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請求書の承認フローが滞り、支払期日に間に合わない、業務が特定の担当者に集中してしまう。こうした課題に悩まされていませんか。複数の部署が関わる承認フローでは、紙ベースの管理や手動作業によって、確認漏れや処理の遅延が発生しがちです。特に経理担当者にとって、請求書の受領方法が多様化し、承認者が不在の場合に業務が停滞するといった問題は、日常的なストレスとなっています。
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本記事では、承認フローの処理が滞る具体的な原因を明らかにし、デジタル化や自動化による段階的な解決策を解説します。業務効率の向上と、働き方改革にも対応できる承認フローの構築方法をご紹介します。
承認フローの基礎知識と経理業務における重要性
承認フローとは、請求書の受領から支払いまでの各段階で、複数の関係者による確認や許可を経て業務を進める一連のプロセスを指します。経理担当者の視点では、請求書の受領、承認依頼、振込、仕訳といった工程が連携して成り立っていますが、組織の規模や業務内容によって、直列型、並列型、条件分岐型など、さまざまなパターンが存在します。また、承認ルートは職務権限規程に基づいて設計されるため、組織内での権限委譲の仕組みを理解することも重要です。まずは承認フローの基本を押さえ、自社の業務にどのパターンが適しているかを見極めることが、効率化への第一歩となります。
承認フローとは? 定義と経理業務における役割
承認フローとは、企業内で契約や各種申請に対して、権限を持つ役職者が承認を行う一連の流れを指します。経理業務においては、請求書の受領から支払いまでの各段階で、複数の関係者による確認や許可を経て処理を進めるプロセスとして機能しています。
具体的には、請求書を受け取った担当者が内容を確認し、上長や関連部署の責任者に承認を依頼します。承認者は請求内容の妥当性や予算の適切性を確認した上で承認を行い、最終的に経理担当者が振込処理と仕訳を実施します。この一連のフローにより、企業の支出管理が適切に行われ、不正な支払いや誤った処理を防ぐことができます。
また、承認フローは責任の所在を明確にする役割も果たしています。誰がいつ承認したのかを記録することで、後から問題が発生した際にも追跡が可能となり、内部統制の強化にもつながります。
承認フローの代表的なパターンと特徴
承認フローには、組織の規模や業務内容に応じて、いくつかの代表的なパターンが存在します。最もシンプルなのが直列型で、申請者から順番に上長、部門長、経理責任者といった形で一人ずつ承認を得ていく方式です。承認ルートが明確でわかりやすく、進捗状況を把握しやすいという利点があります。
一方、並列型は複数の承認者が同時に承認を行う方式です。たとえば、高額な設備投資の場合、経理部長と購買部長が並行して内容を確認することで、多角的な視点から判断できます。承認完了までの時間を短縮できる反面、意見が分かれた場合の調整ルールを事前に決めておく必要があります。
条件分岐型は、申請内容や金額によって承認ルートが自動的に変わる方式です。たとえば、10万円未満の経費は課長承認で完了し、10万円以上は部長承認を必要とするといった設定が可能です。これにより、重要度に応じた適切な承認体制を構築できます。

職務権限規程と承認ルートの関係性
承認ルートは、企業の職務権限規程に基づいて設計されます。職務権限規程とは、組織内で誰がどのような権限を持ち、どの範囲の業務について意思決定できるかを明文化した規則です。
たとえば、職務権限規程では「50万円未満の購買は課長決裁、50万円以上100万円未満は部長決裁、100万円以上は取締役決裁」といった形で、金額や業務内容ごとに承認権限が定められています。この規程に則って承認ルートを設定することで、組織のガバナンスが適切に機能し、権限を超えた支出や不正な取引を防ぐことができます。
また、組織が成長し処理すべき申請の数が増えると、最終決定権者だけでは対応しきれなくなり、承認フローが遅延する原因となります。そのため、職務権限規程に基づいて一部の権限を委譲し、適切な階層で承認を完結させる仕組みが重要です。
承認フローが複雑化する背景と影響
承認フローが複雑化する背景には、組織の成長や業務の多様化があります。企業規模が拡大すると、関与する部署や担当者が増え、それぞれの確認事項も多岐にわたるようになります。たとえば、請求書一つを処理するにも、購買部門での受領確認、予算部門での予算チェック、経理部門での会計処理といった複数の工程が必要となり、承認者の数も増加します。
また、紙ベースの管理とシステム入力が混在している組織では、どの段階でデジタル化するかという方針が統一されておらず、担当者ごとに異なる手順で処理が進められることもあります。この結果、情報の伝達漏れや確認ミスが発生しやすくなります。
承認フローが複雑化すると、処理完了までの時間が長くなるだけでなく、特定の担当者に作業が集中し、業務全体が停滞するリスクも高まります。
以下の記事では、経費精算書の基本から書き方、申請・承認フローの作り方まで詳しく解説しているので参考にしてください。
承認フロー処理が滞る主な原因
承認フローの処理が滞る原因は、複数の要因が絡み合って発生します。紙の書類や電子メールを使った手動の承認フローでは、少しの行き違いや確認漏れが重なるだけで、全体の処理に大きな遅延が生じます。特に紙ベースの文化が根強い組織では、押印やサインのために書類を物理的に回付する必要があり、離れた拠点間では移動時間もかかります。また、紙の請求書と電子データが混在する状況では、それぞれに異なる取り扱いが必要となり、入力ミスや差し戻しのリスクを高めます。さらに、承認者が不在や多忙な場合の代理承認ルールが不明確だと、処理が保留となり業務全体が停滞してしまいます。

