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立替精算は「会社が負担すべき費用をいったん従業員や取引先が支払い、後から会社が精算するしくみ」であり、区分・証憑・承認フローを整えれば、回収漏れや税務リスクを防ぎながらスムーズに回せます
人手不足のなかでも立替精算を滞りなく回すには、立替金と仮払金の違い、精算書とインボイスの組み合わせ、電子帳簿保存法の要件、そしてシステムやAIの「任せどころ」をひと続きで押さえることが重要です。
本記事では、経理部長・実務担当者の方に向けて、立替精算の基礎から仕訳の型、承認と内部統制、インボイス・電帳法対応、経費精算システム・経理AIエージェントの活用までを、実務目線で整理します。
立替精算について、まず押さえたい4つの疑問Q&A
まずは「立替精算とは何か」「仮払金とどう違うのか」といった、よくある疑問への答えを先に整理します。詳細は各章で解説しますが、最初に全体像の結論だけをつかんでおきましょう。
Q1.立替精算とは?仮払金とは何が違うのですか?
A.立替精算は、本来は会社が負担すべき費用を、従業員や取引先が一時的に支払い、後から会社が精算するしくみです。これに対し仮払金は、費用が確定する前に会社が概算でお金を渡しておく前渡しで、後から正しい勘定科目に振り替えます。「いつ支払うか」と「誰の費用か」の2点で区別すると整理しやすくなります。
Q2.立替精算で絶対に押さえるべきポイントは何ですか?
A.重要なのは、①立替金と仮払金の区分、②精算書と領収書などの証憑を揃えること、③金額・費目・相手先に応じた承認フローを決めることの3点です。ここが曖昧だと、回収漏れや長期滞留、税務・監査での指摘につながるため、まずはこの3点を標準ルールとして固めることが大切です。
Q3.インボイス制度や電子帳簿保存法とは、立替精算にどのように関係しますか?
A.従業員立替や取引先立替が絡むときは、適格請求書だけでなく、立替金精算書や立替請求書とセットで「誰が立て替え、最終的に誰が費用を負担したか」を示す必要があります。電子帳簿保存法では、これらの証憑を日付・金額・取引先で検索でき、改ざん防止と見読性(すぐに画面や紙で読める状態)を確保した形で保存することが求められます。
Q4.立替精算の負担を減らすには、何から着手すればよいですか?
A.最初は旅費交通費など対象を絞り、「入力必須項目」「承認基準」「証憑の揃え方」の型を作るところから始めるのが現実的です。そのうえで、経費精算システムや経理AIエージェントに入力チェックや証憑突合、承認サマリ作成を任せれば、差し戻しと承認待ち時間を大きく減らしつつ、人手不足でも回る運用に近づけます。
立替精算とは?仮払金との違いと基本の流れは?
立替精算は従業員や取引先が一時的に支払った費用を会社が後から精算するしくみで、仮払金との違いを押さえたうえで、申請→承認→仕訳→精算の基本の流れを型として決めておくことが重要です。ここでは立替金の勘定科目、仮払金との違い、よくある誤解をやさしく整理します。基礎用語がそろうと、後段の承認・法対応・保存までの道順が明確になります。
立替精算とは?
