経理DX促進

AI×DX実務の手引き|今すぐ始める導入ステップとガバナンス【2025年版】

更新日:2025.09.01

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AI デジタル 変革

人手不足や法改正対応が続くなか、紙とExcel中心のやり方には限界があります。本記事は、経理へAIとDXを根づかせる全体像を現状の見える化→業務・データ設計→法対応と権限・記録→小さな試し運用→段階的拡大の順に解説します。RPAと経理AIエージェントの役割分担、90/180/365日の実行計画、監査ログの残し方までを実務の言葉でまとめます。

→業務の自動運転を実現する経理AIエージェントとは?

AIとDXの基本と、いま経理に必要な理由

経理の現場では人手不足が続き、紙とExcel中心のやり方では処理が追いつきません。電子帳簿保存法やインボイス制度の改正も重なり、正確さと効率の両立が急務です。AIは読み取りや突合せ、判断の下支えを行う道具DXは仕事とデータの再設計です。両者を組み合わせれば、スピード・正確さ・統制を同時に高められます。

導入の進め方:現状の見える化→設計→段階的な組み込み

AIは、人が時間をかけて行っていた読み取りや突合せを代わりにこなしたり、迷いやすい判断を補助したりする「道具」です。DXは、単にツールを入れ替えることではなく、仕事の進め方とデータの扱い方そのものを作り直す取り組みです。両者を組み合わせることで、スピードと正確さ、統制の取りやすさを同時に引き上げられます。

図:経理DX×AIのアーキテクチャ

導入にあたって大切なのは、便利そうな機能から入るのではなく、まず現在のやり方を丁寧に見える化し、どこにムダやリスクが潜んでいるかを確かめることです。そのうえで、業務の設計とデータの整備、権限や記録の取り方を整え、段階的にAIを組み込んでいきます。これにより“ツールを買っただけで終わる”ことを避け、日常業務の中で確実に効果が出る状態をつくれます。

DXと単なるデジタル化の違い

「デジタル化」は紙をPDFにする、手入力をフォーム入力に切り替えるといった置き換えが中心で、便利にはなっても業務の流れがそのままなら残業や差し戻しはあまり減りません。DXは、申請から承認、保管、検索、監査までの一連の流れを見直し、必要な人に必要な情報が自動で届くように設計し直します。

例えば、請求書の到着を入口に自動でワークフローを起こし、読み取った内容から勘定科目の候補を提示し、承認者には要点だけがまとまって届くようにする。こうした“流れの再設計”まで踏み込むのがDXです。結果として、処理時間の短縮だけでなく、ミスや属人化の減少、監査対応のしやすさが期待できます。

生成AI・クラウド・データの役割

生成AIは、文章や数値の文脈を理解して要約したり、仕訳候補を示したり、規程に照らして注意点を指摘したりできます。ただし出力は提案に過ぎないため、最終判断は人が行う前提で設計することが重要です。クラウドは、どこからでも同じデータにアクセスできる基盤を提供し、更新やバックアップ、権限管理をサービス側で担保します。

そして要となるのがデータの整備です。ファイル名の付け方、保存場所や検索条件、更新履歴、改ざん防止の仕組みを整えるほどAIの精度が上がり、業務の再設計もスムーズに進みます。逆に、紙やバラバラのファイルが混在している状態では、AIの力を十分に引き出せません。

見直すべき経理領域の見取り図

着手領域は現在の負荷とリスクの大きさで決めるのが現実的です。請求書の受領から支払までの流れは手順が多く、ミスや手戻しが起きやすい典型例で、クラウド受領とAIの読み取り・仕訳候補提示を組み合わせると入力の手間と差し戻しを同時に減らせます。経費精算は、レシート取り込みから規程チェック、承認、精算までを一気通貫で設計し直すことで、申請者・承認者・経理の負担がそろって軽くなります。

契約書レビューは、ひな形との差分抽出や条項の抜け漏れチェックをAIに任せ、人は重要点の判断に集中する運用へ切り替えると、品質とスピードの両立が可能です。まずは一つのプロセスで現在のやり方を見える化し、必要なデータとルールを整え、小さな単位で試して効果を確かめ、隣接業務へ広げていく流れが、失敗を抑えながら成果を積み上げる近道になります。

経理AIエージェント

経営方針へのAIとDXの接続と推進体制づくり

経理の取り組みを全社で成果に結びつけるには、最初に「何のために、どこまで、いつまでに」をはっきりさせることが欠かせません。狙い・指標・責任の所在を先に決めておけば、現場だけが便利になる“局所最適”に偏らず、経営の意思と同じ方向へ進めます。経営と現場が同じ地図を共有し、効果測定とリスク確認の周期をあらかじめ定めた推進体制を設計しましょう。滞留の原因になりやすい「誰が、どの条件で、どこまで決められるか」も、この段階で明確にします。

DX×AI 自己点検シート(10項目)【経理版】

方針や体制を整える前に、いまの準備状況を客観的に点検しておくと、現状の見える化→試し運用→拡大の順で何から着手すべきかが明確になります。以下の自己点検シートを使って、各項目を0〜2点で評価してみましょう。

