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AIエージェントシステムは自社開発とSaaS、どちらを選ぶべきか?

更新日:2026.02.25

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企業のDXがPoC(実証実験)段階を越え、本格的な事業変革フェーズに移行しています。生成AIの活用も、全社的なチャットボット導入から、業務プロセスを自律的に完遂する「AIエージェントシステム」の構築・運用へと主戦場が移りつつあります。

矢野経済研究所調査によると、国内企業における生成AIの導入率は約25.8%に達しています。しかし多くの企業では、従業員の利用率が20%程度に留まっているのが実情です。ライセンスコストに見合うビジネス価値を創出できない「PoC止まり」が深刻な課題となっています。この膠着状態を打破する切り札として注目されているのが、自律的な業務遂行能力を備えたAIエージェントの活用です。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

一方で、既存の技術解説や競合他社の情報発信は、AIエージェントの基礎的な定義やツール群の列挙に終始する傾向があります。情報システム部門(以下、情シス)が実際に直面する「アーキテクチャの選択」に対し、明確な解を提示できていません。AIエージェントを業務プロセスに組み込む際、情シス担当者は2つの選択肢を迫られます。自社開発基盤で独自のエージェントを構築する「Build」か、特定業務に特化したSaaSを導入する「Buy」かです。この判断は、その後のシステムライフサイクル全体を左右します。

本記事では、エンジニアリソースの枯渇、ハルシネーション(誤回答)リスク、経理・財務領域における厳格な精度要件を紐解きます。そのうえで、企業の競争力を最大化するための最適なシステム選定プロセスを解説します。

AIエージェントシステム構築の2つのアプローチ

AIエージェントは、従来システムの定期的なデータ収集やバッチ処理とは異なり、リアルタイムで環境変化を検知します。状況に応じた最適な対応を自律的に実行できる点が特徴です。

具体的には、収集した情報から顧客の感情や緊急度を分析する「環境認識」機能を備えています。加えて、ERPやCRM、会計システムなどと連携し、データ入力から分析・レポート作成までを自動化する機能も持ちます。

このシステムをエンタープライズ環境に実装するにあたり、企業は大きく2つのアプローチから選択する必要があります。

アプローチA:基盤モデル活用(LLM+RAG構築)

第一のアプローチは、Azure OpenAI Serviceなどのエンタープライズ向けAI開発基盤を活用する方法です。自社の要件に合わせて、AIエージェントをスクラッチまたはローコードプラットフォーム上で構築・チューニングします。

この「Build」アプローチの最大の利点は、自由度と拡張性の高さです。自社固有のローカルデータや社外秘ドキュメント、特殊な業界用語をRAG(検索拡張生成)技術でLLMに参照させることで、ニッチな業務フローに完全に適合したエージェントを設計できます。

ただし、このアプローチには表面的なライセンス費用からは見えにくい隠れたコストと、難易度の高い運用リスクが潜んでいます。

課題1:エンジニアリソースの枯渇と有識者依存

高度なAIエージェントを構築し、既存基幹システムとAPIで安全に連携させるには、プログラミングスキルだけでは不十分です。プロンプトエンジニアリング、データパイプライン構築、継続的な精度モニタリングを行うMLOps(Machine Learning Operations)の専門知識が欠かせません。

IT人材不足が深刻化する中、特定の熟練エンジニアに業務や責任が集中する「有識者依存」が生じやすくなります。これがプロジェクト全体のボトルネックとなるリスクは無視できません。AIを活用した開発支援ツールでコード品質の底上げを図る企業も存在しますが、これは「AIの開発・運用のために別のAIツールが必要になる」という技術的負債の連鎖を意味します。

課題2:ハルシネーション(誤回答)の制御コスト

汎用LLMは確率論に基づいてテキストを生成する仕組みのため、もっともらしい誤情報を出力するリスクを常に抱えています。自社開発基盤を選択した場合、誤回答を防ぐためのガードレール設計やプロンプトの微調整が必要です。出力結果の評価ループ、プライバシー・セキュリティに関するガバナンス体制の構築も、すべて自社の情シス部門が担わなければなりません。

セキュリティログの監視や脆弱性対応といった管理負荷も重く、情シス部門がAIの保守作業に忙殺されかねません。コアビジネスの推進から遠ざかる本末転倒な事態に陥るおそれがあります。

アプローチB:業務特化型SaaSの導入

第二のアプローチは、特定の業務領域に対してあらかじめ高度にチューニングされた業務特化型SaaSを導入する方法です。経費精算や請求書管理など、バックオフィス業務には企業規模や業種を問わず共通する標準的なプロセスが多く存在します。これらに特化して最適化されたAIエージェント機能を利用することは、多くの企業にとって合理的かつ迅速な解決策です。

このアプローチの利点は、導入スピードの速さと、ベンダーによる精度・法対応の保証にあります。自社で学習データの収集やモデル学習、テスト環境の構築を行う必要がなく、スモールスタートから段階的に領域を拡大できます。