立替精算は、本来は会社が負担すべき費用を、従業員や取引先などが一時的に支払い、後から会社が正しく精算する仕組みです。基本の流れは、まず申請者が支払い事実と金額、目的、証憑(領収書や請求書)をそろえて申請し、承認者が社内規程に照らして妥当性を確認します。
立替精算と仮払金、さらに立替金は、どれも「一時的な支払い」や「後からの精算」といった共通点があるため、現場では混同されやすい概念です。しかし、「いつ支払うのか」「誰の費用を一時的に負担しているのか」「どの勘定科目で管理するのか」という軸で整理すると、それぞれの役割と使い分けがはっきりします。以下の早見表で、3つの違いを一度整理しておきましょう。
【定義と使い分け】立替精算・仮払金・立替金の違い早見表
| 項目 | 立替精算 | 仮払金 | 立替金 |
|---|---|---|---|
| 概要 | 会社が負担すべき費用を従業員や取引先が一時的に支払い、後から会社が精算する一連の実務 | 費用の内容や金額が確定する前に、会社が概算で渡す前渡し・一時的な預け金 | すでに発生した他人の支払いについて、会社が後から負担することを記録する科目 |
| 支払いタイミング | 従業員・取引先が先に支払い、その後会社が精算する | 取引の前または途中で会社が先にお金を渡す | 会社が支払うタイミングで同時に立替金を計上する |
| 一時的に負担するのは誰か | 従業員や取引先など(会社以外)が一時的に立て替える | 会社が一時的に資金を渡し、後から精算して正しい科目に振り替える | 会社が最終負担者となる前提で、他人の支払い分を後から負担する |
| 主な利用シーン | 出張旅費、会議費、交際費など、従業員の経費立替や取引先の立替請求 | 出張旅費や備品購入の概算前渡し、仮の支払いなど用途確定前の支出 | グループ会社や取引先の支払いを一時的に負担し、後から精算・請求する場合 |
| 代表的な勘定科目 | 旅費交通費、会議費、交際費などの費用科目+必要に応じて立替金 | 仮払金(精算後に各費用科目へ振り替え) | 立替金(精算時に費用科目や売掛金・買掛金などへ振り替え) |
| 従業員の資金負担 | 従業員立替の場合は一時的に個人の資金負担が発生する | 会社が先にお金を渡すため、従業員には原則資金負担が発生しない | 原則として従業員の資金負担はなく、会社やグループ内での立替が中心 |
承認後は経理が勘定科目と税区分を判定して仕訳を起こし、最後に振込や給与控除などで実際の精算を行います。全体を一続きの手順として設計しておくと、差し戻しや抜け漏れが減り、月次決算も安定します。
立替金と仮払金の違いを間違えない
立替金は「すでに発生した他人の支払いを会社が後で負担する」場面で使う科目で、申請が承認されれば費用化の対象になります。一方、仮払金は「目的が確定していない前渡し」や「精算前の一時的な預け金」を示し、後から正しい費用科目に振り替えます。
混同すると残高が滞留し、費用の計上時期や税区分の判断を誤りやすくなります。領収書の名義、支払い主体、費用の発生根拠を丁寧に確認し、立替金は速やかに費用へ、仮払金は早期に消し込み、という基本の型を守ることが重要です。
以下の記事では、立替金と仮払金の違いを実際の仕訳例を用いて解説していますので参考にしてください。
立替精算を誤ると、どんなリスクやNGが発生しますか?
区分誤りや承認遅延、証憑不備が続くと、回収不能や決算遅延、税務・監査での指摘につながるため、典型的なNGパターンとその防止策をあらかじめ明確にしておく必要があります。回収漏れや長期未処理は、キャッシュフロー悪化や課税リスクにつながります。ここでは何がNGかを具体例で明確にし、未然防止のための運用ポイントを示します。
ありがちな失敗①:区分誤りが引き起こす連鎖
立替金と仮払金を取り違えると、費用の計上時期がずれ、月次の損益が歪みます。さらに残高が長期化すると、精算の優先順位が下がって担当者も把握できなくなり、最終的には回収不能や税務指摘の火種になります。最初の入力段階で「誰が支払ったか」「何のために支払ったか」「会社の負担か」を明確にし、科目の選択を一定のルールに沿って行うことが、連鎖的な不具合を防ぐ近道です。
ありがちな失敗②:承認の遅れと差し戻しの常態化
申請項目の不足や証憑の不備が多いと、承認者は内容確認に時間を要し、差し戻しが繰り返されます。これが常態化すると、申請者は申請自体を後回しにし、処理が月末や期末に集中します。結果として、経理の負荷が高まり決算締めの遅れにもつながります。費目ごとの必須項目を明確にして入力チェックで未記入を防ぎ、承認者には判断の観点を簡潔に提示することで、やり取りの往復を最小化できます。
ありがちな失敗③:証憑不備・保存不備による指摘
領収書の欠落や不鮮明な画像、名義や日付の不整合は、監査や税務での典型的な指摘事項です。電子保存へ移行する場合は、検索要件を満たす形でメタデータを整理し、精算書と領収書、承認ログが相互に参照できる状態にしておく必要があります。日付・金額・取引先で即時に検索でき、一覧から原本へすぐ遷移できる運用にしておけば、指摘対応の工数を大きく減らせます。
立替精算の実務フローと仕訳はどう設計すべきですか?
