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経理部門や総務部門で日々業務に励む皆様の中には、「また出張申請書の差し戻しか…」「この確認作業、いつまで続くのだろう」といった悩みを抱えている方も少なくないのではないでしょうか。特に、営業担当者や技術者の出張が頻繁に発生する企業において、出張申請から精算までの一連のプロセスは、多くの時間と労力を要する業務の一つです。
紙やExcelでの運用では、申請内容の不備による手戻りや、承認がどこで滞っているのか分からないといった問題が頻繁に発生します。承認者が出張中で不在にしていれば、プロセスは完全に停止してしまいます。こうした非効率は、経理担当者の皆様を悩ませるだけでなく、本来集中すべきコア業務への時間を奪い、ひいては会社全体の生産性にも影響を与えかねません。
この記事では、そんな皆様の悩みを解決するため、出張申請業務の基本から、非効率が生まれる原因、そしてそれを抜本的に改善するための具体的な方法までを網羅的に解説します。単なる手続きとしてではなく、会社のガバナンスやコスト管理にも繋がる重要な業務として出張申請を捉え直し、明日からの業務をよりスマートに進めるためのヒントが満載です。
そもそも出張申請とは?その目的と重要性を再確認
日々の業務で当たり前のように扱っている「出張申請」ですが、その本来の目的や重要性について深く考える機会は少ないかもしれません。出張申請は、単に出張に行く許可を得るためだけの手続きではありません。会社の資産である「資金」を使い、従業員が会社の業務として移動することを公式に承認するための、極めて重要なプロセスなのです。
なぜ出張申請が必要なのか?
出張申請を行う最大の理由は、会社としての「公式な承認」を得ることにあります。もし、何の申請も承認もないまま従業員が出張し、万が一、移動中や出張先で事故やトラブルに巻き込まれてしまった場合、それが業務中の出来事であったことを証明するのが難しくなります。労災保険の適用などを考える上でも、会社が事前にその業務内容と必要性を把握し、承認しているという事実が不可欠です。つまり、出張申請は、会社と従業員の双方を守るための大切な取り決めなのです。
出張申請が果たす3つの重要な目的
出張申請は、従業員を守るだけでなく、企業経営の観点からも重要な目的を担っています。具体的には、「内部統制の担保」「リスク管理」「経費の適正化」という3つの側面があります。
第一に、内部統制、つまり社内のルールが適切に守られる仕組みを担保する役割です。誰が、いつ、どのような目的で出張を行うのかを事前に申請し、上長や経理部門が承認することで、会社の業務としてふさわしい活動であるかをチェックできます。これにより、不要な出張や不適切な目的での出張を防ぎ、組織としての規律を保つことができます。
第二に、先述したような事故やトラブルに対するリスク管理です。出張先や日程を会社が事前に把握しておくことで、災害や国際情勢の変化といった不測の事態が発生した際に、従業員の安否確認を迅速に行うことが可能になります。
そして第三に、経費の適正化です。申請段階で、予定されている交通費や宿泊費が会社の規程に沿っているか、また、その金額が妥当であるかを確認します。これにより、出張にかかるコストを事前に把握し、無駄な支出を抑制することができます。出張が多い会社ほど、この事前チェックが会社全体のコスト削減に大きく貢献します。
これで完璧!出張申請書の基本的な書き方と記載項目
出張申請の重要性を理解したところで、次に具体的な申請書の書き方について見ていきましょう。申請書の不備は、差し戻しの最も多い原因です。経理担当者としては、申請者に正しい書き方を周知徹底したいところですが、まずは基本となる型を理解することが重要です。
出張申請書に必ず含めるべき必須項目
会社によってフォーマットは異なりますが、どのような出張申請書にも共通して必要とされる項目があります。これらは、出張の正当性と内容を承認者が判断するために不可欠な情報です。具体的には、「申請日・申請者名」「出張期間」「出張先」「訪問先」「出張の目的」「同行者」「概算費用」などが挙げられます。これらの情報が過不足なく記載されていることで、承認者はスムーズに内容を理解し、判断を下すことができます。
必須項目 | 内容 | 記載のポイント |
申請日・申請者 | 申請書を提出する日付と、申請者の氏名・所属部署 | 誰がいつ申請したかを明確にするための基本情報です。 |
出張期間 | 出張に出発する日から帰社する日までの期間 | 日付を正確に記載します。時間外の移動がある場合はその旨も記載すると親切です。 |
出張先・訪問先 | 出張する都道府県や市町村、及び具体的に訪問する企業名や支店名 | 「〇〇株式会社様」のように、正式名称で具体的に記載することが重要です。 |
出張の目的 | なぜこの出張が必要なのか、その理由 | 「〇〇商談のため」「〇〇展示会の視察」など、承認者が納得できるよう具体的に記載します。 |
同行者 | 同じ目的で出張に同行する従業員の氏名 | 複数名で出張する場合に記載します。経費の重複申請を防ぐ役割もあります。 |
概算費用 | 交通費、宿泊費、日当など、出張にかかる費用の概算金額とその内訳 | 会社の出張旅費規程に基づいて算出します。後工程の経費精算との突合にも使われます。 |
項目別の書き方のポイントと注意点
各項目の内容をさらに具体的に見ていきましょう。特に費用に関する項目は、後々の経費精算にも直結するため、正確な記載が求められます。
交通費については、利用する交通機関(新幹線、飛行機、在来線など)と、その具体的な経路(例:「東京駅 → 新大阪駅」)を明記します。往復なのか片道なのかも明確にしましょう。新幹線のグリーン車や飛行機のビジネスクラスの利用など、役職によって利用可否が規程で定められている場合は、申請者がその規程を理解しているかを確認するポイントにもなります。
