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経理やバックオフィスの現場では、「紙とエクセルに追われて残業が減らない」「人が足りず新しい仕事に手が回らない」といった悩みが続いています。こうした状況を変える第一歩が、日々の業務をシステムやクラウドサービスに置き換える「業務のIT化」です。業務のIT化は、ビジネスモデルや組織のあり方まで変えていくデジタル変革(DX)の“入口”にあたる取り組みであり、まずは経費精算や請求書処理など、件数が多くルールが決まっている定型業務から着手することが現実的です。
→ダウンロード:成功事例に学ぶ!ペーパーレス化から始める経理DX
本記事では、中小企業の経理・バックオフィスを想定しながら、「業務のIT化とは何か」「どの業務から手を付けるかの考え方」「スモールスタートで失敗を減らす進め方」「導入前後で確認したい指標」などを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
業務のIT化とは、紙やエクセルで行っている日々の入力・集計・確認作業を、システムやクラウドに置き換えて手作業と転記を減らす取り組みです。中小企業が成果を出すコツは、いきなり全社導入を目指さず、件数が多い定型業務から小さく始め、導入前後で工数・ミス・差し戻しなどの指標を同じ条件で比較することです。まずは「対象業務の優先順位」「失敗しやすい注意点」「進め方の手順」を押さえると、ムリなく定着しやすくなります。
- まず何をするか:現状業務を棚卸しし、件数が多い・手戻りが多い業務から優先順位を決めます。
- どう進めるか:1業務で小さく試し、運用ルールと教育を整えてから範囲を広げます。
- どう測るか:工数・ミス件数・差し戻し件数・残業時間などを導入前後で比較し、効果を確認します。
業務のIT化でよくある疑問とすぐに知りたいポイントQ&A
業務のIT化は、紙やエクセルで行う定型作業をシステムに置き換え、手作業と転記を減らす取り組みです。最初は「件数が多い」「ルールが決まっている」業務から小さく始め、工数・ミス・差し戻しなどの指標で効果を確認します。ここでは、よくある疑問に先回りして要点だけを整理します。
Q1. 業務のIT化とは何ですか?デジタル変革(DX)とはどう違うのでしょうか?
A. 業務のIT化とは、紙やエクセルで行っている日々の入力・集計・確認といった作業を、システムやクラウドサービスに置き換えて、ムダな手作業や転記を減らす取り組みです。ビジネスモデルや組織のあり方そのものまで変えていくデジタル変革(DX)と比べると、業務のIT化は「まず現場の定型業務を効率化し、データが自動でたまる状態をつくる」という、より身近で第一段階のステップだと考えると分かりやすいでしょう。
Q2. 中小企業の経理・バックオフィスでは、どの業務からIT化を始めるべきでしょうか?
A. 最初の一歩としては、「件数が多い」「手順がほぼ決まっている」「紙やエクセルでの転記が多い」業務から着手するのがおすすめです。具体的には、経費精算や請求書処理、支払・振込処理、交通費精算、勤怠管理、稟議・申請フローなどが候補になります。本記事では、現状の棚卸しシートと優先順位の表を用意しているので、自社の業務に当てはめながら、負荷の大きい業務から順にIT化していくイメージをつかんでください。
Q3. IT化の効果は、どのような指標で確認すればよいでしょうか?
A. IT化の投資対効果を判断するには、「導入前後で同じ指標を比較する」ことが重要です。例えば、経費精算や請求書処理にかかる業務工数(時間)、入力ミス件数・差し戻し件数、月末月初の残業時間、紙の使用量(印刷枚数や保管スペース)、担当者の満足度などを、導入前にざっくり把握しておき、導入後にどれだけ改善したかを数字で確認します。本記事のKPI表を使えば、必要最低限の指標を整理しやすくなります。
業務のIT化とは?DXとの違いと、対象になりやすい業務はどこか?
