この記事は約 6 分で読めます。
会社が事業を続け、利益を出している限り、税金を納める必要が出てきます。そのため、国や地方自治体に納付すべき税金を計算・申告すること=税務は、会社経営とは切っても切り離せません。会社にとって必須の業務である以上、経理担当者だけでなく、その他の部署に在籍する従業員も知っておいて損はないはずです。
しかし、税務という言葉自体を知っていても、具体的に何をするのか、正確に説明できる人は多くはないかもしれません。「税金のことというのは分かるけれど、それ以上はちょっと」と困ったのではないでしょうか?
→ダウンロード:「失敗事例」にならないための請求書受領システムの選び方
そこで今回の記事では、税務についての基本的な知識を分かりやすく解説します。会社勤めをしている人はもちろん、個人事業主の人も、税務に関する知識は事業を安定的に成長させるために不可欠なので、この記事を通じて勉強してみて下さい。
税務とは
そもそも、税務とはどのような意味か、正確に説明できる人は決して多くないかもしれません。また、税務とセットで語られることが多い言葉の1つに「会計」がありますが、これは税務とは全く別物です。
ここでは、会計と税務の違いや、税務における計算業務の「税務会計」について、基本的な部分を解説します。このあとの話を進めるために大事な概念となるため、しっかりと理解しておきましょう。
税務と会計の違い
まず、税務と会計とでは「何のためにやるのか」という目的がまったく違います。
税務とは、事業年度中の収益や費用などを元に、企業が納めるべき税額を税法に基づいて計算し、税務申告書を作成、納税する一連のプロセスを指す言葉です。企業は、事業を営み利益を出している限り、必ず税金を納めなくてはいけません。必然的にいくら税金を納めるのか計算し、書類を作成しなければならな以上、税務と縁がない企業はほとんどないことになります。なお、いくら税金を納めるのか計算することを「税務会計」と呼ぶので、併せて覚えておきましょう。
一方、会計とは、事業年度中の財政状況をまとめた財務諸表や決算書を作成するために行うものです。財務諸表や決算書は、外部に自社の財政状況を開示するために用いると共に、自社の現状を把握し、経営上の意思決定を行うためにも用いられます。なお、外部に自社の財政状況を開示するために行う公開を前提とした会計を「財務会計」、自社内での意思決定のために行う非公開が前提の会計を「管理会計」という点も併せて覚えておきましょう。
「税務は税金の申告納税のために行うもの、会計は財務状況の開示や意思決定のために行うもの」と考えると分かりやすくなります。
税務会計・財務会計・管理会計の違い
前述したように、一口に会計といっても、「何のためにやるのか」という目的を基準にすると税務会計・財務会計・管理会計の3つに分類することができます。
財務会計
財務会計とは、公開することが前提となる会計です。企業は、株主や金融機関に対し、定期的に財政状況を公開しなくてはいけません。そして、株主や金融機関などの外部利害関係者=ステークホルダーに開示するために決算書、財務諸表などの書類を作成する必要があります。財務会計では、これらの書類を作成することが大きな目的になっていると考えましょう。
なお、会社法435条第2項において、決算書の作成は全ての株式会社に義務付けられているため、事実上全ての会社が財務会計を行わなくてはいけないことになります。以下において、決算書の読み方・つくり方について解説しているため参考にして下さい。
税務会計
税務会計とは、一言でまとめると「納税額を計算するために行う会計のこと」です。税務会計の進め方には、以下の2パターンあります。会社の状況によってもどちらを用いるかが異なるため、その点を意識して読み進めて下さい。
1つ目は「税務会計に沿うよう、帳簿付けを行う」方法です。決算書を公表することを考えずに帳簿付けを行う、いわば「会計基準よりも税法を優先させる」方法と考えましょう。
2つ目は「財務会計の内容を税金計算に合わせて調整する」方法です。決算書の作成義務があり、納税を行わなくてはいけない企業では、こちらの方法が用いられます。前提として、税務会計と財務会計では、用いられる基準も全くの別物です。そのため、たとえ財務会計を適切に行っていたとしても、結果をそのまま税務会計に流用し、法人税の計算を行うことはできません。そこで、財務会計の結果を税務会計に用いるために調整をする必要が出てきます。
管理会計
