまいかねません。

そのため、法令の把握、社内規定の整備などによりコンプライアンスを強化すれば、罰則の回避につながり、結果として企業の競争力強化といったメリットをもたらします。

コンプライアンスを強化する方法

コンプライアンスの強化は企業に多くのメリットをもたらします。ただ、何をすれば強化につながるかがわからなければ意味がありません。そこで、ここでは具体的にコンプライアンスを強化する方法について解説します。

コーポレートガバナンスの整備

コンプライアンスを強化するには、コーポレートガバナンスの整備が必須です。コーポレートガバナンスとは、「企業統治」と訳される言葉で、企業が経営を律するための仕組みを指します。

コーポレートガバナンスを強化するためには、企業が従業員や関係会社、ステークホルダー、顧客、地域社会からの要請を踏まえ、透明性のある公正な意思決定が欠かせません。

つまりコーポレートガバナンスを強化することは、結果としてコンプライアンスの強化にもつながり、企業の不正な意思決定とそれによる事業防止につながります。

内部統制の確立

コーポレートガバナンスを強化する具体的な取り組みの1つは、内部統制の確立です。内部統制とは、企業が事業活動を効率的かつ健全に行うための仕組みで、経営層や従業員などが働く体制を整備し、正しく運用することで不正防止を実現させます。

内部統制を整備するには、次の流れで進めていくことが重要です。

  1. 現時点での企業全体の内部統制を評価する
  2. 決算や財務に関する内部統制を評価する
  3. 部署、チームごとの業務プロセスにおける内部統制を評価する

まず、全体を把握し、次に特に重視すべき決算や財務に関する内部統制の状況を評価します。そして最後に部署やチームごとにそれぞれの業務プロセスにおける内部統制を進め、問題点、課題点を抽出した上で、改善に注力します。

内部統制に関しては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

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外部からの監視体制の構築

コーポレートガバナンスの強化につながるもう1つの取り組みは、外部からの監視体制の構築です。具体的には、社外取締役や社外監査役など社外役員を設置することで、外部からの監視体制を整備します。

外部からの人材を登用する際の注意点は、社内の人間関係のしがらみと無縁であること、公平な立場から企業の状況を見ることができる人物を選択することです。

社内人材だけではどうしても気の緩みが生まれかねません。社外役員を登用すれば、経営層の間に緊張感が生まれ、不正発生のリスク減少につながる可能性も高まります。

内部統制は経営者がトップとなり整備するため、経営者が関与する不正は防止できません。そのため、コーポレートガバナンスを強化するには必ず内部統制と外部からの監視体制構築はセットで行うことが重要です。

経営陣の意識改革の推進

コンプライアンスを強化するには、経営陣の意識改革推進も必要です。経営陣は企業を継続させるため、利潤の追求が求められます。しかし、利潤の追求ばかりに意識がいってしまえば、時として倫理観や社会的要請を無視してしまいかねません。

特に家族経営や起業当初からのワンマン体制の企業ほど、従業員が経営層の誤りを正すことは困難です。また、誤りを正せない状況が長く続けば、それが当たり前となり、いずれは企業全体に法令違反に対する意識も薄まってしまうリスクがあります。

そのため、コンプライアンスを強化するには、全社的影響の大きい経営層が自ら意識改革を進めていかなければなりません。そして、経営層が先頭に立ってコンプライアンス強化の旗振りを行うことが重要です。

従業員への教育の推進

コンプライアンス強化は、経営層が旗振り役となって進めていきます。しかし、従業員が笛吹けど踊らずの状態では強化は困難です。従業員も個々が適切な行動を取ることが求められます。

社会的信用を築くには相応の時間と手間がかかるものの、失うのは一瞬です。たった1人の行動でもSNSで拡散されてしまえば、企業にとって大きなダメージとなります。そうした意味でも従業員に対する教育は徹底して行わなければなりません。

教育を行うポイントは次の4点です。

  1. 全従業員を対象にすること
  2. ただ参加するだけを防ぐため、当事者意識を持たせること
  3. 具体的なリスクについて理解が深まるよう、身近な法制度を扱うこと
  4. 教育する範囲が膨大なため、体系的に学べるようにすること

