この記事は約 5 分で読めます。

「自社の経理体制に潜む不正のリスクをどうすれば検知できるのか…」「巧妙化する手口に対して、現在のチェック体制で十分なのか不安だ」そう思う方もいるのではないでしょうか。
経理不正の検知は、担当者の経験則だけに頼るのではなく、不正が起こりやすいポイントを理解し、AIなどのシステムを活用して網羅的にチェックする体制を構築することが不可欠です。
本記事では、経理不正の代表的な手口や兆候、そしてAI技術を活用して不正を効率的に検知・防止する具体的な方法について、詳しく解説していきます。
AI導入による決算早期化の重要ポイント
企業が成長を続けるために欠かせないものの一つが、正確かつ迅速な決算対応です。近年は決算の早期化へのニーズが特に高まり、AI導入をはじめとするデジタル技術で決算スピードを高める取り組みに注目が集まっています。たとえば上場企業の一部では、決算発表の時間を午後3時より前に早める動きが見られます。しかし、実際に午前中の発表など思い切った前倒しをしている企業はごく少数にとどまり、全体の5%程度にすぎないという調査結果もあります。多くの企業が決算発表の時間を早めることに慎重で、取締役会の開催時間を早めるなどの社内調整が難しいと感じていることが背景にあります。
また、投資家や社外ステークホルダーにとっては、正確で分かりやすい財務報告が欠かせません。取引時間中に決算情報を開示する場合は、株式市場の動揺を招きかねないとの声もあり、開示のタイミングや情報の中身を慎重に見極める必要があります。ここで重要になるのがAIを活用した作業自動化やクラウド会計の導入です。膨大なデータ分析や経理業務の定型処理をシステム化することで、意思決定のスピードと情報の正確性を同時に高めることが可能になります。決算早期化や経理改革を目指す企業にとって、AI技術や自動化は今後必須のツールとなっていくでしょう。
経理業務の負担を生む紙書類と法改正への不安
多くの企業では、依然として紙の書類を大量に扱っています。請求書の確認から仕訳入力まで、紙ベースの書類を手作業で処理しなければならない場面が多く、担当者の残業が増えがちです。さらに、電子帳簿保存法やインボイス制度の改正が相次いでおり、それに対応するためのシステム改修や業務フロー見直しも急務となっています。現行ルールに間に合わないと、ペーパーレス化が進まず従来型の紙処理を維持せざるを得ず、結果としてコストが膨らみやすい悪循環に陥ることもあります。
特に地方を含む中堅・中小企業の場合、人材確保の難しさや高齢化が原因で、ノウハウが一部のベテラン社員に偏っているケースが見られます。担当者が退職すると、経理・決算手続きに必要な知見が失われてしまい、業務の質が大きく低下する可能性もあります。こうした属人化によるリスクを軽減するためには、電子システムや財務デジタル化への取り組みが欠かせません。実際に農業分野でもICTを活用した自動制御システムが導入され、収量増加や作業時間の大幅削減が進められています。経理部門でも、同じ発想で最新技術を取り入れれば、書類管理の手間や人為的ミスを減らすことができます。紙の書類が山積みで頭を抱えている経理担当者にとっては、法改正対応への不安と同時に、これを機に業務の自動化へシフトするチャンスがあるといえるでしょう。
出典:TOKIUMインボイスを導入したニッスイが経理業務を大幅に効率化
どう進める?決算効率化に向けたAI活用と機械学習
決算期の疲弊を解消するために、まず注目されるのがルーティン作業の自動化です。経理担当者の多くは仕訳の入力や伝票の照合に時間を取られており、残業が続いてモチベーションが下がるという問題を抱えています。AIや機械学習を活用すれば、請求書の内容を自動的に読み取り、勘定科目と金額を判断して仕訳を起票することが可能です。これによって入力ミスを減らすだけでなく、人手不足や担当者の高齢化によるノウハウ流出のリスクも下げることができます。
また、AIは過去の取引データを学習し、不正や異常を検知する機能も持っています。決算時の内部統制を強化したい企業にとって、こうした自動モニタリングは欠かせない要素です。例えば、建設業のように工事完了後に現金回収が遅れがちで資金繰りが不安定になりやすいケースでは、早めに売掛金管理やビッグデータによるリスク分析を行うことが有効です。実際、ファクタリングの活用などで売掛金を素早く現金化する手段があり、こうした財務管理上のノウハウをAIが自動提案するシステムも今後拡大していくと考えられます。決算効率化を進めるうえで機械学習の導入を検討すると、分析レポートや予測モデルの作成に力を発揮してくれるでしょう。
財務管理をスピードアップする自動化のメリット
財務管理といえば売掛金や買掛金などを日々追いかけてキャッシュフローを管理することが中心です。しかし、そこには多くの手動入力や決算処理が含まれ、作業時間が膨大になりがちです。AIやRPAなどの自動化技術を活用することで、例えば月次・四半期・年次決算の進捗状況を自動で可視化し、必要なレポートを自動出力できるようになります。結果として、経理担当者が付加価値の高い業務に集中できるというメリットを得られます。
