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経理AIエージェントとは?活用シーンや導入ステップを徹底解説

更新日:2025.10.01

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経理AIエージェント

最近「経理AIエージェント」という言葉を耳にし、一体どういうものなのか気になっている方も多いのではないでしょうか。

多くの経理部門では「毎月の仕訳入力にかかる時間を短縮したい」「大量の請求書処理に追われる時間を、もっと重要な業務に回したい」「決算期に毎回繰り返される残業をなくしたい」といった悩みが尽きないかと思います。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

このような課題の解決に寄与しうる存在が、経理AIエージェントです。本記事では、「経理AIエージェントとは具体的に何ができるのか」「従来の会計ソフトやRPAと比べてどのような違いがあるのか」「自社に導入した場合、具体的にどのようなメリットを享受できるのか」といった点について解説します。経理部門のDX推進に向けて新たな一歩となれば幸いです。

経理AIエージェント

経理AIエージェントとは

経理AIエージェントとは、複数のツールを統合的に活用して経理業務の自動化や効率化を実現することができるソフトウェアやシステムの総称を指します。従来の会計ソフトやRPAのような、特定の決められた定型作業を効率化するシステムとは異なり、AIエージェントが目的に沿って自律的に判断・実行することができるため、これまで属人化してきた複雑な経理業務も処理することが可能になります。

例えば、適切な勘定科目の推測や経費精算における申請内容の不備チェックなど、社内規程やルールに沿って自動で判断し、処理を行うことができます。さらに、会計ソフト(弥生会計、マネーフォワード、freeeなど)やSlack、メール、CRM、ERPなど多様なツールをシームレスに連携させ、請求書の受領から会計処理、支払いの準備までを一貫して自動化することが可能です。

経理AIエージェントとRPAとの違い

経理業務の自動化を検討する上で、RPA(Robotic Process Automation)と経理AIエージェントは、しばしば比較されますが、その役割と能力には明確な違いがあります。

RPAは、あらかじめ定義されたルールに基づき、PC上の定型的な操作を自動化する技術です。例えば、「特定のシステムにログインし、データをコピーして別のExcelファイルにペーストする」といった、人間の判断を必要としない反復作業の自動化を得意とします。しかし、ルールから外れたイレギュラーな事態や、業務プロセス自体の変更には柔軟に対応できないという側面があります。

一方、経理AIエージェントは、主に以下のAI関連技術の組み合わせで実現されます。

  • AI-OCR(光学的文字認識): 手書きや印刷された請求書などの書類を高精度でデータ化します。
  • 自然言語処理 (NLP): 人間が書いた文章の内容を理解し、非定型の文書処理や問い合わせ対応に役立ちます。
  • 機械学習 (ML): 膨大なデータからパターンを学習し、最適な勘定科目を提案したり、不正な取引を検知したりします。
  • 生成AI (Generative AI): 新しいコンテンツを自動生成し、例えば月次決算レポートや経営分析レポートの作成を支援します。

このように、RPAが「手足」のように指示された作業を忠実に実行するのに対し、経理AIエージェントはAIの「頭脳」を活用して、ある程度の自律的な判断を伴う業務を遂行できる点が最大の違いです。

ただし、経理AIエージェントの能力を最大限に引き出すためには、AIに学習させるための判断基準や業務ルールを明確に定義することが不可欠です。これまで熟練の経理担当者が経験則で行ってきた「暗黙知」を形式知化し、AIにインプットするプロセスが、自動化の精度を大きく左右する重要な鍵となります。

今後求められる経理組織の役割と未来像

テクノロジーの進化、特にAIの台頭により、経理組織に求められる役割は今、大きな転換期を迎えています。かつてのように過去の取引を正確に記録・処理する「守りの経理」だけでは、企業の持続的な成長を支えることは難しくなっています。

これからの経理組織には、蓄積された財務データを基に未来を予測し、経営戦略の意思決定を積極的に支援する「攻めの経理」としての役割、すなわちビジネスパートナーとしての機能が強く求められます。

この変革を実現する鍵が「経理AIエージェント」です。AIエージェントがもたらす変化は、未来の経理部門の姿を具体的に描き出します。

デジタル労働力の獲得によって「作業者」から「AI管理者」へ

AIエージェントが請求書処理や仕訳入力といった定型業務を24時間365日担う「デジタル労働力」となることで、経理担当者は手作業でのデータ入力といった「作業者」としての立場から解放されます。

