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経費精算や支払い承認など、経理部門が扱う申請業務では、書類の差し戻しが頻繁に発生していませんか。差し戻しが増えるたびに修正や再確認の手間が発生し、本来の業務に集中できない状況が続くと、月次決算や税務申告といった重要なタスクにも影響が及びます。
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差し戻しの多さは、単なる手間の問題だけでなく、担当者の精神的負担や組織全体の生産性低下にもつながる深刻な課題です。本記事では、承認フローにおける差し戻しの原因を明確にし、効率化を実現するための具体的な対策を、システム活用から業務プロセスの見直しまで体系的に解説します。経理担当者が今日から実践できる改善のヒントをお届けします。
承認フローにおける「差し戻し」とは
経理部門の日常業務では、購入申請から支払いまで複数の承認段階を経るフローが存在します。その過程で頻繁に発生するのが「差し戻し」です。差し戻しとは、承認者や決裁者が申請内容に不備や修正の必要性を見つけた際に、申請書を申請者に戻す処理を指します。一見すると単純な手続きに思えますが、この差し戻しこそが承認フロー全体のボトルネックとなり、経理業務の効率を大きく左右する要因となっています。

差し戻しの基本的な定義
差し戻しとは、承認者や決裁者が申請書の内容を確認した際に、不備や修正が必要と判断した場合に、その申請書を申請者に戻す処理のことを指します。この処理は申請内容そのものを否定するものではなく、あくまで修正や追加情報の提供を求めることを目的としています。申請者は差し戻された内容を確認し、指摘された箇所を修正したうえで再度申請することが求められます。
承認者も再提出された申請書を改めて確認する必要があるため、差し戻しが発生すると申請者と承認者の双方に追加の工数が発生します。経理部門では、経費精算や支払い承認など日常的に多数の申請を処理するため、この差し戻しの頻度が業務効率に直結する重要な指標となっています。
差し戻しと類似用語の違い
承認フローには差し戻し以外にも類似した処理がいくつか存在し、それぞれ意味と対応方法が異なります。まず却下は、申請内容そのものが承認できないと判断された場合に行われる処理で、却下された申請は修正ではなく新規の申請として一から作り直す必要があります。一方、取り消しは承認者ではなく申請者自身が行う処理で、申請後に誤りに気づいた際などに自ら申請を撤回するものです。
また承認保留は、判断に必要な情報が不足している場合などに一時的に承認を留保する状態を指します。差し戻しはこれらと異なり、申請内容を修正すれば承認される可能性が高い場合に用いられ、修正後の再申請を前提としている点が特徴です。この違いを理解することで、適切な対応を迅速に判断できるようになります。
以下の記事では、入力ミス・添付漏れ・規程違反など、差し戻しの上位原因と現場での止め方について詳しく解説しているので参考にしてください。
経理業務で差し戻しが発生しやすい場面
経理部門における差し戻しは、特定の業務場面で頻繁に発生する傾向があります。最も多いのは経費精算申請における領収書の不備で、日付や金額が不鮮明なスキャンデータや、領収書そのものの添付漏れが典型的な例です。また、交通費や出張費の計算ミスも差し戻しの原因として上位に挙げられます。
購入申請では、複数社から取得すべき見積書が一社分しか添付されていない場合や、承認に必要な仕様書が不足しているケースが見られます。支払い依頼においては、電子帳簿保存法に対応していない請求書フォーマットや、インボイス制度に準拠していない書類が差し戻しの対象となることが増えています。さらに、契約稟議では金額に応じた正しい承認ルートが選択されていないことで差し戻しが発生するケースもあります。
承認フローの差し戻しがもたらす3つのデメリット
差し戻しは単なる修正作業以上の影響を組織にもたらします。書類が差し戻されるたびに、申請者は修正作業に時間を取られ、承認者も再確認の工数が発生します。経理部門では、月次決算や税務申告など締め切りが明確なタスクが多く、柔軟にスケジュールを調整することが困難です。差し戻しが頻発すると、こうした重要業務の品質やスピードにまで悪影響が及ぶリスクがあります。ここでは差し戻しがもたらす具体的なデメリットを3つの視点から解説します。
デメリット1:承認待ち時間の累積的な増加
差し戻しが発生すると、一見すると些細な不備の修正であっても、承認フロー全体に大きな時間的影響を及ぼします。例えば、伝票の金額欄に誤りがあった場合、承認者は申請担当者へ連絡して内容確認を依頼し、修正後の再提出を待つという往復のやり取りが必要になります。この一連のプロセスには、メールや電話でのコミュニケーション時間、修正作業の時間、再確認の時間が累積的に加算されていきます。
