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経理の現場でも、ChatGPTをはじめとする生成AIの活用が一気に進みつつあります。一方で、「どこまで任せてよいのか」「機密情報の扱いは大丈夫か」といった不安から、踏み出せていない担当者も少なくありません。
本記事では、仕訳・決算・レポート作成・社内問い合わせ対応など、経理業務におけるChatGPTの代表的な活用シーンを整理しつつ、ハルシネーションや情報漏えいを防ぐための社内ルールづくり、スモールスタートの進め方まで解説します。経理初心者の方でも、安全に第一歩を踏み出せるよう丁寧にご紹介します。
結論:ChatGPTは、経理業務のうち「判断の最終責任を人が持てる範囲」で、文章化・要約・たたき台作成を高速化できます。特に、月次コメント作成、社内案内文、FAQ整備のように“下書き→人が確認”で完結する業務は、スモールスタートに向きます。一方、税務判断や個社の取引先・金額を含む相談は、入力ルールとチェック体制が前提です。
- まず試す①:月次レポートのコメント草案(増減要因を箇条書き→文章化)
- まず試す②:経費精算ルールの社内案内文(要点指定→読み手別に言い換え)
- まず試す③:「よくある質問」回答テンプレ(質問を束ねてFAQ化)
なお、経理でChatGPTを使う際の注意点は4つに絞れます。①出力は必ずファクトチェック(正確性)、②制度・基準は一次情報で確認(最新性)、③個社情報は入力しない(機密)、④最終判断は人が持つ(責任分界)です。この4点を先に守れば、「下書き→人が確認」で安全に成果を出しやすくなります。
ChatGPTを経理で活用するべき背景

人手不足や属人化、度重なる法改正など、経理部門を取り巻く環境はここ数年で大きく変化しています。こうした状況のなかで、ChatGPTのような生成AIは、単なる「便利ツール」を超え、業務設計そのものを見直すきっかけになりつつあります。本章では、経理の現場で何が起きているのか、なぜ今ChatGPT活用が注目されているのかを整理し、本記事の位置づけを明確にします。
経理の現場で起きている問題が、自社にも当てはまるかどうかを簡単に確認してみましょう。次のチェックリストで、いくつ当てはまるかを数えてみてください。該当項目が多いほど、ChatGPTなどの新しい手段を検討する優先度が高い状態といえます。
表:経理の現状課題サマリー
| チェック項目 |
|---|
| □ 月次決算が毎回ギリギリまで長時間労働になっている |
| □ 経費や請求のルール説明に、毎月同じ質問が多数寄せられる |
| □ インボイス制度・電子帳簿保存法対応で、紙とデジタルが混在している |
| □ 担当者ごとに処理方法が違い、業務が属人化している |
| □ 分析や改善提案に割ける時間がほとんどない |
| □ 新しいツールに興味はあるが、検証する余力がない |
経理部門を取り巻く環境変化と3つの課題
近年の経理部門は、人手不足の深刻化、頻繁な法改正への対応、紙ベース業務からの脱却という3つの大きな課題に直面しています。従業員数が増えても、経理要員を十分に増やせない企業は多く、月次決算や支払処理が個人の経験に依存しがちです。また、電子帳簿保存法やインボイス制度などに対応するため、短期間での業務見直しが求められています。これらの変化は、単に業務量を増やすだけでなく、ミスが許されないプレッシャーにもつながります。その結果、「本来やるべき分析や改善」に時間を割けず、疲弊感が高まっているのが現状です。
なお、経理・財務・税務領域では、人材の確保や育成を課題として挙げる企業も少なくありません。こうした構造的な負荷の中で、文章化や問い合わせ対応の“下準備”をAIに任せ、担当者は確認・判断に集中する設計が現実的です。
参考:経理・財務・税務部門の35.7%が「人材育成・人材確保」に課題感 | デロイト トーマツ グループ
