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ビジネス取引において、請求書は代金請求の根拠となる極めて重要な書類です。そのため、請求書に記載される様々な単位を正しく理解し、適切に使用することは正確な会計処理を行う上で不可欠です。
本稿では、経理担当者が日々の業務で直面する請求書に記載される単位について、基本的な数え方から商品やサービスの単位、そして国際取引における注意点までを網羅的に解説します。
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請求書単位の基本的な数え方
請求書そのものを数える際には、いくつかの単位が用いられます。これらの単位を適切に使い分けることは、社内外とのコミュニケーションを円滑にする上で重要です。
個々の請求書を数える単位:「枚」と「通」
請求書を一枚の書類として捉える場合、「枚(まい)」という単位を用いるのが一般的です 。例えば、「今月の請求書は全部で何枚ありますか?」といったように使用します。これは、領収書や明細書、見積書といった他の書類と同様の数え方です。
一方で、請求書を郵送や電子メールで送付する際には、「通(つう)」という単位も頻繁に用いられます 。一枚の紙で構成された請求書であっても、複数枚にわたる場合であっても、一まとまりの書類として送付する際に「1通」「2通」と数えます。
厳密には、「枚」は物理的な紙の数を指すのに対し、「通」は内容が完結した書類一式を意味します。したがって、請求書が1枚であれば「1枚」であり「1通」でもありますが、複数枚にわたる場合は「〇枚で1通」と表現することがより正確です。
電子請求書をメールで送る場合も、その行為は「送付」と捉えられるため、「通」を用いるのが適切です。紙に印刷された電子請求書であれば、「枚」と数えることも可能です。
このように、「枚」と「通」はどちらも請求書を数える際に用いられますが、そのニュアンスには違いがあります。経理担当者は、請求書が物理的な紙として存在しているのか、それとも送付された書類としての意味合いが強いのかによって、適切な単位を選択する必要があります。
請求書のメールでの送付についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
請求書内の取引や項目を数える単位:「件」
一枚の請求書の中に、複数の商品やサービス、あるいは複数の取引が記載されている場合があります。このような場合に、請求書に記載されている個々の取引や項目を数える単位として「件(けん)」が用いられます。
例えば、一枚の請求書に3つの異なるサービス内容が記載されている場合、請求書の数は「1枚」または「1通」ですが、取引件数は「3件」となります。また、同じ商品が複数回に分けて納品され、それらがまとめて一枚の請求書に記載されている場合でも、それぞれの納品を一件の取引として数えることがあります。
請求書に記載する商品やサービスの単位
請求書には、取引の対象となる商品やサービスの内容とその数量、単価が記載されます。この際、数量を示す単位は、商品やサービスの種類によって適切に使い分ける必要があります。
有形商品における一般的な請求書単位
有形商品を請求書に記載する際には、その商品の性質や取引の慣習に応じて様々な単位が用いられます。代表的なものとしては、「個(こ)」、「本(ほん)」、「台(だい)」、「枚(まい)」、「kg(キログラム)」、「m(メートル)」、「L(リットル)」などが挙げられます。
例えば、個別の製品を販売する場合には「個」を、ケーブルやペンなどの細長いものを数える場合には「本」を用いるのが一般的です。機械や車両などの据え置き型の製品には「台」が、紙や布などの薄いものを数える際には「枚」が適しています。重量で取引される原材料や食品などには「kg」が、長さで取引される布やパイプなどには「m」が用いられます。液体を取引する際には「L」が一般的です。
また、複数の商品がセットになっている場合には「式」、箱に入った商品を数える場合には「箱(はこ)」、12個を単位とする場合には「ダース」 など、より具体的な単位が用いられることもあります。建築業においては、材料の数量を「立法メートル」で示すこともあります。
国際取引においては、国や地域によって一般的な単位が異なる場合があるため注意が必要です。例えば、重量の単位として「トン(t)」や「ポンド(lb)」、長さの単位として「フィート(ft)」や「ヤード(yd)」などが用いられることがあります。
無形サービスや労務における請求書単位
無形サービスや労務の対価を請求書に記載する際には、「時間(じかん)」、「日(にち)」、「回(かい)」といった単位が用いられます。
時間単位で料金が発生するコンサルティングやデザイン業務などでは「時間」が、日単位で作業を行う業務委託などでは「日」が用いられます。サービスの提供回数を数える場合には「回」が適しています。
建設業においては、作業員の労務費を「人工(にんく)」という単位で示すことがあります。これは、一人分の作業員が一日働くことを意味する単位で、例えば「2人工」であれば、二人の作業員が一日働いた、あるいは一人の作業員が二日働いたことを示します。また、コンサルティング業界などでは、プロジェクトの規模や期間に応じて「人月(にんげつ)」という単位を用いることもあります。
サービス業においては、提供するサービスの内容によって様々な単位が考えられます。例えば、記事作成であれば「本」、システム開発であれば「件」や「式」などが用いられることがあります。
