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月末の締め時期、山のように提出される出張申請書や精算書を前に、「またこの不備か…」「どうしてルール通りに申請してくれないのだろう…」と、悩みを抱えたことはありませんか。
申請者に不備を伝え、修正を依頼する「差し戻し」の作業。それは単なる事務処理ではありません。申請者から「また経理からだ」「細かいことを言われる」と、内心思われているのではないかという気遣い。修正を依頼する心苦しさと、ルールが守られないことへの憤り。
この記事は、なぜ差し戻しが繰り返されるのか、その根本原因を突き止め、この問題を二度と発生させないための抜本的な解決策までを追って詳しく解説します。
なぜ繰り返される?出張申請「差し戻し」の典型的な7つの原因
差し戻しの連鎖を断ち切るための第一歩は、まず「敵」を知ることから始まります。なぜ、あれほど何度も伝えているのに、不備のある申請書がなくならないのでしょうか。ここでは、経理担当者の皆様が日々直面しているであろう、差し戻しの典型的な原因を7つのパターンに分類して、その背景を深掘りします。
原因1 単純な記載漏れ・入力ミス
最も多く、そして最も悩ましいのが、日付の間違い、金額の入力ミス、訪問先の記載漏れといった、いわゆるケアレスミスです。申請者本人に悪気がないことは分かっていても、会社の経費を扱う以上、見過ごすことはできません。特に、手書きの申請書や自由入力の多いExcelフォーマットでは、こうした単純なミスが後を絶たないのが実情です。
原因2 交通費・経路の計算間違い
出張申請において、交通費の計算は特に間違いが起こりやすいポイントです。乗り換え案内のサイトで検索した金額をそのまま転記したものの、実際にはICカード利用で料金が異なっていたり、最も安価な経路ではなく、乗り換えが楽な経路で申請されたりするケースです。経理としては、会社の規程に基づいた最短・最安経路での精算が原則のため、一つひとつ経路を再検索して確認し、差額があれば差し戻すという手間が発生します。
原因3 見落とされがちな「出張旅費規程」違反
「部長職未満は新幹線のグリーン車利用不可」「1泊あたりの宿泊費上限は12,000円」といった出張旅費規程。経理部門では当たり前のルールでも、普段あまり出張に行かない社員や、入社して間もない社員には、その内容が十分に浸透していないことがあります。その結果、規程をオーバーした金額での申請が提出され、差し戻しの対象となってしまいます。申請者からは「知らなかった」と言われてしまうと、それ以上強く言えないのが辛いところです。
以下の記事を参照すると、自社規程の見直しポイントが整理できます。
原因4 領収書・証憑書類の不備や添付漏れ
経費精算の正当性を証明するために不可欠な領収書。しかし、「領収書そのものを添付し忘れる」「レシートで提出され、宛名がない」「電子取引の領収書データが要件を満たしていない」など、証憑書類に関する不備も差し戻しの常連です。特に、電子帳簿保存法への対応が進む中で、電子領収書の取り扱いルールが複雑化し、申請者も経理担当者も混乱している、という声もよく聞かれます。
電子帳簿保存法の最新要件については、以下の記事で詳しい解説をしているので確認しておきましょう。
原因5 承認ルートの間違いや承認者の不在
会社のルールで定められた正式な承認ルートを通っていない申請も、差し戻しの対象となります。例えば、本来は部長決裁が必要な金額なのに、課長の承認だけで提出されてしまうケースです。また、紙やExcelでの運用の場合、承認者が出張や休暇で長期間不在にしていると、承認プロセスそのものが完全に停滞してしまい、結果的に経理への提出が遅れ、不備に繋がることもあります。
原因6 曖昧な目的・内容の記載
出張の「目的」欄に、「〇〇社訪問」「打ち合わせ」としか書かれていない申請書を見たことはありませんか。これでは、その出張の正当性や業務上の必要性を判断することができません。より具体的な内容(例:「〇〇社へ、新製品△△の導入に関する最終商談のため」)を記載してもらうよう、追記を依頼するために差し戻しが発生します。
原因7 そもそもルールが周知されていない
これらの原因の根底には、「そもそも会社のルールが申請者に正しく伝わっていない」という問題が横たわっています。出張旅費規程がどこにあるのか分からない、マニュアルが古くて現状と合っていない、口頭での引き継ぎしかなく人によって言うことが違う。このような状態では、申請者に「ルールを守れ」と要求するほうが酷なのかもしれません。
「差し戻し」が会社全体に与える、見えないコストと悪影響
一件一件の差し戻しは些細な作業に思えるかもしれません。しかし、それが常態化すると、会社全体にとって無視できない「見えないコスト」と悪影響を生み出します。この問題の深刻さを正しく理解することは、上司や関係部署を巻き込んで改善を進める上で非常に重要です。
社内の雰囲気を悪くする「人間関係」の悪化
差し戻しは、業務効率だけでなく、社内の人間関係にも影を落とします。差し戻す側の経理担当者は「また細かいことを言う部署だ」と思われているのではないかと感じ、心理的な負担を抱えます。一方、差し戻される側の申請者は「経理は融通が利かない」「信頼されていない」といった不満を募らせる可能性があります。このような負の感情の応酬は、部門間の円滑な連携を妨げ、組織の一体感を損なう原因となり得ます。
不正を誘発しかねない「内部統制」の脆弱化
差し戻しが頻発し、経理のチェック体制が形骸化してくると、「このくらいの金額ならバレないだろう」「面倒だから概算で申請してしまえ」といったモラルの低下を招きかねません。チェックの網の目が粗くなることで、意図的なカラ出張や経費の水増し請求といった不正行為のリスクが高まります。差し戻しの多さは、その会社の内部統制、つまり社内のルールを守る仕組みが弱っている危険信号なのです。