さらに問題なのは、複数の差し戻しが同時期に発生した場合です。経理部門では月末や四半期末に申請が集中する傾向があるため、この時期に複数案件の差し戻しが重なると、どの案件から優先的に対応すべきか判断が難しくなります。結果として、支払い期限に間に合わない、月次決算の締め作業が遅延するといった深刻な事態を招く可能性があります。
デメリット2:担当者の業務負荷と精神的コスト
差し戻しによる影響は、作業時間の増加という物理的な負担だけにとどまりません。経理担当者にとって、短期間で不備を発見し修正を依頼して再確認するという繰り返し作業は、大きな精神的負担となります。特に月次決算や税務申告など締め切りが厳格に設定されている業務では、差し戻しへの対応が他の重要タスクを圧迫する形となり、常に時間に追われる状況が生まれます。
さらに、承認を待つ側の部門からは「早く処理してほしい」という要望が強くなるため、担当者は両側からのプレッシャーを感じることになります。このような緊張とストレスが継続すると、かえって注意力が散漫になり、新たなミスを誘発する悪循環に陥ります。差し戻しが差し戻しを生むという状況は、担当者の士気低下や離職リスクの増大にもつながる深刻な問題です。
デメリット3:組織全体の生産性低下
差し戻しの影響は経理部門だけでなく、組織全体の生産性にも波及します。差し戻しが発生するたびに、申請者と承認者の間で確認や調整のためのコミュニケーションが必要となり、社内の連絡業務が増大します。このコミュニケーションコストは目に見えにくいものの、積み重なると企業全体で相当な時間的損失となります。
また、承認フローに関わる複数の担当者間で認識のズレが生じると、さらなる混乱を招くことがあります。例えば、ある担当者は修正済みと認識しているのに、別の担当者は未修正と考えているといった齟齬が発生すると、無駄なやり取りが増えてしまいます。経理担当者本来の役割は、正確な財務情報を迅速に経営陣へ提供し、戦略的な意思決定を支援することです。しかし、差し戻し対応に時間を取られることで、財務分析や改善提案といった付加価値の高い業務に割ける時間が減少してしまいます。
承認フローの差し戻しが発生する主な5つの原因
差し戻しを効果的に削減するには、その発生原因を正確に把握することが第一歩です。経理部門で発生する差し戻しの原因を分析すると、申請者側の記入ミスだけでなく、承認ルールの不明瞭さや業務プロセスの属人化など、組織的な要因が複雑に絡み合っていることがわかります。ここでは、経理業務で特に頻繁に見られる差し戻しの原因を5つに分類し、それぞれの背景と具体例を詳しく解説します。

原因1:記入漏れ・誤記・計算ミス
差し戻しの最も典型的な原因は、申請書における記入漏れや誤記、計算ミスです。経費精算申請では、日付や金額の記入漏れ、部署名や勘定科目の選択ミスが頻繁に発生します。特に手入力が必要な項目が多い場合、人的ミスは避けられません。交通費精算では経路の選択ミスや運賃の計算間違い、出張旅費では宿泊費と交通費の合計額の誤りなどが典型例です。
こうした単純なミスは、申請者の不注意だけが原因とは限りません。複雑な申請フォーマットや、記入すべき項目が多すぎる場合、どれだけ注意深く確認してもミスが発生しやすくなります。また、同じような項目が複数回登場する申請書では、どこに何を記入すべきか混乱することもあります。月末や決算期など業務が集中する時期には、時間的プレッシャーからこうしたミスがさらに増加する傾向があります。
原因2:添付書類の不足・不備
申請に必要な添付書類の不足や不備も、差し戻しの主要な原因の一つです。経費精算では領収書の添付忘れ、購入申請では見積書や仕様書の添付漏れが頻繁に見られます。添付されていても、スキャンの際に画像が不鮮明で日付や金額が読み取れない、書類の一部が切れているといった品質上の問題も差し戻しの対象となります。近年では電子帳簿保存法への対応が求められるため、請求書や領収書が法令で定められたフォーマット要件を満たしていない場合も差し戻しが発生します。
インボイス制度導入後は、適格請求書の要件を満たしているかの確認項目が増えたことで、この類型の差し戻しはさらに増加傾向にあります。また、一度目の申請では領収書を添付していたものの、修正して再申請する際に添付を忘れるという二次的なミスも少なくありません。
原因3:承認ルートの誤設定
申請内容に応じた正しい承認ルートが選択されていないことも、差し戻しの重要な原因です。多くの企業では、申請金額の大きさや購入品目の種類、契約の内容などに応じて、経由すべき承認者が変わります。例えば、10万円未満の経費は課長承認で完結するが、10万円以上は部長承認が必要といった規定がある場合、申請者が誤って課長だけのルートで申請すると差し戻しとなります。