最近ではリアルタイム決算の概念も注目されています。これは、毎日や毎週のように財務数字を更新して、経営者が素早く今後の方針を決定できるという仕組みです。たとえばタイムリーな決算結果を受けて、投資や新事業への判断を迅速に行うことができるため、ビジネスチャンスを逃さずに済むという利点があります。一方で、リアルタイムに情報が更新されるということは、ミスや不正が発生した場合に一気に拡散されてしまうリスクもあり、正確性と安全性を担保するためのシステム整備が欠かせません。その点でもAIを中心としたデータ分析技術によるワークフローが有効であり、常時監視の自動化や異常値の検知が可能になります。スマート農業のように、自動かん水や自動環境制御の仕組みで人力作業を大幅に省く事例が拡大しているように、経理や財務の分野でも同様の自動化が進むと考えられます。
ビッグデータやリアルタイム決算が変える経営判断
近年は会計データだけでなく、販売実績や顧客データなどのビッグデータを掛け合わせることで、より精密な経営分析が可能になりつつあります。経理部長や経理担当者としては、ただ数字を追うだけでなく、数字の背景にある要因やリスクを把握し、経営陣に効果的な報告と提案ができる体制を作ることが重要です。リアルタイム決算とビッグデータ解析を組み合わせることで、在庫管理や現場の人員配置、さらには海外展開の可否までスピーディに判断することができます。
一方で、こうした高度な分析を活かすためには、日頃の帳簿入力や会計処理の品質が極めて重要になります。もしも仕訳の管理がずさんであれば、どれだけAIを活用しても、正確な結果は得られません。医療機器の研究開発におけるプロジェクトでも、早期の検査や診断を重視する一方で、基礎データの正確さや信頼性が開発成功のカギを握るとされています。財務の現場でも同様に、正確かつ迅速な入力・処理体制を整えることで、的確な経営判断を下せる基盤が築かれます。データドリブンな経営を目指し、ビッグデータやリアルタイム決算を導入するのであれば、その前段階として決算早期化や経理自動化に注力し、入力の誤差を最小限に抑える必要があります。
企業分析に役立つ最新技術と持続的成長への展望
AIや機械学習、ビッグデータ、RPAといったデジタル技術は、今後ますます普及が進むと考えられます。特に人手不足や高齢化、属人化が懸念される経理部門においては、これらの技術を導入することが企業の生き残りの鍵となるでしょう。現在は製造業や農業、医療機器開発の分野などでも効率化や早期化の波が広がっています。それらの事例は、どの業種にも共通するプロセスの見直しとデジタル化の徹底が有効であることを示しています。
しかしながら、最先端技術を使いこなすには初期導入コストや運用ノウハウが求められます。自社で独自に開発チームを組成するのが難しければ、外部のサービスやアドバイザーを活用して段階的に導入する方法もあります。たとえばRPAツールによる短期プロジェクトに取り組み、仕訳や支払処理の一部を自動化して効果を実感したうえで、本格的なAI導入を検討することなどが挙げられます。合わせて組織構造や人事の配置を見直し、新しいデジタル技術を積極的に活用できる体制へと移行することも重要です。
最終的に目指したいのは、決算の作業負担を最小限に抑えつつ、企業全体の経営効率を高め、持続的に成長できる仕組みを構築することです。経理課題の解決は時間と労力を要しますが、AIをはじめとする最新テクノロジーは確実にその負荷を軽減する方向へ導いてくれます。これからの時代、経理部門は企業の成長を下支えする重要な存在として、より戦略的な業務に力を注いでいくことが求められます。今まさに、決算・早期化・AIをキーワードに、経理の未来を一新するタイミングが訪れているといえるでしょう。
経理AIエージェントとは?従来の会計ソフトやRPAとの違い

近年注目されている「経理AIエージェント」は、従来の会計ソフトやRPAと異なり、AIが自律的に学習し、経理業務の最適化や自動化を実現する新しいツールです。会計ソフトは主に入力や帳簿作成の自動化、RPAは定型作業の自動化に強みがありますが、AIエージェントは膨大なデータをもとに業務プロセス全体を分析し、最適な処理方法や改善提案まで行うことが特徴です。たとえば、請求書処理や経費精算、契約書管理などの各業務領域で、AIが自動的に仕訳や異常検知、レポート作成を行い、経理担当者の負担を大幅に軽減します。今後は、経理AIエージェントの導入によって、経理業務の効率化や決算早期化、法改正対応のスムーズ化が期待されています。
まとめ
本記事では、AIの活用がもたらす決算早期化と、それに伴う経理業務の変革について多角的に解説しました。
現代の経理部門は、決算早期化への強い要請に加え、依然として残る紙ベースの業務、相次ぐ法改正への対応、さらには人手不足や業務の属人化といった多くの課題に直面しています。これらの複雑な課題を解決する鍵となるのが、AI、RPA、機械学習といったデジタル技術の活用です。
AIを導入することで、請求書の読み取りや仕訳入力といった時間のかかる定型業務を自動化し、担当者の負担を大幅に軽減できます。これにより、人為的ミスを防いでデータ精度を高めるだけでなく、AIが膨大な取引データから不正や異常の兆候を検知し、内部統制を強化することも可能です。さらに、リアルタイム決算やビッグデータ解析が実現すれば、経営陣はより迅速かつ的確な意思決定を下せるようになります。
AIの導入は、必ずしも大規模なシステム開発を必要としません。請求書の自動読み取りツールやクラウド会計サービスといった、日々の業務から始められるスモールスタートも有効です。自社の課題に合わせて段階的にデジタル化を進めることで、経理部門はルーティンワークから解放され、データに基づいた経営提案など、より付加価値の高い戦略的な役割を担う存在へと進化していくことができるでしょう。