その代わりに与えられるのが、「AI管理者」という新しい役割です。AIが円滑に稼働するように業務プロセスを設計・改善する役割を持ちつつ、後述のデータ活用と戦略立案のような経営の意思決定に大きくかかわる業務に時間を割くことができるようになります。

データ活用と戦略立案による経営戦略の意思決定のサポート

AIエージェントによってリアルタイムに処理・構造化されたデータを駆使し、企業の成長を牽引していきます。

具体的には、常に最新の財務状況をダッシュボードなどで可視化し、経営陣が勘や経験だけに頼らない、データに基づいた迅速な意思決定を下せるよう支援します。さらに、AIによる高精度な未来予測(フォーキャスティング)を活用することで、資金繰りの計画や先行投資の判断をより確実なものにします。

また、各事業部門に対して、コスト構造や収益性を詳細に分析し、「どの経費が利益を圧迫しているか」といった具体的な洞察を提供することで、事業成長を伴走するビジネスパートナーとなっていきます。

AIと人間が協働する「ヒューマンインザループ」

AIの能力を最大限に引き出し、その精度と信頼性を担保する上で、「ヒューマンインザループ(Human-in-the-Loop)」という考え方が極めて重要になります。これは、AIの自動処理のサイクルの中に、人間による確認や判断を意図的に組み込む仕組みのことです。

AIは完璧ではなく、特に非定型の書類や複雑な取引では誤った判断をする可能性があります。そこで、人間が介在することで、AIと人間が互いの長所を活かし、短所を補い合う協働関係を築きます。

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PIVOTで紹介の「経理AIエージェント元年」

なぜ「今」が経理部門の変革のタイミングなのでしょうか。その理由は、2025年以降が「経理AIエージェント元年」と呼ばれていることにあります。ビジネス映像メディア「PIVOT」でも紹介されたように、AIの技術が、単なる「効率化ツール」から、自律的に業務を遂行する「エージェント(代理人)」へと質的に変化し、これまでの業務プロセスを根本的に変える可能性を持っているためです。

今後の経理のAI活用や未来の展望についてPIVOTでも詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

経理AIエージェントの具体的な活用シーン

経理AIエージェントが業務をどう変革するか、主要な活用シーンを見ていきましょう。

請求書処理の完全自動化フロー

多くの企業で手間のかかる請求書処理は、AIエージェントで劇的に効率化されます。

  1. 請求書受信・データ化: メール添付PDFやスキャンした紙の請求書をAIが検出し、AI-OCRでデータ化。
  2. 内容確認と仕訳提案: 抽出情報に基づき、AIが過去の取引パターンやルールを参照し、勘定科目や税区分を自動判定・提案。
  3. 担当者への通知・確認: Slack等で経理担当者に通知、内容確認を促し、ワンクリックで承認。
  4. 会計ソフトへ自動登録: 承認後、弥生会計、マネーフォワード、freee等の会計ソフトへAPI連携で自動登録。
  5. 支払期日に自動リマインド・支払準備: 支払情報に基づき自動リマインド、銀行振込システム等と連携し支払データ作成や送金準備も可能。 このフローでプロセス全体が再構築され、リードタイム短縮と可視化が実現します。

経費精算プロセスの劇的改善

従業員の経費精算も大幅に効率化・利便性向上します。

  • 申請作業の簡略化: 領収書をスマホ撮影するだけでAIが情報を自動読み取り・入力。
  • 規定違反の自動チェック: AIが社内規定に基づき違反を自動チェック、フラグ立てと通知。
  • 問い合わせ対応の自動化: AIチャットボットが24時間365日自動応答し、経理担当者の負担を軽減。

不正検知とリスクマネジメント

経理AIエージェントは、基幹システムや業務プロセスを常時監視し、不正の兆候や非効率な箇所を早期に発見して警告します。過去の取引データを分析し、異常な支出パターンや不正と思われる取引を即座に検知して、経理リスクを効果的に管理します。

経理AIエージェント

経理AIエージェントがもたらす7つのメリット

経理AIエージェントを導入することによって、単なる業務効率化だけでなく、企業の経営基盤全体を強化するさまざまなメリットを享受できます。ここでは7つに分けてメリットをご紹介します。

