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人手不足や法改正対応に追われ、「定型業務に時間を取られて、改善に手が回らない」と悩む中小企業は少なくありません。生成AIやAIエージェントへの注目は高まっていますが、「どの業務から自動化すべきか」「本当に費用対効果が出るのか」が分からず、検討が止まってしまうケースも多いです。
本記事では、まず経理・バックオフィスの負荷が大きい業務からAIによる業務自動化を進めるための考え方と、スモールスタートの進め方、効果の測り方を整理します。10分程度で読み終えたときには、自社がどこから着手すべきか、具体的な一歩がイメージできる状態を目指します。
中小企業はなぜ「AIによる業務自動化」を検討すべきか?
中小企業の経理・バックオフィスでは、人手不足や残業の常態化、属人化した業務が当たり前になりがちです。AIによる業務自動化は、「人を減らすため」ではなく、「限られた人員で事業を伸ばす」ための選択肢です。本章では、経営視点でのリスクと、従来の自動化との違いを整理し、なぜ今AI活用を検討すべきかを解説します。
人手不足・残業・属人化がもたらす経営リスク
経理や管理部門の人手不足や残業の増加は、「何となく大変」ではなく、決算遅延やミスの増加を通じて経営リスクに直結します。属人化した業務が多いほど、退職・異動が発生した際の業務停滞リスクも高まります。
特に中小企業では、ベテラン数名に業務が集中し、「この人がいないと回らない」状態になりがちです。この状態を放置すると、残業代の増加だけでなく、決算数値の精度低下や、金融機関・取引先への説明力低下にもつながります。AIによる業務自動化は、単純作業や定型判断を機械に任せ、限られた人材を「数字の分析」や「経営への提案」に振り向けるための手段と捉えるのが現実的です。
AIと従来の自動化(RPA・マクロ)は何が違うか?
従来の自動化は、エクセルのマクロやRPAなど、「あらかじめ決めた手順をその通りに実行する」ことが中心でした。一方、AIはパターン認識や文章の理解が得意で、「バラバラな書式の請求書を読み取る」「申請内容に不足がないかチェックする」といった、これまで人に依存していた仕事にも対応できます。
ただし、AIも万能ではありません。「あいまいな指示でも何とかしてくれる」という期待を持ちすぎると、かえってミスや混乱を招きます。中小企業がAIを活用する際は、「どの業務の、どの部分を任せるか」を具体的に切り出し、人間による最終確認や例外対応の設計をセットで考えることが重要です。
経理部門全体のデジタル変革とAI活用の位置づけをもう少し広い視点で整理したい場合は、以下の記事で、DXや単なるIT化との違いと実装ステップもあわせて確認してみてください。
AIで自動化しやすい業務はどこから選ぶべきか?
「AIで何ができるのか」が分からないまま検討を始めると、ツール選びが目的化しがちです。中小企業にとって現実的なのは、「定型で件数が多く、ルールに落とし込みやすい業務」から着手することです。本章では、特に経理まわりで自動化しやすい業務と、現場部門との分担の考え方を整理します。
経理まわりの「定型×件数が多い」業務から始める
最初の候補として挙げやすいのは、次のような業務です。
- 請求書の受領・内容の読み取り・仕訳候補の作成
- 経費精算の申請内容チェック(領収書の有無、金額の整合性など)
- 交通費・出張費の精算ルールチェック
- 支払予定表の作成や支払データの作成
これらはいずれも、「一定のルールに従って判断する」「件数が多く、ミスが起きると差し戻しや再確認の手間が増える」という共通点があります。AIは紙・PDF・画像からの読み取りや、ルールベースのチェックを得意としているため、人が1件ずつ確認していた部分を大幅に減らせます。
とくに経費精算まわりのAI自動化と、電帳法・インボイス対応を同時に進めたい場合は、以下の記事で具体的な運用ステップもチェックしてみてください。
現場部門やバックオフィスとの分担をどう設計するか?