紙ベースの手動承認フローが抱えるリスク
紙ベースの手動承認フローでは、各担当者が書類を順番に確認し、押印やサインを行う必要があります。この方式では、書類を物理的に回付するための時間がかかり、特に離れた拠点間では郵送や宅配便を使うため、数日から1週間程度の遅延が発生することも珍しくありません。
また、紙の書類は紛失や汚損のリスクもあり、承認途中で所在が不明になるケースもあります。承認者が出張や休暇で不在の場合、書類が机の上に置かれたまま放置され、次の工程へ進めないという事態も発生します。
さらに、紙ベースでは承認の進捗状況をリアルタイムで把握することが難しく、申請者は「今どこで止まっているのか」を確認するために、各承認者に個別に問い合わせる必要があります。こうした確認作業自体が新たな業務負荷となり、本来の業務に集中できない要因となっています。
請求書受領方法の多様化がもたらす業務の煩雑さ
現在、請求書の受領方法は多様化しており、紙の原本で届くもの、PDFファイルで送られてくるもの、専用の電子請求書システムを通じて受け取るものなど、さまざまな形式が混在しています。
紙の請求書を受け取った場合、まずスキャンしてデータ化する作業が必要となります。スキャン後のファイル名の付け方や保存場所も統一されていないと、後から検索する際に手間がかかります。一方、電子データで届いた請求書も、PDFやエクセルなど形式がバラバラであれば、それぞれに合わせた取り込み作業が必要です。
さらに、経理システムへ転記する際には、手入力でデータを登録することになるため、入力ミスが発生するリスクも高まります。金額や支払日の入力間違いがあれば、承認後に差し戻しが発生し、再度同じ工程を繰り返すことになり、業務全体の効率が大きく低下します。
承認者不在時の業務停滞と連絡体制の課題
承認フローの中で特に厄介な問題が、承認者が不在や多忙で対応できない場合です。管理職などの立場の人は、会議や出張、外部との打ち合わせなどで不在にすることが多く、承認依頼が届いていても即座に対応できないケースが頻繁に発生します。
代理承認の仕組みが整備されていない組織では、承認者が戻るまで処理が止まったままとなり、支払期日に間に合わなくなるリスクも生じます。また、急ぎの案件であることを伝えるために、申請者が個別にメールや電話で連絡を取る必要があり、この確認作業自体が大きな負担となります。
さらに、承認者が複数いる場合、誰が最終的な判断をするのか、どの順番で承認を得るべきかが明確でないと、関係者間での認識のずれが生じ、処理がさらに遅延する要因となります。
差し戻しや却下時の処理フローの不明確さ
承認フローでは、申請内容に不備があった場合や承認基準を満たしていない場合、差し戻しや却下が発生します。しかし、差し戻しや却下時の処理手順が明確に定義されていない組織では、申請者と承認者の間で混乱が生じやすくなります。
たとえば、請求書の金額に誤りがあった場合、どの段階まで戻して修正すべきなのか、修正後は再度最初から承認を取り直す必要があるのか、といったルールが不明確だと、担当者は判断に迷い、確認のためのやり取りが増えてしまいます。
また、却下された申請を再度提出する際の手順や、却下理由の記録方法が統一されていないと、同じミスが繰り返される原因にもなります。差し戻しや却下のルールを事前に明確化し、申請者と承認者の双方が理解しておくことで、スムーズな処理が可能となります。
承認フロー処理のボトルネックを発見する方法
承認フローを改善するには、まず現状の業務プロセス全体を可視化し、どこで手戻りや遅延が発生しやすいかを詳細に調べることが重要です。経理の承認フローでは、購買部門での受領から経理の記帳、振込、保管までの一連の流れで、複数の担当者が関わるため、情報共有の不備や作業の属人化が発生しがちです。具体的には、請求書の受領から最終的な支払いまでの各工程にかかる時間を計測し、平均処理時間を大幅に超える案件がどの段階で発生しているかを分析します。また、差し戻しや再申請が頻発する工程を特定することで、改善すべき優先順位を明確にできます。
承認フロー全体を可視化する重要性
承認フローを改善するための第一歩は、現状の業務プロセス全体を可視化することです。可視化とは、請求書の受領から支払いまでの各工程を図式化し、誰がどの段階でどのような作業を行っているかを明確にすることを指します。
多くの組織では、承認フローが口頭での伝達や個人の経験則に基づいて運用されており、全体像が文書化されていないケースが少なくありません。この状態では、担当者が変わった際に手順が分からなくなったり、部署間での認識のずれが生じたりする原因となります。
承認フロー全体を図に落とし込むことで、どの工程に何人の担当者が関わっているか、各工程にどれくらいの時間がかかっているかが一目で分かるようになります。この可視化により、改善すべきポイントが明確になり、関係者間での共通認識も形成されます。
滞留が発生しやすいポイントの特定方法
承認フローの中で滞留が発生しやすいポイントを特定するには、実際の処理データを分析することが有効です。まず、過去数ヶ月分の承認案件について、各工程にかかった時間を記録し、平均処理時間を算出します。
その上で、平均を大幅に超える時間がかかっている案件がどの段階で発生しているかを確認します。たとえば、購買部門での受領から経理への回付までに通常3日かかるところ、特定の月だけ10日以上かかっているケースがあれば、その期間に何が起きていたのかを調査します。
