経理DX促進

経理DXは新たなステージへ!生成AIが拓く未来の経理部門とは

更新日:2025.06.23

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近年、ビジネス界全体でデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれていますが、特に経理部門において、その動きが大きな転換点を迎えようとしています。その中心にあるのが「生成AI」の存在です。これまでもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や会計ソフトの進化によって業務効率化は進められてきましたが、生成AIはそれらとは一線を画すポテンシャルを秘めており、経理DXを根底から変革し、「AX(AI Transformation)」を加速させる力を持っています。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

本記事では、生成AIが経理DXにどのような革命をもたらすのか、その具体的な活用法から導入のメリット、そして乗り越えるべき課題まで、未来の経理部門の姿を詳細に解説していきます。

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生成AIが経理DXを根本から変革する理由

生成AIがなぜこれほどまでに経理DXの切り札として注目されているのでしょうか。それは、従来のデジタル技術とは異なる特性を持ち、数字を正確に扱うことが求められる経理業務と非常に高い親和性を持っているからです。これまでのDXが「業務の自動化」を主眼としていたのに対し、生成AIは「業務の自律化・高度化」を可能にし、経理担当者の役割そのものを変えるほどのインパクトを持っています。

従来のDXと生成AIによるDXの決定的違い

これまでの経理DXは、主にRPAや会計システムの導入による定型業務の自動化が中心でした。例えば、決められたルールに従ってデータを入力したり、帳票を作成したりといった作業です。これは人間が設定したシナリオ通りに動く「自動化」であり、業務負担の軽減に大きく貢献してきました。

しかし、生成AIがもたらすDXは、その一歩先を行きます。生成AIは、大量のデータを学習し、その内容を理解・要約・生成する能力を持っています。これにより、単に決められた作業をこなすだけでなく、文脈を読み取って判断したり、過去のデータから傾向を分析して未来を予測したり、さらには人間との自然な対話を通じて指示を理解し、新たなレポートや文章を創出したりすることまで可能になります。つまり、ルールベースで動く「自動化」から、AI自らが思考し、判断し、創造する「自律化・高度化」へと進化させるのです。この違いが、経理業務の可能性を飛躍的に広げる鍵となります。

観点従来のDX(RPAなど)生成AIによるDX
主目的定型業務の自動化非定型業務を含む自律化・高度化
得意なことルール通りの繰り返し作業文脈理解、要約、分析、文章生成
人間の役割ルールの設計、シナリオ作成AIへの指示、結果の評価、最終判断
業務への影響作業時間の短縮意思決定の支援、新たな価値創出

経理業務と生成AIの驚くべき親和性

経理業務は、その多くが言語と数字データに基づいて行われています。請求書や領収書の内容を読み取り、仕訳データを作成し、決算書や経営分析レポートといった形で言語化・数値化して報告する、という一連の流れは、まさに生成AIが最も得意とする領域と重なります。

例えば、取引先から送られてきたPDFの請求書を考えてみましょう。従来のOCR(光学的文字認識)技術では、書かれている文字をテキストデータとして読み取ることはできても、その数字が「請求金額」なのか「商品単価」なのかを正確に理解することは困難でした。しかし、生成AIは請求書のフォーマット全体を文脈として理解し、「請求金額」や「支払期日」といった項目を極めて高い精度で識別し、会計システムに合わせた仕訳データを自動で生成することができます。このように、非構造化データ(請求書や契約書など)を理解し、構造化データ(会計データ)に変換する能力は、経理業務の正確性と効率を劇的に向上させるのです。

生成AIが経理業務にもたらす具体的な変化

生成AIが導入された経理部門では、日々の業務風景が一変します。これまで多くの時間を費やしてきた手作業によるデータ入力や、書類の突合作業は大幅に削減されるでしょう。空いた時間で、経理担当者はより戦略的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。

具体的には、単に過去の数値をまとめるだけでなく、生成AIが作成した予算実績差異の分析レポートを基に、その原因を深掘りし、事業部門に対して具体的な改善策を提案するといった動きが可能になります。また、資金繰りの予測シミュレーションをAIに複数パターン作成させ、最適な財務戦略を経営陣に提言することも夢ではありません。このように、経理担当者は「作業者」から、データを活用して企業の意思決定を支える「ビジネスパートナー」へと、その役割を変化させていくことになるのです。

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【実践編】経理業務における生成AIの具体的な活用事例5選

