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企業の経理や法務をご担当されている皆様の中には、「取引先との兼ね合いで支払期日を変更したいが、下請法に抵触しないか不安だ」「自社のキャッシュフロー改善のために支払サイトを見直したいが、法的にどこまで許されるのか正確に知りたい」といった課題をお持ちではないでしょうか。
下請法は、親事業者と下請事業者間の取引を公正に保ち、立場の弱い下請事業者を守るための重要な法律です。特に「支払期日」に関するルールは厳格に定められており、意図せず違反してしまった場合でも、行政指導や罰則の対象となるリスクがあります。
しかし、ルールを正しく理解し、適切な手順を踏めば、取引先との合意のもとで支払期日を変更することは可能です。この記事では、下請法の基本ルールから、支払期日を合法的に変更するための具体的な手順、注意すべきトラブル、そして煩雑な支払管理を効率化する方法まで、経理担当者の皆様が安心して実務を進められるよう、分かりやすく解説します。
そもそも下請法における支払期日のルールとは?

支払期日の変更を検討する前に、まずは下請法が定める大原則を正確に理解しておく必要があります。この法律の目的は、下請事業者が不当な不利益を被ることなく、安定して事業を継続できるようにすることです。そのため、支払期日には明確な「上限」が設けられています。
原則は「給付を受領した日から60日以内」
下請法で最も重要なルールが、「支払期日は、親事業者が下請事業者から物品やサービスの提供(給付)を受領した日から起算して、60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に定める」というものです。
ここでのポイントは、起算日(カウントを始める日)が「請求書を受け取った日」ではなく、「給付を受領した日」であるという点です。例えば、物品の納品であれば「納品日」、サービスの提供であれば「役務の提供が完了した日」が起算日となります。
仮に、4月10日に下請事業者から商品の納品を受けたとします。この場合、支払期日は、60日後である6月9日までの間に設定しなければなりません。月末締め翌月末払いといった一般的な商習慣も、この60日ルールを超えない範囲で設定する必要があります。
支払期日を定めていない場合はどうなる?
もし、契約時や発注時に具体的な支払期日を取り決めていなかった場合、法律は下請事業者を保護するように働きます。このケースでは、「給付を受領した日」が支払期日であると見なされます。つまり、納品されたその日が支払い期限となるのです。
さらに、たとえ双方で合意があったとしても、「給付を受領した日から60日」を超えた日を支払期日として定めた場合は、その合意は無効となり、法律によって「給付を受領した日から60日を経過する日」が支払期日と定められます。例えば、70日後の支払いを合意したとしても、法的には60日後が支払期限となり、それを超えた分は「支払遅延」と見なされるため、注意が必要です。
下請法に違反せず支払期日を変更する具体的な手順