また、人事異動や組織変更があった際に、承認ルートの情報が更新されていないことで、すでに異動した上司に申請が回ってしまうケースもあります。さらに複雑なのは、特定の品目や契約内容によっては、通常の上長承認に加えて法務部門や情報システム部門などの専門部署の承認が必要となる場合です。こうした例外的なルールが明確に周知されていないと、申請者は適切な承認ルートを選択できず差し戻しが発生します。
原因4:ルールや基準の不明確さ
差し戻しが頻発する根本的な原因として、承認の判断基準やルール自体が不明確であることが挙げられます。承認者によって判断基準が異なる、いわゆる属人化の状態では、同じような申請内容でも承認される場合と差し戻される場合が生じてしまいます。例えば、ある承認者は妥当と判断する経費が、別の承認者には説明不足と見なされるといった状況です。
また、社内規定やマニュアルが整備されていない、または情報が古く現在の業務実態と合っていない場合も問題です。申請者はどの項目が必須でどの項目が任意なのか、どのような書類を添付すべきなのか、どの金額基準で承認ルートが変わるのかといった情報を正確に把握できません。このような状況では、申請者が善意で申請しても、承認者の期待する内容と齟齬が生じやすく、結果として差し戻しが増加します。ルールの不明確さは組織的な問題であり、個人の努力だけでは解決が困難です。
原因5:申請フォーマットの複雑さ
申請フォーマット自体の複雑さも、差し戻しを誘発する要因となります。記入すべき項目が過度に多い申請書では、どれだけ注意深く確認してもどこかに記入漏れが生じやすくなります。また、似たような項目が複数存在する場合、どこに何を記入すればよいのか判断に迷うこともあります。紙やエクセルベースの申請書では、入力規則が設定されていないため、数値を入れるべき欄に文字を入力してしまう、日付のフォーマットがばらばらになるといったミスが発生します。
さらに、複数の申請書フォーマットが混在している場合、申請者は最新版と旧版を見分けられず、古いフォーマットで申請してしまうこともあります。経理担当者にとって分かりやすいフォーマットが、必ずしも申請者にとって使いやすいとは限りません。申請者目線でのフォーマット設計がなされていない場合、構造的に差し戻しが発生しやすい状態が続くことになります。
承認フローの差し戻しを削減して効率化する5つの具体的対策
差し戻しの原因が明確になったら、次は具体的な削減対策に取り組む段階です。効果的な対策は、システム導入による自動化だけでなく、業務プロセスの可視化やルールの最適化、担当者教育など多岐にわたります。ここでは、経理部門が実践できる5つの対策を、すぐに着手できる改善から中長期的な取り組みまで、実行の優先度とともに解説します。それぞれの対策は単独でも効果がありますが、組み合わせることでさらに大きな効果が期待できます。
対策1:申請前の自動チェック機能の導入
差し戻しを削減する最も効果的な対策の一つが、申請前に自動的に不備を検出する仕組みの導入です。システム上で入力必須項目を設定することで、該当欄が空欄のまま申請ボタンを押すことができないようにします。これにより記入漏れという最も基本的なミスを防ぐことができます。金額計算についても、システムが自動的に合計金額を算出したり、入力された数値の妥当性をチェックしたりする機能を持たせることで、計算ミスを大幅に削減できます。添付ファイルについても、必須の書類が添付されていない場合はエラーメッセージを表示し、申請を進められないようにする設定が有効です。
さらに、リアルタイムでエラーを通知する機能があれば、申請者はその場で不備を修正できるため、承認者に届く前に問題を解決できます。このような自動チェック機能は、人的ミスを構造的に防ぐ仕組みとして、差し戻し削減に直結する効果を持ちます。
対策2:申請フォーマットの最適化
申請フォーマット自体を見直すことも、差し戻し削減に大きな効果をもたらします。まず重要なのは、記入項目を必要最小限に絞ることです。本当に承認判断に必要な情報だけを残し、不要な項目は削除することで、申請者の負担を減らすと同時にミスの発生確率を下げられます。入力方法についても、自由記述よりもドロップダウンメニューからの選択式にすることで、表記のばらつきや誤入力を防げます。勘定科目や経費区分などは特に選択式が有効です。各入力欄には具体的な記入例を表示することで、申請者が何を書けばよいか迷わずに済みます。
さらに、申請内容に応じて必要な項目だけを表示する条件分岐の仕組みを取り入れると、フォーマットがシンプルになり使いやすさが向上します。申請者にとって直感的で分かりやすいフォーマットにすることが、差し戻し削減の基本です。
