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インボイス制度が開始されてからは、免税事業者からの仕入では適格請求書(インボイス)を保存できないため、原則として仕入税額控除を受けられなくなります(一定割合を控除できる経過措置があります。詳しくは後述)。そのため、免税事業者との取引を見直す動きが多くの企業で進んでいます。
しかし、免税事業者に対して取引の再交渉などを行う際には「独占禁止法」や、2026年1月に下請法から名称が変わった「取適法(中小受託取引適正化法)」に違反するリスクがあります。また、2026年10月1日には経過措置の控除割合が80%から70%に引き下げられるため、取引条件の再交渉が改めて活発になることが見込まれます。
→ダウンロード:請求書電子化で「ミスなく」月次決算を実現できる理由とは?3つのメリットをご紹介
本記事では、インボイス制度に関連する独占禁止法と取適法について解説し、違反になるケースと、違反のおそれがあるケースを具体的に紹介します。また記事後半では、2026年10月の経過措置縮小で価格交渉がどう変わるか、インボイス制度への対応で企業が準備すべきことについても解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
インボイス制度と取適法(旧・下請法)・独占禁止法の関係性
まず、インボイス制度において取適法と独占禁止法がどのように関係するのかを整理しておきましょう。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、2023年10月1日から開始された「適格請求書等保存方式」のことです。インボイス制度下においては、仕入税額控除の要件として、原則、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要になります。
適格請求書(インボイス)とは、取引年月日、適格請求書発行事業者の登録番号、消費税額などの一定の事項を満たした請求書等(納品書、領収書、レシート、その他これらに類する書類を含む)のことです。
適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者として登録を受けた課税事業者に限られます。すなわち、適格請求書を発行できない免税事業者との取引では、原則、仕入税額控除ができなくなります。(※1)(※2)(※3)
※1 経過措置あり。免税事業者等からの課税仕入れについては、一定割合を仕入税額控除できる経過措置が設けられています。当初は「6年間・3段階」でしたが、令和8年度税制改正で2年延長され、計8年間・4段階になりました(2026年9月30日までは80%/2026年10月1日〜2028年9月30日は70%/2028年10月1日〜2030年9月30日は50%/2030年10月1日〜2031年9月30日は30%/2031年10月1日以降は原則として控除不可)。詳しくは記事後半で解説します。 出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問113(最終確認日:2026年8月6日)
※2 簡易課税制度を選択している事業者を除く
※3 少額特例あり。基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、2029年(令和11年)9月30日までに行う税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで全額仕入税額控除ができます。相手方が免税事業者であっても同様です。 出典:国税庁「少額特例の概要」(最終確認日:2026年8月6日)
インボイス制度の詳細については、以下の記事で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
免税事業者とは
免税事業者とは、消費税の納税義務が免除される事業者のことです。基本的な要件は、基準期間(個人の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下であること。ただしこれを満たしても、次のいずれかに当てはまる場合は納税義務が免除されません。
- 特定期間(前年の上半期など)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超える場合
- 新設法人で事業年度開始日の資本金が1,000万円以上である場合、または特定新規設立法人に該当する場合
- 適格請求書発行事業者の登録を受けている場合
- 消費税課税事業者選択届出書を提出している場合
出典:国税庁「No.6501 納税義務の免除」(最終確認日:2026年8月6日)
免税事業者は消費税の納税義務がないため、受け取った消費税相当額を納付する必要がありません。ただし、免税事業者も自らの仕入れや諸経費については消費税を負担しているため、受け取った消費税相当額がそのまま利益になるわけではありません。この差額は一般に「益税」と呼ばれ、消費税制度の課題として議論されてきました。
なお、インボイス制度そのものの趣旨について、国税庁は「複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式」と説明しています。複数税率の下で、取引当事者間の適用税率・税額の認識を一致させることが目的です。
免税事業者から仕入を行うとどうなる?
