経理DX促進

経理の人手不足をAIとRPAによる効率化で解決する5つの実践的手法

更新日:2025.10.30

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経理_人手不足_効率化

経理部門の人手不足は、もはや一時的な問題ではなく、構造的な経営課題となっています。労働人口の減少や専門性の高さ、間接部門であることによる経理を離れる人の増加など、複雑な要因が絡み合い、経理担当者の業務負荷は限界に達しています。しかし、この危機的状況こそ、経理部門が大きく変革するチャンスです。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

本記事では、AIやRPAなどの最新技術を活用した効率化の手法から、組織改革まで、経理の人手不足を根本から解決する実践的なアプローチを詳しく解説します。特に注目すべきは、AIとプロスタッフが連携し、自律的に経理業務を実行する「経理AIエージェント」という新しい概念です。単なる自動化を超えた、経理業務の「自動運転」を実現する方法をご紹介します。

なぜ今、経理部門は深刻な人手不足に陥っているのか?

経理の人手不足は、単に「人が足りない」という表面的な問題ではありません。2023年5月のデータによると、全国平均の有効求人倍率は1.32倍に対し、会計事務従事者は0.62倍と、一見すると求職者有利に見えます。しかし、実際には企業が求める即戦力人材と市場に存在する人材のミスマッチが深刻化しています。さらに、インボイス制度や電子帳簿保存法改正などの法改正対応が重なり、既存の経理担当者への負担は増大の一途をたどっています。この章では、経理部門が直面する人手不足の真の原因を、労働市場の構造変化、業務の複雑化、経営責任の重さという観点から、最新データとともに詳しく分析します。

参考:総務省|平成29年版 情報通信白書|期待される労働市場の底上げ

労働市場の構造変化と専門人材の枯渇

日本の労働市場は、少子高齢化の影響で大きな転換期を迎えています。2023年5月の有効求人倍率(季節調整値)は全国平均で1.31倍。一方、事務職の中でも「会計事務従事者」は全国的に0.6〜0.9倍程度にとどまる地域が多く(例:京都0.60倍、熊本0.86倍)、人手の過不足感が他職種に比べて弱い傾向が見られます。これは一見すると経理人材が余っているように見えますが、実際は企業が求める高度な専門知識を持つ即戦力人材が極めて少ないという実態を示しています。

参考:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 長期時系列表 21 職業別労働市場関係指標(実数)(平成23年改定)(平成24年3月~) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

経理業務には簿記や税務の知識だけでなく、最新の会計システムを使いこなすITスキルや、国際会計基準への理解など、幅広い専門性が求められるようになりました。さらに、経理部門には経営データを分析し、戦略的な提案を行うビジネスパートナーとしての役割も期待されています。このような複合的なスキルを持つ人材は市場に少なく、育成にも時間がかかるため、多くの企業が人材確保に苦戦しているのが現状です。特に中小企業では、大企業との人材獲得競争で不利な立場に置かれており、深刻な人手不足に陥っています。

法改正対応(インボイス制度・電子帳簿保存法)による業務量の急増

2023年10月のインボイス制度開始と2024年1月の電子帳簿保存法改正により、経理部門の業務量は飛躍的に増加しました。インボイス制度では、適格請求書の確認や仕入税額控除の計算方法が複雑化し、取引先ごとに異なる対応が必要となりました。これまで単純に処理できていた請求書業務が、登録番号の確認から税額計算まで、一つひとつ慎重な確認を要する作業に変わったのです。

電子帳簿保存法の改正も、経理部門に大きな負担をもたらしています。電子取引データの保存義務化により、PDFで受け取った請求書や領収書を適切に管理するシステムの構築が必要となりました。紙と電子データが混在する過渡期において、両方の管理体制を維持しながら法令遵守を確保することは、限られた人員では極めて困難です。さらに、これらの法改正は定期的にアップデートされるため、常に最新情報をキャッチアップし、社内体制を更新し続ける必要があります。このような状況下で、多くの経理担当者が疲弊し、離職を考えるケースも増えているのが実情です。

電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック 電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック

間接部門としての採用優先度の低さと離職率の上昇

経理は間接部門であり、会社の売上には直結しないため、営業や開発などのポジションに比べると募集をかけるのが後回しになりやすい傾向があります。経営層の多くは、売上に直接貢献する営業部門や、製品開発を担う技術部門への投資を優先し、経理部門の人員補充は後回しにしがちです。この結果、経理部門は慢性的な人手不足の中で業務を続けることを強いられています。

さらに深刻なのは、経理部門の離職率が上昇していることです。人手不足による業務過多、残業の常態化、そして評価制度の不透明さなどが重なり、優秀な経理人材が他社へ流出しています。特に若手社員は、将来のキャリアパスが見えない環境では長期的な勤務を望まず、より良い条件を求めて転職を選択します。また、リモートワークの普及により、地理的制約なく転職できるようになったことも、人材流動性を高める要因となっています。このような悪循環を断ち切るためには、経理部門の重要性を経営層が正しく認識し、戦略的な人材投資を行うことが不可欠です。

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人手不足が経理部門にもたらす5つの深刻な影響と経営リスク

経理部門の人手不足を放置すると、企業経営に深刻な影響を及ぼします。業務過多による労働環境の悪化は、担当者の注意力低下を引き起こし、日次業務でのミスが放置されたままになると、本決算時に1年間分のミスを修正しなければならないという悪循環に陥ります。また、特定の担当者への業務集中は、属人化やブラックボックス化を招き、組織としてのリスク管理が困難になります。この章では、人手不足が引き起こす5つの具体的な問題と、それが企業経営に与えるインパクトについて、実際の失敗事例を交えながら解説します。早期の対策が必要な理由を明確にお伝えします。

業務の属人化とブラックボックス化による事業継続リスク

人手不足の状態では、業務が属人化してしまい、担当者が不在の場合、作業ができなくなるリスクが高まります。経理業務の属人化は、表面的には効率的に見えることがありますが、実際には企業にとって大きなリスクとなります。特定の担当者しか理解できない複雑な処理方法や、文書化されていない暗黙のルールが蓄積されると、その担当者が急病や退職で不在となった際、業務が完全に停止してしまう可能性があります。

実際に、ある中堅企業では、20年以上勤務していた経理課長が急病で入院した際、月次決算が3ヶ月間遅延するという事態が発生しました。この企業では、複雑な原価計算の方法や取引先ごとの特殊な処理ルールが、すべて担当者の頭の中だけに存在していたのです。結果として、外部コンサルタントを雇い、業務の再構築に半年以上の時間と多額の費用を要しました。このようなリスクを回避するためには、業務の標準化とマニュアル化を進め、複数の担当者が対応できる体制を構築することが不可欠です。