管理会計とは「企業内部で自社の状況を把握するために行う会計」です。税務会計は国・地方公共団体に税金を納めるために、財務会計は企業の外部関係者に向けた情報開示のために行う、いわば「外に向けた」会計ですが、管理会計は「内向きの会計」である点で大きく異なります。
例えば「次年度はどの商品・サービスの生産・販売に力を入れるべきか」といった、経営課題を解決するためのデータを収集するために行う会計と考えましょう。経営上の意思決定にも深く関連するため、経営層が利用することが多くなっています。ただし、法的に実施が義務付けられてはいないため、企業によっては実施しないこともあり得る点に留意しましょう。
税務申告する税
企業が税務会計を行った結果、申告・納税する必要が出てくる税金は以下の4種類です。
- 法人税
- 法人事業税
- 法人住民税
- 消費税
ここでは、それぞれの税金について、どのような税金なのか、いつまでに申告しなくてはいけないのかを中心に解説します。
法人税
法人税とは、企業の所得に応じて課せられる税金です。基本的には、利益=所得が多い企業であればあるほど、支払うべき法人税も多くなると考えましょう。株式会社などの普通法人と、協同組合など一定の条件を満たす団体であれば、法人税の支払い義務が生じます。
なお、法人税は事業年度終了日翌日から2ヶ月以内に申告、納税しなくてはいけません。しかし、定款に「定時株主総会が事業年度終了後3ヶ月以内に行われる」という規定がある場合、「定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請書」を税務署に提出すれば申告期間を1ヶ月延長することが可能です。ただし、この場合でも納付期限は事業年度終了日翌日から2ヶ月以内のままなので、忘れずに納税手続きをする必要があります。
なお、全事業年度の法人税が20万円を超えた法人は中間申告を行わなくてはいけません。中間申告とは、事業年度開始日から6ヶ月を経過してから2ヶ月以内に行う必要がある申告のことを指します。国税庁のWebサイトも併せて確認して下さい。
法人事業税
法人事業税とは「企業の経営にあたって行う事業に対してかかる地方税」のことです。企業であっても、移動のために道路を使ったり、商品・サービスの提供や従業員の福利厚生のために上下水道を使ったりします。そして、道路、上下水道は行政によって運営されている行政サービスの一環である以上、企業であってもその費用を負担する必要があると考えられます。
このため、費用負担の一環として、一定の条件を満たす企業であれば、事務所などが存在する都道府県に対し、法人事業税を払うことが求められています。なお、法人事業税は地方税法に基づいて管理されている税金です。申告期限は地方自治体(ここでは都道府県)の定めた規則に従う必要がある点にも注意しましょう。
法人住民税
法人住民税とは、企業が所在する市町村に支払う税金のことで、個人の住民税に相当します。なお、法人住民税は赤字になっても払わなくてはいけない「均等割」と、黒字になった場合にのみ払う「法人割」の合計額を納めることになる点も覚えておきましょう。
均等割:法人の黒字赤字に関係なく、従業員数や資本金に応じて課税される部分のこと
法人税割:国に納付する法人税額に応じて課税される部分で、個人住民税の所得割に該当する
なお、先ほど出てきた法人事業税と同様、法人住民税も地方税法に基づいて管理されています。基本的には事業年度終了後2ヶ月以内に申告しなくてはいけませんが、自治体により例外もあるため都度確認しましょう。
消費税
消費税とは、商品の販売・サービスの提供に対しかかる税金です。消費税に関しては、個人事業主であっても、法人であっても計算方法は変わりありません。「売り上げにかかった消費税から、仕入にかかった消費税を差し引く(仕入税額控除)」のが基本と考えて下さい。ただし、インボイス制度における適格請求書発行事業者としての登録を済ませていない仕入先がある場合はこの限りではないため、税理士に確認しましょう。
また、法人が以下のいずれかに当てはまれば、一定範囲で免除が受けられます。
- 期首資本金が1000万円未満であれば、設立事業年度から1年間納税免除
- 特定期間の課税売り上げ高もしくは特定期間の給与支払額が1000万円以下、かつ期首資本金額が1000万円未満であれば2年目も免除
なお、事業年度終了日翌日から2ヶ月以内に申告しなくてはいけません。消費税の確定申告期限の延長特例適用を受けている法人は申告期限が1ヶ月延長されることも併せて覚えておきましょう。
業態における税務会計の違い
