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本記事は、2026年1月20日に開催されたオンラインカンファレンス「TOKIUM AI VISION AIとともに企業の未来を創る」のウェビナーレポートです。 経路依存しがちな日本企業で、いかに変革を起こすか。効率化が「1人月」を超えると現場の抵抗が始まる「1の壁」をどう乗り越えるか。三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIOの磯和 啓雄 氏にお話を伺いました。
【3行要約】
- 日本企業は経路依存(去年やったことを今年もやる)しがちで、特に儲かっている会社ほど新規事業は難しい。変革にはスモールサクセスで「こんなことができるのか」と社内を驚かせることが有効。
- 合理的な意思決定だけではROI(投資対効果)が見えにくいAI投資は劣後する。経営層がリスクを取って「合理の中の非合理を」を作り、予算をつける別のバイパスを作ることが必要。
- 効率化が「0.7人月の削減」までは現場は協力するが、「1人月」を超えると「仕事を取られる」と抵抗が始まる。この「1の壁」を超えるには、経営が新しい仕事の画を示す必要がある。
【登壇者情報】
磯和 啓雄 氏(三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO)
1990年に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ。その後、トランザクション・ビジネス本部長として法人決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進をけん引。
文系銀行員がデジタル改革を率いるまで
磯和氏: 私はSIer出身ではなく、文系の普通の銀行員です。1990年に入行し、法人業務、法務、経営企画、人事などを経験した後、銀行員生活25年目にして初めてデジタル部門に入りました。そこから丸11年、新規事業ばかりをやっています。
磯和氏: 肩書きはチーフデジタルイノベーションオフィサー(CDIO)です。よくCDOと略されますが、「イノベーション」つまりビジネスを変えることにこだわりを持っています。
磯和氏: 当時は「Bank is not necessary, but Banking is necessary(銀行は不要だが、銀行業務は必要)」という風潮でした。楽天さんが楽天銀行を作れるのに、銀行がECサイトを作れない時代。この危機感が変革の原動力でした。
経路依存と分母の理論
磯和氏: 日本の会社は基本的に経路依存します。去年やったことを今年、今年やったことを来年やることを良しとする。これは会社が悪いのではなく、日本の労働環境や労働流動性の低さを考えれば当たり前のことです。この経路依存の中から新しいビジネスを生み出すのがとても難しい。
磯和氏: 特に私は「分母の理論」と呼んでいますが、分母が大きくなるほど、つまり儲かっている会社ほど新規事業を生み出すのは難しいです。新規事業は最初のスタートが小さいですから、既存の大きな事業と比較されてしまう。この分母の理論にどう打ち勝つかが大きな問題です。
磯和氏: ちょうど新規事業を始めようと言った時に危機感があったのはチャンスでした。「このままでは銀行がなくなるかもしれない」という時こそ、変革の土壌が温まります。そういうタイミングを捉えることがすごく大事です。今まさにAIが出てきて、将来仕事がこう変わるという議論をすることで、新規事業をやらなければという文脈に持っていきやすい状況にあると思います。
スモールサクセスで社内を驚かせる

磯和氏: 11年前に最初にやったのがスマホアプリのアップデートです。当時うちは3メガで絶対にビリでした。アプリを開けるとブラウザ画面になって、拡大しないと口座番号も入力できない状態でした。
磯和氏: 数千枚の画面をAdobe等で一枚一枚作り、ものすごい時間とお金をかけました。ところが当時はみんな「アプリをアップデートして何の商売になるんだ」と思っていて、ボロクソに言われました。
磯和氏: 転機はグループ会社の残高も含めて個人のバランスシートを一画面で見られるようにしたことです。外部の企業の力も借りて2年かかる予定だったものが2ヶ月ででました。この成功で「まだ半年も経っていないのにこんなことができるのか」と社内を驚かすことができました。
磯和氏: そこから社内の風向きが変わりました。変革の土壌が温まったことで多くの人が乗ってきてくれたのだと思います。「この画面から住宅ローンを申し込めるようにしよう」「カードローンも申し込めるようにしよう」と、私が想定していないことを他の人が言ってくれて、ワーッと広がりました。弾み車が回り始めたのです。小さくてもいいので、「魅せる成功」を作ることが必要だと思います。
トップを巻き込み、別のバイパスを作る
磯和氏: スモールサクセスは企画側、部長や担当者の話です。一方で全社を動かすにはトップを動かさないとダメです。
磯和氏: ポイントは「打ち合わせ・根回しなし」です。各事業部門の中で検討すると、ROI(投資対効果)が見えにくいものは投資が劣後します。それは当たり前の行動です。だから経営は、その当たり前の行動とは違うバイパスを作る必要があります。
磯和氏:当社ではCDI予算という枠を作り、新規事業を開発するための予算をその場でつけるということをずっとやっています。AIについても、去年の10月に次の中期経営計画分まで含めて500億円の予算を4年半分つけてもらいました。大事なのは金額の大小ではなく、経営が別のバイパスを作ることが大事です。
合理の中の非合理

