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下請事業者への支払業務を担当されている経理・法務のご担当者様の中には、「当社が発行しているこの手形、下請法の支払期日ルールに照らして本当に問題ないのだろうか?」と、ふとした瞬間に不安を感じることはありませんか。あるいは、「毎月の手形発行や管理業務が煩雑で、もっと効率的な方法はないものか」とお考えかもしれません。
下請法は、立場の弱い下請事業者を守るための重要な法律であり、その中でも支払期日に関するルールは特に厳格に定められています。知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまうと、公正取引委員会からの勧告や指導を受けるだけでなく、企業の社会的信用を大きく損なうことにもなりかねません。
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この記事では、下請法の支払期日に関する基本ルールから、特に注意が必要な「手形払い」の具体的な期日計算、そして支払遅延と見なされるケースまで、図表を交えながら分かりやすく解説します。さらに、手形払いが抱える隠れたリスクやコストを明らかにし、時代に合ったスマートな支払い方法への移行と、経理業務全体を劇的に効率化する具体的なソリューションまでご紹介します。
そもそも下請法とは?支払期日の基本ルールを再確認

手形払いの具体的な話に入る前に、まずは下請法の基本的な考え方と、すべての支払方法に共通する「支払期日」の大原則についておさらいしておきましょう。この基本を理解することが、複雑な手形払いのルールを正しく把握するための第一歩となります。
下請法の目的と対象となる取引
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、その名の通り、親事業者が下請事業者に対して優越的な地位を濫用し、支払いを不当に遅らせたり、代金を減額したりすることを防ぐために制定された法律です。資本金の大きな親事業者が、立場の弱い下請事業者に対して無理な条件を押し付けることがないよう、公正な取引関係を築くことを目的としています。
この法律が適用されるかどうかは、親事業者と下請事業者の「資本金区分」と「取引内容」によって決まります。例えば、資本金3億円超の企業が、資本金3億円以下の企業(個人事業主を含む)に製造や修理を委託する場合などが典型的な例です。自社の取引が下請法の対象になるかどうか、今一度確認しておくことが重要です。
| 取引内容 | 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 |
| 製造委託・修理委託など | 3億円超 | 3億円以下 |
| 1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下 | |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 5,000万円超 | 5,000万円以下 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 1,000万円以下 | |
| ※下請事業者の資本金には、個人事業主も含まれます。 |
最も重要な「支払期日を定める義務」
下請法では、親事業者が遵守すべき11の義務項目が定められていますが、その中でも特に重要なのが「支払期日を定める義務」です。これは、親事業者が下請事業者に対して発注する際に、あらかじめ支払期日を明確に定め、書面(発注書など)に記載しなければならないというルールです。口頭での約束や、曖昧な期日設定は認められません。この義務は、下請事業者が安定した資金繰り計画を立てられるようにするための、非常に大切な規定です。
原則は「給付の受領後60日以内」
では、支払期日は自由に設定して良いのでしょうか。答えは「いいえ」です。下請法では、支払期日の上限を「下請事業者から物品やサービスの提供を受けた日(受領日)から起算して、60日以内のできる限り短い期間内」と定めています。たとえ双方の合意があったとしても、この60日という期間を超える支払期日を設定することはできません。
例えば、月末締めの翌々月10日払いという契約の場合、受領日が月初めの1日だと支払日までが60日を超えてしまう可能性があります。そのため、「月末締め翌月払い」など、どの受領日であっても確実に60日以内に支払いが完了するようなルールを社内で確立しておく必要があります。
下請法における手形払いの支払期日と注意点