ビジネスを営むのは会社=法人とは限らず、個人であっても個人事業主として営むことは往々にしてあり得ます。ただし、納めるべき税金が全く異なる以上、前提となる税務会計がどのように行われるかも違ってくる点に注意が必要です。ここでは、法人における税務会計と、個人事業主における税務会計の違いについて、詳しく解説します。
法人における税務会計
前述したように、法人では以下の税金を納めなくてはいけません。
- 法人税
- 法人事業税
- 法人住民税
- 消費税
これらの税金をいくら納めなくてはいけないのかを確定させ、実際に納められるように税務会計を行います。
なお、法人(全ての株式会社)では決算書をつくらなければならない以上、財務会計も必然的に行わなくてはいけません。そのため、財務会計の内容を元に調整を施し、法人税における課税所得額を算出するという流れで進めていきます。ただし、企業によっては税金額の算出を目的に専用の帳簿をつくることもあるため、社内のルールに沿って手続きを進めましょう。
決算業務の流れについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
個人事業主における税務会計
一方、個人事業主は以下の税金を納めなくてはいけません。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
個人事業主は、事業所得などの所得に対し税金が課されます。また、法人(株式会社)のように、財務諸表や決算書をつくる義務を負わないため、財務会計も基本的に必要ありません。そのため、法人のように「まず財務会計を行って、そこから税務会計に使えるよう調整をかけていく」のではなく、最初から税務会計に沿うよう帳簿を作成するのが基本になります。
税務会計の注意点
税務会計は、会社にとって納税額を確定させ、期限通りに納税する意味で非常に重要な業務です。しかし、重要な業務だけに誤解をしたまま進めると思わぬトラブルにつながります。以下において、トラブルのもとになりがちな点を解説するので、参考にして下さい。
税務会計を経営判断の資料にしない
1つ目の注意点は「税務会計を経営判断の資料にしない」ことです。税務会計は、あくまで納税額を求めるために行う会計に過ぎません。財務会計など他の会計とは、収益・費用として計上する範囲も異なるため、データをそのまま経営状況の判断に用いるのには無理があります。
経営状況の判断に使えるデータを手に入れたいなら、管理会計を行うのが合理的です。管理会計は自社にとって最適な分析に適した数値を計上することができるため、より的確な経営状況の判断をすることにもつながります。
税制改正をきちんと確認する
2つ目の注意点は「税制改正をきちんと確認する」ことです。税制の改正は毎年行われているため、最新かつ正確な情報を把握してから税務会計は行わなくてはいけません。つまり、「今年は正しかった」ことが「来年だと間違い」になるのは往々にしてあり得ます。
そして、税務申告を誤り、修正申告が必要となった場合、追加での納税が必要になることもあるため注意しなくてはいけません。「税務申告もできないいい加減な企業」と判断され、信用の失墜につながるため、毎年税制改正についてはしっかり確認しておきましょう。分からなければ税理士や税務署に都度確認するとさらに確実です。
財務会計と金額が異なるケースあり
3つ目の注意点は「財務会計と金額が異なるケースあり」です。
そもそも、税務会計と財務会計では、収益や費用に計上する範囲が大幅に異なります。例えば、役員報酬は財務会計だと費用に含められますが、税務会計では原則損金に含められません。
計算の前提とするデータが異なる以上、結果としての金額も異なるのは当然です。そのため、金額が大幅に違うことを事前に認識し、各々の目的を把握してから算出しましょう。
税務とは何かを理解して業務へ活かそう!
税務とは「税務申告書を作成・納付すること」であり、そのために行うのが税務会計です。企業が事業を続けていく以上、税金は必ず納めなくてはいけません。いわば、切っても切れない関係である以上、税務に直接かかわらない人や経理担当以外の人にとっても、基本的かつ重要な知識として心得ておいて損はないでしょう。いきなり細かい部分まで理解するのは難しいですが、「税務は税務申告書を作成・納付すること、そのための会計が税務会計」といった基本だけでもまずは理解しておきましょう。
本記事をきっかけに税務への理解が深まれば幸いです。ぜひ本記事を参考に自社の税務を見直してみて下さい。最後までお読みくださりありがとうございます。