宿泊費は、宿泊する都市名と宿泊日数、そして1泊あたりの上限金額を記載します。多くの会社では、出張先のエリアや役職に応じて宿泊費の上限が定められています。申請された金額がその範囲内であるかを確認します。
日当(出張手当)は、出張中の食事代や細かな諸雑費を補う目的で支給される手当です。これも会社の規程に基づいて計算されるため、出張日数に応じた金額が正しく記載されているかを確認する必要があります。
出張申請から精算までの一般的な業務フローと潜む課題
申請書作成→承認→出発→精算の一見シンプルな流れでも、紙やExcel運用では記載漏れの差し戻し、承認停滞、領収書突合せなど多重のムダが発生し、現場も経理も時間を奪われます。まずは課題の全体像を把握し、改善すべきポイントを洗い出しましょう。これらの非効率は三者の生産性を奪い、機会損失を招きます。
紙やExcel運用で発生しがちな非効率ポイント
この一連のフローを、いまだに紙の書類やExcelファイルで運用している企業は少なくありません。そこには、経理担当者の皆様を悩ませる多くの非効率が潜んでいます。
まず、申請書の記載漏れや計算ミスによる差し戻しが頻発します。申請者は良かれと思って作成しても、規程の細かい部分を見落としていたり、交通費の計算を間違えていたりすることは日常茶飯事です。その都度、経理担当者が不備を指摘し、申請者に修正を依頼するというコミュニケーションコストが発生します。
次に、承認プロセスの不透明さです。提出した申請書が今、誰のデスクで止まっているのか、申請者にも経理担当者にも分かりません。承認者が長期出張中であれば、その間ずっと決裁が滞ってしまいます。急ぎの出張の場合、承認を待たずに口頭の許可で先に出発し、事後申請になるといったイレギュラー対応が発生し、ガバナンスの低下を招く原因にもなります。
さらに、経理担当者にとっては、提出された経費精算書の内容確認が大きな負担となります。承認済みの出張申請書を探し出して内容を照合し、添付された領収書一枚一枚の金額や日付をチェックする作業は、非常に手間と時間がかかります。
以下の記事を参考に、申請前の準備段階からボトルネックを減らしましょう。
ガバナンスの要!出張旅費規程の作り方と見直しのポイント
これまで見てきたような出張申請の課題の多くは、その拠り所となる「出張旅費規程」が明確でない、あるいは形骸化していることに起因します。しっかりとした規程を整備し、全社で共有することが、業務効率化とガバナンス強化の第一歩です。
なぜ出張旅費規程が重要なのか?
出張旅費規程を設けることには、大きく二つのメリットがあります。一つは、経費精算の公平性を担保することです。役職や勤務地に関わらず、誰もが同じルールに基づいて経費を申請・精算することで、従業員間の不公平感をなくし、承認者も一貫した基準で判断を下すことができます。
もう一つの重要なメリットは、節税効果です。規程に基づいて支給される日当や宿泊費は、一定の範囲内であれば非課税所得として扱われます。つまり、従業員にとっては所得税や住民税がかからず、会社にとっては法人税の課税対象とならない経費として損金算入が可能です。これは、規程がない状態で実費精算した場合にはない大きなメリットと言えます。
規程に盛り込むべき主要な項目
実用的な出張旅費規程を作成するためには、いくつかの重要な項目を盛り込む必要があります。まず「規程の目的と適用範囲」を定め、どのような場合にこの規程が適用されるのかを明確にします。次に、「出張の定義」として、日帰り出張や宿泊を伴う出張、海外出張などの種類を定義します。
そして最も重要なのが「旅費の種類と金額」です。交通費、宿泊費、日当のそれぞれについて、役職ごとの上限金額や支給条件を具体的に定めます。例えば、「部長職以上の新幹線利用はグリーン車を認める」「宿泊費は国内一律1泊10,000円を上限とする」といった具合です。最後に、「申請および精算の手続き」として、いつまでに申請し、帰社後何日以内に精算を行うかといった具体的な業務フローを明記します。
実態に合わせた規程見直しのタイミングと注意点
一度作成した規程も、会社の状況に合わせて定期的に見直すことが肝心です。例えば、交通費や宿泊費の相場は変動します。実態とかけ離れた金額設定は、従業員の持ち出しを発生させたり、逆に無駄な支出に繋がったりする可能性があります。また、働き方の多様化に伴い、出張先から直接リモートワークを行うといった新しい働き方に対応したルールも必要になるかもしれません。インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正も、規程や運用フローの見直しを迫る重要なタイミングとなります。
以下の記事を合わせて読むと、規程整備の全体像がつかめます。
まとめ
本記事では、出張申請の基本的な考え方から、紙やExcel運用が抱える課題、そしてその解決策としての出張旅費規程の整備について、幅広く解説してきました。
日々の差し戻しや確認作業に追われる現状を変えるためには、まず「なぜこの業務に時間がかかっているのか」という課題を正しく認識し、その上で「どうすれば解決できるのか」という具体的な手段を検討することが不可欠です。
出張申請業務の見直しは、単に経理部門の業務を効率化するだけにとどまりません。それは、従業員満足度の向上、内部統制の強化、そして経営の意思決定に役立つコストの可視化にも繋がる、企業成長を支えるための重要な投資です。
この記事が、皆様の会社が抱える課題を解決し、より生産性の高い働き方を実現するための一助となれば幸いです。まずは自社の現状を把握し、情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。