内部統制

企業の承認を効率化する実務【2025年版】経理が失敗しない“設計と運用”

更新日:2025.09.10

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人手不足や紙・メール運用のままでは、稟議・承認の停滞が経理の月次締めやキャッシュアウト管理に直結します。

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本記事は、承認の“渋滞”を可視化し、役割・権限・分岐ルールを整理したうえで、ワークフロー/AIエージェント/RPAを適材適所で組み合わせる「設計と運用の道筋」を解説します。電帳法・インボイス対応、監査ログや権限分掌などの統制観点も押さえ、明日から改善できる実務に落とし込みます。

上司の承認が滞る原因とビジネス影響

承認停滞の主因は、紙・メール中心の運用、過剰な経路、役割不明確、差し戻し基準の曖昧さです。これらは月次締めの遅延、支払遅延、コンプライアンス事故の火種になります。まずは可視化により“どこで止まるか”を把握し、不要ステップの削減と基準の明文化から着手します。

典型的な承認渋滞ポイントを探る

同じ内容を別の役職が重ねて確認する“重複承認”は、責任の明確化よりも待ち時間の増加につながりやすい論点です。さらに、メールでの依頼と催促に頼る運用では、受信箱の埋没や見落としが発生し、誰の手元で止まっているのかが見えません。

紙の押印も、出社や原本の移動が必要になるたびに一時停止を生みます。まずは承認経路を一覧化し、役割が重なる承認を統合する、メール起点のやり取りを仕組み化に置き換える、押印を電子署名や承認履歴に切り替えるといった基本対応から始めると効果が出ます。

承認待ちと組織設計の課題

「誰が最終責任者か」「どの金額帯まで決裁できるか」が曖昧だと、現場は安全側に倒れて過剰な確認を回しがちです。逆に、権限が大きすぎると、特定の承認者に案件が集中して待ち行列が伸びます。金額やリスクで権限を段階化し、代理承認や期間限定の委任も設けることで、責任の所在を保ったまま処理を平準化できます。役割・権限表を公開し、誰でも参照できる状態にしておくことが、日々の判断を速くします。

紙・メール運用の限界とリスク

紙やメールは“流れ”が残りにくく、後から追跡しようとしても履歴が切れたり、関係者の受信箱に閉じたままだったりします。結果として、承認の根拠資料が散逸し、監査のときに遡及確認が難しくなります。さらに、ファイル差し替えや内容書き換えの検知が難しい点もリスクです。作業の入口から仕組み上で受け付け、証憑と承認記録を一体で保管することで、誰がいつ何を確認したかを確実に残せます。

企業の承認プロセス

以下の記事では、紙・メール承認を電子承認に切り替える具体策を詳しく解説していますので参考にしてください。

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“あるべき承認設計”の基本

承認設計は「金額やリスクで分岐」「並列承認で待ち時間短縮」「一定条件でスキップ」の3点が核です。代理承認や期間限定の委任も定義し、属人化を抑えます。視覚的なフロー図と稟議テンプレを用意し、誰が・いつ・何を確認するかを明文化します。

金額しきい値と条件分岐

承認経路は“すべて同じ”にせず、金額とリスクで分けるのが基本です。例えば、少額かつ定型の支出は部門長で完結、高額や契約変更を伴うものは管理部や法務を経由、といった分岐を定義します。分岐条件は曖昧語を避け、金額の下限・上限、契約の有無、個人情報の扱いなど客観条件で表現します。これにより、担当者が迷わずに正しい経路を選べるようになります。

並列承認とスキップ条件の設計

待ち時間を短くするには、同格者の確認を“順番”ではなく“同時”に進める並列承認が有効です。加えて、標準契約を使っていて金額も小さいといった低リスク案件では、管理部の確認を省略するなど、明確なスキップ条件を設けます。並列やスキップは“例外対応”ではなくルールとして文書化し、適用条件と適用外の境界をはっきりさせることで、現場判断のばらつきを抑えられます。

代理承認・委任を活用する

承認者の不在や繁忙は、簡単に数日単位の遅延につながります。そこで、休暇や出張の期間に限って代理承認者へ自動で回す設定や、月末の繁忙期のみ一時的に権限を広げる“期間限定の委任”を用意します。代理や委任の範囲、監査ログの残り方、戻し方をセットで定義しておくことで、止まりにくい運用と統制の両立が可能になります。

