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AIエージェント活用で何が変わる?経理から始める実践ポイント

更新日:2025.12.03

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AIエージェント_活用

人手不足や残業の常態化、紙とエクセルに依存した属人的な運用に限界を感じながら、「生成AIを触ってはいるものの、本格的な業務変革にはつながっていない」と悩む企業は少なくありません。AIエージェントは、文章をつくるだけの生成AIとは異なり、社内データや業務フローを踏まえて、自律的にタスクを実行する「頼れる業務パートナー」です。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

本記事では、AIエージェントの基本と従来ツールとの違い、企業・経理での代表的な活用シーン、導入時の注意点やスモールスタートの進め方まで、初心者の方にもわかりやすく整理します。

AIエージェントとは?生成AIやRPAと何が違うのか?

AIエージェントは、「自律的に状況を理解し、必要な処理や判断まで進める仕組み」であり、単に文章をつくる生成AIや、決められた手順だけをこなすRPAとは役割が異なります。ここでは、AIエージェントの基本的な考え方と、生成AI・RPA・従来のチャットボットとの違いを整理し、「どんな場面で使うと価値を発揮しやすいのか」を、初めての方にも理解しやすい形で説明します。

AIエージェントの基本的な仕組みと特徴

AIエージェントは、人が「こうしてほしい」という目的を伝えると、自分で情報を集め、必要な作業を分解し、順番に処理していく仕組みです。単に質問に答えるだけでなく、社内規程や過去データを参照しながら、入力・照合作業や一次判断までを継続的に行える点が特徴です。

また、一度設定したら終わりではなく、結果を振り返りながら指示の出し方やルールを見直すことで、少しずつ精度を高めていけます。経理担当者は細かな作業から解放され、例外対応や改善検討に集中しやすくなります。

生成AIとの違い:文章生成だけで終わらない「行動」まで担当

生成AIは、与えられた質問や資料にもとづいて文章や要約を作るのが得意ですが、その内容を踏まえて実際のシステム入力や社内フローの処理までは行いません。一方、AIエージェントは、生成AIの文章理解・作成能力を土台にしながら、経費精算システムへの入力や、申請内容のチェック、担当者への確認依頼といった「行動」まで担う点が大きな違いです。

あらかじめ決めたルールの範囲内であれば、人の手を介さずに作業を進めることができ、担当者は最終確認や判断が必要な部分だけに関わる運用に近づけられます。経理部門に特化したAIエージェントの仕組みや活用シーン、導入ステップをより詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。

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RPA・マクロとの違い:あらかじめ決めた手順だけに縛られない柔軟性

RPAやマクロは、「この画面のこの項目に、この値を入れる」といった手順をあらかじめ細かく決めておく必要があります。画面レイアウトや帳票の形式が変わると、その都度シナリオを修正しなければならず、メンテナンスの負担が悩みになりがちです。

AIエージェントは、文章や画面情報を読み取りながら、状況に応じて最適な処理を選ぶことを想定しているため、ある程度のレイアウト変更や例外パターンにも柔軟に対応しやすい点が強みです。すべてを自動化するのではなく、「AIが判断できる範囲」と「人が見るべき範囲」を分けて設計することで、RPAだけでは難しかった業務も対象にしやすくなります。

経理AIエージェント

AIエージェントを活用すると、企業や経理のどんな課題が解決できるのか?

AIエージェント活用の価値は、単なる「時短」だけではなく、人手不足・残業・ミス・属人化といった、中長期的に効いてくる課題を同時に緩和できる点にあります。このセクションでは、経理をはじめとするバックオフィス、さらに営業・人事・カスタマーサポートなどを含め、企業が抱えがちな課題と代表的なAIエージェント活用事例をあわせて整理し、「どのようなシーンで効果が出やすいのか」を具体的にイメージできるようにします。

人手不足と残業の慢性化をどう軽減できるか

経理やバックオフィスでは、月末月初や決算期に処理が集中し、残業前提で業務を回しているケースが少なくありません。AIエージェントをうまく活用すると、経費や請求書の内容チェック、仕訳候補の作成、マスタ情報の照合など、時間がかかる定型作業を事前に進めておけるようになります。

