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企業の承認フロー処理は、権限規定の最適化・プロセスの一元化・脱ハンコをセットで見直すことで、決裁スピードを劇的に高め、業務の停滞時間を数日単位で削減できる余地があります。承認フローの処理が滞る主な原因は、「紙や手入力による承認前工程の非効率」と「承認ルールの設計不備」にあります。これらは、プロセスの見直しと自動化により、改善することができます。
本記事では、承認フローの処理が滞る本質的な課題を明らかにし、デジタル化や自動化による段階的な解決策を解説します。設計パターン、そしてシステム導入による自動化のステップまで、押さえておきたい実務ノウハウを具体的に解説します。
承認フロー処理のよくある疑問と先に押さえたい答え
Q1. 承認フロー処理とは、経理業務の中で何をする業務ですか?
A. 承認フロー処理とは、請求書や経費申請などの内容が社内ルールに沿って正しいかを確認し、支払いや仕訳へ進めるための一連の確認・決裁業務です。単なる承認作業ではなく、「誰が・どの条件で・どこまで判断できるか」を実務上で運用する役割を担います。
Q2. 承認フロー処理が遅くなる原因は何ですか?
A. 承認フロー処理が遅くなる主な原因は、紙や手入力による前工程の非効率と、承認ルールが整理されていないことです。特に入力ミスによる差し戻しや、承認者不在時の対応ルール不足が、処理全体を停滞させる要因になります。
Q3. 承認フローを電子化しても改善しないのはなぜですか?
A. 「承認の前段階(入力・確認)」が自動化されておらず、承認者の検算・突合負担が減っていないからです。 単に紙をデジタルに置き換えただけでは、確認・差し戻し・判断の手間が残り、処理スピードは向上しません。「作業の電子化」ではなく「プロセスの自動化」を目指すことが、失敗しないシステム選びの鉄則です。
承認フローとは? 定義と経理業務における役割
承認フローとは、企業内の各種申請に対して「権限を持つ担当者が順番に承認していく一連の流れ」を指します。 経理業務では、次のような工程で機能します。
- 請求書の受領:担当者が内容を確認
- 承認依頼:上長や関係部署へ回付
- 承認:金額・契約内容・予算の妥当性をチェック
- 支払い・仕訳:経理担当者が処理を実施
このプロセスによって支出管理の正確性が保たれ、不正防止や誤処理の抑止にもつながります。さらに、承認者・承認日時が記録されることで、後から問題が発生した際の追跡が容易となり、内部統制の強化にも寄与します。
承認フローの代表的なパターンと特徴
承認フローには複数の方式があり、業務内容やリスクレベルに応じて使い分けます。
■ 直列型(最も一般的な承認方式)
- 申請者から上長、部門長といった順番で、一人ずつ承認を行う形式です。承認の流れが明確で、処理状況を把握しやすい点が挙げられます。承認者が多い場合、全体の処理に時間がかかりやすいため、承認遅延のリスクがあります。
■ 並列型(複数の承認者が同時に確認する方式)
- 経理部門と購買部門など、複数の承認者が同時に内容を確認する形式です。並行して承認が進むため、処理時間を短縮でき、複数の観点から妥当性を確認できます。承認者の判断が分かれた場合に備えて、事前に調整ルールを定めておくことが重要です。
■ 条件分岐型(内容や金額に応じて承認ルートが変わる方式)
- 10万円未満は課長承認、10万円以上は部長承認など、申請内容や金額によって承認ルートが切り替わる形式です。リスクに応じて適切な承認体制を構築でき、過剰な承認負荷を避けることが可能です。分岐条件を明確にし、職務権限規程との整合性を保つことが不可欠です。

職務権限規程と承認ルートの関係性
承認ルートは、企業の職務権限規程にもとづいて設定されます。職務権限規程とは、
「誰がどの範囲の意思決定権を持つか」を定めた社内ルールです。
例)
- 50万円未満:課長決裁
- 50〜100万円:部長決裁
- 100万円以上:取締役決裁
この規程に沿って承認フローを設計することで、組織のガバナンスが機能し、権限を逸脱した支出や不正を防ぐことができます。
一方で、企業規模が大きくなると処理件数も増えるため、最終決裁者に承認が集中し、承認遅延の原因となりがちです。そのため、規程にもとづく適切な権限委譲や、一定の範囲で承認を完結させる仕組みが欠かせません。
承認フローが複雑化する背景と影響
承認フローが複雑化する主な理由は、組織の成長と業務内容の多様化です。
複雑化の背景
- 部署数や関係者が増える
- 確認すべき観点(契約内容・予算・法務リスク等)が拡大する
- 紙とシステム入力が混在し、手順が担当者ごとに異なる
複雑化による影響
- 承認に時間がかかり、支払いが遅延する
- 情報の伝達漏れや確認ミスが発生しやすくなる