「金額 / リスク / 取引先属性 × 承認経路」判断表

金額帯リスク区分取引先属性想定承認経路(例)並列/代理・スキップ条件SLA目安追加確認
〜30万円低(定型/継続)既存・与信済み申請者 → 部門長部門長と管理職の並列承認可 / 規程充足で管理部スキップ24hAIプレチェック必須項目・証憑OK
30〜100万円中(新規品目/軽微な契約)既存・新規(審査済み)申請者 → 部門長 → 管理部/経理並列:部門長と管理部 / 代理:不在時自動委任48h契約雛形の逸脱有無、支出科目の妥当性
100〜500万円中〜高(個人情報/機密/長期)新規(与信完了)申請者 → 部門長 → 管理部/法務 → 経理並列:管理部と法務 / スキップ:標準契約&金額下限未満で法務省略可72h契約条項の変更差分チェック、反社確認記録
500〜1,000万円高(長期/重要システム)重要取引先・海外申請者 → 部門長 → 管理部/法務 → 経理 → 役員代理:役員不在時は指名代理 / 並列:管理部・法務96h与信/反社・輸出入/越境データの確認、為替リスク
1,000万円超特高(全社影響/重契約)新規・重要(役員会付議)申請者 → 部門長 → 管理部/法務/セキュリティ → 経理 → 役員会並列:管理部・法務・セキュリティ / スキップ不可120h監査ログ・稟議資料の完全性、稟議後の公印/権限確認
※ 金額帯・SLA・経路は社内規程に合わせて調整してください。
※ リスク例:個人情報/機密データの扱い、新規契約、越境データ移転、長期/大型投資など。
※ 取引先属性例:既存/新規、重要取引先、海外(輸出入/外貨建て)。

経理で外せない承認過程における法対応・内部統制

電帳法の真実性確保・可視性・検索要件、インボイス制度の保存要件は承認設計と一体で考えます。監査ログの完全性、権限分掌、SAML/SSOやIP制限などのアクセス統制を“最低限の土台”として定義します。

電子帳簿保存法:改ざん防止・検索性・保存要件

電子保存を選ぶ場合、記録の真実性を担保する仕組み(タイムスタンプや事務手続きの明確化)、取引単位での検索性(取引先・日付・金額などで検索できること)、定められた保存期間を満たすことが求められます。承認プロセスと保管の仕組みを分けず、申請・承認・証憑のひも付けを最初から一体化しておくと、要件の抜け漏れを防ぎやすくなります。

以下の記事では、電帳法に沿った請求書の保存手順を実務視点で詳しく解説していますので参考にしてください。

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インボイス制度:記載事項と保管の実務

適格請求書の要件を満たすかは、受領時点で確認しておくのが効率的です。発行事業者の登録番号や税率・税額など、抜けがあれば承認前に差し戻して修正・再発行を依頼します。承認済みの証憑は検索可能な形で保管し、後から税率別の集計や抽出が行えるようにしておくと、申告・監査の対応がスムーズです。

電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック 電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック

監査ログ・権限分掌・アクセス統制

誰がいつどの申請に対して何をしたのか、操作履歴を完全に残す“監査ログ”は、内部統制の基盤です。起票・承認・差し戻し・経路変更といった主要イベントは当然として、権限の変更や設定の編集も記録対象に含めます。SAML/SSOによる本人確認、IP制限によるアクセス範囲の制御、職務分掌によるチェックアンドバランスを組み合わせ、安心して自動化できる土台を作ります。

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承認を仕組み化する選択肢:ワークフロー×AI×RPAの使い分け

ワークフローは経路設定・進捗可視化・自動催促の中核。AIエージェントは申請内容の要約・規程チェック・不足指摘で“差し戻し率”を下げます。RPA/APIは承認後の会計・購買登録など後工程を自動化。三者の役割を明確化し、過不足ない組み合わせにします。

ワークフローの基本機能

申請から最終承認までの“現在地”を見える化し、滞留が発生したら自動で催促する。この2つがワークフローの中核です。金額やリスクで経路を切り替える条件分岐、同格者の並列承認、代理承認の設定がそろえば、日々の待ち時間は大きく短縮します。メール主体のやり取りは極力避け、仕組み上で完結させることが追跡性を高めます。