また、差し戻しや再申請が頻発している工程も滞留のポイントとなります。承認者からの指摘事項を分類し、記載ミスが多いのか、添付書類の不足が多いのかを分析することで、根本的な改善策を講じることができます。

現状分析で確認すべき項目とチェックリスト
承認フローの現状分析では、いくつかの重要な項目を体系的にチェックする必要があります。まず、承認ルートが職務権限規程に沿って適切に設定されているかを確認します。承認者が多すぎる場合や、逆に重要な案件でありながら承認者が少ない場合は、ルートの見直しが必要です。
次に、各工程での処理時間を計測します。申請から最終承認までに何日かかっているか、どの工程で最も時間がかかっているかを把握することで、改善の優先順位を決められます。
また、承認者の負荷状況も重要な確認項目です。特定の承認者に案件が集中している場合、その人が不在になると業務全体が停滞するリスクがあります。承認権限を分散させる、または代理承認者を設定するといった対策を検討します。
さらに、情報共有の方法も確認が必要です。承認状況を関係者全員が把握できているか、進捗確認のための問い合わせが頻発していないかをチェックします。
デジタル化による承認フロー処理効率化の第一歩
承認フローにおける手動作業を削減するには、システムへの移行やワークフロー管理ツールの導入が効果的です。最初のステップは、紙ベースからデジタル化への転換であり、請求書をスキャンしてクラウド上で一元管理することで、回覧にかかる時間を大幅に短縮できます。次に、金額基準や条件分岐を活用し、一定の金額以下であれば自動承認を行うなど、細かいルール設定が可能なシステムを導入します。また、並列承認で複数の承認者が同時に判断する場合、全会一致か多数決かといった意思決定ルールを事前に明確化しておくことで、意見が分かれた際の混乱を防ぎ、スムーズな処理が実現できます。

紙ベースからデジタル化への移行手順
紙ベースの承認フローからデジタル化への移行は、段階的に進めることが成功の鍵となります。最初のステップは、受領した紙の請求書をスキャンしてPDFファイルに変換し、クラウドストレージなどの共有環境に保存することです。この段階では、まだ承認作業自体は従来通りの方法で行い、単純に書類の保管場所をデジタルに移行するだけでも、検索性や共有の利便性が向上します。
次の段階として、ワークフロー管理ツールやクラウド型の承認システムを導入し、承認依頼や承認作業をシステム上で行えるようにします。申請者は必要事項をフォームに入力し、スキャンした請求書を添付してシステム上で承認依頼を送信します。承認者はメールやシステムの通知を受け取り、パソコンやスマートフォンから内容を確認して承認ボタンをクリックするだけで処理が完了します。この移行過程では、現場担当者への説明会や操作マニュアルの整備も重要です。
ワークフロー管理ツールの基本機能と選び方
ワークフロー管理ツールには、承認フローを効率化するためのさまざまな機能が搭載されています。基本的な機能としては、申請フォームの作成、承認ルートの設定、進捗状況の可視化、自動通知機能などがあります。申請フォームは、必要な項目を自由に設定でき、入力必須項目を設けることで記載漏れを防ぐことができます。承認ルートは、直列型や並列型、条件分岐型など、業務内容に応じて柔軟に設定可能です。
ツールを選ぶ際には、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性を確認することが重要です。API連携がスムーズに行えるツールであれば、承認完了後のデータを自動的に会計システムへ取り込むことができ、二重入力の手間が省けます。また、カスタマイズの容易さも選定のポイントです。自社の承認ルールに合わせて設定を変更できるか、ノーコードで設定できるかといった点を確認します。
条件分岐による自動承認ルールの設定方法
条件分岐機能を活用することで、申請内容に応じて自動的に承認ルートを変更できます。これにより、重要度の低い案件は簡略化されたルートで処理し、重要度の高い案件は複数の承認者によるチェックを経るといった、メリハリのある運用が可能となります。
たとえば、経費精算において、5万円未満の申請は直属の上長の承認のみで完了し、5万円以上10万円未満は部門長の承認も必要、10万円以上は経理部長の承認も必要といった設定ができます。この条件分岐は、金額だけでなく、申請の種類や取引先、プロジェクトコードなど、さまざまな条件で設定可能です。
さらに、特定の条件を満たす場合は自動承認する設定も有効です。たとえば、定期的な取引で金額も固定されている請求書については、システムが自動的に承認を行い、担当者は最終確認のみを行うといった運用により、承認作業の負荷を大幅に削減できます。
承認者が複数の場合の意思決定ルールの設計
並列承認で複数の承認者が同時に判断を行う場合、意見が分かれた際の意思決定ルールを事前に明確化しておく必要があります。代表的なルールとしては、全会一致方式と多数決方式があります。全会一致方式は、全員が承認した場合のみ次のフローへ進む方式で、慎重な判断が求められる重要案件に適しています。一方、多数決方式は、過半数が承認すれば次へ進める方式で、スピード重視の案件に適しています。
また、承認者の中に拒否権を持つ人を設定する方式もあります。たとえば、コンプライアンス部門の承認者が一人でも否認した場合は、他の承認者全員が承認していても却下となるといったルールです。これらのルールは、案件の性質や組織の方針に応じて使い分けることが重要です。ワークフロー管理ツールでこれらのルールを設定しておけば、自動的に判定が行われ、スムーズな処理が実現します。
可視化・自動通知・条件分岐の実装イメージは、以下のワークフロー特集で具体機能をご確認ください。
ワークフロー管理ツールで承認フロー処理のボトルネックを解消
