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紙・電子を問わず、請求書には印鑑がなくても効力は発生するため、法的に特段問題はありません。しかし、実際は取引がスムーズになる、ビジネスマナーとしてふさわしいなどの理由により、押印はあるべきとされているのも実情です。
この考え方は紙の請求書だけではなく、電子請求書でも踏襲されており、電子印鑑があると望ましいとされています。そこで今回の記事では、電子印鑑の作り方や知っておきたい知識について、詳しく解説します。
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電子印鑑とは
パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末から、PDFファイルなどの電子媒体の文書に押印できる印影データのことを電子印鑑といいます。一般的な印鑑のように丸の中に担当者の名前が入っているものをイメージするとわかりやすいでしょう。
一般的な印鑑の場合、紛失や無断使用などのトラブルを防ぐ観点から、厳格な管理ルールが定められている場合が多くなっています。そのため、担当者や決裁権のある立場の社員が不在になると、押印が終わらないせいで業務が長時間滞ることもあり得ます。
しかし、電子印鑑はデータであるためそのような心配とも無縁です。担当者や決裁権のある立場の社員が外出などで不在の場合でも、特段問題なく押印できるため、業務フローが滞ることなくスムーズに進められます。
電子印鑑が求められる理由
ここで、電子印鑑が求められている理由についても触れておきます。一言でまとめると「さまざまな手続きが電子化されているため」です。以下に掲げるように、昨今は会社経営においてもさまざまな手続きが電子化されています。手続きが電子化されている以上、紙での手続きを前提とした従前の印鑑だけでは不十分であることが、電子印鑑が求められる理由と考えられます。
- 資本金1億円超の法人に対する法人税の電子申告の義務化
- 所得税の確定申告や年末調整手続き
契約書の電子化については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
電子印鑑の種類
一口に電子印鑑といっても、法的効力の有無を観点とした場合、以下の2種類にさらに細かく分けることができます。
印影をデータ化しただけのものは、単に画像を挿入したに過ぎず、押印した人物や時間の特定はできません。つまり、印鑑が本来持つ「本人性の証明」としての効力を有さず、法的効力も認められない点に注意が必要です。
一方、人物や時間を特定できる機能を持つ電子印鑑は法的に証拠能力を持ちます。前述した「本人性の証明」としての効力を有すると考えられるため、裁判になった場合も有効な証拠として利用可能です。
電子署名や電子サインとの違い
混同しがちな言葉として、電子署名・電子サインと電子印鑑の違いについて解説します。
まず、電子署名とは公的機関や民間事業者の認証局が発行する「電子証明書」を利用して作成する本人証明の署名のことで、紙文書におけるサイン・印鑑に相当するものです。なお、民事訴訟法228条上に規定される真正性を満たすことのできる法的効力を持つため、電子署名が付された電子文書は、裁判の際も証拠として使えます。
一方、電子サインとは電子データの文書に対して、紙の文書に署名・押印した場合と同じ効力を持たせる技術を指します。電子印鑑や電子署名も電子サインの一種と考えるとわかりやすいでしょう。
電子印鑑の法的効力
電子印鑑がどのような条件を満たせば法的効力を持つのか、実印と認印の法的効力にも触れつつ詳しく解説します。関連する法律についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
電子印鑑が法的効力を持つ条件
電子印鑑が法的効力を持つ、つまり、裁判になった場合の証拠など法的な証拠としての効力を備えるには、以下の2つの条件を満たさなくてはいけません。
- 本人性の証明
- 存在性・非改ざん性の証明
つまり、以下の3点が証明できる状況にしておく必要があると考えましょう。
- 本当に本人が署名した
- タイムスタンプが付与された時刻にデータが実在している
- タイムスタンプが付与された時刻以降、データが改ざんされていない
なお、これらの点は電子署名法第2条にて明文化されています。
実印と認印の法的効力
ここで、従来の印鑑についても種類ごとに法的効力がどのように異なるのか確認しておきましょう。
まず、実印とは、法律上・社会上の権利義務の発生を伴う個人印鑑のことです。法務局や住民登録している市町村で印鑑登録を行った印鑑と考えるとわかりやすいでしょう。企業で用いられる実印の例として、代表者印(丸印)などが考えられます。