申請→承認→仕訳→精算の各ステップで必要情報と判断基準を定義し、従業員立替・取引先立替それぞれの仕訳の型と消し込み(立替金をゼロに戻す処理)手順までを一続きのフローとして設計することで、差し戻しや滞留を防げます。実務では、申請→承認→仕訳→精算の各段階で迷いをなくす設計が有効です。
この章では、差し戻しを減らす入力チェック、担当者が迷わない仕訳の型、給与控除・売掛回収などの消し込み手順まで、ひと続きで説明します。実務の全体像を一度に把握できると、後工程の迷いがぐっと減ります。下図で、申請から精算完了までのフローを確認してください。
図:立替精算の標準フロー(申請→承認→仕訳→精算)

いまの自社フローと照らし合わせ、抜けや重複がないかを点検しましょう。
差し戻しを減らす入力と承認の設計
標準フローは、申請で必要情報を揃えることから始まります。目的、費目、金額、日付、相手先、参加者などの必須項目を明示し、証憑を確実に添付します。承認では金額や費目に応じて段階を切り替え、社内規程との整合を短時間で確認できるよう、申請内容を簡潔に要約します。
経理は承認済みの申請を受けて科目と税区分を判定し、社内のルールに沿って仕訳を起こします。最後に、振込または給与からの相殺で精算を完了し、精算書・証憑・承認ログを同じIDで紐づけて保存します。この一連の道順が明確なら、担当者の迷いが減り、処理が流れるように進みます。
差し戻しの多くは必須項目の不足と承認観点のばらつきが原因です。下のテンプレートを土台に、まずは費目別の“最低限”を揃えましょう。
表:差し戻し削減テンプレート(入力チェック文例)
| 費目 | 必須入力 | 入力チェック(エラーメッセージ例) | 補足 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 出発日・区間・目的・領収書 | 「目的が未入力です」「区間の記載が不足しています」 | IC明細の場合は区間CSV添付も可 |
| 会議費 | 開催日・議題・参加者・領収書 | 「参加者の記入がありません」「議題の記入がありません」 | 社外含む場合は所属先も必須 |
| 交際費 | 接待先・目的・金額・領収書 | 「接待先(社名/氏名)が未入力です」 | 社内飲食は会議費へリダイレクト |
入力ルールを整えるだけでなく、「どの条件なら誰が承認するのか」「何を確認してOKとするのか」という承認基準もセットで決めておく必要があります。特に、金額や費目、決済手段(現金・個人カードなど)によって承認者や確認観点を変えておくと、現場の判断がぶれにくくなります。以下は、差し戻しを減らしつつリスクも抑えるための承認基準の例です。
差し戻し削減テンプレート(承認基準の例)
| 条件 | 承認者 | 確認観点 | 自動判定ルール例 |
|---|---|---|---|
| 金額3万円以下かつ社内会議費 | 一次=上長 | 参加者・議題の妥当性/領収書の有無 | 必須項目がすべて入力されていれば自動承認候補とする |
| 金額3万超〜10万円かつ交際費 | 一次=上長、二次=部門長 | 接待先・目的の具体性/社内規程との整合 | 規程で定義したリスクワードに一致した場合は要レビューとする |
| 個人カード利用 | 一次=上長、二次=経理 | 私的利用混在の有無/明細の分割記載 | 私的利用が疑われるワードを検知した場合は差し戻しとする |
この型をそのままツールに落とし込めば、申請の質が底上げされ、承認者の判定も揃います。続いて、仕訳の型を決めて迷いをなくします。
仕訳の型:従業員立替/取引先立替
従業員が立替えた場合は、承認時点で「立替金」の発生を記録し、精算時に費用化と消し込みを行います。交通費や会議費など、費目別の勘定科目と税区分の型を事前に用意しておくと、判断が速くなります。取引先が立替えた場合は、立替請求に基づいて債務を認識し、適切な費用科目へ振り替えたうえで支払います。
いずれの型でも、長期滞留を避けるために、月次で未精算残を確認し、一定期間を超えたものは原因を特定して解消します。回収不能の兆しがある場合は、規程に従い責任区分と処理方針を明確にしておくと、混乱を防げます。
立替精算の承認フローと内部統制はどう整えるべきですか?