AIによる業務自動化は、経理だけで完結しません。現場部門が入力する申請フォームや、証憑の提出方法がバラバラのままだと、AIが処理しきれず、結局経理側の手作業が残ってしまいます。
そのため、「現場はここまで入力する」「経理はここから先をAIと一緒に処理する」という分担ルールを決めることが重要です。例えば、現場担当者にはスマートフォンから申請してもらい、AIが内容チェックと仕訳候補作成を行い、経理は例外ケースだけを確認する、といった形が現実的です。こうした分担設計を先に決めておくと、AI導入後の業務フローもスムーズに定着しやすくなります。
以下の表は、中小企業でAIによる自動化の対象になりやすい業務を、「業務領域×自動化しやすさ×優先度」でまとめたものです。自社の状況と照らし合わせて、候補を絞り込む際のたたき台としてご活用ください。
表1:AIで自動化しやすい業務マップ
| 業務領域 | 具体的な業務例 | 自動化しやすさ | 優先度の目安 |
|---|---|---|---|
| 請求書処理 | 請求書の受領・内容読み取り・支払データ作成 | 高い(紙・PDF問わずパターンが多いがルール化しやすい) | ◎:件数が多く、締め日前後に集中する企業は最優先 |
| 経費精算 | 領収書の読み取り、申請内容のチェック、仕訳候補作成 | 高い(同じようなパターンが繰り返される) | ◎:差し戻しが多い企業は優先して検討 |
| 交通費・出張費 | 経路判定、運賃チェック、日当・宿泊費の計算 | 中〜高(ルールを整理すれば自動化可能) | ◯:申請件数が多い企業で有効 |
| 支払・振込 | 支払予定表作成、振込データの作成 | 中程度(他システムとの連携要件が多い) | ◯:請求処理の自動化とセットで検討 |
| マネジメント業務 | 承認状況のモニタリング、遅延アラート、簡易レポート | 中程度(業務の可視化と組み合わせが必要) | △:基礎部分の自動化が進んだ後に検討 |
経理・バックオフィスで手応えが得られた後は、営業事務のデータ入力や在庫管理など、同じく「定型×件数が多い」他部門の業務にも横展開していくことで、会社全体でのAI業務自動化の効果を高めやすくなります。
中小企業がAI業務自動化を始めるときの現実的な進め方は?
AIによる業務自動化は、「一気にすべてをAIに任せる」必要はありません。むしろ、中小企業にとって重要なのは、小規模に始めて結果を確認しながら、少しずつ範囲を広げていく進め方です。本章では、最初に決めておきたい目的と、スモールスタートの組み立て方を整理します。
「何時間・どの業務を減らしたいか」を先に決める
AIを導入する前に、まず「どの業務を、どれくらいの時間削減につなげたいか」を言語化しておくことが重要です。例えば、「請求書処理に月100時間かかっているので、半分の50時間に減らしたい」「経費精算の差し戻し件数を月30件から10件に減らしたい」といった具体的な目標です。
こうした目標がないままツールを導入すると、「便利にはなったが、どれだけ効果があるのか分からない」という状態になり、社内の理解が得られにくくなります。最初はざっくりとした目安でも構わないので、「時間」「件数」「残業時間」などの単位で目標を決めておくと、後の効果測定や改善も進めやすくなります。
小さく始めて検証し、うまくいったやり方を横展開する
ツール選定後は、いきなり全社で本格運用するのではなく、1つの部門・1つの業務に絞って小さく始めるのがおすすめです。例えば、「請求書処理のうち、特定の部門分だけ」「経費精算のうち、出張費だけ」といった限定的な範囲で運用してみます。
この小さな期間中は、「どの部分がスムーズに回っているか」「どこでエラーや差し戻しが発生しているか」「現場の負担はどう変わったか」を丁寧に観察します。そのうえで、ルールやマニュアルを修正し、うまくいった形を標準としながら、対象部門や対象業務を少しずつ拡大していくと、現場の抵抗感を抑えつつ定着させやすくなります。
以下は、1つの業務について4週間程度の試験運用を行う際に使える、簡易的な検証シートの例です。週ごとに「実施内容」と「気付いたポイント」を記録しておくことで、振り返りや改善に役立ちます。
表2:小さく始める検証シート(1業務×4週間の例)
| 週 | 実施内容 | 観察したポイント | メモ |
|---|---|---|---|
| 1週目 | 対象業務の範囲を限定し、AIツールを試験導入する | エラーの有無、現場からの質問内容、想定外の手戻り | 最初の印象や懸念点を自由記入 |
| 2週目 | 運用ルールやマニュアルを修正し、再度運用 | エラー件数の変化、処理時間の変化 | 改善後に変わった点を記録 |
| 3週目 | 対象ユーザーを少し増やして試す | 新たに出てきた課題、部門間の連携状況 | 他部門への展開の可否を検討 |
| 4週目 | 本格運用に向けた課題洗い出しと改善案の整理 | 目標値(時間・件数)とのギャップ | 次の展開(対象部門・対象業務)の候補を記載 |
中小企業でAIエージェントをどの業務から小さく試し、残業削減と法対応を両立させるかを詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
AI業務自動化の効果はどう測り、経営に説明すべきか?