前述の通り、免税事業者から仕入を行う課税事業者は、仕入税額控除をすることが出来なくなるため税負担が増加します。そのため、免税事業者である仕入先に対しては、取引価格を含めた取引条件の見直しを求める動きが出てくるでしょう。
具体的には、課税事業者になってもらい適格請求書を発行するよう要請すること、あるいは仕入税額控除を受けられないことを考慮して取引価格の引き下げ交渉を行うこと等が考えられます。また、場合によっては、取引の打ち切りを検討する必要もあるでしょう。
しかし要請や交渉の進め方によっては、取適法に違反したり、独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」に該当してしまう可能性もあります。これが、インボイス制度への対応において、取適法と独占禁止法に注意が必要な理由です。
取適法(旧・下請法)とは
取適法とは、受託取引の公正化を図り、中小受託事業者の利益を保護することを目的として制定された法律です(第1条)。正式名称を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」と言い、「中小受託取引適正化法」「取適法(とりてきほう)」と略されます。
2026年1月から「下請法」は「取適法」に変わりました
2025年(令和7年)5月16日に「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和7年法律第41号)が成立し、同月23日に公布されました。この改正法が2026年(令和8年)1月1日に施行されています。
これにより、法律の題名は「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」へ変更されました。通称も「下請法」から「取適法」になっています。
2026年1月1日以降に行う製造委託等については取適法が適用されます(2025年12月31日以前の取引には従前の下請法が適用されます)。改正では法律名だけでなく、取引当事者の呼び方も変わりました。
| 改正前(下請法) | 改正後(取適法) |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
本記事でも以降は取適法の用語で解説します。なお「製造委託等代金」は、読みやすさのため単に「代金」と表記します。
名称以外の主な改正点
- 適用基準に従業員基準(300人・100人)を追加
- 対象取引に特定運送委託(製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託)を追加
- 「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止を新設
- 手形払等の禁止
- 事業所管省庁に指導・助言の権限を付与
出典:公正取引委員会「取適法の概要」(最終確認日:2026年8月6日)
改正内容の全体像については、以下の記事で詳しくまとめています。
受託取引における代金の支払遅延などの行為は、「優越的地位の濫用」として、独占禁止法で規制されています。そこで、規制対象となる行為を具体的に列挙し、手続を簡略化した取適法が、独占禁止法を補完する法律として設けられています。
対象取引
取適法の対象となる取引は、「委託事業者」と「中小受託事業者」の間でなされる業務委託取引のことです。厳密には、①取引の内容と、②資本金基準または従業員基準の組み合わせで以下のように定義されています(第2条第1項〜第9項)。2026年1月の改正で、対象取引に「特定運送委託」(製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託)が追加され、従来の資本金基準に加えて従業員基準(300人・100人)が新設されました。
| 対象取引 | 委託事業者 | 中小受託事業者 |
| ・製造委託 ・修理委託 ・特定運送委託 ・情報成果物作成委託(プログラム作成) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理) | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
| 資本金1,000万円超3億円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) | |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下(個人を含む) | |
| ・情報成果物作成委託(プログラム作成を除く) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く) | 資本金5,000万円超 | 資本金5,000万円以下(個人を含む) |
| 資本金1,000万円超5,000万円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) | |
| 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下(個人を含む) |
なお、従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。資本金1,000万円以下でも、常時使用する従業員が300人を超える事業者は、新たに委託事業者として規制対象になる点に注意が必要です(プログラム作成を除く情報成果物作成委託・役務提供委託の場合は100人)。
