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- Q&A:企業の承認を効率化するには、まず何から始めればよいですか?
- なぜ上司の承認が滞り、どんなビジネス影響が出るのか?
- 承認フローを“あるべき姿”に設計するには、何をどう決めればよいか?
- 承認効率化のとき、電帳法・インボイス・内部統制で絶対に外せないポイントは何か?
- ワークフロー/AI/RPAは、承認プロセスのどこでどう使い分けるべきか?
- 承認効率化を“数字で語る”には、どんなKPIと改善サイクルが必要か?
- 承認効率化を失敗させないために、どの順番でスモールスタートすべきか?
- 承認ツールの運用で、止まりにくくするためのルールはどう設計すべきか?
- ワークフローや承認ツールを選ぶとき、必ずチェックすべき項目は何か?
- 承認効率化に関するよくある質問(FAQ)
- まとめ
紙の稟議書やメール承認が当たり前のままでは、申請が上司の受信箱に埋もれ、決裁が遅れがちになります。結果として、支払い遅延や機会損失、現場の不満、内部統制への不安がじわじわと積み上がっていきます。
→ダウンロード:請求書電子化で「ミスなく」月次決算を実現できる理由とは?3つのメリットをご紹介
本記事では、経理部門の視点から「承認を止まりにくくする仕組みづくり」に焦点を当て、金額・リスクに応じた承認ルートの設計、SLAやKPIによる見える化、ワークフロー/AI/RPAの使い分けまで、企業の承認を効率化するための具体的なステップを解説します。
Q&A:企業の承認を効率化するには、まず何から始めればよいですか?
企業の承認効率化の全体像と最初の一歩をQ&A形式で整理し、この記事で何が分かるのかを短時間で把握できるようにします。企業の承認プロセスを効率化したいと考えても、「何から手を付ければよいのか」「どこまでやれば十分なのか」が分からず、着手が後回しになりがちです。ここでは、よくある疑問にQ&A形式で先に答えておくことで、この記事全体の道筋をイメージしていただきます。
Q1. 企業の承認を効率化するには、最初に何をすべきでしょうか?
A. 最初の一歩は、「どの案件が、誰のところで、どれくらい止まっているか」を可視化することです。紙やメールで行っている承認の流れを簡単なフロー図に起こし、金額帯や部門ごとに承認リードタイムを測るだけでも、重複承認や不要な経路、特定の上長に集中しているボトルネックが見えてきます。
Q2. 法対応や内部統制を守りながら、承認をスピードアップすることは可能ですか?
A. 可能です。電帳法やインボイス制度、内部統制で求められる「証憑の保存」「権限と承認の分離」「証跡の確保」といった最低限の要件を押さえたうえで、それ以外の部分はワークフローの自動権限設定やログ記録に任せる設計にすれば、「ガバナンスを効かせながら速く回す」ことができます。
Q3. ワークフローやAIなどのツールは、どのタイミングで検討すべきでしょうか?
A. 現状のフローと承認権限が整理できたあとに、「どこをツールで置き換えると最も効果が大きいか」を検討するのが現実的です。まずは経費精算や請求書承認など、件数が多くルールが明確な領域で小規模に試し、承認リードタイムや差し戻し率といったKPIで効果を測りながら、適用範囲を段階的に広げていくことをおすすめします。
Q4. 中小企業でも、ここまで本格的な承認設計が必要でしょうか?
A. 従業員規模にかかわらず、「どの金額・どのリスクまでを誰が承認するか」「何日以内に承認するか」といった基本方針がないと、属人的な判断に依存し続けます。すべてを完璧に整える必要はありませんが、まずは主要な業務についてシンプルな承認ルールと目標リードタイムを決めておくことが、ツール導入やAI活用の前提条件になります。
なお、承認ルートの基本パターンから整理したい方は、こちらの記事もご覧ください
なぜ上司の承認が滞り、どんなビジネス影響が出るのか?
