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デジタル化が進む昨今、経理業務でもペーパーレス化の波が押し寄せています。特に注目を集めているのが「デジタルインボイス」です。「電子インボイスとは違うの?」「導入は本当に必要?」と疑問をお持ちの経理担当者も多いのではないでしょうか。
実は、デジタルインボイスの導入により、請求書の発行から支払い、入金消込までの一連の経理業務を自動化できるなど、業務効率を大幅に改善できます。また、インボイス制度への対応も円滑に進められます。
本記事では、デジタルインボイスの基礎知識から、導入のメリット・デメリットまで、わかりやすく解説します。これを読めば、自社のデジタルインボイス導入を検討する際の判断材料が得られるはずです。
デジタルインボイスとは
デジタルインボイスとは、請求書などの取引関連文書を「Peppol(ペポル)」という国際規格に準拠して標準化・構造化した電子データのことです。特徴は、売り手のシステムから買い手のシステムへ人手を介さずに直接データ連携でき、自動処理が可能な点にあります。
現在の多くの企業では、紙の請求書をPDFにしただけの電子インボイスを使用しており、受け取った側が手作業でデータ入力を行う必要があります。一方、デジタルインボイスは規格が統一されているため、異なるシステム間でもスムーズにデータ連携が可能です。請求から支払い、入金消込といった経理会計業務の多くをデジタル上で完結できます。
デジタル庁と民間企業が連携して進めているデジタルインボイスの普及は、2023年10月のインボイス制度開始に合わせて本格化しています。その目的は、企業のバックオフィス業務全体をデジタル化し、業務効率と生産性を向上させることにあります。さらに、将来的には契約や受発注を含む取引全体のデジタル化も期待されています。
デジタルインボイスはPeppol(ペポル)に準拠している
デジタルインボイスの重要な特徴は、「Peppol(ペポル)」という世界標準規格に準拠していることです。Peppolは、請求書などの電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「運用ルール」「ネットワーク」に関する国際規格で、Open Peppol(ベルギーの国際的非営利組織)が管理しています。
日本では、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)が、Peppolをベースにした「JP PINT」という日本版の標準仕様を策定しています。JP PINTは日本の商慣習に合わせた設計となっており、たとえば海外ではあまり一般的ではない月極請求書(合算請求書)にも対応しています。
Peppolを標準仕様とすることで、2つの大きなメリットがあります。1つ目は、中小企業を含む幅広い企業が低コストでデジタルインボイスを導入できる点です。異なるシステムを使用していても、Peppolのアクセスポイントを介することで、企業間でスムーズにデータをやり取りできます。
2つ目は、海外企業との取引がスムーズになる点です。Peppolはすでにヨーロッパやオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなど40カ国以上で利用されています。そのため、Peppolに対応したデジタルインボイスを導入すれば、言語や通貨、税制の違いを超えて、海外企業との取引も効率的に行えるようになります。
デジタルインボイスのメリット5つ
デジタルインボイスの導入には、業務効率化からコスト削減まで、幅広いメリットがあります。特に2023年10月からのインボイス制度開始に伴い、経理業務の負担軽減という観点で注目を集めています。
- データ作業を効率化できる
- ヒューマンエラーを防げる
- データ改ざんを防げる
- ペーパーレス化を進められる
- 海外企業との取引がスムーズになる
ここでは、デジタルインボイス導入による5つの主要なメリットを詳しく解説します。
データ作業を効率化できる
デジタルインボイスを導入すると、請求書の発行から支払い、入金消込までの一連の経理業務を自動化できます。従来の電子インボイス(PDFなど)では、受け取った側が手作業でデータを入力し直す必要がありましたが、デジタルインボイスは標準化されたデータ形式のため、システム間で直接データを連携できます。
特にインボイス制度開始後は、税区分ごとの会計処理や仕入税額控除の計算が必要になりますが、デジタルインボイスであれば、これらの複雑な処理もシステムが自動で行います。販売管理システムと会計システムを連携させることで、帳簿との付け合わせ作業も省力化でき、業務時間を大幅に削減できます。
ヒューマンエラーを防げる
デジタルインボイスは、人手を介さないデータ連携により、入力ミスや転記ミスなどのヒューマンエラーを防ぐことができます。システムが自動的にデータを処理するため、仕訳の入力ミスや支払いの入金漏れなどのリスクを大幅に低減できます。
また、デジタルインボイスには適格請求書発行事業者の登録番号などの必要データが予めセットされており、システムが常に整合性をチェックします。インボイス制度で重要となる記載事項の漏れや誤りを防ぐことができ、データの正確性が担保されるのです。
データ改ざんを防げる
デジタルインボイスは、高度なセキュリティ機能により、データの改ざんや不正を防止できます。特に、適格請求書発行事業者情報を付与した電子署名(eシール)の導入が検討されており、発行元の真正性を確実に確認できるようになります。