1. 業務効率化と作業時間の大幅な削減

経理AIエージェントを活用することで、請求書処理や仕訳入力といった日常的で手間のかかる作業を自動化できます。請求書関連の業務の処理時間を短縮できるため、月次や年次の決算を迅速化し、経営者が最新の財務情報をリアルタイムで取得できるようになります。

2. 人的ミスの削減と処理精度の向上

AI-OCR技術を用いることで、請求書や各種帳票からのデータ抽出精度が向上し、人為的な入力ミスや転記漏れを大幅に減らします。過去の仕訳パターンを学習する機能によって、最適な勘定科目や税区分を自動で提案し、仕訳ミスを防ぎます。結果として再作業の手間が削減され、コンプライアンスリスクも低下するため、企業の信用力向上に寄与します。

3. コスト削減(人件費や諸経費の低減)

経理作業をAIで自動化することで、残業代や人件費を抑えることが可能になります。また人的ミスが減少することにより、エラー修正にかかるコストやクレーム対応に伴う費用も削減されます。さらにペーパーレス化が進むことで、印刷や郵送、文書の保管にかかる経費も削減できます。浮いた資金やリソースを成長分野へ再投資することで、企業全体の収益性向上につなげることもできます。

4. リアルタイムな経営分析と迅速な意思決定の支援

経理AIエージェントは、財務データをリアルタイムで収集し、自動的に分析して経営レポートを生成します。異常値があれば即座に通知する機能や、過去のデータとの比較分析、将来のキャッシュフロー予測なども可能になるため、経営陣が迅速かつ的確な意思決定を行うための強力なサポートになります。

5. 法令遵守と内部統制の強化

電子帳簿保存法やインボイス制度といった複雑な法制度への対応を、経理AIエージェントが支援します。必要なデータの分類や保管作業を自動化し、法令違反のリスクを低減します。また経費精算の承認フローや支払期日の自動リマインド機能などを活用することで内部統制が強化され、不正取引の早期発見も可能となります。

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6. 専門知識の習得ハードル低減と効率的な人材育成

AIによる自動仕訳やデータ抽出の支援を受けることで、経理未経験者でも業務に取り組みやすくなります。また業務プロセスが標準化されることで新人教育がスムーズになり、従業員間での知識やノウハウの共有も容易になります。結果として、組織全体のスキルレベル向上や業務の安定性が確保されます。

7. 従業員の負担軽減と重要業務への集中

AIが単純作業や繰り返し作業を担当することで、従業員の負担が軽減され、より高度で創造的な業務に集中することが可能になります。経理担当者は財務データの分析や経営戦略への提言、業務プロセス改善といった重要な業務に力を注ぐことができるため、従業員満足度が高まり、企業の持続的な成長を後押しします。

経理AIエージェント導入前に押さえるべき注意点と課題

経理AIエージェントを導入するのには多くのメリットがありますが、同時にいくつかの注意点や課題も考慮する必要があります。

導入・運用コストとROIの検討

経理AIエージェントを導入する際には、初期の導入費用や定期的な利用料、さらに自社に適合させるためのカスタマイズ費用などが発生します。また、システムの維持管理、アップデート、従業員の教育訓練にも継続的なコストが必要となります。こうした費用をしっかり把握し、人件費の削減や作業時間の短縮、ミス軽減による損失回避などの具体的な効果と比較して、投資対効果(ROI)を慎重に評価することが重要です。また、定量的に評価しにくい意思決定の迅速化や従業員の満足度向上、コンプライアンス強化といった戦略的価値についても考慮する必要があります。

セキュリティリスクと情報漏洩対策

経理部門は機密性が非常に高い財務情報や取引先情報を取り扱うため、セキュリティ対策が極めて重要です。クラウドサービスの設定ミスによる情報漏洩や、退職した従業員のアカウントを悪用されるリスク、さらには悪意のある外部からの攻撃や従業員による意図しない情報漏洩など、さまざまなリスクに備える必要があります。企業全体でのデータ管理方針(データガバナンス)の確立と明確なルール作り、さらにAI利用時の倫理ガイドラインの整備と徹底した周知が不可欠です。