委託事業者の義務・禁止事項
取適法では中小受託事業者の利益を守るため、委託事業者に対して以下のような4つの義務と11の禁止行為を定めています。
義務
| # | 義務 | 根拠条文 | 内容 |
| 1 | 支払期日を定める義務 | 第3条 | 検査の有無を問わず、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める |
| 2 | 発注内容等を明示する義務 | 第4条 | 発注に当たって、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法等を、書面または電子メールなどの電磁的方法により明示する |
| 3 | 遅延利息を支払う義務 | 第6条 | 支払遅延や減額を行った場合、遅延日数や減じた額に応じて年率14.6%の遅延利息を支払う |
| 4 | 書類等を作成・保存する義務 | 第7条 | 取引が完了した場合、給付内容・代金の額など取引の記録を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存する |
2026年1月の改正により、委託事業者は、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、発注内容を電子メール等の電磁的方法で明示できるようになりました。ただし中小受託事業者から書面の交付を求められた場合は、遅滞なく書面を交付する必要があります。
禁止事項
| # | 禁止行為 | 根拠条文 | 内容 |
| 1 | 受領拒否 | 第5条第1項第1号 | 中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること |
| 2 | 代金の支払遅延 | 第5条第1項第2号 | 支払期日までに代金を支払わないこと。2026年1月の改正で、支払手段として手形払等を用いることも禁止 |
| 3 | 代金の減額 | 第5条第1項第3号 | 中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額すること |
| 4 | 返品 | 第5条第1項第4号 | 中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること |
| 5 | 買いたたき | 第5条第1項第5号 | 発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること |
| 6 | 購入・利用強制 | 第5条第1項第6号 | 正当な理由がないのに、指定する物品や役務を強制して購入、利用させること |
| 7 | 報復措置 | 第5条第1項第7号 | 公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁に違反行為を知らせたことを理由に、取引数量の削減や取引停止など不利益な取扱いをすること |
| 8 | 有償支給原材料等の対価の早期決済 | 第5条第2項第1号 | 有償支給した原材料等の対価を、代金の支払日より早く支払わせること |
| 9 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 第5条第2項第2号 | 自己のために、中小受託事業者に金銭や役務等を不当に提供させること |
| 10 | 不当な給付内容の変更・やり直し | 第5条第2項第3号 | 中小受託事業者に責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、無償でやり直しや追加作業をさせること |
| 11 | 協議に応じない一方的な代金決定(2026年1月新設) | 第5条第2項第4号 | 中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること |
インボイス制度への対応で特に気をつけたいのは、3. 代金の減額、5. 買いたたき、そして2026年1月に新設された 11. 協議に応じない一方的な代金決定 の3つです。とくに11は、価格転嫁の協議そのものを避ける対応を正面から禁止するもので、経過措置の縮小に伴う価格交渉で問題になりやすい項目です。具体的なケースについては後述します。
取適法違反となった場合
取適法違反となった場合、公正取引委員会から違反行為を取りやめるよう勧告を受け(第10条)、企業名・違反事実の概要などが公表されます。2026年1月の改正により、事業所管省庁からも指導・助言を受けることがあります(第8条)。
また、発注内容等の明示義務違反や書類等の作成・保存義務違反、報告徴収に対する報告拒否・虚偽報告、立入検査の拒否などがあった場合には、50万円以下の罰金が科されます(第14条)。罰則は両罰規定であり、行為者個人だけでなく法人も罰せられます。
独占禁止法とは
独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的に制定された法律です。正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と言います。
独占禁止法では、取引上優越した地位にある事業者が取引の相手方に対して不当な不利益を課すことを「優越的地位の濫用」として規制しています。ここでいう「優越した地位」とは、相手方が自社との取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障をきたすため、自社の要請を受け入れざるを得ない関係にあることを指します。