ミスの連鎖と財務報告の信頼性低下

人手不足では、担当者の注意力低下を引き起こし、日次業務でのミスが放置されたままになると、本決算時に1年間分のミスを修正しなければならないという深刻な問題が発生します。経理業務は数字の正確性が命であり、小さなミスが積み重なると、財務報告全体の信頼性を損なう結果となります。

例えば、日々の仕訳入力で勘定科目を誤って処理した場合、その影響は月次決算、四半期決算、そして年次決算へと波及していきます。人手不足の状態では、ダブルチェック体制を維持することが困難となり、このようなミスを早期に発見することができません。さらに深刻なのは、決算期末に大量の修正作業が発生することで、本来行うべき分析業務や次期計画の策定に時間を割けなくなることです。上場企業の場合、財務報告の誤りは投資家の信頼を失い、株価にも影響を与える可能性があります。このような事態を防ぐためには、業務プロセスの見直しと、システムによる自動チェック機能の導入が急務となっています。

残業時間の慢性化がもたらす離職の悪循環

経理部門の人手不足は、既存スタッフの残業時間を増加させ、さらなる離職を招くという悪循環を生み出します。月末月初の締め作業、四半期決算、年次決算と、経理部門には定期的に業務が集中する時期があります。人員が不足している状態では、これらの繁忙期に極端な長時間労働が発生し、経理担当者の心身の健康を脅かします。

ある調査によると、経理部門の平均残業時間は月40時間を超えており、決算期には100時間を超えるケースも珍しくありません。このような過酷な労働環境では、ワークライフバランスを保つことは困難であり、特に子育て世代の社員にとっては継続的な勤務が難しくなります。さらに、慢性的な疲労は判断力の低下を招き、ミスの増加にもつながります。優秀な人材ほど、このような環境に見切りをつけて転職を選択する傾向があり、結果として経理部門の質的な低下も招いています。この悪循環を断ち切るためには、業務の効率化と適正な人員配置が不可欠です。

経営判断の遅れによる機会損失の実例

経理部門の人手不足は、タイムリーな経営情報の提供を困難にし、重要な経営判断の遅れを招きます。現代のビジネス環境では、迅速な意思決定が競争優位性を左右しますが、経理部門が機能不全に陥ると、この重要な判断材料が提供できなくなります。

実際の事例として、ある製造業では、経理部門の人手不足により月次決算が恒常的に2週間遅れていました。この遅れにより、不採算製品の早期発見ができず、半年間で5,000万円の損失を出してしまいました。もし月次決算が適時に行われていれば、3ヶ月目には問題を発見し、生産調整や価格改定などの対策を講じることができたはずです。また、新規事業への投資判断においても、詳細な収益分析が間に合わず、競合他社に先行されるケースが増えています。経営層が必要とする管理会計情報、予実分析、キャッシュフロー予測などの提供が遅れることで、企業全体の成長機会を逸失する可能性があるのです。

コンプライアンス違反による企業価値の毀損

人手不足による業務品質の低下は、税務申告の誤りや法令違反のリスクを高め、企業の社会的信用を失墜させる可能性があります。経理部門は、税務申告、社会保険手続き、各種法定調書の作成など、コンプライアンスに関わる重要な業務を担っています。これらの業務でミスが発生すると、追徴課税や罰則金だけでなく、企業の評判にも大きな影響を与えます

近年では、ある上場企業が人手不足により消費税の申告漏れを3年間続けていたことが発覚し、追徴税額と加算税で合計2億円を超える支払いが発生しました。さらに深刻だったのは、この事実が報道されたことによる企業イメージの低下で、取引先からの信頼を失い、新規契約の獲得に支障をきたしました。また、内部統制の不備として監査法人から指摘を受け、内部統制報告書に重要な不備として記載される事態となりました。このような事態は、適切な人員配置と業務体制の整備により防ぐことができたはずです。

人手不足を解消する経理AIエージェントによる業務の自動運転

TOKIUMの「経理AIエージェント」は、AIとプロスタッフが連携し、お客様に代わって、自律的に経理業務を実行します。これは従来のRPAやシステム化とは一線を画す、まったく新しいアプローチです。日常的な言葉や文面で指示するだけで簡単に経理作業を代行してくれるため、複雑な操作方法を覚える必要がありません。この章では、2025年7月にリリースされた経理AIエージェントの仕組みから、8,000人以上のオンラインオペレーターが領収書や請求書のデータ化を行うオペレーション基盤を活用したヒューマンインザループの重要性まで、最新技術の全貌を解説します。

表:従来の経理 vs AI時代の経理

項目従来の経理AI時代の経理
作業時間請求書1枚 10分請求書1枚 10秒
役割記録・処理中心分析・戦略立案
働き方月末業務集中リアルタイム処理
必要スキル簿記・会計知識データ分析・AI活用
エラー率人的ミス 2–3%AI処理 0.1%以下
※数値はモデルケースの目安です。自社データ(処理件数・差し戻し率・読取精度)に置き換えてご活用ください。

経理AIエージェントの基本概念と従来技術との違い

RPAが「手足」のように指示された作業を忠実に実行するのに対し、経理AIエージェントはAIの「頭脳」を活用して、ある程度の自律的な判断を伴う業務を遂行できるという革新的な特徴を持っています。従来のRPAは、あらかじめプログラムされた手順に従って機械的に作業を実行するツールでした。例えば、エクセルのデータを会計システムに転記する、定型的なメール送信を行うなど、決められたルールに基づく単純作業が中心でした。

一方、経理AIエージェントは、機械学習と自然言語処理技術を活用し、状況に応じた判断を行いながら業務を遂行します。請求書の内容を理解し、適切な勘定科目を提案したり、異常な取引を検知してアラートを出したりすることが可能です。さらに、過去の処理パターンを学習し、処理精度を継続的に向上させていく能力も備えています。この「自律的な判断」という要素が、経理業務の真の自動化を実現する鍵となっています。人間が細かな指示を出さなくても、AIが文脈を理解し、適切な処理を選択できるのです。

日常言語で指示できる革新的なインターフェース

経理AIエージェントは、日常的な言葉や文面で指示するだけで簡単に経理作業を代行してくれるという画期的な特徴により、専門知識がない社員でも簡単に利用できます。従来のシステムでは、複雑なコマンドや特定のフォーマットに従って入力する必要がありましたが、経理AIエージェントは「今月の交通費を集計して」「A社への支払い状況を教えて」といった自然な言葉での指示を理解し、実行します。

この革新的なインターフェースは、チャット形式だけでなく、音声入力やメールでの指示にも対応しています。例えば、出張中の営業担当者が「明日の会議のために大阪への新幹線を予約して、経費申請も済ませておいて」とスマートフォンに話しかけるだけで、AIエージェントが交通機関の予約から経費申請書の作成、上長への承認依頼まで一連の作業を自動で処理します。このような直感的な操作性により、経理部門以外の社員も積極的に活用でき、全社的な業務効率化に貢献します。また、多言語対応により、グローバル企業においても言語の壁を越えた活用が可能となっています。