金額・費目・相手先に応じた承認段階、前渡しの期限や立替上限、証跡の紐付け方をルール化し、承認ログまで含めて一貫した運用にすることで、不正防止と回収漏れ防止の両立が可能になります。不正や遅延を防ぐには、金額・費目・相手先に応じて承認段階を切り替える仕組みが有効です。テンプレ化と証跡の残し方をセットで解説します。
上限・例外のルール化
承認の基準は、金額、費目、相手先の3つを軸に段階化すると分かりやすくなります。例えば少額の社内会議費は上長のみ、それを超える交際費は部門長も確認、といった具合です。前渡しには期限を設け、一定期間を過ぎたものは自動で経理にアラートが届くようにします。個人カード利用は私的利用の混在リスクがあるため、明細の分割記載や社内規程との整合を必須とし、社内で要注意と決めたキーワードを自動で検出する機能(リスクワードの検知)でレビューを促す運用にしておくと安心です。
証跡の揃え方:精算書・領収書・承認ログの紐付け
証跡は、精算書、領収書(または請求書)、承認ログの3点を同一の精算IDで結びつけるのが基本です。紙と電子が混在する時期は、一覧画面から原本データへ即時に遷移できる導線を整え、検索条件に日付・金額・取引先を必ず含めます。これにより、監査や社内照会に対して短時間で根拠を提示でき、運用の信頼性が高まります。
立替精算でインボイス制度に対応するには、どんな書類が必要ですか?
従業員立替や取引先立替では、販売者が発行した適格請求書に加えて、立替金精算書や立替請求書を組み合わせて保存し、「最終的な費用負担者が会社である」ことを書類の組み合わせで追える状態にしておくことが重要です。取引先や従業員の立替が絡む場合、単に相手先宛のインボイスを保管するだけでは不十分なケースがあります。実務で必要となる書類の組み合わせと保存の考え方を解説します。
立替が絡むと、名義と書類の組み合わせを正しくそろえることが重要です。よくある3つのパターンを以下の図で整理します。
図:立替が介在するインボイスの保存関係

自社に該当するパターンにチェックを入れ、精算書や立替請求書の有無を最終確認してください。次に、各パターンごとの保存ポイントを具体化します。
どんな時に「精算書」が要るのか?
従業員が自分名義で支払い、会社が後から負担する場合は、販売者が発行した適格請求書に加えて、従業員から会社への立替金精算書が必要です。取引先が一時的に支払い、会社に請求する場合は、販売者から取引先への適格請求書と、取引先から会社への立替請求書をセットで保存します。いずれも「最終的な費用負担者が会社である」ことを、書類の組み合わせで追える状態にしておくことが大切です。
保存のポイントは、名義、日付、金額、取引の流れが書類間で一致していることです。適格請求書の発行者と受領者、精算書や立替請求書の発行者と受領者を対応づけ、一覧から原本へすぐ辿れるようにしておきます。これにより、仕入税額控除の要件確認や後日の照会に素早く対応でき、不要な差し戻しや再提出を防げます。
以下の記事では、立替金精算書の作り方と保存セットを詳しく解説していますので参考にしてください。
電子帳簿保存法では、立替精算の証憑をどのように保存すればよいですか?
