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請求書に源泉徴収額は記載するべき?書き方や記載時のポイントを紹介

更新日:2024.12.27

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フリーランスや個人事業主として仕事をしていると、請求書に源泉徴収額を記載すべきか迷うことがあります。源泉徴収は支払者側が所得税を天引きして納付する制度ですが、請求書への記載方法や計算方法について正しく理解しておく必要があります。

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この記事では、源泉徴収制度の基本から、請求書への記載の必要性、具体的な記載方法まで、実務に即して解説します。この記事を読めば、適切な請求書の作成方法と、源泉徴収に関する正しい知識を身につけることができます。

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源泉徴収制度とは

源泉徴収制度とは、報酬を支払う側が所得税を天引きして国に納付する制度です。この制度により、税金の徴収漏れを防ぎ、納税者と徴収者双方の負担を軽減することができます。

具体的には、個人事業主やフリーランスが得る特定の報酬について、支払者が所得税を計算し、支払額から差し引いて納税します。これは2013年1月1日から2037年12月31日までの間、復興特別所得税も併せて徴収されます。

通常、年末には支払者から源泉徴収の金額を記載した支払調書が送られてきますが、支払調書の発行は義務ではありません。そのため、確定申告に備えて自身で源泉徴収額を把握・記録しておく必要があります。特に複数の取引先がある場合は、各取引の源泉徴収額を正確に管理することが重要です。

確定申告のやり方については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

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源泉徴収の対象

源泉徴収の対象となる報酬は、法律で明確に定められています。すべての報酬が対象となるわけではなく、特定の業務や役務提供に対する報酬に限定されています。

また、個人と法人では対象となる範囲が異なるため、自身の取引が源泉徴収の対象になるかどうかを正確に把握しておくことが重要です。

個人の場合

個人が受け取る報酬のうち、源泉徴収の対象となるものは以下の通りです。

  • 原稿料、講演料、デザイン料、放送謝金、工業所有権の使用料、技芸・スポーツ・知識等の教授・指導料
  • 弁護士、公認会計士、税理士等の報酬・料金
  • 社会保険診療報酬支払基金から支払われる診療報酬
  • プロスポーツ選手(野球、サッカー、テニスなど)、モデル、外交員などの報酬・料金
  • 芸能、放送出演、演出等の報酬・料金
  • バー・キャバレー等のホステス、バンケットホステス・コンパニオン等の報酬・料金
  • 使用人を雇用するための支度金等の契約金
  • 広告宣伝のための賞金および馬主が受ける競馬の賞金

ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金で、一人に対して1回の支払額が5万円以下の場合は源泉徴収の対象外となります。また、プログラミングやコーディング作業、一般的な事務作業などは源泉徴収の対象外です。

参考:国税庁|令和6年版 源泉徴収のしかた

法人の場合

法人の場合、源泉徴収の対象となる範囲は個人と比べて非常に限定的です。基本的に法人間の取引では源泉徴収は発生しませんが、以下の場合のみ源泉徴収の対象となります。

  • 馬主である法人に支払う競馬の賞金

なお、税理士法人や法律事務所など、士業が法人化している場合は、個人の場合と異なり源泉徴収の対象外となります。また、行政書士の一般的な業務についても源泉徴収は不要です。法人との取引の場合は、原則として源泉徴収義務が発生しないことを理解しておきましょう。

参考:国税庁|令和6年版 源泉徴収のしかた

源泉徴収額の計算方法

源泉徴収額は、支払金額によって計算方法が異なります。支払金額が100万円以下の場合と100万円を超える場合で、それぞれ以下のように計算します。

【100万円以下の場合】

支払金額 × 10.21%(所得税10% + 復興特別所得税0.21%)

【100万円を超える場合】

(支払金額 – 100万円)× 20.42%(所得税20% + 復興特別所得税0.42%) + 102,100円

例えば、50万円の原稿料の場合、50万円 × 10.21% = 51,050円が源泉徴収額となります。

一方、120万円の講演料の場合は、(120万円 – 100万円)× 20.42% + 102,100円 = 142,940円が源泉徴収額となります。

なお、計算の結果、小数点以下の端数が生じた場合は切り捨てとなります。

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請求書に源泉徴収額は書く必要がある?

請求書への源泉徴収額の記載は、法律上の義務ではありません。所得税法第6条では、源泉徴収を行う義務は「報酬を支払う側が負うもの」と定められています。つまり、請求書に源泉徴収額を記載するかどうかは、請求する側が任意で決められます。

しかし、多くの取引先では事務処理の効率化のため、請求書への源泉徴収額の記載を求める場合があります。特に契約時や初回の請求書作成時に、源泉徴収額の記載方法について確認されることが一般的です。事前に取引先と源泉徴収についての取り扱いを確認し、円滑な取引関係を築くことが重要です。

請求書に源泉徴収額を記載するメリット

請求書に源泉徴収額を記載することで、支払者側と請求者側の双方に具体的なメリットがあります。

支払者側のメリット請求者側のメリット
実際の支払額が一目で確認できるため、支払い処理の効率が上がる
源泉徴収税額の計算作業が不要になり、ミスのリスクが減少する
会計システムへの入力がスムーズになり、仕訳作業が効率化される
納税事務の正確性が向上し、税務調査への対応も容易になる
支払調書作成時のデータ照合が簡単になる
入金額の確認が容易になり、請求漏れや入金ミスの発見が容易になる
源泉徴収額を正確に把握でき、年間の収支管理がしやすくなる
確定申告の際の資料として活用でき、還付申請もスムーズに行える
年間の源泉徴収額の集計が簡単になり、税理士への相談材料としても使える
複数の取引先との取引における源泉徴収額の管理が容易になる
将来の税務調査に備えた記録として活用できる