担当者はAIが用意した結果を確認し、要修正のものだけを重点的に見るスタイルに変えられるため、ピーク時の負荷を平準化しやすくなります。採用が難しい中でも、既存メンバーで対応できる範囲を広げられることが、人手不足対策としての大きなメリットです。

転記ミスや見落としの削減と、業務品質の底上げ

紙やPDFからエクセル、エクセルから会計システムへと同じ内容を何度も入力していると、どうしても転記ミスや抜け漏れが発生します。AIエージェントに、申請内容と証憑の突合、マスタとの整合性チェック、過去データとの不整合の検知といった役割を任せることで、人の目だけでは見落としがちな細かな誤りも早い段階で拾いやすくなります。

また、チェックの観点をルールとして明文化し、AIエージェントに反映していくことで、担当者ごとの「注意の濃淡」がならされ、部署全体としての業務品質を一定水準以上に保ちやすくなります。

意思決定スピード向上と「待ち時間」の圧縮

申請者から見ると、経費精算や稟議が「どこで止まっているのか分からない」「承認までに何日もかかる」といった不満がたまりやすいものです。AIエージェントを組み込むことで、申請内容の一次チェックや、不備がある場合の差し戻し連絡、承認者へのリマインドなどを自動で行えるようになり、「誰かの机の上で止まっている時間」を減らせます

さらに、承認者向けには、要点やリスクと思われる点をかんたんにまとめた要約を提示することで、短時間でも判断しやすい状態をつくれます。その結果として、意思決定全体のリードタイムが短くなり、事業のスピード感にも良い影響を与えます。

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どの業務からAIエージェント活用を始めるべきか?

すべての業務に一度にAIエージェントを入れようとすると、設計も検証も追いつかず、現場の不安も大きくなります。成功しやすいパターンは、「対象業務を絞り、スモールスタートで始める」ことです。このセクションでは、経理・バックオフィスで着手しやすい業務例と、営業・人事など他部門での代表的な活用例、そして対象業務を選ぶ際のチェックポイントを紹介します。

経理・バックオフィスで始めやすい代表的な業務例

経理・バックオフィスでAIエージェントを導入しやすいのは、「件数が多く、ルールが比較的はっきりしている業務」です。例えば、経費精算であれば、領収書の金額・日付・店舗名の読み取りと規程との照合、請求書処理であれば、発行元や支払期日の確認、勘定科目の候補出しなどが挙げられます。支払・入金消込では、入金明細と請求データの突合や、差額の理由候補の提示といった役割も考えられます。

最初から仕訳や支払指示を完全に任せるのではなく、あくまで「下書きを作成してもらい、人が最終確認する」ところから始めると、現場の心理的なハードルも下がりやすくなります。どの業務にAIエージェントを任せるか悩んでいる場合は、「AIが得意な処理」「人が担うべき判断」「共通で見る指標」の3つの視点で整理すると考えやすくなります。経理・バックオフィスの代表的な業務について、役割分担のイメージを一覧にしました。

表1:経理・バックオフィス業務 × AIエージェント適用範囲マップ

業務AIエージェントが得意な処理例人が担うべき判断・対応共通で見る指標の例
経費精算領収書読取、規程との突合、仕訳候補の下書き作成例外処理の可否判断、不正の疑いの確認差し戻し率、1件あたり処理時間
請求書処理請求内容の抽出、支払期日・取引先の照合、勘定科目候補支払条件の最終判断、異常値の確認月次処理件数、支払遅延件数
支払・入金消込入金明細と請求データの突合、差額理由の候補提示回収方針の判断、長期滞留債権への対応消込完了までの日数、滞留債権残高
マスタ管理(取引先など)登録内容の形式チェック、重複候補の抽出取引可否の判断、属性情報の最終確定不備件数、更新漏れ件数
稟議・承認フロー申請内容の一次チェック、承認者への催促、状況の可視化重要案件の承認可否判断、条件付き承認の決定承認リードタイム、一次差し戻し率