No.点検項目確認の要点(できている状態)評価(0/1/2)根拠(規程・証跡の所在)改善アクション(次の一手)
1経営コミットと目的・KPIの明文化目的と3〜5個のKPIが経営会議で合意・共有され、更新履歴が残っている議事録/KPI定義書目的⇄KPIの対応を1枚に整理し、更新日と責任者を明記する
2ユースケースの優先順位負荷・リスク・効果で評価し、着手順と責任者が確定している優先度表/稟議書まず90日間の対象を1プロセスに絞り、評価指標と終了条件を定義
3データの棚卸しと可視化台帳・命名規則・保存場所・検索条件を一覧化し準拠率を測れているデータ台帳/準拠率レポート命名の必須項目を最小化し、準拠率を週次で可視化
4電子帳簿保存法・インボイス設計見読性・真実性・検索性と例外運用が文書化されている運用規程/フロー図受領→保存の一連フローを1枚図にし、月次点検リストを作成
5権限設計と監査ログ役割別の閲覧・登録・承認範囲が定義され、操作ログ点検が定例化権限表/ログ点検記録金額・機微性で承認段階を可変化し、過剰権限の月次棚卸し
6個人情報の最小化・保護最小収集・マスキング・持ち出し禁止が規程とフォームに反映取扱規程/フォーム自由記述の注意文を追記し、学習用は匿名化データに限定
7“人が確定”の運用設計AI提案の自信度閾値・停止条件を定義し、人の最終確認を必須化承認基準書/運用手順自信度が低い項目は承認待ちキューへ自動送付するルール化
8RPA×AIの役割分担「考える=AI/運ぶ・登録=RPA」の入出力と再実行手順が明確I/O定義/復帰手順書失敗時の再実行単位とタイムアウト対応を標準手順に追加
9KPIとダッシュボードスピード・品質・統制・コストが一枚で可視化され閾値も設定ダッシュボード/KPI表変更点(モデル更新・規程改定)のマーカー表示を追加
10教育・定着(ナレッジ)FAQ・手順書・データ辞書が更新履歴つきで共有、定例勉強会あり共有リポジトリ/議事録月次で「原因・対策・担当・期限」を記録し実行確認まで運用
0点は未整備、1点は一部整備(文書はあるが運用が弱い、または運用はあるが記録が弱い)、2点は整備・運用済み(文書・証跡・定例点検まで回っている)を意味します。合計20点中、0〜8点は基盤整備を最優先、9〜14点は試し運用と評価ループの確立、15〜20点は横展開と標準化を主眼に置きます。

自己点検の進め方はシンプルです。まず関係部門(経理・情報システム・法務・内部監査)で30分程度の短い打ち合わせを行い、各項目の評価と“根拠となる文書や保存場所”を書き込みます。次に、得点と未達項目から90日間の実行計画に入れる優先タスクを三つ以内に絞り、担当と期限を決めます。試し運用の終了時、そして180日365日の節目で再度採点し、点数の推移をKPIダッシュボードと併せて共有すると、改善の輪が止まりません。

記入イメージを挙げます。例えば項目7が1点の場合、承認基準の文書はあるが自信度の扱いが明確でない状態です。このときは「自信度70%未満は承認待ちへ自動送付」「停止条件を規程に追記」「翌月のレビューで誤検知率を確認」という3点を次の一手として設定します。こうして“定義→運用→記録→点検”の流れを小さく回し、うまくいった型を他部門へ移植していくことが、負担を増やさずに成果を積み上げる近道です。

目的とKPIの結び方

最初に、経営の目的と現場の指標を一本の線で結びます。例えば「月次決算の早期化」という目的に対しては、決算リードタイム、差し戻し件数、証跡の網羅率といったKPIを設定します。「不正リスクの低減」であれば、規程違反の検知率や是正までの平均日数が有効です。

大切なのは、導入前に基準値を測り、試し運用・拡張・定着の各段階で同じ方法で追い続けることです。数値の集計方法、データの取得元、報告の頻度、責任者までをセットで決めておくと、議論が感覚論に流れません。KPIは3〜5個に絞り、誰が見ても変化がわかる指標を選びます。

稟議と意思決定プロセス

意思決定は「速さ」と「納得感」を両立させます。まず、現状の見える化の結果と狙い、期待効果、リスク対策を1〜2ページの企画書にまとめ、関係部門(情報システム、法務、セキュリティ、内部監査)が同じ前提で読める形に整えます。小さな単位での試し運用は、あらかじめ期間・対象・評価基準を合意してから開始し、週次の短い進捗共有と月次のレビューで拡大可否を判断します。

決裁は金額だけでなく、扱うデータの機微性や業務影響の大きさでも段階を分けると、不要な差し戻しを防げます。誰が承認し、どの根拠で判断したかは記録として残し、あとから検証できるようにしておきます。

小さく始めて広げるコツ

最初の対象は、効果が見えやすく関係者が少ない領域を選びます。請求書の読み取りと仕訳候補提示、経費の規程チェックのように、データが比較的そろっていて、完了までの流れが短いプロセスが向いています。試し運用では、担当者が日常のやり方を大きく変えなくても使える形にし、問い合わせ先と対応ルールを事前に決めます。

