この記事は約 11 分で読めます。
「AI活用のコツ」はシンプルです。マネージャーの仕事を、知の“探索”と“深化”に分け、深化(確認・照合・下書き)の比率を意識的にAIへ寄せます。探索(方針づくり、育成、合意形成、例外判断)こそが、マネージャーが時間をかけるべき領域です。
線引きのポイントは「意思決定要素の有無」です。承認・確認の多くは、実は“基準を満たしているか”のチェックの連続で、意思決定ではありません。だからこそ、まずは「意思決定なき承認(形式チェック)」からAIに任せ、マネージャーの探索時間を取り戻します。
- 探索(人が担う):方針・育成・合意形成/不完全な情報下での判断
- 深化(AIに寄せる):確認・照合・下書き/ルールに基づく反復作業
最初は、次の3手だけ押さえれば十分です。①いまの仕事を棚卸しし、「AIに任せる/一緒にやる/人が担う」で線引きします。②会議メモ、一次チェック、月次資料のたたき台など、影響が小さいテーマから小さく試します。③情報の扱い・権限・最終確認のルールを決め、任せ過ぎと情報漏えいを防ぎます。
まず前提として、AIは「効率化ツール」から、業務を自律的に進めるエージェント(代理人)へと質が変わり始めています。経理AIエージェントの全体像(何が変わるのか/どこまで任せられるのか)を10分で掴みたい方は、PIVOTでの対談も先に見ておくと理解が早いです。
マネージャーとAIを取り巻く環境変化
経理・バックオフィスでは、経費精算や請求書処理、レポート作成などでAI活用が現実的になり、マネージャーの仕事の配分が変わり始めています。定型的な集計・下書きはAIに寄せ、育成・方針づくり・合意形成といった“人にしかできない領域”に時間を戻す設計が重要です。本章では、こうした背景を整理し、AI時代にマネージャーの役割を考える前提となる「環境変化の全体像」を押さえます。
なお、マネージャーの生産性を蝕むのは「雑務の作業時間」そのものより、思考が分断される切り替えコスト(再集中コスト)です。役職者は1日に複数回業務が中断しやすく、集中し直すまでに5分以上かかる傾向も報告されています。仮に「1回15分の中断」が1日4回起きるだけで、月20時間(約2.5営業日分)の時間が失われます。
| 観点 | 要点 |
|---|---|
| 本当の損失 | 雑務の作業時間より「再集中コスト」が効く |
| まずAIに任せる順番 | 意思決定のない承認・確認(形式チェック)から |
だからこそ、まずは“意思決定のない承認・確認”からAIに任せ、マネージャーの探索時間(未来への投資時間)を組織として守り切ることが重要です。
経理・バックオフィス業務に広がるAI活用の流れ
経理やバックオフィスの現場では、すでにAIを活用したサービスが少しずつ浸透し始めています。経費精算や請求書処理では、明細の読み取りや仕訳案の作成をAIが担い、担当者は内容の確認や例外処理に集中できるようになりつつあります。また、レポート作成では、過去データの集計やグラフ化、文章のたたき台をAIが用意し、マネージャーはメッセージの方向性を考える時間を確保できます。このように、これまで人が時間をかけていた作業の一部がAIに置き換わり始めており、マネージャーの仕事の進め方にも変化が求められています。
マネージャーの仕事はどう変わろうとしているか
AIの活用が進むと、マネージャーに求められる役割の比重が変わっていきます。これまでは、部下の成果物を一つひとつ確認し、数字や資料の細部まで自分でチェックすることに多くの時間を使っていた方も多いはずです。今後は、そうした定型的な確認作業の一部をAIに任せ、メンバーの育成やキャリア支援、部門としての方針づくりに時間を振り向けることが重要になります。また、AIをどう活用するかという方針を示し、チームの不安を受け止めながら前向きな雰囲気をつくることも、マネージャーの大切な役割になっていきます。
経理業務全体がAIでどのように変わっていくのかを最新事例とあわせて整理したい方は、以下の記事も参考になります。
AI時代のマネージャーに残る仕事・任せる仕事
ポイントは、すべてを置き換えるのではなく、業務を「任せる/一緒にやる/人が担う」の3領域に分けることです。ルールが明確で情報量が多い作業はAIに寄せやすく、最終判断・説明責任・対人配慮が必要な仕事は人が担う前提で線引きします。