営業・マーケティング・人事・カスタマーサポートでの活用例

AIエージェントの活用は、経理だけにとどまりません。営業やマーケティングでは、過去の商談履歴や問い合わせ内容をもとに、次に対応すべき案件リストを自動で作成したり、提案書作成のための素材を集めたりする役割が考えられます。人事では、勤怠や人事評価のデータをもとに、面談前に確認しておきたいポイントをまとめるといった使い方もあります。

カスタマーサポートでは、過去の対応履歴を踏まえた回答案の提示や、複雑な問い合わせを適切な担当部署へ振り分けるサポートが期待できます。このように、部門ごとに「情報を集めて整理する作業」を任せていくと、全社的な生産性向上につながります。

スモールスタートで失敗しにくい業務の選び方

スモールスタートで失敗しにくい業務を選ぶには、いくつかのポイントがあります。まず、「処理件数が一定以上あること」が重要です。件数が少なすぎると、効果が見えにくくなってしまいます。次に、「判断基準が社内ルールとして言語化しやすいこと」が挙げられます。経費規程や取引条件など、文書化されたルールをもとに判定できる業務はAIエージェントと相性が良いと言えます。最後に、「影響範囲が限定されていること」も大切です。いきなり高額の支払決定などから始めるのではなく、金額が比較的少ない経費や、確認色が濃い作業から試すことで、万一の誤りがあってもリスクを抑えながら学びを得られます。

いきなり多くの業務に広げるのではなく、1つの業務を対象に4週間程度の期間を区切って試すと、現実的な負荷で学びを得られます。下記は、経費精算業務を例にしたスモールスタート用の設計イメージです。

表2:スモールスタート用「1業務×4週間」設計シート

目的・フェーズAIエージェントの役割人の役割・確認ポイント
1週目業務フローの整理・ルールの確認現行データの分析、規程に沿った判定条件の整理業務手順の棚卸し、例外パターンの洗い出し
2週目試験運用(影響の小さい案件で試す)経費申請の下書き作成、規程違反候補の抽出すべての案件を人が再確認し、誤判定をメモする
3週目対象拡大と判定ルールの微調整件数を増やしつつ、判定ルールの更新を反映誤判定の傾向分析、ルール修正の可否を検討
4週目効果の測定と今後の方針決定処理件数や判定結果の集計とレポート案の作成KPIの確認、正式運用の可否・改善点の整理

実際にツールを検討する段階では、「どのタイプのAIエージェントツールを選ぶか」「小さく試すにはどう設計するか」といった観点も重要です。経理向けAIエージェントツールの種類や選定ポイントを詳しく整理した記事もありますので、併せてご確認ください。

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AIエージェント導入で押さえておくべきリスクと運用上の注意点は?

AIエージェントは強力な仕組みですが、データが誤っていたり、権限設定や監視体制が不十分なまま運用すると、誤った処理や情報漏えいリスクを高めるおそれがあります。このセクションでは、導入前から検討しておきたいデータ品質・セキュリティ・ガバナンスのポイントと、運用開始後のモニタリングや人による確認の入れ方を整理し、「安心して任せられる」状態をつくるための考え方をまとめます。

データ品質と情報管理の重要性(入力ミス・更新漏れへの対策)

AIエージェントは、与えられたデータとルールを前提に判断します。そのため、マスタ情報の更新漏れや、過去データの誤りが残ったまま運用すると、誤った処理や提案をしてしまうリスクが高まります。導入前には、取引先マスタや勘定科目、社員情報など、基礎となるデータの棚卸しと整備を行い、どの部署がどのデータを更新するのか責任範囲を明確にしておくことが重要です。

また、運用開始後も、定期的にサンプルチェックを行い、AIエージェントの出力結果から逆算して、データ品質の課題を洗い出す仕組みを作ることで、日常的な改善サイクルが回りやすくなります。

アクセス権限・ログ管理・情報漏えいリスクへの備え

AIエージェントは、多くの社内情報にアクセスして処理を行うため、権限設定やログ管理が不十分だと情報漏えいのリスクが高まります。どのエージェントが、どのシステムやデータにアクセスできるのかを事前に整理し、人が利用するアカウントとは切り分けた権限設計を行うことが大切です。

