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2025年に成立・公布された改正下請法は、2026年1月1日に施行され、法律名も「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法)」へ変わります。価格交渉に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払いの禁止、運送委託の対象追加、適用基準の見直しなど、経理・購買が直ちに見直すべき点が増えました。
→ダウンロード:請求書支払業務を取り巻く内部統制の課題と4つの解決策
本記事では、施行までに必要な社内の契約・支払・証跡の整備と、価格交渉の運用改善を、経理初心者にもわかりやすく解説します。
改正下請法の全体像とスケジュール
改正法は2025年5月16日に成立し、5月23日に公布、2026年1月1日に施行されます。従来の「下請代金支払遅延等防止法」は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法)」に名称が変わり、価格の一方的決定の禁止や手形払いの禁止など、実務の見直し点が増えました。経理は施行日から逆算し、契約・発注・支払の手順と証跡を準備することが重要です。まず自社が対象となるか、適用基準の確認から始めましょう。
参考:(令和7年5月16日)「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について | 公正取引委員会
改正の背景
近年は原材料や人件費の上昇が続き、下請け側のコスト増を価格に反映できるかが大きな課題になりました。政府は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」とし、交渉の実施状況や価格転嫁の進捗を継続的に把握しています。2025年のフォローアップでは、交渉の実施割合や一部でも価格を転嫁できた企業の割合が上昇傾向にある一方、十分な水準には届いていない現状が示されました。こうした実情を受け、価格の決め方や支払条件の是正を法令面から後押しする必要が高まり、今回の改正に至っています。
参考:価格交渉促進月間(2025年3月)フォローアップ調査の結果を公表します (METI/経済産業省)
名称変更の意味と実務への影響
新しい名称は、製造や役務の委託を受ける「中小受託事業者」との取引全体を適正化する狙いを分かりやすく示すものです。名称が変わるだけでなく、中身も強化されています。例えば、価格を一方的に決める行為の禁止が明確化され、支払手段としての手形を認めないことになりました。経理・購買は、契約書や稟議書の文言、支払サイト、検収から支払までの手順、そして交渉記録の残し方まで、名称変更に合わせて実務を更新する必要があります。
参考:下請取引適正化、価格交渉・価格転嫁、官公需対策 | 中小企業庁
対象判定の簡易診断シナリオ
自社と主要取引先の従業員数区分と取引の種類(製造・役務・情報成果物・運送委託)を先に確認します。次に、直近12か月の契約類型と金額帯を洗い出し、対象に該当する取引を暫定特定します。ここで重要なのは、“現行の契約書の言い回し”に引きずられないことです。
名称が作業実態とずれているケースは珍しくありません。迷う場合は、一次情報に沿って実態(何を、どの範囲で、どの責任で請けているか)で判定し、社内の相談ルートに記録付きで問い合わせましょう。これにより、後の説明責任と是正対応がスムーズになります。
3分でわかる対象判定表(簡易診断シナリオ)
確認ステップ | 見るポイント | 判断のめやす | 記録の残し方 |
---|---|---|---|
1. 取引先の把握 | 自社/相手先の従業員数区分、直近12か月の契約類型・金額 | 最新の従業員数で区分を再判定 | 取引先台帳・人員情報の写しを保存 |
2. 取引の実態 | 製造・役務・情報成果物・運送委託のいずれか | 契約書名ではなく実態で類型を判定 | 仕様書/見積/作業範囲メモを添付 |
3. 金額帯 | 対象金額の範囲に入るか | 対象なら運用フローを新ルールへ | 判定表と根拠資料のリンクを残す |
4. 相談ルート | 迷う場合の社内相談先 | 上長/法務へ記録付きで照会 | 問合せ票・回答履歴を保存 |
改正下請法の改正ポイントを5つご紹介
改正点は「経理が実際に何を直すか」に落とし込むと理解が進みます。価格の決め方を話し合いの上で決めること、手形払いを使わないこと、物流を委託する取引も対象に含めること、従業員数による新たな判定基準、そして横断的な執行強化などです。これらは社内規程、契約条項、稟議テンプレート、支払条件、記録の残し方に直結します。
