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人手不足や残業の増加を背景に、「AIで業務を自動化できないか」と考える企業が増えています。しかし、どこまで機械に任せられるのか、どこからが人の判断なのか、具体的な線引きが分からないままツール検討だけが先行してしまうケースも少なくありません。
本記事では、AIによる業務自動化の基本的な考え方と、バックオフィスを中心に『どこまでAIに任せられるのか』『どのように始めるべきか』を整理します。AIによる業務自動化で「できること・できないこと」を整理しつつ、経理をはじめとしたバックオフィス業務を例に、失敗を避けながら始めるための手順と、AIエージェントやRPAとの組み合わせ方まで、やさしく解説します。
AIで業務を自動化するとき、まず何を知っておくべきですか?
まず押さえたいのは、「AIでできること・できないこと」と「従来の自動化との違い」です。ここをあいまいにしたまま検討を進めると、「何となく便利そうだから」「周りが導入しているから」という理由だけでツールを選んでしまい、あとから現場とのミスマッチが起きやすくなります。この章では、RPAやマクロによる自動化と比較しながら、AIによる業務自動化の特徴を整理し、どのような前提で検討を進めるべきかを解説します。
AIによる業務自動化とは?従来のRPA・マクロとの違い
AIによる業務自動化は、「人が行ってきた判断や文章の読み取りを、AIが代わりに担うことで、作業時間やミスを減らす」ことを目指す取り組みです。従来のRPAやマクロは、「決められた手順を、決められた画面で、決められた順番に実行する」といった、ルールが明確な繰り返し作業を得意としてきました。一方AIは、請求書やメールの文章を読み取って内容を理解したり、過去データからパターンを学習して、ある程度の判断を行ったりできる点が特徴です。
そのため、単純なクリック作業の自動化だけでなく、「内容を読んで仕訳案を作る」「文章から要点をまとめる」といった、これまでは人の担当範囲だった業務にも踏み込めるようになっています。
AIが得意な業務・苦手な業務の見分け方
AIが得意とするのは、「データ量が多く、パターンがはっきりしている業務」です。たとえば、請求書の金額や日付の読み取り、領収書の分類、定型的な問い合わせへの回答などは、AIが学習しやすく、自動化の効果も出やすい領域です。
一方で、経営判断に関わるような複雑な意思決定や、相手との関係性を踏まえた交渉、社内調整を伴う案件の判断などは、現時点では人の役割が中心になります。AIに任せる範囲と、人が最終判断を行う範囲をあらかじめ整理しておくことで、「AIに任せすぎてしまうリスク」と「人が抱え込みすぎる非効率」の両方を防ぎやすくなります。
以下の表は、代表的なバックオフィス業務を例に、AIで自動化しやすい業務と、現時点では人の関与が不可欠な業務の違いを整理したものです。自社の業務をイメージしながらご覧ください。
表1:自動化しやすい業務/しにくい業務
| 業務内容 | 自動化しやすさ | AIに任せやすい部分 | 人が担うべき部分 |
|---|---|---|---|
| 経費精算の申請内容チェック | ◎ | 申請内容と規程の突合、金額や日付の形式チェック | 規程外の例外判断、違反時の対応方針の決定 |
| 請求書の読み取りと仕訳案の作成 | ◎ | 金額・取引先・日付などの読み取り、勘定科目の候補提示 | 例外的な取引の判断、科目の最終決定 |
| 勤怠データの集計と残業時間の算出 | ○ | 打刻情報の集計、残業時間や深夜時間の自動計算 | 労働時間の適正性の確認、是正が必要な部署との調整 |
| 経営会議向けの資料作成 | △ | 元データからのグラフ作成、要点のたたき台作成 | ストーリー設計、メッセージの最終調整 |
| 取引条件や価格の交渉 | △ | 過去取引データの整理、交渉材料の整理 | 相手企業との関係性を踏まえた判断と交渉 |
生成AI・AIエージェントなど最近の用語をかんたんに整理
最近は、「生成AI」や「AIエージェント」といった新しい言葉もよく耳にするようになりました。生成AIは、人が入力した文章やデータを元に、新しい文章や要約、アイデアを自動で作り出すAIのことです。経理の現場では、マニュアルのたたき台作成や、規程の要点をまとめる用途などで活用が進んでいます。
AIエージェントは、「特定の目的を持って、自動的に情報を集めたり処理を行ったりするAIの“担当者”」のようなイメージです。請求書処理や経費精算といった一連の流れを、複数のAIエージェントで分担し合うことで、これまで人が行ってきた一連の事務作業を大きく減らすことが期待されています。
AIで業務を自動化すると、どのようなメリットとリスクがありますか?