結果はKPIの数値と現場の声の両方で振り返り、うまくいった設定や手順をテンプレート化して次の部門へ移植します。横展開の前には、規程や権限、記録の取り方を最新の運用に合わせて更新し、教育の手順も用意します。こうして実行計画を段階的に進めれば、負担を増やさずに成果を積み上げていけます。

経理で効果が出やすいAIとDXの活用領域

請求書の読み取りと仕訳、経費の不正チェック、契約書の確認は、短い期間でも手応えが出やすい分野です。最初はAIに下準備を任せ、人が最後に確認する形で始めると、現場への負担を増やさずに品質とスピードを同時に引き上げられます。効果は処理時間や差し戻し件数などの数値で確認し、次の展開につなげます。

請求書OCR+自動仕訳

紙やPDFで届く請求書をクラウドで受け取り、AIで金額や日付、取引先、品目を読み取ります。読み取った内容から勘定科目や税区分の候補が自動で提示され、担当者は候補を確認して確定するだけでよくなります。はじめは「毎日10件だけ」「特定の取引先だけ」といった試し運用にすると、誤読しやすいパターンや社内の命名ルールの揺れを早期に洗い出せます。

効果は、入力にかかる時間、差し戻し率、読み取り精度、仕訳候補の採用率で確認します。読み取りで迷いやすい項目(例:課税・非課税、軽減税率)は、マスタ整備や命名規則の統一で改善できます。現状の見える化を先に行い、「どの段階で時間がかかっているか」「どの書式でエラーが出やすいか」を把握してから範囲を広げると、定着が早まります。

経費不正のスクリーニング

経費精算では、規程違反や重複申請、私的利用の混入などを早期に見つけることが重要です。AIは、申請内容と領収書のつじつま合わせ、同一日の似た申請の重複、深夜・休日の高額タクシー、規程外の金額や地点の申請といった「気になりやすい傾向」を自動で拾い上げます。担当者は、アラートの優先度が高い順に確認し、必要に応じて申請者へ追加質問を行います。

短期間で成果を測るには、検知件数、誤検知率、是正までの平均日数、差し戻しの再発率を追います。誤検知が多いルールは見直し、社内のQ&Aや申請フォームの文言を調整すると、申請者側の迷いも減ります。まずは交通費や交際費など件数が多い科目から試し運用を始め、運用ルールと教育資料をセットで整えると、他部門への横展開がスムーズです。

契約書レビューの平準化

契約書の確認は、人による読み込みの差が出やすい業務です。AIを使うと、ひな形との相違点の抽出、解約条件や支払い条件、損害賠償・責任範囲などの要点抜き出し、抜けやすい条項の指摘といった下準備を自動化できます。レビュー担当者は、AIがまとめた要点を起点に、交渉の余地や社内規程との整合性を確認し、最終判断に集中できます。

効果は、1件あたりの確認時間、要点の見落とし件数、修正の往復回数、標準条項の適用率などで可視化します。分類が難しい契約(業務委託とライセンスが混在するなど)は、最初からAIに任せきりにせず、試し運用で「要点の抽出精度」と「表現ゆれの扱い方」を見極めます。用語集や条項の推奨表現、版管理の手順を整えるほど、担当者間のばらつきが減り、レビュー品質が一定になります。

以上の3つは、どれも書類が“入口”になるプロセスです。現状の見える化でつまずきやすい箇所を把握し、小さな範囲で試し運用してから対象を広げる。この順番で実行計画を進めると、負担を増やさずに成果を積み上げていけます。

データ基盤の整備:紙→クラウド→学習サイクル

業務の成果は、最終的にデータの質で決まります。紙やバラバラのファイルに分散した情報を集め、探しやすく、更新や照合がしやすい形に整えれば、AIの精度も上がり、日々の処理も安定します。まずは現状の見える化で「どのデータが、どこに、どんな名前で、誰が使っているのか」を明らかにし、クラウドを前提にした保管と検索の設計へ進みます。そのうえで、運用の中に小さな試し運用と振り返りを組み込み、学習サイクルで継続的に改善していきます。

電子化とメタデータ設計

紙やPDFをそのまま置き換えるだけでは、探し当てるのに時間がかかり、AIも正しく学べません。スキャンや受領の時点で画質や傾きを整え、ファイル名には日付、取引先、書類種別、金額などの手掛かりを入れます。例えば、「2025-04-15_ABC商事_請求書_132000JPY.pdf」のように、後から見ても内容が直感できる形です。

さらに、ファイル名だけに頼らず、取引先コード、発行日、税込・税抜、税区分、部門コードといったメタデータをクラウド側の項目として持たせます。検索はメタデータで絞り込み、原本はプレビューで即確認できる状態が理想です。保存年限や改ざん防止の要件は運用ルールに落とし込み、期末の棚卸しで遵守状況を確認します。最初は主要な項目だけに絞り、試し運用で「どの項目が実務に役立つか」を見極め、徐々に増やすと定着します。

学習データの整備と改善

AIの出力は、学ぶ材料が良いほど安定します。読み取り結果や仕訳候補の「正しかった/間違っていた」を日常の確認フローで記録し、その差分を学習用のデータとして蓄えます。例えば、課税・非課税の誤りが続くなら、税区分の補助情報を増やす、レイアウトの似た請求書をまとめて追加学習する、といった対策が取れます。