立替精算の証憑も含めて、日付・金額・取引先で検索でき、改ざん防止と見読性を確保したうえで、精算書・領収書・承認ログを同じIDで紐づけて保存することが、電帳法対応の最低ラインとなります。紙の精算書や領収書は、スキャナ保存や電子取引データの保存に移行する流れとなります。実務では、検索要件(日付・金額・取引先など)と即時出力性が肝心です。
ここでは最低限の必須要件と、現行運用からの段階的な移し替え手順を示します。電子帳簿保存法では、「日付・金額・取引先で検索できること」や「改ざん防止」「画面・書面での提示のしやすさ」など、いくつかの要件が定められています。
ただし、条文をそのまま読んでも、「自社のシステム運用として何ができていればよいのか」が分かりにくいのが実務上の悩みどころです。以下のチェックリストを使って、自社の立替精算フローがどこまで電子帳簿保存法に“寄せられているか”を確認してみましょう。
表:“検索できる保存”チェックリスト(電子帳簿保存法)
| 要件 | できていればOK(最小基準) | 運用のヒント(実装例) | 点検頻度 |
|---|---|---|---|
| 検索要件(項目) | 日付・金額・取引先の3項目で検索できる | メタデータに「伝票日付・税込金額・相手先名」を保持し、CSV出力も可能にする | 四半期ごと |
| 検索要件(範囲指定) | 日付と金額の範囲指定で抽出できる | 日付のFrom/To、金額のMin/Maxを画面やCSVインポートで指定できるようにする | 四半期ごと |
| 組み合わせ検索 | 複数項目を組み合わせて検索できる | 例:「2025年4〜6月 × 税込10万円以上 × 取引先A」を条件として保存・再利用できるようにする | 四半期ごと |
| 真実性の確保 | 改ざん防止のしくみがある | タイムスタンプやハッシュ化に加え、アクセス権限・変更ログを記録する | 半期ごと |
| 見読性の確保 | 画面・書面で速やかに提示できる | 一覧画面から原本PDFへワンクリックで遷移できるようにし、出力上限時間の社内基準を定める | 月次 |
| 関連書類の紐付け | 精算書・領収書・承認ログがIDで相互参照できる | 精算ID・添付ID・承認履歴IDを統一キーで管理し、一覧から相互にジャンプできるようにする | 月次 |
以下の記事では、電子帳簿保存法の全体像を図解で解説していますので参考にしてください。
スキャナ保存/電子取引の基本要件
電子保存では、日付、金額、取引先の3つの検索項目を備え、範囲指定や組み合わせ条件で抽出できることが必須です。「真実性の確保」(改ざんされていないことを証明する仕組み)として、タイムスタンプやハッシュ化、アクセス権限の管理、変更履歴の記録が求められます。見読性の確保では、画面や紙で速やかに出力できることが重要で、社内では「要求から提示までの上限時間」を基準として決めておくと運用がぶれません。
運用を崩さずに電子保存へ寄せるコツ
紙中心の運用から段階的に移す場合は、まず対象を限定し、既存の業務フローを崩さずに電子化の手順を重ねます。精算書と領収書を同じIDで束ね、CSVや一覧画面から原本へワンクリックで遷移できるようにすれば、現場の操作感は大きく変えずに検索要件を満たせます。月次の点検で検索テストと出力テストを行い、課題があればルールと設定をすぐに見直します。
立替精算システムと経理AIエージェントは、どこまで任せられますか?
