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繰延税金資産の落とし穴回避!経理実務で役立つ基礎知識

更新日:2024.11.21

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繰延税金資産_とは

本来、経理は会社のお金にかかわることである以上、ミスは許されません。中でも、繰延税金資産を正確に計上することは、財務の健全性を守り、経営を長期的に安定させる意味でもいっそう重要になります。

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今回の記事では、繰延税金資産を計上するメリット・デメリット、回収可能性の判断方法や具体的な仕訳まで、重要な知識を詳しく解説します。正確な知識を身につけ、予期せぬ税負担を回避すると共に、企業全体の財務戦略に貢献できるようにしましょう。

繰延税金資産とは

はじめに、そもそも繰延税金資産とは何か、詳しく解説します。繰延税金資産とは、将来的に支払う法人税や住民税、事業税がどのぐらい変動するかを表す税効果会計に関する勘定科目の一種です。

繰延税金資産が生じる理由は、企業会計上と税務会計の扱いの差に求められます。例えば、企業会計上は費用として計上できても、税務会計上は損金にできない項目があったとしましょう。

このような項目であっても、内容次第では将来的に損金として認められ、課税所得を減額できる可能性があります。将来損金として認められた場合、課税所得が減り、結果として税金が減額できる場合は、繰延税金資産として計上可能です。実質的には、法人税など税金の前払いと考えるとわかりやすいでしょう。

税効果会計とは

税効果会計とは、会計上と税務会計上の資産または負債に違いがある場合、その違いを調整し、法人税などの額を適切に期間配分するために行う手続きを指します。税効果会計では、以下に掲げるさまざまな専門用語が出てくるため、しっかり理解しましょう。

  • 繰延税金資産:将来支払う法人税、住民税および事業税がどのぐらい変動するか・されるかを表す税効果会計に関する勘定科目。税金を払う際に、繰延税金資産の金額と同じだけ税金を減らせる。
  • 回収可能性:繰延税金資産に将来の税金の支払いを軽減する効果があるか、もしくはその可能性。
  • 法人税等調整額:企業会計上の利益と、税務会計上の課税所得上に生じる差異を調整するための勘定科目でPL(損益計算書)に記載される。
  • 企業の分類:繰延税金資産の回収可能性を判断するため、過去の課税所得の発生状況や将来の業績予測等の条件に基づき、企業を5種類に分類すること。
  • スケジューリング:期末における将来減算一時差異が、翌期以降いつ、いくら解消する見込みかを確認すること。
  • 資産負債法:会計上と税務上の資産・負債の間に違いがあり、回収・決済により違いが解消された際、税金を減額または増額させる効果がある時に、その違い(一時差異)が生じた年度に、それに対する繰延税金資産または繰延税金負債を計上する方法。
  • 法廷実行税率:税効果会計の対象となるのは、法人税、住民税、事業税。一時差異にかけることで、繰延税金資産を計算する。

一時差異と永久差異とは

税効果会計は、企業会計上と税務会計上の資産または負債の違いを調整するための会計ですが、その違いは一時差異と永久差異に分類できます

  • 一時差異:企業会計と税務会計の認識・計上の時期が異なることで生じる違いであり、将来的に解消されうるため、税効果会計の対象になる
  • 永久差異:企業会計と税務会計の考え方の相違により生じる違いであり、永久に解消されないため、税効果会計の対象にはならない

例えば、交際費や寄付金は、企業会計と税務会計とでは考え方がまったく違うため、永久差異として扱われます。そのため、税効果会計の対象になりません。

以下の記事では、一時差異を「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」に分けて詳しく解説しているので参考にしてください。

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繰延税金資産を計上するメリットとデメリット

繰延税金資産を計上することにはメリットとデメリットがあります。ここでは具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。

まず、繰延税金資産を計上するメリットとして、利害関係者からの評価が向上します。計上によって自己資本が増え、財務諸表上は利益が確保されるためです。事実上は税金の前払いであるため、将来的に税金を減らす効果が見込めるのもメリットといえます。

一方、繰延税金資産を計上することにはデメリットもあります。まず、繰延税金資産を計上しても、その後赤字になったら税金は支払わないことになるため、意味がありませんまた、計上や取り崩しの判断が業績に大きく影響する点にも注意が必要です。例えば、将来の利益を下方修正する場合、支払うべき税金が減ると見込まれ、繰延税金資産を取り崩すことになります。