毎月一度、処理時間、差し戻し率、読み取り精度、候補の採用率などを同じ指標で振り返り、改善点を小さく実験します。命名規則の準拠率や重複ファイルの発生率、再撮影の割合といった“地ならし”の指標も合わせて追うと、ボトルネックを早く見つけられます。データの意味や入力ルールをまとめた簡易の「データ辞書」を用意し、更新があれば履歴を残しておくと、担当が入れ替わっても品質を保てます。

権限管理と監査ログ

安心してスピードを上げるには、「誰が何を見られて、どこまで操作できるか」を最初に決め、記録を自動で残す仕組みが欠かせません。申請者、承認者、経理、監査、システム管理といった役割ごとに、閲覧・登録・更新・削除・承認の範囲を分けます。金額の大きさやデータの機微性に応じて承認段階を変えると、無用な差し戻しを防げます。

各操作は、日時、担当者、対象、理由がログとして残り、検索やエクスポートができる状態にしておきます。アカウントの追加や権限の変更も記録の対象にし、月次の点検で「誰が過剰な権限を持っていないか」を見直します。こうした基本設計があると、実行計画の拡大局面でも混乱が少なく、監査対応にも強い体制を保てます。

この三つは相互に支え合います。電子化とメタデータが検索性を高め、学習データの整備がAIの精度を押し上げ、権限と記録が安全な運用を支えます。小さく試し運用して結果を測り、うまくいった型を次の部門へ移植する。この循環を仕組み化することが、着実に成果を積み上げる近道です。

AI×DX時代の法対応とガバナンス:電子帳簿保存法・インボイス

業務を早く正確に回しながら、監査に耐えられる体制をつくるには、法の要件を外さないことが出発点です。改ざん防止や検索のしやすさを担保しつつ、承認フローと権限の設計で内部統制を効かせます。社内規程とチェック表をあらかじめ用意して運用を標準化すれば、担当者が代わっても迷いにくくなります。日々の処理の中で証跡をどう残すかまで具体化し、現状の見える化と小さな試し運用を通じて、無理なく定着させていきましょう。

電帳法・インボイス準拠の運用要件(経理向け早見表)

要件区分電子帳簿保存法(運用要件)インボイス制度(運用要件)実務メモ
検索性「取引年月日」「取引金額」「取引先名」等の主要項目で検索でき、日付・金額は範囲指定2項目以上の組み合わせ検索が可能。課税期間を通じて検索できる状態を保つ。受領・発行した適格請求書を保存。電子保存する場合は電帳法の検索要件に準拠(登録番号や税率区分などで絞り込める設計が望ましい)。ファイル名だけに頼らず、クラウド側のメタデータ(取引先コード・発行日・税区分等)で検索軸を持たせると運用が安定。
改ざん防止(真実性)①受領時点のタイムスタンプ、②受領後速やかなタイムスタンプ、③訂正削除の履歴が残るシステム、④事務処理規程の整備―のいずれかで真実性を確保。値引・返品等の修正は元の適格請求書との関連が追える保存を行う。電子保存なら上記の真実性確保の方法を適用。事務処理規程には訂正・削除時の手順と記録を明記。ツール側で履歴が残る場合も、運用ルールは併せて整備。
保存要件(見読性含む)電子取引データは電子保存が義務(紙出力のみは不可)。原則7年保存(会社法等で10年のものあり)。スキャナ保存は「2か月+7営業日以内の保存」かつタイムスタンプ又は訂正削除不可(または規程整備)等の条件を満たす。発行事業者は写しの保存義務(7年)。仕入税額控除を受ける側は受領した適格請求書の保存が必要。電子で保存する場合は電帳法の見読性・検索性・真実性の要件を満たす。見読性はいつでも画面で原本同等に閲覧可能な状態が前提。バックアップは法定要件ではないが推奨。保存年限と起算点は社内規程に明記。
権限・ログ役割別の閲覧・登録・承認範囲を定義し、操作ログ(日時・担当・対象・理由)を保存。訂正・削除は履歴が残る/禁止の仕組み。アクセス権限と操作ログで誰が何を確認・承認したかを遡及可能に。訂正や再交付の流れも記録して関連付ける。月次点検で過剰権限の棚卸しとログ確認を定例化。変更履歴(モデル更新・規程改定)はダッシュボードにマーカー表示。

電帳法の実務チェックポイント

電子帳簿保存法では、見読性、真実性、検索性という3つの観点を押さえると実務が安定します。まず見読性は、スキャンやデータ受領の段階で解像度や傾き、欠けのない状態を確保し、いつでも画面上で原本同等に読めることを意味します。真実性は、訂正や削除の履歴が残ること、又はタイムスタンプやそれに準じた手当で改ざんの有無を後から確認できることです。

以下の記事では、電子帳簿保存法の要件と改正点を図解で解説していますので参考にしてください。

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検索性は、取引日、取引先、金額などの項目で素早く絞り込める設計にすることを指します。実務では、ファイル名だけに頼らず、クラウド側に取引先コードや税区分といったメタデータを持たせ、年限や保存場所を社内規程で明文化します。受領から保存までの流れを一枚図で共有し、月次の簡易点検で準拠状況と例外対応の記録を確認すると、運用のブレを早期に是正できます。