問題となるかの2つの判断軸
インボイス制度を契機とした免税事業者との取引見直しの際、独占禁止法で問題となるかの判断軸としては、大きく以下の2つがあります。
- ①取引上優越した地位にあるか — 取引先が自社との取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障をきたすため、自社の要請を受け入れざるを得ない関係にあるか
- ②不当に不利益を与えていないか — 仕入税額控除が制限される分について、取引先の仕入れや諸経費に係る消費税負担も考慮し、双方納得の上で条件を設定したか。一方的な通告や形式的な再交渉にとどまっていないか
この2つがそろうと「優越的地位の濫用」として問題になります。 出典:公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q7(令和8年1月30日改正)(最終確認日:2026年8月6日)
独占禁止法に違反した場合
独占禁止法に違反した場合、公正取引委員会による「排除措置命令」や「課徴金納付命令」を受ける可能性があります。取引の相手方から損害賠償を請求されることもあるでしょう。さらに、違反行為が反復して行われ、排除措置命令に従わないといった場合には、刑事告発に至ることもあります。
取適法の違反になるケース
インボイス制度を踏まえて、免税事業者との取引を見直そうと考える企業も多いと思います。インボイス制度に関連して取引の再交渉などを行う場合、取適法や独占禁止法の違反に「なる」ケースと違反の「おそれがある」ケースがあります。まずは、違反に「なる」ケースについて紹介します。
取適法の適用対象となる取引で、次のようなケースは取適法の違反になります。取引完了後に仕入先が免税事業者であることが請求段階で判明した、というのを理由に、発注時に取り決めた代金の額から消費税相当額の一部又は全部を差し引いて支払わない場合です。

※図は中小企業庁が下請法当時に公表した資料です。2026年1月以降は、図中の「下請法第4条第1項第3号(下請代金の減額)」は取適法第5条第1項第3号(代金の減額)、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」に読み替えてください。
仕入先が免税事業者であることは「仕入先の責めに帰すべき理由」には当たりません。したがってこの行為は、取適法第5条第1項第3号「代金の減額」に該当します(2025年12月31日以前の取引については、下請事業者に対する下請法第4条第1項第3号「下請代金の減額」に該当します)。
なお、取適法の適用対象外の取引であっても、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となる場合があります。 出典:公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q7 1 取引対価の引下げ(令和8年1月30日改正)(最終確認日:2026年8月6日)
取適法・独占禁止法違反のおそれがあるケース
次は、免税事業者との交渉の仕方や内容によっては、取適法や独占禁止法の違反になるおそれがあるケースを3つご紹介します。具体例を詳しくご確認ください。 出典:公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(令和8年1月30日改正)(最終確認日:2026年8月6日)
1. 課税事業者になるよう求める要請等
取引先である免税事業者に対して、課税事業者になるよう要請することがあります。結論、要請を行うこと自体は問題ないですが、買い手の働きかけによって、取引先が課税事業者にならざるを得ないような場合には、独占禁止法上問題になるおそれがあります。
「課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる」「引き下げにも応じなければ取引を打ち切る」などと一方的に通告することは避けるようにしましょう。

買い手からの要請に応じて取引先が免税事業者から課税事業者になること(課税転換)があります。この場合に、新たに納税が必要となる消費税分について明示的な協議を行わずに価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用または取適法上の買いたたきとして問題となるおそれがあります。
また、免税事業者である中小受託事業者と消費税相当額の取引価格引き下げを交渉する際は、次のような場合に注意が必要です。独占禁止法の「優越的地位の濫用」や、取適法の「3. 代金の減額」(第5条第1項第3号)・「5. 買いたたき」(第5条第1項第5号)に該当するおそれがあります。
- 再交渉が形式的なものにすぎず、買い手側の都合のみで著しく低い価格を設定した場合
- 免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格を設定した場合
- 発注時に取り決めた代金の額を、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに発注後に減額した場合
