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企業会計原則は、企業の会計処理において無視できない重要な方針をまとめたものです。会計処理を行う経理担当にとって、業務を遂行する上で備えておくべき知識であり、正しく理解しておく必要があります。
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本記事では、企業会計原則の概要から関連する規則、企業会計基準や会計公準など似た用語との違いなどについて解説します。企業会計原則の理解に少しでも不安がある場合は、ここで確認しておきましょう。
企業会計原則とは
そもそも企業会計原則とは何なのか、基礎的な情報について解説します。企業会計原則の全体像と会計処理における位置付けをここで理解しておきましょう。
企業会計原則の概要
企業会計原則とは、企業が会計処理を行う上で守るべき規則のことです。企業の会計実務や公認会計士の財務諸表監査を公正に行うことを目的としています。1949年(昭和24年)、企業会計制度対策調査会(現在の金融庁・企業会計審議会)が、当時の慣習の中で一般に公正妥当と認められる基準を要約し、企業会計原則として公表しました。
企業は、日々の会計業務に加え、事業年度ごとの財務諸表(決算書)の作成時にも企業会計原則に沿う必要があります。企業独自のルールで財務諸表を作成すると、他社と比較する基準がなく、財政状況や経営成績などを利害関係者に対して正しく報告できません。
そこで、一般に公正妥当と認められる企業会計のルールである企業会計原則を用います。企業会計原則は法律ではないため拘束力や罰則はありませんが、全ての企業が遵守すべき基準として位置付けられています。
企業会計原則の3つの原則
企業会計は「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の3つの原則から成り立っています。ここでは、それぞれの原則について解説します。
一般原則
「一般原則」は、企業会計原則を構成する3つの原則の中で最高規範となる重要な原則です。企業会計における理念や指針をまとめた根幹となるもので、7つの原則で成り立っています。
また、損益計算書、貸借対照表のいずれにも共通しており、他の「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の上位として位置付けられています。
損益計算書原則
「損益計算書原則」は、損益計算書の作成に関する基本ルールをまとめた原則です。損益計算書とは、事業年度における企業の経営状態を把握するための書類で、収益や費用などを確認できます。
損益計算書原則では、費用や収益をいつ計上するか、どのように数値を表示するかなどのルールが定められています。会計期間内の全ての収益と、対応する全ての費用とを記載し、当期純利益を表示する必要があります。
貸借対照表原則
「貸借対照表原則」は、貸借対照表の作成における基本ルールをまとめた原則です。貸借対照表とは、事業年度終了時の企業の財政状態を把握するための書類で、決算日時点での企業が有する資産や負債、資産の調達方法などが記載されます。
貸借対照表原則では、資産や負債の価格の形状方法、数値の表示方法などのルールが定められています。
損益計算書と貸借対照表を含む財務諸表の読み方・作り方については、以下の記事を参考にしてください。
7つの一般原則
企業会計原則で最も重要とされる「一般原則」は、以下7つの原則で構成されています。
- 真実性の原則
- 正規の簿記の原則
- 資本取引・損益取引区分の原則
- 明瞭性の原則
- 継続性の原則
- 保守主義の原則
- 単一性の原則
それぞれの原則の内容について解説していきます。
真実性の原則
「企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。」
真実性の原則は、企業会計原則の頂点として位置付けられる最重要の原則です。企業の経営状況を関係者へ報告するための財務諸表は、真実に基づいて正確に作成される必要があり、粉飾決算や情報の改ざんといった不正は決して行ってはいけません。
ここで言う「真実」とは絶対的真実ではなく相対的な真実です。企業会計において、複数の処理方法が採用されている場合があります。また、時代の流れによって目的が変化する可能性があるため、企業会計基準に適した真実が求められるのです。
