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フリーランス保護新法と下請法の違いとは?企業の対応策を網羅解説

更新日:2025.10.14

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フリーランス保護新法_下請法

近年、働き方の多様化に伴い、フリーランスとして活躍する人材が増加しています。多くの企業にとって、高い専門性を持つフリーランスは事業成長に欠かせないパートナーとなっています。一方で、2024年秋頃の施行が予定されている「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス保護新法」について、「従来からある下請法と何が違うのか?」「自社の取引にどう影響するのか?」といった疑問や不安をお持ちの法務・経理・事業部門のご担当者様も多いのではないでしょうか。

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特に、日常的にフリーランスや下請け企業へ業務委託を行っている企業では、気づかぬうちに法令違反となってしまうリスクは避けたいものです。この法改正は、単に対応すべき義務が増えるというだけでなく、フリーランスとの良好な関係を築き、継続的に協業していくための基盤を整える絶好の機会でもあります。

この記事では、フリーランス保護新法と下請法の違いを具体的な比較を交えながら分かりやすく解説し、企業が今すぐ取り組むべき対応策までを網羅的にご紹介します。最後までお読みいただくことで、両者の違いが明確になり、安心して発注業務を進めるための具体的なアクションプランを描けるようになるはずです。

フリーランス保護新法とは?~新しい働き方を支えるルール~

まずは、新たに制定されるフリーランス保護新法がどのような法律なのか、その目的や対象範囲といった基本的な内容から確認していきましょう。この法律の本質を理解することが、下請法との違いを把握する第一歩となります。

なぜ制定されたのか?その目的を解説

フリーランス保護新法が制定された背景には、フリーランスという働き方が社会に浸透する一方で、発注者との間でトラブルが発生しやすいという課題がありました。例えば、契約内容が不明確なまま業務が開始されたり、報酬が一方的に減額されたり、支払いが遅延したりといったケースです。

このような状況からフリーランスを保護し、安心して能力を発揮できる環境を整備することが、この法律の最大の目的です。発注者とフリーランス間の取引を適正化・安定化させることで、双方にとってメリットのある、健全なパートナーシップの構築を目指しています。企業にとっては、コンプライアンス体制を強化し、優秀な人材と長期的な信頼関係を築くための重要な指針となります。

誰が対象?「特定受託事業者」と「特定業務委託事業者」

フリーランス保護新法では、法律の対象となる当事者を特有の言葉で定義しています。まず、業務を受ける側であるフリーランスは「特定受託事業者」と呼ばれます。これは、従業員を使用しない個人事業主や、代表者1人だけの法人(一人社長)が該当します。ポイントは「従業員がいない」という点です。

一方、業務を委託する発注者側は「特定業務委託事業者」と呼ばれます。こちらは、従業員を使用する法人や個人事業主が該当します。つまり、従業員を雇用している企業が、従業員のいないフリーランスに業務を委託する場合に、この法律が適用される、と理解すると分かりやすいでしょう。下請法とは異なり、企業の資本金規模は問われないのが大きな特徴です。

発注者(企業側)に課される主な義務

フリーランス保護新法では、発注者である企業に対して、主に4つの義務を課しています。

第一に、給付内容等の明示義務です。業務を委託する際には、業務内容、報酬額、支払期日といった取引条件を、書面または電磁的な方法(メールなど)で速やかに明示しなければなりません。これにより「言った、言わない」といったトラブルを防ぎます。

第二に、報酬の60日以内支払い義務です。フリーランスから成果物を受け取った日(役務提供の場合は役務提供日)から起算して60日以内、かつ、できる限り速やかに報酬を支払う必要があります。

第三に、募集情報の的確表示義務です。フリーランスを募集する際に、虚偽の情報を表示したり、誤解を招くような表現をしたりしてはなりません。

第四に、育児介護等への配慮義務やハラスメント対策など、フリーランスが安定して業務を行える環境を整備するための努力も求められます。

参考:中小企業庁 フリーランスの取引に関する新しい法律

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従来からある下請法とは?~事業者間の取引を守るルール~

次に、以前から多くの企業で馴染みのある「下請代金支払遅延等防止法」、通称「下請法」についておさらいしましょう。この法律は、事業者間の力関係の差から生じる不公正な取引を防ぐための重要なルールです。