それでは、具体的に経使業務のどのような場面で生成AIを活用できるのでしょうか。ここでは、日々の業務から専門的な分析まで、5つの具体的な活用事例を掘り下げて解説します。これらの事例は、もはや未来の話ではなく、すでに多くの企業で実用化が始まっています。

仕訳・記帳業務の自動化と高度化

日々の取引を記録する仕訳・記帳業務は、経理の基本でありながら、最も時間と手間がかかる作業の一つです。生成AIは、このプロセスを劇的に変革します。例えば、銀行の取引明細やクレジットカードの利用履歴データをAIに読み込ませることで、取引内容を自動で解釈し、適切な勘定科目を推測して仕訳候補を生成します。AIは過去の膨大な仕訳データを学習しているため、「株式会社〇〇商事からの入金」といった記述から、それが「売掛金の回収」である可能性が高いと判断できるのです。経理担当者は、AIが提案した仕訳を確認・承認するだけで作業が完了するため、入力作業にかかる時間を9割以上削減できるケースも珍しくありません。これにより、月次の締め作業を大幅に前倒しすることも可能になります。

請求書・領収書処理の驚異的な効率化

紙やPDFなど、様々な形式で送られてくる請求書や領収書の処理は、多くの経理担当者を悩ませる業務です。一枚一枚内容を確認し、システムに入力する作業は、ミスも発生しやすく、精神的な負担も大きいものでした。生成AIを搭載したOCRツールは、この課題を解決します。単に文字を読み取るだけでなく、請求書の発行元、請求金額、支払期日、品目といった重要な情報をAIが自動で抽出し、会計システムにデータ連携します。フォーマットが異なる請求書でも、AIがその構造を理解して柔軟に対応できるため、取引先ごとに個別の設定を行う必要もありません。これにより、ペーパーレス化を推進しつつ、請求書の処理にかかる時間を劇的に短縮し、支払漏れなどのリスクを低減させることができます。

問い合わせ対応の自動化(社内・社外)

経理部門には、「この経費はどの勘定科目で処理すればよいですか?」「次の支払いはいつですか?」といった社内からの問い合わせや、取引先からの入金確認など、日々多くの問い合わせが寄せられます。これらの定型的な質問への対応に、多くの時間が割かれているのが実情です。ここに生成AIを活用したチャットボットを導入することで、24時間365日、自動で一次対応が可能になります。社内の経費精算規程や過去のQ&Aデータを学習させたAIが、質問の意図を汲み取り、的確な回答を即座に返します。これにより、経理担当者は複雑な相談やイレギュラーな案件への対応に集中でき、社内全体の生産性向上にも貢献します。

監査業務のサポート

企業の信頼性を担保する内部統制や監査業務においても、生成AIは強力なサポーターとなります。全ての取引データをAIに分析させることで、不正や異常の兆候を早期に検知することが可能になります。例えば、通常ではありえない金額の取引や、休日に承認された経費申請、特定の取引先との癒着が疑われるパターンなどをAIが自動で抽出し、アラートを上げることができます。人間が全件チェックするのは不可能に近いですが、AIであれば網羅的に監視することが可能です。これにより、監査業務の深度と効率を大幅に向上させ、企業のガバナンス強化に直接的に貢献します。

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メリットだけじゃない!生成AI導入で経理DXを推進する真の価値

生成AIを導入することによるメリットは、単なる業務効率化に留まりません。コスト削減やミスの減少はもちろんのこと、経理担当者の働き方を根本から変え、企業全体の競争力を高めるほどの大きな価値をもたらします。

圧倒的な業務効率化と生産性の向上

最大のメリットは、やはり圧倒的な業務効率化です。これまで手作業で行っていたデータ入力、転記、照合といった単純作業から解放されることで、経理担当者は本来やるべき分析業務や管理業務に多くの時間を投下できるようになります。例えば、月次決算にかかる日数が半分以下になることも現実的です。これにより、より迅速な経営判断が可能となり、変化の激しいビジネス環境において大きなアドバンテージとなります。企業の生産性は、従業員一人ひとりがどれだけ付加価値の高い仕事に時間を使えるかにかかっており、生成AIはその実現を強力に後押しします。