AIによる業務自動化の効果は、「工数・残業・差し戻し率」など、現場の実感値と経営の判断に直結する指標で測り、それを金額インパクトに変換して説明することが重要です。「便利そうだから」ではなく、「どれだけ時間やコストが変わるか」で評価する必要があります。本章では、経理・バックオフィスで押さえておきたい基本指標と、それを金額ベースでどのように整理すれば経営層にも納得感を持ってもらえるかを解説します。
工数・残業・差し戻し率という基本指標
中小企業がAI自動化の効果を測る際は、まず次の3つの指標から始めると分かりやすくなります。
- 工数(担当者がその業務に使っている時間の合計)
- 残業時間(特に月末月初や決算期に集中する時間)
- 差し戻し率(申請や伝票が差し戻される割合)
例えば、「請求書処理の月間工数が100時間→50時間になった」「経費精算の差し戻しが月30件→12件になった」といった変化は、現場にとっての実感値と、経営にとっての合理性の両方を示しやすい指標です。まずは、AI導入前後の変化を追えるように、対象業務についてシンプルな記録を残しておくことが重要です。
時間削減を金額インパクトに変換して説明する
経営層への説明では、「何時間減ったか」だけでなく、その時間削減が人件費や将来の人員計画にどう影響するかを示すと、投資対効果を伝えやすくなります。
例えば、「請求書処理の自動化で、月100時間→20時間になった」という場合、80時間分の削減です。これに、担当者の平均的な人件費(時給換算)を掛け算すれば、概算のコスト削減額を算出できます。さらに、「削減された時間を決算分析や予算策定などの高付加価値業務に振り向ける」という観点もあわせて整理すると、単なるコスト削減ではない価値も示すことができます。
以下の表は、AI自動化の効果を数値化する際に使える、基本的なKPIと試算の枠組みです。自社の数字を当てはめながら、経営層への説明資料づくりの出発点としてご利用ください。
表3:AI業務自動化のKPIと効果試算テンプレート
| 指標 | 現状値 | 目標値 | 計算の考え方(例) |
|---|---|---|---|
| 月間工数 | 例:100時間 | 例:50時間 | (現状工数 − 目標工数)× 時給換算額 = 月間削減額 |
| 残業時間 | 例:40時間 | 例:20時間 | (残業削減時間 × 残業単価)を算出し、繁忙期の負荷軽減もあわせて説明 |
| 差し戻し率 | 例:20% | 例:5% | 差し戻し1件当たりの対応時間 × 件数の減少 = 間接的な削減工数 |
| 処理リードタイム | 例:請求処理完了まで5営業日 | 例:3営業日 | 早期化により、決算締め・資金繰り管理の質がどう変わるかを定性的に記載 |
なお、AI業務自動化の費用は、ツールのライセンスや初期設定費用だけでなく、「現場メンバーのトライアル参加時間」「ルール・マニュアル整備にかかる時間」も含めて見積もると、より現実的な投資対効果を把握できます。
AI自動化ツールの比較・選定に使える評価ポイントをより詳しく押さえたい場合は、以下の記事で具体的なチェック項目も確認してみてください。
AI業務自動化のありがちな失敗パターンと、その防ぎ方は?