参考:デジタル労働力で人手不足に対応するTOKIUMの「経理AIエージェント」とは? | 広告企画 | ダイヤモンド・オンライン

ヒューマンインザループ(HITL)による継続的な精度向上

AIの処理結果に対し人間が積極的に関与し、確認・補正、そして評価を通じてAIへの再学習を促すことで、AIの性能を継続的に高めていくヒューマンインザループは、経理AIエージェントの精度を飛躍的に向上させる重要な仕組みです。TOKIUMは8,000人以上のオンラインオペレーターが領収書や請求書のデータ化を行うオペレーション基盤を構築しており、この膨大な人的リソースがAIの学習を支えています。

具体的には、AIが処理した結果を人間のオペレーターが確認し、誤りがあれば修正を加えます。この修正データはAIにフィードバックされ、次回から同様のパターンをより正確に処理できるようになります。例えば、特殊な業界用語や企業固有の処理ルールなど、一般的なAIでは理解が困難な要素も、継続的な学習により対応可能となります。また、新しい法規制や会計基準の変更があった場合も、専門知識を持つオペレーターが適切な処理方法をAIに教えることで、迅速に対応できます。このような人間とAIの協働により、99.9%以上の処理精度を実現している企業も出てきています。

参考:TOKIUM、「経理AIエージェント」を発表 2030年までに約2000万時間の経理業務を代替へ|EnterpriseZine(エンタープライズジン)

ベンダーフリー設計による既存システムとの連携

自社のシステムに依存せず、多様な会計・経費精算システムと連携可能な「ベンダーフリー設計」により、経理AIエージェントは既存の業務環境を大きく変えることなく導入できます。多くの企業は既に何らかの会計システムや経費精算システムを導入していますが、これらを入れ替えることなく、AIエージェントを追加できる点が大きな強みです。

例えば、SAPやOracleなどの大規模ERPシステムを使用している企業でも、APIを通じてデータ連携を行うことで、AIエージェントの機能を活用できます。中小企業で広く使われている弥生会計やfreeeなどのクラウド会計ソフトとも、シームレスに連携可能です。このベンダーフリー設計により、企業は既存のIT投資を無駄にすることなく、段階的にAI化を進めることができます。

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AIとRPAを組み合わせた段階的な自動化で効率化を図る

RPAが「手足」のように指示された作業を忠実に実行するのに対し、経理AIエージェントはAIの「頭脳」を活用して、ある程度の自律的な判断を伴う業務を遂行できるという明確な違いがあります。経理業務の効率化を成功させるには、それぞれの技術の特性を理解し、適切に使い分けることが重要です。例えば、請求書の読み取りにはAI-OCR、定型的な仕訳入力にはRPA、異常値の検知や経営分析には機械学習といった具合です。この章では、各技術の強みと適用領域を整理し、段階的な導入アプローチについて、具体的なタイムラインとともに解説します。

第1フェーズ:RPAによる定型業務の自動化

経理業務の自動化を成功させるための第一歩は、RPAを活用した定型業務の自動化から始めることです。この段階では、毎日繰り返される単純作業や、ルールが明確な処理業務を対象とします。例えば、銀行の入出金データを会計システムに転記する作業、定型的な支払依頼書の作成、月次の売掛金・買掛金の照合作業などが該当します。これらの業務は処理手順が固定されており、例外処理が少ないため、RPAの導入効果を実感しやすい領域です。

実際の導入では、まず業務フローを詳細に文書化し、処理手順を明確にすることから始めます。次に、パイロットプロジェクトとして1つか2つの業務を選定し、小規模な導入を行います。この段階で重要なのは、完璧を求めすぎないことです。まずは80%程度の自動化率でも十分な効果があると考え、段階的に改善していくアプローチが成功の鍵となります。

以下の記事では、RPAの向き不向きと運用設計のコツを詳しく解説しているので参考にしてください。

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第2フェーズ:AI-OCRを活用した請求書処理の効率化

第2フェーズでは、AI-OCRを導入して紙やPDFの請求書を自動的にデータ化し、処理の効率化を図ります。AI-OCRは手書きや印刷された請求書などの書類を高精度でデータ化することができ、これまで人手に頼っていたデータ入力作業を大幅に削減できます。従来のOCR技術では、フォーマットが統一されていない請求書の読み取りは困難でしたが、AIの画像認識技術により、様々な形式の請求書に対応できるようになりました。

導入にあたっては、まず取引先から受け取る請求書のパターンを分析し、頻度の高いものから順次AI-OCRの学習を進めていきます。初期段階では読み取り精度が70-80%程度でも、継続的な学習により、半年後には95%以上の精度を達成することが可能です。さらに、読み取ったデータを自動的に会計システムに連携することで、仕訳作成まで自動化し、経理担当者は確認作業に専念できるようになります。

以下の記事では、AI-OCRの選定ポイントと導入効果の具体例について詳しく解説しているので参考にしてください。

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第3フェーズ:生成AIによる仕訳自動生成と不正検知

第3フェーズでは、生成AIを活用して仕訳の自動生成と不正取引の検知を実現します。機械学習により、最適な勘定科目を提案したり、不正な取引を検知したりすることが可能になり、経理業務の質的向上が図れます。生成AIは、過去の仕訳パターンや会社の会計方針を学習し、新しい取引に対しても適切な勘定科目と仕訳を自動的に生成します。

特に効果的なのは、複雑な取引や判断が必要な仕訳の処理です。例えば、新しいタイプの経費が発生した場合、AIは類似の過去事例を参照し、最も適切な勘定科目を提案します。また、通常とは異なるパターンの取引を検知した場合、不正の可能性があるとしてアラートを発します。さらに、AIが生成した仕訳には信頼度スコアが付与されるため、経理担当者は重点的に確認すべき項目を効率的に判断できます。

第4フェーズ:システム統合による全体最適化

第4フェーズでは、これまで個別に導入してきたRPA、AI-OCR、生成AIなどの技術を統合し、経理業務全体の最適化を実現します。この段階では、各システムが相互に連携し、データがシームレスに流れる統合プラットフォームを構築します。例えば、AI-OCRで読み取った請求書データが自動的に生成AIに渡され、適切な仕訳が作成された後、RPAが会計システムへの登録を行うという一連の流れが、人の介入なしに実行されます。

統合の鍵となるのは、データの標準化と業務プロセスの再設計です。異なるシステム間でデータをやり取りする際の形式を統一し、エラーが発生した場合の処理フローも明確に定義します。また、全体のワークフローを可視化するダッシュボードを構築し、処理状況をリアルタイムで監視できる体制を整えます。この結果、自由になった時間で経営分析や戦略立案などの付加価値の高い業務にシフトできます。