承認が滞る背景には、紙・メール中心の運用や過剰な承認者、権限のあいまいさがあり、その結果として支払い遅延や機会損失、現場の不信感といったビジネス影響が生じます。これらは月次締めの遅延、支払遅延、コンプライアンス事故の火種になります。まずは可視化により“どこで止まるか”を把握し、不要ステップの削減と基準の明文化から着手します。
典型的な承認渋滞ポイントを探る
同じ内容を別の役職が重ねて確認する“重複承認”は、責任の明確化よりも待ち時間の増加につながりやすい論点です。さらに、メールでの依頼と催促に頼る運用では、受信箱の埋没や見落としが発生し、誰の手元で止まっているのかが見えません。
紙の押印も、出社や原本の移動が必要になるたびに一時停止を生みます。まずは承認経路を一覧化し、役割が重なる承認を統合する、メール起点のやり取りを仕組み化に置き換える、押印を電子署名や承認履歴に切り替えるといった基本対応から始めると効果が出ます。
承認待ちと組織設計の課題
「誰が最終責任者か」「どの金額帯まで決裁できるか」が曖昧だと、現場は安全側に倒れて過剰な確認を回しがちです。逆に、権限が大きすぎると、特定の承認者に案件が集中して待ち行列が伸びます。金額やリスクで権限を段階化し、代理承認や期間限定の委任も設けることで、責任の所在を保ったまま処理を平準化できます。役割・権限表を公開し、誰でも参照できる状態にしておくことが、日々の判断を速くします。
紙・メール運用の限界とリスク
紙やメールは“流れ”が残りにくく、後から追跡しようとしても履歴が切れたり、関係者の受信箱に閉じたままだったりします。結果として、承認の根拠資料が散逸し、監査のときに遡及確認が難しくなります。さらに、ファイル差し替えや内容書き換えの検知が難しい点もリスクです。作業の入口から仕組み上で受け付け、証憑と承認記録を一体で保管することで、誰がいつ何を確認したかを確実に残せます。
図:企業の承認プロセス

以下の記事では、紙・メール承認を電子承認に切り替える具体策を詳しく解説していますので参考にしてください。
承認フローを“あるべき姿”に設計するには、何をどう決めればよいか?
金額・リスク・取引先属性ごとに標準ルートとSLAを定め、「誰がどこまで承認するか」を明文化することで、ぶれの少ない承認フローを設計できます。承認設計は「金額やリスクで分岐」「並列承認で待ち時間短縮」「一定条件でスキップ」の3点が核です。代理承認や期間限定の委任も定義し、属人化を抑えます。視覚的なフロー図と稟議テンプレを用意し、誰が・いつ・何を確認するかを明文化します。
金額しきい値と条件分岐
承認経路は“すべて同じ”にせず、金額とリスクで分けるのが基本です。例えば、少額かつ定型の支出は部門長で完結、高額や契約変更を伴うものは管理部や法務を経由、といった分岐を定義します。分岐条件は曖昧語を避け、金額の下限・上限、契約の有無、個人情報の扱いなど客観条件で表現します。これにより、担当者が迷わずに正しい経路を選べるようになります。
承認フローを設計するときは、「金額の大きさ」「取引先のリスク」「取引形態」の3軸で、標準的な承認ルートとリードタイムの目安を決めておくと判断がぶれにくくなります。下記はシンプルな例ですが、自社の実態に合わせてしきい値やルートを調整していく出発点として利用できます。
表:金額・リスク・取引先属性別 承認経路判断表
| 金額帯 | リスクレベル | 取引先属性 | 標準承認ルート | 目安SLA(承認期限) |
|---|---|---|---|---|
| 〜10万円 | 低 | 既存取引先 | 申請者 → 所属長 | 2営業日以内 |
| 10〜50万円 | 中 | 既存取引先 | 申請者 → 所属長 → 部門長 | 3営業日以内 |
| 50〜300万円 | 高 | 新規・重要取引先 | 申請者 → 所属長 → 部門長 → 管理部門(経理・法務など) | 5営業日以内 |
| 300万円超 | 非常に高い | 取締役会決議対象 | 申請者 → 部門長 → 管理部門 → 経営層 | 10営業日以内 |
並列承認とスキップ条件の設計
待ち時間を短くするには、同格者の確認を“順番”ではなく“同時”に進める並列承認が有効です。加えて、標準契約を使っていて金額も小さいといった低リスク案件では、管理部の確認を省略するなど、明確なスキップ条件を設けます。並列やスキップは“例外対応”ではなくルールとして文書化し、適用条件と適用外の境界をはっきりさせることで、現場判断のばらつきを抑えられます。