参考:(令和7年5月16日)「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について | 公正取引委員会
価格協議を避ける一方的決定の禁止
改正では、価格に関するやり取りを避けたまま発注側が一方的に金額を決めることが明確に禁じられました。社内では、見積依頼から合意形成、発注書の発行に至るまでの各段階に「やり取りの記録」と「説明欄」を用意し、決裁時に確認できるようにします。具体的には、相手先からのコスト説明や自社の支払根拠(材料費・人件費・物流費の変化など)を添付し、価格据え置きや減額の判断に理由を残すことが欠かせません。
手形払いの禁止と代替手段
施行後は手形払いが認められず、電子記録債権やファクタリングであっても、支払期日までに代金相当額を事実上受け取れない仕組みは使えません。経理は「現金受領までの期間が実質的に長くならないか」を軸に見直し、締めから支払日までの期間を明確に短縮します。支払通知のタイミング、口座情報の管理、消込の運用も合わせて更新し、相手先の資金繰りに過度な負担をかけない条件へ切り替えます。
手形禁止→支払サイト短縮の設計例
項目 | 現状 | 見直し案 | 運用メモ |
---|---|---|---|
支払手段 | 手形/電子記録債権 | 銀行振込(原則) | 実質受領時点が遅れない方式を採用 |
締めと検収 | 検収後に月末締め | 検収日=締め日で即確定 | 検収データの当日確定を徹底 |
支払サイト | 翌々月○日(60日) | 翌月○日→月内振込へ短縮 | 資金繰り表と支払予定表の粒度統一 |
通知/消込 | 都度メール通知 | 自動通知+自動消込 | 例外処理の承認ルートを明記 |
施行後は手形が使えないため、支払条件は現金が相手に届くまでの期間で設計し直します。たとえば、検収日=締め日に合わせて請求確定を前倒しし、翌月○日振込を月内振込へ切り替えるだけで、相手側の資金繰りは大きく改善します。経理の事務負荷は、検収データの当日確定と支払通知の自動化で吸収できます。ここで重要なのは、社内の資金繰り表と支払予定表を同じ粒度にそろえ、“例外手続き”の承認ルートを先に決めておくことです。
以下の記事では、支払期限と支払サイトの考え方について詳しく解説しているので参考にしてください。
「運送委託」の追加:物流委託の契約・検収の要点
改正により、製品や資材の引渡しに必要な運送の委託も対象に入りました。物流会社への委託契約には、運賃の見直し条件、待機時間や付帯作業の扱い、遅延・破損時の責任分担など、金額とサービス内容の関係をはっきり書き込みます。検収では、受領時刻や状態を記録し、追加費用の発生根拠を残せるようにすると、後の精算が滑らかになります。
表:運送委託の契約・検収の要点
領域 | 契約で明文化する点 | 検収で残す記録 |
---|---|---|
待機/受付 | 受付時間、待機の扱い、追加単価 | 到着・受付・出発の時刻 |
付帯作業 | 積み下ろし等の定義、単価 | 作業内容と所要時間 |
品質/破損 | 責任分担、連絡手順 | 受領状態、破損写真/報告 |
遅延対応 | 遅延時の費用・連絡先 | 遅延要因と発生日の記録 |
物流は運賃だけで成立しません。荷待ち、積み下ろし、付帯作業の扱いが“実質価格”を左右します。契約では、①発着の受付時間と待機の扱い、②付帯作業の定義と単価、③遅延・破損時の責任と連絡手順を明文化します。検収時は受領時刻・状態の記録を必ず残し、追加費用の根拠を示せる状態にします。これにより、後日の争点が「言った/言わない」から“記録に基づく調整”へと変わり、支払の遅延や紛争を避けやすくなります。
適用基準(従業員数区分)の見直しと対象判定の再チェック
新たに従業員数による区分が追加され、対象・非対象の線引きが広がりました。まず自社と相手先の区分を一覧化し、対象となる取引類型と金額の範囲を再確認します。社内のマスタ情報や取引先台帳を更新し、契約類型や金額の変更時に自動で再判定できるよう仕組み化しておくと、運用の漏れが減ります。
面的執行を強化する監督当局対応の基本姿勢
改正では、関係行政機関が連携して横断的に是正を促す仕組みが強化されました。問い合わせや調査への対応は、担当部署を決め、過去のやり取りや社内規程、契約条項の改定履歴をすぐ提示できるように整えておくと安心です。ポイントは、平時から記録を残し、説明責任を果たせる状態を保つことです。
改正下請法で変わる価格交渉の“運用”とは?