バックオフィス特化型のAI SaaSでは、すでに注目すべき成果が生まれています。たとえば、カレンダー情報や入退館情報をAIが組み合わせ、社員の移動パターンから通勤費を予測・判定する仕組みがあります。「大阪出張中に東京で会食費が計上されている」といった、人力では見落としがちなデータの矛盾をAIが自動検出し、ガバナンスを強化する事例も登場しています。

入金消し込み業務では、日本語特有の複雑な表記揺れ(漢字・カナ・ひらがな・半角全角の混在)や金額差異を、AIのマッチングアルゴリズムが処理します。従来1万件の処理に約1万6,000時間を要していた工数を、わずか10秒に短縮したケースも報告されています。

これらのアルゴリズム維持、実行速度のモニタリング、電子帳簿保存法やインボイス制度といった法規制への準拠は、SaaSベンダー側が継続的にアップデートします。情シス部門はインフラ保守やモデルチューニングから解放され、SaaSが生み出すクリーンなデータを活用した経営戦略の立案や、全社的なITアーキテクチャの最適化に集中できます。

経理AIエージェント

意思決定マトリクス:自社の状況に合わせた客観的評価

情シスが直面するこの選択において、自社にとって最適なアプローチを客観的に評価するための指標を以下に示します。単なる初期費用の比較ではなく、限られたエンジニアリングリソースをどこに投資すべきかという、中長期的な戦略ポートフォリオ管理の視点に基づいています。

評価項目アプローチA:基盤モデル活用(自社構築)アプローチB:業務特化型SaaS
対象業務の性質自社独自の競争力の源泉となる特殊な事業プロセス経理・人事など標準化可能なバックオフィス領域
導入リードタイム長期(数ヶ月〜年単位)。PoC、データ整形、RAG設計が必須短期(数週間〜)。アカウント発行と初期設定で稼働可能
初期・開発コスト高い(AIエンジニア・インフラエンジニアの内部工数+外部委託費)低〜中(初期導入費用とAPI連携の設定工数のみ)
運用・保守の主体自社情シス部門(プロンプト調整、ハルシネーション対策、監視)SaaSベンダー(法改正対応、AIアップデート、インフラ保守を包含)
精度保証と責任所在ベストエフォート(自社でテスト・精度向上を継続的に担保)SLAに基づく高水準な精度保証(ベンダーが精度を担保)
カスタマイズ自由度高い(レガシーシステムや特殊要件に柔軟に適合可能)制限あり(SaaS機能の範囲内でのパラメータ設定やAPI連携)
データサイロ化の解消自社でデータ統合基盤(データレイク等)を構築・維持する必要あり複数システム間のデータをSaaS内で関連付け、分析まで自動化可能

このマトリクスから読み取れる重要な示唆があります。すべての業務にAIエージェントを自社開発で一律に適用しようとするアプローチは、組織のスケールを阻害し、技術的負債を増大させるということです。

IT部門のエンジニアリソースは、工場現場の課題を解決する独自AI開発や、バリューチェーン全体を変革するような、直接的な売上や競争優位性に寄与するコア領域に集中投資すべきです。一方、経費精算や請求書処理のように正確性は極めて高く求められるものの、それ自体が差別化要因にはなりにくいバックオフィス業務は、SaaSによる「Buy」戦略が合理的です。外部ベンダーの技術力とスケールメリットを最大限に活用できます。

経理システムにおけるAI活用のリスクと対策

バックオフィス業務の中でも、経理・財務・支払領域におけるAIエージェントの適用には、他領域とは異なる厳格なリスク管理と精度保証が求められます。汎用LLMの能力に対する過信は、経営リスクやコンプライアンス違反を招く可能性があります。

汎用LLMが抱える精度の壁と財務リスク

文章の要約やコード生成、営業メールのドラフト作成であれば、AIの出力精度が80〜90%でも十分な効率化効果を得られます。人間が手直しすることを前提とした運用が可能だからです。

しかし、金銭の支払いや税務申告に直結する経理業務は、妥協が許されない領域です。請求書の支払額が1円でも異なれば、取引先との信頼関係に影響します。消費税区分の誤判定やインボイス登録番号の照合漏れは、税務調査におけるペナルティ(追徴課税等)の原因となります。

確率論的にテキストを生成する汎用LLMをそのまま経理システムに組み込んだ場合、99.9%の精度を安定的に維持することは現在の技術制約上、困難です。仮に最新モデルで95%の精度が出たとしても、残り5%のエラー(かすれた文字の誤認識、手書き文字の読み違い、特殊フォーマットの明細項目の取り違えなど)を検知するために、担当者が全データを原本と突き合わせて目視確認しなければなりません。

これが「スピードと精度のジレンマ」です。精度を追求すれば膨大な確認作業でスピードが低下し、スピードを優先してAIの出力をそのまま採用すれば、財務データの精度が崩壊します。このジレンマを解消しない限り、AIの導入は「作業の種類が入力から確認に変わっただけ」にすぎず、労働時間の本質的な削減にはつながりません。

ヒューマン・イン・ザ・ループによる精度保証の設計思想

AI単独では越えられない精度の壁と、スピードと精度のジレンマに対する現時点で最も実用的な解決策が、AIと人間のオペレーションを統合した「ヒューマン・イン・ザ・ループ」(人が介在する仕組み)です。