また、インボイス制度や電子帳簿保存法のように、短期間で運用変更を迫られる制度対応は、手順・ルールの周知と定着がボトルネックになりやすい領域です。生成AIは、この「周知・標準化」を加速させる手段として位置づけると導入判断がしやすくなります。
参考:「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」結果について|日本商工会議所
ChatGPTが経理担当者の「壁打ち相手」になる理由
ChatGPTは、経理担当者の「相談相手」や「壁打ち相手」として活用しやすい性質を持っています。たとえば、決算の説明資料や経費精算ルールの社内案内文を作る際、ゼロから文章を考えるのではなく、まず案を出してもらい、それを経理の視点で修正していくと負担が軽くなります。また、迷っている論点や整理したいアイデアを文章にして投げかけることで、自分の頭の中を整理する手助けにもなります。最終的な判断や表現の妥当性は人間が確認する必要がありますが、「たたき台づくり」を任せられるだけでも心理的なハードルが下がり、前向きな活用が進めやすくなります。
本記事の想定読者と前提条件
本記事は、経理経験がそれほど長くない担当者や、課長・部長クラスの管理職で「ChatGPTを業務に取り入れるべきか迷っている方」を主な読者として想定しています。プログラミングや高度なIT知識は前提としていませんが、日常的にエクセルや会計システムを利用しているレベルのITリテラシーを想定しています。
また、ChatGPTなどの生成AIをまだ本格的には触っていないものの、業務効率化や人手不足解消の手段として興味を持っている方をイメージしています。そのうえで、「どこまで任せてよいのか」「リスクは何か」を丁寧に説明し、初めてでも安全に試せる活用法を紹介していきます。
ChatGPTがもたらす経理業務の効率化メリット
ChatGPTの強みは、自然な文章生成と要約、条件に応じたコメント作成にあります。すでに多くの競合メディアでも、仕訳の補助やメール文面作成、エクセル作業の支援などが代表的な活用例として紹介されています。本章では、文章・数値・コミュニケーションという3つの視点から、経理業務にどのような効率化効果が期待できるのかを整理します。
とはいえ、「どの業務に使うと効果が出やすいのか」がイメージしづらい方も多いと思います。そこで、ChatGPTと相性がよく、比較的取り入れやすい代表的な経理業務を、導入前後のイメージとあわせて以下に整理しました。まずは、ここに挙げた業務のなかから自社で取り組みやすいものを1つ選ぶのがおすすめです。
ChatGPTで効率化しやすい業務の一覧表
| 業務 | Before(人手だけで行う場合) | After(ChatGPT併用時のイメージ) |
|---|---|---|
| 決算・月次レポートのコメント作成 | ゼロから文章を考えるため、書き始めに時間がかかり、表現のゆれも大きい | 増減要因を箇条書きで入力し、コメントのたたき台を自動生成してから推敲できる |
| 経費精算ルールや社内案内文の作成 | 毎回似た内容の文章を作成し直し、言い回しや構成の検討に時間がかかる | 伝えたいポイントを指定して、分かりやすい説明文案を作成し、最終チェックだけ行う |
| 社内からのよくある質問への回答 | メールやチャットで同じ質問に個別対応し、担当者ごとに回答内容がばらつく | 代表的なQ&AをChatGPTに整理させ、社内FAQやテンプレートとして再利用できる |
| 会議資料・報告書の要約 | 長文資料を読み込み、要点を抜き出す作業に時間がかかる | ポイントを指定して要約させ、必要に応じて経理視点のコメントだけ追記すればよい |
| 海外拠点向けの英語メール・決算説明文 | 英語表現に自信が持てず、翻訳や文面作成に多くの時間を要する | 日本語の下書きから英語案を生成し、用語とニュアンスだけ人が最終確認する |
文章生成・要約で決算資料とレポート作成を時短