回収可能性の判断に主観が入りがちになるため、監査法人から指摘されても説明が難しいというデメリットもあります。さらに、個別注記表や連結注記表にどのように記載するかも、監査法人との調整が必要になるでしょう。

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回収可能性の判断方法

前述したように、回収可能性とは繰延税金資産に将来の税金の支払いを軽減する効果があるか、もしくはその可能性のことを指します。回収可能性の判断を間違えると、将来の税金の支払いが思ったより軽減されず、企業の損益にも大きな影響を及ぼしかねません。さじ加減次第で企業の損益は大きく動くといえるため、慎重な判断が求められるところです

ここでは、過去に回収可能性を見誤ったために経営に甚大な影響が及んだ企業の事例と、回収可能性に関連して留意すべきトピックを解説します。

優良子会社を売却した東芝の例

税効果会計における回収可能性を見誤ったことで経営に甚大な影響が及んだ企業の例として、大手電機メーカーの東芝を紹介します。

東芝は国内を代表する電機メーカーとして知られていましたが、2015年2月の証券券取引等監視委員会の検査をきっかけに、同社が2008年度から2014年度第3四半期まで不正会計を行っていたことが発覚しました。

その後、監査法人の交代や交代後の監査法人による意見不表明など、さまざまなトラブルを経て、最終的に2023年12月20日には上場廃止となっています。

東芝の不正会計は、その後の監査環境の厳格化に大きな影響を及ぼしており、税効果会計の実務がより難しくなるきっかけとなりました。

不正発覚後の第177期決算発表資料(2016年3月期)[損益]では、優良子会社であった東芝メディカルシステムズの売却益(3,752億円)と同時に、それに匹敵する金額の繰延税金資産の取り崩し3000億円を計上しています。

仮に、東芝メディカルシステムズの売却益がなければ、繰延税金資産の取り崩しには到底耐えられず、債務超過に陥っていたはずです。

参考:株式会社東芝|2015年度連結決算

回収可能性の判断基準

繰延税金資産の回収可能性の判断は、将来年度の企業の収益力に基づく課税所得を元に判断するのが原則です。そのため、利益計画の精度によっても、繰延税金資産の回収可能性は左右されます。

利益計画の立て方の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 来季の構想を立てる
  2. 最低目標経常利益を決める
  3. 固定費を予測する
  4. 最低目標売上総利益を確定させる
  5. 販売計画との調整を行って、最終的な形にしていく

ただし、作成した利益計画は取締役会など経営機関での承認、修正をした上で完成形にするのが望ましいです。同時に、監査役が納得する「保守的」な繰延税金資産を計上する必要もあります。

特に、2021年3月期より「監査上の主要な検討事項(KAM: Key Audit Matters)」として、当年度の財務諸表監査において監査人が特に重要と判断した事項は監査報告書において記載する決まりになっています。繰延税金資産の回収可能性もKAMとして記載される頻度が高い事項の1つである以上、慎重な取り扱いが求められます。

参考:監査上の主要な検討事項(KAM)の 特徴的な事例と記載のポイント|金融庁

日本基準に特有の企業分類

繰延税金資産は、将来収益が得られ、結果として税金を払うことが前提となった上で計上される項目です。しかし、将来の収益力を客観的に判断するのは簡単ではありません。そこで、日本では将来の収益力の判断に客観性を持たすために、過去の実績に基づき、企業を以下の5つに分類しています。

区分概要具体例
分類1業績が安定し、課税所得も多くなっている期末における将来減算一時差異を全部減算しても、減算分を十分に上回る課税所得を毎期(概ね過去3年)計上できている
分類2業績が安定し、一定の課税所得もあるが、分類1に比べて納税額は低い期末における将来減算一時差異の全額と、課税所得を比較した場合、課税所得が大きく上回るとはいえない
分類3赤字になることもあれば、黒字になることもあるなど、業績が不安定過去、損益が大きく増減したため業績が安定せず、期末における将来減算一時差異と課税所得の差が小さい(上回ってはいるが差が小さい)
分類4赤字が発生していて繰越欠損金が出ている期末において重要な繰越欠損金が存在する、もしくは過去(概ね3年以内)に重要な税務上の欠損金について、繰越期限切れがあった(もしくは発生する可能性がある)
分類5過去に連続して赤字が発生し、繰越欠損金の計上が続いている過去(概ね3年以上)連続して重要な税務上の欠損金が計上されており、当期も計上される見込みである