業務のIT化とは、紙やエクセル中心の作業をシステムやクラウドに置き換え、入力・集計・確認の手作業を減らすことです。DXが「事業や働き方の変革」まで含むのに対し、IT化はまず現場の定型業務を整え、データがたまる状態をつくる入口に位置づきます。対象になりやすい業務の見つけ方を、具体例とともに整理します。
まずは、IT化の基本的な定義と、DXとの違いを整理したうえで、「自社は今どの段階にいるのか」「どこから着手すると効果が出やすいのか」を把握することが重要です。ここでは、経理をはじめとするバックオフィス業務を例に、IT化の入口となる基礎知識を整理します。
業務のIT化で成果が出やすいのは、「件数が多い」「手順がほぼ決まっている」「紙・転記・照合が多い」業務です。まずは部門ごとに、どの作業がムダや手戻りの原因になっているかを整理すると、着手すべき業務が見えやすくなります。下表をたたき台に、自社の実態に近い行をチェックしてください。
表1:部門別の具体例
| 部門 | IT化の対象になりやすい業務(例) | よくあるムダ/リスク(現状) | 最初に見る指標(例) |
|---|---|---|---|
| 経理 | 経費精算、請求書処理、支払データ作成、仕訳作成 | 転記・照合の手作業、入力ミス、差し戻し、月末月初の残業 | 業務工数、ミス件数、差し戻し件数、残業時間 |
| 総務 | 申請書管理、書類回覧、備品管理、社内問い合わせ対応 | 紙の回覧で滞留、版管理の混乱、対応履歴が残らない | 処理リードタイム、滞留件数、問い合わせ件数 |
| 人事 | 勤怠集計、入退社手続き、各種証明、面談記録 | 集計の手戻り、修正履歴の追跡負荷、情報の分散 | 集計工数、修正件数、手続き完了までの日数 |
| 購買・調達 | 発注申請、見積回収、発注書管理、検収・支払連携 | 承認の遅延、発注漏れ/重複、証跡不足 | 承認リードタイム、発注漏れ件数、差し戻し件数 |
| 営業 | 見積作成、契約・更新管理、請求依頼、商談情報入力 | 二重入力、提出遅れ、顧客情報の属人化 | 作成工数、提出遅延件数、入力漏れ件数 |
| 全社横断(情シス/管理部) | アカウント管理、権限設計、ログ管理、運用ルール整備 | 退職者アカウント放置、権限過多、監査対応の負荷 | 権限棚卸し回数、監査指摘件数、問い合わせ件数 |
「IT化」とは何か?DXとの違いを整理する
業務のIT化とは、紙やエクセルで行っている作業をシステムやクラウドサービスに置き換え、入力や集計、検索などの手作業を減らす取り組みを指します。これに対してDXは、IT化で得られたデータや仕組みを活用し、ビジネスモデルや働き方そのものを変えていく考え方です。まずは日々の業務を効率化し、その延長線上で会議資料作成の自動化や、経営判断に使えるデータの見える化につなげていくとよいでしょう。
経済産業省のDX関連資料では、デジタル活用の段階を「デジタイゼーション(紙やアナログ情報のデジタル化)」「デジタライゼーション(個々の業務プロセスのデジタル化)」「デジタルトランスフォーメーション(ビジネスモデルや組織全体の変革)」の3段階に整理しています。中小企業の場合は、まず経費精算や請求書処理などのデジタイゼーション・デジタライゼーションを着実に進め、その先でDXにつながるデータ活用や新しいサービス検討へ広げていくイメージを持つと、過剰な投資や構想倒れを防ぎやすくなります。
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート2|経済産業省
IT化の対象になりやすい業務例(経理・総務・営業支援など)
IT化の対象になりやすいのは、件数が多く、手順がほぼ決まっている定型業務です。例えば、経理では経費精算や請求書処理、支払・振込データの作成が代表的です。総務であれば勤怠管理や入退社手続き、備品管理などが挙げられます。営業支援の分野では、名刺情報の管理や見積書・請求書の発行が対象になります。これらは紙やエクセルで運用している企業も多く、IT化の効果が分かりやすい領域だと言えます。
中小企業で業務IT化が求められる背景(人手不足・法改正など)
中小企業では、採用難や退職の影響で、同じ人数で仕事量だけが増えているケースが少なくありません。経理や総務では、紙の請求書や領収書への対応、エクセルでの台帳管理が残っていると、繁忙期には残業が常態化しやすくなります。さらに、インボイス制度や電子帳簿保存法など、法改正への対応も求められています。限られた人員でこうした変化に追いつくために、業務のIT化による効率化が避けて通れないテーマになっているのです。
以下の記事では、IT化の次に経理でDX“活用”を進める具体ステップについて詳しく解説していますので参考にしてください。
業務IT化で“何がどれくらい変わる”のか?メリットと注意点は?