例えば、減価償却方法には主に定額法と定率法の2種類があり、状況などに応じて選択できます。つまり、企業ごとに異なる減価償却方法で同じ固定資産を処理していても、真実性の原則において適切な真実であれば処理は正しいと見なされます。
正規の簿記の原則
「企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。」
正規の簿記の原則は、正確な会計処理と、それに伴う正確な会計帳簿の作成を目的とした原則です。一部ではなく全ての取引を対象としています。また、正確な会計帳簿とは、次の3つを備えた会計帳簿のことを指します。
- 網羅性:全ての取引が漏れなく記載されている
- 検証可能性:領収書など客観的に検証できる証拠によって記載する
- 秩序性:継続的な同一の処理など秩序をもって記録が行われている
文面での記載はないものの、一般的には複式簿記を採用します。
以下の記事では、複式簿記の基礎であり経理の仕事の基本である「仕訳」について詳しく解説していますので、経理初心者の方は参考にしてください。
資本取引・損益取引区分の原則
「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」
資本取引・損益取引区分の原則は、資本取引と損益取引の区分、資本剰余金と利益剰余金の区分を明確にすることを目的とした原則です。資本取引とは、株式の発行や増資・減資など、資本を直接増減させる取引のことで、損益取引は商品の売買など収益や費用に関する取引を指します。
資本取引と損益取引を明瞭に区別せずに処理すると、企業が利益を故意に操作することが可能となります。財政状況や経営成績が財務諸表に正しく反映されなければ、利害関係者が企業を正確に把握できなくなってしまうため、こうした事態を阻止するために原則が定められています。
また、資本剰余金と利益剰余金を混同しないことも要請しています。同じ資本であっても、資本剰余金は資本取引から生じた余りで、利益剰余金は損益取引から生じた利益です。また、資本余剰金は維持拘束しなければならない一方で、利益剰余金は分配が可能であり、利益の特質が異なります。
明瞭性の原則
「企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。」
明瞭性の原則は、理解しやすい明瞭な表記を用いるとともに、貸借対照表や損益計算書だけではわからない情報は注記することで適正な開示を要請する原則です。会計に関する情報が企業の利害関係者にわかりやすい形で開示されることを目的としています。
具体的には、財務諸表を作成する際には誤解を招くような表現は避け、決算報告書の配列や勘定科目の選択も適切に行う必要があります。また、重要な会計方針や後発事象の開示も要請しています。
明瞭性の原則を遵守することで、企業が利害関係者から財政状況や経営成績について誤った判断を下されることを防ぎます。
継続性の原則
「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。」
継続性の原則は、一度定めた会計処理の方法を、原則として毎年度継続して使用することを要請する原則です。同じ会計処理方法を使い続けることで期間の比較が容易になるだけでなく、利益の不正操作も回避できます。
具体例として、固定資産の減価償却方法の選択が挙げられます。会計処理の方法を変更できれば、取得したばかりの固定資産の減価償却費を変えて費用を多く計上し、利益を抑えるといった手法が可能になってしまいます。継続性の原則は、こうした不正操作を防ぐ役割を果たすのです。
ただし、どうしても会計処理方法の変更が避けられないケースも存在するため、正当な理由があれば会計処理の変更は認められています。
保守主義の原則
「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。」
保守主義の原則では、企業財務の安全性の確保を目的とし、企業にとってリスクが存在する場合にリスクに配慮した会計処理(保守主義による会計処理)を行うように要請する原則です。保守主義による会計処理とは、収益は遅く少なめに計上し、費用は早めに多く見積もることを指します。
ただし、保守主義による会計処理は常に原則が当てはまるとは限りません。場合によっては利益操作につながる上、最重要原則である真実性の原則を犯してしまう可能性もあるため、リスクが存在する場合にのみ処理が認められています。