経理マネージャーの仕事は、同じように見えても「AIと相性の良い業務」と「人が担うべき業務」が混ざっています。まずは代表的な業務を切り出し、AIに任せやすい部分と、マネージャーが判断や対話を担う部分を整理してみることが、具体的な活用イメージづくりの第一歩になります。
表:経理マネージャーの業務×AI適合度マトリクス
| 業務 | 業務の概要 | AIとの相性 | AIに任せる部分 | マネージャーが担う部分 |
|---|---|---|---|---|
| 月次・四半期レポート作成 | 会計データや各種KPIを集計し、部門・全社の状況を整理する業務 | 高 | 数値の集計・グラフ作成・サマリー文のたたき台作成 | 伝えるべきメッセージの決定、重要な論点の選定、経営層とのすり合わせ |
| 経費申請・承認フローの設計・見直し | 規程やワークフローを整理し、申請から支払いまでの流れを決める業務 | 中 | 過去データから差し戻し傾向を分析し、ボトルネック候補を抽出 | ルール変更の判断、関係部署との調整、最終的な承認フローの設計 |
| メンバー評価・1on1面談 | 業務状況や成果を把握し、評価やキャリアについて対話する業務 | 低 | タスクの進捗や件数など定量データの整理 | 評価の最終判断、強み・課題のフィードバック、キャリア支援の方針決定 |
| 監査対応・ガバナンス強化 | 監査対応やルール整備を通じて、不正防止や内部統制を強化する業務 | 中 | 過去の指摘事項や改善履歴の整理、証憑一覧の自動作成 | リスクの優先度付け、対応方針の決定、関係者への説明・合意形成 |
| 他部門調整・経営層への報告 | 営業・人事・情報システム部門などとの連携や、経営層への説明を行う業務 | 低 | 会議資料のたたき台作成、質問想定の整理補助 | 相手の意図をくみ取った説明、条件交渉、合意形成のリード |
経理マネージャーの代表的な仕事を棚卸しする
AI活用を考える第一歩は、経理マネージャーとして自分が日々どのような仕事に時間を使っているかを見える化することです。月次決算や予算管理の資料作成、経費や支払いに関する確認、メンバーとの面談や評価、他部署や経営層との打ち合わせなど、1か月のスケジュールを振り返ると多くの業務が並びます。そこで、まずは「紙に書き出す」「一覧にする」といった形で、業務の種類とボリュームを棚卸しします。そのうえで、「数字を扱う部分」「判断が必要な部分」「メンバーとの対話が中心になる部分」などに分けて整理することで、AIとの相性を考えやすくなります。
AIとの相性で整理する「任せる・一緒にやる・人が担う」領域
業務を棚卸ししたら、それぞれの仕事がAIとどの程度相性が良いかを検討します。例えば、過去データの集計やレポートのたたき台づくりのように、ルールが比較的明確で、情報量が多い作業はAIに「任せる」候補になりやすい領域です。一方、経営層や他部署と合意を形成する場面、メンバーの感情に配慮しながらフィードバックする場面などは、人が「担う」べき仕事だと考えられます。その中間には、AIの提案をたたき台にしながら人が確認・修正する「一緒にやる」領域があります。この三つに分けて整理することで、どこからAI活用を始めるかが具体的に見えてきます。
業務の棚卸しと「任せる・一緒にやる・人が担う」という3つの視点を押さえたうえで、実際の現場では「この業務はAI候補なのか、それとも人が中心なのか」を一つひとつ判断していく必要があります。そこで、日々の業務を見直す際のたたき台として、ルールの明確さや判断責任の重さ、対人配慮の有無といった観点から、AI活用の向き・不向きを簡単に整理できるフローチャートを以下に用意しましたので参考にしてください。

AIと一緒に成果を出すマネージャーの4つの力
成果が出るかどうかは、AIツールの有無ではなく、マネージャー側の運用設計で決まります。具体的には「AIの仕組みと限界を理解する」「データから課題を見つける」「学びをチームに広げる」「信頼関係を築く」の4つを押さえると、AI活用が“個人の工夫”から“チームの型”になります。
AIを使いこなすマネージャーとそうでないマネージャーの違いは、特別な技術知識の有無だけではありません。AIの特性を理解したうえで、データから課題を読み取り、学びをチームに還元し、メンバーとの信頼関係を育てているかどうかが大きな分かれ目になります。次のチェックリストで、現在のご自身の状態を簡単に振り返ってみましょう。