応急処置では限界?「性善説」と「注意力」に頼る運用の危うさ
マニュアルを整備し、チェックリストを配布しても、なぜか差し戻しはゼロにならない…そんな経験はありませんか。実は、これらのアナログな対策には、越えられない限界が存在します。それは、結局のところ、申請者の「善意」と、経理担当者の「注意力」という、不確実な要素に依存しているからです。
なぜマニュアルを整備してもミスはなくならないのか
どれだけ分かりやすいマニュアルを作っても、多忙な業務の合間に、すべての申請者が隅々まで熟読してくれるとは限りません。「たぶんこうだろう」という思い込みや、過去の古い知識のまま申請してしまうケースは必ず発生します。人間である以上、うっかりミスや勘違いを100%防ぐことは不可能なのです。
担当者の「頑張り」に依存するチェック体制の末路
一方で、経理担当者側も、人間です。数百、数千という申請書を目視でチェックしていれば、どうしても見落としは発生します。体調が悪い日や、特に忙しい日には、その精度はさらに落ちるでしょう。「私が頑張ってチェックしなければ」という強い責任感は、担当者を疲弊させ、燃え尽き症候群に繋がる危険性すらあります。人の頑張りに頼るチェック体制は、もはや限界にきているのです。
【申請者向け】差し戻しをゼロにする5つの鉄則
差し戻しを防ぐには、申請者が少し意識を変えるだけで十分な効果があります。以下の5つの鉄則を心がけましょう。
出張経費規程を熟読する
全ての基本は会社のルールにあります。申請前に必ず最新の出張旅費規程に目を通しましょう。特に、交通費の等級(グリーン車はOKかなど)、宿泊費の上限額、日当・手当の金額と条件、そして申請・精算の期限といった項目は、重点的に確認しておくべきです。
出張旅費規程を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
「5W1H」で目的を具体的に書く
承認者が一読して理解できるよう、目的や業務内容は「5W1H」を意識して具体的に記載することが重要です。「いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」を明確にすることで、出張の必要性と妥当性が伝わりやすくなります。
テンプレートや過去の承認済み申請を参考にする
毎回ゼロから作成するのではなく、部署で共有されているテンプレートや、過去にスムーズに承認された自身の申請書を参考にすると効率的です。ただし、その際は日付や金額、目的などの情報をそのまま流用してしまわないよう、更新漏れには十分注意してください。
鉄則4:不明点は「申請前」に相談する
「このケースは規定の上限を超えても大丈夫だろうか?」「このルートは認められるかな?」といった疑問や判断に迷うことがあれば、必ず申請を提出する前に上長や経理担当者に相談しましょう。事前のすり合わせが、後の手戻りを防ぐ最も確実な方法です。
鉄則5:提出前にセルフチェックを行う
人間は誰でもミスをするものです。だからこそ、提出前の最終確認を習慣づけましょう。後述する「出張申請前の完璧チェックリスト」などを活用し、客観的な視点で自分の申請書を見直す一手間が、差し戻しのリスクを大幅に減らします。
【承認者・管理部門向け】組織で差し戻しをなくす3つの改善策
差し戻しは、申請者だけの問題ではありません。承認者や管理部門が仕組みを整えることで、組織全体の生産性が向上します。
出張旅費規程を形骸化させない
規定は作って終わりではありません。社会情勢や物価の変動に合わせて定期的に見直し、変更があった際は全社員に周知徹底することが重要です。また、判断に迷いやすいケースについてFAQ(よくある質問)を作成し、イントラネットなどで共有することで、社員の疑問を未然に解消し、問い合わせ対応の工数も削減できます。
コミュニケーションで「意図」を汲む
申請内容に疑問を感じた際、すぐに差し戻すのではなく、ワンクッションを置くことも有効です。口頭やチャットで申請の背景や意図を確認してみましょう。「この宿泊費は少し高いけど、何か理由がある?」と一言聞くだけで、会場に最も近いホテルがそこしかなかった、など正当な理由がわかるかもしれません。不要な修正依頼を減らすための歩み寄りも大切です。
経費精算システムや経理AIエージェントを導入
手作業やExcelでの管理には限界があります。出張管理や経費精算の専用システムを導入すれば、差し戻しの根本的な原因を解消できる可能性があります。例えば、必須項目が埋まらないと申請できないように制御して入力ミスを防いだり、規程違反を自動でチェックしてアラートを出したりすることが可能になります。さらに、申請・承認プロセスの可視化やペーパーレス化も実現でき、業務効率は飛躍的に向上するでしょう。
また、TOKIUMが提供する「TOKIUM AI出張手配」では、移動経路の検索や宿泊先の手配、出張申請の作成など、出張手配の「探して、予約して、申請して」をAIエージェントが代わりに実行します。出張旅費規程の内容に沿って申請するため、意図しない規程違反や記載漏れなどのミスがなくなるため、申請者、承認者それぞれで負担を軽減することが可能です。
「TOKIUM AI出張手配」を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
https://www.keihi.com/keiri-ai-agent/biz-trip-arrangements/
まとめ
毎日繰り返される「差し戻し」の連絡と、それに伴う精神的な負担。その不毛なループから抜け出す道筋は、見えてきたでしょうか。
差し戻しが頻発するのは、決してあなたのチェックが甘いからでも、申請者の意識が低いからでもありません。それは、人の注意力や善意といった、不確かなものに頼らざるを得ない「仕組み」そのものに問題があるのです。