ワークフロー管理ツールを活用することで、承認フローの処理が停滞する主要なボトルネックを解消できます。特に効果的なのが、承認者が不在の場合に自動的に別の管理者へ承認権限をバトンタッチする機能です。この仕組みにより、出張や会議で承認者が対応できない状況でも、処理が止まることなく次のフローへ進められます。また、承認フローの進捗状況をリアルタイムで可視化できるため、どの案件がどの段階で滞っているかを一目で把握でき、適切なタイミングでリマインドを送ることが可能です。さらに、モバイル対応のツールを選べば、外出先や自宅からでも承認作業ができ、時間的・地理的制約に左右されない柔軟な働き方が実現します。
承認者不在時の自動振り分け機能の活用
ワークフロー管理ツールの重要な機能の一つが、承認者不在時の自動振り分け機能です。この機能により、承認者が出張や休暇で不在の場合でも、処理が停滞することを防げます。
具体的には、承認者が一定期間応答しなかった場合、あらかじめ設定された代理承認者へ自動的に承認依頼が転送されます。たとえば、承認依頼を送ってから2営業日以内に応答がない場合、同じ権限を持つ別の管理職へ自動的に承認依頼が移行するといった設定が可能です。
また、承認者自身が不在期間を事前にシステムへ登録しておくことで、その期間中に届いた承認依頼は最初から代理承認者へ送られる仕組みもあります。これにより、申請者は承認者の不在を気にすることなく申請でき、承認者も休暇中に承認作業を行う必要がなくなります。この機能は、働き方改革やワークライフバランスの向上にも寄与します。
リアルタイムでの進捗管理と可視化
ワークフロー管理ツールを導入することで、承認フローの進捗状況をリアルタイムで把握できるようになります。申請者は自分が提出した案件が現在どの段階にあるのか、誰の承認待ちなのかを、システムのダッシュボードから一目で確認できます。
管理者側も、全体の承認状況を俯瞰的に見ることができ、どの案件がどの段階で滞っているかを即座に把握できます。たとえば、支払期日が迫っている案件で承認が完了していないものを抽出し、優先的に処理を促すといった対応が可能です。
また、過去のデータを分析することで、特定の時期に処理が集中していないか、特定の承認者に負荷が偏っていないかといった傾向も把握できます。こうしたデータに基づいて承認ルートを見直したり、承認権限を再配分したりすることで、継続的な業務改善につながります。
自動通知とリマインド機能による遅延防止
承認依頼が承認者に確実に伝わるよう、ワークフロー管理ツールには自動通知機能が搭載されています。承認依頼が届いた際に、メールやシステム内の通知でお知らせが送られるため、承認者は依頼を見落とすことなく対応できます。
さらに、一定期間応答がない場合には、自動的にリマインドメールが送信される機能も有効です。たとえば、承認依頼後24時間以内に応答がない場合、再度通知を送るといった設定により、承認者の対応漏れを防ぎます。
申請者側にも、承認が完了した際や差し戻しが発生した際に自動通知が届くため、次のアクションを速やかに取ることができます。こうした自動通知機能により、確認のための問い合わせや催促の連絡といったコミュニケーションコストが大幅に削減され、担当者は本来の業務に集中できる環境が整います。
モバイル対応による場所を選ばない承認体制
スマートフォンやタブレットに対応したワークフロー管理ツールを活用することで、承認者は場所を選ばず承認作業を行えるようになります。出張先や移動中、あるいは自宅からでも、スマートフォンで承認依頼の内容を確認し、承認ボタンをタップするだけで処理が完了します。
特にリモートワークが定着した現在では、オフィスにいなくても承認作業ができる環境は必要不可欠です。モバイル対応により、承認者がオフィスに戻るのを待つ必要がなくなり、処理のスピードが大幅に向上します。
ただし、モバイル端末で承認作業を行う場合、セキュリティ面への配慮が重要です。端末の紛失や盗難に備えて、二段階認証やリモートワイプ機能を有効にするなど、適切なセキュリティ対策を講じることが求められます。また、モバイル端末でも請求書などの添付ファイルを確認しやすいよう、ユーザーインターフェースが最適化されているツールを選ぶことも重要です。
AIを活用した請求書処理の自動化
承認フローをさらに最適化するために、AIを活用した請求書処理ソリューションの導入が増えています。AIと表計算ソフトを連携させることで、従来は手入力していた明細確認や金額照合を自動化でき、承認フローの初動で生じがちな滞留を早期に解消できる可能性があります。金融系のデータ処理は高い精度が求められるため、AIが抽出したデータを人が最終検証するステップは欠かせませんが、適切に運用すれば手作業によるヒューマンエラーや二重入力のミスを大幅に減らす効果が期待できます。また、データ入力にかかる時間が削減されることで、経理担当者がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えられます。
AIとワークフローの連携による業務効率化
AI技術を活用した請求書処理ソリューションは、OCR機能により請求書に記載された文字情報を自動的に読み取り、データ化します。従来は担当者が手入力していた請求書番号、取引先名、請求金額、支払期日といった情報を、AIが瞬時に抽出してシステムへ取り込みます。
このAI機能とワークフロー管理ツールを連携させることで、請求書を受領してから承認依頼を送るまでの工程が大幅に短縮されます。AIがデータを抽出した後、自動的に承認フローが開始され、関係者へ通知が送られる仕組みを構築できます。