AIによる業務自動化は、単純に「作業時間が減る」だけでなく、ミスの減少や属人化の解消、ガバナンスの強化など、さまざまなメリットをもたらします。一方で、データの品質やセキュリティ、法令順守への配慮が足りないまま導入を急ぐと、誤った判断や情報漏えいのリスクも高まります。この章では、良い面と注意点の両方を整理し、「メリットが大きいが、適切な設計と運用が必要」という現実的なイメージを持っていただくことを目指します。
生産性向上・残業削減・人手不足対策としての効果
AIによる業務自動化の分かりやすい効果は、担当者一人ひとりの作業時間を減らし、全体の処理量を増やせる点です。請求書の読み取りや経費精算の一次チェックなどをAIに任せることで、月末月初の繁忙期でも、従来より少ない人数で同じ量の処理をこなせるようになります。その結果として、残業時間の削減や、採用難が続く中での人手不足対策にもつながります。
また、同じ処理をAIが繰り返し実行することで、担当者による処理スピードのばらつきも小さくなり、業務全体の見通しを立てやすくなる点もメリットです。
ミス削減・不正検知などガバナンス面のメリット
AIは、大量のデータを高速に比較することが得意です。その特性を生かし、過去の取引履歴と照らし合わせて不自然な金額を検知したり、経費精算で規程に合致しない申請を自動的に抽出したりできます。
これにより、「忙しくて十分なチェックができない」「担当者によってチェックの厳しさが違う」といった課題を和らげることができます。また、AIの判定結果と人の最終判断をログとして残しておくことで、不正の早期発見や、監査対応の効率化にもつながります。
データ品質・セキュリティ・法令順守の注意点
一方で、AIの判断はあくまで入力されたデータや学習したパターンに依存します。元となるマスタデータが古い場合や、紙・メール・口頭でのやり取りが多くデータが散在している場合には、AIの精度も十分に発揮されません。また、外部のクラウドサービスを使う場合には、どのデータがどこに保存されるのか、暗号化やアクセス制御の仕組みがどうなっているのかを事前に確認することが重要です。
会計・税務・労務などの領域では、関連する法令や通達にも配慮し、AIの提案をそのまま受け入れるのではなく、人が最終的に妥当性を確認する前提で運用することが求められます。
AI任せにしすぎないための「人の関わり方」
AIを導入したあとも、「どこまでAIに任せてよいか」「どこから人が必ず確認するか」を定期的に見直すことが欠かせません。導入初期は、AIの提案や判定に対して、人が必ずダブルチェックを行い、誤判定のパターンを洗い出します。そのうえで、一定期間問題がなかった業務については、確認の頻度を下げたり、サンプルチェックに切り替えたりするなど、リスクと効率のバランスを調整していきます。
このように、AIに任せっぱなしにするのではなく、「AIの出力を理解し、必要に応じて修正・改善する」役割を人が担うことが、運用成功の鍵となります。
経理以外でAI自動化しやすい代表的な業務例
本章で整理したメリットとリスクは、経理以外の業務でも同様にあてはまります。たとえば、総務・情報システム部門では、よくある社内問い合わせへの一次回答をAIチャットに任せることで、担当者が対応すべき件数を絞り込むことができます。FAQやマニュアルをあらかじめ学習させておけば、簡単な質問への回答案を自動生成し、人は内容を確認してから送信するだけ、という分担も可能です。
人事・労務では、勤怠データから残業時間の多い部署を洗い出したり、長時間労働が続いている従業員を自動で抽出したりする用途が考えられます。AIが事実データを整理し、人が個別の事情を踏まえて対応策を検討することで、「見落とし防止」と「きめ細かなフォロー」を両立しやすくなります。
さらに、営業やマーケティングでは、過去の営業日報や問い合わせ履歴を要約して傾向を把握したり、提案書やメール文のたたき台を自動生成したりするケースも増えています。このように、AIは「判断そのもの」を完全に置き換えるというより、各部門の定型作業や資料作成の負担を減らし、人が検討に使える時間を増やすための道具として活用するのが現実的です。
経理をはじめとするバックオフィスでは、どの業務から自動化しやすいですか?