誤った請求書単位による潜在的な問題と影響
請求書に誤った単位を使用した場合、様々な問題が発生する可能性があります。これらの問題は、単なる事務処理上のミスに留まらず、企業の財務や信用にも影響を及ぼす可能性があります。
財務上の不一致と支払いの誤り
請求書の単位を誤ると、請求金額が正しく計算されず、財務上の不一致や支払いの誤りを招く可能性があります。
例えば、商品の数量を「個」で発注したにもかかわらず、請求書では誤って「箱(1箱10個入り)」という単位で請求された場合、10倍の金額が請求されることになります。これは、買手側にとっては過剰な支払いとなり、売手側にとっては過剰な収益として計上されることになります。
逆に、単価を「個」あたりで設定したにもかかわらず、数量の単位を誤って「箱」としてしまうと、本来請求すべき金額よりも大幅に少ない金額しか請求できず、企業の損失に繋がります。
このような単位の誤りは、在庫管理にも影響を及ぼします。請求書の単位と実際の在庫の単位が異なっていると、入庫や出庫の管理が煩雑になり、正確な在庫数を把握することが困難になります。
規制遵守と監査への影響
請求書は、税務申告や会計監査においても重要な証拠書類となります。誤った単位が記載された請求書は、税務調査や会計監査において問題視される可能性があります。
例えば、消費税の仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要ですが、インボイスには正確な取引内容(品名、数量、単位、単価など)の記載が求められます。もし、単位が誤って記載されていた場合、その請求書が適格請求書として認められず、仕入税額控除を受けられないリスクが生じます。
また、会計監査においては、請求書の記載内容と実際の取引内容との整合性が確認されます。単位の誤りは、この整合性を損なう要因となり、監査法人からの指摘を受ける可能性があります。
特に、国際取引においては、輸出入に関する規制や関税の計算において、請求書に記載された単位が重要な役割を果たします。誤った単位の使用は、通関手続きの遅延や、意図しない関税の課税に繋がる可能性もあります。
経理担当者は、請求書が単なる代金請求の書類であるだけでなく、法的な根拠となる重要な書類であることを認識し、正確な単位の使用を徹底する必要があります。
請求書の法的な制度については、以下の記事をご覧ください。
国際請求書における単位の特別な考慮事項
海外の取引先との間で発行・受領する国際請求書においては、国内取引とは異なる単位や商習慣に注意する必要があります。
一般的な国際単位と規格
国際取引においては、メートル法に基づいた単位(例えば、重量はキログラム(kg)やトン(t)、長さはメートル(m)、体積はリットル(L)や立方メートル(m³))が一般的に使用されます。
しかし、国や地域によっては、独自の単位や規格が用いられている場合もあります。例えば、アメリカでは重量の単位としてポンド(lb)やオンス(oz)、長さの単位としてフィート(ft)やインチ(in)、体積の単位としてガロン(gal)などが一般的に使用されます。
また、特定の業界においては、国際的に共通の単位が用いられることもあります。例えば、宝石業界ではカラット(ct)、航空貨物業界では重量ポンド(lb)などが用いられることがあります。 繊維製品の場合には、重量ではなくロールの本数や生地面積が単位となることが多いです。
国際請求書を作成する際には、取引先の国や地域の商習慣、そして業界の慣習を考慮し、適切な単位を選択する必要があります。契約書などで単位が指定されている場合には、その単位に従うことが重要です。
通貨換算と単位の換算
国際請求書においては、通貨の単位だけでなく、商品の単位についても換算が必要になる場合があります。
例えば、日本企業がアメリカの企業に商品を販売する際に、契約では数量を「個」で合意したとしても、アメリカ側が重量での管理を希望する場合には、「個」数に加えて重量(ポンドやキログラム)を併記したり、あるいは重量を主とした請求書を作成する必要があるかもしれません。
このような場合には、正確な換算レートや換算方法を把握しておくことが重要です。単位の換算を誤ると、請求金額に大きな差異が生じ、取引上のトラブルに繋がる可能性があります。
また、無償で商品を提供するサンプル品などの場合でも、税関申告のために市場価格に基づいた貨物単価と適切な単位を記載する必要があります。
まとめ
本稿では、経理担当者が理解すべき請求書に記載される様々な単位について、基本的な数え方から商品やサービスの単位、そして国際取引における注意点までを網羅的に解説しました。請求書を数える際の「枚」「通」「部」「式」「件」といった単位、商品やサービスの種類に応じた多様な単位、そして国際取引における単位の特殊性など、それぞれの単位が持つ意味合いと適切な使用場面を理解することは、正確な会計処理を行う上で非常に重要です。
誤った単位の使用は、財務上の不一致、ビジネス関係の悪化、規制遵守上の問題を引き起こす可能性があります。これらのリスクを回避し、日々の経理業務を円滑に進めるためには、請求書における単位の知識を深め、一貫性のある使用を心がけることが不可欠です。
会計システムや請求書作成ソフトを適切に活用し、人的なチェック体制を構築することは、単位関連のエラーを最小限に抑えるための有効な手段です。また、経理担当者に対する継続的な教育とトレーニングを通じて、請求書単位に関する知識レベルを向上させることも、企業全体の会計処理の質を高める上で重要な取り組みと言えるでしょう。