現金(銀行振込)であれば、先ほどの「受領後60日以内」というルールを守っていれば問題ありません。しかし、支払いを手形で行う場合は、さらに特別なルールが加わります。経理担当者の方が最も注意すべき、手形払いの核心部分について詳しく見ていきましょう。
なぜ手形払いは特別扱い?現金払いとの違い
手形は、記載された期日(満期日)にならなければ現金化できない有価証券です。つまり、下請事業者が親事業者から手形を受け取ったとしても、その時点ではまだ現金を手にしたことにはなりません。もし手形の満期日が非常に長く設定されてしまうと、下請事業者はその間、資金繰りに窮してしまう恐れがあります。
この「手形を受け取った日」と「実際に現金化できる日」のタイムラグを考慮し、下請事業者が不当に長い期間、資金繰りに苦しむことがないように、下請法では手形払いに対して現金払いよりも厳しいルールを設けているのです。
手形の「満期日」が本当の支払期日になる
下請法における手形払いの大原則は、「手形の満期日」を下請代金の支払期日とみなす、という点です。つまり、先ほど説明した「受領後60日以内」というルールは、手形を交付する日ではなく、その手形が現金化できる満期日に対して適用されると考えるのが基本です。
しかし、これでは通常の取引慣行と合わないため、下請法では現実的なルールを設けています。それは、「手形を交付した日から、満期日までの期間」に一定の制限を設けるというものです。
遵守すべき手形の満期日までの期間(サイト)
下請法では、手形を交付した日から満期日までの期間(いわゆる「手形サイト」)は、業種によって定められた上限を超えてはならないとされています。この上限を超えて長いサイトの手形を交付すると、たとえ手形の交付自体が60日以内に行われたとしても、「支払遅延」と見なされてしまいます。
具体的な手形サイトの上限は以下の通りです。
| 業種 | 手形サイトの上限 |
| 繊維業 | 90日 |
| その他の業種 | 120日 |
| このルールを、支払期日の原則である「受領後60日以内」と合わせて考えると、以下のようになります。 |
【支払期日の計算式】
(下請代金の受領日)+ 60日 + (手形サイトの上限日数)
この期間内に、手形の満期日が到来していなければなりません。例えば、製造業(その他の業種)の場合、下請事業者から製品を受け取った日から数えて「60日 + 120日 = 180日」以内に、手形が現金化できる状態でなければならない、ということになります。
注意!「割引困難な手形」の交付は違法
もう一つ、手形払いで絶対に注意しなければならないのが「割引困難な手形」の交付です。これは、支払期日までに一般の金融機関で割引(現金化)を受けることが困難な手形を交付してはならない、というルールです。
たとえ手形サイトの期間を守っていたとしても、親事業者の経営状況が悪く、金融機関が割引に応じてくれないような手形を交付すれば、それは下請事業者にとって現金化できない紙切れと同じです。このような手形の交付は、下請事業者に著しい不利益を与えるため、下請法違反となります。自社の信用状況を健全に保つことも、親事業者の重要な責務と言えるでしょう。
支払遅延と見なされるケースと具体的な罰則
下請法の支払期日ルールに違反し、「支払遅延」と判断された場合、親事業者には厳しい罰則が科せられます。まず、支払いが遅れた本体の金額に加えて、その期間に応じた「遅延利息(年率14.6%)」を下請事業者に支払わなければなりません。
さらに、公正取引委員会による調査が入り、違反が認められると、社名や違反内容が公表される「勧告」が行われることがあります。勧告を受けると、金融機関からの融資や公共事業の入札で不利になるなど、事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。たった一度の支払い遅延が、長年築き上げてきた企業の信頼を根底から揺るがしかねないのです。
手形払いがもたらす隠れたリスクとコスト

ここまで下請法のルールを中心に解説してきましたが、法令遵守とは別の観点からも、手形払いには多くのデメリットが潜んでいます。これらは日々の業務に追われる中で見過ごされがちですが、企業経営に与える影響は決して小さくありません。
親事業者側のデメリット:印紙代、管理コスト、紛失リスク
まず、親事業者側の負担として、手形を発行するたびに発生する「収入印紙代」が挙げられます。一件あたりの金額は小さくても、取引件数が多ければ年間のコストは相当な額に上ります。また、手形帳の厳重な保管、発行履歴の管理、下請事業者への郵送手続きなど、目に見えない管理コストや人件費もかかっています。