既存システムとの連携とデータ管理の課題

経理AIエージェントを導入する際には、現在使用している会計ソフトやERP(企業資源計画)システムとの連携がスムーズに行えるかを確認する必要があります。特にAPIによる連携が可能か、データ形式の互換性が確保されているかを事前にチェックしておくことが重要です。また、AIが正確に機能するためには高品質なデータが不可欠であり、既存のデータが不正確であったり不足していると、期待する効果が得られない可能性があります。導入前のデータ整備(クレンジング)やマスターデータ管理(MDM)を徹底しましょう。

従業員のスキル向上と変化への対応

経理AIエージェントの導入は、従業員の業務内容や働き方に大きな影響を与えます。AIを導入することで業務が自動化される反面、従業員の育成が疎かになる可能性もあります。そのため、従業員には新しい技術やシステムに対応するための再教育(リスキリング)や技能向上(アップスキリング)を提供する必要があります。導入への抵抗感や不安感を軽減し、AIを「脅威」ではなく「協力するパートナー」として受け入れられるよう、経営層による積極的なリーダーシップと丁寧なコミュニケーションが欠かせません。

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経理AIエージェント導入のための5ステップ

経理AIエージェントを成功裏に導入するためには、計画的かつ段階的なアプローチが欠かせません。以下は具体的な導入のためのステップです。

ステップ1. 導入目的の明確化とKPI設定

経理AIエージェントを導入する目的を明確に設定しましょう。例えば「請求書処理の時間を50%削減する」「仕訳入力ミスを90%減らす」といった具体的な目標を設定します。まずは現状の課題をリストアップし、それをどのように改善したいかを明確にし、改善の効果を測る指標(KPI)を設定します。これにより、導入効果の測定と継続的な改善活動を行うための基盤が整います。また、明確な目的とKPIを共有することで、関係者間の理解を深め、導入プロジェクトをスムーズに進めることができます。

ステップ2. 現状業務の可視化と課題の洗い出し

現在の経理業務を詳細に分析し、プロセスマップなどを使って可視化しましょう。どの業務にどれほどの時間とコストがかかっているのか、業務上のボトルネックや非効率なプロセスを明らかにします。こうすることで、AIで効率化できる範囲が明確になり、最適な導入範囲を決定できます。小さな業務から段階的にAIを導入し、徐々に対象業務を広げていくとリスクを抑えられます。

ステップ3. 適切なAIエージェントツールの選定と比較

導入の目的、対象となる業務範囲、予算、そして既存のシステムとの連携可能性などを総合的に評価し、自社に最適なAIツールを選定します。市場にはクラウド型、オンプレミス型、フルカスタマイズ型などさまざまな提供形態のツールがあります。複数の製品を比較し、機能性、使いやすさ、価格、ベンダーのサポート体制、導入実績、セキュリティ対策を総合的に検討します。また、ベンダーが業界特有の課題に精通しているか、長期的に信頼できるパートナーであるかも重要な判断基準です。

ステップ4. スモールスタートと段階的な導入

初めから全社規模での大規模展開をするのではなく、まず特定の部署や業務に限定して小規模な試験導入(PoC)を行い、そこで効果を検証しながら徐々に導入範囲を広げていく方法がおすすめです。初期投資や導入に伴うリスクを最小限に抑えつつ、現場からのフィードバックを迅速に収集・反映することで、社内での成功事例を作り上げやすくなります。

ステップ5. 社内体制の構築と従業員教育・研修

AIの導入後には運用を担当する部署や担当者を明確に定め、従業員が円滑にAIを活用できるよう教育・研修を行う必要があります。基本的なAIの知識やツールの操作方法、新しい業務プロセスについて丁寧に教育を行い、組織全体のAIリテラシーを高めます。さらに、AIの倫理的利用に関する教育も実施し、従業員が責任を持ってAIを活用できる環境を整えましょう。

まとめ

本記事では、経理業務の未来を変える「経理AIエージェント」について、定義、機能、メリット、注意点、将来展望まで解説しました。

経理AIエージェントは「指示しなくても気づいて動く」自律性を持ち、AI-OCR、NLP、機械学習、生成AIを駆使して、請求書処理、仕訳、経費精算、決算、不正検知などを効率化・高度化します。これによって、経理部門の業務効率向上、人的ミス削減、コスト削減などに大きく寄与します。

経理AIエージェント導入は、業務効率化だけでなく、企業競争力強化、従業員の働きがい向上、経営全体の質向上に貢献する投資になりえます。紙を含め非効率な運用が残る経理業務を経理AIエージェントでぜひ改善していきましょう。

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