業務のIT化は、工数・ミス・差し戻し・紙コストといった「ムダ」を減らしながら、属人化の解消やリモート対応にもつなげやすい取り組みです。一方で、コストの見落とし、権限設計の甘さ、教育不足があると「結局使われない」「逆に混乱する」状態になり得ます。この章では、得られる効果と、失敗を避けるための注意点を要点から整理します。
時間短縮・ミス削減・ペーパーレスなど主なメリット
業務をIT化すると、まず入力や転記の時間を大きく減らすことができます。紙の申請書やエクセル台帳に何度も同じ内容を入力していた作業が、1回の入力で複数の帳票やデータに反映されるようになります。また、金額や日付の桁間違い、集計ミスなど、人が起こしやすいエラーをシステム側でチェックできるため、確認作業の負担も軽くなります。紙で保管していた書類が減ることで、保管スペースや印刷コストの削減も期待できます。
さらに、場所や時間に依存しないクラウド環境に切り替えることで、在宅勤務や拠点間の分散勤務といった柔軟な働き方を取りやすくなります。ノウハウやルールをシステム上に標準化しておけば、人事異動や採用・退職があっても業務品質を維持しやすくなり、人材定着や育成にもプラスに働きます。IPAの「DX白書2023」などでも、DXの成果を上げている企業ほど、人材育成や働き方の柔軟性への投資を重視している傾向が示されています。
参考:日本の中小企業のDX推進についての考察 | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
経理全体のペーパーレス化をどこから始めるべきか、メリットや導入ステップを詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になります。
初期費用と運用コスト(見えない負担)に注意する
IT化は月額費用だけでなく、設定・移行・ルール整備・問い合わせ対応などの運用負担も含めて見積もることが重要です。料金が抑えられていても、定着しなければ二重運用になり、結果的にコストが増えることがあります。導入前に「誰が、どこまで面倒を見るか」を決めておくと失敗しにくくなります。
セキュリティと権限設計(誰が何にアクセスできるか)を先に決める
請求書や従業員情報などを扱う場合は、保存場所、アクセス権限、ログの扱いを最初に設計する必要があります。特に、退職者アカウントの停止や権限棚卸しが不十分だと、情報漏えいや不正のリスクが高まります。導入時点で「権限の原則」と「棚卸し頻度」を決めておくと安全です。
教育と定着(使われ続ける状態)を仕組みにする
ツールを入れても、申請ルールや例外対応が曖昧なままだと、現場は元のやり方に戻りやすくなります。マニュアル整備とあわせて、問い合わせ窓口や周知の方法を決め、移行期間は“二重運用の期限”も明確にしておくと定着しやすいです。運用が回り始めたら、差し戻し理由などのデータを使って改善につなげます。
「ツール先行」で失敗しがちなパターンと防ぎ方
よくある失敗は、「評判が良さそうだから」「価格がキャンペーン中だから」といった理由だけでツールを選んでしまうケースです。目的や対象業務があいまいなまま導入すると、画面は立ち上がっているのに、現場では紙とエクセルの運用が続き、二重の手間が発生してしまいます。防ぐためには、まず「どの業務の、どんな困りごとを減らしたいのか」を言葉にし、その解決に合うかどうかを軸に比較することが大切です。試験的な小規模運用で使い勝手を確かめることも有効です。
IT化の検討では、「自社は大丈夫だろう」と感じていても、実際には同じようなつまずき方をしてしまうケースが少なくありません。ありがちな失敗パターンを事前に知っておくことで、導入の計画づくりやツール選定の段階から対策を打ちやすくなります。以下の表では、経理やバックオフィスの現場で起こりがちな失敗と、その結果、そして防ぐためのポイントを整理しました。自社の状況に当てはまりそうなものがないか、チェックしながら読み進めてみてください。