【実践プラン】6ヶ月で実現する段階的導入計画

経理業務の自動化を6ヶ月で実現するための具体的な導入計画をご紹介します。まず1-2ヶ月目は準備期間として、現状の業務分析と自動化対象の選定を行います。全ての経理業務を洗い出し、作業時間と頻度を記録して、自動化による効果が最も高い業務を特定します。同時に、プロジェクトチームを編成し、必要な予算の確保と経営層の承認を得ます。

3-4ヶ月目は、選定した業務に対してRPAやAI-OCRの導入を開始します。まずは1つの部署や1つの業務から始め、小さな成功を積み重ねていきます。この期間中は、システムの微調整と社員教育を並行して行い、現場の理解と協力を得ることが重要です。

5-6ヶ月目には、初期導入の成果を評価し、他部署や他業務への展開を開始します。また、より高度なAI技術の導入準備も進めます。6ヶ月後には、主要な定型業務の50%以上を自動化し、経理部門の残業時間を30%削減するという目標を設定します。このような段階的アプローチにより、リスクを最小限に抑えながら、着実に成果を上げることができます。

効率化を確実に成功させる実践的な5ステップ導入法

経理業務の効率化は、ツールを導入すれば自動的に実現するものではありません。業務フローを一度すべて洗い出し、廃止や効率化できる作業はないか確認することが重要です。成功の鍵は、現状分析から始まる体系的なアプローチにあります。まず業務の棚卸しを行い、自動化の適合度を評価し、スモールスタート(小規模な試験導入)から始めて段階的に拡大していくことが重要です。この章では、多くの企業が陥りがちな失敗パターンを避けながら、確実に成果を出すための5つのステップを、実務で使えるチェックリストとテンプレート付きで詳しく解説します。

ステップ1:現状業務の可視化と優先順位付け

経理業務の効率化を成功させる第一歩は、現在行っている業務をすべて洗い出し、見える化することです。業務フローを一度すべて洗い出し、廃止や効率化できる作業はないか確認することが重要であり、この作業を怠ると、本来不要な業務まで自動化してしまう無駄が生じます。

まず、経理部門の全員で1週間の業務日誌をつけ、どの作業にどれだけの時間を費やしているかを記録します。請求書処理に30分、仕訳入力に45分といった具合に、できるだけ細かく記録することが大切です。次に、記録した業務を「毎日行う定型業務」「月次で発生する業務」「年次業務」「不定期業務」に分類し、それぞれの作業時間と頻度から年間の総作業時間を算出します。

その上で、各業務について「完全自動化可能」「部分的に自動化可能」「人の判断が必要」という3つのカテゴリーに分け、自動化による削減効果が最も高い業務から優先順位をつけていきます。この際、単純に作業時間が長い業務を優先するのではなく、ミスが発生しやすい業務や、担当者の精神的負担が大きい業務も優先度を高く設定することが、現場の協力を得るためにも重要です。

表:現状業務の可視化と優先順位付けチェックリスト

No.業務名年間時間自動化適合削減見込み優先度
01請求書データ化(明細) 80時間  完全  70%   A
02領収書の読取・検証 96時間  完全  70%   A
03仕訳入力(経費・請求) 80時間  部分  60%   A
04請求照合(発注・納品・請求) 48時間  部分  40%   B
05月次締めチェック 72時間  部分  30%   B
06交通費精算チェック 20時間  完全  60%   A
※優先度の目安:A=今期着手、B=次期候補、C=調査継続。

ステップ2:スモールスタートによる試験導入

優先順位が決まったら、最も効果が見込める業務1つに絞って、1ヶ月間の試験導入を開始します。いきなり全面展開すると、問題が発生した際の影響が大きくなるため、まずは限定的な範囲で成功体験を積むことが重要です。例えば、毎日2時間かかっている売掛金の消込作業を選んだ場合、最初の1週間は特定の取引先10社分だけを対象にRPAを導入し、動作確認と調整を行います。

2週目には対象を30社に拡大し、処理精度と時間削減効果を測定します。この段階で、想定外のエラーや例外処理への対応方法を確立していきます。3週目には、実際の運用担当者に操作方法を教育し、日常業務として定着させます。最終週には、1ヶ月間の成果をまとめ、削減できた作業時間、発生したトラブルとその対処法、改善すべき点を整理します。

この1ヶ月の試験導入で最も重要なのは、完璧を求めすぎないことです。70-80%の精度でも、人間がチェックする時間を含めて従来の半分の時間で処理できれば、十分な成果といえます。小さな成功を確実に積み重ねることで、組織全体の自動化への理解と期待を高めることができます。

ステップ3:効果測定とフィードバック収集

試験導入が完了したら、定量的・定性的な両面から効果を測定し、関係者からフィードバックを収集します。定量的な効果測定では、作業時間の削減率、ミス発生率の変化、処理件数の増加などを具体的な数値で把握します。例えば、「従来120分かかっていた作業が30分に短縮され、75%の時間削減を達成」「月間のミス件数が15件から2件に減少」といった明確な成果を記録します。

定性的な評価も同様に重要です。実際に業務を担当している社員へのヒアリングを実施し、「精神的な負担が軽減された」「より創造的な業務に時間を使えるようになった」といったポジティブな意見と、「システムの操作が複雑」「例外処理の対応に不安がある」といった改善要望の両方を収集します。また、他部署からの評価も重要で、「経理からの回答が早くなった」「月次報告の質が向上した」といった声は、経営層への報告材料として有効です。

これらの測定結果とフィードバックを基に、次のステップへの改善計画を立案します。成功要因を明確にして他業務への展開に活かし、課題については具体的な解決策を検討します。この段階で丁寧な分析を行うことが、全社展開の成功率を大きく左右します。

ステップ4:段階的な展開と社内体制の整備

試験導入の成果を確認できたら、他の業務や他部署への段階的な展開を開始します。この段階では、単にツールを横展開するだけでなく、持続可能な運用体制の構築が不可欠です。まず、自動化推進チームを正式に組織化し、各部署から選出されたメンバーで構成します。このチームが中心となって、展開計画の策定、導入支援、問題解決を担当します。

展開は、成功確率の高い業務から順次進めていきます。例えば、経費精算の自動化に成功したら、次は請求書処理、その次は月次決算補助業務といった具合に、複雑度を徐々に上げていきます。各段階で3ヶ月程度の導入・定着期間を設け、急激な変化による現場の混乱を避けます。また、各部署に自動化推進の担当者を任命し、現場レベルでの問題解決と改善提案ができる体制を整えます。

さらに重要なのは、成功事例の社内共有です。月次の報告会を開催し、各部署の取り組みと成果を発表することで、組織全体のモチベーション向上と知識共有を図ります。失敗事例も隠さず共有することで、同じ失敗を繰り返さない組織学習を促進します。