AIエージェントでの規程チェックと要約

AIエージェントは、申請内容を会社の規程に照らして不足や不一致を指摘し、承認者向けに背景と要点を短くまとめます。これにより、初回の差し戻しが減り、承認者は“判断が必要な点”に集中できます。テンプレートの必須項目を満たしているか、証憑の記載が要件を満たしているかを自動で検査できるよう、規程やチェックリストをデータ化しておくと効果が上がります。

以下の記事では、AIエージェントで差し戻し率を下げる実装と手順を詳しく解説していますので参考にしてください。

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RPA/API連携で後工程を自動化

最終承認の後は、会計システムや購買、ID発行など後続システムへの登録が待っています。ここはAPI連携やRPAで機械的に処理し、転記ミスや登録漏れを防ぎます。承認完了のトリガーで自動登録と通知を実行すれば、担当者の“最後のひと押し”に依存しない安定運用に近づきます。

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承認を数字で語るためのKPIと改善サイクル

“感じ”ではなく“数値”で改善を回します。代表指標は承認リードタイム(中央値)、一次差し戻し率、滞留件数、経路別ボトルネック。ダッシュボードで週次レビューし、経路簡素化や並列化、有効な自動催促の閾値を調整します。

主要KPI:リードタイム中央値/差し戻し率/滞留

改善の起点は“いま何時間かかっているか”を正確に測ることです。外れ値の影響を受けにくい中央値のリードタイム、初回審査で戻された割合、基準日時点の滞留件数をそろえると、部門間で比較しやすくなります。金額帯やリスク別に切って見ると、狙うべき施策が明確になります。

フロー図でのボトルネック特定

ダッシュボードで全体の数値を俯瞰したら、次はフロー図で具体的に“どこで詰まっているか”を特定します。例えば、法務の確認に集中しているのか、最終承認者の予定に依存しているのかによって、並列化や代理設定など打ち手は変わります。詰まりの原因ごとに、経路の簡素化、スキップ条件の追加、AIによる前処理強化といった対策を当てます。

部門別ボトルネック表(部門×平均待ち時間×件数×SLA違反率)

部門平均待ち時間処理件数(週)SLA違反率主要ボトルネック対策メモ
営業部— 時間— 件— %外出で承認遅延モバイル承認の徹底、代理承認範囲拡大
購買部— 時間— 件— %証憑不足で差し戻しAIプレチェックの必須化、テンプレ強化
管理部— 時間— 件— %承認者集中並列承認/スキップ条件見直し、負荷分散
経理部— 時間— 件— %チェック過多金額/リスクでの分岐再調整、後工程はRPA連携
※ 平均待ち時間は中央値推奨。SLA違反率=(期限超過で完了した件数 ÷ 承認完了件数)×100。

週次レビュー運用で最適化

数値は作って終わりではなく、週次の短いレビューで回します。改善施策を打った翌週の数値を確認し、効果が薄ければすぐに条件を微調整します。リマインドのタイミングやSLAの設定も、このサイクルで最適化していくと、無理のない水準に自然と落ち着きます。

承認を効率化する“道筋”:小さく試して全社へ

まずは対象を1~2業務に絞り、小規模検証(PoC)で効果とリスクを確認。併せて稟議テンプレと規程抜け漏れチェックを整備します。成功パターンを横展開し、段階的に経路と自動化領域を広げます。

最小単位の対象を選定する

全社一斉の切り替えは失敗リスクが高いため、頻度が高く影響も見えやすい1~2業務から着手します。金額帯やリスクの種類が代表的なケースを選ぶと、得られた学びを横展開しやすくなります。最初の対象は、関係者が少なく、依頼から承認までの流れが単純なものが理想です。

テンプレ・規程の整備と教育

効果を出す近道は“入口の質”を上げることです。申請テンプレートに必須項目を明示し、見本も添えて迷いを減らします。規程の要点を短いQ&Aにまとめ、AIエージェントのチェック項目としても流用します。導入時は短い説明会や動画で周知し、現場の疑問を早めに解消します。

段階的拡大と撤退基準を設ける

小規模検証で指標が目標を満たしたら、対象部門や金額帯を段階的に広げます。逆に、目標に届かない場合は原因を切り分け、期間を区切って再検証します。展開や撤退の条件を事前に決めておくことで、場当たり的な運用にならず、関係者の合意形成もスムーズです。

承認ツール運用に失敗しないルール作り

“動く仕組み”には運用ルールが必須です。承認SLAと自動催促、モバイル承認、例外フローの明文化、休暇時の代理設定を標準に。定期監査で権限とログの整合性を保ちます。