また、社会で要請される倫理や道徳の基準は時代によって変遷していく場合もあるため、その時々で教育する内容はアップデートしていくことも重要です。

以下の記事では、不正なく業務の適正を確保する「内部統制システム」について詳しく解説しているので参考にしてください。

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内部通報制度の構築

内部通報制度の構築は、コンプライアンス強化に欠かせない施策の1つです。内部通報制度とは、コンプライアンス違反もしくは違反につながる行為を発見した従業員が、コンプライアンス対策を行う部署に報告をする制度を指します。

もし不正が発生した場合に、従業員が自分から声を上げにくい環境では、問題発生の遅れにつながり、事態の深刻化につながるリスクが増大しかねません。リスク防止のためには内部通報制度の構築が必須です。

制度構築には、通報の匿名性を確保すること、通報により何らかの不利益を被るリスクを受けないようにすることが必要になります。そもそも内部通告者に不利益を与えることは、公益通報者保護法第3~5条で禁止されている行為なので、ルールの徹底が欠かせません。

コンプライアンス対策室の設置

企業でコンプライアンス強化に取り組む場合、人事部や総務部を窓口とするのが一般的です。ただし、本格的にコンプライアンス強化に対応するのであれば、専門の部署を設置した方が高い効果を期待できます。

コンプライアンス対策部門を設置するメリットは、コンプライアンスに恒常的に取り組めるようになる点、そして社内でのコンプライアンスの意識が高まる点です。

専門の部署を設置するには、予算がかかるようになるため、短期的に見ればコスト損失になるでしょう。しかし、中長期的な視点で見れば、コンプライアンス強化で得られるメリットがコスト損失を上回る可能性が高くなります。企業規模にもよりますが、一定以上の規模を持つ企業であれば、設置の検討をしましょう。

コンプライアンスを強化する際のポイント

コンプライアンス強化は、企業の競争力維持のためにも欠かせない施策です。ただ、強化するための施策を実行するにはいくつかのポイントがあります。ここでは、コンプライアンス強化をより効率的に進めるためのポイントを見てみましょう。

コンプライアンス違反によるリスクが高い領域から対処する

コンプライアンス強化を効率的に進めるには、コンプライアンス違反によるリスクが高い領域から対処するのがおすすめです。

コンプライアンス強化は全社が対象となるものの、実務的にコンプライアンス強化に携われる人材や資金は限られています。企業内全ての部署で完璧にコンプライアンス強化を進めるには、リソースの問題からいっても難しいでしょう。

例えば、顧客の個人情報を扱う部署、会計や財務を取り扱う部署など、コンプライアンス違反が起きた際に損害が大きくなるリスクがある部署から対応するのが効果的です。

長期的な視点をもってコストを投入する

企業はその性質上、利益重視になる傾向があるため、直接的な利益につながらないコンプライアンス強化は軽視されがちです。

ただ、コンプライアンス強化は短期的には利益に影響はないものの、損失の回避や企業の社会的信用の向上など中長期的には大きな利益をもたらします。

そのため、短期的な視点でコンプライアンス強化を進めるのではなく、中長期的な視点を意識すれば、コストもかけやすくなるでしょう。

コンプライアンスに明るい人材を採用する

コンプライアンスの強化には、法律はもちろん、社会規範や社内規定などに精通した人材が必要です。そのため、コンプライアンス対策室の担当者を選択する際は、コンプライアンスに明るい人材を必ず1人は確保するようにしましょう。

具体的には、監査法人で監査業に関わった経験のある人、公認会計士の資格を持った人、コンプライアンス・オフィサー認定資格を持った人などが適任です。

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現状を把握した上でしっかりとコンプライアンス強化に取り組もう

コンプライアンスは短期ではなく、中長期的視点で進めていくことが重要です。また、経営者はもちろん、全従業員が高い意識を持ち、施策に取り組んでいくことが求められます。

現状、体制が整備されていないのであれば、本記事の内容を参考に自社のコンプライアンス体制を見直してみてはいかがでしょうか。

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