代理承認・委任を活用する
承認者の不在や繁忙は、簡単に数日単位の遅延につながります。そこで、休暇や出張の期間に限って代理承認者へ自動で回す設定や、月末の繁忙期のみ一時的に権限を広げる“期間限定の委任”を用意します。代理や委任の範囲、監査ログの残り方、戻し方をセットで定義しておくことで、止まりにくい運用と統制の両立が可能になります。
「金額 / リスク / 取引先属性 × 承認経路」判断表
| 金額帯 | リスク区分 | 取引先属性 | 想定承認経路(例) | 並列/代理・スキップ条件 | SLA目安 | 追加確認 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 〜30万円 | 低(定型/継続) | 既存・与信済み | 申請者 → 部門長 | 部門長と管理職の並列承認可 / 規程充足で管理部スキップ | 24h | AIプレチェック必須項目・証憑OK |
| 30〜100万円 | 中(新規品目/軽微な契約) | 既存・新規(審査済み) | 申請者 → 部門長 → 管理部/経理 | 並列:部門長と管理部 / 代理:不在時自動委任 | 48h | 契約雛形の逸脱有無、支出科目の妥当性 |
| 100〜500万円 | 中〜高(個人情報/機密/長期) | 新規(与信完了) | 申請者 → 部門長 → 管理部/法務 → 経理 | 並列:管理部と法務 / スキップ:標準契約&金額下限未満で法務省略可 | 72h | 契約条項の変更差分チェック、反社確認記録 |
| 500〜1,000万円 | 高(長期/重要システム) | 重要取引先・海外 | 申請者 → 部門長 → 管理部/法務 → 経理 → 役員 | 代理:役員不在時は指名代理 / 並列:管理部・法務 | 96h | 与信/反社・輸出入/越境データの確認、為替リスク |
| 1,000万円超 | 特高(全社影響/重契約) | 新規・重要(役員会付議) | 申請者 → 部門長 → 管理部/法務/セキュリティ → 経理 → 役員会 | 並列:管理部・法務・セキュリティ / スキップ不可 | 120h | 監査ログ・稟議資料の完全性、稟議後の公印/権限確認 |
※ リスク例:個人情報/機密データの扱い、新規契約、越境データ移転、長期/大型投資など。
※ 取引先属性例:既存/新規、重要取引先、海外(輸出入/外貨建て)。
承認効率化のとき、電帳法・インボイス・内部統制で絶対に外せないポイントは何か?
電帳法やインボイス制度、内部統制の観点からは、証憑の保存方法、承認権限の分離、操作ログの記録という3つの土台を押さえることが欠かせません。電帳法の真実性確保・可視性・検索要件、インボイス制度の保存要件は承認設計と一体で考えます。ここでは、監査ログの完全性、権限分掌、SAML/SSOやIP制限などのアクセス統制を定義します。
電子帳簿保存法:改ざん防止・検索性・保存要件
電子保存を選ぶ場合、記録の真実性を担保する仕組み(タイムスタンプや事務手続きの明確化)、取引単位での検索性(取引先・日付・金額などで検索できること)、定められた保存期間を満たすことが求められます。承認プロセスと保管の仕組みを分けず、申請・承認・証憑のひも付けを最初から一体化しておくと、要件の抜け漏れを防ぎやすくなります。
以下の記事では、電帳法に沿った請求書の保存手順を実務視点で詳しく解説していますので参考にしてください。
インボイス制度:記載事項と保管の実務
適格請求書の要件を満たすかは、受領時点で確認しておくのが効率的です。発行事業者の登録番号や税率・税額など、抜けがあれば承認前に差し戻して修正・再発行を依頼します。承認済みの証憑は検索可能な形で保管し、後から税率別の集計や抽出が行えるようにしておくと、申告・監査の対応がスムーズです。
監査ログ・権限分掌・アクセス統制
誰がいつどの申請に対して何をしたのか、操作履歴を完全に残す“監査ログ”は、内部統制の基盤です。起票・承認・差し戻し・経路変更といった主要イベントは当然として、権限の変更や設定の編集も記録対象に含めます。SAML/SSOによる本人確認、IP制限によるアクセス範囲の制御、職務分掌によるチェックアンドバランスを組み合わせ、安心して自動化できる土台を作ります。
ワークフロー/AI/RPAは、承認プロセスのどこでどう使い分けるべきか?