- 特定の担当者に作業が集中し、業務全体が停滞する
承認フローが煩雑になるほど、業務スピードの低下や統制上のリスクが増えるため、定期的な見直しが重要です。以下の記事では、経費精算書の基本から書き方、申請・承認フローの作り方まで詳しく解説しているので参考にしてください。
承認フロー処理が滞る主な原因とは
承認フローが遅延する背景には複数の要因が重なっています。特に紙やメールを中心とした承認プロセスでは、わずかな確認漏れや行き違いが連鎖し、業務全体の停滞を招きやすくなります。
- 紙書類の回付や押印に物理的な時間がかかる
- 紙と電子データが混在し、処理方法が統一されていない
- 承認者不在時の対応ルールが曖昧
- 差し戻し・却下時の再処理フローが不明確
これらが積み重なることで、承認スピードと業務効率は大きく低下します。
紙ベースの手動承認フローが抱えるリスク
紙を前提とした承認フローでは、まず、書類を物理的に回付する必要があるため、拠点間が離れている場合は郵送・宅配により数日〜1週間程度の遅延が発生します。また、承認者が出張や休暇で不在の場合、書類が滞留し次の工程に進めないケースも珍しくありません。
加えて、紙書類は以下のようなリスクを伴います。
- 紛失・汚損による再発行や再承認の発生
- 承認状況をリアルタイムで把握できない
- 申請者が個別に進捗確認を行う必要がある
結果として、確認作業そのものが新たな業務負荷となり、本来注力すべき業務を圧迫します。
請求書受領方法の多様化がもたらす業務の煩雑さ
請求書の受領方法は、紙・PDF・電子請求書システムなど多様化しており、形式の混在が業務を複雑にしています。
- 紙の請求書:スキャン・ファイル名付与・保存場所の管理が必要
- 電子データ:PDF・Excelなど形式ごとに異なる取り込み対応が必要
これらを経理システムへ登録する際、多くの場合は手入力となるため、「金額」「支払期日」「取引先情報」といった入力ミスが発生しやすくなります。ミスが見つかれば差し戻しが発生し、再承認が必要となり、同じ工程を繰り返すことになります。
承認者不在時の業務停滞と連絡体制の課題
承認フローにおいて特に影響が大きいのが、承認者の不在・多忙です。
管理職は会議や出張が多く、承認依頼を即時に処理できないことが頻発します。
代理承認のルールが整備されていない場合、承認は完全に停止し、支払遅延のリスクが高まります。
さらに、
- 急ぎ案件のための個別連絡が必要
- 承認者が複数いる場合、承認順序や最終決裁者が不明確
といった状況が重なると、関係者間の認識齟齬が生まれ、処理はさらに遅延します。
差し戻しや却下時の処理フローの不明確さ
申請内容に不備がある場合、差し戻しや却下は避けられません。
しかし、その再処理ルールが明確でないと、業務は一気に非効率化します。
たとえば、
- どの承認段階まで戻るのか
- 修正後は最初から承認を取り直すのか
- 却下理由をどこに、どのように記録するのか
といった点が曖昧だと、確認のやり取りが増え、判断が属人化します。
また、却下理由が蓄積されなければ、同じミスが繰り返される原因にもなります。差し戻し・却下のルールを事前に定義し、申請者・承認者双方が共通認識を持つことで、承認フローは大きく改善します。
こうした滞留は、承認フロー設計だけでなく「少人数経理の人手不足」「属人化」「紙起点の作業残り」が重なると顕在化しやすくなります。背景整理と打ち手の優先順位については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
承認フロー処理のボトルネックを発見する方法とは
承認フローを改善するには、まず現状の業務プロセス全体を可視化し、どこで手戻りや遅延が発生しやすいかを詳細に調べることが重要です。経理の承認フローでは、購買部門での受領から経理の記帳、振込、保管までの一連の流れで、複数の担当者が関わるため、情報共有の不備や作業の属人化が発生しがちです。具体的には、請求書の受領から最終的な支払いまでの各工程にかかる時間を計測し、平均処理時間を大幅に超える案件がどの段階で発生しているかを分析します。
承認フロー全体を可視化する重要性
承認フローを改善するための第一歩は、現状の業務プロセス全体を可視化することです。可視化とは、請求書の受領から支払いまでの各工程を図式化し、誰がどの段階でどのような作業を行っているかを明確にすることを指します。
多くの組織では、承認フローが口頭での伝達や個人の経験則に基づいて運用されており、全体像が文書化されていないケースが少なくありません。この状態では、担当者が変わった際に手順が分からなくなったり、部署間での認識のずれが生じたりする原因となります。
承認フロー全体を図に落とし込むことで、どの工程に何人の担当者が関わっているか、各工程にどれくらいの時間がかかっているかが一目で分かるようになります。