決算説明資料や月次レポートの文章作成は、時間がかかるうえに神経も使う作業です。ChatGPTを活用すると、数値やポイントを入力するだけで、まずは説明文のたたき台を作ることができます。例えば、「売上が前期比10%増加した理由」や「販管費が増加した要因」などを箇条書きで整理し、その内容をもとに読み手に伝わりやすい文章を生成させます。その後、経理担当者が用語の正確さや自社の表現ルールに合わせて修正すれば、ゼロから書くよりも短時間で仕上がります。また、過去の長い報告書を要約させ、ポイントだけを抜き出す使い方も有効です。
数値分析コメントとモニタリングの自動下書き
月次の数値を確認したあと、「なぜこの数値になったのか」をコメントに落とし込む作業は、思いのほか時間がかかります。ChatGPTに対して、売上や利益、費用の増減要因を簡単に説明し、その内容をもとに管理会計レポート向けのコメント案を生成させることで、コメント作成の下書きを自動化できます。また、予算と実績の差異や、前期と比べた変化を入力すると、どの点に注意すべきかの視点候補を出してくれます。もちろん、数値の解釈や経営判断は人間が行う必要がありますが、「書き始めるまでの時間」と「文章に整える手間」を減らすことで、分析そのものに集中しやすくなります。
社内コミュニケーション・問い合わせ対応の効率化
経費精算や稟議のルールについて、同じような質問が何度も経理部門に寄せられることは少なくありません。ChatGPTを活用すれば、よくある質問と回答の例をもとに、社内向けの案内文やテンプレートをまとめることができます。例えば、「接待交際費として認められる条件」や「出張旅費の精算手順」などを整理し、わかりやすい言い回しで文章を生成させれば、そのまま社内ポータルやマニュアルに反映しやすくなります。また、同じ内容を少し表現を変えて説明してほしい場合にも柔軟に対応できます。これにより、経理担当者の問い合わせ対応時間を減らしつつ、社内の理解度向上にもつながります。
経理業務別に見るChatGPTの具体的な活用シーン
「実際の業務のどこに使えるのか」が見えなければ、ChatGPTは単なるお試しで終わってしまいます。既存の競合記事では、仕訳・記帳、レポート作成、税務申告や予算管理などの場面での活用が整理されていますが、本章では、仕訳・伝票処理から決算書・月次レポート、多言語対応、社内FAQまで、経理担当者がイメージしやすい実務フローに沿って活用シーンを紹介します。
業務×ChatGPT適性マトリクス表
| 業務 | 定型度 | 機密度 | ChatGPTとの相性・スモールスタートのしやすさ |
|---|---|---|---|
| 決算・月次レポートのコメント作成 | ○ | ○ | 相性◎:数値や要因を抽象化すれば、たたき台作成から着手しやすい |
| 経費精算ルール・社内向け案内文の作成 | ◎ | △ | 相性◎:具体的な社名・金額を避ければ、すぐに活用しやすいスタート領域 |
| 社内FAQ(よくある質問)整備 | ◎ | △ | 相性◎:質問パターンを整理しやすく、スモールスタートに最適 |
| 多言語決算資料・英語メール作成 | ○ | ○ | 相性○:日本語の原稿を前提に、翻訳と表現調整に活用しやすい |
| 仕訳・伝票処理の勘定科目検討 | ◎ | ◎ | 相性△:機密度が高いため、ダミーデータでルールを相談するなど慎重な活用が必要 |
| 税務・会計基準に関わる判断 | △ | ◎ | 相性△:正式な判断は専門家が行う前提で、論点整理の補助程度にとどめる |
仕訳・伝票処理の一次チェックに使う
仕訳や伝票処理は、ミスがあってはならない一方で、件数が多く単調になりがちな業務です。ChatGPTは、仕訳そのものを自動で登録するわけではありませんが、取引内容の説明から「どの勘定科目が候補になり得るか」を考える補助として活用できます。たとえば、「オンラインセミナー参加費」や「クラウドサービスの月額利用料」など、迷いやすいケースを文章で説明し、勘定科目候補を挙げてもらったうえで、最終的な判断を人間が行う使い方です。また、入力済みの仕訳一覧に対して、説明文と勘定科目の組み合わせに違和感がないかを確認する視点候補を出させることで、自主チェックの質を高めることもできます。