表2:IT化で発生しやすい失敗パターンと対策一覧
| 失敗パターン | 何が起きるか | 防ぐためのポイント |
|---|---|---|
| 目的があいまいなままツールを選ぶ | 「便利そう」「他社も使っているから」といった理由だけで導入し、解決したい業務課題と機能がかみ合わず、現場で使われないままログインもされなくなる。 | 現状の困りごとと減らしたいムダ(工数・ミス・残業など)を言葉にし、「何のためにIT化するのか」を明確にしてから要件を整理し、ツールを比較・選定する。 |
| 現場の業務フローを整理せずに導入する | 紙とエクセルの運用が残ったままシステムも併用され、同じ情報を二重入力するなど、かえって手間や混乱が増えてしまう。 | 現状の業務フローを図や一覧で書き出し、「どの手順をシステムに任せるか」「紙・エクセルをやめるタイミング」を事前に決めてから導入計画を立てる。 |
| 経営層・関係部門の合意が不十分なまま進める | 経理だけがルール変更を進めても、現場部門が従来のやり方を続けてしまい、申請様式や締切が守られないなど、運用が定着しない。 | 稟議段階で「目的・効果・社内ルールの変更点・各部門の役割」を整理し、経営層と関係部門に共有・合意を取ったうえで、社内周知とフォローの体制を決める。 |
| 操作教育やマニュアル整備を後回しにする | 使い方が分からず問い合わせが殺到し、現場が不安になって「やはりエクセルのほうが早い」と旧来のやり方に戻ってしまう。 | 導入初期に管理者向け・利用者向けの説明会や動画・簡易マニュアルを用意し、「最初に覚えるべき最低限の操作」を明確にして、運用開始から数か月はフォロー期間を設ける。 |
| 例外対応のルールを決めずに運用開始する | イレギュラーな取引や経費が発生するたびに担当者や承認者の判断が分かれ、処理が止まったり「このケースはどうするのか」と質問が繰り返される。 | 金額・取引先・勘定科目などでよくある例外パターンを洗い出し、「誰が、どのルールで判断するか」「どのフローで申請するか」を事前に決めておく。 |
| 費用対効果を確認せず、なんとなく続ける/やめる | 導入後に効果検証が行われず、「楽になった気はするが、投資に見合っているか分からない」といった状態のまま、システムの入れ替えが繰り返される。 | 導入前に業務工数・ミス件数・差し戻し件数・残業時間などの指標と目標値を決め、導入後も定期的に数字を記録して、続けるか改善するかを判断できるようにする。 |
どの業務からIT化を始めるべきか?現状の棚卸しと優先順位の決め方は?
まずは現状業務を棚卸しし、件数・工数・ミス・差し戻しの多さで優先順位を付け、効果が出やすい1〜2業務から小さく始めます。重要なのは「便利そうなツール」を探す前に、「どの業務の、どのムダを減らすか」を言葉にすることです。表を使って、着手対象を具体化していきましょう。
表3:業務IT化セルフチェック表
| 業務項目 | 現在のやり方 | 主な課題 | IT化の優先度 |
|---|---|---|---|
| 経費精算 | 紙の申請書+エクセル台帳 | 入力・転記に時間がかかる/差し戻しが多い/領収書の原本管理が煩雑 | 高 |
| 請求書処理 | 紙の請求書を手入力し、ファイルで保管 | 入力ミス・抜け漏れのリスクが高い/支払期日の管理が属人化している | 高 |
| 支払・振込処理 | ネットバンキングに1件ずつ手入力 | 件数が多いと入力作業が負担/二重支払・金額誤りのリスクがある | 中 |
| 交通費精算 | 紙の精算書+手作業での経路チェック | ルート確認や金額チェックに時間がかかる/定期区間との重複確認が難しい | 中 |