それでは、この厳格なルールの下で、どのようにすれば支払期日を合法的に変更できるのでしょうか。結論から言うと、「双方の合意」と「60日ルールの遵守」という2つの絶対条件を満たせば、変更は可能です。ここでは、その具体的な手順を解説します。
親事業者と下請事業者の「合意」が必須
最も重要なのは、親事業者が一方的に支払期日を変更することは絶対に許されない、という点です。必ず、親事業者と下請事業者の双方で話し合い、支払期日の変更について明確に合意形成をする必要があります。
この合意は、口頭ではなく、後から「言った・言わない」のトラブルを避けるためにも、必ず書面で証拠を残すことが極めて重要です。メールでのやり取りも証拠にはなりますが、正式な「覚書(おぼえがき)」を交わすのが最も安全で確実な方法と言えるでしょう。この合意形成のプロセスを軽視すると、後述する「優越的地位の濫用」を疑われるリスクにも繋がります。
変更後の支払期日も「60日ルール」の範囲内で
たとえ下請事業者との合意があったとしても、下請法の「60日ルール」を超えることはできません。変更後の支払期日も、あくまで当初の「給付を受領した日」から起算して60日以内に設定する必要があります。
例えば、4月10日に納品を受け、当初の支払期日を「4月末日」と定めていたとします。その後、双方の合意で支払期日を延長することになった場合でも、延長後の期限は、起算日である4月10日から60日後の6月9日まででなければなりません。これを7月10日に変更する、といった合意は法律上無効となります。あくまで法律の枠内での変更しか認められないことを、肝に銘じておきましょう。
契約書や覚書の作成・変更
支払期日の変更について合意が形成されたら、その内容を正式な書面として記録します。既存の基本契約書がある場合は、それに対する「変更覚書」を2部作成し、両社が記名押印(または署名)の上、それぞれ1部ずつ保管するのが一般的です。
覚書には、少なくとも以下の項目を明確に記載する必要があります。これにより、将来的な認識の齟齬を防ぎ、法的な証拠能力を担保します。
| 記載項目 | 内容 |
| 当事者の名称 | 親事業者(甲)と下請事業者(乙)の正式名称を記載します。 |
| 対象となる契約 | どの契約に関する変更であるかを特定するため、元の契約書の名称や締結日を記載します。 |
| 変更内容 | 変更前の支払期日と、変更後の新しい支払期日を明確に記載します。 |
| 適用開始日 | 新しい支払期日がいつの取引から適用されるのかを明記します。 |
| 合意日 | 覚書を締結した日付を記載します。 |
| 署名または記名押印 | 両社の代表者名などを記載し、押印または署名します。 |
支払期日の変更で起こりうるトラブルと注意点
適切な手順を踏んだとしても、支払期日の変更にはいくつかの潜在的なリスクが伴います。ここでは、特に注意すべき2つのポイントについて解説します。これらのリスクを事前に理解しておくことで、より安全に手続きを進めることができます。
優越的地位の濫用とみなされるリスク
下請法が最も警戒しているのが、親事業者がその優越的な立場を利用して、下請事業者に一方的に不利益な条件を押し付ける「優越的地位の濫用」です。
形式上は「合意」の覚書を交わしていたとしても、その背景に「この条件を飲まないと今後の取引を停止する」といった無言の圧力があったと判断されれば、その合意は公正なものとは見なされず、下請法違反を問われる可能性があります。
このような事態を避けるためには、支払期日の変更を要請する際に、その理由(例えば、自社の経理プロセスの変更など)を誠実に説明し、下請事業者の理解と納得を得ることが不可欠です。あくまで対等なパートナーとしての交渉を心がけ、協議の経緯を議事録などで記録しておくことも、リスク管理の観点から有効です。
支払遅延と遅延利息の発生
万が一、新たに設定した支払期日を守れなかった場合、それは「支払遅延」となり、下請法違反となります。この場合、親事業者には、給付を受領した日から60日を経過した日から、実際に支払いを行う日までの期間について、年率14.6%という非常に高い利率の遅延利息を支払う義務が発生します。
この遅延利息の支払いは、たとえ下請事業者からの請求がなくても、親事業者が自ら計算して支払わなければならない義務です。支払遅延は、企業の信用を大きく損なうだけでなく、想定外のコスト増にも繋がります。支払期日の管理は、これまで以上に厳格に行う必要があります。
支払期日の管理を効率化し、法改正にも対応する「TOKIUM」の活用

ここまで見てきたように、下請法の支払期日管理は非常に厳格で、手作業での管理には限界があり、ヒューマンエラーによる支払遅延のリスクが常に伴います。また、下請法だけでなく、インボイス制度や電子帳簿保存法など、経理部門が対応すべき法改正は後を絶ちません。
このような複雑でリスクの高い業務から経理担当者を解放し、より付加価値の高い仕事に集中できる環境を構築するために、テクノロジーの活用が有効な選択肢となります。
請求書処理の自動化で支払遅延リスクを根本から断つ
支払遅延の多くは、請求書の処理に時間がかかることに起因します。「請求書が担当者の手元で止まっている」「承認プロセスが複雑で時間がかかる」「手入力のミスで支払データが正しく作成できない」といった課題は、多くの企業が抱えています。
株式会社TOKIUMが提供する請求書受領サービス「TOKIUMインボイス」は、紙やPDFなど、あらゆる形式で届く請求書を代理で受領し、99%以上の精度でデータ化します。データ化された請求書はクラウド上で一元管理され、ワークフロー機能によってスムーズな承認プロセスを実現。最終的には、会計ソフトや全銀フォーマットに対応した支払データを自動で作成できるため、支払遅延の根本的な原因を解消します。これにより、下請法違反のリスクを大幅に低減し、経理部門の業務負担を劇的に削減することが可能です。
まとめ
下請法における支払期日の変更は、「下請事業者との真摯な合意」と「給付受領日から60日以内という絶対ルールの遵守」という2つの要件を満たすことで、合法的に行うことが可能です。その際には、覚書などの書面を確実に残し、優越的地位の濫用と見なされないよう、透明性の高いコミュニケーションを心がけることが重要です。
しかし、これらの法規制を遵守しながら、日々の膨大な請求書処理を手作業で管理し続けることには、限界とリスクが伴います。
支払業務の自動化を実現する「TOKIUMインボイス」のようなサービスを活用することは、下請法違反のリスクを回避するだけでなく、経理部門全体の生産性を向上させ、企業の競争力を高めるための戦略的な一手と言えるでしょう。
この機会に、自社の支払管理プロセスを見直し、より安全で効率的な体制の構築を検討してみてはいかがでしょうか。
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