また、エージェントが実行した処理内容や参照した情報を記録し、後からたどれるようにしておくことで、不正アクセスや誤操作が発生した際の原因究明もしやすくなります。あわせて、外部サービスとの連携範囲やデータの保管場所についても、社内の情報セキュリティポリシーと整合性をとる必要があります。

最終判断は誰が行うか?人とAIの役割分担の決め方

AIエージェントにどこまで任せ、どの部分を人が担うのかをあらかじめ決めておくことは、リスク管理の面でも、現場の安心感の面でも重要です。例えば、経費精算であれば、「規程通りの申請は自動承認候補として提示し、一定金額以上や、規程から外れるものは必ず人が確認する」といった線引きが考えられます。

支払や契約にかかわる最終判断は人が行う前提にしておき、AIエージェントはあくまで資料準備や候補案の提示、一次チェックを担当する立場に置くとよいでしょう。この役割分担を文書として明文化し、関係者で共有しておくことで、「AIに任せて大丈夫なのか」という不安を和らげながら、活用範囲を広げていけます。

AIエージェントのリスク対策は、「なんとなく不安だから止める」のではなく、「どの観点で何を確認するか」を明確にしておくことが大切です。経理・バックオフィスで押さえておきたい代表的なチェック項目を一覧にしました。実際の検討では、自社の体制にあわせて項目を追加・修正してご活用ください。

表3:経理視点のリスク・ガバナンスチェックリスト

チェック項目観点(主なリスク)状態(未対応/対応中/完了などメモ欄)
マスタデータの更新ルール・責任者は明確かデータ更新漏れによる誤処理
承認権限と金額基準は文書化されているか不適切な自動承認・承認漏れ
AIエージェント専用のアカウント・権限設計はあるか不正アクセス、権限過多による情報漏えい
処理ログを保存し、後から追跡できるかトラブル発生時の原因特定が困難
インシデント発生時の連絡フローは定められているか発生後の初動遅れによる被害拡大
外部サービスとのデータ連携範囲を把握しているか想定外のデータ外部送信

AIエージェント活用を社内で根付かせるには、どんな体制と進め方が必要か?

AIエージェントの価値は、「導入した瞬間」よりも、「運用しながら改善を続けた先」に大きくなります。そのためには、経営層・業務部門・情報システム部門がそれぞれの役割を理解し、効果測定と改善サイクルを回す体制づくりが欠かせません。このセクションでは、社内での担当範囲の分け方、KPI・指標の設定例、四半期ごとの振り返りの進め方など、定着のための実務的なポイントを紹介します。

経営層・現場・情報システム部門の役割分担

AIエージェント活用を社内に根付かせるには、経営層・現場部門・情報システム部門の三者が、それぞれの役割を理解して動くことが欠かせません経営層は、「どの領域で効果を狙うのか」「どの程度の期間で成果を確認するのか」といった方向性と投資判断を担います。現場部門は、実際の業務フローや例外パターンを洗い出し、AIエージェントに任せる範囲やルールづくりに主体的に関わる役目です。

情報システム部門は、システム連携や権限設計、セキュリティ面のチェックを通じて、安全に運用できる土台を整えます。この三者が定期的に状況を共有し、改善ポイントを議論する場を設けることで、単発の施策に終わらない定着につながります。

KPI・効果測定の考え方と代表的な指標例

AIエージェントの効果を正しく評価するには、「どの数字が良くなれば成功と言えるのか」を事前に決めておく必要があります。代表的な指標としては、経理であれば「1人あたりの処理件数」「処理にかかる時間」「月次締めまでの日数」「差し戻し率」「残業時間」などが挙げられます。

導入前の実績値を把握したうえで、スモールスタート期間中にどの程度改善したかを比較すると、投資対効果が見えやすくなります。また、数値だけでなく、「担当者の負担感がどう変わったか」「問い合わせ件数が減ったか」といった定性的な声もあわせて確認することで、現場にとって本当に役立っているかを多面的に評価できます。