承認SLAと自動リマインド

「いつまでに承認するか」を部門・金額帯・リスク別に数字で定め、期限前後に自動通知が飛ぶよう設定します。再通知の間隔や、代理承認へ自動で切り替わる条件も合わせて定義しておくと、滞留を事前に防げます。SLAは固定ではなく、実績に応じて四半期ごとに見直すのが現実的です。

モバイル承認と外出時の止まり防止

承認者は常にデスクにいるわけではありません。スマートフォンから申請内容と証憑を確認し、コメントや差し戻しまで完結できれば、外出や会議の多い役職でも待ち時間を作りにくくなります。通知からワンタップで承認画面へ移動できる導線を用意しておくと、反応率が上がります。

例外フローと代理承認の運用

緊急度が高い案件や、高額・機密情報を扱う案件は、通常と異なる経路を通す必要があります。どの条件で例外経路を使い、承認後にどの範囲へ報告するかを明文化しておくと、判断の迷いがなくなります。代理承認は“権限の拡大”ではなく“停止防止の仕組み”として位置づけ、記録の残り方に注意します。

承認SLA運用チェックリスト

項目確認内容確認
SLA設定部門/金額帯/リスク別に「承認締切(例:24/48/72時間)」が定義され、通知文面も明文化されている
自動リマインド期限の◯時間前/超過時に自動催促(メール/チャット/アプリ通知)。再通知の間隔と停止条件が設定済み
代理承認不在/出張時に自動で代理に回る設定(期間限定の委任含む)。適用範囲と監査ログの残り方を確認
並列承認/スキップ同格者の並列承認や、条件を満たす場合の承認スキップを定義。過剰承認がないか四半期ごとに見直し
モバイル承認外出先でも承認可能。添付の閲覧、検索、コメント、差し戻しがスマホで問題なく行える
一次差し戻し対策AIプレチェックで規程違反/不足項目を事前指摘。テンプレ必須項目の入力・証憑チェックを自動化
監査ログ誰がいつ何を承認/差し戻し/変更したか、完全な証跡が残る。検索/エクスポートの手順も定義済み
アクセス統制SAML/SSO、IP制限、権限分掌が有効。定期棚卸で権限の過不足を解消している
SLAモニタリングダッシュボードで「承認リードタイム中央値」「SLA違反率」「滞留件数」を週次レビューし是正
例外フロー緊急・高額・取引先リスク等の例外経路を明文化。利用条件と承認後の報告ラインを定義
※ 定期点検の推奨頻度:月次の簡易点検+四半期の全体見直し。改善は「小さく試す検証→横展開」の手順で進めます。

承認ツール選定チェックリスト

“機能が多い=最適”ではありません。自社要件(電帳法・インボイス・権限分掌・監査ログ)を満たすか、条件分岐/並列承認、モバイル、他システム連携、SAML/SSO、運用のしやすさまで確認します。

必須:法対応・証跡・柔軟な分岐/並列・SAML/SSO

選定の第一条件は、電帳法やインボイスの要件を満たし、操作履歴を完全に残せることです。そのうえで、金額やリスクに応じた分岐、同格者の並列承認、SAML/SSOによる本人確認が標準で備わっているかを確認します。ここが不足していると、仕組み化しても現場の運用負荷が下がりません。

有用:テンプレ、リマインド、ダッシュボード

申請テンプレの柔軟性、期限前後の自動催促、承認状況を部門別・金額帯別に見られるダッシュボードは、導入効果を早く出す助けになります。とくに、差し戻しの理由を分類できる仕組みがあると、入口改善のサイクルを回しやすくなります。

乗り換え時のデータ移行と教育計画

既存の申請・承認データやマスタ類を、どの程度の手間で移行できるかは重要です。CSVやAPIでの移行手段、移行後の検索性、旧運用の証跡をどう保持するかを事前に確かめます。ユーザー教育は短い動画やチートシートを用意し、初週の問い合わせ対応窓口を明記して不安を減らします。

まとめ

承認効率化は「設計(権限・分岐・例外)×運用(SLA・リマインド・可視化)×仕組み(ワークフロー/AI/RPA)」の三位一体で進めます。まずは小さく試し、KPIで効果を測定しながら対象を段階拡大していきましょう。法対応・監査ログ・権限分掌を最低限の土台とし、差し戻し率と承認リードタイムを継続的に改善していくことが成功の近道です。

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