対策3:承認ルートの自動制御
承認ルートに関する差し戻しを防ぐには、システムによる承認ルートの自動制御が効果的です。申請金額や購入品目、契約内容などの条件をあらかじめシステムに設定しておくことで、申請内容に応じた適切な承認ルートが自動的に選択されるようにします。
例えば、5万円以下の経費は課長承認のみ、5万円以上10万円未満は部長承認、10万円以上は役員承認といった金額基準による自動分岐が可能です。人事異動があった場合も、システム上の組織情報を更新すれば、自動的に新しい承認者にルートが変更されます。承認者が不在の際の代理承認者をあらかじめ設定しておけば、出張や休暇中でも承認フローが止まることがありません。
また、申請のステータスを可視化する機能があれば、現在どの段階で止まっているのか、誰の承認待ちなのかが一目で分かり、フォローアップもしやすくなります。このような自動制御により、承認ルートに関する人的ミスを大幅に削減できます。
対策4:ワークフローシステムの活用
経費精算システムや専用のワークフローシステムを導入することで、差し戻しの発生を構造的に防ぐことができます。これらのシステムには、申請から承認、決裁に至るまでの一連の流れを一元管理する機能が備わっています。クラウド型のシステムであれば、場所を問わずにアクセスでき、テレワーク環境でもスムーズな承認業務が可能です。過去の申請履歴がデータベースに蓄積されるため、類似の申請内容を参照したり、以前承認された内容を再利用したりすることで、申請の精度を高められます。
差し戻しが発生した場合も、システムから即座に通知が届く機能があれば、申請者は迅速に対応できます。コメント機能やチャット機能を活用すれば、差し戻しの理由や修正すべきポイントを具体的に伝えられるため、修正後の再差し戻しを防げます。システム導入により、差し戻しの削減だけでなく、承認業務全体の効率化が実現します。
対策5:チェックリストとマニュアルの整備
システム導入と並行して、申請者向けのチェックリストやマニュアルを整備することも重要な対策です。申請前に確認すべき項目を一覧にしたチェックリストがあれば、申請者は提出前に自己点検を行うことができます。このチェックリストには、記入必須項目の確認、添付書類の有無、金額計算の正確性、承認ルートの適切性などを含めます。
また、過去に発生した差し戻し事例をまとめた「よくある不備事例集」を作成し、同じミスを繰り返さないための注意喚起を行うことも有効です。申請手順については、文書だけでなく動画マニュアルを用意することで、視覚的に理解しやすくなります。特に新入社員や異動してきたばかりの担当者にとって、動画は分かりやすい学習ツールとなります。さらに、申請に関する疑問点をまとめたFAQを定期的に更新し、申請者が自己解決できる環境を整えることで、差し戻しの予防につながります。
申請前セルフチェックリスト
| 区分 | 確認事項(チェックボックス付き) |
|---|---|
| 必須項目 | 必須項目はすべて記入済みか |
| 金額の確認 | 金額計算に誤りはないか |
| 証憑の添付 | 領収書・請求書は添付済みか 添付書類は鮮明に読み取れるか |
| 承認ルート | 承認ルートは正しく設定されているか |
| 基本情報 | 日付・部署名に誤りはないか |
| 適格請求書 | 適格請求書の要件を満たしているか(該当する場合) |
承認フロー差し戻しを削減して業務効率化するためのステップ
差し戻し対策を効果的に進めるには、計画的なステップを踏むことが重要です。いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、現状分析から始めて段階的に改善を進めることで、リスクを抑えながら確実な効果を得ることができます。ここでは、多くの企業が成功している4段階のアプローチを紹介します。各段階で明確な目標を設定し、関係者の合意を得ながら進めることが、長期的な改善につながります。

ステップ1:現状分析と課題の洗い出し
差し戻し削減に向けた取り組みは、まず現状を正確に把握することから始まります。過去数ヶ月分の申請データを分析し、どの種類の申請で差し戻しが多く発生しているのか、どのような理由で差し戻されているのかを定量的に把握します。経費精算、購入申請、支払い依頼など申請種別ごとに差し戻し件数と発生率を集計すると、優先的に対策すべき領域が見えてきます。差し戻しの原因についても、記入漏れ、添付書類不備、承認ルート誤りなどに分類して件数を数えることで、最も頻度の高い問題を特定できます。