仕入税額控除が制限される分について、自社(買い手側)の都合だけでなく、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担も考慮する。そのうえで双方納得の上で取引価格を設定したのであれば、結果的に価格が引き下げられても独占禁止法上問題となるものではありません。
ただし、協議の形をとっていれば何をしてもよいわけではありません。再交渉が形式的なものにすぎない場合や、買い手の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格とした場合は、優越的地位の濫用(独占禁止法)や買いたたき(取適法第5条第1項第5号)として問題となります。
なお、取引先から価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じない、必要な説明を行わない。こうした対応は、2026年1月に新設された「11. 協議に応じない一方的な代金決定」(第5条第2項第4号)にも該当し得ます。
「協議した結果、引き下げになった」ことと「協議しないまま引き下げた/据え置いた」ことは、法的な評価がまったく異なる点を押さえておきましょう。
2. 課税転換を求めた上で価格交渉に応じない
委託事業者が、継続的に取引している中小受託事業者に課税事業者への転換を求めたとします。中小受託事業者がこれに応じて課税転換したにもかかわらず、その後の価格交渉に応じず一方的に単価を据え置いた場合も、取適法違反となるおそれがあります。

このケースは、取適法第5条第1項第5号「買いたたき」として問題になるおそれがあります。さらに、価格協議の求めそのものに応じていない場合は、第5条第2項第4号「協議に応じない一方的な代金決定」にも該当し得ます。取引先が課税転換を行った際には、取引先との価格交渉に真摯に対応し、相手の税負担を考慮した上で再協議を行う必要があります。
3. 免税事業者との取引の停止
免税事業者との取引が多い課税事業者は、場合によっては、取引を停止するという判断が必要になると思います。取引を継続するか否かは各事業者の判断に委ねられており、取引を停止すること自体は問題になりません。
しかし、取引を継続することと引き換えに、取引先である免税事業者に対して不当な条件を一方的に提示し、その結果として取引の停止に至った場合などは、独占禁止法及び取適法違反になるおそれがあります。
一方で、双方が納得できる条件を探して真摯に再協議を行ったものの合意に至らず、その結果として取引を終了する場合は、直ちに違法となるものではありません。
ただし、提示した条件そのものが著しく低い水準であった場合は別です。また、取引先が公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁に相談したことを理由に取引を打ち切った場合は、取適法第5条第1項第7号「報復措置」として問題となります。
3つのケース全てに言えることですが、法律の論点としては「公正な手続きを経て取り決めたのか」「優越的地位を濫用して不当な条件を提示していないか」がポイントになります。取引先との協議過程については、後日当局から調査が入った場合に説明できるように記録しておくことも重要でしょう。次の章では、2026年10月の経過措置縮小によって価格交渉のリスクがどう変わるかを解説します。
2026年10月の経過措置縮小で価格交渉が再燃する
免税事業者との取引をめぐる価格交渉は、2023年10月のインボイス制度開始時に一度ピークを迎えました。しかし2026年10月1日には、経過措置の控除割合が80%から70%に引き下げられます。買い手(課税事業者)の実質的な負担が増えるため、取引条件の再交渉が改めて持ち上がりやすいタイミングです。
経過措置は「6年間・3段階」から「計8年間・4段階」に変わった
免税事業者等からの課税仕入れについては、適格請求書がなくても仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。当初は2023年10月から6年間・3段階の予定でしたが、令和8年度税制改正で2年延長され、計8年間・4段階に見直されました。
| 期間 | 控除できる割合 |
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 控除不可(原則) |

●インボイス制度の経過措置に関する記事はこちら
経過措置には金額の上限もある
この経過措置には上限額が設けられており、一の免税事業者等からの課税仕入れの額の合計額が、その年又はその事業年度で一定額を超える場合、その超えた部分には適用できません。上限額は課税期間の開始日で決まります。
| 課税期間 | 上限額 |
| 2024年(令和6年)10月1日〜2026年(令和8年)9月30日までの間に開始する課税期間 | 税込10億円 |
| 2026年(令和8年)10月1日以後に開始する課税期間 | 税込1億円 |
2024年(令和6年)10月1日より前に開始した課税期間には、この上限はありませんでした。なお、控除割合の切替は2026年10月1日という日付を基準に行われるのに対し、上限額は課税期間の開始日が基準です。たとえば3月決算の法人であれば、70%への切替は2026年10月1日の課税仕入れから、1億円の上限は2027年4月開始の事業年度から適用されます。
控除できない金額は1.5倍になる
免税事業者から税込110万円(消費税相当額10万円)を仕入れた場合で比べてみます。
| 時期 | 控除できる額 | 控除できない額(買い手の負担増) |
| 2026年9月30日まで(80%) | 8万円 | 2万円 |
