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リース識別はAIで解決できる?新リース会計基準の契約書判定を自動化する方法

更新日:2025.07.18

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リース識別_AI

2026年度から上場企業等に強制適用が予定されている新リース会計基準。この改正に伴い、経理部門では従来リースとして扱っていなかった契約まで資産計上する必要が生じ、その識別に多大な労力がかかると懸念されています。膨大な契約書の中から該当するものを探し出し、複雑な要件に照らして一つひとつ判定する作業は、まさに人手と時間を要する業務です。

「全ての契約書を読み返すなんて、考えただけで気が遠くなる…」
「担当者によって判断がブレてしまい、監査で指摘されないか不安だ…」

このような課題を解決する切り札として注目されているのが、「リース識別AI」です。本記事では、新リース会計基準におけるリース識別の課題から、AIを活用して業務を自動化する具体的な方法、そしてそのメリットまでを詳しく解説します。

新リース会計基準で経理担当者が疲弊する「リース識別」の課題

新リース会計基準の適用により、経理担当者はこれまで以上に多くの契約を精査する必要に迫られています。具体的にどのような点が負担となっているのでしょうか。

膨大な契約書からの洗い出しと内容の確認

新基準では、これまで費用処理していた多くの賃貸借契約などがリースとして扱われる可能性があります。そのため、経理部門は社内に存在するコピー機の賃貸借契約、オフィスの賃貸借契約、社用車のリース契約など、あらゆる契約書を一度すべて洗い出し、その内容を精査しなくてはなりません。契約書が紙で保管されていたり、各部署で個別に管理されていたりする場合、その収集作業だけでも一大プロジェクトとなります。

「リースに該当するか否か」の複雑な判断

契約書を収集した後は、新基準の定義に基づき、一つひとつの契約がリースに該当するかを判断する必要があります。この判断は、「資産が特定されているか」「その資産の使用を支配しているか」など、専門的な知識と経験が求められる複雑なものです。契約書の文言解釈に迷うケースも多く、経理担当者の大きな負担となります。

実務では、紙とPDFが混在する契約書をエクセルに転記し、一件ずつ支配権や代替使用不可性を読み解く「人海戦術」が主流です。判定ロジックは属人化し、転記ミスが増殖し、クロージング直前の差戻しや深夜残業が常態化する企業も少なくありません。オンバランス対象が増えるほど作業量は指数関数的に膨れ上がり、プロジェクトリーダーは「この手順では決算に間に合わない」という危機感を抱えています。

Excel管理による属人化とミスのリスク

多くの企業では、リース契約をExcelの管理台帳で管理しています。しかし、手作業での管理には入力ミスや更新漏れがつきものです。また、担当者しか分からない「秘伝のタレ」のような管理方法になっているケースも少なくありません。このような属人化した状態では、担当者の異動や退職時に業務が停滞するリスクを抱えるだけでなく、監査対応においても正確な情報提出が困難になる可能性があります。

そもそもリース契約とは?新会計基準の定義をわかりやすく解説

では、新しい会計基準では、どのような契約が「リース」として扱われるのでしょうか。その定義と判断基準のポイントを解説します。

新基準におけるリースの定義

新しいリース会計基準では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約、または契約の一部分」と定義しています。

ポイントは、従来の「ファイナンス・リース」「オペレーティング・リース」といった区分がなくなり、原則としてすべてのリースを資産計上する「単一の会計処理モデル」が採用された点です。これにより、これまで費用処理されていた契約も、リースの定義に該当すれば資産として計上する必要が出てきました。

リース契約と判断される3つの要件

ある契約がリースに該当するかどうかは、主に以下の3つの要件を満たすかどうかで判断します。

識別された資産 (Identified Asset) があるか

    • 契約の対象となる資産が物理的に特定されているか(例:特定のシリアル番号を持つコピー機、特定の区画のオフィス)。
    • 貸し手がその資産を別のものと入れ替える実質的な権利を持っていないこと。

    経済的利益のほぼすべてを享受する権利 (Substantially all of the Economic Benefits) を有しているか

      • その資産を使用することで得られる経済的な利益(例:製品の生産、サービスの提供、他の資産との併用によるコスト削減など)のほとんどすべてを借り手が受け取れること。