入力チェックや証憑突合、承認サマリ作成、検索・監査対応といった定型処理はシステムやAIに任せ、人は例外判断とルール改善に集中することで、人手不足下でも立替精算が回る体制を作ることができます。ここでは、経費精算システムと経理AIエージェントの役割分担、スモールスタートの小規模検証の回し方、定着化のKPI例を示します。
いきなり全社に広げるのではなく、小さく試して効果を測るのが失敗しない近道です。次の表で3ステップの進め方を明確にします。
小規模な試し運用(スモールスタート)の回し方
| 段階 | やること | 対象/期間 | 成果の見方 |
|---|---|---|---|
| ① まず小さく始める | 費目を1つ(例:会議費)に限定し、入力チェックと承認基準を適用 | 1部門×1ヶ月 | 差し戻し率・承認リードタイムの改善幅 |
| ② 自動化を拡張 | 証憑の自動読取・仕訳候補・承認ログの整備を追加 | 同部門×次の1ヶ月 | 検索ヒット率・電子保存率の向上 |
| ③ 横展開 | 対象部門・費目を段階的に拡大し、規程に反映 | 全社へ段階展開 | 月次でKPIが安定(目標未達はルール再設計) |
まずは1部門×1費目×1か月で回し、得られた学びを規程やテンプレに反映します。続いて、人とツールの役割分担を固めて定着を加速します。人は例外判断、ツールは定型処理という役割分担を定義すると、効果が安定して出ます。下表で主要工程ごとの担当と期待効果をそろえましょう。
AIエージェントの役割分担(人×ツール)フロー
| 工程 | ツール(経費精算システム/AIエージェント) | 人(申請者/承認者/経理) | 期待する効果 |
|---|---|---|---|
| 証憑読取・不足指摘 | OCR・テキスト化/必要項目の欠落アラート | 不足項目の追記・修正 | 差し戻し削減・入力時間短縮 |
| 要約・分類・仕訳候補 | 費目提案・仕訳候補・社内規程との照合 | 候補の確認・例外時の判断 | 仕訳ミス抑制・処理高速化 |
| 承認支援 | リスクワード検知・承認サマリ生成 | 重要論点のチェック・合意 | 承認リードタイム短縮 |
| 検索・監査対応 | 検索条件の定型化・監査ログ自動作成 | 例外照会へ回答・再発防止の見直し | 監査対応の迅速化 |
この分担をベースにKPIを置けば、改善点が数字で見える化されます。最後に、定着状況を測るスコアカードで成果を追いかけます。取り組みのよし悪しは、差し戻し率や承認リードタイムなどの数字で判断します。下表の定義と計測式を、そのまま自社のダッシュボードに反映してください。
KPIスコアカード:定義・計測式・初期目標
| KPI | 定義 | 計測式 | 初期目標 |
|---|---|---|---|
| 差し戻し率 | 差し戻し件数の割合 | 差し戻し件数 ÷ 申請件数 × 100% | ≦ 5% |
| 承認リードタイム | 申請から最終承認までの平均日数 | Σ(承認完了日−申請日)÷ 件数 | 前月比 −30% |
| 検索ヒット率 | 指定条件で対象証憑が即時に見つかる割合 | ヒット件数 ÷ 検索総件数 × 100% | ≧ 95% |
| 電子保存率 | 電子で要件を満たして保存できた割合 | 電子保存件数 ÷ 対象件数 × 100% | ≧ 90% |
| 回収遅延残高 | 月末時点の未精算・長期滞留残高 | 当月末未精算残高(うち30日超の割合も併記) | 前月比 −20% |
KPIが月次で安定していれば横展開のサインです。未達が続く指標は、入力チェックや承認基準の見直しに直結させ、次サイクルで改善します。
経費精算システムで減らせる負荷