「AIで業務を自動化したい」と考えても、どの業務を対象にすればよいか分からないまま、検討が止まってしまうケースは少なくありません。この章では、経理・会計、人事・労務、総務・問い合わせ対応など、バックオフィス全体を俯瞰しながら、自動化しやすい業務と、そうでない業務の具体例を整理します。あわせて、AIエージェントや複数のAIを組み合わせた自動化のイメージも紹介し、自社での活用をイメージしやすくすることを目指します。
経理・会計で自動化しやすい業務(請求書処理・仕訳・経費精算など)
経理・会計は、AIによる業務自動化の効果が出やすい領域のひとつです。具体的には、以下のような業務が候補になります。
- 請求書の読み取りと支払処理のためのデータ作成
- カード明細や銀行明細の自動取り込みと仕訳案の作成
- 経費精算の申請内容チェックと規程違反の抽出
- 月次決算での勘定科目ごとの金額チェックや差異分析のたたき台作成
これらは、一定のルールに基づいて繰り返し行われる業務であり、かつデータ量が多いため、AIの学習効果が出やすいのが特徴です。一方で、決算の最終判断や監査対応などは、人が主導で行う前提を維持することが現実的です。
人事・労務での活用例(勤怠管理・給与計算など)
人事・労務領域でも、AIによる自動化の余地は広がっています。たとえば、勤怠データの集計と残業時間の算出、36協定の上限超過が疑われる従業員の抽出、給与計算に必要な各種データのチェックなどが挙げられます。
また、新入社員向けの説明資料の作成や、就業規則に関するよくある質問への回答、研修レポートの要約など、文章を扱う業務もAIの活用対象になります。法令や就業規則に関する最終的な判断は人が行う必要がありますが、「判断のための材料づくり」にAIを活用することで、担当者の負荷を大きく減らすことができます。
問い合わせ対応や資料作成など、他部門の活用例
総務や情報システム部門などでは、社内外からの問い合わせが多く、同じような質問に何度も回答しているケースがあります。こうした問い合わせ履歴やマニュアルをAIに学習させることで、チャット形式での自動応答や、回答案のたたき台作成を行うことができます。
また、営業資料や社内説明資料の作成においても、過去の資料や数値を元にドラフトを生成し、人が仕上げを行うといった分担が可能です。このように、AIは「0から資料を完成させる」というよりも、「たたき台を素早く作り、人が仕上げる」役割で活用すると、効果が出やすくなります。
AIエージェント・マルチエージェントによる一連の業務の自動化
さらに一歩進んだ活用として、複数のAIエージェントが役割を分担し、一連の業務をまとめて自動化するパターンがあります。たとえば、請求書処理であれば、
- 請求書を受け取りデータ化するAI
- 経理規程に基づき仕訳案を作成するAI
- 不自然な金額や項目をチェックするAI
- 承認フローに回すための情報を整理するAI
といったかたちで、複数のAIが連携して動くイメージです。これらをまとめて動かす「土台」としてワークフローや会計システムと連携させることで、人の手が入るのは例外処理や最終承認だけ、という状態に近づけることができます。
中小企業でのAI自動化のイメージケース
中小企業でも、AIによる業務自動化は「身近なところから少しずつ進める」イメージが現実的です。たとえば、従業員300名規模の企業で、請求書処理に毎月100時間ほどかかっていたケースでは、紙やPDFで届く請求書の読み取りと会計システムへの入力を自動化することで、作業時間を数分の1に圧縮し、担当者1名で回せるようになった事例が報告されています。
また、経費精算や小口現金管理をクラウド化し、領収書の読み取りや入力をAIに任せることで、年間数百〜1,000時間以上の工数削減につながった事例もあります。こうした取り組みに共通するのは、まずは紙のやり取りや二重入力を減らし、「AIが読み取れるデータの形」に整えるところからスタートしている点です。
このように、すべての業務を一度に自動化する必要はありません。請求書処理や経費精算など、件数が多くルールが比較的明確な業務から着手し、削減できた時間を他の業務改善に振り向けていくことで、限られた人員でも着実に生産性を高めることができます。
AIによる業務自動化は、どのような手順で進めればよいですか?