さらに、AIは学習機能により、処理を重ねるごとに読み取り精度が向上します。特定の取引先の請求書フォーマットを学習し、次回以降はより正確かつ迅速にデータを抽出できるようになります。この自動化により、経理担当者は単純なデータ入力作業から解放され、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
精度向上のための検証ステップと運用設計
AI技術は非常に有用ですが、抽出されたデータが常に100%正確であるとは限りません。特に手書きの請求書や印字が不鮮明な書類、複雑なレイアウトの請求書では、読み取りミスが発生する可能性があります。そのため、AIが抽出したデータを人が最終確認する検証ステップを設けることが重要です。ワークフローの中に、AIが抽出したデータと元の請求書画像を並べて表示し、担当者が内容を照合する工程を組み込みます。特に金額や支払期日といった重要な項目については、必ず人の目でチェックする運用ルールを設定します。
また、AIの読み取り精度を継続的に向上させるため、誤りがあった場合はそのデータをAIにフィードバックし、学習させることも効果的です。こうした運用設計により、AI技術の利点を最大限に活かしながら、データの正確性も担保できます。
手作業によるミスとコストの削減効果
手作業での請求書処理には、入力ミスのリスクが常に付きまといます。金額の桁を間違える、支払期日を誤って入力する、取引先名を間違えるといったミスは、後から発見された場合に修正作業や再承認が必要となり、大きな時間的ロスにつながります。AI技術を活用することで、こうしたヒューマンエラーを大幅に削減できます。AIは疲れることなく、一定の精度でデータを抽出し続けるため、人が長時間作業した際に起こりがちな集中力の低下による誤りも発生しません。
また、データ入力にかかる時間が削減されることで、人件費の面でもコストダウンが期待できます。経理担当者が一件あたり5分かけて入力していた作業が、AIにより数秒で完了するようになれば、月間で数十時間の業務時間を削減できます。この時間を活用して、より戦略的な業務や分析作業に注力できるようになります。
表:承認フロー改善の Before / After 比較
| 項目 | 導入前(Before) | 導入後(After) | 改善率 |
|---|---|---|---|
| 承認完了までの日数 | 平均5日 | 平均2日 | 60%短縮 |
| 請求書1件あたりの処理時間 | 45分 | 15分 | 67%削減 |
| 差し戻し発生率 | 15% | 5% | 67%削減 |
| 月間残業時間 | 30時間 | 15時間 | 50%削減 |
| 支払期日遅延件数 | 月3件 | 月0件 | 100%削減 |
| データ入力ミス | 月8件 | 月1件 | 88%削減 |
承認フローシステム導入時の選定ポイントとセキュリティ対策
ワークフローシステムやAIを活用したツールを導入する際には、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性を十分に確認することが重要です。API連携がスムーズに行えるかどうかで、請求データと承認状況の自動同期の質が決まり、業務効率に直結します。また、自社の承認ルールに合わせてカスタマイズできるかどうかも選定時の重要なポイントです。セキュリティ面では、データを外部のクラウドにアップロードする場合、どの程度の暗号化やアクセス制御が行われているかを確認し、個人情報保護法や電子帳簿保存法への対応状況もチェックします。さらに、監査証跡を適切に保存できる機能があれば、内部統制やコンプライアンス対応にも役立ちます。
システム選定チェックリスト
| 確認項目 | 重要度 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 既存システムとの連携 | ★★★ | □ API連携が可能か □ 会計ソフトと同期できるか □ データ形式の互換性 |
| カスタマイズ性 | ★★★ | □ ノーコードで設定変更可能か □ 承認ルートを柔軟に変更できるか □ 申請フォームをカスタマイズできるか |
| セキュリティ | ★★★ | □ データ暗号化されているか □ アクセス権限を細かく設定できるか □ 二段階認証に対応しているか |
| モバイル対応 | ★★☆ | □ スマートフォンで承認できるか □ アプリが使いやすいか □ プッシュ通知機能があるか |
| コスト | ★★☆ | □ 初期費用は予算内か □ 月額料金は適正か □ ユーザー数課金か処理件数課金か |
| サポート体制 | ★★☆ | □ 日本語サポートがあるか □ 導入支援があるか □ トラブル時の対応時間 |
既存の経理システムとの連携性を確認する
ワークフローシステムやAI請求書処理ツールを導入する際、最も重要な確認事項の一つが、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性です。多くの企業では、すでに何らかの会計システムを使用しており、新しいツールが既存システムとスムーズに連携できるかどうかが、業務効率に直結します。
API連携が可能なツールであれば、承認完了後のデータを自動的に会計システムへ送信し、仕訳データとして取り込むことができます。この自動連携により、担当者が手作業でデータを転記する必要がなくなり、二重入力によるミスも防げます。
また、既存システムとの連携方法についても確認が必要です。リアルタイムでデータが同期されるのか、バッチ処理で定期的に同期されるのか、どのようなデータ形式で連携されるのかといった詳細を事前に把握し、自社の業務フローに適した方式を選択することが重要です。
カスタマイズの容易さと運用の柔軟性