AIエージェントの効果を「なんとなく便利になった」で終わらせないためには、事前に指標を決めておくことが重要です。経理・バックオフィスで押さえておきたい代表的なKPIと、その意味、測り方のイメージを整理しました。

表4:KPIと効果測定の具体例(経理・バックオフィス向け)

指標名目的・意味測定方法の例改善の目安イメージ
1件あたり処理時間業務のスピード向上を測る合計処理時間 ÷ 処理件数導入前から20〜30%程度の削減を目標
差し戻し率入力ミス・不備の多さを把握する差し戻し件数 ÷ 申請件数数%〜10%程度の低減を目指して推移を見る
月次締め完了までの日数決算関連業務のリードタイムを確認する月末から締め完了日までの日数1〜2日短縮できているかを確認
担当者1人あたりの処理件数生産性向上の度合いを把握する総処理件数 ÷ 担当者数同じ人数で処理件数が増えているか
経理部門の残業時間(合計・平均)負荷軽減と働き方改善の効果を確認する勤怠システム等から月次で集計繁忙期のピークが下がっているか

スモールスタートから全社展開へ広げるときのチェックポイント

小さく始めたAIエージェント活用を全社に広げていく際には、いくつか確認しておきたいポイントがあります。まず、試行段階で得られた成果や課題を整理し、「何がうまくいったのか」「どの条件がそろっていたから成功したのか」を明確にします。

次に、その条件が他部門や他業務でも再現できるかを検討し、必要に応じてルールや画面設計を調整します。また、利用対象を広げる前に、マニュアルや社内向け説明資料を準備し、問い合わせ窓口やトラブル時の対応フローも整備しておくことが重要です。こうした段階を踏むことで、現場の混乱を抑えながら、AIエージェントの活用範囲を着実に拡大していけます。

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AIエージェントの今後の進化と、企業がいまから備えておきたいことは?

今後のAIエージェントは、複数のAI同士が協力して動いたり、文章・画像・音声など多様な情報を扱ったりと、いまよりも一段進んだ活用が現実的になっていくと考えられます。そのとき重要になるのは、特定のツール名よりも「自社のデータをどう整え、どの業務を任せたいか」という方針です。このセクションでは、マルチAIエージェント時代のイメージと、企業・個人が今日から準備できるポイントを整理します。

複数のAIエージェントが協調する時代に想定される業務の姿

今後は、単一のAIエージェントが個々の作業を支援するだけでなく、複数のエージェントが役割を分担しながら協調して動く姿も現実味を帯びてきます。例えば、あるエージェントが請求書情報を整理し、別のエージェントが支払条件や予算状況を確認し、最後にもう一体が承認者向けのサマリーを作成するといった形です。

経理担当者は、こうしたエージェント同士の連携結果を確認し、例外的なケースや判断が難しい案件に集中できます。業務はより「調整と判断」が中心となり、日々の作業は複数のAIエージェントが裏側で支える形へと変化していくと考えられます。

AIと協力して働くために求められるスキルや役割の変化

AIエージェントと協力して働く時代には、単に決められた手順をこなすだけでなく、「業務の目的を言語化し、AIに伝える力」や、「AIが出した結果の妥当性を評価する力」がより重要になります。経理担当者は、仕訳や税務の知識に加えて、「この業務のゴールは何か」「どの条件なら自動で処理してよいか」といった観点で業務を設計する役割を担うようになります。

また、AIエージェントの出力結果を鵜呑みにせず、論理的に確認し、必要に応じてルールの修正を提案する姿勢も求められます。このように、人はより上流の設計や判断、コミュニケーションに力点を置く働き方へとシフトしていくと考えられます。

今から着手したいデータ整備・業務見直しの優先度

AIエージェント活用の将来を見据えると、今のうちから取り組んでおきたいのが「データ整備」と「業務の見える化」です。まずは、取引先マスタや勘定科目、社員情報など、経理処理の前提となるデータの重複や表記ゆれを減らし、更新ルールを整理することが重要です。