また、承認フローのどの段階で差し戻しが発生しているかを分析することも重要です。さらに、申請者や承認者へのヒアリングを実施し、システムや運用面での不便さや改善要望を収集します。こうした現状分析を通じて、解決すべき課題に優先順位をつけ、効果的な改善計画を立案できます。
ステップ2:要件定義とツールの選定
現状分析で明らかになった課題をもとに、解決するために必要な機能や要件を定義します。例えば、記入漏れが多い場合は入力必須項目の設定機能が、承認ルート誤りが多い場合は自動分岐機能が必要になります。要件が固まったら、予算と導入期間を設定し、それに見合ったツールの選定を進めます。市場には多様なワークフローシステムや経費精算システムが存在するため、自社の課題に最も適したものを選ぶことが重要です。
複数のツールを比較検討する際は、機能の充実度だけでなく、既存システムとの連携性、ユーザーインターフェースの使いやすさ、サポート体制の手厚さなども評価基準に含めます。可能であれば無料トライアルや試用期間を利用し、実際に使ってみることで、現場での使い勝手を確認することが推奨されます。適切なツール選定が、その後の導入成功を左右する重要なポイントとなります。
ステップ3:スモールスタートによる検証
大規模なシステムをいきなり全社展開するのではなく、特定の部署や申請種別に限定した試験導入から始めることがリスク軽減につながります。例えば、まず経理部門内の経費精算申請だけで運用を開始し、実際の業務での課題を洗い出します。このスモールスタートの期間中に、ユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、システムの設定やフォーマットの調整を行います。
想定していなかった操作上の不便さや、業務フローとのミスマッチが発覚することもあるため、この段階で十分に検証と改善を繰り返すことが大切です。また、申請者や承認者向けの操作説明会を実施し、新しいシステムに慣れてもらう期間を設けることも重要です。試験導入で得られた知見をもとにマニュアルを改訂したり、FAQ を充実させたりすることで、本格展開時のトラブルを最小限に抑えられます。
効果指標早見表
| 指標 | 定義 | 測定方法 | 導入前 | 3か月後 | 目標値 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 差し戻し率 | 差し戻し件数 ÷ 申請件数 | 月次で申請/差し戻し件数を集計 | —% | —% | ▲50% | トップ3原因を先行対策 |
| 承認待ち時間 | 申請から最終承認までの平均日数 | システムの履歴から平均を計算 | — 日 | — 日 | ▲30% | 期限・通知・代理承認の運用で短縮 |
| 再提出までの平均時間 | 差し戻し通知から再提出までの平均 | 差し戻し履歴で平均を計算 | — 時間 | — 時間 | ▲40% | 再提出の動線とチェックリストを明示 |
| 担当工数 | 1件当たりの処理時間(申請者/承認者/経理) | 代表サンプル10件の実測(ストップウォッチ) | — 分/件 | — 分/件 | ▲20% | 入力時の自動チェックで手戻り削減 |
| 添付漏れ率 | 必要書類の添付漏れ件数 ÷ 申請件数 | チェックルールのアラート件数を集計 | —% | —% | ▲70% | 必須項目と形式チェックを厳密化 |
| 事前相談率 | 金額・取引の基準超過時に事前相談された比率 | 基準超過フラグ件数に対する事前相談件数 | —% | —% | +30pt | 「上位者への相談」導線と基準の明文化 |
ステップ4:本格展開と継続的改善
試験導入での検証が完了したら、全社展開のスケジュールを策定します。一度にすべての部署に展開するのではなく、段階的に対象を広げていくアプローチが安全です。各部署への展開前には操作研修を実施し、申請者と承認者が新しいシステムやルールを理解できるようにします。運用開始後は、差し戻し件数の推移を定期的にモニタリングし、改善効果を測定します。当初の目標と比較してどの程度差し戻しが削減できたか、どの種類の差し戻しがまだ残っているかを分析し、追加の対策を検討します。
システムは導入して終わりではなく、業務内容の変化や法改正に応じて継続的にアップデートしていく必要があります。ユーザーからの改善要望を定期的に収集し、システムの設定や運用ルールを最適化し続けることで、長期的に効果を維持できます。このような継続的改善のサイクルを確立することが、差し戻しのない承認フローを実現する鍵となります。
承認フローの差し戻しを減らし効率化するための業務プロセス可視化