AIの情報やツールを集める前に、「どの業務を、どの順番で自動化するか」という道筋を決めておくことが重要です。行き当たりばったりで導入を進めると、「一部の部署でしか使われない」「担当者が変わった途端に止まってしまう」といった結果になりかねません。この章では、現状の棚卸しからスモールスタート、効果測定、全社への広げ方まで、経理部門でも取り組みやすい4つのステップに分けて解説します。
現状業務の棚卸しと「自動化候補」の洗い出し方
最初のステップは、現状の業務を可視化することです。経理・総務・人事など部門ごとに、「どのような業務が、どのくらいの頻度と工数で発生しているか」を一覧にまとめます。このとき、エクセルなどの表計算ソフトを使って、業務名・担当者・月あたりの時間・件数・使用しているシステムなどを簡単に整理しておくと、後続の検討がしやすくなります。
そのうえで、「件数が多い」「ルールが決まっている」「ミスが起きると影響が大きい」といった観点から、自動化候補になりそうな業務に印をつけていきます。ここでは、完璧を目指す必要はなく、「気になる業務を拾い出す」程度の粗い粒度で問題ありません。
優先順位の付け方とスモールスタートの進め方
次に、自動化候補となった業務に優先順位を付けます。ポイントは、「効果の大きさ」と「実現のしやすさ」の両方を見ることです。たとえば、件数が多く、ルールも比較的単純な経費精算の一次チェックは、効果と実現性のバランスが良い典型例です。
はじめから多くの業務を対象にするのではなく、最初は1〜2業務に絞ってスモールスタートで取り組みます。この段階で、「どのような条件でAIが判断するか」「人の確認はどこで入れるか」といった運用ルールを細かく固めすぎず、試行錯誤しながら最適な形を探っていく姿勢が重要です。
なお、「業務のデジタル変革」を全社的にどう設計するかという視点については、以下の記事で詳しく解説しています。AIによる自動化を位置づける前提として、あわせて確認しておくと整理しやすくなります。
効果測定のための指標(時間・件数・ミス数など)
スモールスタートの段階から、「どの指標で効果を測るか」を決めておくと、自動化の成果を社内で説明しやすくなります。代表的な指標としては、「処理にかかる時間(1件あたり/月あたり)」「一次差し戻し率や入力ミス件数」「繁忙期の残業時間」「担当者一人あたりの処理件数」などが挙げられます。
以下の表は、AIによる業務自動化を進める際の4つのステップと、それぞれのポイントを整理したものです。プロジェクトの全体像を共有する際のたたき台としても活用できます。
表2:AI業務自動化の導入ステップ
| 導入ステップ | 主な内容 | ポイント |
|---|---|---|
| STEP1 現状の整理 | 業務一覧の作成、工数・件数・ミス件数の把握 | 「どの業務にどれだけ時間がかかっているか」を見える化する |
| STEP2 候補選定と優先付け | 自動化候補業務の選定、効果と実現性の評価 | 件数が多くルールが明確な業務から選び、スモールスタートを前提にする |
| STEP3 試験導入(スモールスタート) | 対象業務を絞り、AIの設定と運用ルールを仮決めして試行 | 完全な仕組みを目指すのではなく、短いサイクルで見直す前提にする |
| STEP4 効果測定と横展開 | 削減時間やミス件数などの変化を確認し、他業務への展開を検討 | 数字で成果を示し、現場と経営層が納得できる材料をそろえる |
続いて、効果を数字で確認するための簡易KPI表を用意しておくと便利です。部署ごとに項目をカスタマイズしながら運用すると、「どこまで自動化できたか」を継続的に把握しやすくなります。以下は、AIによる業務自動化の効果を確認する際に使いやすい指標の例です。実際の運用では、自社の状況に合わせて項目や数値を調整してください。
表3:AI業務自動化の効果測定KPI簡易テンプレート
| 指標 | 導入前の例 | 目標値の例 | 測定頻度 |
|---|---|---|---|
| 1件あたりの処理時間 | 5分/件 | 3分/件(約40%削減) | 毎月 |
| 一次差し戻し率 | 15% | 5%以下 | 毎月 |
| 繁忙期の残業時間 | 40時間/人・月 | 25時間/人・月 | 四半期ごと |
| 担当者1人あたりの処理件数 | 800件/月 | 1,200件/月 | 四半期ごと |
| 自動化対象業務の割合 | 全業務の10% | 全業務の30% | 半年ごと |
うまくいった取り組みを横展開するときのポイント
スモールスタートで効果が確認できたら、同じやり方を他の業務や他部署にも広げていきます。このとき、「単にツールを広げる」のではなく、成功した背景にある運用ルールやコミュニケーションの方法もセットで共有することが重要です。
例えば、申請者向けの説明資料や、よくある質問の一覧、エラー発生時の対応手順などをテンプレート化しておくと、別の部署でもスムーズに運用を始められます。また、定期的に担当者同士の情報交換の場を設け、うまくいっている工夫や課題を共有することで、全社的な定着が進みやすくなります。
経理領域に特化したAIエージェントの仕組みや活用シーン、導入ステップについては、以下の記事で詳しく解説しています。より踏み込んだイメージを持ちたい方は、あわせてご覧ください。
AIとRPA・既存システムを組み合わせると、どこまで自動化できますか?