ステップ5:継続的改善サイクルの構築

自動化システムの導入は、一度完了したら終わりではなく、継続的な改善が必要です。技術の進化、業務内容の変化、法規制の改正など、経理業務を取り巻く環境は常に変化しているため、定期的な見直しと最適化が欠かせません。そのためには、PDCAサイクルを組織に定着させる仕組みづくりが重要です。

Plan(計画)では、四半期ごとに自動化業務の棚卸しを行い、新たに自動化すべき業務や、改善が必要な既存システムを特定します。Do(実行)では、計画に基づいて改善施策を実施し、必要に応じて新技術の導入も検討します。Check(評価)では、月次で各システムの稼働状況、エラー発生率、処理時間などのKPIをモニタリングし、目標値との乖離を分析します。Act(改善)では、評価結果を基に具体的な改善アクションを実行し、次のサイクルへの教訓を文書化します。

このPDCAサイクルを効果的に回すために、専用のダッシュボードを構築し、リアルタイムで状況を把握できる環境を整えます。また、年に一度は外部の専門家による評価を受け、最新のベストプラクティスを取り入れることで、継続的な進化を実現します。

表:PDCA運用シート

区分目的/期待効果KPI/目標期限状態
Plan自動化候補を棚卸しし、優先度Aを3件選定候補3件、想定削減80h/四半期YYYY/MM/DD□未 □進行 □完了
Doスモールスタートを実施し、運用影響を最小化稼働率95%以上、教育完了100%YYYY/MM/DD□未 □進行 □完了
CheckKPI月次レビューで乖離要因を特定処理時間▲30%、差し戻し率▲40%YYYY/MM/DD□未 □進行 □完了
Act是正策の標準化と横展開の判断再発率▲80%、展開2部門YYYY/MM/DD□未 □進行 □完了
振り返り学びの要点を5行で共有し次期Planへ反映社内共有1回、再利用3件YYYY/MM/DD□未 □進行 □完了

効率化ツール導入時に必ず押さえるべきリスク対策とセキュリティ

効率化ツールの導入には、見落としがちなリスクが潜んでいます。システム設定の複雑さ、アップデートによる誤動作、セキュリティの脆弱性など、事前に対策を講じなければ、効率化どころか新たな問題を生み出しかねません。特に経理部門は機密情報を扱うため、通信の暗号化やアクセス権限の厳格な設定など、運用面でのリスク管理を厳重に行わなければ機密情報が流出する危険性が高まります。この章では、導入前に必ず確認すべきセキュリティチェックポイントと、運用開始後の保守体制について、実務担当者が今すぐ使える対策リストとともに解説します。

システム設定とワークフロー構築の注意点

経理業務の自動化システムを導入する際、最も慎重に行うべきなのがシステム設定とワークフローの構築です。設定ミスは、誤った会計処理や情報漏洩につながる可能性があるため、段階的かつ慎重なアプローチが必要です。まず、本番環境とは完全に分離されたテスト環境を構築し、すべての設定とワークフローを事前に検証します。この際、通常の処理だけでなく、月末や年度末などの特殊な処理パターンも含めて網羅的にテストを実施します。

ワークフロー設計では、承認権限の設定に特に注意が必要です。金額や取引内容に応じた多段階の承認フローを設定し、不正な処理を防ぐ仕組みを構築します。例えば、100万円以上の支払いは部長承認、1,000万円以上は役員承認といった具合に、明確なルールを設定します。また、システム間のデータ連携においては、データの整合性チェック機能を必ず実装し、異常値を自動検知できるようにします。

さらに、緊急時の手動処理への切り替え手順も明確に定めておく必要があります。システム障害が発生した場合でも、業務を継続できるバックアップ体制を整備し、定期的に切り替え訓練を実施することで、実際の障害時にも冷静に対応できるようになります。

アップデート対応と保守体制の構築方法

自動化システムは導入後も定期的なアップデートが必要であり、適切な保守体制なしには安定運用は困難です。まず、システムベンダーから提供されるアップデート情報を常に監視し、セキュリティパッチや機能改善の内容を評価する体制を整えます。アップデートの実施は、必ず業務への影響を事前に評価し、テスト環境で十分な検証を行った後に本番環境へ適用します。

保守体制としては、社内に専任の担当者を配置することが理想ですが、中小企業では現実的でない場合もあります。その場合は、ベンダーとの保守契約を締結し、月次の定期点検と緊急時の対応を依頼します。保守契約では、対応時間(平日のみか24時間365日か)、復旧時間の目標値、リモートサポートの可否などを明確に定めます。また、社内でも最低限の一次対応ができるよう、トラブルシューティングマニュアルを整備し、定期的な研修を実施します。

重要なのは、アップデート履歴と障害履歴を詳細に記録し、ナレッジベースとして蓄積することです。過去のトラブルと対処法を文書化することで、類似の問題が発生した際の対応時間を大幅に短縮できます。年に一度は保守体制全体の見直しを行い、新たなリスクへの対応策を検討します。

セキュリティ対策チェック

経理システムのセキュリティ対策は、企業の信頼性に直結する最重要課題です。以下の20項目のチェックリストに基づいて、包括的なセキュリティ対策を実施する必要があります。まず、アクセス制御関連では、多要素認証の導入、定期的なパスワード変更の強制、アクセス権限の最小権限原則の適用、アクセスログの記録と定期監査が基本となります。次に、データ保護の観点から、通信の暗号化(SSL/TLS)、保存データの暗号化、定期的なバックアップの実施、バックアップデータの別拠点保管が必須です。

システム面では、ファイアウォールの適切な設定、定期的な脆弱性診断の実施、セキュリティパッチの迅速な適用、ウイルス対策ソフトの導入と定義ファイルの更新が重要です。また、物理的セキュリティとして、サーバールームへの入退室管理、監視カメラの設置、USBポートの無効化なども検討します。組織的な対策としては、セキュリティポリシーの策定と周知、定期的なセキュリティ教育の実施、インシデント対応体制の構築、外部監査の定期実施が必要です。

これらの対策は、一度実施すれば終わりではなく、定期的な見直しと更新が必要です。特に、新たなサイバー攻撃の手法が日々進化していることを踏まえ、最新のセキュリティ情報を常に収集し、対策をアップデートし続ける姿勢が求められます。