企業ごとに承認フローや業務ルールは異なるため、ツールを自社の運用に合わせてカスタマイズできるかどうかは重要な選定ポイントです。ノーコードでカスタマイズできるツールであれば、ITの専門知識がなくても、管理者が画面上で設定を変更できます。承認ルートの追加や変更、申請フォームの項目調整、通知メールの文面変更といった作業が、システム開発を伴わずに実施できるため、運用開始後の微調整も容易です。
また、組織変更や業務フローの見直しが発生した際に、柔軟に対応できるかどうかも確認が必要です。部署の統廃合により承認ルートが変わる、新しい承認者を追加する、といった変更に迅速に対応できるツールであれば、長期的に安心して使用できます。さらに、特定の取引先からの請求書だけ別ルートで処理するといった、例外的な運用にも対応できるかを確認しておくことが望ましいです。
情報セキュリティとアクセス権限の管理
請求書には取引先の情報や支払金額といった機密情報が含まれるため、ワークフローシステムやクラウドサービスを導入する際には、情報セキュリティ対策が十分に施されているかを確認する必要があります。まず、データの暗号化について確認します。通信時の暗号化はもちろん、クラウド上に保存されるデータも暗号化されているかをチェックします。また、データセンターの所在地やセキュリティ基準についても確認し、信頼できる環境でデータが管理されていることを確認します。
アクセス権限の管理機能も重要です。従業員の役職や所属部署に応じて、閲覧できるデータや実行できる操作を細かく制限できる機能があれば、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。たとえば、申請者は自分が申請した案件のみ閲覧でき、承認者は自分の承認権限に該当する案件のみ閲覧できるといった設定が可能です。
コンプライアンス対応と監査証跡の保存
企業の内部統制やコンプライアンス対応の観点から、承認フローの履歴を適切に記録し、保存できる機能は必須です。監査証跡とは、誰がいつどのような承認や操作を行ったかという記録を指し、この情報が正確に残っていることで、後から監査を受ける際にも対応できます。
ワークフローシステムでは、申請日時、承認者名、承認日時、却下や差し戻しの履歴、コメント内容などが自動的に記録されます。これらのデータは改ざんできないよう保護され、必要に応じて検索や出力ができる機能が求められます。
また、電子帳簿保存法への対応も確認が必要です。請求書をデジタル化して保存する場合、法律で定められた要件を満たしているかを確認し、税務調査の際にも問題なく対応できる体制を整えます。個人情報保護法についても、請求書に含まれる個人情報の取り扱いが適切に行われているかを確認することが重要です。
以下の記事では、電子帳簿保存法を図解でわかりやすく解説しているので参考にしてください。
スモールスタートによる承認フローの段階的な導入方法
承認フローのデジタル化や自動化を成功させるには、いきなり全体を一斉移行するのではなく、スモールスタートで段階的に導入することが望ましいといえます。まず、ペーパーレス化しやすい一部の業務や特定の部署から試験運用を始め、その上で成果と課題を洗い出し、フローを修正してから次の範囲へ拡張します。この段階的なアプローチにより、現場担当者の抵抗感を和らげつつ、スムーズにシステムへ移行できます。また、テスト期間中に処理時間の短縮効果や差し戻し率の減少といった定量的なデータを収集し、投資対効果を経営層に示すことで、全社展開への理解と予算確保がしやすくなります。

一部業務から始めるテスト導入の進め方
ワークフローシステムやAIツールを全社的に導入する前に、まずは一部の業務や特定の部署で試験運用を行うことが、成功への近道です。スモールスタートにより、システムの使い勝手や現場での受け入れ状況を確認し、問題点を早期に発見して改善できます。
たとえば、経理部門の中でも比較的処理件数が少ない交通費精算から始める、あるいは特定の取引先からの請求書のみをデジタル化するといった形で、範囲を限定してスタートします。この段階では、従来の紙ベースの運用も並行して継続し、システムに慣れるための移行期間を設けることが重要です。
テスト期間中は、実際に使用する現場担当者からフィードバックを積極的に収集します。操作が分かりにくい箇所、設定が不適切な部分、追加してほしい機能などを洗い出し、本格導入前に改善を行います。
現場担当者の抵抗感を減らす社内周知の工夫
新しいシステムを導入する際、現場担当者から「今までのやり方で問題ない」「新しいシステムは使いにくそう」といった抵抗感が生じることは珍しくありません。この抵抗感を減らすためには、導入前の段階から丁寧なコミュニケーションと周知活動が不可欠です。
まず、システム導入の目的とメリットを明確に説明します。単に「効率化のため」という抽象的な説明ではなく、「承認完了までの時間が平均5日から2日に短縮される」「月末の残業時間が10時間削減できる」といった具体的な効果を示すことで、担当者も導入の必要性を理解しやすくなります。
また、操作マニュアルの整備や説明会の開催も重要です。マニュアルは専門用語を避け、画面のスクリーンショットを多用して、初めて使う人でも理解できる内容にします。説明会では実際に操作を体験してもらい、質問に丁寧に答えることで、不安を解消します。
テスト結果の評価と次の段階への拡張判断
テスト導入期間が終了したら、収集したデータや現場からのフィードバックを基に、効果と課題を評価します。評価項目としては、処理時間の短縮効果、差し戻し率の変化、担当者の満足度、システムの安定性などが挙げられます。処理時間については、導入前と導入後で同じ業務にかかる時間を比較し、どの程度短縮されたかを定量的に測定します。差し戻し率が減少していれば、入力ミスや記載漏れが減ったことを意味し、システムの効果が確認できます。