決算書・月次レポートのコメント草案を作成する
決算書や月次レポートには、数値だけでなく、背景や今後の見通しを説明するコメントが不可欠です。しかし、毎月同じような表現になってしまったり、書き始めに時間がかかることも多いのではないでしょうか。ChatGPTに対して、当期の主要な変動要因や特記事項を箇条書きで入力すると、それらを踏まえたコメント案を作成してくれます。さらに、「取締役会向け」「現場マネージャー向け」など、読み手に合わせたトーンで書き分けることも可能です。担当者は生成された案を確認し、自社のルールや会計的な表現の正確さを整えることで、作業時間を短縮しながら、分かりやすいレポートを継続的に提供できます。
実際に使う場面をイメージしやすくするために、代表的な活用シーンごとの「そのまま使える」プロンプト例をまとめました。ここでは、月次レポートのコメント作成、経費精算ルールの案内文作成、海外拠点向けの英語メール下書きという3つのシーンを取り上げています。まずは文面をそのまま試し、自社の状況に合わせて少しずつ調整してみてください。
活用シーン別「そのまま使える」プロンプト例
| シーン | プロンプト例 |
|---|---|
| 月次レポートのコメント草案作成 | 「次の月次実績のポイントを整理したいです。売上は前月比5%増加、利益は前月比3%減少しました。要因として、①主力商品の単価アップ、②広告費の増加があります。取締役会向けの月次レポートコメント案を作成してください。専門用語は使いすぎず、要因を3つ以内に整理し、200字程度でまとめてください。」 |
| 経費精算ルールの社内案内文作成 | 「社員向けに、出張旅費と接待交際費の経費精算ルールを分かりやすく説明したいです。ポイントは、①対象となる費用の例、②申請時に必要な情報、③よくある間違いの注意点です。新人社員にも理解できるように、丁寧な言葉で社内ポータルに掲載するお知らせ文(400字程度)を作成してください。」 |
| 海外拠点向けの英語メール下書き | 「海外拠点の担当者に、四半期決算の概要を伝える英語メールの下書きを作成してください。日本語で内容を説明します。『売上は前年同期比で10%増加しました。主な要因は新製品の販売好調です。一方で、原価率の上昇により利益率はわずかに低下しました。詳細は添付のレポートをご確認ください。』これを丁寧なビジネス英語メールにしてください。」 |
ここでご紹介したプロンプトは一部の代表例に過ぎません。とはいえ、本記事は「安全に始める」ための線引き・ルール・チェック体制に集中します。プロンプトは社内でテンプレ化して共有し、まずは下書き→人が確認で完結する業務から試してください(効果は作業時間で十分に検証できます)。
多言語決算資料や海外拠点とのやり取りを補助する
海外拠点を持つ企業では、決算資料やレポートを英語など他の言語で用意する必要があります。専門の翻訳担当者を置けない場合、経理担当者が自力で対応せざるを得ず、負担になっているケースもあります。ChatGPTは、多言語への翻訳や、外国語での文章作成支援が得意です。日本語で作成した決算コメントや説明文をもとに、英語での草案を生成させれば、専門用語を確認しながら短時間でドラフトを用意できます。また、海外担当者とのメールの下書きを作る際にも、丁寧かつビジネス向けの文面を提案してくれます。最終チェックは必ず人間が行う前提ですが、初稿づくりの負担を大きく減らせます。
経費精算ルールや操作マニュアル、社内FAQを自動生成する
経費精算のルールやシステムの操作方法は、文書にまとめていても細かいケースが漏れがちで、結果として問い合わせが絶えないことがあります。ChatGPTに、現行の規程やよくある質問の内容を入力すると、わかりやすく整理したマニュアルや社内FAQのたたき台を作ることができます。例えば、「このケースは交通費か交際費か迷いやすい」といったポイントを説明とともに記載し、社員向けの平易な言い回しに変換してもらうことが可能です。また、長くなりすぎたマニュアルの要点を抜き出し、「まず読むべきポイントだけ」をまとめた短い説明文を作ることもできます。これにより、ルールの浸透と問い合わせ削減を同時に進められます。