表:経理システム向け20項目のセキュリティ対策チェックリスト

No.カテゴリチェック項目目的 / リスク実施状況監査証跡(例)
   01アクセス制御多要素認証(MFA)の導入なりすまし防止 / パスワード漏えい時の不正ログイン□ 未 / □ 部分 / □ 完了MFA設定一覧、SSO設定画面のスクリーンショット
   02アクセス制御パスワードポリシーと定期変更の強制総当たり・使い回し対策 / アカウント侵害□ 未 / □ 部分 / □ 完了ディレクトリ設定、変更履歴レポート
   03アクセス制御最小権限(Least Privilege)の適用不要権限の乱用防止 / 誤操作・内部不正□ 未 / □ 部分 / □ 完了権限マトリクス、定期レビュー議事録
   04アクセス制御アクセスログの記録と定期監査事後追跡・抑止 / 不審操作の見逃し□ 未 / □ 部分 / □ 完了監査ログ、月次レビュー記録
   05データ保護通信の暗号化(SSL/TLS)盗聴・改ざん防止 / 中間者攻撃□ 未 / □ 部分 / □ 完了証明書情報、TLS設定テスト結果
   06データ保護保存データの暗号化(At-Rest)媒体紛失時の漏えい対策 / 内部不正□ 未 / □ 部分 / □ 完了暗号化設定、鍵管理ポリシー
   07データ保護定期バックアップの実施障害・誤削除からの復旧 / データ消失□ 未 / □ 部分 / □ 完了バックアップ計画、実行ログ
   08データ保護バックアップの別拠点・分離保管災害・ランサム対策 / 同時被災・暗号化被害□ 未 / □ 部分 / □ 完了オフサイト証跡、復元テスト記録
   09システムファイアウォール/セグメンテーション設定不正侵入の抑止 / 横展開(ラテラルムーブ)□ 未 / □ 部分 / □ 完了ポリシー定義、変更履歴
   10システム定期的な脆弱性診断(外部/内部)脆弱性の早期発見 / 既知脆弱性の放置□ 未 / □ 部分 / □ 完了診断レポート、是正計画
   11システムセキュリティパッチの迅速適用既知脆弱性悪用の防止 / ゼロデイ追随遅れ□ 未 / □ 部分 / □ 完了パッチ適用台帳、変更管理記録
   12システムウイルス対策/EDRの導入と定義更新マルウェア検知・封じ込め / 感染拡大□ 未 / □ 部分 / □ 完了EDR管理画面、検知レポート
   13物理サーバールームの入退室管理物理侵入・盗難の抑止 / 無断操作□ 未 / □ 部分 / □ 完了入退室ログ、名簿・権限表
   14物理監視カメラ・死角対策の実装証跡確保・抑止 / 証拠不在□ 未 / □ 部分 / □ 完了録画保存設定、点検記録
   15物理USBポート等の無効化/制御持ち出し・持ち込み対策 / マルウェア・情報漏えい□ 未 / □ 部分 / □ 完了デバイス制御ポリシー、適用ログ
   16組織セキュリティポリシーの策定と周知判断の統一・逸脱防止 / 個人判断のばらつき□ 未 / □ 部分 / □ 完了最新版ポリシー、周知記録
   17組織定期的なセキュリティ教育・訓練ヒューマンエラー抑止 / フィッシング被害□ 未 / □ 部分 / □ 完了受講記録、テスト結果
   18組織インシデント対応体制(連絡網/手順/演習)初動遅れの回避 / 被害の長期化□ 未 / □ 部分 / □ 完了対応手順書、演習報告、復旧記録
   19組織外部監査(第三者評価)の定期実施客観性・継続改善 / 内部の見落とし□ 未 / □ 部分 / □ 完了監査報告書、是正対応計画
   20継続性BCP/DR計画と定期見直し・訓練災害・障害時の継続 / 長期停止・データ損失□ 未 / □ 部分 / □ 完了BCP文書、復旧RTO/RPOテスト結果

コンプライアンス要件の確認と文書化

経理システムの導入・運用においては、各種法令や会計基準への準拠が不可欠であり、コンプライアンス要件を明確に文書化しておく必要があります。まず、電子帳簿保存法の要件を満たすため、電子データの真実性と可視性を確保する仕組みを構築します。タイムスタンプの付与、検索機能の実装、データの改ざん防止措置など、法令で定められた要件を一つひとつ確認し、システムに実装します。

以下の記事では、電子帳簿保存法を図解でわかりやすく解説しているので参考にしてください。

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内部統制の観点からは、J-SOX法への対応も重要です。業務プロセスの文書化、IT統制の整備、監査証跡の保存など、財務報告の信頼性を確保するための統制活動を設計し、運用します。特に、職務分離の原則に基づいて、起票者と承認者を分離し、不正な処理を防ぐ仕組みを確立します。また、個人情報保護法への対応として、従業員や取引先の個人情報を適切に管理し、目的外使用を防ぐ体制を整えます。

これらのコンプライアンス要件は、規程や手順書として文書化し、全社員に周知徹底します。また、法令改正に対応するため、定期的に要件を見直し、必要に応じてシステムや運用ルールを更新します。監査対応も考慮し、すべての設定変更や運用ルールの変更履歴を記録し、いつでも説明できる状態を維持することが重要です。

インシデント発生時の対応フロー

システム障害や情報漏洩などのインシデントが発生した際の対応フローを事前に整備しておくことは、被害を最小限に抑えるために極めて重要です。インシデント対応は、検知、初動対応、原因究明、復旧、再発防止の5つのフェーズに分けて計画します。まず検知段階では、システムの異常を早期に発見するため、自動監視ツールの導入と、社員からの報告ルートを明確にします。異常を検知したら、15分以内に緊急対策本部を設置し、被害範囲の特定と拡大防止措置を実施します。

初動対応では、影響を受けるシステムの隔離、関係者への連絡、証拠の保全を迅速に行います。この際、事前に作成したエスカレーション(段階的な報告)リストに基づいて、経営層、IT部門、法務部門、必要に応じて外部専門家へ連絡します。原因究明フェーズでは、ログ分析やフォレンジック調査を実施し、インシデントの原因と影響範囲を特定します。復旧作業は、データの整合性を確認しながら慎重に進め、段階的に通常運用へ移行します。

最後に、インシデントの全容が明らかになった段階で、詳細な報告書を作成し、再発防止策を策定します。この一連のフローを年2回以上の訓練で実践し、対応能力の向上を図ることが、実際のインシデント発生時の迅速かつ的確な対応につながります。

人手不足に陥らないAI時代の経理人材育成と組織変革戦略

技術導入による効率化と並行して重要なのが、人材育成と組織変革です。効率化によって捻出できた時間は、経営状況の可視化や経営の改善に向けた取り組みに充てることで、経理部門の価値を高めることができます。これからの経理担当者には、単なる処理業務の専門家ではなく、データ分析力と経営視点を持つビジネスパートナーとしての役割が求められます。この章では、AI時代に求められる経理人材のスキルセット、効果的な育成プログラムの設計、そして経理部門の付加価値を最大化する組織改革の進め方について、先進企業の人材育成事例を交えながら解説します。

AI時代に必要な5つのコアスキル

AI時代の経理担当者には、従来の会計知識に加えて、新たな5つのコアスキルが求められます。第一に「データ分析力」です。AIが処理した大量のデータから、経営に有益な情報を読み取り、意味のある示唆を導き出す能力が必要です。単に数字を集計するだけでなく、トレンドを発見し、異常値の原因を分析し、将来予測を行う力が求められます。第二に「デジタルリテラシー」として、AIツールやRPAの基本的な仕組みを理解し、適切に活用できる能力が不可欠です。