インボイス制度の押さえどころ

適格請求書の扱いでは、発行事業者の登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価と消費税額、書類の交付先など、基本的な記載事項を欠かさないことが第一です。受付時に登録番号の入力漏れや表記ゆれを検知できるよう、取引先マスタと紐づけて管理すると後工程が軽くなります。税率が複数混在する取引は小計を分け、値引きや返品が発生した場合は、元のインボイスに追補する形で関係を残しておくと、照合の手間を減らせます。

以下の記事では、インボイスの記載要件と実務対応を解説していますので参考にしてください。

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旅費交通費の領収書や少額の経費など、運用上の例外が出やすい箇所は、社内の取り扱い方を具体例付きで規程に書き込み、申請フォームの文言も合わせて調整します。最初は対象を限って試し運用を行い、差し戻しの理由や誤りの傾向を集め、規程と教育資料を小刻みに更新していくと、短期間で定着します。

記録と権限の設計

スピードを落とさず統制を効かせるには、「誰が何を見られ、どこまで操作できるか」を先に決め、そのとおりに動いた記録を自動で残すことが欠かせません。申請者、承認者、経理、監査、システム管理などの役割ごとに、閲覧、登録、更新、削除、承認の範囲を切り分け、金額や機微性に応じて承認段階を可変にします。操作ログには日時、担当者、対象、理由を含め、検索とエクスポートができる状態を保ちます。

アカウントの追加や権限変更もログ化し、月次の棚卸しで過剰な権限がないかを点検します。承認の判断根拠や差し戻し理由はテンプレート化して記録欄に残すと、あとからの検証が容易になります。こうした設計を実行計画に織り込み、まずは一部門で回しながら記録の粒度や見やすさを整え、うまくいった型を他部門へ移植していくと、負担を増やさずに強いガバナンスを築けます。

RPAと経理AIエージェントの使い分け

経理の現場では、同じ操作を正確に繰り返す工程と、書類の文脈を読み取り判断する工程が混在しています。RPAは前者に強く、画面操作やファイル処理、定型の転記を安定してこなします。一方で、例外が多い処理や文章の理解を伴う作業は苦手です。

経理AIエージェントはこの後者を補い、請求書や契約書の内容を読み取って要点をまとめたり、勘定科目の候補を示したり、規程に照らして注意点を挙げることができます。両者の得意分野を見極めて分担させると、処理の速さと品質、そして統制の取りやすさを同時に高められます。

得意・不得意の切り分け

RPAは、操作手順が決まっていて入力形式が安定している場面で力を発揮します。たとえば、定型フォーマットのデータ取り込み、仕訳登録画面への入力、ファイルの命名と保管場所移動、定時のレポート出力などは相性が良い領域です。画面やレイアウトが頻繁に変わる、同じ処理の中に例外パターンが多い、といった条件になると維持管理の負担が増えます。

経理AIエージェントは逆に、書式や表現に幅があり、人が内容を読んで判断していた領域で効果が出ます。請求書の読み取りと仕訳候補提示、経費の規程チェック、契約書の要点抽出や条項の抜け漏れ指摘などが典型です。ただし、AIの提案は最終判断の前段に置き、人が確認して確定する設計にしておくと安全に使えます。迷いやすい境界領域では、まず現状の見える化で例外の頻度や原因を把握し、定型に寄せられる部分はRPAへ、判断が必要な部分はAIへと切り分けるのが確実です。

経理AIエージェント×RPA 使い分け早見表(経理版)

判断軸RPAが有利経理AIエージェントが有利ハイブリッド設計の例KPI/テスト観点
作業の性質同じ操作の繰り返し・手順固定文章読解・要点抽出・例外判断RPAが受領→整形、AIが要約/候補提示、RPAが登録処理件数/時間、手戻り率
入力の種類定型CSV・固定画面・決まった帳票書式や表現がばらつくPDF・メール本文・契約書受領時にRPAで整形→AIで抽出→自信度付き出力読み取り精度、自信度分布
代表業務台帳更新、定時レポート出力、保管場所移動請求書の読み取りと仕訳候補、経費の規程チェック、契約書の要点抽出前後の「運ぶ・登録」をRPA、考える部分をAI候補採用率、一次通過率
例外・判断例外が少ない/パターン化できる条件分岐が多い/例外が常に発生自信度閾値でAIが承認待ちキューへ回送、RPAは停止例外頻度、停止から復帰までの時間
変更への耐性画面・項目変更に弱い(メンテ要)書式の揺れに比較的強いが学習・辞書整備が必要変更検知でフェイルセーフ→人手レビュー変更起因の失敗件数
導入初期(90日)画面操作置換で短期成果を出しやすい小さな試し運用で精度と自信度の閾値を見極める一部の取引先・費目に限定導入基準値→改善率、差し戻し理由分類
拡張(180日)テンプレ化して隣接業務へ横展開用語ゆれ・マスタ整備で精度を底上げRPAとAIのI/Oを標準フォーマット化処理時間の中央値・ばらつき
ガバナンス/証跡実行ログは取りやすい判断理由の記録が重要(要点・根拠を残す)すべての入出力にID付与、判断理由を保存監査ログ網羅率、承認ルート準拠率
失敗時の扱い再実行手順を決めれば復帰が容易誤読・誤提案は学習や辞書で徐々に改善処理を小さな塊に分け再実行可能に設計再実行成功率、復旧時間
運用・保守画面変更時の修正コストが発生モデル更新・辞書更新・ルール管理が必要月次の見直し会で双方の変更点を同期保守工数、更新起因の障害件数
コスト感低〜中(対象が安定なら低廉)中(精度確保の運用を含めた投資)高負荷領域に優先配備で費用対効果を最大化一件あたり処理コスト
人の役割実行監視・例外時の手当最終確認・ポリシー判断・学習データ整備“AIは下書き、人が確定”を徹底二重チェック率、誤判定の再発率