AI時代のマネージャーに求められる4つの力セルフチェックリスト
| 力 | 概要 | チェック項目(当てはまるものにチェック) |
|---|---|---|
| AIの仕組みと限界を理解する力 | AIの得意・不得意や注意点を把握し、任せる範囲を適切に見極める力 | □ AIに任せる作業と人が判断する作業を、チーム内で明確に説明できる □ 「AIの結果は必ず人が確認する」という前提をメンバーと共有している |
| データから課題を見つける力 | 数値の変化や傾向から、業務上の課題や打ち手のヒントを読み取る力 | □ 経費や差し戻し件数などのデータをもとに、改善テーマを設定している □ AIが整理したレポートを見て、「次に何をするか」を具体的に決められる |
| 学びをチームに広げる力 | スモールスタートの結果を共有し、チーム全体のAIリテラシーを高める力 | □ AI活用の成功・失敗事例を、定例会などで定期的に共有している □ 一人で抱え込まず、複数人で試す仕組みを意識的につくっている |
| 信頼関係を築く力 | メンバーの不安や疑問を受け止め、心理的安全性の高いチームをつくる力 | □ AI活用に対する不安や疑問を、メンバーが率直に話せる雰囲気がある □ 失敗が起きても、責めるのではなく、原因と学びを一緒に整理している |
AIの仕組みと限界を理解する力
AIを上手に使うマネージャーは、専門家レベルの技術知識を持っているわけではありませんが、「何が得意で、どこに弱点があるか」を押さえています。例えば、過去のデータからパターンを見つけることや、文章のたたき台を作ることは得意ですが、会社ごとの細かなルールや、相手の気持ちを読み取るような判断は苦手だと理解しています。そのうえで、AIに任せる範囲を見極め、最終的な判断は人が行うという前提をチームに共有することが大切です。AIを過信も過小評価もしないバランス感覚が、経理マネージャーに求められる力になっています。
データから課題を見つける力
AIが集計や分析のたたき台を用意してくれても、「その数字から何を読み取るか」を判断するのはマネージャーの役割です。例えば、経費の申請件数や差し戻し件数の推移をAIに整理させ、その結果を見ながら「どの部署に負荷が集中しているのか」「どのルールが分かりにくいのか」といった課題を見つけていきます。このとき、数字だけでなく、現場の声や実際の運用状況も組み合わせて考えることが重要です。データを眺めて終わるのではなく、「次に取るべき打ち手」を具体的に言語化できる力が、AI時代のマネージャーの強みになります。
学びをチームに広げる力
AI活用は、一人のマネージャーが工夫するだけでは十分な効果が出ません。小さく試して得られた学びをチーム全体で共有し、次の改善につなげる仕組みが重要です。例えば、会議の議事録づくりをAIに任せてみた結果や、経費精算のチェックにAIを使ってみたときの気づきを、定例ミーティングで簡単に共有する場をつくります。その際、成功した点だけでなく、「うまくいかなかった例」や「注意が必要だと感じた点」も率直に話すことで、メンバーが安心して新しい使い方に挑戦できる雰囲気が生まれます。こうした学びの循環をつくることも、マネージャーの大切な役割です。
信頼関係を築く力
AI活用が進むと、メンバーの中には「自分の仕事が減ってしまうのではないか」「失敗したら責められるのではないか」と不安を感じる人も出てきます。マネージャーは、そうした感情に寄り添い、「AIは仕事を奪うためではなく、より価値の高い仕事に挑戦する時間を増やすために使う」というメッセージを丁寧に伝える必要があります。また、わからないことを素直に質問できる雰囲気や、失敗しても一緒に原因を考えられる関係性を日頃から育てておくことが大切です。心理的に安心できるチームだからこそ、新しいツールや働き方にも前向きに取り組めるようになります。
経理部門でAIエージェントを導入した場合、どのように業務が変わるのか、またマネージャーがどんな役割を担うのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
経理部門でのスモールスタート事例集