経費精算ルールや社内FAQの整備は、問い合わせ削減に効く一方で、運用が曖昧だと差し戻しや例外が増えがちです。ルール整備を「入力→承認→保存」まで一体で設計し、実務の詰まりを減らしたい方は、AIによる経費精算自動化の設計ポイントも参考になります。
ChatGPTを経理業務で安全かつ効果的に使うためのポイント
ChatGPTを経理に取り入れるうえで最も重要なのが、正確性とセキュリティの確保です。生成AIが事実と異なる回答をしてしまう「ハルシネーション」や、機密情報を外部サービスに入力することによる情報漏えいリスクは、多くの専門メディアでも指摘されています。本章では、回答の最終確認フロー、入力情報のルール、社内リテラシー向上の進め方、スモールスタートの設計といった運用面のポイントを整理します。
併せて、“何に使えるか”と同じくらい重要なのが“何に使わないか”です。税務判断や監査対応のように誤りが許されない領域、取引先名・社員名・口座情報・正確な金額など機密を含む相談は、ChatGPTではなく一次情報・既存システム・人の判断を前提にしてください(どうしても使う場合は仮名化・丸め・ダミーデータに置き換えます)。
ハルシネーションを前提にしたチェック体制のつくり方
ChatGPTは、もっともらしい文章を生成する一方で、事実と異なる内容を自信ありげに答えてしまうことがあります。これがいわゆる「ハルシネーション」です。経理領域でこの問題を防ぐには、「必ず人が確認する」という前提を明文化し、チェック体制を設けることが重要です。具体的には、ChatGPTが作成した文章や勘定科目の候補は、必ず元の帳票や社内規程と照らし合わせる、会計・税務に関わる判断はAIの回答を鵜呑みにしない、といったルールを定めます。また、チェックの観点を簡単なリストにしておき、「数字と文章が矛盾していないか」「過去の方針と整合しているか」などを意識的に確認することで、誤った内容のまま社内外に出してしまうリスクを減らせます。
効果が出ているかは「作業時間」だけで十分に検証できます。最初は高度なROI算定よりも、まず“減った手間”を数字で残すことが重要です。以下は、経理部門で使いやすいKPIの最小セットです。
- 作業時間(分):対象業務を「AIなし/あり」で計測(例:月次コメント作成、案内文作成)
- 差し戻し件数:申請・問い合わせ対応で“手戻り”が減ったか
- 問い合わせ件数:同一質問の反復が減ったか(FAQ整備の効果)
- 確認工数:チェック担当の所要時間が増えていないか(安全運用の副作用チェック)
まずは1業務・2週間で計測し、「短縮できた工程」と「人が残す判断」を明文化してから横展開すると、社内展開で失速しにくくなります。
機密情報を守るための入力ルールと権限管理
経理情報には、取引先名や社員名、口座情報など、外部に漏れてはならない機密情報が含まれています。ChatGPTを利用する際は、こうした情報をそのまま入力しないルールづくりが欠かせません。例えば、実際の社名や個人名、具体的な金額を伏せ、仮名や丸めた数字に置き換えて相談するようにします。また、業務で利用するChatGPT環境を決め、誰がどの目的で使ってよいかを明確にし、社内のアカウント管理とセットで運用することも重要です。加えて、生成された回答をそのままコピーして外部に送るのではなく、一度ローカルの資料に貼り付けてから精査する、といった運用ルールを整えることで、情報漏えいリスクを抑えながら活用を進められます。
便利さだけを重視してしまうと、つい機密情報をそのまま入力してしまう危険があります。そこで、よくあるシーンごとに「避けるべきNGな聞き方」と「安全性に配慮したOKな聞き方」を並べて整理しました。自社のルールづくりや、社内周知の際のサンプルとしてそのまま活用いただけます。
安全な使い方「NG/OK例」比較表
| シーン | NGな聞き方(避けるべき例) | OKな聞き方(望ましい例) |
