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「月末の請求書処理に追われ、本来やるべき分析業務に手が回らない」「新しく入ったメンバーへの教育マニュアルを作る時間がない」——。このような課題を抱える経理担当者の方も多いのではないでしょうか。慢性的な人手不足や業務の属人化は、多くの企業にとって喫緊の課題です。
近年、こうした状況を打破する可能性を秘めたテクノロジーとして「ChatGPT」が大きな注目を集めています。ChatGPTは、人間のように自然な対話ができる生成AIです。一見、経理のような正確性が求められる業務とは無縁に思えるかもしれませんが、その能力を正しく理解し、適切に活用することで、日々の定型業務を劇的に効率化できる可能性があります。
本記事では、ChatGPTを経理業務で活用するための具体的な方法から、導入メリット、そして最も重要な注意点とリスクまでを網羅的に解説します。AIを「脅威」ではなく、業務を支援する強力な「パートナー」として活用するための第一歩を、この記事から踏み出しましょう。
そもそもChatGPTとは?
ChatGPT(チャットジーピーティー)とは、米国のOpenAI社が開発した、対話形式のAI(人工知能)です。大規模言語モデル(LLM)という技術を用いて、膨大なテキストデータを学習しており、人間のように自然な文章を生成できるのが最大の特徴です。
質問への回答はもちろん、文章の作成・要約、翻訳、アイデア出し、ソースコードの生成など、非常に幅広いタスクに対応できる汎用性の高さから、世界中で急速に利用が拡大しています。
ChatGPTを経理業務で活用する7つの具体例
早速、ChatGPTを経理の現場でどのように活用できるか、具体的な7つのシーンを紹介します。
※2025年8月日8時点で使用したChatGPT GPT-5の無料版を使用しています。
勘定科目の提案・仕訳ルールの確認
日常的に発生する取引の仕訳は、経理の基本業務ですが、判断に迷うケースも少なくありません。特に、経験の浅い担当者にとっては大きな負担となり得ます。ChatGPTに取引内容を具体的に伝えることで、適切な勘定科目の候補を挙げさせることができます。
「出張先で利用したタクシー代(5,000円)を経費精算する場合、適切な勘定科目は何ですか?」と質問すると、「旅費交通費として処理するのが一般的です」といった回答を得られます。
また、補足情報として、関連する内容も提示してくれます。

ただし、最終的な判断は自社の会計ルールや過去の処理方法に基づき、人間が行う必要があります。あくまで「壁打ち相手」として利用するのが賢明です。
経理関連のメール・文章作成
取引先への支払依頼や督促、社内向けの経費精算に関する案内など、経理部門は多くの文章作成業務を担っています。ChatGPTは、丁寧かつ適切なビジネスメールの文面を瞬時に作成するのを得意としています。
活用例:
「取引先A社に対する請求書(No.12345)の支払いが、支払期日を1週間過ぎています。丁寧な表現で催促のメール文を作成してください。」

このような指示で、状況に応じた適切なトーンの文章を生成させることができます。
普段の業務の中で発生するとweb上のやり取りなども、ChatGPTに壁打ちすることで一定の品質のアウトプットを出力することができるといえます。
Excel関数・VBAコードの生成と修正
経理業務ではExcelを多用しますが、複雑な関数やVBA(マクロ)の作成に苦労することもあるでしょう。ChatGPTに「やりたいこと」を日本語で伝えるだけで、必要な関数やコードを生成してくれます。
また、特定のVBA
「ExcelのA列にある勘定科目名が『接待交際費』の場合に、B列の金額を合計するSUMIF関数を教えてください。」
「C列の金額が10万円以上の場合、その行を赤色に塗りつぶすVBAコードを作成してください。」

また、コードのデバッグ(修正)を依頼することも可能で、専門知識がなくても作業を効率化できます。過去に使っていたもののエラーが発生して使いこなせていなかったVBAやエクセルの関数もコピーして貼り付けるだけで、解決することができます。

会計・税務情報の調査と要約
新しい会計基準の概要を把握したり、特定の税法について調べたりする際のリサーチアシスタントとしてもChatGPTは有用です。膨大な情報の中から、要点を抽出・要約させることができます。
「2024年改正の電子帳簿保存法について、経理担当者が最低限知っておくべきポイントを3つに要約してください。」と質問することで、電子帳簿保存法に関連する情報を取得することが可能です。

ただし、後述するようにChatGPTの回答は常に正しいとは限りません。必ず国税庁の公式サイトなど、信頼できる一次情報でファクトチェックを行うことが不可欠です。
経費精算規定など社内マニュアルの作成・要約
異動や新入社員の受け入れに伴い、社内マニュアルを整備する機会も多いでしょう。ChatGPTに構成案を作成させたり、既存の規定をより分かりやすい言葉で書き直させたりすることで、資料作成の時間を大幅に短縮できます。
「出張旅費規程の構成案を作成してください。日当、交通費、宿泊費の項目を含めてください。」