ワークフローはルートと権限の管理、AIは一次チェックやリスク検知、画面操作を自動化するRPAはシステム間の定型連携といった役割分担を意識すると、それぞれの強みを生かした承認プロセスを構築できます。ワークフローは経路設定・進捗可視化・自動催促の中核。AIエージェントは申請内容の要約・規程チェック・不足指摘で“差し戻し率”を下げます。RPA/APIは承認後の会計・購買登録など後工程を自動化。三者の役割を明確化し、過不足ない組み合わせにします。
ワークフローの基本機能
申請から最終承認までの“現在地”を見える化し、滞留が発生したら自動で催促する。この2つがワークフローの中核です。金額やリスクで経路を切り替える条件分岐、同格者の並列承認、代理承認の設定がそろえば、日々の待ち時間は大きく短縮します。メール主体のやり取りは極力避け、仕組み上で完結させることが追跡性を高めます。
以下の記事では、電子承認の概要やメリットから、電子承認に必要なシステムと導入時の注意点まで詳しく解説していますので参考にしてください。
AIエージェントでの規程チェックと要約
AIエージェントは、申請内容を会社の規程に照らして不足や不一致を指摘し、承認者向けに背景と要点を短くまとめます。これにより、初回の差し戻しが減り、承認者は“判断が必要な点”に集中できます。テンプレートの必須項目を満たしているか、証憑の記載が要件を満たしているかを自動で検査できるよう、規程やチェックリストをデータ化しておくと効果が上がります。
以下の記事では、AIエージェントで差し戻し率を下げる実装と手順を詳しく解説していますので参考にしてください。
RPA/API連携で後工程を自動化
最終承認の後は、会計システムや購買、ID発行など後続システムへの登録が待っています。ここはAPI連携やRPAで機械的に処理し、転記ミスや登録漏れを防ぎます。承認完了のトリガーで自動登録と通知を実行すれば、担当者の“最後のひと押し”に依存しない安定運用に近づきます。
承認効率化を“数字で語る”には、どんなKPIと改善サイクルが必要か?