下請法の目的と役割

下請法の目的は、発注者である「親事業者」の優越的な地位の濫用を防ぎ、受注者である「下請事業者」の利益を保護することにあります。親事業者が下請事業者に対して、不当に低い代金を設定したり、支払いを遅らせたり、不必要な物品の購入を強制したりといった行為を取り締まることで、中小企業の経営安定化と、公正な取引秩序の維持を図っています。長年にわたり、日本の企業間取引における基本的なルールとして機能してきました。

対象となる取引の条件とは?資本金要件をチェック

下請法が適用されるかどうかは、取引の内容と、当事者双方の「資本金規模」によって決まります。この資本金要件が、フリーランス保護新法との最も大きな違いと言えるでしょう。

具体的には、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4種類の取引が対象です。そして、例えば「情報成果物作成委託(プログラム作成など)」の場合、資本金3億円超の親事業者が、資本金3億円以下の下請事業者(個人事業主を含む)に委託する場合などに適用されます。このように、親事業者と下請事業者の間に一定以上の資本金の差があることが、適用対象となるための重要な条件です。

発注者(親事業者)の4つの義務と11の禁止事項

下請法では、親事業者に対して大きく分けて4つの義務を課しています。具体的には、発注内容を明確に記載した書面(通称「3条書面」)を交付する義務、支払期日を定める義務、取引記録を作成・保存する義務、そして支払遅延した場合に遅延利息を支払う義務です。

さらに、下請事業者を守るために11項目の禁止事項が定められています。代表的なものとして、受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しなどが挙げられます。これらの行為は、親事業者の都合で下請事業者に不利益を押し付けるものであり、厳しく禁じられています。

参考:公正取引委員会 ポイント解説 下請

【徹底比較】フリーランス保護新法と下請法の違い

ここまで両方の法律の概要を見てきました。ここからは、法務・コンプライアンス担当者や事業部長が最も知りたいであろう、両者の具体的な違いを項目ごとに比較し、そのポイントを詳しく解説していきます。この違いを正確に理解することが、適切なリスク管理と実務対応の第一歩となります。

保護の目的:「フリーランス個人の保護」と「下請事業者の保護」

まず根本的な目的が異なります。フリーランス保護新法は、労働者に近い形で働きながらも労働法で保護されない「個人」であるフリーランスを直接の保護対象とし、その就業環境を整備することを主眼に置いています。育児介護への配慮やハラスメント対策に関する規定があるのは、そのためです。

一方、下請法はあくまで「事業者」間の取引の公正化を目指す法律です。保護対象は中小企業を中心とした下請「事業者」であり、個人の働き方そのものに踏み込むというよりは、企業間の力関係の差によって生じる不利益を是正することに重きを置いています。

適用対象の違い:資本金要件の有無が大きなポイント

実務上、最も重要な違いがこの適用対象です。前述の通り、下請法が適用されるには、発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)の双方に「資本金要件」があります。そのため、発注元の資本金が小さければ、たとえフリーランスに業務を委託しても下請法の対象にはなりません。

それに対して、フリーランス保護新法には資本金要件が一切ありません。発注者側が「従業員を使用」しており、受注者側が「従業員を使用しない」フリーランスであれば、発注者の規模に関わらず適用されます。これにより、これまで下請法の対象外だったスタートアップや中小企業からフリーランスへの発注も、新たに規制の対象となるケースが大幅に増えることになります。

発注者の義務の違い:書面交付の内容とタイミング

取引条件の明示義務は両方の法律に共通していますが、その内容やタイミングに違いがあります。下請法では、発注時に直ちに3条書面を交付することが義務付けられています。

一方、フリーランス保護新法では、委託後「遅滞なく」明示すればよいとされていますが、トラブル防止の観点からは、やはり発注と同時に書面で交付することが望ましいでしょう。また、明示すべき事項として、フリーランス保護新法では「業務に従事する場所・時間に関する定め」や「契約の解除事由」なども含まれており、よりフリーランスの働き方に配慮した内容となっています。