人為的ミスの削減と会計情報の正確性担保

どれだけ注意深く作業しても、人間である以上、入力ミスや判断ミスを完全になくすことはできません。特に繁忙期には、疲労や焦りからミスが発生しやすくなります。仕訳の一つや数字のゼロ一つが、経営判断を誤らせる可能性もはらんでいます。生成AIは、設定されたルールや学習したデータに基づき、疲れを知らずに正確な処理を淡々と実行します。もちろんAIの出力を人間が確認するプロセスは必要ですが、最初の入力段階でのヒューマンエラーを劇的に削減できるため、会計情報全体の信頼性と正確性を飛躍的に高めることができます。これは、健全な企業経営の根幹を支える上で極めて重要な価値です。

直接的・間接的なコスト削減への貢献

生成AIの導入は、様々な側面からコスト削減に貢献します。まず、単純作業にかけていた人件費や残業代を直接的に削減できます。また、ペーパーレス化が進むことで、紙代や印刷代、保管スペースといった物理的なコストも不要になります。さらに、支払漏れや二重請求といったミスを防ぐことによる損失の回避や、迅速な債権回収によるキャッシュフローの改善など、間接的なコスト削減効果も期待できます。導入には初期投資やランニングコストがかかりますが、長期的に見れば、それを上回る大きな経済的リターンをもたらす可能性を秘めています。

付加価値の高い戦略的業務へのシフト

生成AIによって創出された時間という資源を、経理担当者はどのように使うべきでしょうか。その答えは、より付加価値の高い戦略的な業務へのシフトです。過去の数字を整理する「記録係」としての役割から、未来の経営戦略を描くための羅針盤を提供する「参謀」へと進化することが求められます。AIが提示するデータや分析結果を基に、事業の収益性改善やコスト構造の見直し、新規事業の投資対効果のシミュレーションなどを行い、経営陣に対して積極的に提言していく役割です。これにより、経理部門はコストセンターから、企業の成長を牽引するプロフィットセンターへと変貌を遂げることができるのです。

導入前に知るべき生成AIの課題と注意点

生成AIは経理DXの強力な推進力となる一方で、その導入と活用にあたっては、いくつかの重要な課題や注意点を理解しておく必要があります。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが、導入を成功させるための不可欠な要素となります。

情報漏洩・セキュリティリスクへの万全な対策

経理部門が扱う財務データや取引先情報は、企業にとって最も機密性の高い情報の一つです。生成AIを利用する際、特にクラウドベースのサービスを利用する場合には、これらの機密情報が外部に漏洩するリスクを考慮しなければなりません。入力したデータがAIの学習に使われてしまい、他のユーザーへの回答に利用される可能性もゼロではありません。したがって、法人向けのセキュリティが担保されたサービスを選定することや、AIベンダーとの間で機密保持契約を締結すること、社内での利用ルールを明確に定め、従業員に周知徹底することが極めて重要になります。

生成される情報の正確性(ハルシネーション)の問題

生成AIには、「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる、事実に基づかないもっともらしい嘘の情報を生成してしまうという特性があります。これは、AIが学習したデータの中に誤った情報が含まれていたり、文脈を誤って解釈したりすることで発生します。経理業務において、誤った数値や勘定科目が出力されれば、大きな問題に発展しかねません。このリスクを低減するためには、AIの回答を鵜呑みにせず、必ず人間の目で最終確認するというプロセスを業務フローに組み込むことが必須です。AIはあくまで優秀なアシスタントであり、最終的な責任は人間が負うという意識を持つことが大切です。

導入・運用コストと費用対効果の見極め

高性能な生成AIツールの導入には、ライセンス費用やシステム開発費といった初期投資が必要です。また、継続的に利用するためのランニングコストや、システムを維持・管理するための人件費も発生します。これらのコストに見合うだけの効果、つまり業務効率化による人件費削減や生産性向上が得られるのか、費用対効果を事前に慎重に見極める必要があります。いきなり全社的に大規模導入するのではなく、まずは特定の業務に絞って試験的に導入し、その効果を測定した上で、段階的に適用範囲を広げていくアプローチが賢明です。

従業員のスキルセットと変化への対応

生成AIを導入しても、それを使いこなせる従業員がいなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。従来の経理スキルに加えて、AIに的確な指示を出す能力(プロンプトエンジニアリング)や、AIの出力結果を批判的に評価する能力、そしてAIを活用して新たな価値を創造する企画力などが求められるようになります。従業員に対して、こうした新しいスキルを習得するための研修機会を提供したり、変化に対する不安を取り除き、積極的にAI活用を促すような組織文化を醸成したりすることが、生成AI DXを成功させるための重要な鍵となります。