|---|---|---|
| 経費精算ルールの相談 | 「A株式会社の山田太郎さんとの会食で3万円使いました。〇月〇日のレシート画像と領収書を貼るので、この取引をどの勘定科目で処理すべきか教えてください。」 | 「取引先との会食費を経費で処理する際の、一般的な勘定科目の考え方を教えてください。例えば、取引先との夕食で3万円程度を支払った場合のケースを想定し、交際費として処理する場合のポイントを整理してください。」 |
| 契約条件の確認・相談 | 「この契約書(PDF)の内容を貼るので、弊社とB社のどちらに不利か判断してください。契約金額は1,200万円で、具体的な支払条件や遅延損害金の条文もすべて記載します。」 | 「ソフトウェア利用契約において、ユーザー側が注意すべき一般的な条項と、その理由を教えてください。特に、①契約期間、②解約条件、③責任制限、④サポート範囲に関するポイントを、経理担当者向けに整理してください。」 |
| 個人情報を含む給与・人事関連の相談 | 「社員3名の氏名と年収、評価ランクの一覧を貼るので、昇給額の案を作成してください。Aさん〇歳、年収〇〇万円、評価B、Bさん…」 | 「年収レンジと評価ランクだけを使って、昇給額の考え方を整理したいです。例えば、評価A・B・Cごとに、年収帯別の昇給率の目安を表形式で提案してください。実在の氏名や個人を特定できる情報は使わずに、一般的なモデルとして回答してください。」 |
ルールを作ったら、次は“運用で守る”設計にします。最低限、①学習に使わせない設定(オプトアウト)の確認、②利用ログ・履歴の点検(定期レビュー)、③従業員教育(入力禁止・根拠確認・二次利用禁止)までをセットにしてください。
特に注意したいのは、「履歴を残さない設定」と「学習に使わせない設定」は別物になり得る点です。機密を扱う可能性がある業務では、設定と運用(ログ点検)をセットで整えたうえで、スモールスタートに進むのが安全です。
社内リテラシー強化とプロンプト共有のコツ
ChatGPTを安全かつ効果的に活用するには、一部の担当者だけが使いこなすのではなく、部署全体で基本的な考え方を共有することが大切です。そのためには、使い方の研修や勉強会を通じて、「どこまで任せてよいか」「どのような聞き方をするとよい回答が得られるか」といったポイントを共有します。また、実際に効果があったプロンプトをテンプレートとして共有し、社内のナレッジとして蓄積していくと、利用の質が次第に高まっていきます。このとき、単に文面だけを配るのではなく、「このプロンプトはどんな場面で使えるか」「注意点は何か」といった解説を添えることで、経理初心者でも安心して試せる環境をつくれます。
スモールスタートで検証する3ステップ
いきなり経理全体をChatGPTで変えようとすると、現場の不安が大きくなり、反発を招きかねません。そこで有効なのが、リスクの低い業務から小さく試すスモールスタートです。まず、文章作成や社内FAQなど「判断ミスが直接お金に影響しにくい」業務を一つ選びます。次に、その業務でChatGPTを使った場合と使わない場合の工数やミスの発生状況を、一定期間比較します。最後に、得られた結果と課題をふりかえり、ルールやマニュアルに反映させてから、対象業務を少しずつ広げていきます。この3ステップを繰り返すことで、現場の納得感を得ながら、安全に活用範囲を拡大できます。

ChatGPTの活用ルールを整えたら、次は生成AIに限らず、AI活用全体を「どの業務から」「どんな統制で」広げるかを整理しておくと、属人化や例外増加を抑えられます。管理職が押さえるべき“事故らない運用ルール(権限・入力・検証・ログ)”と導入手順は、以下の記事で体系的に整理しています。
経理AIエージェント時代を見据えた経理部門の将来像