滞留が発生しやすいポイントの特定方法
承認フローの中で滞留が発生しやすいポイントを特定するには、実際の処理データを分析することが有効です。まず、過去数ヶ月分の承認案件について、各工程にかかった時間を記録し、平均処理時間を算出します。
その上で、平均を大幅に超える時間がかかっている案件がどの段階で発生しているかを確認します。たとえば、購買部門での受領から経理への回付までに通常3日かかるところ、特定の月だけ10日以上かかっているケースがあれば、その期間に何が起きていたのかを調査します。
また、差し戻しや再申請が頻発している工程も滞留のポイントとなります。承認者からの指摘事項を分類し、記載ミスが多いのか、添付書類の不足が多いのかを分析することで、根本的な改善策を講じることができます。

デジタル化による承認フロー処理効率化の第一歩とは
承認フローにおける手動作業を削減するには、システムへの移行やワークフロー管理ツールの導入が効果的です。最初のステップは、紙ベースからデジタル化への転換であり、請求書をスキャンしてクラウド上で一元管理することで、回覧にかかる時間を大幅に短縮できます。次に、金額基準や条件分岐を活用し、一定の金額以下であれば自動承認を行うなど、細かいルール設定が可能なシステムを導入します。また、並列承認で複数の承認者が同時に判断する場合、全会一致か多数決かといった意思決定ルールを事前に明確化しておくことで、意見が分かれた際の混乱を防ぎ、スムーズな処理が実現できます。

紙ベースからデジタル化への移行手順
紙ベースの承認フローからデジタル化への移行は、段階的に進めることが成功の鍵となります。最初のステップは、受領した紙の請求書をスキャンしてPDFファイルに変換し、クラウドストレージなどの共有環境に保存することです。この段階では、まだ承認作業自体は従来通りの方法で行い、単純に書類の保管場所をデジタルに移行するだけでも、検索性や共有の利便性が向上します。
次の段階として、ワークフロー管理ツールやクラウド型の承認システムを導入し、承認依頼や承認作業をシステム上で行えるようにします。申請者は必要事項をフォームに入力し、スキャンした請求書を添付してシステム上で承認依頼を送信します。承認者はメールやシステムの通知を受け取り、パソコンやスマートフォンから内容を確認して承認ボタンをクリックするだけで処理が完了します。この移行過程では、現場担当者への説明会や操作マニュアルの整備も重要です。
ワークフロー管理ツールの基本機能と選び方
ワークフロー管理ツールには、承認フローを効率化するためのさまざまな機能が搭載されています。基本的な機能としては、申請フォームの作成、承認ルートの設定、進捗状況の可視化、自動通知機能などがあります。申請フォームは、必要な項目を自由に設定でき、入力必須項目を設けることで記載漏れを防ぐことができます。承認ルートは、直列型や並列型、条件分岐型など、業務内容に応じて柔軟に設定可能です。
ツールを選ぶ際には、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性を確認することが重要です。API連携がスムーズに行えるツールであれば、承認完了後のデータを自動的に会計システムへ取り込むことができ、二重入力の手間が省けます。また、カスタマイズの容易さも選定のポイントです。自社の承認ルールに合わせて設定を変更できるか、ノーコードで設定できるかといった点を確認します。
条件分岐による自動承認ルールの設定方法
条件分岐機能を活用することで、申請内容に応じて自動的に承認ルートを変更できます。これにより、重要度の低い案件は簡略化されたルートで処理し、重要度の高い案件は複数の承認者によるチェックを経るといった、メリハリのある運用が可能となります。
たとえば、経費精算において、5万円未満の申請は直属の上長の承認のみで完了し、5万円以上10万円未満は部門長の承認も必要、10万円以上は経理部長の承認も必要といった設定ができます。この条件分岐は、金額だけでなく、申請の種類や取引先、プロジェクトコードなど、さまざまな条件で設定可能です。
さらに、特定の条件を満たす場合は自動承認する設定も有効です。たとえば、定期的な取引で金額も固定されている請求書については、システムが自動的に承認を行い、担当者は最終確認のみを行うといった運用により、承認作業の負荷を大幅に削減できます。
承認者が複数の場合の意思決定ルールの設計
並列承認で複数の承認者が同時に判断を行う場合、意見が分かれた際の意思決定ルールを事前に明確化しておく必要があります。代表的なルールとしては、全会一致方式と多数決方式があります。全会一致方式は、全員が承認した場合のみ次のフローへ進む方式で、慎重な判断が求められる重要案件に適しています。一方、多数決方式は、過半数が承認すれば次へ進める方式で、スピード重視の案件に適しています。