交渉は「準備」「やり取り」「反映」の3つに分けると、現場が動きやすくなります。準備では原価や人件費の根拠を整理し、交渉では経緯を記録し、合意後は契約・発注・請求・仕訳へ速やかに落とし込みます。中小企業庁の「価格交渉促進月間」や振興基準の改正も参考に、社内テンプレを整えて流れを標準化しましょう。
参考:価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果 | 中小企業庁
交渉前:原価・人件費の見える化と社内合意
最初に、原材料や外注費、物流費、人件費がどの程度変化しているかを社内で共有し、どこまで価格に反映させるのかの方針を決めます。相手先に提示する説明資料は、最新のコスト推移と数量・仕様の前提を付したうえで、増額または据え置きの理由を分かりやすく書きます。こうした事前準備が十分であれば、交渉は感情論に流れにくく、短時間で結論に近づけます。
価格交渉の“根拠づくり”
交渉資料は、①コストの変化(材料・人件費・物流)を前回改定時点からの差分で示し、②数量・仕様の前提を明確にし、③価格の提案幅を理由とともに提示する、の三層で構成します。本文には「前提」「差分」「提案」「双方のメリット」「懸念と対応策」をそれぞれ3~5文で記載し、図表よりも文章のわかりやすさを優先します。中小企業庁の価格交渉促進月間の考え方に沿い、“一方的に決めない”プロセス自体を証跡化することがポイントです。
以下に交渉資料の本文サンプルと根拠づくりのテンプレを掲載しますので、参考にしてください。
本文サンプル(抜粋)
「今回の提案は、前回単価決定時(2024年10月)からの原材料Aの+12%、人件費の+4%、輸送費の+6%の変動を根拠としています。仕様・数量は現行前提を維持し、単価○○円→○○円への改定をお願いしたく存じます。御社における月次コストの見通しに与える影響は+△%と試算しており、同時に検収の簡素化と支払サイトの短縮で相殺できる案も準備しています。懸念される在庫負担は発注ロットの分割で緩和が可能です。ご検討のうえ、意見交換の場をご用意いただけますと幸いです。」
価格交渉の「根拠づくり」テンプレ
章立て | 書く内容 | チェック観点 |
---|---|---|
前提 | 前回改定時点、数量・仕様、取引条件 | 比較基準日を特定 |
差分 | 材料・人件費・物流費の変化(%/金額) | 公的/社内データの根拠明記 |
提案 | 単価改定幅、適用開始日、対象範囲 | 相手先の月次影響も試算 |
双方メリット | 検収簡素化、支払サイト短縮 等 | 実務負荷と費用の相殺 |
懸念と対応 | 在庫/キャッシュ等の懸念と緩和策 | 代替案を1つ以上提示 |
交渉中:合意形成の経緯をメール・議事メモで残す
会議やメールでのやり取りは、日時・参加者・論点・結論を簡潔に記録します。相手先の懸念事項や社内の検討観点が分かるメモを残しておくと、後から金額や条件を見直す際の根拠になります。価格を一方的に決めないという改正の趣旨に沿って、双方の説明と納得のプロセスを示せる記録が大切です。
交渉記録メモの書き方
項目 | 記載内容 | 例 |
---|---|---|
基本情報 | 日時/参加者/議題 | 2025/10/05 10:00-10:45 価格協議 第2回 |
相手の主張 | 懸念/条件/根拠 | 在庫増の懸念、月次キャッシュ圧迫 |
当社提案 | 改定幅/開始日/対象/根拠 | 単価+5%、2026/1/1、全ロット、コスト+8% |
合意/保留 | 合意点、保留点と必要資料 | 合意:開始日/対象、保留:幅→原価内訳 |
次回まで | 準備物/担当/期限 | 原価明細(購買)10/12まで |
「日時/出席者/議題/相手先の主張/当社の提案/合意点/保留点/次回までの準備物」を1ページで完結。合意点は金額・適用開始日・対象範囲を具体化し、保留点は論点名+必要資料で示します。メール件名は「価格協議第○回_合意事項あり/なし」で統一し、決裁文書にリンク(文書ID)を貼ると、面的執行の問い合わせにも即応できます。