AI活用は、大掛かりな刷新ではなく、既存フローを大きく変えずに試せるテーマから始めるのが現実的です。会議メモ作成、経費申請の一次チェック、月次振り返り資料のたたき台など、まずは「短時間で試せて、失敗しても影響が小さい」領域で効果と注意点を掴みます。
AI活用を大きなプロジェクトとして構え過ぎると、なかなか一歩目が踏み出せません。スモールスタートは「試して終わり」にしないために、最初から測る指標を3〜5個に絞っておきます。ポイントは、作業時間だけでなく「差し戻し」「承認の滞留」「説明コスト(コメント往復)」まで含めて、現場の詰まりが減ったかを見える化することです。
スモールスタートは「試して終わり」にしないために、最初から測る指標を3〜5個に絞っておきます。ポイントは、作業時間だけでなく「差し戻し」「承認の滞留」「説明コスト(コメント往復)」まで含めて、現場の詰まりが減ったかを見える化することです。
表:KPI最小セット
| KPI | 見るべき理由 | 測り方 |
|---|---|---|
| 承認リードタイム | “確認待ち”が減ったかが一発で分かる | 申請→承認までの平均/中央値(締め日前後で比較) |
| 差し戻し率 | 入力不備・ルール不明確さが可視化される | 差し戻し件数÷申請件数(理由別に1〜3分類) |
| 一次チェック工数(分/件) | “形式チェック”がAIに寄ったかを見る | チェック開始〜完了の計測(サンプル10〜30件) |
| コメント往復回数 | 説明・確認の往復(心理コスト)が減るほど効く | 差し戻しコメントの往復回数(週次で推移) |
| 締め日遵守率 | 繁忙期に効いているかを判定できる | 締め遅延の有無(遅延日数も併記) |
経理マネージャーが始めやすいのは、既存の業務フローを大きく変えずに、部分的にAIを試せるテーマです。ここでは、本文で紹介する3つのスモールスタート事例を早見表にまとめ、AIに任せる作業と得られる効果を整理します。
表:経理部門のスモールスタート3事例
| 取り組みテーマ | AIに任せる作業 | 得られる効果 |
|---|---|---|
| 会議メモ作成・要約 | 会議中の発言ログの整理 議事録のたたき台作成 | 議事録作成時間の短縮 マネージャーが議論や表情に集中できる |
| 経費申請の一次チェック | 規程違反の可能性がある申請の抽出 金額や頻度の傾向から怪しい申請候補を提示 | 確認対象の絞り込みによるチェック工数削減 グレーゾーン案件に集中して判断できる |
| 月次振り返り資料のたたき台作成 | 売上・費用データの整理 図表やコメント案の自動生成 | 資料作成の初期負荷を軽減 「何を伝えるか」の検討に時間を使える |
会議メモ作成・要約をAIに任せたケース
ある経理部門では、週次の打ち合わせでマネージャーが毎回詳細な議事録を作成しており、大きな負担になっていました。そこで、会議中のメモ取りや要点整理をAIに任せ、終了後にマネージャーが内容を確認して修正する運用に変えました。AIがまとめた文章は、誤った表現や抜け漏れがないかをチェックする必要がありますが、ゼロから作成するよりも短時間で仕上げられるようになりました。その分、マネージャーは会議中にメンバーの表情や発言に集中できるようになり、議論の質が上がったと感じています。小さな取り組みですが、時間の使い方が確実に変わる一例です。
会議メモは、情報が散らばりやすく「決定事項」と「宿題」が埋もれがちです。まずはAIで要点を整理し、最後に人が事実確認して共有品質を揃えます。
事例1:会議メモ作成・要約プロンプト
あなたは経理部門の会議事務局です。以下の会議メモ(箇条書き・断片)を、チーム共有用に「事実」と「決定事項」と「宿題」に分けて整理してください。
制約:
- 推測で補わず、書かれている内容のみでまとめる
- 曖昧な点は「要確認」として残す
- 固有名詞・数値は伏せ字(例:A社、X万円)で表現する
出力形式:
1) 要点(3行)
2) 決定事項(箇条書き)
3) 宿題(担当/期限/内容の3列で表)
4) 次回議題候補(最大3つ)
【会議メモ】
(ここにメモを貼る)
※プロンプトに入力する情報は、社内規程と利用許可済みツールの範囲に限ってください。個人情報・取引先名・未公開の数値など機微情報は入力せず、必要な場合は匿名化(A社/B部門/金額レンジ化)してください。AIの出力は誤りを含む可能性があるため、最終判断と提出前チェックは必ず人が行います。