また、承認者の中に拒否権を持つ人を設定する方式もあります。たとえば、コンプライアンス部門の承認者が一人でも否認した場合は、他の承認者全員が承認していても却下となるといったルールです。これらのルールは、案件の性質や組織の方針に応じて使い分けることが重要です。ワークフロー管理ツールでこれらのルールを設定しておけば、自動的に判定が行われ、スムーズな処理が実現します。
可視化・自動通知・条件分岐の実装イメージは、以下のワークフロー特集で具体機能をご確認ください。
ワークフロー管理ツールで承認フロー処理のボトルネックを解消するには
ワークフロー管理ツールを活用することで、承認フローの処理が停滞する主要なボトルネックを解消できます。特に効果的なのが、承認者が不在の場合に自動的に別の管理者へ承認権限をバトンタッチする機能です。この仕組みにより、出張や会議で承認者が対応できない状況でも、処理が止まることなく次のフローへ進められます。
また、承認フローの進捗状況をリアルタイムで可視化できるため、どの案件がどの段階で滞っているかを一目で把握でき、適切なタイミングでリマインドを送ることが可能です。さらに、モバイル対応のツールを選べば、外出先や自宅からでも承認作業ができ、時間的・地理的制約に左右されない柔軟な働き方が実現します。
承認が滞る要因が「不在」「通知」だけでなく、承認者の増え方や分岐のさせ方に起因している場合は、承認経路の設計自体を見直すのが近道です。承認経路の代表パターンと改善のポイントは、以下の記事で整理しています。
承認者不在時の自動振り分け機能の活用
ワークフロー管理ツールの重要な機能の一つが、承認者不在時の自動振り分け機能です。この機能により、承認者が出張や休暇で不在の場合でも、処理が停滞することを防げます。
具体的には、承認者が一定期間応答しなかった場合、あらかじめ設定された代理承認者へ自動的に承認依頼が転送されます。たとえば、承認依頼を送ってから2営業日以内に応答がない場合、同じ権限を持つ別の管理職へ自動的に承認依頼が移行するといった設定が可能です。
また、承認者自身が不在期間を事前にシステムへ登録しておくことで、その期間中に届いた承認依頼は最初から代理承認者へ送られる仕組みもあります。これにより、申請者は承認者の不在を気にすることなく申請でき、承認者も休暇中に承認作業を行う必要がなくなります。この機能は、働き方改革やワークライフバランスの向上にも寄与します。
リアルタイムでの進捗管理と可視化
ワークフロー管理ツールを導入することで、承認フローの進捗状況をリアルタイムで把握できるようになります。申請者は自分が提出した案件が現在どの段階にあるのか、誰の承認待ちなのかを、システムのダッシュボードから一目で確認できます。
管理者側も、全体の承認状況を俯瞰的に見ることができ、どの案件がどの段階で滞っているかを即座に把握できます。たとえば、支払期日が迫っている案件で承認が完了していないものを抽出し、優先的に処理を促すといった対応が可能です。
また、過去のデータを分析することで、特定の時期に処理が集中していないか、特定の承認者に負荷が偏っていないかといった傾向も把握できます。こうしたデータに基づいて承認ルートを見直したり、承認権限を再配分したりすることで、継続的な業務改善につながります。
自動通知とリマインド機能による遅延防止
承認依頼が承認者に確実に伝わるよう、ワークフロー管理ツールには自動通知機能が搭載されています。承認依頼が届いた際に、メールやシステム内の通知でお知らせが送られるため、承認者は依頼を見落とすことなく対応できます。
さらに、一定期間応答がない場合には、自動的にリマインドメールが送信される機能も有効です。たとえば、承認依頼後24時間以内に応答がない場合、再度通知を送るといった設定により、承認者の対応漏れを防ぎます。
申請者側にも、承認が完了した際や差し戻しが発生した際に自動通知が届くため、次のアクションを速やかに取ることができます。こうした自動通知機能により、確認のための問い合わせや催促の連絡といったコミュニケーションコストが大幅に削減され、担当者は本来の業務に集中できる環境が整います。
モバイル対応による場所を選ばない承認体制
スマートフォンやタブレットに対応したワークフロー管理ツールを活用することで、承認者は場所を選ばず承認作業を行えるようになります。出張先や移動中、あるいは自宅からでも、スマートフォンで承認依頼の内容を確認し、承認ボタンをタップするだけで処理が完了します。
特にリモートワークが定着した現在では、オフィスにいなくても承認作業ができる環境は必要不可欠です。モバイル対応により、承認者がオフィスに戻るのを待つ必要がなくなり、処理のスピードが大幅に向上します。