財務諸表の分析とレポート作成の補助
ChatGPTに財務諸表のデータを渡し、特定の経営指標(例:自己資本比率、流動比率など)を計算させたり、その数値から考えられる財務状況の概要をテキストで出力させたりすることが可能です。
「以下のP/Lデータから、売上高総利益率を計算し、前期と比較した際の変動要因について考察するレポートのたたき台を作成してください。」
※以下の画像では、仮のP/Lデータを作成してもらい、その変動要因を考察してもらっています。

経営層への報告資料を作成する際の、たたき台として活用することで、分析業務の初動を早めることができます。
経理業務にChatGPTを導入する3つのメリット
ChatGPTの活用は、経理部門に以下のようなメリットをもたらします。
1. 定型業務の効率化と時間創出
これまで手作業で行っていたメール作成、情報検索、データ入力補助といった定型業務をChatGPTに任せることで、作業時間を大幅に削減できます。これにより生まれた時間を、より高度な分析業務や業務改善の検討といった付加価値の高い仕事に振り向けることが可能になります。
2. 人為的ミスの防止と品質向上
Excel関数の記述ミスや、メールの宛名間違いといったヒューマンエラーは、どんなに注意していても起こり得ます。ChatGPTを補助的に利用することで、こうした単純なミスを減らし、業務品質の均質化を図ることができます。
3. 専門知識へのアクセスと自己学習の促進
不明な勘定科目や会計処理について気軽に質問できるChatGPTは、若手担当者にとって優秀な教育ツールとなり得ます。自身の知識を補強し、自己学習を促進するきっかけにもなるでしょう。
ChatGPTを経理で利用する際の3つの注意点とリスク
ChatGPTは非常に便利なツールですが、その利用には重大なリスクも伴います。特に機密情報を扱う経理部門では、以下の注意点を必ず理解し、遵守しなくてはなりません。
情報漏洩のリスクと対策
無料版のChatGPTに入力した情報は、AIの学習データとして利用される可能性があります。 取引先の情報、個人情報、未公開の財務データなどの機密情報を絶対に入力してはいけません。
対策:
- 機密情報を入力しない運用を徹底する。
- 企業で導入する場合は、入力したデータが学習に使われない仕様になっている法人向けの有料プラン(ChatGPT Enterpriseなど)や、API連携を検討する。
- 社内でChatGPTの利用に関する明確なガイドラインを策定し、全従業員に周知する。
ハルシネーション(誤情報)のリスクと対策
ChatGPTは、事実に基づかないもっともらしい嘘の情報を生成することがあり、これを「ハルシネーション」と呼びます。特に、最新の税制や法改正に関する情報、複雑な会計処理の判断については、誤った回答をする可能性が十分にあります。
対策:
- ChatGPTの回答を鵜呑みにしない。
- 必ず国税庁や官公庁の公式サイト、会計専門家の見解など、信頼性の高い一次情報源でファクトチェック(裏取り)を行う。
- 最終的な意思決定は、必ず人間の専門家が行う。
専門的な判断の限界
ChatGPTは、あくまで大規模な言語データから次に来る単語を予測しているに過ぎません。そのため、個別の事情を考慮した高度な税務判断や、会計監査に耐えうるレベルの判断を下すことはできません。AIは「アシスタント」であり、「専門家」ではないことを明確に認識しておく必要があります。
ChatGPTを賢く使うための実践的プロンプト術
ChatGPTから精度の高い回答を引き出すには、指示の出し方(プロンプト)にコツがあります。
役割を与えるプロンプト
質問の前に「あなたはプロの経理担当者です。」「あなたは優秀なデータアナリストです。」といった役割を与えることで、回答の視点や専門性が変わります。
例:
「あなたはベテランの経理部長です。新人経理担当者向けに、請求書処理の注意点を5つ、箇条書きで分かりやすく説明してください。」
具体的な条件を提示するプロンプト
曖昧な質問ではなく、具体的な背景、目的、出力形式などを細かく指定することで、意図に沿った回答が得られやすくなります。
例:
「以下の条件で、取引先への支払遅延に関する催促メールを作成してください。 ・宛先:株式会社〇〇 経理部御中 ・目的:支払期日を過ぎている請求書の入金をお願いする ・トーン:丁寧だが、緊急性が伝わるように ・出力形式:ビジネスメール形式」
経理業務でそのまま使えるプロンプト例
ここでは、前述した「賢い使い方」を踏まえ、コピー&ペーストしてすぐに使える具体的なプロンプトのテンプレートを4つのシーン別に紹介します。AIへの指示を構造化することで、より意図に沿った精度の高い回答を引き出すことができます。
1. 勘定科目の判断に迷った時の「壁打ち」プロンプト
新しい取引やイレギュラーな支出で、どの勘定科目が適切か複数の視点から検討したい場合に有効です。
# 役割
あなたは、上場企業での経理経験が20年あるベテランの経理部長です。IFRSと日本会計基準の両方に精通しています。
# 指示
以下の取引内容について、考えられる勘定科目の候補を複数挙げてください。それぞれの勘定科目を選択した場合のメリット・デメリットや、会計処理上の注意点も合わせて説明してください。