経費申請の一次チェックをAIで補助したケース
別の企業では、経費申請の内容確認に多くの時間がかかり、マネージャーが細かなチェックに追われていました。そこで、AIに規程違反の可能性がある申請をピックアップさせる仕組みを試してみました。AIが「金額の傾向」や「利用頻度」などから気になる申請を候補として提示し、マネージャーはその中から本当に確認が必要なものに集中します。すべてをAIに任せるのではなく、あくまで絞り込みの補助として使うことがポイントです。この運用により、確認にかかる時間が減りつつも、チェックの目は以前よりも行き届くようになり、メンバーへの説明もしやすくなりました。
一次チェックは、全件を同じ熱量で見るのではなく「要確認候補を早く見つける」ほど効率が上がります。AIには差し戻しリスクの高い申請を優先抽出させ、人が根拠と対応方針を確定します。
事例2:経費申請の一次チェック用プロンプト
あなたは経費精算の一次チェック担当です。以下の申請一覧(匿名化済み)を、規程違反の可能性があるものから優先的に確認できるように整理してください。
前提(簡易ルール):
- 交際費:1回あたりX円を超える場合は要理由
- タクシー:深夜帯/悪天候などの理由がない場合は要確認
- 領収書:添付なしは原則差し戻し
- 同一店舗・同一日での重複は要確認
タスク: - 「要確認フラグ」を付け、理由を1行で書く
- フラグの強さを A(高)/B(中)/C(低)で付ける
- 最後に、よくある不足情報(例:目的、同席者、経路)を一覧化する
出力形式: - 一覧表(申請ID/フラグ/理由/追加で聞くこと)
- 不足情報のテンプレ質問(3〜5個)
【申請一覧】
(ここに匿名化した一覧を貼る)
※プロンプトに入力する情報は、社内規程と利用許可済みツールの範囲に限ってください。個人情報・取引先名・未公開の数値など機微情報は入力せず、必要な場合は匿名化(A社/B部門/金額レンジ化)してください。AIの出力は誤りを含む可能性があるため、最終判断と提出前チェックは必ず人が行います。
月次振り返り資料のたたき台をAIに任せたケース
月次の振り返り資料づくりでは、データの集計やグラフ作成、文章の構成に時間がかかり、肝心の「何を伝えるか」を考える余裕がないという悩みがよく聞かれます。ある経理マネージャーは、過去のレポートや売上・費用データをAIに読み込ませ、振り返り資料のたたき台を作ってもらう方法を試しました。その結果、図表や文章の素案が短時間で用意できるようになり、自分は「今月どのポイントを強調するか」「どの課題を次月の重点テーマにするか」といった中身の検討に集中できるようになりました。最終版のチェックは必須ですが、資料作成全体の負荷を大きく下げることができました。
月次資料は「数字の説明」よりも、論点を絞って次の打ち手に繋げられるかが価値になります。AIでたたき台を作り、マネージャーが仮説の妥当性と意思決定に必要な追加情報を整えます。
事例3:月次振り返り資料のたたき台プロンプト
あなたは経理マネージャーの資料作成アシスタントです。以下の「今月の数値サマリー(匿名化)」と「先月のメモ」をもとに、月次振り返り資料のたたき台を作ってください。
制約:
- 断定しすぎず、仮説は「可能性」として表現する
- 重要論点は最大3つに絞る
- 最後に「確認すべき追加データ」を挙げる
出力形式:
1) 今月の結論(3行)
2) 重要論点(最大3つ:背景/影響/打ち手案)
3) 来月のアクション(優先度順に3つ)
4) 経営層・他部門からの想定質問と回答案(各3つ)
5) 追加で確認すべきデータ(箇条書き)
【今月の数値サマリー】
(ここに貼る)
【先月のメモ】
(ここに貼る)
※プロンプトに入力する情報は、社内規程と利用許可済みツールの範囲に限ってください。個人情報・取引先名・未公開の数値など機微情報は入力せず、必要な場合は匿名化(A社/B部門/金額レンジ化)してください。AIの出力は誤りを含む可能性があるため、最終判断と提出前チェックは必ず人が行います。