これに対し、実印以外の印鑑を指すのが認印です。会社の角印や担当者印などは認印として扱われます。そして、実印が必須とされる場面以外では、認印であっても実印であっても法的効力に違いはありません。例えば、契約書に押されたのが認印・実印のどちらだったとしても、法的には「契約に同意した」ことになります。
電子印鑑のメリット
電子印鑑にはさまざまなメリットがあります。従来は実物の印鑑を使わないと進められなかった業務が、電子印鑑の登場により様相が変わったことで、効率化がなされたのも事実です。ここではより具体的なメリットとして考えられる以下の3点について詳しく解説します。
- 押印や印刷の手間を削減できる
- コスト削減
- 在宅勤務でも印鑑を押印できる
押印や印刷の手間を削減できる
1つ目のメリットは「印刷の手間を削減できる」ことです。例えば、メールにPDFを添付して書類を送るシチュエーションを考えてみましょう。
理論上は、紙媒体の書類を印刷し、そこに押印したものを画像として送ることも可能です。しかし、これだと「印刷する」「押印する」「画像にする」の3つのステップを踏むことになり、手間がかかります。
代わりに電子印鑑を用いれば、電子書類に直接、簡単に押印できるため、押印や印刷の手間が省けて業務も効率的に進められます。
契約書のPDF化のルールについて、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
コスト削減
2つ目のメリットは「コスト削減」です。紙媒体で業務を進めようとすると「書類を印刷する」「印刷したものを郵送する」ことが前提になります。これらのプロセスには紙代や人件費、郵送費が必要です。そこで、電子印鑑を用いて、電子媒体で書類のやり取りをすれば、紙代・人件費・郵送費を削減できます。
以下の記事では、書類電子化のポイントについて詳しく解説しているので参考にしてください。
在宅勤務でも印鑑を押印できる
3つ目のメリットは「在宅勤務でも印鑑を押印できる」ことです。一般的な印鑑の場合、手元にないと押印できません。そのため、在宅勤務を導入しているにもかかわらず、書類に印鑑を押印するためだけに出社しなくてはいけない従業員が出ることになり、不公平感を覚える原因になりかねませんでした。また、押印の権限がある担当者が出張や外回りで不在だと、押印をしてもらうタイミングが取れず、業務に支障が出ることもあり得ます。
しかし、電子印鑑であれば、インターネットに接続する端末と環境さえあれば、いつでもどこでも押印が可能です。前述した「押印するためだけに出社」「担当者が不在で押印してもらえない」ということもなくなり、業務フローを滞らせることなく進められます。
以下の記事では、経理業務のテレワークが導入について詳しく解説しているので参考にしてください。
電子印鑑のデメリット
前述したように、電子印鑑にはさまざまなメリットがある一方、デメリットもあることに注意しなくてはいけません。具体的なデメリットとして、以下の3点について詳しく解説します。
- セキュリティ面での対策が必要
- 相手先の理解が必要
- 文書改ざん・偽造の危険性
セキュリティ面での対策が必要
1つ目のデメリットは「セキュリティ面での対策が必要」であることです。従来の印鑑でも、複製された結果の悪用には注意しなくてはいけませんでしたが、それは電子印鑑でも変わりありません。特に、無料で作成する電子印鑑の場合、容易に複製が可能なことから、なりすましなどのトラブルもあり得ます。セキュリティ面での対策が必須となるため、無料のものではなく、時系列や入力者が判別できるタイムスタンプなどの機能がついた有料の電子印鑑サービスを使うことをお勧めします。
相手先の理解が必要
2つ目のデメリットは「相手先の理解が必要」であることです。昨今、さまざまな手続きの電子化により電子印鑑についても注目が集まっていますが、実際の業務にどれだけ取り入れているかは企業によっても温度差があるのが実情です。取引先が電子印鑑に対して信頼を置いていなかったり、郵送での書類のやり取りを基本としていたりすることは往々にしてあり得ます。
つまり「電子化された書類に電子印鑑を施してやりとりすること」が100%と可能とは限りません。このような背景があるため、電子印鑑を導入する際は、取引先に確認をとってから導入することが望ましいといえます。電子印鑑の導入が難しい取引先については、郵送でのやり取りを続けるなど、状況に合った対応を心がけましょう。
文書改ざん・偽造の危険性