交渉後:価格改定の反映
合意内容は、契約条項や発注書にすぐ反映します。請求書の単価や割増・割引の扱い、検収日と計上日の対応関係を確認し、仕訳パターンも更新します。支払サイトの短縮や手形廃止に伴い、支払予定表や資金繰り表の作成方法も見直してください。ここでの反映作業が遅れると、せっかくの交渉結果が実務に反映されないまま月次が締まってしまいます。
以下の記事では、『証憑書類』の保存期間と電子化ルールについて詳しく解説しているので参考にしてください。
改正下請法における実務対応のポイント
実務を動かすには、手順書・相談窓口・証跡の3点を整えるのが近道です。契約条項は支払条件と価格協議の文言を中心に更新し、稟議テンプレは「説明欄」と「根拠資料」を充実させます。支払は検収と連動させ、締め日と支払日の整合性を保ちます。
支払条件・価格協議条項などの契約条項更新ポイント
施行後は手形払いが使えません。契約では、支払方法を銀行振込等に限定し、締めから支払日までの期間を明記します。価格が変わる条件は、原材料や人件費、物流費の変化を例示し、協議の手順と記録の方法も条項で定めると運用が安定します。既存契約は更新時期を一覧にして、順番に改定していくと漏れを防げます。
例:価格協議条項(抜粋)
「原材料費、人件費、物流費その他のコストに相当の変動が生じた場合、甲乙は協議のうえ受託対価の改定可否及び内容を決定する。協議の過程・根拠は書面又は電磁的記録で保存する。」
例:支払条件条項(抜粋)
「支払は銀行振込とし、検収完了日をもって金額を確定する。支払期日は検収月の翌月○日とするが、相手方の資金受領が実質的に遅延しないよう、期日を調整し得る。手形による支払は行わない。」
上記は一般的例です。最終案は顧問弁護士の確認を前提にしてください。官公庁による一次情報の主旨に照らし、一方的決定の回避と証跡保存を明文化したもです。
稟議・決裁テンプレの改定
稟議書には、金額の根拠や相手先との交渉経緯を書き込む欄を設け、見積、仕様書、交渉メモなどの添付を必須にします。決裁者は、その情報を見れば判断理由が分かる状態が理想です。これにより、後から説明を求められても、社内で一貫した記録を提示できます。
検収と支払の連動:締め日・支払サイトの整合
検収日、締め日、支払日の関係を整理し、どの時点の情報をもって支払金額が確定するのかを明確にします。支払サイトは「実際に相手先が現金を受け取れるまでの期間」を基準に短く設計し、月次の支払予定表や資金繰りの見通しと矛盾しないようにします。物流委託を含む取引では、受領時刻や状態の記録を残しておくと、後の調整が迅速になります。
改正下請法施行までの対応スケジュール
施行日(2026/1/1)から逆算して段階的に整えます。まず対象判定と契約棚卸で現状を把握し、次に条項改定と小規模な“お試し運用”で手順の確かさを確認します。最後に教育・周知を行い、本番運用へ移行します。
施行までの四半期逆算「やること表」
期 | 主要タスク | 成果物 | 注意点 |
---|---|---|---|
Q4/2025 | 対象判定、契約棚卸、差分抽出 | 対象一覧、改定優先リスト | 従業員区分・取引類型は最新情報で |
Q1/2026 | 改定条項の本番適用、初回運用確認 | 運用チェック表、修正指示 | 検収と支払の連動、証跡の整合 |
Q2/2026 | 実績レビュー、支払サイト再調整 | 見直し計画、テンプレ改定 | 小規模試行(小さく試して確かめる)を継続 |
Q4/2025は対象判定・契約棚卸と差分表の確定、Q1/2026は改定条項の本番適用と初回決算への反映、Q2/2026は実績レビューと支払サイトの再調整。各四半期で“小さく試して確かめる(PoC)”対象を1~2取引に絞り、成功パターンを横展開します。
参考:2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について | 中小企業庁
Q4/2025:対象判定と契約棚卸・差分抽出