システム導入だけでは差し戻しを根本的に解消できません。なぜなら、差し戻しの真の原因は「判断基準の属人化」や「必要項目の曖昧さ」といった業務プロセス自体の不明瞭さにあるケースが多いためです。承認フローを図示し、誰がどの条件で承認を行い、どのような書類が必要かを明確化することで、初めてシステムの効果も最大化されます。ここでは、業務プロセスの可視化とルール最適化の具体的な進め方を解説します。
承認フローの可視化方法
業務プロセスを可視化することは、差し戻し削減の基盤となる重要な取り組みです。承認フローをフローチャートや図として視覚的に表現することで、誰がどの段階でどのような判断を行うのかが明確になります。この図には、申請者から始まり、各承認者を経て最終決裁に至るまでの流れを示すだけでなく、金額や内容によって分岐する条件も記載します。各承認者の権限範囲を明確に定義し、どの金額まではこの承認者で完結するのか、どのような案件では追加の承認が必要なのかを文書化します。
また、申請に必要な書類やデータを申請種別ごとに一覧化し、何を準備すればよいかを誰もが理解できるようにします。処理期限についても、各承認段階で何日以内に対応すべきかを設定することで、承認の遅延を防ぎます。こうした可視化により、承認フロー全体の透明性が高まり、申請者も承認者も迷うことなく業務を進められるようになります。
定量的なルールの設定
差し戻しを減らすには、曖昧な判断基準を排除し、定量的で明確なルールを設定することが効果的です。例えば、承認ルートについては「10万円以上の購入申請は部長承認を経由する」「50万円以上の契約は役員決裁が必要」といった金額基準を明文化します。申請区分ごとに必須項目を具体的に定義し、どの項目を必ず記入しなければならないかをリスト化します。
承認期限についても「申請から3営業日以内に一次承認」「最終決裁まで5営業日以内」といった具体的な日数を設定します。例外処理が必要なケースについても、あらかじめ条件とプロセスを定めておくことで、その場その場の判断に頼らずに済みます。電子帳簿保存法やインボイス制度など法令対応が必要な場合は、「この金額以上の場合は事前に経理部長へ相談」「適格請求書発行事業者の登録番号を必ず確認」といったルールを具体的に定めます。定量的なルールがあることで、判断のばらつきが抑えられ、差し戻しの大幅な削減が期待できます。
請求書受領サービスの活用
請求書受領サービスを導入することで、経理部門における書類処理の標準化と効率化が実現します。これらのサービスは、取引先から届く紙やPDF形式の請求書を電子化し、クラウド上で一元管理する仕組みを提供します。経理担当者は常に統一されたインターフェースで情報を処理できるため、フォーマットのばらつきによる混乱を避けられます。AI-OCR技術を活用することで、請求書に記載された日付や金額、取引先名などのデータを自動的に読み取り、入力ミスや転記ミスのリスクを大幅に削減できます。読み取り精度も年々向上しており、手書きの請求書でも高い認識率を実現しています。
また、電子帳簿保存法に対応した形式でデータを保存する機能があるため、法令遵守の観点からも安心です。請求書の受領から承認、支払いまでの一連のフローがシステム上で完結することで、関係者全員が進捗状況をリアルタイムで把握でき、追加の修正が必要な場合もすばやく気づける環境が整います。
属人化からの脱却
差し戻しの根本原因である業務の属人化から脱却するには、組織全体で共通の基準を適用する体制づくりが不可欠です。まず、現場の担当者からの意見を積極的に取り入れる姿勢が重要です。差し戻しが発生する現場で実際に何が起こっているのか、なぜ書類の不備が生じたのか、どうして承認が進まなかったのかを関係者全員で共有する場を定期的に設けます。この話し合いを通じて、表面化していなかった問題点や改善のアイデアが出てくることも少なくありません。
収集した知見は文書化してナレッジベースとして蓄積し、誰もがアクセスできる状態にします。新しく配属された担当者でも、過去の事例や判断基準を参照することで、経験豊富な担当者と同じレベルの業務が行えるようになります。組織全体で共通の基準を適用することで、特定の個人に依存しない持続可能な業務体制が構築され、単に時間を短縮するだけでなく、結果として精度の高い経理業務が実現します。
以下の記事では、申請・承認工程の基本設計と運用の考え方について詳しく解説しているので参考にしてください。
承認フローの差し戻しを減らし効率化するための組織的な学習
システムやルールを整備しても、それを使う担当者のスキルが不足していては効果は限定的です。差し戻しを継続的に削減するには、過去の事例から学び、同じミスを繰り返さない組織文化を作ることが重要です。月次や四半期ごとに差し戻し事例を分析し、その知見を組織全体で共有することで、予防可能な差し戻しを大幅に減らすことができます。ここでは、経理部門における効果的な学習と改善のサイクルについて解説します。
定期的な事例分析と共有