ただし、モバイル端末で承認作業を行う場合、セキュリティ面への配慮が重要です。端末の紛失や盗難に備えて、二段階認証やリモートワイプ機能を有効にするなど、適切なセキュリティ対策を講じることが求められます。また、モバイル端末でも請求書などの添付ファイルを確認しやすいよう、ユーザーインターフェースが最適化されているツールを選ぶことも重要です。
AIを活用した請求書処理の自動化
承認フローをさらに最適化するために、AIを活用した請求書処理ソリューションの導入が増えています。AIと表計算ソフトを連携させることで、従来は手入力していた明細確認や金額照合を自動化でき、承認フローの初動で生じがちな滞留を早期に解消できる可能性があります。金融系のデータ処理は高い精度が求められるため、AIが抽出したデータを人が最終検証するステップは欠かせませんが、適切に運用すれば手作業によるヒューマンエラーや二重入力のミスを大幅に減らす効果が期待できます。また、データ入力にかかる時間が削減されることで、経理担当者がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えられます。
AIとワークフローの連携による業務効率化
AI技術を活用した請求書処理ソリューションは、OCR機能により請求書に記載された文字情報を自動的に読み取り、データ化します。従来は担当者が手入力していた請求書番号、取引先名、請求金額、支払期日といった情報を、AIが瞬時に抽出してシステムへ取り込みます。
このAI機能とワークフロー管理ツールを連携させることで、請求書を受領してから承認依頼を送るまでの工程が大幅に短縮されます。AIがデータを抽出した後、自動的に承認フローが開始され、関係者へ通知が送られる仕組みを構築できます。
さらに、AIは学習機能により、処理を重ねるごとに読み取り精度が向上します。特定の取引先の請求書フォーマットを学習し、次回以降はより正確かつ迅速にデータを抽出できるようになります。この自動化により、経理担当者は単純なデータ入力作業から解放され、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
精度向上のための検証ステップと運用設計
AI技術は非常に有用ですが、抽出されたデータが常に100%正確であるとは限りません。特に手書きの請求書や印字が不鮮明な書類、複雑なレイアウトの請求書では、読み取りミスが発生する可能性があります。そのため、AIが抽出したデータを人が最終確認する検証ステップを設けることが重要です。ワークフローの中に、AIが抽出したデータと元の請求書画像を並べて表示し、担当者が内容を照合する工程を組み込みます。特に金額や支払期日といった重要な項目については、必ず人の目でチェックする運用ルールを設定します。
また、AIの読み取り精度を継続的に向上させるため、誤りがあった場合はそのデータをAIにフィードバックし、学習させることも効果的です。こうした運用設計により、AI技術の利点を最大限に活かしながら、データの正確性も担保できます。
手作業によるミスとコストの削減効果
手作業での請求書処理には、入力ミスのリスクが常に付きまといます。金額の桁を間違える、支払期日を誤って入力する、取引先名を間違えるといったミスは、後から発見された場合に修正作業や再承認が必要となり、大きな時間的ロスにつながります。AI技術を活用することで、こうしたヒューマンエラーを大幅に削減できます。AIは疲れることなく、一定の精度でデータを抽出し続けるため、人が長時間作業した際に起こりがちな集中力の低下による誤りも発生しません。
また、データ入力にかかる時間が削減されることで、人件費の面でもコストダウンが期待できます。経理担当者が一件あたり5分かけて入力していた作業が、AIにより数秒で完了するようになれば、月間で数十時間の業務時間を削減できます。この時間を活用して、より戦略的な業務や分析作業に注力できるようになります。
承認フローシステム導入時の選定ポイントとセキュリティ対策
ワークフローシステムやAIを活用したツールを導入する際には、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性を十分に確認することが重要です。API連携がスムーズに行えるかどうかで、請求データと承認状況の自動同期の質が決まり、業務効率に直結します。また、自社の承認ルールに合わせてカスタマイズできるかどうかも選定時の重要なポイントです。セキュリティ面では、データを外部のクラウドにアップロードする場合、どの程度の暗号化やアクセス制御が行われているかを確認し、個人情報保護法や電子帳簿保存法への対応状況もチェックします。さらに、監査証跡を適切に保存できる機能があれば、内部統制やコンプライアンス対応にも役立ちます。
システム選定チェックリスト