この分類を使うと、客観性を持たせることができるというメリットがあります。一方で、あくまで過去のデータに基づいた判断に過ぎず、硬直的な運用に陥りやすいというデメリットもあるため注意しなくてはいけません。

なお、IFRS(国際財務報告基準)では、日本のように会社区分や数値基準といった具体的かつ画一的な回収可能性の判断に関する基準は定められていないことも覚えておきましょう。

参考:第21回 IAS第12号「法人所得税」|日本公認会計士協会

繰延税金資産の仕訳方法

繰延税金資産が発生した時および解消した時は、それぞれ仕訳を行います。まず、将来減算一時差異が発生した場合は借方に繰延税金資産、貸方に法人税等調整額を記入する流れです。逆に、解消する時は逆の仕訳を行います。

具体的な例を用いて仕訳を見てみましょう。

<仕訳例>

1)長期在庫の評価損として繰延税金資産30万円が発生したため、仕訳を行った。

借方金額貸方金額
繰延税金資産30万円法人税等調整額30万円

2)翌期になり、前期に計上した繰延税金資産30万円が解消されたため、逆仕訳を行った。

借方金額貸方金額
法人税等調整額30万円繰延税金資産30万円

逆に、将来加算一時差異が発生した場合は繰延税金資産ではなく、繰延税金負債という勘定科目を使って仕訳を行います。

代表例として有価証券の評価替えによる差額が挙げられるので、仕訳を紹介しましょう。

<仕訳例>

期末時点で、保有する有価証券に評価益が10万円発生した。なお、当該評価益は将来加算一時差異と判断されるため、繰延税金負債を計上する。(税率は40%とする)

借方金額貸方金額
投資有価証券
その他有価証券評価差額金
10万円
4万円
その他有価証券評価差額金
繰延税金負債
10万円
4万円

以下の記事では、「繰延税金資産」を決算書でどのように表示するのかを解説しているので参考にしてください。

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繰延税金資産の取り崩しとは

繰延税金資産の取り崩しとは、繰延税金資産を計上したものの、将来の税負担の軽減効果が見込めず、回収可能性もないと判断された場合に行う取り崩しのことです。仕訳上では借方に法人税等調整額を、貸方に繰延税金資産を計上します。

ここでは、なぜ繰延税金資産の取り崩しを行うのか、取り崩しを行うことによりどのような影響が生じるのかを詳しく解説します。

取り崩しが起こる理由

繰延税金資産の取り崩しが起こる理由の代表例に、企業の業績悪化が挙げられます。そもそも、繰延税金資産を計上すれば来年度の税金額を減らす効果が見込めます。しかし、来年度は思ったように業績を上げられなかった場合、当初の予定より支払うべき税金は少なくなるはずです。つまり、税金の対象となる利益が減る以上、税金を減らす必要もなくなり、繰延税金資産は計算上不要になります。不要になった繰延税金資産をそのまま財務諸表に残していても意味がないため、取り崩しが起きると考えましょう。

取り崩しが起こった時の影響

繰延税金資産の取り崩しが起こった時の影響についても解説しましょう。前述したように、繰延税金資産を取り崩す際は、以下のように仕訳を行います。

借方金額貸方金額
法人税等調整額(取り崩す金額)繰延税金資産(取り崩す金額)

法人税等調整額は費用に分類されるため、繰延税金資産の取り崩しを行うとその分費用が増える点に注意しなくてはいけません。つまり、繰延税金資産の取り崩し額が多ければその分費用も大幅に増えることになるため、状況次第では多額の赤字が計上され、赤字に転落する可能性もある点に注意が必要です。

なお、繰延税金資産の取り崩しは、株主などの外部関係者には将来の業績不振を示唆するネガティブな情報になり得ます。出資の引き揚げや取引の打ち切りなど、さらに深刻な事態に発展することもある点に留意しましょう。

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まとめ

繰延税金資産は、将来支払う税金を減らす効果があるため、計上することで税務上のメリットが得られます。一方で、繰延税金資産を計上する際には、常に回収可能性を慎重に見極めなくてはいけません。そのため、正しい利益計画に基づいて、繰延税金資産を正確に計算することは企業存続にとって不可欠です。繰延税金資産の計上は難しい論点も多いですが、税理士や公認会計士などの専門家と連携し、慎重に進めていきましょう。

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