承認リードタイム、一次差し戻し率、滞留件数などのKPIを定義し、月次でボトルネックを特定・対策するサイクルを回すことで、改善効果を定量的に説明できるようになります。“感じ”ではなく“数値”で改善を回しましょう。代表指標は承認リードタイム(中央値)、一次差し戻し率、滞留件数、経路別ボトルネック。ダッシュボード(承認状況を一覧で見られる画面)で週次レビューし、経路簡素化や並列化、有効な自動催促の閾値を調整します。
主要KPI:リードタイム中央値/差し戻し率/滞留
改善の起点は“いま何時間かかっているか”を正確に測ることです。外れ値の影響を受けにくい中央値のリードタイム、初回審査で戻された割合、基準日時点の滞留件数をそろえると、部門間で比較しやすくなります。金額帯やリスク別に切って見ると、狙うべき施策が明確になります。
部門別ボトルネックの洗い出し」
ダッシュボードで全体の数値を俯瞰したら、次はフロー図で具体的に“どこで詰まっているか”を特定します。例えば、法務の確認に集中しているのか、最終承認者の予定に依存しているのかによって、並列化や代理設定など打ち手は変わります。詰まりの原因ごとに、経路の簡素化、スキップ条件の追加、AIによる前処理強化といった対策を当てます。
ボトルネックは、必ずしも経理部門の中だけにあるとは限りません。申請部門、承認者、情報システム部門など、それぞれに異なる「止まりやすいポイント」と「打ち手」があります。代表的なパターンを整理すると、どこから改善を始めるべきかが見えやすくなります。
表:部門別ボトルネックと主な対策
| 部門 | 代表的なボトルネック | 主な対策 |
|---|---|---|
| 申請部門 | 申請ルールが分かりにくく、記入漏れ・誤入力が多い | 申請フォームの項目整理とガイド文の追加、テンプレート配布、よくある質問の整理 |
| 承認者(管理職) | 紙やメールに埋もれて承認漏れが発生する | ワークフローで承認依頼を集約、リマインド設定、承認期限(SLA)の明確化 |
| 経理・管理部門 | 事前確認や差し戻し対応に時間がかかる | 金額・リスクに応じた事前ルール整備、チェック観点の標準化、AIによる一次チェックの活用 |
| 情報システム部門 | システム間連携がなく、二重入力や手作業が多い | 会計・基幹システムとのAPI連携、マスタ整備、ユーザー管理の一元化 |
| 経営層 | 承認状況やリードタイムが見えず、判断が属人的になりがち | 承認件数・リードタイム・差し戻し率などのダッシュボード整備、定例会での共有 |
週次レビュー運用で最適化
数値は作って終わりではなく、週次の短いレビューで回します。改善施策を打った翌週の数値を確認し、効果が薄ければすぐに条件を微調整します。リマインドのタイミングやSLAの設定も、このサイクルで最適化していくと、無理のない水準に自然と落ち着きます。
なお、承認リードタイムだけでなく、「差し戻し率」をKPIとして継続的に改善したい場合は、差し戻しの原因と対策に特化した以下の記事も併せてご覧ください。
承認効率化を失敗させないために、どの順番でスモールスタートすべきか?
まずは現状の見える化とルール設計から着手し、その後にKPI設定と小規模なツール導入へ進むことで、現場の負担を抑えながら着実に承認効率化を進められます。対象を1~2業務に絞って小規模検証(PoC)で効果とリスクを確認し、稟議テンプレと規程抜け漏れチェックを整備します。成功パターンを横展開し、段階的に経路と自動化領域を広げていきましょう。
最小単位の対象を選定する
全社一斉の切り替えは失敗リスクが高いため、頻度が高く影響も見えやすい1~2業務から着手します。金額帯やリスクの種類が代表的なケースを選ぶと、得られた学びを横展開しやすくなります。最初の対象は、関係者が少なく、依頼から承認までの流れが単純なものが理想です。
テンプレ・規程の整備と教育
効果を出す近道は“入口の質”を上げることです。申請テンプレートに必須項目を明示し、見本も添えて迷いを減らします。規程の要点を短いQ&Aにまとめ、AIエージェントのチェック項目としても流用します。導入時は短い説明会や動画で周知し、現場の疑問を早めに解消します。
段階的拡大と撤退基準を設ける
小規模検証で指標が目標を満たしたら、対象部門や金額帯を段階的に広げます。逆に、目標に届かない場合は原因を切り分け、期間を区切って再検証します。展開や撤退の条件を事前に決めておくことで、場当たり的な運用にならず、関係者の合意形成もスムーズです。
承認ツールの運用で、止まりにくくするためのルールはどう設計すべきか?