| 2026年10月1日以降(70%) | 7万円 | 3万円 |
1件あたりでは1万円の差ですが、取引量が多いほど影響は大きくなります。この差が「もう一度、価格の見直しを打診したい」という判断につながりやすくなります。なお、前述の少額特例(税込1万円未満)の対象となる仕入れは、2029年9月30日までは全額控除できるため、この影響を受けません。
再交渉でやってはいけない4つのこと
2026年10月の切替を理由に取引条件を見直すこと自体は問題ありません。問題になるのは進め方です。これまで解説してきた内容を踏まえると、とくに次の4つが独占禁止法・取適法上のリスクになります。
| やってはいけないこと | 問題となる条文 |
| 「控除が70%になるので、その分単価を下げます」と一方的に通告し、応じなければ取引を打ち切ると示唆する | 独占禁止法(優越的地位の濫用) |
| 取引先から価格協議を求められたのに応じない、根拠の説明もしない | 取適法第5条第2項第4号(協議に応じない一方的な代金決定) |
| 協議をしないまま、控除できない分をそのまま単価から差し引く | 取適法第5条第1項第3号(代金の減額) |
| 課税転換後も協議をしないまま単価を据え置く | 取適法第5条第1項第5号(買いたたき)・第5条第2項第4号(協議に応じない一方的な代金決定) |
公正取引委員会のQ&Aでも、双方が納得の上で取引価格を設定したのであれば、結果的に価格が引き下げられたとしても独占禁止法上問題とはならないとされています。「協議したかどうか」「説明したかどうか」が分かれ目です。
2026年10月に向けて買い手側がやっておくこと
| タイミング | やること |
| 2026年8〜9月 | 免税事業者との継続取引を洗い出し、10月以降の負担増(控除できない額)を金額で試算する |
| 2026年8〜9月 | 価格見直しを打診する取引先を決め、協議の場を設定する(一方的な通告文の発出はしない) |
| 協議時 | 負担増の根拠(控除割合の変更と試算額)を示し、相手の仕入れにかかる消費税負担も踏まえて着地点を探る |
| 協議後すみやかに | 協議の経緯・提示した根拠・合意内容を書面やメールで記録し、後日の調査に説明できる状態で保存する |
| 合意前 | 合意に至っていない取引先については、現行単価のまま発注を継続する。合意前に一方的に単価を変えたり、遡って引き下げたりすることは「代金の減額」に当たるおそれがあるため行わない |
| 2026年10月〜 | 帳簿に記載する「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」の表示を、控除割合の変更に合わせて見直す(「80%控除対象」と記載している場合は「70%控除対象」等へ。記号・番号で表示している場合はその凡例を更新する) |
業種別の実務については、以下の記事もあわせてご覧ください。
インボイス制度への対応で準備すべきこと
インボイス制度に対応するには、「仕入先が適格請求書発行事業者かどうか」「受領したインボイスが記載事項を満たしているかどうか」の確認が必要になります。そのため、インボイス制度への対応を機に、インボイス制度に対応した請求書受領サービスの導入を進める企業が増えています。紙の請求書を電子化しクラウド上で一元管理でき、また請求書の各項目が自動でチェックされるようなものであれば、インボイス制度に伴う業務負担を大幅に軽減できるでしょう。
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TOKIUMインボイスは、電子帳簿保存法に対応したシステムの証である「JIIMA認証(電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証)」を取得。タイムスタンプ付与を含め、電子帳簿保存法に対応しています。
費用は、初期費用と、基本利用料(月あたり1万円〜)+請求書の件数に基づく従量制で構成されます。また、利用できるアカウント数が無制限のため、利用部門や承認者が多い企業でも、ユーザー数を理由とした追加料金はかかりません。
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まとめ
インボイス制度対応において取適法・独占禁止法の違反となるケースについて解説してきました。免税事業者からの仕入がある課税事業者は、その仕入先に対し課税事業者になって適格請求書発行事業者の登録を受けるよう要請したり、場合によっては価格の引き下げや取引停止などの協議を行う必要があります。
その際には、今回説明した取適法・独占禁止法違反のケースに該当しないよう注意しましょう。とくに2026年10月1日の控除割合の引き下げ(80%→70%)を機に価格交渉を行う場合は、協議の場を設けたうえで根拠を説明し、その経緯を記録しておくことが重要です。
一方インボイス制度に対応する上で、取引先免税事業者への課税転換要請、価格引き下げ交渉、取引停止などの決定を行うこと自体は問題にはなりません。法律に違反しないためにも、取引先と対等な立場で真摯に協議を行うことが大切です。
また、インボイス制度における適格請求書の処理業務を省力化したい場合には、TOKIUMインボイスをはじめとする請求書受領サービスを一度検討してみましょう。
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