第三に「ビジネス理解力」です。効率化によって捻出できた時間は、経営状況の可視化や経営の改善に向けた取り組みに充てるため、事業全体を俯瞰し、財務の観点から戦略的な提案ができる能力が重要となります。第四に「コミュニケーション力」として、複雑な財務情報を、経営層や他部署の人にも分かりやすく説明できる能力が求められます。第五に「変化適応力」です。技術の進化や法規制の変更に柔軟に対応し、継続的に学習する姿勢が必要です。これらのスキルは一朝一夕には身につきませんが、計画的な育成プログラムにより、着実に習得することが可能です。

デジタルリテラシー向上プログラムの設計方法

経理部門全体のデジタルリテラシーを向上させるには、体系的な教育プログラムの設計が不可欠です。まず、現状のスキルレベルを把握するため、全員を対象にスキルアセスメントを実施します。エクセルの関数やマクロの使用レベル、会計システムの操作スキル、プログラミングの基礎知識などを評価し、個々のレベルに応じた教育計画を立案します。初級者には、まずエクセルの効率的な使い方から始め、徐々にRPAツールの操作方法、簡単なプログラミングへとステップアップしていきます。

教育方法は、座学だけでなく、実際の業務を題材にしたハンズオン研修を中心に構成します。例えば、毎月発生する定型レポートの作成を自動化するプロジェクトを通じて、実践的なスキルを身につけます。また、社内勉強会を定期的に開催し、新しいツールや技術について情報共有する文化を醸成します。外部研修やオンライン学習プラットフォームも活用し、最新の知識を継続的に習得できる環境を整えます。

重要なのは、学習の成果を実務で活用する機会を提供することです。小さな改善プロジェクトを任せ、成功体験を積むことで、学習へのモチベーションを維持します。年度末には習得したスキルを評価し、人事評価にも反映させることで、組織全体のデジタル化を加速させます。

リスキリング支援制度の構築と運用

経理担当者のリスキリング(職業能力の再開発)を組織的に支援する制度の構築は、人材の定着と成長に直結します。まず、キャリアパスを明確に示し、AIツールを使いこなせる「デジタル経理」や、経営分析を担う「管理会計スペシャリスト」など、新たなキャリアの選択肢を提示します。それぞれのキャリアに必要なスキルセットを定義し、現在のスキルとのギャップを可視化することで、学習の動機付けを行います。

支援制度としては、資格取得支援、研修費用の補助、学習時間の確保などを整備します。例えば、データ分析関連の資格取得費用を全額会社負担とし、合格者には手当を支給します。また、週4時間を学習時間として業務時間内に確保し、オンライン講座の受講や自習を推奨します。メンター制度も導入し、先輩社員が後輩の学習をサポートする体制を構築します。

さらに、学習成果を発表する場を設け、優秀な取り組みを表彰することで、組織全体の学習意欲を高めます。リスキリングは個人の努力だけでなく、組織としてのサポートがあってこそ成功します。定期的に制度の利用状況と効果を評価し、必要に応じて改善を加えながら、持続可能な人材育成システムを確立していきます。

他部署連携による業務改善プロジェクトの進め方

経理業務の効率化は、経理部門だけで完結するものではなく、他部署との連携が成功の鍵となります。まず、営業部門との連携では、売上データの入力タイミングと精度の向上を図ります。営業担当者が使いやすい入力システムを共同で設計し、リアルタイムで売上情報が経理システムに反映される仕組みを構築します。購買部門とは、発注から支払いまでのプロセスを一元化し、請求書の突合作業を自動化します。

プロジェクトを進める際は、各部署から選出されたメンバーでワーキンググループを結成し、定期的な会議で課題と解決策を議論します。重要なのは、各部署のメリットを明確にすることです。例えば、営業部門には「月次の売上分析レポートを早期に提供」、購買部門には「支払い処理のスピードアップ」といった具体的な恩恵を示します。また、プロジェクトの初期段階で小さな成功事例を作り、その効果を全社で共有することで、協力体制を強化します。

部署間のデータ連携においては、共通のデータ定義とフォーマットを策定し、情報の一貫性を保ちます。定期的な振り返り会議を開催し、改善点を継続的に洗い出すことで、部署を超えた業務プロセスの最適化を実現します。

多様な働き方に対応する組織設計

リモートワークやフレックスタイムなど、多様な働き方に対応できる経理組織の設計は、優秀な人材の確保と定着に不可欠です。まず、クラウド型の会計システムを導入し、場所を問わずアクセスできる環境を整備します。セキュアなVPN接続により、自宅からでも安全に業務を遂行できる体制を構築し、ペーパーレス化を推進することで、物理的な出社の必要性を最小限に抑えます。

業務の割り振りも柔軟に設計し、定型業務は在宅勤務で対応し、判断が必要な業務や対面でのコミュニケーションが重要な業務は出社日に集中させるなど、効率的な運用を実現します。また、子育てや介護と両立できるよう、時短勤務や週3日勤務などの選択肢も提供します。これにより、ライフステージの変化があっても継続的に働ける環境を作ります。

コミュニケーションツールの活用も重要で、チャットツールやWeb会議システムを導入し、離れた場所にいてもスムーズな情報共有ができるようにします。定期的なオンラインミーティングや、月1回の全員出社日を設けることで、チームの一体感を維持します。このような柔軟な組織設計により、多様な人材が活躍でき、結果として組織全体の生産性と創造性が向上します。

2030年に向けた経理部門の未来像と今すぐ始めるべきこと

TOKIUMの2030年までに約2000万時間の経理業務を代替することを目指しているという野心的な目標は、経理部門の未来を象徴しています。これは単なる効率化ではなく、労働力そのものを提供するという新しい価値提案です。経理部門は「守りの経理」から「攻めの経理」へ、そして「経営のビジネスパートナー」へと進化を遂げようとしています。この章では、2030年の経理部門がどのような姿になっているのか、そして今この瞬間から始めるべき具体的なアクションについて、実行可能な第一歩とともに提示します。

2030年の経理部門|3つのシナリオ予測

2030年の経理部門は、技術革新と社会変化により、現在とは大きく異なる姿になると予測されます。第一のシナリオは「完全自動化型」です。TOKIUMは2030年までに約2000万時間の経理業務を代替することを目指しているように、AIが日常的な経理業務の90%以上を処理し、人間は戦略的判断と例外処理のみを担当する世界です。この場合、経理部門の人員は現在の3分の1程度まで削減されますが、残った人材は高度な分析力と経営センスを持つスペシャリストとなります。