AIによる業務自動化の効果を最大限に引き出すには、RPAやワークフロー、会計システムなど既存の仕組みとの「役割分担」が欠かせません。AIだけで完結させようとするのではなく、既存システムの強みと組み合わせることで、より広い範囲を安定して自動化しやすくなります。この章では、AIとRPA・各種システムの得意分野と役割分担、一連の処理フローのイメージ、中小企業でも取り組みやすい構成例を紹介します。
RPAとAIの得意分野と役割分担
RPAは、「画面操作やファイル操作など、決められた手順を正確に繰り返す」ことを得意とする仕組みです。一方、AIは「文章や画像の内容を理解し、パターンをもとに判断する」ことを得意とします。例えば、請求書処理であれば、AIが請求書の内容を読み取ってデータ化し、金額や取引先を判定します。
そのうえで、RPAが会計システムにログインして必要な項目を入力し、支払処理のためのデータ登録を行う、といった分担が考えられます。このように、AIとRPAそれぞれの強みを生かすことで、人が行う作業範囲を最小限に抑えることができます。
書類読み取り→チェック→システム登録までの一連フロー例
具体的なイメージが持てるよう、請求書処理のフロー例を見てみましょう。
- 取引先から届いた請求書を、統一された窓口(専用メールアドレスやアップロード画面)に集約する
- AIが請求書の内容を読み取り、金額・取引先・日付・振込先などをデータ化する
- 経理規程に基づいて、支払期日や勘定科目の候補をAIが提案する
- 人が提案内容を確認し、例外的な取引がないかをチェックする
- 問題がなければ、RPAが会計システムにログインし、必要な項目を自動入力する
このような流れを構築することで、請求書の到着から支払処理までの大半を自動化し、人は例外対応や最終判断に集中できるようになります。
中小企業でも始めやすい「最小構成」の例
中小企業の場合、いきなり複雑な仕組みを整えるのではなく、既に利用しているワークフローや会計システムと連携しやすい範囲から始めることが現実的です。例えば、既存のワークフローに、AIによる申請内容チェック機能を追加、銀行明細やカード明細を、AIで自動分類し、会計システムに取り込む、経費精算アプリと連携しレシート画像からの読み取りと仕訳案作成だけAIに任せるといった「最小構成」からスタートし、効果が確認できた段階でRPAや他システムとの連携範囲を広げていくと、リスクを抑えながら段階的に自動化を進められます。
AI時代の経理担当者には、どのような役割とスキルが求められますか?
