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企業経営において、「予算」は避けて通れない重要な要素です。企業が利益を上げるためには、適切な予算管理が欠かせません。しかし、予算管理や予算編成といった用語を耳にしたことがあっても、適切に実施できるのか不安な人もいるのではないでしょうか。
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この記事では、予算とは何かを基礎から丁寧に解説すると共に、予算計画の目的や管理方法、具体的な編成の手順や注意点までわかりやすく紹介します。予算の意味と役割を正しく理解し、予算設定のコツを掴んで日々の経理業務にお役立て下さい。
予算とは?
企業における予算とは、売上目標や利益目標を指します。予算を立てることで、目標が数値化され、達成度の計測や分析がしやすくなります。
予算は、一般的に「売上予算」「原価予算」「経費予算」「利益予算」の4種類に分けられます。各予算について、次より詳しく解説します。
利益予算
利益予算とは、最終的に達成すべき利益の目標のことです。具体的には、売上から原価と経費を差し引いた数値を指します。売上を増やすだけでなく、原価や経費の削減により利益率がアップすれば、利益予算を高めることが可能です。
そのためには、売上予算、原価予算、経費予算における管理を通して問題を究明し、改善策を洗い出して実践する必要があります。
売上予算
売上予算は、売上の目標となる数値で、過去の売上実績をベースにプラスアルファとなる数値を打ち立てます。利益予算を達成するための指標としても重要であり、売上予算を細かくチェックしながら進捗管理を行う必要があります。
ただ、市場の動向や為替変動など、外的要因の影響を受けやすいため、定期的な見直しによる調整も重要です。
原価予算
原価予算とは、商品仕入または原材料費などから作成するもので、前述の利益予算や売上予算に基づいて算出します。原価予算を適切に見積もることで、利益予算の達成に貢献できます。
売上に合わせて仕入れや製造量も変動するため、売上予算と連動させて定期的な見直しや調整が必要です。
経費予算
経費予算は、企業活動の継続のために必要な経費の見積もりです。主な費用には、販売費や一般管理費、オフィスの賃料、人件費などがあります。市場など外部環境の影響が少なく、予算と実績の比較や管理がしやすい点が特徴です。
また、経費は利益や売上に間接的に関係する要素であり、中長期的な視点を持って計画することが重要です。
予算計画の目的
予算計画を立てることで、目標達成に必要な計画やアクションが明確になります。例えば、今月の売上を達成するために、何をする必要があるか明確化できます。また、予算進捗を定期的にチェックすることで、目標に届かなかった原因を検証しやすくなり、スピーディな軌道修正が可能です。
さらに、組織全体として目指すべき目標が明確になり、社員のモチベーションアップも期待できます。投資家などのステークホルダーに対して、中長期的な予算計画を明示できる点もメリットです。
予算管理とは?