さらに、物理的な手形である以上、紛失や盗難のリスクも常に付きまといます。万が一紛失してしまった場合の手続きは非常に煩雑であり、業務に大きな支障をきたすことになります。
下請事業者側の負担:資金繰りの悪化と割引料
一方、手形を受け取る下請事業者側にも大きな負担がかかります。最も深刻なのは、やはり資金繰りの悪化です。満期日まで現金化できないため、その間の仕入れ代金や人件費の支払いに窮してしまうケースも少なくありません。
すぐに現金が必要な場合は、金融機関で手形を割り引いてもらうことになりますが、その際には当然「割引料」という手数料が発生します。これは実質的に、受け取るべき代金が目減りすることを意味し、下請事業者の利益を圧迫する要因となります。
企業イメージの低下にもつながる可能性
近年、サプライチェーン全体でのコンプライアンスや公正な取引が重視される傾向が強まっています。そのような中で、いまだに手形での支払いを続けていることは、下請事業者に負担を強いる古い体質の企業という印象を与えかねません。
優秀な技術を持つ下請事業者から取引先として選ばれにくくなったり、企業の社会的責任(CSR)を問われたりする可能性もゼロではありません。支払い方法一つが、企業のブランドイメージや競争力にまで影響を及ぼす時代になっているのです。
脱・手形払いへ!支払い業務を効率化する新しい選択肢
法令遵守のリスクや、双方にとってのデメリットを考えると、もはや手形払いを続けるメリットはほとんどないと言えるでしょう。ここでは、手形に代わるより安全で効率的な支払い方法と、経理業務全体を変革するソリューションをご紹介します。
基本となる「現金(銀行振込)」への移行
最もシンプルで確実な解決策は、すべての支払いを現金(銀行振込)に切り替えることです。銀行振込であれば、下請法における複雑な手形サイトの計算は不要になり、「受領後60日以内」という原則を守るだけでよいため、コンプライアンス管理が非常に容易になります。下請事業者にとっても、期日通りに現金が振り込まれるため、資金繰りの見通しが立てやすくなり、双方にとってメリットが大きい方法です。
手形と振込のメリットを両立する「電子記録債権(でんさい)」
もし、自社の資金繰りの都合上、どうしても支払いを先延ばしにしたいというニーズがある場合は、「電子記録債権(でんさい)」が有効な選択肢となります。でんさいは、手形を電子化したもので、インターネット上で債権の発生から譲渡、支払いまでを完結できます。
手形のように印紙代や発行・郵送の手間がかからず、紛失や盗難のリスクもありません。下請事業者は、必要な分だけを分割して譲渡したり割り引いたりできるため、手形よりも柔軟な資金調達が可能です。手形の持つ「支払猶予」という機能と、振込の持つ「効率性・安全性」を両立した、現代的な決済手段と言えるでしょう。
支払業務全体を効率化する「請求書受領・支払代行サービス」
銀行振込やでんさいへの移行は、手形の問題を解決しますが、請求書の処理や振込データ作成といった経理担当者の作業がなくなるわけではありません。経理業務の根本的な効率化を目指すなら、「請求書受領・支払代行サービス」の導入が極めて効果的です。
これらのサービスは、取引先から届く紙やPDFの請求書を、AI-OCRなどを活用して自動でデータ化し、会計システムへの入力までを代行してくれます。さらに、承認された請求書に基づいて振込データを作成し、実際の支払いまでを代行するサービスもあります。これにより、経理担当者は請求書の開封やスキャン、入力、振込作業といった定型業務から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
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まとめ
本記事では、下請法における支払期日の基本ルールと、特に注意が必要な手形払いの規定について詳しく解説しました。
- 支払期日は、物品やサービスの受領後60日以内
- 手形払いの場合、手形サイトは繊維業で90日、その他業種で120日が上限
- ルール違反は、遅延利息の支払いや公正取引委員会からの勧告につながる
- 手形払いは、法令リスクだけでなく、コストや管理負担、企業イメージ低下のリスクも伴う
下請法の遵守は、企業の信頼を守る上で最低限の義務です。そして、手形払いという古い慣習から脱却し、支払業務全体をデジタル化することは、企業の生産性を高め、競争力を強化するための重要な経営戦略と言えます。
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