      資産の使用を指示する権利 (Right to Direct the Use) を有しているか

        • 借り手が、資産の使用目的や使用方法を決定できる権利を持っていること。

        これらの要件を個々の契約内容に照らし合わせて、総合的に判断する必要があります。

        【具体例】これはリース?サービス契約?判断に迷うケース

        ケース判断解説
        オフィスの賃貸借契約リースに該当特定の区画(識別された資産)を、一定期間、排他的に使用し(使用を指示する権利)、事業活動(経済的利益)のために利用するため。
        特定のデータセンターにおけるサーバー利用契約リースに該当特定のラックに設置された特定のサーバー(識別された資産)を利用し、自社のデータを保存・運用する(使用を指示する権利)ため。
        クラウド(SaaS)サービスの利用契約サービス契約に該当利用するサーバーやソフトウェアが特定されておらず、プロバイダーがリソースを自由に割り当てるため、「識別された資産」の要件を満たさない。
        運転手付きの車両レンタル契約サービス契約に該当運転手が車両の運行を管理しており、借り手は行き先を指示するのみで「使用を指示する権利」を有していないと判断される場合が多い。

        契約書のリース判定をAIで自動化する「リース識別AI」とは?

        このように複雑なリース識別業務を効率化・自動化する技術が「リース識別AI」です。AIがどのように契約書を読み解き、判定を支援するのか、その仕組みを見ていきましょう。

        AIがリース判定項目を自動でチェック・抽出

        次に、AIがテキスト化された契約内容を解析し、「契約期間」「対象資産」「支払い条件」「中途解約条項」といった、リース判定に必要な項目を自動で抽出します。さらに、自然言語処理技術を用いて、「資産は特定されているか」「使用指示権はどちらにあるか」といった契約文脈を理解し、新リース会計基準の要件に照らして、その契約がリースに該当する可能性を判定します。

        判定結果や管理したい情報をAIが自動でデータ化

        AIによる一次判定の結果は、一覧形式で出力され、経理担当者はその結果を確認・修正するだけで済みます。また、最終的に確定したデータや管理したい情報は、リース管理台帳や会計システムに連携させることができ、仕訳作成や資産管理業務の大幅な効率化につながります。

        リース識別AIを導入する3つのメリット

        リース識別AIの導入は、経理部門に大きな変革をもたらします。

        圧倒的な業務効率化と工数削減

        最大のメリットは、業務時間の大幅な短縮です。AIが膨大な契約書の読み込みと一次判定を自動で行うため、経理担当者は確認と最終判断に集中できます。

        人的ミスの防止と監査対応の強化

        手作業による確認やデータ入力に伴うミスを抜本的に削減できます。AIは客観的な基準で判定を行うため、担当者による判断のブレを防ぎ、会計処理の標準化と品質向上を実現します。また、全ての契約書と判定根拠をデータで一元管理できるため、監査法人からの問い合わせにも迅速かつ正確に対応できるようになります。

        業務の属人化解消と標準化の実現

        ベテラン担当者の経験と勘に頼っていたリース判定業務を、AIによって標準化できます。これにより、業務の属人化が解消され、誰が担当しても一定の品質を保つことが可能になります。担当者の異動や退職に伴う引き継ぎもスムーズになり、組織として安定した業務遂行体制を構築できます。

        リース識別AI導入時の注意点

        多くのメリットがある一方で、導入にあたっては考慮すべき点もあります。

        100%の精度ではない可能性

        現在のAI技術は非常に高度ですが、万能ではありません。特殊な契約形態や、曖昧な表現を含む契約書の場合、AIが誤った判断をする可能性はゼロではありません。そのため、AIによる一次判定の結果を鵜呑みにせず、最終的には人間の目で確認・修正するプロセスが不可欠です。

        導入・運用コストの考慮

        AIツールの導入には、初期費用や月額の利用料が発生します。自社が抱える契約書の数や、削減したい業務工数などを考慮し、費用対効果を慎重に見極める必要があります。

        まとめ:リース識別は「経理AIエージェント」に任せる時代へ

        新リース会計基準への対応は、多くの企業にとって避けては通れない課題です。特に、膨大で複雑なリース識別業務は、経理部門の大きな負担となっています。

        リース識別AIは、この課題を解決するための強力なソリューションです。AI-OCRと自然言語処理技術を駆使して契約書を自動で解析し、判定を支援することで、業務の大幅な効率化と精度向上を実現します。

        これまで人間にしかできないと思われていた契約書の解釈といった定型業務を、AIが代行する。これは、AIが単なるツールではなく、経理担当者の業務を支える「経理AIエージェント」として機能する未来の到来を意味します。

        煩雑な作業はAIに任せ、人はより高度な分析や意思決定に集中する。リース識別AIの活用は、その第一歩と言えるでしょう。まずは情報収集から始め、自社の経理業務の自動化に向けた検討を進めてみてはいかがでしょうか。

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