単一性の原則
「株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。」
単一性の原則は、二重帳簿や裏帳簿の作成を禁止する原則です。企業外部に報告するために異なる形式の財務諸表を作成する場合、元となる会計記録はただ1つであり、事実を変えてはならないことを示しています。複数の異なる会計記録から財務諸表を作成することを禁じることで、利益の操作や情報の秘匿を防止する役割があります。
企業会計原則の覚え方
企業会計原則の「7つの一般原則」は、企業の会計・経理担当者であれば押さえておくべき重要な事項です。また、簿記1級や会計士、税理士を目指す場合にも必ず覚える必要がありますが、馴染のない人にとっては言葉が難しく、覚えるのは大変かもしれません。
暗記しやすい覚え方として知られるのが、7つの原則の頭文字を順番に並べた「しん・せい・し・めい・けい・ほ・たん」です。 ただ、語呂合わせにはなっていないため、言葉のリズムで覚えるか、意味を持たせることで覚えやすくなるでしょう。
例えば、「しん・せい」は「申請」、「し・めい」は「氏名」といったように、イメージしやすい言葉を当てはめてみて下さい。
企業会計基準との違い
企業会計の基本ルールである企業会計原則に対し、実務でよく参照されるルールが「企業会計基準」です。企業会計基準とは、企業が財務諸表を作成、理解するために必要なルールをまとめたものです。
国ごとに異なる基準が採用されており、現在日本では以下4つが認められています。
- 日本会計基準:日本独自の会計基準
- 米国会計基準:米国で上場している日本企業に適用される米国の会計基準
- IFRS(国際会計基準):国際会計基準審議会が作成した世界共通の会計基準
- J-IFRS:IFRSを国内の状況に合わせて調整した会計基準
会計公準との違い
会計公準とは、企業会計原則をはじめ、企業の会計処理における基礎となるものです。ここでは、会計公準の概要や企業会計原則とその関係などについて詳しく解説します。
会計公準とは
会計公準とは、企業会計の前提となる概念で、企業会計原則などあらゆる会計に関する理論や実務の基礎として位置付けられています。会計公準を元に会計原則が作成されます。
企業には経済活動の結果を記録、測定し、利害関係者に開示する義務があります。信頼性のある会計情報を開示するためには、一定の規則に準拠した処理が必要となり、その根幹となる基準が会計公準です。
会計公準の3つの原則
会計公準は、「企業実体の公準」「継続企業の公準」「貨幣的測定の公準」という3つの考えで構成されています。
「企業実体の公準」とは、企業会計における単位の前提の概念です。企業と株主を区別して考え、企業会計において企業の取引や商業活動に直接関係する部分のみを会計の記録等の対象とします。そのため、株主の所有財産などは企業のものとは切り離して考えます。
「継続企業の公準」は、企業が継続的に存在するという前提です。この前提により、企業は財産や損益を計算する単位としての会計期間を定め、自社の活動や状況について報告します。
「貨幣的測定の公準」とは、企業会計において貨幣単位の評価を行うという前提です。インフレなどによって貨幣価値が変動しても、企業は貨幣価値を考慮せずに通貨単位で会計処理を行うことで、企業間の相対的な比較が可能になります。
企業会計原則を守らなかった場合に罰則はある?
企業会計原則は法令ではなく、あくまで会計処理で守るべきものとして定められています。そのため、企業会計原則に違反したからといって、直接的に罰則やペナルティにつながることはありません。
ただ、企業会計原則を含む会計基準は、金融商品取引法などさまざまな法律と関係している点に注意が必要です。企業会計原則を守らなかったために、意図せず関連する法律を破ってしまった場合、場合によっては刑事罰や行政罰を下される可能性があります。
企業会計原則を正しく理解して業務に役立てよう
企業会計原則は、企業において正しい会計処理を行うために重要な規則です。法令ではないものの、自社の経営状況の把握や他社との比較を適切に行うためには、企業会計原則の目的や内容を正しく理解し帳簿や財務諸表を作成する必要があります。
本記事をきっかけに企業会計原則について正しい理解を深め、財務管理や会計業務に役立てていきましょう。最後までお読み頂きありがとうございました。