磯和氏: 合理的な意思決定だけではROIが見えにくいものは進みません。改革には「合理の中の非合理」が必要です。それは経営および経営に近い人がリスクを取ってやらないといけない。
磯和氏: そもそも全てのビジネスを合理的に、みんなが賛成するように作っていくと、結果としてレッドオーシャンに行くだけです。みんなが「そうだそうだ」というものを作ると、めちゃくちゃしょうもないものになる。どこかで「え?」という要素がないと、ブルーオーシャンにはたどり着けません。
磯和氏: 経営側の感度が高まったきっかけは危機感と、経営会議で世界の先端の人を呼んで勉強会を頻繁にセッティングしたことです。AIの本当のプロを呼んで、何を言っているか全然わからないという状態でも、意図的にそういう情報を入れていく。下から上げると丸いものしか上がってこないですから。
「1の壁」を超えるには経営が画を示す
磯和氏: 今はAIをやらなくていいと言っている人は一人もいません。60件以上のAI案件に予算をつけ、各部で少額案件を含めると200件くらいのAI案件が走っています。
磯和氏: ただ今一番困っているのが「1の壁」です。人が0.7人月減りますよというレベルまでは皆やってくれます。楽になるところまでは協力する。しかし1人月を超えた瞬間に「俺の仕事を取られるかもしれない」と思ってケチをつけ始める。
磯和氏: 明らかに今までの仕事に人が要らなくなるのが見え始めると、ものすごくケチをつけ始めます。ここは大きな壁です。この壁を超えるには、経営が「ここは全部AIに任せるけど、この人たちは別の仕事でもっと大きいことができる」という画を示さないといけません。
好奇心を持ち、5年後10年後を見据える
磯和氏: 変革を進めるマインドセットは一言で言うと「好奇心」です。今やっている仕事が5年後、10年後どうなるのか。自分の業界を超えて、今はコンペティターだと思っていない人たちが入ってきたらどうなるか。そういう好奇心を持つことがすごく大事です。
磯和氏: 例えば私は毎年CES(コンシューマーエレクトロニクスショー)に参加しています。銀行とは全く関係ありませんが、近未来こういうことが変わる、自動車業界がこう変わる、それに連れて銀行業がこう変わるんじゃないかと考え始めます。
磯和氏: 経営は短期的な成果を求められがちですが、担当や部長クラスが「将来こうなりますよ、そのために今こう手を打った方がいいですよ」とイメージを膨らませて入れてあげることが大事です。マネージャーや現場のトップ層の役割は大きいと思います。
日本企業は必ず復活できる

磯和氏: 1989年、世界の企業時価総額上位30社のうち21社が日本企業でした。世界1位がNTT、2位が住友銀行です。私は世界2位の会社に入るつもりで入行しましたが、あっという間に100位にも入らなくなりました。
磯和氏: しかし裏を返せば、当時アメリカ企業は6〜7社しか入っていなかったのに、今は上位30社のほとんどがアメリカ企業です。日本も今はしゃがんでいますが、これからの頑張りで絶対にまた復活すると思います。日本企業の99%以上が中小零細企業ですから、ここの労働生産性を上げることがめちゃくちゃ大事です。自分たちの会社だけでなく、日本全体の労働生産性を上げることに注力していきたいと思います。
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ぜひご覧ください。
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