禁止事項の違い:より広範な保護へ

禁止事項についても、重なる部分は多いものの、フリーランス保護新法ならではの規定があります。例えば、発注者側の都合で一方的に業務内容を変更したり、受領を拒否したりすることを禁じる「特定受託事業者の責に帰すべき事由がない一方的な変更・受領拒否の禁止」や、指定した期日までに報酬を支払わない「報酬の支払遅延」などが明確に禁止されています。

また、フリーランスの能力向上に繋がるような機会の提供に関する情報提供など、よりポジティブな関係構築を促す努力義務が課されている点も特徴的です。

比較まとめ表

これまでの違いを一覧表にまとめました。自社の取引がどちらに該当するのか、この表を見ながら確認してみてください。

項目フリーランス保護新法下請法(下請代金支払遅延等防止法)
目的フリーランス(個人)の取引適正化、就業環境の整備下請事業者(主に中小企業)の利益保護、取引の公正化
発注者(委託側)従業員を使用する事業者(資本金要件なし)親事業者(資本金要件あり)
受注者(受託側)従業員を使用しない個人事業主、一人法人下請事業者(資本金要件あり、個人事業主も含む)
主な義務取引条件の明示、60日以内の報酬支払い、募集情報の的確表示、育児介護等への配慮など3条書面の交付、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、遅延利息の支払義務
主な禁止事項受領拒否、報酬の減額・支払遅延、一方的な内容変更、不当な経済上の利益提供要請など11項目の禁止事項(受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたきなど)
罰則公正取引委員会等による助言・指導、勧告、命令。命令違反には50万円以下の罰金。公正取引委員会による勧告。勧告に従わない場合は企業名を公表。支払遅延には遅延利息(年14.6%)。
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どちらが適用される?具体的なケースで判断

法律の違いが分かったところで、次に「自社のこの取引には、どちらの法律が適用されるのか?」という疑問を解消していきましょう。両方が適用される場合もあるため、注意が必要です。

ケース1:下請法のみが適用される場合

資本金5億円のメーカーが、資本金5,000万円の部品製造会社に部品の製造を委託するケースを考えてみましょう。この場合、発注者・受注者ともに下請法の資本金要件を満たしており、取引内容も「製造委託」に該当するため、下請法が適用されます。受注者側が従業員を雇用している法人であるため、フリーランス保護新法は適用されません。

ケース2:フリーランス保護新法のみが適用される場合

資本金500万円のWeb制作会社が、従業員のいない個人のWebデザイナーにサイトデザインを業務委託するケースです。この場合、発注者側の資本金が小さいため下請法の適用対象にはなりませんが、発注者が従業員を雇用し、受注者が従業員のいないフリーランスであるため、フリーランス保護新法が適用されます。

ケース3:両方が適用される場合

資本金1億円のIT企業が、従業員を数名雇用している個人事業主のシステムエンジニアに、ソフトウェア開発の一部を委託するケースはどうでしょうか。この取引は、資本金要件を満たすため下請法の「情報成果物作成委託」に該当します。しかし、受注者が従業員を雇用しているため、「従業員を使用しない」というフリーランス保護新法の対象からは外れます。

では、もしこのシステムエンジニアが従業員を一人も雇っていない個人事業主だったらどうでしょう。その場合は、下請法の適用対象であると同時に、フリーランス保護新法の適用対象にもなります。

両方が適用される場合の注意点

このように、取引の相手が従業員のいない個人事業主である場合など、両方の法律が同時に適用されるケースが存在します。その場合は、両方の法律で定められた義務をすべて遵守する必要があり、規制内容が異なる部分については、より厳しい(フリーランスにとって手厚い)方の規制が優先して適用されると解釈するのが安全です。例えば、報酬の支払期日について、両方の法律で定められた期日のうち、より早い方を遵守する必要があります。

法改正に向けて企業が今すぐ準備すべき3つのこと

フリーランス保護新法の施行は目前に迫っています。法令違反のリスクを回避し、スムーズに新体制へ移行するために、今から準備しておくべきことを3つのステップでご紹介します。