TOKIUMは、このヒューマン・イン・ザ・ループをアーキテクチャの根幹に据えています。AI技術(OCRや自然言語処理)による高速な一次処理と、専門オペレーターによる厳密なクロスチェックを、システム内部のプロセスとして統合しています。AIの処理速度・網羅性と、人間の文脈理解・例外処理能力を融合させることで、精度99%超のデータ化を実現しています。

情シス担当者が注目すべきポイントは、裏側で人間が動いていること自体ではありません。利用企業の経理担当者から「AIの出力結果を検証・修正する」という負荷を完全に取り除いている点です。自社開発のAIエージェントでは、最終的な品質保証の責任は自社の従業員に帰属します。対して、TOKIUMのようなSaaSを利用する場合、システムから出力された確定データを信頼できるマスターデータとして扱えます。そのまま承認・支払いフローやERPへの連携に進めることが可能です。

その結果、経理担当者は入力や確認に費やしていた時間を大幅に削減できます。データに基づく意思決定や予実分析、コスト削減戦略の立案など、より付加価値の高い業務にリソースを集中できるようになります。

以下の記事では、承認フローを自動化するAIエージェントシステムの仕組みについて詳しく解説していますので参考にしてください。

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組織変革を牽引するIT部門の新たな役割

AIエージェントシステムの導入戦略は、経理部門の業務効率化にとどまりません。企業全体のDXを牽引する情シス部門自体の組織改革とも深く連動しています。生成AIの波が押し寄せる中、情シス部門は既存システムの運用・保守を担うコストセンター」から脱却する必要があります。

生成AI活用の戦略的推進者」かつ「ガバナンスとリスク管理の設計者」という新たな役割を担うべきです。現場への知見不足によるPoC止まりや、部門ごとの個別導入によるデータサイロ化を防ぐため、AI・データサイエンスのリテラシーに加え、全社的な業務プロセス再設計力が求められます。この変革においてIT部門が担うべき具体的なミッションは以下のとおりです。

データ・インフラ・技術基盤の統合整備

SaaSから得られた高精度なバックオフィスデータを、自社のデータレイクやBIツールとシームレスに連携させる基盤を構築します。直感や経験に頼らない、客観的なデータに基づく意思決定を組織全体に浸透させることが目的です。

小規模パイロットからのスケーリングとガバナンス構築

明確な「小さな課題」からAI活用を始め、成果を確認しながら横展開を進めます。同時に、AI CoE(Center of Excellence)などの専任組織を設置し、AI活用の倫理基準や利用ルールを整備します。

なお、「どの業務から任せるか」が固まったら、次は“ツール/仕組み側で何を担保すべきか”を確認しましょう。対象業務の切り分けと、任せやすい領域の見極めは以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

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AI導入に伴う従業員エンゲージメントへのフォロー

AIの全社的な導入が進むと、「自分の業務がAIに奪われるのではないか」という不安から、従業員のエンゲージメントが低下するリスクがあります。情シスは人事部門と連携し、企業の価値判断基準が生産性だけではないことを周知する取り組みが重要です。具体的には、AIに代替されない判断・創造・共感といった人間固有の役割を再定義し、AIリテラシーとヒューマンスキルを併せて育成する文化の醸成が求められます。

AIを活用した社内コミュニケーションの高度化

従業員の不安解消や経営ビジョンの浸透に、AIアバターを活用するケースも出てきています。経営層のAIアバターがメッセージを配信し、社員のアンケート結果に基づいてAIが返答を生成する仕組みにより、経営陣との意思疎通を強化する取り組みです。情シスが主導できる新たなエンゲージメント施策の一つといえます。

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まとめ:コア領域を見極めたAIエージェント戦略の確立

AIエージェントは、環境変化を即座に検知し、状況に応じた対応を自律的に実行することで、企業の競争力強化を支える技術です。しかし「最新技術だから」という理由だけで自社開発に固執すると、エンジニアリソースの枯渇や保守運用の肥大化、ハルシネーションによるコンプライアンスリスクを招きかねません。AIが業務の意思決定や顧客接点に自然に溶け込む企業を目指すうえで、情シスに求められるのは、自社で開発・統制すべきコア領域と、SaaSに委ねるべきノンコア領域を冷徹に見極める視点です。

特に99.9%の正確性が求められる経理・財務領域では、汎用LLMの自社開発だけでは、確認作業という本質的な労働負荷を取り除けません。ここで求められるのは、最新AI技術とヒューマン・イン・ザ・ループを融合させ、入力・確認作業の大幅削減と99%超の精度保証をSLAとして提供する特化型SaaSの戦略的導入です。

ベンダーに法対応や精度保証を委譲することで、情シス部門は保守運用から解放されます。浮いたリソースを、AIと人間の協働による価値創出プロセスの設計や、従業員エンゲージメントの向上といった全社的なDX戦略の推進に振り向けられます。リスクと投資対効果を見据えた的確な「Build vs Buy」の判断こそが、AI時代における情シス部門の最大のミッションです。

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