| 勤怠管理 | タイムカードやエクセルシートで管理 | 集計に時間がかかる/打刻漏れ・修正履歴の管理が煩雑 | 中 |
| 稟議・申請フロー | 紙の回覧やメール承認 | 誰のところで止まっているか分からない/承認済みの記録が残りにくい | 中 |
| 取引先マスタ管理 | エクセルでの一覧管理 | 最新情報への更新漏れ/重複登録が発生しやすい/担当者しか中身を把握していない | 低 |
| その他(自社で気になる業務) | 現在のやり方を記入 | 感じている課題を記入 | 高・中・低を記入 |
現状業務を見える化し、IT化の優先順位を決める方法
最初のステップは、今の業務の流れを書き出して、どこに時間と手間がかかっているのかを把握することです。経費精算なら「申請→承認→内容チェック→仕訳→支払」といった手順を並べ、それぞれにかかる時間や、差し戻しの多い工程を洗い出します。そのうえで、残業の原因になっている業務や、担当者しか内容が分からない属人的な作業に印をつけ、IT化の候補として整理します。負荷が大きく効果が見込める業務から優先的に着手すると、成果を実感しやすくなります。
1業務から始めるスモールスタートの進め方(経理業務の例)
いきなりすべての業務を切り替えるのではなく、まずは経費精算や請求書処理など、1つの業務に絞って小さく始める方法が、リスクを抑えやすい進め方です。例えば、経費精算を対象に選び、一部の部署や少人数のチームで先行して新しいツールを使ってみます。その結果をもとに、申請ルールや承認フロー、マニュアルを整え、運用上の課題を改善してから対象範囲を広げていきます。段階を踏んで進めることで、現場の負担や不安を減らしながら定着させることができます。
どの業務からIT化を始めるか迷う場合は、「件数が多く、残業や差し戻しの原因になっているかどうか」という観点で優先順位を付けると整理しやすくなります。特に経理・バックオフィスでは、経費精算や請求書処理など、手作業が集中しやすい業務から着手すると、効果を実感しやすい傾向があります。下記は一例ですが、自社の状況と照らし合わせながら調整してみてください。
表4:経理・バックオフィス業務IT化の優先順位
| 業務項目 | 優先度 | 優先度を高くする理由 |
|---|---|---|
| 経費精算 | 高 | 件数が多く、申請・承認・チェックに時間がかかるため。紙やエクセル運用では差し戻しや紛失リスクも高く、IT化による工数削減とペーパーレスの効果が出やすい。 |
| 請求書処理 | 高 | 支払期日の管理や金額・消費税のチェックなど、ミスが許されない業務であり、入力や照合の自動化により、滞納・誤払のリスクを抑えながら担当者の負荷を軽減できる。 |
| 支払・振込処理 | 中 | 1件ずつ手入力する負担が大きく、金額・口座情報の入力ミスが起きやすいため。請求書データとの連携や振込データの自動作成により、安全性と効率を同時に高められる。 |
| 勤怠管理 | 中 | 給与計算や残業管理の基礎データとなるため、本来は重要度が高いが、まずは経費・請求書のような「すぐに効果が見える業務」から着手し、その後に検討する企業も多い。 |
| 稟議・申請フロー | 中 | 紙の回覧やメールベースでは承認状況が見えにくく、滞留や抜け漏れが起きやすい。ワークフロー化により、承認のスピードと透明性を高め、中長期的には業務全体のボトルネック解消につながる。 |
| 取引先マスタ管理 | 低 | 日々の処理件数が比較的少なく、短期的な工数削減インパクトは限定的。ただし、長期的には請求書・支払業務との連携基盤となるため、他の業務のIT化が進んだ段階で見直したい領域。 |
| その他(自社で気になる業務) | 任意 | 自社特有の業務(在庫管理、契約書管理など)がある場合は、「件数」「ミスの影響度」「担当者の負荷」の3点で評価し、上記と同じ基準で優先度を決める。 |