ChatGPT単体の活用にとどまらず、生成AIと経理AIの組み合わせによって、経理部門の役割そのものが変わりつつあります。既存のTOKIUMブログでも、生成AIと電帳法対応、経理AIの導入メリットや成功事例が紹介されており、今後は「経理AIエージェント」がデータ連携や意思決定支援まで担うことが想定されています。本章では、DXとのシナジーや全社展開の方向性を踏まえ、経理担当者が今から意識しておきたい将来像を描きます。

DXと生成AIの組み合わせで広がる経理の役割
紙の書類をデジタル化し、ワークフローシステムや経費精算システムを導入することで、経理のDXは大きく進展しました。ここに生成AIを組み合わせることで、単なる効率化を超えた役割拡大が期待できます。例えば、システムに蓄積されたデータをもとに、ChatGPTにトレンドやリスクの兆候を文章で整理させれば、経理が数字の「記録係」から「経営の相談相手」へとシフトしやすくなります。また、現場から寄せられる疑問や不安を、AIを通じて早期に吸い上げることで、ルールの改善や教育の方向性を検討しやすくなります。こうした変化は、経理部門の価値を高めると同時に、従来のイメージを前向きなものへと変えていくきっかけにもなります。
全社展開に向けたデータ連携と業務標準化
ChatGPTの活用を一部の担当者だけにとどめず、全社的な取り組みにしていくには、データ連携と業務標準化が重要なテーマになります。各部署がバラバラのフォーマットでデータを管理していると、AIに入力する前処理に手間がかかり、効果が見えにくくなってしまいます。まずは、経費精算や請求処理など、共通する業務のフォーマットやルールをそろえ、そのうえで生成AIを活用していく流れが望ましいです。また、経理・情報システム・現場部門の間で、どのデータをどの粒度で共有するかを話し合い、過剰な情報共有によるリスクを避けつつ、必要な情報はスムーズに活用できる状態を整えることが、全社展開の前提となります。
経理AIエージェントが担う新しい業務領域
将来的には、ChatGPTのような生成AIと、会計データや証憑データと連携した経理AIエージェントが登場し、「経理の補佐役」として常時稼働する姿が想定されます。具体的には、日々の仕訳や経費精算データを監視し、不自然な取引やルール違反の可能性があるデータを自動で抽出したり、締め処理前に想定されるボトルネックを事前に知らせたりする役割です。また、決算スケジュールやタスクの進捗を把握し、担当者ごとに優先順位の高い作業を提案することも考えられます。このような世界では、経理担当者はAIが示す情報を踏まえ、判断やコミュニケーションに集中できるようになり、より戦略的な役割を担うことが期待されます。
なお、ChatGPT単体の活用にとどまらず、データ連携や意思決定支援まで担う「経理AIエージェント」へ進化する前提で全体像を押さえておくと、いま作るべき運用ルール(入力・検証・ログ)もブレにくくなります。
経理部門のためのChatGPT活用 明日から始める「小さな一歩」FAQ
Q1. 明日から経理業務でChatGPTを活用するには、まず何から始めればよいですか?
A. いきなり高度な自動化を目指さず、リスクの低い「文章作成」などから始めてください。
まずは「小さな一歩」を踏み出すことが重要です。会計データの直接的な処理や判断を伴う業務ではなく、文章作成やFAQ対応など、リスクの低い領域をピックアップしましょう。 その際、必ず以下の準備を行ってください。
- ルールの策定: 個人情報や機密情報を入力しないなどの基本ルールの確認。
- 確認フローの決定: 生成された内容を必ず人間がチェックする工程を入れる。
Q2. 最初の一歩として、具体的にどのような業務がおすすめですか?
A. 「判断」よりも「文章化」が中心となる業務が適しています。
具体的には、以下のような業務が推奨されます。
- 経費精算の案内メール作成: 定型的ながら、丁寧さが求められる文面の作成。
- 会議資料の要約: 議事録や長文資料のポイント整理。
- 社内FAQの作成: 「領収書はどうすればいい?」などのよくある質問への回答案作成。
これらは、万が一修正が必要でもリカバリーが容易であり、効果を実感しやすい業務です。
Q3. 導入の効果はどのように確認すればよいですか?