併せて、主要な業務について、申請から承認・処理までの流れを図や文章で整理し、例外パターンも含めて全体像を共有できるようにしておくとよいでしょう。こうした基盤が整っていれば、将来新しいAIエージェントや関連サービスを導入する際にも、スムーズに適用範囲を検討でき、社内での理解も得やすくなります。

将来のAIエージェント活用を見据えて、どこからデータ整備や業務見直しを始めるかを判断する際には、「業務インパクト」と「着手しやすさ」の2軸で整理すると優先度を付けやすくなります。代表的なテーマをマトリクス形式でまとめました。

表5:将来を見据えた「データ整備・業務見直し」の優先度マトリクス

テーマ業務インパクト(大/中/小)着手しやすさ(高/中/低)コメントの例
取引先マスタの整理・表記ゆれ解消     大     中請求書処理や消込の精度向上に直結
経費規程の明文化と例外条件の整理     大     中経費精算の自動判定や自動承認に必須
承認フローと権限の棚卸し     中     中自動処理の範囲と人の判断範囲を線引きしやすい
月次・年次の定型レポート形式の標準化     中     高AIエージェントによるレポート自動作成に有効
紙・ファイルベースで残る業務の洗い出し     中     中デジタル化の優先順位付けに役立つ

AIエージェントは、今後も生成AIや他システムとの連携を深めながら進化していくと考えられます。経理業務全体で見たときに、AIがどのような変化をもたらし、どのような導入ステップが現実的なのかを、より幅広い視点で押さえたい場合は、以下の記事も参考になります。

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AIエージェント活用に関するよくある質問(FAQ)

AIエージェント活用を検討する経理・バックオフィスの方から、特によくいただく質問をまとめました。中小企業でも効果があるのか、どの業務から始めるべきか、人の仕事はどう変わるのかといった疑問の整理にお役立てください。

Q. 中小企業や少人数の経理でも、AIエージェント活用のメリットはありますか?

A. あります。特に「少人数で多くの処理をこなしている」「残業が慢性化している」といった環境では、経費精算や請求書処理などの定型業務をAIエージェントに任せることで、担当者1人あたりの処理量を増やしつつ、残業時間や差し戻し件数を減らしやすくなります。専任のIT担当がいない中小企業でも、対象業務とルールを絞って小さく試せば、現実的な負荷で効果を検証しやすいです。

Q. どの業務からAIエージェント活用を始めるのが無難でしょうか?

A. 最初は「件数が多く、判断基準を文章にしやすい業務」から始めるのがおすすめです。例えば、経費精算の内容チェックや請求書の項目確認、入金明細と請求データの突合などは、経費規程や契約条件に沿って判定しやすいため、AIエージェントと相性が良い領域です。いきなり高額の支払決定や例外の多い業務を任せるのではなく、「AIが下書きを作り、人が最終確認する」形から始めると、現場の不安も抑えられます。

Q. AIエージェントを入れても、人の仕事は本当に減るのでしょうか?

A. 「完全に任せる」よりも、「人とAIの役割を分ける」ことが前提になります。AIエージェントは、入力・照合・一次チェックといった繰り返しの多い作業を得意としますが、規程から外れるケースの判断や、例外対応、お客様や社内への説明などは人が担うほうが適しています。定型処理をAIに任せることで、担当者は例外対応や改善検討に時間を使えるようになり、単純作業の負担を減らしつつ、仕事の中身をより付加価値の高い領域へシフトさせることができます。

まとめ

AIエージェント活用の要点は、「どの業務を任せるか」と「どのような前提条件とルールで動かすか」を、人間側が丁寧に設計することです。定型処理や確認作業を中心に任せることで、日々の入力・チェック・照会といった負荷を減らし、担当者は例外対応や改善活動など、より付加価値の高い業務に時間を振り向けられます。

一方で、データの質やセキュリティ、誤判断が起きた場合のフォロー体制を整えないまま拡大すると、かえってミスやトラブルの温床にもなりかねません。まずは経理・バックオフィスの一部業務から小さく試し、KPIで効果とリスクのバランスを確認しながら段階的に範囲を広げていくことが、AIエージェント活用を成功させる近道です。

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