併用アーキテクチャの考え方

実務では、AIが「考える」工程を担い、その前後の「運ぶ・登録する」工程をRPAが支える流れが扱いやすいです。例えば、クラウドに届いた請求書をRPAが収集して所定のフォルダに配置し、経理AIエージェントが内容を読み取って仕訳候補や注意点を返し、再びRPAが基幹システムへ登録する、という役割分担です。途中でAIが自信を持てない項目や規程に引っかかる項目があれば、人の承認待ちキューに送る設計にしておくと、止まるべきところで止まります。

各工程の入出力はIDでひも付け、途中結果や判断理由を記録として残せるようにしておくと、差し戻しや監査対応がスムーズです。失敗時のやり直しが同じ結果になるよう、処理の塊ごとに再実行しやすい単位に分け、タイムアウトや通信エラーの扱い方も先に決めておきます。こうした枠組みを用意しておくと、対象業務を広げる際にも迷いが少なく、実行計画の拡大に耐える基盤になります。

導入順序のセオリー

最初は、例外が少なく効果が測りやすい範囲を選び、小さな試し運用から始めます。画面操作の置き換えで短期の成果が見込める箇所はRPAを先行させ、文章の理解や判断に時間がかかっている箇所はAIを先に入れて人の最終確認で締める形にします。どちらを先に入れる場合でも、導入前に処理時間、差し戻し率、読み取りの正否、登録の手戻りといった基準値を測っておき、試し運用・拡大・定着の各段階で同じ指標で振り返ると、効果が明確になります。

AIを広げる前には、誤りが出やすい項目を整理し、命名規則やマスタの整備、用語のゆれを抑えるルールを整えておくと、精度が安定します。RPAの対象を広げる前には、画面変更の影響を受けにくい操作単位に分解し、例外時の手動手順と復帰手順を短くまとめておくと、運用が止まりにくくなります。こうして段階を踏みながら、人が確認すべきポイントを少しずつ減らし、自動化の範囲を広げていくことが、負担を増やさずに成果を積み上げる近道です。

経理AIエージェント

AI×DX導入の実行計画:90日/180日/365日の道筋

取り組みを無理なく前へ進めるには、短い区切りで狙いとやること、測り方をそろえることが大切です。最初の90日で現状の見える化試し運用を行い、180日で対象を広げながら標準のやり方を固め、365日で全社に横展開して定着させます。各段階では、コスト・品質・スピードの指標を同じ方法で計測し、結果をもとに次の一歩を決めます。

90日:棚卸しと試し運用

最初の三か月は、いまのやり方を丁寧に洗い出すことから始めます。申請から承認、保管、検索までの手順と関係者、使っている台帳やファイルの置き場所、差し戻しが起きやすい場面を明らかにし、処理時間やエラー率、残業時間といった基準値を測っておきます。次に、負荷が大きく効果が見えやすい一つのプロセスを選び、小さな範囲で試し運用を行います。

例えば、請求書の読み取りと仕訳候補提示を一部の取引先だけに適用し、担当者は候補を確認して確定する運用にします。命名規則やマスタの整備、承認の順番、記録の残し方を最小限でよいので先に決め、週次で数値と現場の声を振り返ります。ここで得た「うまくいく型」と「つまずきやすい条件」を言語化しておくと、次の段階での広げ方がぶれません。

180日:拡張と標準化

四〜六か月目は、試し運用で確認できた型を周辺の部門や取引先へ広げ、同時に標準のやり方に落とし込みます。設定や手順はテンプレート化し、入力ルールや命名規則、例外時の扱いを社内規程と整合させます。AIが自信を持てない項目や規程に触れる可能性がある申請は、人の承認待ちキューに自動で送るようにし、前後の「集める・登録する」工程はRPAで支える構成にすると、止まるべきところで止まる安全な流れになります。

月次のレビューでは、処理時間の短縮度合い、差し戻し率の推移、読み取りや候補提示の正否、監査ログの網羅率を見ます。誤検知や迷いが多い箇所はマスタやフォームの文言を見直し、教育資料に反映します。ここまでで、部門が変わっても同じ品質で回せる「標準運用」と、障害時の復帰手順まで含む最小限の運用設計が整います。

365日:横展開と定着化

一年の終わりに向けて、対象を全社へ広げながら、仕組みを“続く形”に固めます。導入済みのプロセスを横断してKPIダッシュボードを整備し、月次の共有会で数値と改善案を確認する場を固定化します。権限の棚卸しや操作ログの点検を定例化し、規程やデータ辞書の更新履歴を残すことで、担当者が替わっても同じ水準で運用できるようにします。