AIや経理AIエージェントが普及すると、「経理の仕事がなくなるのではないか」と不安に感じる方もいます。しかし実際には、データやAIを活用して業務を設計・監督する役割の重要性が高まっており、求められるスキルが変化していると考えるのが現実的です。この章では、AI導入後の経理担当者・マネジャーに求められる役割と、今から準備しておきたいスキル・マインドセットを整理します。
AIに任せる仕事と、人が担う仕事の線引き
AIを前提とした経理業務では、「AIが担当する定型作業」と「人が担うべき判断・調整」を切り分けることが欠かせません。AIには、領収書の読み取りや仕訳案の作成、申請内容の形式チェックなど、ルールに基づいて繰り返す作業を任せる一方で、新しい取引や複雑な契約条件の解釈、経営層への説明や、関係部署との調整、ガバナンスやコンプライアンスの観点からの最終判断といった業務は、人の担当範囲として残ります。
経理担当者は、自身の仕事をこの観点で見直し、「AIに任せられる部分」と「自分ならではの価値を出す部分」を意識的に整理していくことが求められます。
データ品質の維持・運用ルール整備という新しい役割
AIや経理AIエージェントを活用するうえで、データの品質と運用ルールの整備は非常に重要です。マスタデータの更新が滞っていたり、部署ごとに独自のエクセルファイルが乱立していたりすると、AIの判断精度も下がってしまいます。
これからの経理担当者には、勘定科目や取引先マスタの整備、承認フローや申請ルールの見直し、データ入力ルールの標準化と周知といった、「仕組みづくり」の役割が求められます。また、AIの提案が適切かどうかを継続的にモニタリングし、必要に応じてルールを修正する「運用の管理者」としての視点も重要です。
AIを前提としたキャリア・スキルの考え方
AIの活用が進むほど、「経理担当者=入力やチェックを行う人」というイメージは薄れていきます。その代わりに、新しいツールの導入や運用設計をリードする、経営層や現場へ、数字を分かりやすく伝えられる、データを使って業務の改善提案を行えるといったスキルの重要性が増していきます。
短期的には、AIを使いこなすための基本的なITリテラシーや、ツールの設定・運用に関する知識が必要になりますが、中長期的には「業務全体をどう設計するか」「どの指標で経営を支えるか」といった視点が、キャリアの差別化要因になっていくと考えられます。
経理AIエージェントを前提にした業務設計やキャリアの考え方については、「経理AIエージェントとは?活用シーンや導入ステップを徹底解説」も参考になります。
AIによる業務自動化について、よくある質問
AIによる業務自動化に関して、経理部門からよくいただく疑問をコンパクトにまとめました。細かい検討の前に、「どれくらい効果が出るのか」「中小企業でも本当に必要なのか」「人員削減が前提なのか」といった不安を整理しておくことで、社内の合意形成が進めやすくなります。
Q1. AIで業務を自動化すると、どれくらいの期間で効果が実感できますか?
A. 業務の種類や準備状況にもよりますが、「請求書処理」「経費精算のチェック」など、ルールが明確で件数が多い業務であれば、数か月〜半年程度で時間削減の効果が見え始めるケースが多いです。まずは1〜2業務に対象を絞り、削減できた時間や残業時間の変化を、月次・四半期ごとに数字で追いかけることが重要です。
Q2. 中小企業でも、AIによる業務自動化に取り組む必要はありますか?
A. 人員が限られる中小企業ほど、単純作業をAIに任せて、少人数で業務を回す工夫が重要になります。特に、請求書処理や経費精算、勤怠集計などの事務作業は、1人あたりの担当範囲が広くなりがちなため、AIによる自動化の効果が出やすい領域です。すべてを同時に自動化するのではなく、「最も負担が大きい1業務」から小さく試すのがおすすめです。
Q3. AIを入れると、人員削減が前提になってしまうのではないでしょうか?
A. 実際の事例では、「人を減らす」よりも「増員せずに業務量の増加に対応する」「残業を減らし、付加価値の高い仕事に時間を振り向ける」といった目的で活用されるケースが多くなっています。
AIにルーティン作業を任せることで、経理やバックオフィスの担当者が、経営数字の分析や業務改善など、より意思決定に近い役割にシフトしていくことが現実的な方向性です。
まとめ:AIによる業務自動化は「全部任せる」のではなく「うまく分担する」ことが鍵
AIによる業務自動化は、「すべてを機械に任せる」のではなく、「人がやるべき仕事との分担を見直す」取り組みです。まずは、手順が決まっていて件数の多い作業から候補を洗い出し、スモールスタートで検証しながら、自社に合うやり方を見つけていくことが重要です。経理・会計の領域では、請求書処理や仕訳、経費精算など、すでに多くの企業で成果が出ている領域から始めると効果が実感しやすくなります。あわせて、データの品質や運用ルール、セキュリティを整え、AIと人が協力して仕事を進める体制を整えることで、残業削減やミスの抑制だけでなく、より戦略的な業務へ時間を振り向けられるようになります。