承認期限や代理承認、リマインド頻度、例外対応といった運用ルールをツール側に組み込むことで、「人に依存しない止まりにくい承認プロセス」を実現できます。承認SLA(サービスレベル目標:例:24時間以内に承認する、など)と自動催促、モバイル承認、例外フローの明文化、休暇時の代理設定を標準に。定期監査で権限とログの整合性を保ちましょう。
承認効率化は、一気にすべての業務を変えようとすると失敗しやすくなります。現状の見える化から始めて、ルール設計、KPI設定、ツール導入と段階を踏むことで、現場の混乱を抑えながら効果を積み上げることができます。次のロードマップは、その全体像を4ステップで整理したものです。
表:企業の承認効率化ロードマップ
| ステップ | 実施内容 | 経理の役割 | 経営層への説明ポイント |
|---|---|---|---|
| ステップ1 現状の見える化 | 主要な承認フローを洗い出し、金額帯・案件種別ごとの承認ルートとリードタイムを把握する | 現場ヒアリングの主導、フロー図の作成、簡易なデータ集計 | どの承認がどこで滞留しているか、定量・定性の両面で現状を共有する |
| ステップ2 ルール・権限設計 | 金額・リスクに応じた承認ルートと権限、SLA(承認期限)の基本方針を決める | 法令・内部統制の要件整理、現場の業務実態を踏まえたルール案の作成 | 「ガバナンスを守りながら効率化する」方針と、現行ルールとの違いを明示する |
| ステップ3 KPIと運用設計 | 承認リードタイムや差し戻し率などのKPIを定義し、モニタリング方法と改善サイクルを決める | KPI項目の定義、集計ロジックの設計、レポートフォーマットの作成 | どの指標で効果を測るか、いつ・誰に報告するかを合意しておく |
| ステップ4 ツール導入・拡大 | ワークフローやAI・RPAを活用し、まずは対象業務を絞って小規模に導入する | 要件定義、テストシナリオ作成、パイロット運用のフォロー | パイロットで得られた時間削減・ミス削減などの効果を示し、全社展開に向けた投資判断を支援する |
承認SLAと自動リマインド
「いつまでに承認するか」を部門・金額帯・リスク別に数字で定め、期限前後に自動通知が飛ぶよう設定します。再通知の間隔や、代理承認へ自動で切り替わる条件も合わせて定義しておくと、滞留を事前に防げます。SLAは固定ではなく、実績に応じて四半期ごとに見直すのが現実的です。
表:承認SLA運用チェックリスト
| 項目 | 確認内容 | チェック |
|---|---|---|
| SLAの定義 | 金額帯や案件種別ごとに「何営業日以内に承認するか」の目標が文書化されている | □ |
| 可視化 | ワークフロー上で、承認期限や滞留日数を一覧で確認できる画面が用意されている | □ |
| 自動リマインド | 承認期限が近づいたときや期限超過時に、自動で承認者へリマインドが送信される | □ |
| 例外フロー | 長期休暇・出張など承認者不在時の代理承認やエスカレーションのルールが決まっている | □ |
| モニタリング | 承認リードタイムや一次差し戻し率を定期的に集計し、部門別の傾向を把握している | □ |
| 改善サイクル | SLA未達が続く場合に、ルート見直しや人員配置の検討を行う場(会議体)がある | □ |
モバイル承認と外出時の止まり防止
承認者は常にデスクにいるわけではありません。スマートフォンから申請内容と証憑を確認し、コメントや差し戻しまで完結できれば、外出や会議の多い役職でも待ち時間を作りにくくなります。通知からワンタップで承認画面へ移動できる導線を用意しておくと、反応率が上がります。
承認ツールを導入しても、「承認期限」「リマインドの頻度」「例外時の対応」といった運用ルールが決まっていないと、結局フローが止まり続けてしまいます。最低限押さえておきたいSLA運用のチェックポイントを、セルフチェックできるリストとしてまとめました。
例外フローと代理承認の運用
緊急度が高い案件や、高額・機密情報を扱う案件は、通常と異なる経路を通す必要があります。どの条件で例外経路を使い、承認後にどの範囲へ報告するかを明文化しておくと、判断の迷いがなくなります。代理承認は“権限の拡大”ではなく“停止防止の仕組み”として位置づけ、記録の残り方に注意します。
ワークフローや承認ツールを選ぶとき、必ずチェックすべき項目は何か?