周辺業務との連携も進め、購買や予実管理、支払依頼といった前後工程とデータでつながるようにすると、二次的な入力や突合せが減り、全体のスピードが上がります。最後に、導入前に測った基準値と一年間の実績を並べ、コスト・品質・スピードの観点で効果を整理します。この見える化を次年度の実行計画に引き継ぐことで、改善の輪が途切れず回り続けます。

AI×DX時代の人材と体制:スキル転換と学び直し

経理にAI×DXを根づかせるには、入力中心の役割から、データの設計や運用の仕組みづくり、そして成果の評価と改善までを担う役割へと視野を広げることが大切です。職務の定義を更新し、育成計画と評価のものさしを整えることで、担当者が入れ替わっても力が積み上がる“続く組織”に変えていけます。評価軸には「正確さ・速さ」に加えて「改善と共有」を明確に位置づけ、学び直しを前提にした体制にします。

新しい職務像(データ×経理)

これからの担当者は、単に伝票を入力するだけでなく、「どのデータを、どの形で、どこに残すか」を設計し、日々の運用を監修する役割を担います。例えば、請求書や経費の電子化を進めるとき、ファイル名やメタデータの項目、保存年限や検索条件を決めるのは現場の知見が最も活きる部分です。あわせて、承認フローの分岐や例外処理の基準、記録(監査ログ)の粒度も設計し、試し運用で得た気づきを反映し続けます。

日常では、KPIダッシュボードで処理時間や差し戻しの傾向を見守り、迷いの多い入力欄を直す、マスタの表記ゆれをなくす、といった小さな改善を積み重ねます。人は最終的な品質保証を担い、AIの提案は“下書き”として活かす。その前提を崩さないことが、安心して自動化の範囲を広げるコツです。

育成計画と評価指標

学び直しは段階的に進めると定着します。最初の段階では、電帳法やインボイス制度の要点、クラウド前提の保管と検索の考え方を押さえ、続いてメタデータ設計や権限設計、記録の残し方をケースで学びます。実務に入ったら、現状の見える化→試し運用→横展開のサイクルに合わせて振り返りの場を設け、改善点をその都度運用に戻します。

評価は、処理時間の短縮度合い、差し戻し率や誤検知率の低下、監査ログの網羅率といった“結果”に加え、データ辞書や運用手順書の更新、標準化の提案、社内勉強会での共有といった“改善と共有”の行動を重視します。たとえば「再発防止策を提示してから実装までの平均日数」「標準運用の更新件数」「KPIレビューの実施回数」といった指標を定め、90日・180日・365日の実行計画に沿って追いかけると、成長が見えやすくなります。

外部エコシステムの活用

社内だけで完結させず、外部の知見を継続的に取り込む仕組みも重要です。公的な解説や業界団体の資料で法対応の最新動向を確認し、必要に応じて専門家の助言を受けます。利用しているクラウドやAIのアップデート情報は、定例のレビューで共有し、影響がある箇所は早めに運用へ反映します。他社の事例やコミュニティで得たコツは、社内ナレッジに短く書き残し、検索しやすい形で保管します。

こうして外の知恵を内の標準へ翻訳する役割を担う人材が育つと、変化に強い組織になります。小さな試し運用で得た学びを外部の知見と突き合わせ、次の改善へつなぐ。この往復運動を習慣化できれば、技術や制度が変わっても、現場は落ち着いて前に進めます。

AI×DX導入前後のKPI設計と効果測定

取り組みを“やりっぱなし”にしないために、導入前の基準値をきちんと押さえ、試し運用→拡大→定着のそれぞれで同じ物差しで比較できるようにしておきます。指標は処理時間やエラー率、差し戻し件数、残業時間、処理コスト、証跡(監査ログ)の網羅率といった定量値を中心に据え、意思決定の場で迷わず使える形に整えます。

指標の選び方

まず目的と直結する数値を3〜5つに絞り、スピード・品質・統制・コストのバランスが崩れないよう組み合わせます。たとえばスピードなら「受領から承認までの平均処理時間」や「月次締めのリードタイム」、品質なら「一次通過率(差し戻しなしで完了した割合)」や「読み取りの正否」、統制なら「証跡の網羅率」や「承認ルート準拠率」、コストなら「一件あたりの処理コスト(人件費換算+システム費)」が軸になります。

AIを使う場合は「候補の採用率」「人が加えた修正の平均回数」「AIが自信なしと判断した比率」のような補助指標を添えると、表面上のスピード改善に引きずられずに全体像を見渡せます。いずれの指標も、分子と分母、対象範囲、データの取得元、除外条件、計測単位を文章で定義しておくことが肝心です。

例えば、差し戻しの定義を「承認者からの訂正依頼のみ」とするのか「申請者自身の取り下げも含む」のかで数値は大きく変わります。件数が多い現場では「100伝票あたりの問い合わせ件数」のように標準化しておくと、部門や月をまたいだ比較がしやすくなります。

以下の記事では、DX導入の手順とKPI早見表を掲載していますので参考にしてください。

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測定のタイミングと粒度

基準値は導入前の実データから取り、繁忙期・閑散期の偏りを避けるため少なくとも二〜四週間分を使って平均とばらつきを確認します。試し運用の期間は週次で短いサイクルの振り返りを行い、拡大段階では隔週から月次に切り替えて安定性を確かめます。処理時間は「受領→下書き作成→承認→記帳」のように工程ごとの区切りで測定し、どこで時間がかかっているかを特定できる粒度を保ちます。