| 確認項目 | 重要度 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 既存システムとの連携 | ★★★ | □ API連携が可能か □ 会計ソフトと同期できるか □ データ形式の互換性 |
| カスタマイズ性 | ★★★ | □ ノーコードで設定変更可能か □ 承認ルートを柔軟に変更できるか □ 申請フォームをカスタマイズできるか |
| セキュリティ | ★★★ | □ データ暗号化されているか □ アクセス権限を細かく設定できるか □ 二段階認証に対応しているか |
| モバイル対応 | ★★☆ | □ スマートフォンで承認できるか □ アプリが使いやすいか □ プッシュ通知機能があるか |
| コスト | ★★☆ | □ 初期費用は予算内か □ 月額料金は適正か □ ユーザー数課金か処理件数課金か |
| サポート体制 | ★★☆ | □ 日本語サポートがあるか □ 導入支援があるか □ トラブル時の対応時間 |
既存の経理システムとの連携性を確認する
ワークフローシステムやAI請求書処理ツールを導入する際、最も重要な確認事項の一つが、既存の経理システムや会計ソフトとの連携性です。多くの企業では、すでに何らかの会計システムを使用しており、新しいツールが既存システムとスムーズに連携できるかどうかが、業務効率に直結します。
API連携が可能なツールであれば、承認完了後のデータを自動的に会計システムへ送信し、仕訳データとして取り込むことができます。この自動連携により、担当者が手作業でデータを転記する必要がなくなり、二重入力によるミスも防げます。
また、既存システムとの連携方法についても確認が必要です。リアルタイムでデータが同期されるのか、バッチ処理で定期的に同期されるのか、どのようなデータ形式で連携されるのかといった詳細を事前に把握し、自社の業務フローに適した方式を選択することが重要です。
カスタマイズの容易さと運用の柔軟性
企業ごとに承認フローや業務ルールは異なるため、ツールを自社の運用に合わせてカスタマイズできるかどうかは重要な選定ポイントです。ノーコードでカスタマイズできるツールであれば、ITの専門知識がなくても、管理者が画面上で設定を変更できます。承認ルートの追加や変更、申請フォームの項目調整、通知メールの文面変更といった作業が、システム開発を伴わずに実施できるため、運用開始後の微調整も容易です。
また、組織変更や業務フローの見直しが発生した際に、柔軟に対応できるかどうかも確認が必要です。部署の統廃合により承認ルートが変わる、新しい承認者を追加する、といった変更に迅速に対応できるツールであれば、長期的に安心して使用できます。さらに、特定の取引先からの請求書だけ別ルートで処理するといった、例外的な運用にも対応できるかを確認しておくことが望ましいです。
情報セキュリティとアクセス権限の管理
請求書には取引先の情報や支払金額といった機密情報が含まれるため、ワークフローシステムやクラウドサービスを導入する際には、情報セキュリティ対策が十分に施されているかを確認する必要があります。まず、データの暗号化について確認します。通信時の暗号化はもちろん、クラウド上に保存されるデータも暗号化されているかをチェックします。また、データセンターの所在地やセキュリティ基準についても確認し、信頼できる環境でデータが管理されていることを確認します。
アクセス権限の管理機能も重要です。従業員の役職や所属部署に応じて、閲覧できるデータや実行できる操作を細かく制限できる機能があれば、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。たとえば、申請者は自分が申請した案件のみ閲覧でき、承認者は自分の承認権限に該当する案件のみ閲覧できるといった設定が可能です。
コンプライアンス対応と監査証跡の保存
企業の内部統制やコンプライアンス対応の観点から、承認フローの履歴を適切に記録し、保存できる機能は必須です。監査証跡とは、誰がいつどのような承認や操作を行ったかという記録を指し、この情報が正確に残っていることで、後から監査を受ける際にも対応できます。
ワークフローシステムでは、申請日時、承認者名、承認日時、却下や差し戻しの履歴、コメント内容などが自動的に記録されます。これらのデータは改ざんできないよう保護され、必要に応じて検索や出力ができる機能が求められます。
また、電子帳簿保存法への対応も確認が必要です。請求書をデジタル化して保存する場合、法律で定められた要件を満たしているかを確認し、税務調査の際にも問題なく対応できる体制を整えます。個人情報保護法についても、請求書に含まれる個人情報の取り扱いが適切に行われているかを確認することが重要です。
以下の記事では、電子帳簿保存法を図解でわかりやすく解説しているので参考にしてください。