業務のIT化を成功させる最短ルートは、「目的と指標を決める→対象業務を絞る→小さく試す→運用と教育を整える→効果を見て広げる」の順で進めることです。導入作業そのものよりも、運用ルールと定着(使われ続ける状態)を先に設計できるかが分かれ目になります。下表をチェックリストとして、社内で合意形成しながら進めてください。
表5:業務IT化を失敗しないための5ステップ(最小の進め方)
| ステップ | やること(要点) | 成果物/確認ポイント(例) |
|---|---|---|
| 1 | 目的を言葉にし、比較する指標(KPI)を決める | 「何のムダを減らすか」(工数・ミス・差し戻し等)/導入前の概算値 |
| 2 | 現状業務を棚卸しし、ボトルネックを見える化する | 業務フローの一覧/手戻りが多い工程/属人化ポイント |
| 3 | 対象業務を1〜2個に絞り、要件(必要条件)を整理する | 対象範囲、入力項目、承認経路、例外ルール、必要な権限 |
| 4 | 小規模に試し、運用ルールと教育をセットで整える | マニュアル/申請ルール/問い合わせ窓口/移行期間の方針 |
| 5 | 導入前後で効果を比較し、改善してから対象を広げる | 工数・ミス・差し戻しの改善幅/定着率(利用状況)/次の対象 |
SaaS・BPO・経理AIエージェントなどの選び方の考え方
業務のIT化といっても、自社でクラウドサービスを使いこなすパターンもあれば、専門事業者に一部の処理を任せるパターンもあります。エクセル中心の運用を見直したい場合は、まず経費精算や請求書処理に特化したSaaS(Software as a Service)を検討すると、導入のハードルが比較的低くなります。社内の人手が足りない場合には、入力作業などをBPOで外部に任せる選択肢もあります。さらに、経理AIエージェントのように、入力やチェックを自動で代行する仕組みも登場しています。自社の課題と体制に合う組み合わせを見極めることが重要です。
経理部門に絞ってIT化のメリットや注意点を整理したい場合は、以下の記事も併せてご覧ください。
中小企業はどのように業務IT化を進めているのか?現場目線の実践事例は?
中小企業の業務IT化は、経費精算や請求書処理などの定型業務から始め、工数・差し戻し・残業といった負荷を下げながら定着させる進め方が現実的です。重要なのは「何をデジタルに置き換えたか」だけでなく、運用ルールと教育をどう整えたか、そして効果をどの指標で確認したかです。ここでは、取り組みの要点がつかめるように、各事例の学びを3点に整理します。
紙とエクセル中心の経理業務をデジタル化した事例
商社・卸売業の広島ガスプロパン株式会社では、小口現金精算や現金管理を紙とエクセルで運用しており、月あたり約120時間(年間約1,440時間)もの工数がかかっていました。この課題に対して、「TOKIUM経費精算」と「TOKIUMアシスタント」を組み合わせて導入し、小口精算・小口締め・伝票入力・支払処理までをクラウドとBPOに移管しました。その結果、同じ業務をほぼペーパーレスで運用しながら、月約120時間分の手作業を削減できています。
Beforeは、担当者が小口伝票を紙で回収し、エクセルへの転記や仕訳入力、現金残高の突き合わせを手作業で行っていたため、月末月初の残業が常態化していました。Afterでは、申請〜承認〜仕訳データ作成までをシステム上で一気通貫にし、日々自動でデータが蓄積されることで、インボイス制度対応や経理DXの企画など、より付加価値の高い業務に時間を振り向けられる体制へとシフトしています。
この事例から再現性が高いポイントを、学びとして3点に整理します。
- 学び1:対象業務を「小口精算・伝票入力」など具体の工程まで分解すると、置き換える範囲が明確になります。