自社と主要取引先の従業員数区分や取引類型を確認し、対象となる取引を一覧化します。あわせて契約更新の時期を洗い出し、支払条件や価格協議条項の不足点を把握します。差分が分かれば、どの契約から順に改定するかの優先順位がつけやすくなります。
Q1/2026:改定条項の本番適用・初回の運用確認
施行日以降は改定後の条項で運用します。初回の締め・支払のサイクルで、検収と支払の連動や記録手順に滞りがないかを点検し、問題があればテンプレや手順書をすぐ手直しします。結果を月次会議で共有し、次の支払サイクルに反映させると定着が早まります。
教育・周知:購買・経理・現場への説明会の要点
改正の趣旨、社内手順の変化、記録の残し方、問い合わせの流れを、部門ごとの役割に合わせて説明します。現場が迷いやすいのは、価格の説明資料の作り方と、支払サイトの考え方です。実例ベースのQ&Aや、良い記録の書き方サンプルを配ると理解が進みます。
改正下請法でよくある疑問とトラブル回避
「うちは対象なのか」「この支払方法は使えるのか」など、現場の疑問は似通っています。まず従業員数区分と取引の種類で対象判定を行い、支払は相手先が実際に現金を受け取れるタイミングを基準に設計します。判断が難しい場合は、社内の相談ルートと記録の残し方を先に決めておくと、再発防止につながります。
参考:(令和7年5月16日)「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について | 公正取引委員会
適用対象の判定に迷ったら:従業員数区分と取引類型
新しい区分では、従業員数のしきい値が加わり、対象が広がる場面があります。相手先の最新情報を確認し、取引が製造委託、役務提供、運送委託のどれに当たるかを整理します。対象外だと思い込んで旧運用を続けると、価格の決め方や支払条件で不適合が生じる恐れがあります。迷うときは、社内で決めた相談窓口に記録付きで問い合わせ、判断の根拠を残しましょう。
支払手段の可否:手形禁止と“実質即受領”の考え方
施行後は手形が使えません。電子記録債権やファクタリングも、相手先が支払期日までに代金相当額を受け取れない仕組みであれば不可です。口座振込を基本とし、締めから支払日までの期間を短くはっきり示すとともに、支払通知や消込の運用を整えます。判断に迷う支払スキームは、資金受領の時期が実質的に遅れないかで見極めましょう。
名目は電子記録債権やファクタリングでも、期日までに相手が代金相当額を実質受け取れない仕組みはNGの可能性があります。判断の軸は、受領時点が遅延していないか、コスト転嫁が実質阻害されていないか。不明点は、一次情報に照らして社内相談ルートで記録付き判断にします。
価格交渉が進まないときの社内対応
交渉が停滞したら、まず社内で追加の根拠資料を作り、相手先が知りたい点に合わせて説明の切り口を変えます。そのうえで、上長や法務に相談・引き継ぐ流れを踏み、再提示の計画を立てます。再提示の内容と反応は記録し、次の交渉や監督当局からの問い合わせにも説明できるように備えます。
表:「グレーな支払スキーム」の見分け方
観点 | NGリスクのサイン | 確認方法 | 対処 |
---|---|---|---|
受領時点 | 期日までに実質受領できない | 入金時点と金額の確定性 | 銀行振込へ切替、サイト短縮 |
コスト転嫁 | 価格転嫁を阻害する条件が付随 | 交渉記録と契約条項の整合 | 条項修正、協議プロセス明文化 |
例外処理 | 例外が常態化している | 例外発生率と承認ルート | テンプレ整備、承認の一元化 |
まとめ
改正下請法(取適法)は、価格を一方的に決めないこと、支払条件を実務的に適正化すること、交渉の経緯を記録で残すことを企業に求めます。経理が担うべき核心は、①対象判定、②契約・稟議・支払条件の更新、③価格交渉の記録運用、の3点です。施行(2026年1月1日)から逆算し、四半期ごとに小さく試しながら(“PoC”=小規模検証)、社内の流れを整えてください。現場で迷わない相談ルートとテンプレを先に用意すれば、監督当局の動きにも落ち着いて対応できます。