予算管理は、企業の数値目標を管理することですが、言い換えれば「限られた資源で利益を最大化するための管理」を意味します。
企業の経営計画では、短期・中期・長期に分けて目標を決め、年度ごとに1年間の予算を作成することが一般的です。そして、売上予算や利益予算などの数値目標を確定し、予算を達成することを目指して、予算進捗を追いながら、差異の分析や問題の発見・改善に取り組みます。
つまり、予算管理は経営計画の基本であり、適切な予算管理を行うことで経営状況を把握でき、効率的な目標達成につながります。
予算編成のやり方とポイント
予算編成とは、前述した4種類の予算における数値を決める作業です。数値だけでなく、企業の事業計画と同じように現場の意見も汲み取りながら確定していく必要があります。
予算編成のやり方には、「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」の2つの方法があります。ここでは、それぞれの方式についてわかりやすく解説します。
トップダウン方式
トップダウン方式とは、企業の経営陣が全体的な予算編成を決めた後で、事業や部署ごとに予算を割り振る方法です。企業ビジョンや経営戦略を基に、経営陣が予算を立てることで、予算編成にかかる時間が短縮されます。また、経営資源を効率的に分配できるというメリットもあります。
ただ、デメリットとして現場の意見が反映されにくく、実態と乖離しやすい傾向がある点に注意が必要です。非現実的な予算を策定し、社員のモチベーション低下を招かないよう慎重に決めると良いでしょう。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式は、部門別に予算編成を立て、それらを積み上げることで全体的な予算を作成する方法です。現場の実態を知る責任者やマネージャーに予算策定を任せられるため、現場の情報に即した予算編成が可能になります。
また、社員の声を反映することで、モチベーションアップにもつながるでしょう。ただし、経営方針に即した予算編成を完了するまでに調整が入りやすく、確定までに時間がかかる可能性があります。
予算管理と経営管理の違い
予算管理と経営管理とでは、管理する項目や範囲が異なります。経営管理は、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」などを活用して、利益を上げるために調整や統合を行うことです。具体的には、生産・販売・労務・人事・法務・財務など企業全体の管理を指し、予算管理もその一環として行われます。
予算管理は、売上予算や利益予算などの数値目標を明確化し、進捗に応じて必要な施策を実行することです。予算と実績との差異を分析し、会社の経営状況を把握するため、経営管理の中でも最重要と言えます。
予算編成の流れと注意点
予算編成の主な流れは以下の通りです。
- 目指すべき目標となる「利益予算」を設定する
- 人件費・固定費およびその他の諸経費を算出する
- 「売上予算」「原価予算」を策定する
- 販売費などの「経費予算」を設定し、調整する
まずは企業の経営目標を立て、目標達成のための方法やリソースの分配方法を計画します。続いて、上記の流れで4つの予算を編成していくのが一般的です。
ここからは、予算編成を進める際の注意点について解説します。
ルールや流れを明確にする
最初に、予算編成のルールや流れを明確にしておきましょう。一般的には、まず経理部門が各部署から実情に即した情報を収集します。続いて、集めた情報を基に、予算のガイドラインを各部署に提示します。
各部署では、担当者がガイドラインに沿って予算を策定し、それらを取りまとめて予算編成を行います。ここで、現場の実情をよく理解していない人が予算を策定すると、無理な目標となってしまう可能性があるため注意が必要です。
業務担当者が現場に即した目標を決めることで、現実的な予算策定を実施でき、業務に対する社員のモチベーション維持にもつながります。最終的に、役員会などで予算内容について審議を経て、承認を受ければ予算編成が完了します。
現場と予算編成の意義を共有する
予算編成の意義について、各部署のメンバーと共有することが重要です。企業全体としての予算策定は、経理部署や専門の担当者が行います。予算編成の担当者には、経営層と現場との間で滞りなく調整を行うスケジュール管理能力が求められます。
また、仲介役として、各部署と丁寧にコミュニケーションを図り、スムーズに進められるよう日頃から環境づくりを意識しておくことも重要です。加えて、最終的な予算が確定したら、忘れずに部署の担当者に伝えましょう。
達成が簡単な予算にしない
予算編成の担当者は、各部署から提出された予算を精査し、矛盾や誤りがないかチェックします。その際に、予算編成が簡単すぎないか確認することが重要です。
