経理DX促進

創業380年を超える老舗企業がAIエージェント導入を決定するまで【ウェビナーレポート】

更新日:2026.01.21

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本記事は、2026年1月20日に開催されたオンラインカンファレンス「TOKIUM AI VISION AIとともに企業の未来を創る」のウェビナーレポートです。経費精算システムを導入してペーパーレス化は進んだものの、経理のチェック作業負担は残っており、現場からは「解けないゲームをやらされている」という声も。セキュリティ基準が厳格化し、AI導入のハードルが高かった中で、導入まで実現できた理由とは?月桂冠株式会社の市岡氏にお話を伺いました。

【3行要約】

  • 経費精算システムを導入してペーパーレス化は進んだが、経理のチェック作業は変わらなかった。不備のやり取りで月に約24時間(3営業日分)をロスし、現場からは「解けないゲーム」という声も。
  • 2022年のサイバー攻撃経験でセキュリティ基準が厳格化。AIエージェント導入のハードルになったが、情報システム担当とベンダーを直接つなぎ説明して納得を得た。
  • 導入のコツは「キーマンを初期から巻き込む」ことと「スモールサクセス」。大きな成功を最初から求めず、小さく始めて徐々に広げていくことが成功への近道。

【登壇者情報】

一岡 聖二 氏(月桂冠株式会社 経営情報部経理課 課長)

創業1637年、新しいもの好きの老舗企業

一岡氏: 月桂冠株式会社は1637年創業、京都の伏見に本社を構え、清酒をはじめとするアルコール飲料の製造販売を行っています。徳川幕府の第3代家光将軍の時代からの創業で、かなり歴史は古い会社です。

一岡氏: 古い会社というと古臭いとか、伝統にガチガチに縛られているという印象を持たれがちですが、実はそんなことはありません。弊社の基本理念は「クオリティー」「ヒューマニティー」「クリエイティビティ」の3つの柱があり、特にクリエイティビティでは創造と革新に挑戦しています。

一岡氏: 明治時代、お酒は樽詰めで船で運ぶのが一般的でしたが、鉄道が全国に普及し始めた頃、瓶詰めで鉄道に乗せて運ぶことに早くから目をつけ、瓶詰めを広めたのが月桂冠です。最近では糖質0の健康のお酒や、ノンアルコール清酒、低アルコール清酒なども開発しています。新しいものをどんどん取り入れる企業文化があります。

システムを入れても経理のチェック作業は変わらなかった

一岡氏: 5年前に経費精算システムを導入し、申請者から承認フローに乗って経理までワークフローが流れる効率化は進みました。従来は1回の申請で約500枚の紙が回ってきていましたが、それがほぼ0になり、ペーパーレス化の効果は絶大でした。

一岡氏: 一方で、経理の業務としては、紙で上からチェックしていたものが画面上でチェックするものに変わっただけで、チェック作業自体は従来から変わらず続いている状況です。経理としての効率化は進みませんでした。

一岡氏: 弊社は月3回経費精算を締めて処理していますが、1回の締めで大体100件くらいのラリーの応酬があります。ラリー1回あたり、経理と申請者の間で5分くらいかかり、月に直すと約50時間、年間で約300時間。営業日に換算すると月に約3営業日分の時間がかかっています。

「解けないゲーム」と言われる経費精算

一岡氏: 経費精算システムを入れたことで、データをそのまま会計ソフトに取り込むために細かいルールが必要になりました。会計のルールは申請者にとっては馴染みのない世界ですので、「ちょっと違うんじゃない」と返しても、なかなか現場の方には理解していただけません。

一岡氏: 現場の担当者の声としては、「なかなか解決ができないゲームをやらされている」という印象を持たれています。具体的には、メモ欄に会計に取り込むための文言を入れるルールで文字数が多かったり内容に不備があったり、宿泊費が上限を超える場合の上長承認のコメントがなかったり、接待交際費の参加者の記載がなかったり、領収書の税率や但し書きに不備があったりします。

一岡氏: 差し戻すと再申請の際に経理側でもまた0からの再チェックになるので、差し戻しはほとんどしていません。やり取りのラリーをしていく中で、相手からの正解がわかった時点で経理側で修正してしまうやり方が多いです。注意しても直る人もいれば、大半の人はあまり直ってこないのが現実です。

セキュリティがAI導入の最大のハードルに

一岡氏: 弊社は2022年にサイバー攻撃を受けて、全社のシステムがストップした苦い経験があります。それをきっかけに情報セキュリティの基準をかなり厳しく設定しました。AIを入れると言った時点で、社内の各種情報が外部に漏れて一般のユーザーにも利用されるのではないかというところが非常にネックになりました。

一岡氏: 私はシステム関連の話はほとんど素人に近いので、弊社のセキュリティ担当である情報システム課とベンダーの専任の方に直接話をしてもらいました。「社外に漏れない閉じた世界の中で動くAIだ」ということを説明いただいて、セキュリティ担当のメンバーも納得し、導入に進むことができました。

導入のコツ① キーマンを初期から巻き込む

一岡氏: 5年前に経費精算システムを初めて導入した時は、なるべく社内の影響力の大きい人を当事者として巻き込みながら進めました。経費精算のユーザーは主に営業担当ですので、営業のトップの方を導入の初期段階から巻き込み、意見も聞きながら進めていきました。

一岡氏: テスト環境を用意していただき、営業のトップの方にも実際に使ってもらいながら使い勝手の意見を聞いて進めました。トップの方が「そんなシステム知らない」と言われないように準備をして進めたというのが本音です。

一岡氏: 巻き込んでいなかったら、いざ始めるとなった時に「こんなん知らん」と言われて、営業のユーザー間でネガティブなイメージが先行し、使ってもらえなかった可能性があります。要所要所を押さえて筋を通すのは泥臭いですが、やはり重要です。

一岡氏: 今回のAIエージェントではセキュリティがネックだったので、情報システム課がキーマンでした。各社様それぞれ導入するものに応じてキーマンは変わりますが、その部署や担当者を導入初期から巻き込むことが成功への近道です。

導入のコツ② スモールサクセス

一岡氏: 今回AIエージェントを導入すると決めた時、実は基幹システムの入れ替えプロジェクトも並行して走っていたタイミングでした。経理課のメンバーからは「またこいつ変なこと言い出したな」という冷ややかな対応でした。

一岡氏: そこで全員を巻き込むのではなく、私ともう一人のサポートメンバーという少人数で、まずは小さいプロジェクトからスタートしています。AIエージェントの経費承認のスコープは、まず経理の承認チェックを楽にするところに絞っているので、一部のメンバーだけで試しながら進めています。

一岡氏: テスト環境でAIの判定がどう動くかを検証し、判定ルールをトライアンドエラーで少しずつチューニングしている段階です。本番環境でいきなり試すのではなく、テスト環境で実際の申請データをAIに判断させて、どういう結果が来るかを検証しています。

大きな成功を最初から求めない

一岡氏: 大きな成功を最初から求めないことが大事です。最初から大きな成果を求めると、導入にかかるプレッシャーやメンバーへの負荷が必要以上に高くなります。一旦どんと入れてしまった後に問題やトラブルがあると、その仕組み自体が全社的にネガティブなものになってしまいがちです。

一岡氏: 小さく始めて、徐々にこなれた頃から大きくしていくという形で進めるのがいいと思います。
一岡氏: 今後の期待としては、経費承認にかかる経理のチェック時間を効率化することで、データを入力して確認して終わりではなく、入力されている経理のデータを分析して経営層に提案できるような成果物を出せる組織にシフトしていきたいと考えています。

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ぜひご覧ください。

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