スモールスタートによる承認フローの段階的な導入方法とは
承認フローのデジタル化や自動化を成功させるには、いきなり全体を一斉移行するのではなく、スモールスタートで段階的に導入することが望ましいといえます。まず、ペーパーレス化しやすい一部の業務や特定の部署から試験運用を始め、その上で成果と課題を洗い出し、フローを修正してから次の範囲へ拡張します。この段階的なアプローチにより、現場担当者の抵抗感を和らげつつ、スムーズにシステムへ移行できます。また、テスト期間中に処理時間の短縮効果や差し戻し率の減少といった定量的なデータを収集し、投資対効果を経営層に示すことで、全社展開への理解と予算確保がしやすくなります。

一部業務から始めるテスト導入の進め方
ワークフローシステムやAIツールを全社的に導入する前に、まずは一部の業務や特定の部署で試験運用を行うことが、成功への近道です。スモールスタートにより、システムの使い勝手や現場での受け入れ状況を確認し、問題点を早期に発見して改善できます。
たとえば、経理部門の中でも比較的処理件数が少ない交通費精算から始める、あるいは特定の取引先からの請求書のみをデジタル化するといった形で、範囲を限定してスタートします。この段階では、従来の紙ベースの運用も並行して継続し、システムに慣れるための移行期間を設けることが重要です。
テスト期間中は、実際に使用する現場担当者からフィードバックを積極的に収集します。操作が分かりにくい箇所、設定が不適切な部分、追加してほしい機能などを洗い出し、本格導入前に改善を行います。
現場担当者の抵抗感を減らす社内周知の工夫
新しいシステムを導入する際、現場担当者から「今までのやり方で問題ない」「新しいシステムは使いにくそう」といった抵抗感が生じることは珍しくありません。この抵抗感を減らすためには、導入前の段階から丁寧なコミュニケーションと周知活動が不可欠です。
まず、システム導入の目的とメリットを明確に説明します。単に「効率化のため」という抽象的な説明ではなく、「承認完了までの時間が平均5日から2日に短縮される」「月末の残業時間が10時間削減できる」といった具体的な効果を示すことで、担当者も導入の必要性を理解しやすくなります。
また、操作マニュアルの整備や説明会の開催も重要です。マニュアルは専門用語を避け、画面のスクリーンショットを多用して、初めて使う人でも理解できる内容にします。説明会では実際に操作を体験してもらい、質問に丁寧に答えることで、不安を解消します。
テスト結果の評価と次の段階への拡張判断
テスト導入期間が終了したら、収集したデータや現場からのフィードバックを基に、効果と課題を評価します。評価項目としては、処理時間の短縮効果、差し戻し率の変化、担当者の満足度、システムの安定性などが挙げられます。処理時間については、導入前と導入後で同じ業務にかかる時間を比較し、どの程度短縮されたかを定量的に測定します。差し戻し率が減少していれば、入力ミスや記載漏れが減ったことを意味し、システムの効果が確認できます。
担当者の満足度は、アンケートやヒアリングを通じて把握します。使いやすさ、業務負荷の変化、改善してほしい点などを聞き取り、本格導入前に修正を加えます。これらの評価結果を踏まえて、次の段階への拡張を判断します。テスト導入で十分な効果が確認でき、大きな問題がなければ、対象範囲を広げて次の業務や部署へ展開します。
全社展開に向けた運用ルールの標準化
テスト導入で得られた知見を基に、全社展開に向けた運用ルールを標準化します。標準化とは、承認フローの手順や設定、命名規則、保存ルールなどを統一し、誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できる状態を作ることです。
例えば、請求書ファイルの命名規則を「日付_取引先名_金額」と統一する、承認依頼のコメント欄には必ず支払期日を記載する、といったルールを明文化します。こうした運用ルールを文書化し、マニュアルに反映させることで、新しく担当者になった人もスムーズに業務を始められます。
また、全社展開時には、各部署から運用管理者を任命し、その部署での運用をサポートする体制を整えることも効果的です。運用管理者は、同じ部署のメンバーからの質問に答えたり、トラブルが発生した際に初期対応を行ったりする役割を担います。
承認フローシステムの導入効果を測定し継続的な改善を図るには
承認フローの自動化やシステム導入の効果を最大化するには、導入後の効果測定と継続的な改善が不可欠です。まず、導入前後での承認完了までの平均日数、差し戻し率、担当者一人あたりの処理件数といったKPIを設定し、定量的に効果を把握します。データを定期的に分析することで、新たなボトルネックの発見や、さらなる改善の余地が見えてきます。PDCAサイクルを回しながら、組織の変化や外部環境の変化に合わせて承認ルールやワークフローを柔軟に見直すことで、常に最適な状態を維持できます。こうした継続的な改善の姿勢が、長期的な業務効率化と組織全体の生産性向上につながります。