担当者の満足度は、アンケートやヒアリングを通じて把握します。使いやすさ、業務負荷の変化、改善してほしい点などを聞き取り、本格導入前に修正を加えます。これらの評価結果を踏まえて、次の段階への拡張を判断します。テスト導入で十分な効果が確認でき、大きな問題がなければ、対象範囲を広げて次の業務や部署へ展開します。
全社展開に向けた運用ルールの標準化
テスト導入で得られた知見を基に、全社展開に向けた運用ルールを標準化します。標準化とは、承認フローの手順や設定、命名規則、保存ルールなどを統一し、誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できる状態を作ることです。
例えば、請求書ファイルの命名規則を「日付_取引先名_金額」と統一する、承認依頼のコメント欄には必ず支払期日を記載する、といったルールを明文化します。こうした運用ルールを文書化し、マニュアルに反映させることで、新しく担当者になった人もスムーズに業務を始められます。
また、全社展開時には、各部署から運用管理者を任命し、その部署での運用をサポートする体制を整えることも効果的です。運用管理者は、同じ部署のメンバーからの質問に答えたり、トラブルが発生した際に初期対応を行ったりする役割を担います。
承認フローシステムの導入効果を測定し継続的な改善を図る
承認フローの自動化やシステム導入の効果を最大化するには、導入後の効果測定と継続的な改善が不可欠です。まず、導入前後での承認完了までの平均日数、差し戻し率、担当者一人あたりの処理件数といったKPIを設定し、定量的に効果を把握します。データを定期的に分析することで、新たなボトルネックの発見や、さらなる改善の余地が見えてきます。PDCAサイクルを回しながら、組織の変化や外部環境の変化に合わせて承認ルールやワークフローを柔軟に見直すことで、常に最適な状態を維持できます。こうした継続的な改善の姿勢が、長期的な業務効率化と組織全体の生産性向上につながります。
導入前後での処理時間と工数の比較方法
システム導入の効果を正確に把握するには、導入前後での処理時間と工数を定量的に比較することが重要です。まず、導入前の現状を記録します。請求書一件あたりの処理にかかる時間を計測し、受領から承認完了までの平均日数を算出します。また、担当者がどの作業にどれだけの時間を費やしているかを詳細に記録します。たとえば、データ入力に30分、承認依頼の作成に10分、進捗確認に20分といった形で作業を分解し、それぞれの所要時間を測定します。
導入後は、同じ指標で処理時間を計測し、導入前と比較します。たとえば、「請求書一件あたりの処理時間が平均45分から15分に短縮された」「承認完了までの平均日数が5日から2日に短縮された」といった具体的な数値で効果を示すことができます。これらのデータは、経営層への報告や次の投資判断の材料として活用できます。
承認フロー改善のKPI設定と目標値
承認フローの改善効果を継続的に測定するために、KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的にモニタリングすることが有効です。代表的なKPIとしては、承認完了までの平均日数、差し戻し率、承認者の応答時間、支払期日遅延件数などがあります。これらの指標について、現状値と目標値を設定し、達成状況を確認します。
例えば、「承認完了までの平均日数を現状の5日から3日以内に短縮する」「差し戻し率を現状の15%から5%以下に削減する」「支払期日遅延をゼロにする」といった具体的な目標を掲げます。KPIは月次や四半期ごとに集計し、推移をグラフ化することで、改善の効果が視覚的に分かりやすくなります。目標に達していない指標があれば、原因を分析し、追加の改善策を講じます。
参考:KPIダッシュボードのサンプル

PDCAサイクルによる継続的な業務改善
承認フローの最適化は、一度システムを導入したら終わりではありません。PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回しながら、継続的に改善を続けることが重要です。計画段階では、現状の課題を分析し、改善目標を設定します。実行段階では、設定した改善策を実際に運用します。評価段階では、KPIの達成状況を確認し、改善策の効果を測定します。改善段階では、評価結果を踏まえて、さらなる改善策を検討し、次のサイクルへつなげます。
たとえば、承認者の応答時間が目標より長い場合、その原因を分析します。承認者の業務負荷が高すぎるのか、通知が見落とされているのか、承認基準が不明確なのかを調査し、適切な対策を講じます。こうしたPDCAサイクルを定期的に回すことで、組織の変化や外部環境の変化にも柔軟に対応できます。
定期的な見直しとフローの最適化
承認フローは、組織の成長や業務内容の変化に応じて、定期的に見直す必要があります。組織変更により部署の統廃合が行われたり、新しい事業が始まったりすると、既存の承認ルートが適切でなくなる場合があります。年に一度、あるいは組織変更のタイミングで、承認フロー全体を見直す機会を設けることが推奨されます。この際、現場担当者や承認者からヒアリングを行い、現在の承認ルートで不都合が生じていないか、無駄な工程がないかを確認します。
また、業務量の変化に応じて、承認権限の見直しも必要です。特定の承認者に案件が集中している場合は、権限を分散させる、または自動承認の範囲を拡大するといった対策を検討します。こうした定期的な見直しにより、常に最適な承認フローを維持し、業務効率を高い水準で保つことができます。
インボイス制度と新しい働き方への対応