第二のシナリオは「協働型」で、人間とAIが得意分野を活かしながら協力する形態です。AIが大量データの処理と基礎的な分析を担い、人間が文脈理解や創造的な問題解決を行います。この形態では、経理担当者の役割は「AIトレーナー」や「ビジネスアナリスト」へと進化します。

第三のシナリオは「分散型」で、経理機能が各部署に分散し、AIエージェントが部署横断的に財務管理を行う形態です。このモデルでは、中央集権的な経理部門は縮小し、各事業部にファイナンスの専門家が配置されます。いずれのシナリオも、経理の専門性は残りますが、その形態と求められるスキルは大きく変化することが予想されます。

デジタル労働力がもたらす経理業務の再定義

労働力そのものを提供するという新しい価値提案により、経理業務の概念が根本から変わろうとしていますデジタル労働力としてのAIエージェントは、24時間365日稼働し、疲労することなく、常に一定の品質で業務を遂行します。これにより、月末や決算期の業務集中という概念がなくなり、リアルタイムでの財務情報更新が当たり前になります。

経理業務は「過去の記録」から「未来の予測」へとシフトし、AIが過去データから学習したパターンを基に、将来のキャッシュフローや収益性を高精度で予測するようになります。例えば、売上データ、市場動向、競合情報を総合的に分析し、3ヶ月後の資金需要を自動的に算出し、最適な資金調達方法を提案します。また、不正やミスの予防的検知も可能となり、問題が発生する前にアラートを出すプロアクティブな管理が実現します。

このような環境下で、経理担当者の役割は「作業者」から「意思決定者」へと変化します。AIが提示する複数のシナリオから最適なものを選択し、経営層に説明責任を果たすことが主な仕事となります。デジタル労働力との共存により、経理部門はより戦略的で創造的な組織へと進化していきます。

経営戦略における経理部門の新たな役割

2030年に向けて、経理部門は単なるバックオフィスから、経営戦略の中核を担う部門へと変貌を遂げます。リアルタイムで更新される財務データと、AIによる高度な分析により、経営判断に必要な情報を瞬時に提供できるようになります。例えば、新規事業への投資判断において、過去の類似事例の分析、市場規模の予測、リスクシミュレーションを即座に実施し、投資収益率を複数のシナリオで提示します。

また、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が主流となる中、非財務情報と財務情報を統合した統合報告が標準となります。経理部門は、CO2排出量、従業員満足度、社会貢献活動などの非財務指標を財務指標と関連付けて分析し、企業価値向上への貢献度を定量化します。さらに、サプライチェーン全体の財務管理にも関与し、取引先の財務健全性をリアルタイムでモニタリングし、リスクを事前に察知します。

このような高度な役割を果たすため、経理部門は「CFO室」や「戦略財務部」といった名称に変更され、経営企画部門と統合される可能性もあります。データサイエンティストやビジネスアナリストといった新たな専門職が加わり、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成される組織となるでしょう。

今すぐ始められる3つの具体的アクション

2030年の未来に向けて、今すぐ始められる具体的なアクションが3つあります。第一に「業務の棚卸しとデータ化」です。現在の業務を詳細に記録し、デジタル化できる部分を特定します。紙の書類をスキャンしてPDF化する、エクセルで管理している情報をデータベース化するなど、小さなことから始めます。これにより、将来的なAI導入の基盤を整えることができます。

第二に「スキルアップの開始」です。週に2時間でも良いので、オンライン学習サイトでエクセルの高度な機能やプログラミングの基礎を学習します。特に、データ分析に関するスキルは今後必須となるため、統計の基礎知識やデータビジュアライゼーションの手法を身につけることが重要です。社内で勉強会を開催し、学んだことを共有することで、組織全体のレベルアップを図ります。

第三に「小さな自動化の実践」です。マクロやRPAツールの無料版を使って、日常の繰り返し作業を1つでも自動化してみます。成功体験を積むことで、自動化への抵抗感がなくなり、より大きな改革への準備が整います。これらのアクションは、特別な予算や承認なしに始められるため、明日からでも実行可能です。

【アクションプラン】30日で始める経理改革の第一歩

経理改革を30日間で軌道に乗せるための具体的なアクションプランをご提供します。第1週(1-7日目)は「現状把握週間」として、チーム全員で業務日誌をつけ、各作業にかかる時間を記録します。並行して、他社の成功事例を調査し、ベンチマークとなる企業を3社選定します。第2週(8-14日目)は「問題分析週間」として、収集したデータを分析し、最も時間がかかっている業務トップ5を特定します。それぞれについて、自動化の可能性と期待効果を評価します。

第3週(15-21日目)は「解決策検討週間」として、特定した課題に対する解決策を検討します。無料ツールの試用、ベンダーへの問い合わせ、社内リソースの確認などを行い、実現可能性を評価します。また、改革推進チームを結成し、各メンバーの役割を明確にします。第4週(22-30日目)は「実行準備週間」として、最も効果が高く実現可能な施策1つを選定し、詳細な実行計画を策定します。必要な予算の算出、スケジュールの作成、成功指標の設定を行い、経営層への提案書を作成します。

30日後には、明確な改革の方向性と実行計画が完成し、小さくても確実な第一歩を踏み出すことができます。重要なのは、完璧を求めすぎず、まず動き出すことです。この30日間の取り組みが、将来の大きな変革への礎となります。

30日で始める経理改革:第一歩アクションプラン(週次×日次)

週/日テーマ主要アクション成果物/指標期限/担当
1週目(1–7日)現状把握業務日誌の記録開始/ベンチマーク3社選定日誌一式・指標整理(処理時間/差し戻し率)7日目/経理Mgr・全員
2週目(8–14日)問題分析年間時間換算→上位5業務抽出/自動化適合評価可視化表・優先度(A/B/C)14日目/データ担当・Mgr
3週目(15–21日)解決策検討推進チーム結成/ツール比較・試用/実現性評価比較表・検証条件(対象/KPI/期間)21日目/PJ責任者
4週目(22–30日)実行準備施策1件に決定/実行計画・予算・提案書作成承認記録・開始日確定(Go/Keep/Stop基準)30日目/Mgr・関係部門

まとめ

経理の人手不足は、もはや「人を増やす」だけでは解決できない構造的な課題となっています。本記事で解説したように、AIやRPAなどの最新技術を活用した業務の自動化、業務フローの抜本的な見直し、そして人材育成と組織変革を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。特に注目すべきは、TOKIUMが2025年7月にリリースした「経理AIエージェント」のように、AIとプロスタッフが連携して自律的に経理業務を実行する新しいサービスの登場です。

これらの技術革新により、経理部門は単なる「守りの経理」から、経営戦略を支える「攻めの経理」へと進化する大きなチャンスを迎えています。今こそ、経理部門の変革に向けた第一歩を踏み出し、持続可能な経理体制を構築する時です。まずは自社の業務を棚卸しし、スモールスタートで効率化の取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

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