特にボトムアップ方式を採用する場合は、各部署で出した数値と企業全体としての視点から考えた数値とに差異が出やすい傾向があります。達成しやすい目標を設定すると、経営資源の適切な活用を阻害してしまうことが考えられます。
また、機会損失により、社員やチームの成長につながりにくくなる場合もあるため、現実的かつ達成可能な範囲で設定しましょう。
達成が不可能な予算にしない
前述の通り、簡単に達成できる予算は変えるべきですが、反対に高すぎる目標を設定することも避けるべきでしょう。特にトップダウン方式で見られやすいのが、経営層が考えた予算が現場にとって非現実的な予算となってしまうケースです。
実現不可能な目標を掲げても、現場社員のモチベーションの低下や精神的負担の増加といった問題を招く可能性があります。業務責任者などにヒアリングを行い、現場の声を反映した予算編成を行うことが重要です。
予算管理の手順
予算管理の手順は、大きく分けて「予算の編成(Plan)」「執行(Do)」「フィードバック(Check)」「改善(Action)」の4ステージで構成されます。この一連の繰り返しである「PDCAサイクル」に沿って予算達成を目指します。
おおまかな手順として、まず経営目標を達成するために必要な予算や経営資源を決定します。前述のトップダウン方式とボトムダウン方式を参考にして、予算編成を決定しましょう。
1年の予算計画が決まったら、計画に基づいて事業活動を行いながら、日々の予算管理と共に定期的に進捗状況をチェックします。予算と実績に差異があった場合や、問題点が見つかった場合には原因を特定し、改善を実施します。ここまでが、予算管理の流れです。
多くの場合、予算目標は週次・月次・四半期ごとに設定しますが、特に月次決算が重要です。月次決算をする度に、毎月の予算計画と実際の数値をタイムリーに比較でき、修正もスムーズに行えます。
以下の記事で、月次決算について詳しく解説していますので参考にしてください。
予算と実績の分析
予算編成は当初の予定であり、実績とは異なる場合があります。予定と実績との間にどの程度の差があるのかを確認、分析することは、経営管理の基本とも言える重要な作業です。
ここでは、予算と実績の分析方法や対策を立てる際の注意点について解説します。
分析の仕方
予算管理では、月次決算ごとに予算と実績を比較し、計画に沿って目標を達成できているかを分析します。予算と実績を対比し、差異の原因を分析することは「予算差異分析」と言い、分析結果は経営戦略だけでなく、人事評価へ反映される場合もあります。
予算差異分析には、主に以下3つの手法が用いられます。
- 利益差異の単純比較:予算策定時の利益と実際の利益を比較し、その差異を分析する
- 収益・原価差異の算出:利益差異を収益差異と原価差異に細分化して、それぞれの原因を調べる
- 自社戦略に基づく分析:自社独自の戦略や目標を基に分析する
利益差異の単純比較では、大きな変化の影響が結果に含まれるため、差異の原因を判別することが難しくなる可能性があります。自社戦略に基づく分析の例としては、売上高を新規顧客と既存顧客に分けた上で、さらに細かい項目の差異を確認するといった進め方です。
さらに、前年同月のデータや他社の実績との比較も行うことで、原因の究明と目標達成を阻害する問題の解決につながります。
分析・対策の注意点
予算と実績の分析では、数値にこだわりすぎず、全体の利益や現場の意見にも配慮することが重要です。予算計画を達成することは大切ですが、各部署が数値を上げることに過剰にフォーカスするあまり、現場にしわ寄せが来る場合もあります。
また、現場との連絡体制を整え、スムーズなフィードバックを図ることも重要です。予算管理のPDCAサイクルを効率的に回すためには、現場に対して必要な情報提供を円滑に行うと良いでしょう。
さらに、会計ソフトなどの各種システムを活用することで、予算管理の効率化が可能です。予算計画の進捗や実績の一元管理により、各部署の連携が円滑に進み、社員の業務負担の軽減にもつながります。
以下の記事では、初心者向けにエクセルでの経費管理方法を解説していますので参考にしてください。
予算を正しく理解し適切に予算管理を実践しよう
企業やビジネスにおける予算は、単なる数字の集まりではなく、企業の未来を創り出すためのプロセスとも言える重要な情報です。予算計画は経営管理の中でも最重要な項目であり、経営層と現場の認識を一致させることで効果を発揮します。
予算編成では、意義を現場と共有した上で、実現可能な範囲で簡単すぎない予算を確定することが重要です。予算と実績との差異を定期的に分析し、必要な対策を講じることで予算の達成度を高めていきましょう。