# 制約条件
– 結論を一つに絞らず、あくまで判断材料を複数提示する形式で回答してください。
– 専門用語には簡単な解説を加えてください。
# 入力データ
– 取引内容:全社員向けに、生成AI活用に関する外部研修を実施。講師への謝礼として20万円を支払った。
– 会社の状況:当社はこれまで大規模なAI関連の研修を実施した前例がない。
# 出力形式
1. **勘定科目候補1:研修費**
– メリット:
– デメリット/注意点:
2. **勘定科目候補2:支払手数料**
– メリット:
– デメリット/注意点:
3. **総合的な見解**
– (どちらがより一般的か、などの補足)
2. 支払催促メールを作成するプロンプト
状況に応じて、丁寧かつ的確な催促メールを効率的に作成したい場合に役立ちます。
# 役割
あなたは、取引先との良好な関係を維持しつつ、言うべきことはきっぱりと伝えることができる、ソフトな交渉術に長けた与信管理担当者です。
# 指示
以下の情報に基づき、支払いが遅延している取引先への催促メール(1回目の連絡)を作成してください。
# 制約条件
– 相手を責めるような強い口調は避けてください。
– あくまで「ご確認のお願い」というスタンスで、丁寧な文章を心がけてください。
– 請求書情報を明確に記載し、行き違いの可能性も考慮した一文を加えてください。
# 入力データ
– 宛先:株式会社サンプル商事 経理部御中
– 自社名:TOKIUM株式会社
– 請求書番号:TKM-202507-001
– 金額:330,000円(税込)
– 本来の支払期日:2025年7月31日
– 連絡日:2025年8月8日
# 出力形式
件名:【ご確認のお願い】お支払いについて(TOKIUM株式会社)
(メール本文)
3. 複雑なExcel関数を作成するプロンプト
VLOOKUPとMATCHを組み合わせるような、少し複雑な関数の作成を依頼する際に便利です。
# 役割
あなたは、Excelの全関数を熟知しており、他人が見ても分かりやすい数式を組むことを得意とするデータ分析の専門家です。
# 指示
以下のExcelシートの構成と実現したい内容に基づき、[セルG2]に入力すべきExcel関数を提示してください。また、その関数が何をしているのかをステップバイステップで解説してください。
# 制約条件
– IFERROR関数を使用して、エラーが発生した場合には空白(“”)が表示されるようにしてください。
– 古いバージョンのExcelでも動作するような、互換性の高い関数を優先してください。
# 入力データ
– **シート名:売上実績**
– A列:商品ID(例: A001, B002, …)
– B列:商品名
– C列:単価
– **シート名:販売データ**
– E列:検索したい商品ID
– F列:販売数量
– G列:ここに「商品名」を自動で表示させたい
# 実現したいこと
「販売データ」シートの[セルE2]に入力された商品IDをキーにして、「売上実績」シートのA列を検索し、一致した行のB列にある「商品名」を[セルG2]に表示させたい。
# 出力形式
1. **Excel関数**
(ここに数式を記述)
2. **関数の解説**
– STEP1: VLOOKUP(…)
– STEP2: IFERROR(…)
4. 社内マニュアルの要約を作成するプロンプト
長文の規定集から、特定の対象者に向けた分かりやすいダイジェスト版を作成したい場合に活用できます。
# 役割
あなたは、社内報の編集長です。難しい内容を誰にでも分かりやすく、かつ要点を押さえて伝えるプロフェッショナルです。
# 指示
以下の経費精算規定の全文を読み込み、新入社員向けに「これだけは押さえておきたい5つのポイント」を要約してください。
# 制約条件
– 全体で600字程度の、親しみやすい「です・ます」調の文章にしてください。
– 専門用語や社内用語は避け、平易な言葉に置き換えてください。
– 各ポイントを見出しにした箇条書き形式で作成してください。
# 入力データ
(ここに、既存の経費精算規定の全文をコピー&ペーストする)
# 出力形式
**【新入社員向け】経費精算の5つの基本ルール**
1. **(ポイント1の見出し)**
(ポイント1の要約文)
2. **(ポイント2の見出し)**
(ポイント2の要約文)
…
5. **(ポイント5の見出し)**
(ポイント5の要約文)
まとめ
本記事では、ChatGPTを経理業務で活用する具体的な方法からメリット、そして必ず遵守すべき注意点までを解説しました。
ChatGPTは、正しく使えば経理担当者の強力なパートナーとなり得ます。しかし、その能力とリスクを正確に理解し、情報漏洩対策やファクトチェックを徹底することが大前提です。
まずは、機密情報を含まないメール作成や情報収集といった簡単な業務から試してみてはいかがでしょうか。AIを使いこなし、日々の業務を効率化することで、経理部門の価値をさらに高めていくことができるはずです。
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