導入前後での処理時間と工数の比較方法
システム導入の効果を正確に把握するには、導入前後での処理時間と工数を定量的に比較することが重要です。まず、導入前の現状を記録します。請求書一件あたりの処理にかかる時間を計測し、受領から承認完了までの平均日数を算出します。また、担当者がどの作業にどれだけの時間を費やしているかを詳細に記録します。たとえば、データ入力に30分、承認依頼の作成に10分、進捗確認に20分といった形で作業を分解し、それぞれの所要時間を測定します。
導入後は、同じ指標で処理時間を計測し、導入前と比較します。たとえば、「請求書一件あたりの処理時間が平均45分から15分に短縮された」「承認完了までの平均日数が5日から2日に短縮された」といった具体的な数値で効果を示すことができます。これらのデータは、経営層への報告や次の投資判断の材料として活用できます。
承認フロー改善のKPI設定と目標値
承認フローの改善効果を継続的に測定するために、KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的にモニタリングすることが有効です。代表的なKPIとしては、承認完了までの平均日数、差し戻し率、承認者の応答時間、支払期日遅延件数などがあります。これらの指標について、現状値と目標値を設定し、達成状況を確認します。
例えば、「承認完了までの平均日数を現状の5日から3日以内に短縮する」「差し戻し率を現状の15%から5%以下に削減する」「支払期日遅延をゼロにする」といった具体的な目標を掲げます。KPIは月次や四半期ごとに集計し、推移をグラフ化することで、改善の効果が視覚的に分かりやすくなります。目標に達していない指標があれば、原因を分析し、追加の改善策を講じます。
参考:KPIダッシュボードのサンプル

PDCAサイクルによる継続的な業務改善
承認フローの最適化は、一度システムを導入したら終わりではありません。PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回しながら、継続的に改善を続けることが重要です。計画段階では、現状の課題を分析し、改善目標を設定します。実行段階では、設定した改善策を実際に運用します。評価段階では、KPIの達成状況を確認し、改善策の効果を測定します。改善段階では、評価結果を踏まえて、さらなる改善策を検討し、次のサイクルへつなげます。
たとえば、承認者の応答時間が目標より長い場合、その原因を分析します。承認者の業務負荷が高すぎるのか、通知が見落とされているのか、承認基準が不明確なのかを調査し、適切な対策を講じます。こうしたPDCAサイクルを定期的に回すことで、組織の変化や外部環境の変化にも柔軟に対応できます。
定期的な見直しとフローの最適化
承認フローは、組織の成長や業務内容の変化に応じて、定期的に見直す必要があります。組織変更により部署の統廃合が行われたり、新しい事業が始まったりすると、既存の承認ルートが適切でなくなる場合があります。年に一度、あるいは組織変更のタイミングで、承認フロー全体を見直す機会を設けることが推奨されます。この際、現場担当者や承認者からヒアリングを行い、現在の承認ルートで不都合が生じていないか、無駄な工程がないかを確認します。
また、業務量の変化に応じて、承認権限の見直しも必要です。特定の承認者に案件が集中している場合は、権限を分散させる、または自動承認の範囲を拡大するといった対策を検討します。こうした定期的な見直しにより、常に最適な承認フローを維持し、業務効率を高い水準で保つことができます。
まとめ
承認フローの処理が滞る原因は、手動作業による確認漏れ、請求書受領方法の多様化、承認者不在時の対応不足など、複数の要因が重なって発生します。これらの課題を解決するには、まず自社の承認フロー全体を可視化し、ボトルネックとなっている工程を特定することが重要です。
その上で、紙ベースからデジタル化への転換を第一歩とし、ワークフロー管理ツールやAIを活用した自動化を段階的に導入することで、業務効率の大幅な改善が期待できます。特に、金額基準による条件分岐や承認者不在時の自動振り分け機能を活用すれば、処理の停滞を防ぎ、リアルタイムでの進捗管理も可能になります。
導入時には、一部の業務からスモールスタートで始め、テスト結果を踏まえて段階的に拡張していくことが、現場の抵抗感を減らし、スムーズな移行につながります。また、セキュリティ対策や既存システムとの連携性も十分に検討し、安全性を確保しながら運用することが不可欠です。