スモールスタートの取り組みを積み重ねると、経理マネージャーの時間の使い方は少しずつ変化していきます。どれだけ効率化できるかは企業によって異なりますが、イメージをつかむために、週40時間のうちの大まかな配分がAI導入前後でどう変わるかをモデルケースとして示します。
AI導入前後の時間配分比較(週40時間の使い方)
| 業務カテゴリ | AI導入前 (時間の目安) | AI導入後 (時間の目安) |
|---|---|---|
| 定型的な資料作成・チェック | 約20時間/週 | 約10時間/週 |
| メンバー育成・1on1 | 約4時間/週 | 約8時間/週 |
| 他部門との調整・説明 | 約8時間/週 | 約10時間/週 |
| 改善・企画・分析 | 約8時間/週 | 約12時間/週 |
AI活用で気をつけたい誤解とリスク
AIは強力ですが、任せ方を誤ると誤判断や情報漏えいにつながるため、過信も過小評価も避ける必要があります。「判断まで自動で正しい」「AIで部下が育たない」などの誤解は、ルール設計と育成設計で解消できます。最終判断は人が担う前提で、確認プロセスと情報の扱いを先に決めます。
AI活用には便利さと同時にリスクもあり、現場では極端なイメージが先行してしまうことがあります。「判断まで任せられる」「AIを使うと部下が育たない」などの誤解を放置すると、導入が進まなかったり、逆に任せ過ぎてトラブルになったりしかねません。代表的な誤解と実際のポイント、マネージャーとして取るべき打ち手を一覧に整理します。
AI活用に関する誤解と現実、マネージャーの打ち手対応表
| よくある誤解 | 実際のポイント | マネージャーの打ち手 |
|---|---|---|
| AIに任せれば判断まで自動で正しくやってくれる | AIはあくまで入力データに基づく予測や生成を行うにとどまり、前提条件や背景までは理解していない。 | AIの結果をそのまま採用せず、「なぜその結果になったか」を確認するプロセスを必ず設ける。 |
| AIを使うと部下のスキルが育たない | 単純作業に時間を取られている状態では、そもそも高度な判断や提案の経験を積みにくい。 | AIに任せる作業と、あえて手を動かして学んでもらう作業を分け、育成ステップに合わせて仕事を割り振る。 |
| AIは大企業にしか向かない | 小さなチームほど、人手不足や属人化の影響が大きく、部分的な自動化の効果が出やすい場合も多い。 | 大規模な仕組み変更から入らず、会議メモや経費チェックなど、スモールスタートで始められるテーマを選ぶ。 |
「判断までAIに任せられる」という思い込み
AIは便利な道具ですが、「すべてを任せれば正しい結論を導いてくれる」という考え方は危険です。経費や支払いの判断には、会社ごとのルールや過去の経緯、相手先との関係性など、表に出てこない情報が関わることが少なくありません。AIはあくまで入力された情報の範囲で推測しているにすぎず、判断の背景までは理解していません。そのため、AIが提示した結果をそのまま採用するのではなく、「なぜこの結果になったのか」「前提条件は妥当か」を人が確認し、必要に応じて修正する姿勢が重要です。最終的な責任を負うのがマネージャーであることを忘れてはいけません。
「AIを使うとメンバーが育たない」という不安
AIの導入に対して、「ツールに頼ると部下のスキルが身につかないのではないか」と心配する声もあります。しかし、単純な集計や形式的な資料作成に多くの時間を費やしている状態では、そもそも高度な判断や提案の経験を積みにくいという問題もあります。AIに定型的な作業を任せることで、メンバーは数字の背景を考えたり、改善案を検討したりする時間を増やすことができます。マネージャーは、AIを使う場面とあえて手作業で学ばせる場面を意図的に分け、育成のステップに合わせて仕事を割り振ることで、スキル向上と業務効率化を両立させることが可能です。
データの扱いと情報管理で守るべきポイント
AI活用では、データの扱いを誤ると情報漏えいや誤った判断につながるリスクがあります。社外秘の数値や個人情報を外部サービスにそのまま入力してしまうと、意図しない形で第三者に情報が渡る可能性もゼロではありません。マネージャーとしては、どの範囲のデータをAIに扱わせてよいか、会社としてのルールを確認・整理し、チームに分かりやすく伝えることが重要です。また、AIが出力した結果を記録し、どのような前提で作成されたかを説明できるようにしておくことも、ガバナンス上のポイントになります。便利さだけに目を向けず、情報管理の視点も忘れないようにしましょう。