① 発注先リストの整理と適用法令の確認

まずは、現在取引のある業務委託先をすべてリストアップすることから始めましょう。そして、それぞれの委託先について、「法人か個人事業主か」「従業員の有無」「資本金」といった情報を整理し、フリーランス保護新法と下請法のどちらが適用されるのか、あるいは両方が適用されるのかを一つひとつ確認していく必要があります。この作業が、今後のすべての対策の基礎となります。

② 契約書・発注書のひな形見直し

次に、適用される法律に応じて、現在使用している契約書や発注書のひな形を見直します。特にフリーランス保護新法の対象となる取引については、法律で定められた明示事項(業務内容、報酬、支払期日など)が漏れなく記載されているかを確認し、必要に応じて項目を追加・修正します。顧問弁護士などの専門家に相談しながら、自社の取引実態に合った、法令遵守とリスク管理の両方を満たすひな形を作成しましょう。

③ 社内(特に現場担当者)への周知と業務フローの再構築

法務部門だけでルールを整備しても、実際にフリーランスとやり取りをする現場の担当者がそれを理解していなければ意味がありません。新しい法律の概要や、変更された契約・発注フローについて、分かりやすい説明会を実施したり、マニュアルを整備したりして、社内全体に周知徹底することが不可欠です。発注から検収、支払いに至るまでの一連の業務フローを再点検し、法令を遵守できる仕組みを構築しましょう。

法対応を効率化し、攻めのコンプライアンス体制を築くには

ここまで解説してきたように、フリーランス保護新法への対応には、取引先の整理や契約書の見直し、支払いプロセスの管理など、煩雑な作業が伴います。こうした管理業務に追われ、本来注力すべきコア業務の時間が奪われてしまうのは避けたいところです。そこで、テクノロジーを活用して、これらの業務を効率化し、より強固なコンプライアンス体制を築く方法をご紹介します。

適正な取引を守る「TOKIUMインボイス」の活用

出典:TOKIUMインボイス-支払い漏れをなくせる請求書受領クラウド

フリーランス保護新法や下請法で特に注意が必要なのが、報酬の支払期日の遵守です。請求書の処理が遅れ、意図せず支払遅延となってしまうリスクは常に存在します。

クラウド請求書受領システムの「TOKIUMインボイス」を活用すれば、紙やPDFなど様々な形式で届く請求書を自動でデータ化し、申請から承認、支払い通知までをクラウド上で一元管理できます。支払い期日の管理もシステム上で行えるため、支払遅延のリスクを大幅に低減し、法令遵守を徹底することが可能です。また、インボイス制度や電子帳簿保存法にも対応しており、経理部門全体の業務効率化とペーパーレス化を強力に推進します。

契約管理の煩雑さから解放される「TOKIUM契約管理」

出典:電子帳簿保存法対応のクラウド文書管理システム

フリーランスとの取引が増えるほど、契約書の管理は煩雑になりがちです。「どのフリーランスと、いつ、どんな内容で契約したか」をすぐに把握できなければ、法改正に対応した契約内容の見直しもおぼつきません。

「TOKIUM契約管理」は、紙や電子の契約書をクラウドで一元管理できるサービスです。契約書の自動更新管理や、全文検索機能によって、必要な契約書をすぐに見つけ出すことができます。法改正に伴う契約内容の確認や見直し作業を効率化し、契約管理に関するリスクを低減させることが可能です。

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まとめ

本記事では、フリーランス保護新法と下請法の違いを中心に、企業が取るべき対応について詳しく解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。

  • フリーランス保護新法は「従業員のいない個人」を保護し、資本金要件なく適用される。
  • 下請法は「事業者」を保護し、当事者双方の「資本金」が適用要件となる。
  • 両方の法律が同時に適用されるケースもあり、その場合はより厳しい規制を遵守する必要がある。
  • 企業は「委託先の整理」「契約書の見直し」「社内周知」を早急に進めるべき。

この新しい法律の施行は、企業にとって単なる負担増ではありません。フリーランスという重要なパートナーとの取引関係を見直し、より公正で透明性の高いものへと進化させるチャンスです。法令を正しく理解し、適切な準備を行うことで、法令違反のリスクを回避するだけでなく、優秀なフリーランスから選ばれる企業となり、事業の持続的な成長へと繋げていきましょう。

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