従来のPDF形式の電子インボイスでは、個別に改ざん防止措置(タイムスタンプの付与や電子署名など)を講じる必要がありましたが、デジタルインボイスでは、システム上で発行元の確認や改ざんチェックが自動的に行われます。この自動チェックにより、取引の透明性が高まり、より安全な請求書のやり取りが可能になります。
ペーパーレス化を進められる
デジタルインボイスの導入により、請求書の印刷・保管・管理に関するコストを大幅に削減できます。インボイス制度では、適格請求書の7年間保存が義務付けられていますが、デジタルインボイスなら保管スペースを必要とせず、紙代・インク代・郵送費などのコストも削減できます。
また、クラウドサービスを活用することで、電子帳簿保存法に準拠した安全な保管が可能。必要な請求書はシステム上で簡単に検索・閲覧でき、リモートワーク環境でも円滑に業務を進められます。
海外企業との取引がスムーズになる
デジタルインボイスは国際規格のPeppolに準拠しているため、海外企業との取引も効率的に行えます。すでに40カ国以上でPeppolが採用されており、言語や通貨、税制の違いを超えて、スムーズなデータ連携が可能です。
特に、欧州やアジア太平洋地域の企業との取引では、相手先が使用するシステムに関係なく、標準化されたフォーマットでデータをやり取りできます。輸出入に関連する請求書業務も効率化でき、グローバルなビジネス展開を支援する基盤となります。
デジタルインボイスのデメリット3つ
デジタルインボイスには多くのメリットがある一方で、導入時の課題やデメリットも存在します。企業がデジタルインボイスの導入を検討する際は、これらの課題も考慮に入れる必要があります。
- 導入コストがかかる
- 社員への周知・教育が求められる
- 取引先によってはデジタルインボイスに対応していない
以下では、デジタルインボイス導入に伴う3つの主なデメリットについて解説します。
導入コストがかかる
デジタルインボイスを利用するためには、Peppolに対応したバックオフィスソフトの導入が必要です。ソフトウェアの基本料金やオプション料金に加え、新システムの運用に関連する人件費や研修費などの初期コストが発生します。
特に複数のシステムを併用する場合、システムごとの導入・運用コストが企業の負担となる可能性があります。ただし、IT導入補助金など、業務効率化やDXに向けたITツールの導入を支援する制度を利用できる場合もあるため、これらの活用も検討する価値があります。
インボイス制度にシステムの導入で対応する方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
社員への周知・教育が求められる
デジタルインボイスの導入には、新しい請求書処理フローに関する社内ルールやマニュアルの策定が必要です。また、デジタルインボイスに対応したバックオフィスソフトの使用方法について、社員教育も欠かせません。
さらに、電子データの適切な保存・管理方法や、情報セキュリティに関する知識の指導も重要です。システムの不具合や人為的ミスによるデータ消失を防ぐため、事前に社内で明確なルールを策定し、全社員への周知・徹底を図る必要があります。
取引先によってはデジタルインボイスに対応していない
デジタルインボイスは、取引先もPeppolに対応したバックオフィスソフトを導入している必要があります。取引先が電子インボイスによる取引に消極的な場合や、まだシステム対応できていない場合は、紙の請求書との併用が必要になります。
このような場合、紙とデジタルの両方の請求書に対応する必要が生じ、かえって経理業務の負担が増える可能性があります。取引先のニーズや対応状況を考慮しながら、段階的な導入を検討するなど、柔軟な対応が求められます。
デジタルインボイスに関するよくある質問
デジタルインボイスについて、企業の経理担当者からよく寄せられる質問をQ&A形式で解説します。特に「電子インボイスとの違い」や「導入時期」については、多くの方が疑問を持たれています。以下で、それぞれの疑問点について詳しく説明していきます。
デジタルインボイスと電子インボイスの違いは?
デジタルインボイスと電子インボイスは、一見似ているように見えますが、その本質は大きく異なります。電子インボイスは、紙の適格請求書をPDFなどの電子データに変換したものを指します。受け取った側は、そのデータを確認して手作業で会計システムに入力する必要があります。
一方、デジタルインボイスは、Peppol(ペポル)という国際規格に準拠して標準化・構造化された電子データです。標準化されているため、異なるシステム間でもスムーズにデータ連携が可能で、人手を介さずに自動処理ができます。つまり、単なる「電子化」ではなく、業務プロセス全体の「デジタル化」を実現する仕組みといえます。
デジタルインボイスはいつから導入される?
デジタルインボイスは、インボイス制度が開始された2023年10月1日から利用可能になっています。ただし、導入時期について法的な義務付けはなく、各企業が自社の状況に応じて自由に開始時期を決めることができます。
今後、インボイス制度の浸透とともに、社会全体のDX推進の一環として、徐々に導入企業が増えていくことが予想されます。企業は自社の業務効率化ニーズや取引先の対応状況を考慮しながら、導入時期を検討することができます。
まとめ
デジタルインボイスは、インボイス制度開始後の経理業務を効率化する重要なツールです。単なる請求書の電子化ではなく、国際規格Peppolに準拠した標準化により、システム間の自動連携が可能になります。経理業務のデジタル化を進め、業務効率と生産性を向上させたい企業は、自社の状況に応じてデジタルインボイスの導入を検討することをおすすめします。