A. ChatGPTを使った場合と、使わなかった場合の「作業時間」を比較してみてください。
特別なシステム投資をする前に、まずは手元の作業で時間を計測・記録してみましょう。 「この作業ならAIに任せても大丈夫だ」という小さな成功体験を積むことが、より高度な活用へ進むための原動力になります。
Q4. 業務データや個人情報を、ChatGPTに入力してもよいですか?
A. 原則として、個人情報や機密情報(取引先名・金額・口座・契約情報など)は入力しない運用にしてください。どうしても検討が必要な場合は、匿名化・マスキングを徹底し、社内ルールと確認フローを先に決めたうえで利用範囲を限定します。
- NG例:取引先名/請求金額/社員名/口座情報/契約条項/未公開の業績数値 など
- OK例:固有名詞を伏せた要約(A社→取引先A)/架空データでの手順相談/社内規程を抽象化した「論点整理」
- 実務のコツ:入力前に「伏せ字ルール(社名・人名・金額・日付)」を決め、テンプレ化してから使うと事故が起きにくくなります。
Q5. 入力した内容は、AIの学習(モデル改善)に使われますか?
A. 利用形態によって扱いが異なります。個人向けのChatGPTなどでは、モデル改善に使われる可能性があり、設定でオプトアウトできます。一方、ChatGPT Business/Enterprise/EduやAPIでは、原則として組織のデータが学習に使われない設計(デフォルト)です。
- 個人向け:会話がモデル改善に使われ得る/オプトアウト手段が用意されています。
- ビジネス向け:デフォルトで学習に使われない旨が明記されています(入力・出力を含む)。
※いずれの場合も、社内の情報管理ルール(入力禁止情報・ログ・保管)を先に整備することが前提です。
Q6. 生成結果に誤りがあった場合、責任は誰が持ちますか?(監査対応はどう考えるべきですか?)
A. 最終的な判断と責任は人が持ちます。ChatGPTは「たたき台作成」までに限定し、根拠(規程・証憑・会計方針・法令)に照らして人が確認したうえで利用してください。監査対応を見据えるなら、“誰が何を確認したか”の記録を残す運用が重要です。
- 推奨フロー:作成(AI)→一次確認(担当)→二次確認(上長/専門担当)→社内共有
- 最低限残す記録:入力テンプレ、出力の要点、修正内容、参照した根拠(規程・証憑・リンク)
- 判断が絡む領域(税務判断・会計処理の確定など)は、AIの出力を根拠にせず、社内ルールや専門家判断に接続してください。
Q7. 中長期的に、AIを活用して経理部門はどのような姿を目指すべきでしょうか?
A. 数字を管理する部門から、「経営のパートナー」へと進化することを目指します。
単なる入力作業やチェック業務は、徐々にシステムやAIに任せる範囲を広げていきます。 その分、人間は以下のような付加価値の高い業務に時間を割くことが理想です。
- データに基づく分析・改善提案
- 他部署からの相談対応
- 経営判断のサポート
Q8. 理想の姿を実現するために、今から意識しておくべきことはありますか?
A. 「任せる業務」と「人間が担う業務」の整理と、業務標準化です。
AI活用には、業務が整理されていることが前提となります。
- 業務の棚卸し: どの作業がAI向きで、どこに人間の判断が必要かを分解する。
- 業務標準化: 属人化している業務をルール化し、誰でも(AIでも)扱えるようにする。
- コミュニケーション力: 他部署と連携し、経理の価値を伝える力を磨く。
これらを積み重ねることで、AIを使いこなし、社内での経理部門の価値を高めていくことができます。
まとめ
ChatGPTは、仕訳案や決算コメントの草案作成、社内FAQ対応、多言語レポートの下書きなど、経理業務のさまざまな場面で「下準備」を任せられる強力な道具です。ただし、会計基準の解釈や税務判断など、最終的な責任はあくまで人間が負う必要があります。そのためには、機密情報を入力しないルールづくりや、回答の妥当性をチェックするフローの整備が欠かせません。まずはリスクの小さい定型業務からスモールスタートし、効果と課題を検証しながら、将来の経理AIエージェント活用につながる土台を整えていくことが重要です。