既存システムとの連携性、承認ルートの柔軟な設定、モバイル対応、セキュリティ・権限管理、運用サポートなどをチェックすることで、自社の承認業務にフィットするツールかどうかを見極められます。自社要件(電帳法・インボイス・権限分掌・監査ログ)を満たすか、条件分岐/並列承認、モバイル、他システム連携、SAML(IDと権限をシステム間で受け渡しするための規格)連携によるSSO(社内アカウントでのログイン)、運用のしやすさまで確認します。
必須:法対応・証跡・柔軟な分岐/並列・SAML/SSO
選定の第一条件は、電帳法やインボイスの要件を満たし、操作履歴を完全に残せることです。そのうえで、金額やリスクに応じた分岐、同格者の並列承認、SAML/SSOによる本人確認が標準で備わっているかを確認します。ここが不足していると、仕組み化しても現場の運用負荷が下がりません。
有用:テンプレ、リマインド、ダッシュボード
申請テンプレの柔軟性、期限前後の自動催促、承認状況を部門別・金額帯別に見られるダッシュボードは、導入効果を早く出す助けになります。とくに、差し戻しの理由を分類できる仕組みがあると、入口改善のサイクルを回しやすくなります。
乗り換え時のデータ移行と教育計画
既存の申請・承認データやマスタ類を、どの程度の手間で移行できるかは重要です。CSVやシステム同士を直接つなぐAPIAPIでの移行手段、移行後の検索性、旧運用の証跡をどう保持するかを事前に確かめます。ユーザー教育は短い動画やチートシートを用意し、初週の問い合わせ対応窓口を明記して不安を減らします。
承認効率化に関するよくある質問(FAQ)
承認フローの見直しやツール導入を検討するときに、経理部門や現場の管理職からよく挙がる疑問をQ&A形式でまとめました。自社の状況と照らし合わせながら、検討のヒントとしてご活用ください。
Q1. 紙稟議からワークフローに切り替えた場合、承認リードタイムはどの程度短縮できますか?
A. 実際の短縮幅は、承認者の人数や業務量、紙・メール運用時のボトルネックによって大きく変わります。紙の回覧やメール転送による「物理的な滞留」が多いほど、ワークフローで承認依頼を集約し、自動リマインドやSLAを設定することで、承認リードタイムが大きく短縮されやすくなります。社内でパイロット運用を行い、「導入前後で平均何日短くなったか」を一度測定してみると、投資判断や社内説明の材料としても有効です。
Q2. 中小企業でも、SLAやKPIを設定する必要はありますか?
A. 従業員規模にかかわらず、「どのくらいのスピードで承認すべきか」を決めておかなければ、承認プロセスは属人的な判断に依存し続けます。その一方で、いきなり指標を細かくしすぎると運用が続きません。最初は「承認リードタイムの中央値」と「一次差し戻し率」の2つだけに絞り、月次で推移を見るところから始めるのがおすすめです。必要に応じて、滞留件数や部門別の傾向など、徐々にKPIを拡張していけば十分です。
Q3. AIエージェントを使った承認効率化は、どのような業務から始めるべきですか?
A. 最初の対象としては、「件数が多く、ルールが比較的明確な業務」を選ぶと効果を実感しやすくなります。たとえば、経費精算の申請内容と規程の突合、請求書の項目チェック、一定金額以下の定型的な稟議の一次判定などです。AIに任せる範囲は、あくまで「一次チェック」「リスクの見落とし防止」にとどめ、最終的な承認や例外判断は人が行う前提で小さく試すことが、安全に効果を検証するポイントです。
まとめ
承認効率化は「設計(権限・分岐・例外)×運用(SLA・リマインド・可視化)×仕組み(ワークフロー/AI/RPA)」の三位一体で進めます。まずは小さく試し、KPIで効果を測定しながら対象を段階拡大していきましょう。法対応・監査ログ・権限分掌を最低限の土台とし、差し戻し率と承認リードタイムを継続的に改善していくことが成功の近道です。