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失敗しない!経理部門が生成AI DXを成功させるための5ステップ

生成AIの導入は、単にツールを導入して終わりではありません。業務プロセスや組織体制、人材育成まで含めた総合的な変革プロジェクトとして捉え、計画的に進める必要があります。ここでは、経理部門が生成AI DXを着実に成功させるための具体的な5つのステップを紹介します。

STEP1 明確な目的とスモールスタートの設定

まず最初に、「何のために生成AIを導入するのか」という目的を明確にすることが最も重要です。「請求書処理の時間を80%削減する」「月次決算を5営業日短縮する」といった、具体的で測定可能な目標を設定しましょう。目的が曖昧なままでは、適切なツール選定も効果測定もできません。そして、初めから大規模な導入を目指すのではなく、特定の課題を持つ一部の業務から試験的に始める「スモールスタート」が成功の秘訣です。例えば、まず請求書処理の自動化に特化して導入し、そこで得られた知見や成功体験を基に、次のステップへと展開していくのが着実な進め方です。

STEP2 適切なツールの選定

目的が明確になったら、次はその目的を達成するために最適なツールを選定します。生成AIツールには、汎用的な大規模言語モデル(LLM)から、特定の業務に特化したSaaS(Software as a Service)まで様々な種類があります。経理業務で利用する場合は、セキュリティが高く、日本語の帳票認識精度が高い、会計システムとの連携がスムーズである、といった点を重視して選ぶ必要があります。複数のツールを比較検討し、可能であればトライアル(試用)期間を利用して、実際の業務データで使い勝手や精度を検証することをお勧めします。

STEP3 業務プロセスの見直しと標準化

生成AIの能力を最大限に引き出すためには、既存の業務プロセスそのものを見直すことが不可欠です。AIを導入しても、紙文化や属人化された非効率なフローが残っていては、期待した効果は得られません。例えば、請求書の受け取り方を原則として電子データに統一する、勘定科目のルールを標準化するといった、AIが処理しやすいように業務の流れを再設計する必要があります。このプロセスは、単なる効率化に留まらず、業務の可視化と標準化を通じて、内部統制の強化にも繋がります。

STEP4 社内体制の構築と人材育成

生成AI DXを推進するためには、それを担う社内の体制づくりが欠かせません。経理部門だけでなく、情報システム部門や経営企画部門など、関係部署を巻き込んだ横断的なプロジェクトチームを組成することが望ましいでしょう。そして、最も重要なのが人材育成です。前述の通り、経理担当者にはAIを使いこなすための新しいスキルが求められます。AIの基本的な仕組みや活用方法に関する研修を実施したり、先進的な使い方を共有する勉強会を開いたりするなど、組織全体で学び、成長していく環境を整えることが、持続的な成功に繋がります。

STEP5  継続的な評価と改善

生成AIの導入はゴールではなく、スタートです。導入後は、最初に設定した目標(KPI)が達成できているかを定期的に評価し、その結果を基に改善を繰り返していく「PDCAサイクル」を回すことが重要です。AIの精度は十分か、現場の担当者はスムーズに利用できているか、新たな課題は発生していないか、といった点を常にモニタリングし、必要に応じてツールの設定を見直したり、業務フローを修正したりします。技術の進化は非常に速いため、常に最新の情報をキャッチアップし、より良い活用方法を模索し続ける姿勢が求められます。

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まとめ 生成AIと共存し、進化する未来の経理部門へ

生成AIは、経理業務のあり方を根本から覆すほどのインパクトを持った、まさにゲームチェンジャーと呼べるテクノロジーです。単純作業や定型業務をAIに任せることで、経理担当者はより創造的で付加価値の高い、戦略的な役割を担うことができるようになります。これは、単なる効率化やコスト削減に留まらず、経理部門が企業の成長を支える司令塔へと進化していくことを意味します。

もちろん、導入にはセキュリティや情報の正確性といった乗り越えるべき課題も存在します。しかし、これらのリスクを正しく理解し、計画的にステップを踏んで導入を進めることで、その恩恵を最大限に享受することが可能です。

変化の波を恐れるのではなく、生成AIという頼もしいパートナーを迎え入れ、共に未来を創造していく。そうした前向きな姿勢こそが、これからの時代に求められる経理部門の姿であり、企業の持続的な成長を実現するための鍵となるでしょう。あなたの会社の経理DXも、生成AIと共に、新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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