季節要因の影響を減らすには、同じベンダー群や同じ費目を“コホート”として追跡する方法が有効です。品質の監査は全件でなくてもよく、無作為抽出で一定割合を二重チェックすれば十分に傾向をつかめます。可能であれば、変更の影響を見極めるために対象外の比較群(従来運用のままの取引先など)を少量残し、前後差だけでなく同期間の相対差でも確認します。運用やモデル、マスタの更新を行った日は必ず記録し、その前後で指標の変化を見ます。

可視化と報告の型

現場と経営が同じ絵を見られるよう、ダッシュボードは一枚で完結させます。左上に「主要KPIの現在値と目標値」、右側に直近13週の推移グラフ、下段に“なぜそうなったか”と“次に何をするか”の短いメモを置く構成が扱いやすい形です。数値の色分けは閾値を事前に取り決め、緑・黄・赤の三段階で判断を迷わせない設計にします。グラフには運用変更やモデル更新のマーカーを入れ、変化点と数値の動きを後から結び付けられるようにしておきます。

定義の表(分子・分母・対象・除外・データ源)はダッシュボード内に常設し、誰が見ても同じ意味で読める状態を保ちます。月次の共有会では、KPIの結果だけでなく、原因と対策、担当者、期限をセットで記録し、翌月に“やったこと”と“効果”を照合します。この記録はスナップショットとして保管し、365日の振り返りで導入前の基準値と並べて比較します。こうした型を実行計画に組み込むことで、数値が単なる報告で終わらず、次の改善へ確実につながる運用になります。

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よくある懸念と対策(FAQ)

導入直前に多くの現場が不安に感じるのは、精度や誤検知への懸念、最終判断の責任は誰にあるのかという分界、そして個人情報の取り扱いです。これらは感覚ではなく、運用規程・記録(監査ログ)・権限設計・教育計画に落とし込めば解消できます。ここでは、現状の見える化試し運用を前提に、明日から使える考え方を整理します。

精度と検証の進め方

まず「正しい状態」を言葉で定義します。請求書なら、取引先名・日付・金額・税区分・勘定科目が一致していることを基準にし、どの項目が外れると差し戻しになるのかも明確にします。導入前に実データで基準値(処理時間、差し戻し率、読み取りの正否など)を測り、試し運用では週次で同じ物差しで比較します。誤りは「読めなかった/読み違えた/規程に合わない提案」などの種類に分け、原因と対策をメモ化して次回に反映します。

AIの提案には自信度を持たせ、自信が低い項目は自動で“人の確認待ち”に送ると、安全にスピードを上げられます。毎月の振り返りでは、候補の採用率や人が加えた修正回数も追い、命名規則やマスタ整備、フォームの文言改善といった“地ならし”で精度を底上げします。モデルやルールを更新した日は必ず記録し、その前後で指標の変化を確認することが、安定運用への近道です。

責任分界の設計

“誰がどこまで決めるか”を先に決めておくと、迷いが減り現場が止まりません。基本は「AIは下書き、人が確定」です。具体的には、AIは読み取りと候補提示、担当者は確認と確定、承認者は金額や相手先のリスクに応じた最終承認、と役割を分けます。金額や機微性に応じて承認段階を可変にし、一定の条件(高額・新規取引先・自信度が低い等)では必ず人が介入する“停止条件”を規程に明記します。

設定変更や辞書更新は申請→承認→反映→記録の流れを取り、誰が・いつ・何を変えたかを監査ログで追えるようにします。問い合わせ窓口と対応時間、エスカレーションの順番もあらかじめ決め、実行計画の各段階で教育と周知をセットにすると、責任の所在がぶれません。

個人情報の最小化と保護

安全に活用する鍵は「持たない・見せない・残しすぎない」です。まず、業務に不要な個人情報は集めない運用に切り替え、自由記述欄には個人情報を書かないようフォームの文言で誘導します。受領した書類は、必要な項目だけをメタデータとして保持し、原本は権限の限られた場所に保管します。閲覧・編集・承認の範囲は役割ごとに分け、アクセスは必ずログ化して月次点検で過剰権限を外します。

学習やテストでは、できる限り匿名化・マスキング済みのデータを使い、本番データを持ち出さないルールを徹底します。保存年限と削除手順は社内規程に落とし込み、退職・異動時の権限停止も運用に組み込みます。こうした基本を試し運用から習慣化し、ダッシュボードで準拠状況を可視化していけば、スピードと安全性を両立できます。

不安は“仕組み”で小さくできます。定義と測り方、役割と記録、最小限のデータ運用を最初に決め、現状の見える化→試し運用→拡大の流れで定着させる。この順番を守れば、導入後も落ち着いて改善を続けられます。

まとめ

経理の変革は、効率化と内部統制、学習サイクルを同時に育てる取り組みです。まずは現状の見える化と紙→クラウド移行に着手し、試し運用で効果とリスクを確認して段階的に広げます。RPAは反復処理、経理AIエージェントは例外・読解に充て、権限設計と監査ログでガバナンスを担保します。

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