インボイス制度の普及や遠隔勤務の増加など、外部環境の変化は承認フローにも大きく影響を及ぼしています。インボイス制度に対応するためには、適格請求書の要件を満たしているかを確認する工程が追加され、承認フローが複雑化する可能性があります。そのため、システム側で自動チェック機能を持つツールの導入が有効です。また、リモートワークが定着した現在では、オンラインツールやクラウドサービスを用いて、出張先や自宅からでも承認を通せる仕組みが必要不可欠です。承認フローの最適化は、業務効率を高めるだけでなく、働き方の多様化にも対応できる組織体制の構築につながり、今後はさらに高度なAI技術による承認作業の自動化も進んでいくでしょう。
インボイス制度が承認フローに与える影響
2023年10月から開始されたインボイス制度により、経理業務における請求書の取り扱いが大きく変化しました。適格請求書には、発行事業者の登録番号、取引内容、税率ごとに区分した消費税額などの記載が義務付けられており、これらの要件を満たしているかを確認する工程が承認フローに追加されます。
従来の承認フローでは、請求金額や支払期日の確認が主な作業でしたが、インボイス制度導入後は、受領した請求書が適格請求書の要件を満たしているか、登録番号が有効かといったチェックも必要となります。この確認作業を手動で行うと、承認フローの処理時間が増加し、担当者の負荷も高まります。
こうした課題に対応するため、インボイス制度に対応したワークフローシステムの導入が有効です。システムが自動的に登録番号の有効性をチェックし、要件を満たしていない場合は警告を表示する機能があれば、確認作業の負荷を軽減できます。
インボイス制度対応:請求書確認フローチャート

以下の記事では、旅費交通費の特例や宛名要件など立替精算でのインボイス実務について詳しく解説しているので参考にしてください。
リモートワークに対応した承認体制の構築
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、リモートワークが急速に普及しました。これに伴い、オフィスに出社しなくても承認作業を完結できる体制の構築が求められています。従来の紙ベースの承認フローでは、出社して書類に押印する必要がありましたが、リモートワーク環境ではこの方法は機能しません。クラウド型のワークフロー管理ツールを導入することで、自宅からでもインターネット経由で承認作業を行えるようになります。
また、モバイル対応のツールであれば、スマートフォンやタブレットからも承認できるため、外出先や移動中でも対応可能です。こうした柔軟な承認体制により、承認者の所在地に関わらず、迅速な処理が実現します。ただし、リモート環境でのセキュリティ対策も重要です。自宅のネットワーク環境や使用する端末のセキュリティを確保し、情報漏洩のリスクを最小限に抑える必要があります。
働き方改革と承認フロー最適化の関係性
働き方改革の推進により、長時間労働の是正やワークライフバランスの向上が企業に求められています。承認フローの最適化は、こうした働き方改革の実現にも貢献します。手動作業が多く、承認フローが複雑な状態では、月末や決算期に業務が集中し、残業が増加する原因となります。ワークフローシステムやAI技術を活用して業務を自動化することで、処理時間が短縮され、残業時間の削減につながります。
また、承認者が不在でも処理が進む仕組みを整えることで、承認者自身も休暇を取りやすくなります。代理承認機能や自動振り分け機能により、休暇中に承認作業を行う必要がなくなり、真の意味での休暇を確保できます。さらに、リモートワークに対応した承認体制により、育児や介護との両立を希望する従業員も、柔軟に働ける環境が整います。承認フローの最適化は、業務効率の向上だけでなく、従業員の働きやすさの向上にもつながります。
今後の承認フロー処理自動化の展望
今後、AI技術やクラウドサービスのさらなる進化により、承認フローの自動化はより高度なレベルへ進んでいくと予想されます。現在のAI技術は、請求書のデータ抽出や自動仕訳が主な用途ですが、将来的にはAIが承認判断自体を行う領域も広がる可能性があります。たとえば、過去の承認パターンをAIが学習し、定型的な案件については人の承認を経ずにAIが自動的に承認を行うといった運用が考えられます。
また、ブロックチェーン技術を活用した承認履歴の改ざん防止や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との連携による、承認後の会計処理の完全自動化も進むでしょう。経理業務における承認フローの最適化は、単なる業務効率化の手段ではなく、組織全体の生産性向上と従業員の働きやすさを実現するための重要な施策です。デジタル化や自動化を段階的に導入し、継続的に改善を続けることで、変化する外部環境にも柔軟に対応できる組織体制を構築できます。
まとめ
承認フローの処理が滞る原因は、手動作業による確認漏れ、請求書受領方法の多様化、承認者不在時の対応不足など、複数の要因が重なって発生します。これらの課題を解決するには、まず自社の承認フロー全体を可視化し、ボトルネックとなっている工程を特定することが重要です。
その上で、紙ベースからデジタル化への転換を第一歩とし、ワークフロー管理ツールやAIを活用した自動化を段階的に導入することで、業務効率の大幅な改善が期待できます。特に、金額基準による条件分岐や承認者不在時の自動振り分け機能を活用すれば、処理の停滞を防ぎ、リアルタイムでの進捗管理も可能になります。
導入時には、一部の業務からスモールスタートで始め、テスト結果を踏まえて段階的に拡張していくことが、現場の抵抗感を減らし、スムーズな移行につながります。また、セキュリティ対策や既存システムとの連携性も十分に検討し、安全性を確保しながら運用することが不可欠です。