- 学び2:申請〜承認〜データ作成までの流れを一気通貫にすると、転記と照合の手作業が減りやすくなります。
- 学び3:削減できた時間を、法改正対応や改善企画などの付加価値業務に振り向ける設計にすると、導入の納得感が高まります。
製造・サービス業で現場業務をIT化した事例
映像・音楽コンテンツの企画制作・販売を行う製造業の株式会社バップでは、月500件以上の売上報告書が紙で届き、売上計上業務が月次決算のボトルネックになっていました。Beforeは、第9営業日が締日であるにもかかわらず、売上計上が第7〜8営業日までかかり、決算締め作業がギリギリになって土曜出勤が発生する状況だったといいます。
そこで「TOKIUMアシスタント」と「TOKIUM経費精算」を導入し、売上計上に必要な報告書の確認・データ化・計上処理の一部をBPO化。業務プロセスの標準化とマニュアル化を進めた結果、売上計上業務の完了を2営業日早め、第6営業日には締められるようになり、土曜出勤も原則不要になりました。
紙の報告書処理や契約書検索といった「現場から上がるデータの整理」に追われていた状態から、Afterでは、削減した時間を使って連結決算や数値分析などのコア業務に着手できるようになっています。製造・コンテンツビジネスのように、現場発の紙情報が多い業種でも、デジタル化+BPOの組み合わせで決算リードタイムが短縮できる好例と言えるでしょう。
この事例から再現性が高いポイントを、学びとして3点に整理します。
- 学び1:現場で発生する記録・点検・報告などの定型作業は、「入力→確認→共有」の流れを整えるだけでも手戻りが減りやすいです。
- 学び2:現場で例外が多い業務ほど、最初に「例外の種類」を棚卸しし、運用ルール(誰が判断するか)を決めておくと定着しやすくなります。
- 学び3:効果は“現場が実感できる指標”(記録時間、報告遅延、差し戻し、二重入力の回数など)で測ると、横展開の合意形成が進みやすくなります。
補助金や自治体支援を活用してコストを抑えた事例
自治体の柏市役所では、学校給食費の公会計化に伴い、市内52校分・月600件以上の食材費の請求書を、わずか2名で処理しなければならない状況に直面していました。従来どおり紙中心の運用を続けた場合、請求書処理だけで月間100時間以上の工数がかかると試算されていました。
そこで、国の制度変更(学校給食費の公会計化)を契機に、請求書処理のプロセスを見直し、「TOKIUMインボイス」を導入。AI-OCRと専任オペレーターを組み合わせたデータ化サービスを活用しつつ、承認フローをクラウド上に再設計しました。その結果、月間約100時間かかると想定していた請求書処理が約2時間で完了するようになり、年間で1,000時間以上の業務時間削減を達成しています。
Beforeは、学校ごとに紙の請求書を集約し、職員が手作業で金額や品目をチェックしたうえで会計システムに転記しており、人員増強や残業前提の運用が避けられない状況でした。Afterでは、既存の自治体予算の範囲内でクラウドサービスを組み合わせることで、仕入れ先や学校側に追加負担をかけずにDXを実現しています。中小企業がIT導入補助金や自治体のDX支援策を活用して、初期費用を抑えつつ業務IT化を進める際にも参考になるパターンです。
この事例から再現性が高いポイントを、学びとして3点に整理します。
- 学び1:制度変更や業務量増加など“外部要因”をきっかけにすると、見直しの優先順位が付けやすくなります。
- 学び2:入力・チェックの工程を減らすには、データ化の仕組みと承認フローをセットで再設計することが重要です。
- 学び3:「月○時間→○時間」のように効果を時間で示すと、継続投資や横展開の判断がしやすくなります。
IT化の先に何があるのか?業務自動化・AI活用・人材育成へのつなげ方は?