AIによる業務自動化は、うまくいけば大きな効果を生みますが、準備不足のまま着手すると「現場に受け入れられない」「結局手作業が残る」といった失敗につながります。本章では、よく見られる失敗パターンとその症状、事前にとれる対策を整理します。
ツール先行で「何を任せるか」が決まっていない
ありがちなケースが、「話題になっているから」「他社も導入しているから」といった理由でツールを決めてしまい、「どの業務の、どの作業を任せるのか」が曖昧なままプロジェクトが進むパターンです。その結果、運用開始後に「想定していた業務には合わなかった」「現場の入力作業が増えてしまった」という不満が出てしまいます。
これを防ぐには、ツール検討の前段階で「対象業務」「目的」「削減したい工数」を整理し、社内で合意しておくことが重要です。そのうえで、「この業務にはどのような自動化の選択肢があるか」を検討していけば、ツール選定もブレにくくなります。
現場を巻き込めず、途中で止まってしまう
もう一つの失敗要因は、経理・情報システム部門だけでプロジェクトを進めてしまい、実際に入力する現場部門が十分に巻き込まれていないケースです。現場からすると、「これまでより入力項目が増えた」「操作が分かりにくい」と感じた時点で、申請の遅延や誤入力が増え、結果的に経理側の手間が増えてしまいます。
対策としては、早い段階から現場代表者を巻き込み、「現場の負担を増やさずに済む運用」を一緒に検討することが重要です。試験運用のフェーズで現場からの声を丁寧に拾い、マニュアルや入力画面の改善に反映させることで、定着しやすい仕組みになります。
以下の表は、AI自動化プロジェクトで見られがちな失敗パターンと、そのとき現場で起きる症状、事前にとれる対策を整理したものです。計画段階で一度チェックしておくと、同じ失敗を避けやすくなります。
表4:AI業務自動化の失敗パターン×症状×対策
| 失敗パターン | 現場で起きる症状 | 事前にとれる対策 |
|---|---|---|
| ツール先行で業務設計が不十分 | 「結局手作業が残る」「想定業務に合わない」といった声が出る | 対象業務・目的・削減したい工数を先に整理し、候補ツールを後から検討する |
| 現場部門の巻き込み不足 | 入力遅延や誤入力が増え、差し戻し件数が増加する | 現場代表者をメンバーに含め、試験運用の段階から意見を反映する |
| ルール・マニュアルの整備不足 | 担当者ごとに運用方法がばらつき、例外対応が増える | 「よくあるパターン」を整理し、画面キャプチャ付きの簡易マニュアルを用意する |
| 効果測定の指標がない | 導入後に「効果があるのか分からない」と評価が曖昧になる | 導入前に工数・残業・差し戻し率などの基準値を記録しておく |
中小企業のAI業務自動化の成功事例から何を学べるか?
実際にAIやクラウドサービスを活用して業務自動化に取り組んだ企業では、「月次決算の短縮」や「少人数で大量の請求書処理を実現」といった成果が出ています。本章では、製造業や食品関連企業、自治体の事例(TOKIUM導入事例より)をもとに、中小企業が参考にしやすいポイントを整理します。
製造業の事例:売上計上の自動化で月次決算を前倒し
ある従業員約160名の製造業では、多様なフォーマットで届く売上報告書の処理が月次決算のボトルネックになっていました。紙で届く報告書をもとに、出資比率を加味した自社分の売上を手計算し、会計システムに入力する必要があり、特定の担当者に業務が集中していたのです。
AIと人の組み合わせによる外部スタッフ活用と業務標準化により、売上計上業務の完了が従来より2日間早まり、月次決算の早期化を実現しました。さらに、属人化していた業務がマニュアル化され、業務の継続性が高まったことで、削減された時間を連結決算や経営管理の業務に振り向けられるようになっています。
中小企業にとっての示唆は、「一見外に出しにくそうな業務でも、ルールを整理すれば切り出せる場合がある」「AIと人の組み合わせで、決算のボトルネックを解消できる」という点です。
食品製造+自治体の事例:請求書処理を少人数で回す仕組み
食品製造業の企業では、デジタルから手書きまで多様な形式の請求書が届き、少数のベテラン社員に処理が集中していました。クラウドサービスとAIを活用して請求書のデジタル化と経費精算のオンライン化を進めた結果、請求書の約7割以上をペーパーレス化し、場所や時間に縛られない処理体制を実現しています。
また、自治体の学校給食費を担当する部署では、市内52校分・月600件以上の食材費請求書をわずか2名で処理する必要がありました。AIによるデータ化とワークフローの見直しにより、年間1,000時間以上の業務時間を削減し、仕入れ先や学校側の負担を増やすことなく効率的なプロセスを構築しています。
これらの事例からは、「手書きや紙文化が残る業務でも、AIを組み合わせれば少人数で処理できる」「自社だけでなく、取引先や関係者の負担も考慮した設計が重要」というポイントを学べます。
これから3か月で何から着手すればよいか?