3つ目のデメリットは「文書改ざん・偽造の危険性」です。前述したように、電子印鑑には現物の印鑑に比べ、複製や偽造がされやすいという弱点があります。特に、電子印鑑の正当な所有者や時間などの情報が特定できない無料の電子印鑑サービスには注意しなくてはいけません。容易に同一の印影を作成することや、書類や印影の編集や改ざんができることから、悪用されるリスクも高くなっています。
万が一、悪用された場合、自社や取引先に大きな損害が及ぶ可能性も出てくるでしょう。トラブルの内容次第では、取引の継続を打ち切られたり、企業としての存続が危うくなったりすることもあるかもしれません。セキュリティ面での対策という意味でも、有料の電子印鑑サービスを第一選択肢にしましょう。
電子印鑑の作成方法
電子印鑑はさまざまな方法で作成することが可能です。ここでは、電子印鑑を作成する方法として、以下の4つについて解説します。
- 印影をスキャンして自作する
- Adobe Acrobat Readerを用いた作成方法
- 無料ソフト・ツールで作成する
- 有料ツールを利用する
印影をスキャンして自作する
1つ目の方法は「印影をスキャンして自作する」ことです。普段使っている印鑑を紙に押して、その紙をスキャナかスキャンアプリに読み込ませて画像にし、電子ファイルに貼り付けます。スキャナかスキャンアプリがあればできる手軽な方法ですが、明るさ補正や画像のサイズ調整などが必要になる点には注意しなくてはいけません。そのため、実際に使えるようにするには、画像編集ソフトがあることが望ましいでしょう。
なお、印影をスキャンしただけのものは、本人性の証明や改ざん防止の対策がとられていないため、法的効力が認められにくいデメリットがあります。つまり、電子印鑑が施された書類を裁判の資料として使うことになった場合でも、その電子印鑑が印影のスキャンだった場合は、証拠としては認めてもらえない可能性が高いでしょう。このような背景を考えると、契約書などの重要な書類に施す電子印鑑をつくるための方法としてはふさわしくない方法といえます。
Adobe Acrobat Readerを用いた作成方法
2つ目の方法は「Adobe Acrobat Readerを用いた作成方法」です。PDF閲覧用ソフト「Adobe Acrobat Reader」では、スタンプ機能といって、PDF形式の書類に直接押印できる機能が搭載されています。そして、Adobe Acrobat Readerでは、日付印・氏名印・検印の電子印鑑のテンプレートが搭載されているため、必要な時にすぐに押印することが可能です。操作手順も簡単なので、パソコン操作に不慣れでも問題なく使えるでしょう。無料版のAdobe Acrobat Readerの場合、以下の手順で電子印鑑を作成できます。
- Adobe Acrobat Readerを起動し「環境設定」を開く
- 表示されたメニューの中から「ユーザー情報」を選ぶ
- 必要な情報を入力したら、押印したいPDFファイルを開く
- 「スタンプ」を選択すると「電子印鑑」が展開されるため、押印したい形式を選ぶ
- 電子印鑑が表示されたら、希望の場所に移動させてクリックする
- 電子印鑑が固定され、押印が完了する
無料ソフト・ツールで作成する
3つ目の方法は「無料ソフト・ツールで作成する」ことです。オンライン上には、電子印鑑を作成できる無料ツールが公開されています。自作するより簡単に、認印・角印(社印)などの印鑑を作成できます。色やフォントの変更ができるものや、自動で背景が透過されるものもあるため、好みに合わせて選びましょう。
ただし、セキュリティ面での対策が不十分なことが多く、文書改ざん・偽造に使われる可能性もある点には注意が必要です。契約書など、法的な契約を前提とする文書に使うのは好ましくありません。この方法で電子印鑑をつくる場合は、送り状など法的な契約とはほとんど関係ない書類にのみ使うなど、一定のルールを設けて使いましょう。
有料ツールを利用する
4つ目の方法は「有料ツールを利用する」ことです。前述したように、電子印鑑に法的効力を持たせたい場合は、無料ツールで作成することはあまり好ましくありません。機能面、セキュリティ面では、やはり有料ツールの方が優れています。実印と同じように使うことを前提に考えているなら、有料ツールを利用して電子印鑑をつくる前提で動きましょう。
電子印鑑の作り方をマスターして請求書に活用しよう
一口に電子印鑑といっても、印影の画像に過ぎず法的効力はないものがある一方で、認証機能・タイムスタンプなどを備え、法的効力も認められるものも存在します。文書改ざん・偽造を防ぎ、トラブルを防止するためにも、契約書など法的な契約を前提とする文書には、法的効力が認められる電子印鑑を使いましょう。逆に、送り状など法的な契約を前提としない文章であれば、無料ソフト・ツールやスキャナで自作した電子印鑑でも構いません。
重要なのは「何のために電子印鑑を使うか」であるため、目的に合わせてふさわしい方法を選びましょう。