差し戻しを継続的に削減するには、過去の事例から学び、同じミスを繰り返さない組織文化を作ることが重要です。月次や四半期ごとなど定期的なタイミングで、その期間に発生した差し戻しケースをピックアップし、原因を詳しく分析します。差し戻しの理由を記入漏れ、添付書類不備、金額計算ミスなど原因別に分類し、どの種類の問題が多いかを把握します。
また、特定の申請者や部署で差し戻しが集中している場合は、その背景にある構造的な問題を探ります。分析結果は経理部門内だけでなく、関係する全部署に共有することで、組織全体での学習につながります。成功事例についても積極的に共有し、差し戻しが減少した部署の取り組みを他の部署が参考にできるようにします。
こうした事例の横展開により、予防可能な差し戻しを大幅に減らすことができます。蓄積された事例をナレッジベースとして整理し、いつでも参照できる状態にしておくことで、長期的な改善効果が期待できます。
研修とOJTの実施
システムやルールを整備しても、それを使う担当者のスキルが不足していては効果は限定的です。新入社員や異動してきたばかりの担当者には、申請ルールの基礎から丁寧に説明する研修を実施します。座学だけでなく、実際のシステムを使った実践トレーニングを組み合わせることで、理解が深まります。経験豊富な担当者からベストプラクティスを共有してもらうセッションも有効です。
例えば、差し戻しが少ない担当者の申請書作成のコツや、効率的な書類整理の方法などを学ぶことができます。法改正や社内ルールの変更があった際には、速やかに説明会を開催し、変更内容と対応方法を周知します。電子帳簿保存法の改正やインボイス制度の導入時など、経理業務に大きな影響がある場合は特に重要です。
OJTでは、実際の業務を通じて先輩社員が後輩社員を指導する体制を整えます。申請書のダブルチェックを行いながら、よくあるミスのポイントを伝えることで、実践的なスキルが身につきます。
フィードバックループの確立
差し戻しが発生した際には、単に修正を指示するだけでなく、建設的なフィードバックを提供することが重要です。承認者は差し戻しの理由を具体的かつ分かりやすく記載し、申請者が何をどう修正すればよいかを明確に伝えます。「不備があります」といった曖昧な表現ではなく、「領収書の日付が不鮮明なため、再スキャンしてください」といった具体的な指示が効果的です。申請者にとって学習の機会となるよう、なぜその修正が必要なのか、どのような基準で判断しているのかも説明すると、次回以降の申請精度が向上します。
また、申請者からの改善提案を受け入れる仕組みも大切です。現場で申請業務を行う担当者は、フォーマットやルールの不便な点を最もよく知っています。定期的に意見を収集し、合理的な提案は積極的に採用することで、使いやすいシステムへと進化させることができます。差し戻しが大幅に減少した事例や、工夫によって業務効率が改善した成功事例は、社内で表彰したり共有したりすることで、組織全体のモチベーション向上にもつながります。
以下の記事では、権限分岐・期限・代理承認・監査ログまで含めて承認を“仕組み化”するポイントについて詳しく解説しているので参考にしてください。
承認フローの差し戻し削減がもたらす組織全体の効率化
差し戻しを削減する取り組みは、経理部門だけでなく組織全体に波及効果をもたらします。承認フローがスムーズになることで、各部門の生産性が向上し、意思決定のスピードが上がります。さらに、明確なルールと効率的なプロセスは、従業員のモチベーション向上や離職率の低下にもつながります。ここでは、差し戻し削減が企業にもたらす多面的な効果について、短期的な改善から中長期的な組織変革まで解説します。
業務処理速度の向上
差し戻しを削減することで、申請から最終承認までのリードタイムが大幅に短縮されます。修正や再確認のための往復が減ることで、承認フローがスムーズに進行し、経費精算や支払い承認が迅速に完了するようになります。この処理速度の向上は、月次決算の早期化にも直結します。経理部門では月末から月初にかけて決算業務が集中しますが、承認待ちによる遅延が減ることで、より早く正確な財務数値を確定できます。早期化された月次決算により、経営陣はタイムリーに業績を把握でき、迅速な経営判断が可能になります。
差し戻し削減効果のビフォーアフター比較表
| 項目 | 改善前 | 改善後 | 削減率 |
|---|---|---|---|
| 月間差し戻し件数 | 120件 | 35件 | 71%削減 |
| 承認平均日数 | 6.5日 | 2.8日 | 57%短縮 |
| 担当者残業時間 | 25時間 | 12時間 | 52%削減 |
| 経費精算処理時間 | 180分 | 65分 | 64%短縮 |