特に確定申告時には、源泉徴収された金額を控除して最終的な納税額を計算します。源泉徴収額が確定申告で計算される納税額を上回る場合は還付を受けられる可能性があるため、正確な記録として請求書への記載は重要な意味を持ちます。

また、取引先から支払調書が送られてこない場合でも、自身で源泉徴収額を把握できる重要な証跡となるでしょう。

請求書に源泉徴収額を記載するデメリット

一方で、源泉徴収額を記載することには以下のようなデメリットも存在します。

取引先の誤解を招くリスク源泉徴収義務の有無を誤認識され、不要な源泉徴収をされる可能性がある
記載された金額が最終的な支払額と思い込まれ、消費税分が支払われない危険性がある
源泉徴収の計算方法(内税・外税)について認識の違いが生じやすい
取引先によって源泉徴収の処理方法が異なる場合、混乱を招く可能性がある
事務処理上の課題計算ミスや記載漏れのリスクが増え、修正対応に時間がかかる
複数案件の同時処理時に、案件ごとの源泉徴収率の確認が必要になる
請求書の修正が必要な場合、源泉徴収額も再計算する必要がある
消費税の計算と源泉徴収の計算を並行して行う必要があり、作業が煩雑になる請求書のフォーマット変更や修正が難しくなる
システム面での制約取引先の会計システムとの相性問題が発生し、データ連携がスムーズにいかない可能性がある
自動仕訳システムに対応できず、手動での修正が必要になるケースがある
データ連携時のエラーリスクが高まり、確認作業が増える
請求書作成システムによっては、源泉徴収の計算機能に対応していない場合がある
バックアップやデータ移行時に、源泉徴収に関する情報が正確に引き継がれない可能性がある

これらのデメリットは、特に取引量が多い場合や、複数の取引先と取引がある場合に顕著になります。そのため、取引先との関係性や業務量、使用している会計システムなどを考慮しながら、記載の有無を判断することが重要です。必要に応じて税理士などの専門家に相談し、自社に最適な方法を選択することをおすすめします。

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請求書に源泉徴収額を記載する場合のポイント

源泉徴収額を請求書に記載する際は、以下の3つのポイントに注意が必要です。

  • 小数点以下の端数処理
  • 消費税との関係性の明確化
  • インボイス制度への対応

これらのポイントを押さえることで、正確な請求書の作成と円滑な取引処理が可能になります。それぞれの詳細について見ていきましょう。

小数点以下は切り捨てて計算する

源泉徴収額の計算で小数点以下の数字が発生した場合は、必ず切り捨てて記載します。例えば、計算結果が51,050.75円となった場合は、51,050円と記載します。

この処理は法令で定められており、1円未満の端数は必ず切り捨てとなります。端数処理を誤ると、取引先の経理処理に影響を与える可能性があるため、特に注意が必要です。また、請求書の控えには計算過程も記録しておくと、後で確認が必要になった際に便利です。

消費税とは分けて記載する

源泉徴収額と消費税は、明確に区別して記載することが重要です。請求書上で報酬・料金等と消費税等が明確に区分されている場合は、報酬・料金等の金額のみが源泉徴収の対象となります。

【例)報酬額が10万円の場合】

  • 消費税込み(内税)で記載の場合:11万円が源泉徴収の対象
  • 消費税別(外税)で記載の場合:10万円が源泉徴収の対象

上記のように記載方法によって源泉徴収額が変わるため、取引先と事前に記載方法を確認しておくことが望ましいでしょう。

適格請求書でも書き方は同じ

2023年10月からインボイス制度が開始されましたが、源泉徴収額の記載方法自体に変更はありません。インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する制度であり、所得税に関連する源泉徴収には影響しないためです。適格請求書(インボイス)を発行する際も、以下の項目を従来通り記載します。

  • 取引内容と金額
  • 消費税額(税率ごとに区分)
  • 源泉徴収額(該当する場合)
  • 登録番号などインボイス制度で必要な項目

ただし、インボイス制度への対応で請求書の様式を変更する際は、源泉徴収額の記載位置や表示方法について、取引先と確認しておくことをおすすめします。

適格請求書(インボイス)に必要な項目と書き方については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

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まとめ

源泉徴収額の請求書への記載は法的な義務ではありませんが、実務上多くのメリットがあります。特に取引の透明性確保や確定申告時の資料として有用です。記載する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 小数点以下の端数は必ず切り捨てる
  • 消費税との区分を明確にする
  • 取引先と記載方法を事前に確認する
  • インボイス制度対応後も基本的な記載方法は変わらない

請求書作成の負担を軽減し、より正確な経理処理を実現するためには、請求書作成システムの導入も検討に値します。例えば、クラウド型の「TOKIUM請求書発行」では、請求書や納品書等の書類をオンライン上で作成し、電子送付を行います。CSVを取り込むだけで、現状のレイアウトに合わせた書類の作成が可能です。適切なツールを活用して、効率的な請求書作成と管理を行いましょう。

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