業務のIT化が進むと、データが自動でたまるため、次の段階としてワークフロー自動化や入力・チェック支援などに取り組みやすくなります。IT化は省力化で終わりではなく、ボトルネックの可視化や改善サイクルを回す土台になります。IT化を“続けられる改善”につなげる視点を整理します。
IT化から業務自動化・AI活用へつなげるステップ
業務のIT化が進むと、請求書や経費データがシステム上に蓄積され、次の段階として業務自動化やAI活用への道が開けてきます。まずは、定期的に発生する仕訳や振込の処理を自動実行したり、あらかじめ設定した条件で承認フローを自動で回したりすることで、担当者の手作業を減らします。そのうえで、経理AIエージェントのような仕組みを用いて、入力内容のチェックやエラーの検知を任せると、より高度な判断業務に時間を割けるようになります。このように段階的に広げていくことが現実的です。
IT化や自動化の取り組みは、「なんとなく楽になった気がする」という感覚だけで判断してしまうと、次の投資判断や改善のヒントが得られません。導入前後で同じ指標を追いかけることで、「この業務に対する投資を続けるべきか」「他の業務にも広げるべきか」を客観的に検討しやすくなります。特に経理やバックオフィスでは、工数やミス件数、残業時間など、日々の負担を表す数字が変化しやすい指標です。以下の表を参考に、自社で追いかける指標を整理してみてください。
表4:「導入前後で比較したい指標」の簡易KPI
| 指標 | 導入前の状況の例 | 導入後に確認したいポイント |
|---|---|---|
| 業務工数(時間) | 経費精算処理に月○時間、請求書処理に月○時間かかっているなど、担当者ごとの概算時間を把握できていない。 | 同じ処理件数に対して、月あたりの作業時間がどれだけ減ったか(○時間→○時間)を確認し、削減できた時間を別の業務に振り向けられているかをみる。 |
| ミス件数 | 金額・勘定科目・税区分などの入力ミスが、月○件発生しており、修正対応に時間を取られている。 | 入力・計算ミスの件数が何件減ったかを確認し、システムの自動チェックやマスタ管理による効果が出ているかを把握する。 |
| 差し戻し件数 | 経費精算や申請の内容不備により、月○件の差し戻しが発生している。 | 申請フォームの見直しや入力ガイドの整備により、差し戻し件数がどれだけ減ったかを確認し、申請者・承認者双方の負荷軽減につながっているかをみる。 |
| 残業時間 | 月末月初や決算期に、経理担当者の残業が月○時間発生している。 | 繁忙期の残業時間がどれだけ削減されたか、特定の担当者に負荷が偏っていないかを確認し、働き方の改善につながっているかをみる。 |
| 紙の使用量(印刷枚数・保管スペース) | 申請書・請求書・添付資料の印刷に、毎月○枚・○円のコストがかかり、保管スペースも不足している。 | 印刷枚数や保管スペースがどれだけ減ったかを確認し、ペーパーレス化の効果が見える化できているかをみる。 |
| 担当者の満足度 | 「手作業が多くてストレスが大きい」「ムダだと感じる作業が多い」などの声が出ているが、定期的に状況を聞き取れていない。 | 導入前後で担当者への簡易アンケートや1on1を行い、「業務のしやすさ」「ストレスの度合い」などの主観評価が改善しているかを確認する。 |
IT化が働き方・人材育成・評価指標にもたらす変化
業務のIT化が進むと、単に作業時間が減るだけでなく、働き方や評価の基準にも変化が生まれます。紙やエクセルの処理に追われていた時間を、業務の改善や分析、社内コミュニケーションに使えるようになり、プレイングマネージャーの負担軽減にもつながります。また、マニュアルや手順が標準化されることで、新人教育がしやすくなり、属人化の解消にも効果があります。評価の場面でも、処理件数や残業時間だけでなく、改善提案や業務設計の貢献度を見える化しやすくなる点がポイントです。
これからIT化を進める企業が押さえておきたい行動チェックリスト
これからIT化に取り組む企業は、いくつかのポイントを押さえておくとスムーズです。まず、経営層と現場の双方で「なぜIT化が必要なのか」を共有し、目的を言葉にしておきます。次に、現状業務の棚卸しを行い、優先して改善したい業務を決めます。そのうえで、1業務からのスモールスタートでツールを試し、運用ルールやマニュアルを整えながら範囲を広げていきます。導入前後の工数やミス件数を継続的に記録し、「続ける価値があるか」を定期的に振り返ることも大切です。
「業務のIT化をどのように“デジタル変革(DX)”につなげていくか」を、設計と実装の順序まで含めて整理したい場合は、以下の記事も併せてご確認ください。
まとめ:業務のIT化を「続けられる形」で進める
業務のIT化は、「どの業務を、なぜデジタル化するのか」を整理し、定型業務から小さく始めて定着させることが重要です。導入前後で工数・ミス・差し戻しなどを比較し、効果が確認できた範囲から広げるとムリが出にくくなります。自社の体制に合わせて、運用と改善が回る形を作っていきましょう。本記事で紹介した考え方を土台に、自社に合うツールや支援サービスを組み合わせながら、ムリなく続けられる業務IT化を進めていきましょう。