経費精算システムは、入力時の必須項目チェック、証憑と申請内容の突合、承認経路の自動分岐、検索画面から原本への即時遷移といった定型処理を高速化します。これにより、申請者は迷わず必要情報を揃えられ、承認者は判断に必要な要点だけを短時間で確認できます。経理は仕訳の型に沿った処理がしやすくなり、月次の締めも安定します。
経理AIエージェントで広がる自動化
AIエージェントは、証憑の読み取りから要点の要約、費目や税区分の候補提示、社内規程との照合までを支援します。申請の内容を短くまとめて承認者に提示し、リスクの高い表現や金額には注意喚起を行います。人は例外判断に集中できるため、差し戻しが減り、承認のリードタイムも短くなります。学習を重ねれば、よくあるパターンの精度はさらに高まります。
小規模検証の進め方と定着KPI
いきなり全社導入を目指すのではなく、まずは1つの部門・1つの費目・1か月という小さな範囲で試します。差し戻し率や承認リードタイム、検索ヒット率といった指標を測り、得られた気づきをルールやテンプレに反映してから対象を広げます。KPIが月次で安定していることを確認しながら段階的に展開すれば、現場の負担を抑えつつ定着させることができます。
立替精算の実務と法対応の全体像を押さえたうえで、どの業務からどのレベルまで自動化するか、AI活用やシステム連携の進め方を具体的に検討したい場合は、立替精算の自動化に特化した解説記事も参考になります。
立替精算でよくある質問と、実務での判断のポイントは何ですか?
仮払金との線引きやインボイスの書類組み合わせ、電帳法の最低要件など、迷いやすい論点ごとに判断の軸を整理しておくことで、現場からの質問対応や社内ルールの統一がスムーズになります。仮払金との違い、インボイスの書類組み合わせ、領収書の電子保存、個人カードの可否、給与からの控除処理など、実務で迷いがちな論点をQ&Aで確認しましょう。
ここまでの内容を実務に落とし込む際に、現場からよく上がる質問を先回りで整理しました。疑問点があれば、まずは以下をご確認ください。
Q. 仮払金と立替金はどう見分けますか?
仮払金は目的が確定していない前渡しや一時的な預け金で、後から正しい費用科目に振り替えます。立替金はすでに発生した支払いについて会社が後で負担するもので、承認が済めば費用化の対象になります。支払主体、名義、目的の3点を確認すると判別しやすくなります。
Q. 立替が絡むときのインボイス保存は?
最終的に会社が負担する取引であれば、販売者が発行した適格請求書に加えて、立替を示す精算書や立替請求書をセットで保存します。名義と日付、金額の対応関係が書類間で追えることが大切で、一覧から原本へ即時にアクセスできる運用にしておくと照会対応がスムーズです。
Q. 電帳法で最低限そろえるべき要件は?
日付、金額、取引先で検索でき、範囲指定や組み合わせ条件で抽出できることが基本です。加えて、改ざん防止の仕組みと、画面や紙で速やかに提示できる見読性を確保します。精算書、証憑、承認ログが同じIDで紐づくように整えておけば、監査時の確認も短時間で行えます。
FAQで解決しない論点は、社内規程や業務フローに合わせて個別に調整しましょう。必要に応じて、テンプレートや図の文言も自社表記に置き換えてください。
まとめ:立替精算を正しく回すための「3つの軸」とは?
立替精算は、①立替金と仮払金の正しい区分と仕訳、②精算書+適格請求書+承認ログによる証憑と保存、③経費精算システム・経理AIエージェントを活用した運用改善という3つの軸をそろえることで、人手不足のなかでも安定して回るしくみになります。仮払金/立替金の区別と仕訳を誤らず、立替金精算書+適格請求書でインボイス要件を満たし、電帳法の検索要件を押さえた保存運用に移行しましょう。負荷の高い照合作業は経費精算システムとAIエージェントに任せ、担当者は例外処理とルール改善に集中する。これが人手不足下でも回る実装の“道順”です。