経理部門でAIを安心して活用するには、「どのデータをどこまで扱ってよいか」「結果をどう記録するか」といった基本ルールを明確にしておく必要があります。すべてを一度に整えるのは難しくても、最低限押さえておきたい確認項目をチェックリストとして用意しておくことで、抜け漏れの防止につながります。
表:AI活用ルール ミニチェックリスト
| 確認項目 | 内容 | チェック |
|---|---|---|
| 取り扱うデータの範囲 | 社外秘情報や個人情報など、AIに入力してよいデータと入力してはいけないデータの基準を定めている。 | □ |
| 利用するツールと権限 | 業務で利用を許可するAIツールを明確化し、利用者の権限やアクセス範囲を管理している。 | □ |
| 出力結果の記録方法 | AIが作成した資料や判断材料について、どの程度記録・保存するかの方針を決めている。 | □ |
| メンバーへの周知・教育 | ルールや注意点をメンバーに共有し、定期的に見直しや補足説明を行っている。 | □ |
「任せる/残す」の線引きと同じくらい重要なのが、情報の扱い・検証手順・ログ(証跡)を先に決めて“事故らない運用”にすることです。管理職が押さえるべき運用ルールと導入手順は、以下の記事で体系的に整理しています。
AI時代を担うマネージャーからよくある質問(FAQ)
最後に、マネージャーがAI活用を進めるうえでよく出る疑問をQ&A形式で整理します。現場で迷いやすい「任せてよい範囲」「最初の題材」「情報の扱い」を中心に、判断の目安をまとめました。
Q1. マネージャーはAIをどこまで理解すべきですか?
A. 専門家レベルの知識は不要ですが、「AIが得意なこと/苦手なこと」と「任せてよい範囲」を説明できる状態は必要です。特に、根拠が曖昧な回答やもっともらしい誤りが混ざる前提で、最終確認は人が行う運用にします。あわせて、社内ルール(情報の持ち出し、保存先、権限)を理解しておくと、現場での事故を防げます。
Q2. AIに任せてはいけない仕事は何ですか?
A. 結論として、説明責任が重い最終判断(会計方針、監査対応の優先度、例外承認など)や、相手の感情・関係性に配慮が必要な対話(評価、1on1、交渉)は人が担うべきです。AIはたたき台や論点整理には有効ですが、採用するかどうかの判断と責任はマネージャー側に残します。
Q3. 小さく始めるなら、最初の題材は何が安全ですか?
A. 「失敗しても影響が限定的」「差し戻しがしやすい」「成果が見えやすい」テーマが安全です。具体的には、会議メモの要約、一次チェックの“怪しい候補”抽出、月次資料の構成案・コメント案の作成など、最終版は人が確認して確定できる業務から始めるのが現実的です。
Q4. AIを使うと部下が育たないのでは?
A. 育たない原因はAIそのものではなく、「育成上やらせるべき仕事」と「単純作業」を混ぜたままにする設計です。AIで単純作業の負荷を下げた分、部下には論点整理、原因分析、提案、説明など“判断の経験”を積ませる仕事を意図的に割り当てます。むしろ、育成のための時間を確保しやすくなります。
Q5. 情報漏えいを防ぐために最低限決めるべきルールは?
A. 最低限、「入力してよい情報/だめな情報」「利用するツールの範囲(社内許可済み)」「保存先(ログの扱い)」「権限(誰が使えるか)」「最終確認者」を決めます。個人情報・取引先情報・未公開数値などは原則入力せず、必要な場合は匿名化・要約・置換を徹底し、最終成果物は人が検証してから共有します。
まとめ
AI時代のマネジメントは、一度にすべてを変えるのではなく、小さな成功と学びを積み重ねるのが近道です。まずは日々の業務から“任せられそうな作業を1つ”選んで試し、結果をチームで振り返って次の改善につなげます。例えば、会議メモの整理や、月次資料の一部のたたき台づくりだけをAIに任せてみても良いでしょう。その結果をチームで振り返り、「どこが便利だったか」「どこに注意が必要か」を率直に話し合うことで、次の改善につながります。完璧な活用方法を最初から目指すのではなく、小さな成功と学びを積み重ねていく姿勢こそが、AI時代のマネージャーに求められる一歩だと言えます。