ここまでの内容を踏まえると、「どの業務を」「どのような順番で」進めるかが見えてきます。本章では、これから3か月ほどで現実的に取り組めるステップを、「準備」「試験運用」「定着」の3つに分けて整理します。大きな投資や組織変更を行う前に、負荷を抑えながら一歩を踏み出すための考え方です。
1〜3か月で取り組みたい「準備」と「小さな実践」
最初の1か月は、対象業務の棚卸しと現状の工数測定に充てるのが現実的です。請求書処理や経費精算など、候補となる業務について「月あたり何件」「誰がどれくらいの時間をかけているか」「どこで差し戻しやミスが起きているか」を把握します。
次の1〜2か月で、候補の中から1業務を選び、小さく試すスモールスタートを設計します。テスト対象の範囲(部門・期間)と、試験運用中に確認したい指標(工数・差し戻し・現場の負担感)を事前に決めておくと、振り返りもスムーズです。
社内で合意しながら一歩ずつ進めるコツ
AI自動化は、経理・情報システム部門だけで完結するテーマではありません。現場部門や経営層にとっても、「何が変わるのか」「どこまで任せて良いのか」は関心の高いポイントです。
そのため、計画段階から「目的」と「期待する効果」を共有し、試験運用の結果を定期的に報告する場を設けることが重要です。うまくいった点だけでなく、うまくいかなかった点や課題も含めて共有することで、社内全体での納得感が高まり、次の一歩(対象範囲の拡大)にもつながりやすくなります。
最後に、これから90日間でAIによる業務自動化を進める際の、シンプルなアクションプランの例をまとめました。自社の状況に合わせて、期間や項目を調整しながらご活用ください。
表5:中小企業のAI業務自動化「最初の90日」アクションプラン
| 期間の目安 | 主な取り組み内容 | 関わるメンバー | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1〜4週目 | 対象業務の棚卸し、現状工数・差し戻し状況の把握 | 経理、現場代表者、必要に応じて情報システム | 「どの業務を、どれだけ減らしたいか」を数値で言語化する |
| 5〜8週目 | スモールスタートの設計と試験運用(1業務・1部門に限定) | 経理、対象部門の担当者 | 週単位で気付きを記録し、ルールやマニュアルを柔軟に修正する |
| 9〜12週目 | 結果の振り返り、効果測定、次の展開範囲の検討 | 経理、関係部門、経営層 | 数字と現場の声をセットで共有し、次に広げるべき業務を決める |
中小企業のAI業務自動化でよくある質問(FAQ)は?
最後に、中小企業の経理・バックオフィスの方からよくいただく質問を3つだけまとめました。AIによる業務自動化に一歩踏み出す際の不安や疑問を、できるだけシンプルに整理していますので、自社の検討状況と照らし合わせながら確認してみてください。
Q1. 中小企業でAIによる業務自動化を始めるとき、最初の一歩は何ですか?
A. 最初の一歩は、「どの業務にどれくらい時間がかかっているか」をざっくり把握することです。とくに、請求書処理や経費精算などの「定型で件数が多い業務」について、月あたりの件数と担当者の工数を見える化すると、最初に着手すべき候補が自然と絞られてきます。そのうえで、1つの業務・1つの部門に対象を限定し、小さく試せるスモールスタートを設計するのが現実的です。
Q2. AI業務自動化の費用対効果は、どうやって経営層に説明すればよいですか?
A. まずは「月間工数」「残業時間」「差し戻し件数」といった基本指標を導入前後で比較し、どれだけ時間が減ったかを数字で示すことが重要です。そのうえで、削減できた時間に平均的な人件費(時給換算)を掛け算し、概算のコスト削減額として整理します。また、「空いた時間を決算分析や予算策定などの高付加価値業務に振り向ける」という視点も添えて説明すると、単なるコスト削減以上の効果を伝えやすくなります。
Q3. 社内から「AI導入は不安」「業務が変わりそうで心配」という声が出た場合、どうすればよいですか?
A. 不安の多くは、「何がどこまで変わるのか分からない」「自分の仕事がなくなるのではないか」という情報不足から生まれます。そのため、最初に「AIに任せるのはこの業務のこの部分だけ」「最終判断は人が行う」など、役割分担を具体的に共有することが大切です。あわせて、小さな範囲で試験運用を行い、現場メンバーからの意見をルールやマニュアルの改善に反映していくと、「自分たちで育てていく仕組み」として受け入れてもらいやすくなります。
まとめ
中小企業がAIによる業務自動化で成果を出すためには、「何となく便利そう」なツール選びではなく、経理・バックオフィスの課題から逆算して着手領域を決めることが重要です。まずは紙やエクセルに依存している定型業務を洗い出し、「入力・チェック・集計」のような繰り返し作業からスモールスタートで自動化します。そのうえで、削減できた時間や差し戻し件数、残業時間などをKPIとして定期的に振り返ることで、投資額に対する効果を経営陣にも説明しやすくなります。
同時に、現場メンバーの不安を解消しながら、業務ルールや権限設定を整えることで、AIは「一部の詳しい人だけが使う道具」ではなく、組織全体の生産性を底上げする基盤になります。本記事を参考に、まずは自社に合った小さな一歩からAI業務自動化を進めてみてください。