| 注記(測定期間・対象範囲) | 測定期間:[20XX年X月〜20XX年X月]/ 対象範囲:[経費精算ワークフロー(申請〜最終承認)/全社 or 部門名]。数値は月次平均。 削減率・短縮率の算出: (改善前 − 改善後) ÷ 改善前(%表記)。 | ||
支払いサイクルについても、承認の遅延がなくなることで取引先への支払いが期日通りに実行され、企業の信頼性向上にもつながります。さらに、承認業務にかかる時間が削減されることで、経理担当者は財務分析や予算管理、経営層へのレポーティングといった、より戦略的で付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。
コスト削減効果
差し戻し削減による効果は、時間だけでなく具体的なコスト削減としても現れます。申請者と承認者の工数が減ることで、人件費の削減効果が期待できます。差し戻し対応に費やしていた時間を本来の業務に充てられるため、残業時間の削減にもつながります。ワークフローシステムを導入し、紙ベースの申請から電子申請に移行することで、用紙代やプリント費用、郵送費なども削減されます。
特に拠点が複数ある企業では、書類の物理的な移動コストが不要になるため、その効果は顕著です。システムによる自動チェック機能や承認ルートの自動制御により、人的ミスが減少することで、誤った支払いや二重支払いといったトラブルの防止にもつながります。こうした直接的なコスト削減に加えて、業務効率化により組織全体の生産性が向上し、限られた人員でより多くの業務を処理できるようになります。結果として、人員の適正配置や採用コストの最適化など、間接的なコスト削減効果も期待できます。
働き方改革への貢献
差し戻しのない承認フローは、従業員の働き方改革にも大きく貢献します。ルールが明確化され、システムによる自動チェックが機能することで、申請者は安心して申請できるようになります。差し戻しによる予期せぬ手戻りがなくなることで、スケジュール通りに業務を進められ、計画的な働き方が可能になります。承認者にとっても、システム上で申請内容を確認できるため、場所や時間を問わず承認業務が行えます。テレワーク環境でも滞りなく承認フローが回ることで、柔軟な働き方を実現できます。
差し戻し対応に追われる時間が減ることで、経理担当者は定時での退社が可能になり、ワークライフバランスの改善につながります。業務のストレスが軽減されることで、従業員の満足度が向上し、モチベーションの向上や離職率の低下といった効果も期待できます。明確なルールと効率的なプロセスが整備された職場環境は、優秀な人材を惹きつけ、定着させる要因ともなります。
継続的な改善文化の醸成
差し戻し削減に向けた一連の取り組みは、組織全体に継続的な改善文化を根付かせる効果があります。現状を分析し、課題を特定し、対策を実施し、効果を測定するというPDCAサイクルが定着することで、他の業務領域でも同様のアプローチが適用されるようになります。データに基づいて意思決定を行う文化が浸透し、勘や経験だけに頼らない科学的な業務改善が可能になります。現場からの改善提案が積極的に出されるようになり、ボトムアップでの業務効率化が進みます。従業員一人ひとりが問題意識を持ち、自ら解決策を考える姿勢が育まれることで、組織全体の問題解決能力が向上します。
差し戻し削減という具体的な成果が見えることで、改善活動への参加意欲が高まり、さらなる改善のサイクルが回り始めます。こうした継続的改善の文化は、経理部門だけでなく、営業、製造、人事など他部門にも波及し、企業全体の競争力強化につながります。差し戻し削減は単なる業務効率化にとどまらず、組織変革の起点となる重要な取り組みといえます。
まとめ
承認フローにおける差し戻しは、経理部門の業務効率を大きく左下する要因です。差し戻しが頻発すると、担当者の時間的・精神的負担が増大するだけでなく、月次決算や税務申告といった重要業務にも悪影響が及びます。
差し戻しを効果的に削減するには、その発生原因を正確に把握し、システム導入、フォーマット最適化、ルール明確化といった多面的なアプローチが必要です。特に、申請前の自動チェック機能やワークフローシステムの活用は、記入ミスや添付漏れといった典型的な差し戻し原因を大幅に削減できます。
また、システム導入だけでなく、業務プロセスの可視化やルールの定量化により、判断基準の属人化を解消することも重要です。さらに、過去の差し戻し事例を分析し、組織全体で学習するサイクルを確立することで、継続的な改善が可能になります。
差し戻しのない承認フローは、経理部門の生産性向上だけでなく、組織全体の働き方改革や従業員満足度の向上にもつながります。本記事で紹介した対策を段階的に実践し、スムーズな承認フローを実現してください。










