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フリーランス保護新法に対応する契約書の作り方とは?雛形・記載例つき

更新日:2025.10.15

この記事は約 7 分で読めます。

フリーランス保護法_契約書

2024年11月から「フリーランス保護新法」が施行されるにあたり、多くの企業の法務・総務担当者様や、フリーランスへの発注を管理するマネージャー様が、その対応に追われていることと存じます。「新しい法律で何が変わるのか?」「今使っている業務委託契約書は、このままで大丈夫なのだろうか?」といった不安や疑問をお持ちではないでしょうか。特に、法務の専門家が社内にいない場合、何から手をつければ良いのか分からず、頭を悩ませている方も少なくないはずです。

この法律は、フリーランスという働き方を選択する人々を不当な取引から守ることを目的としていますが、同時に、発注者である企業側にも新たな義務を課すものです。知らず知らずのうちに法律に違反してしまう事態は、企業の信用問題にも関わるため、絶対に避けなければなりません。

→ダウンロード:電子取引の電子保存制度対応チェックリスト18項

この記事では、フリーランス保護新法の概要から、企業が対応すべき具体的な実務、特に重要となる「契約書」の作り方や見直し方まで、専門用語を極力避けながら、分かりやすく網羅的に解説します。具体的な記載例や、既存契約書の見直しに使えるチェックリストもご用意しました。

この記事を最後までお読みいただければ、法改正への漠然とした不安が解消され、「自社でもスムーズに対応できる」という具体的なイメージが湧き、安心して実務に着手できるようになるはずです。

そもそもフリーランス保護新法とは?

まずは、今回の法改正の基本についておさらいしましょう。フリーランス保護新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)がどのような法律なのか、その背景や目的を理解することで、なぜ契約書の見直しが重要になるのかが見えてきます。

2024年11月1日から施行される新しい法律です

フリーランス保護新法は、2024年11月1日に施行が予定されている、比較的新しい法律です。これまで、フリーランスは労働基準法などの労働者保護法の対象外であり、発注者との力関係の差から、報酬の未払いや一方的な契約解除といったトラブルに遭いやすいという課題がありました。この法律は、そうした不安定な立場に置かれがちなフリーランスの取引条件を公正にし、安心して働ける環境を整備することを目的としています。企業にとっては、法令を遵守するだけでなく、優秀なフリーランスと良好なパートナーシップを築くための新たなルールと捉えることができます。

なぜこの法律が必要になったのか?(背景)

近年、働き方の多様化により、フリーランスとして活動する人は増加の一途をたどっています。企業にとっても、専門性の高いスキルを持つフリーランスは、事業を推進する上で不可欠な存在となりました。しかし、その一方で、発注者側からの突然の契約打ち切りや、報酬の支払い遅延、契約内容にない業務の強要といったトラブルが後を絶ちませんでした。こうした問題は、フリーちゃんとした契約書を交わしていなかったり、取引内容が口約束で曖昧だったりする場合に特に発生しやすくなります。そこで国は、企業とフリーランス間の取引を明確化・適正化し、トラブルを未然に防ぐための法整備を進めることになったのです。

法律の対象となる事業者(発注者・フリーランス)は?

この法律が特徴的なのは、対象となる事業者の範囲です。「フリーランス」と聞くと個人をイメージしがちですが、この法律では、従業員を使用しない個人事業主や、代表者1人の法人も「特定受託事業者」として保護の対象に含まれます。

一方で、発注者側である「特定業務委託事業者」は、従業員を使用するすべての企業・個人事業主が対象となります。つまり、自社に従業員が1人でもいれば、フリーランス(従業員のいない個人事業主や一人社長の法人)に業務を委託する際には、この法律が適用されるのです。これまで「うちは中小企業だから関係ない」「個人への外注だから大丈夫」と考えていた企業も、今後は例外なく対応が求められることになります。

参考:公正取引委員会 2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイ

国税庁・公正取引委員会の注目資料を解説

【発注者向け】フリーランス保護新法で義務付けられること

では、具体的に企業側にはどのような義務が課されるのでしょうか。特に重要なポイントは「取引条件の明示義務」ですが、それ以外にも遵守すべき項目がいくつかあります。ここでは、発注者として最低限知っておくべき義務の全体像を解説します。

最も重要な「取引条件の明示義務」とは?

この法律の根幹とも言えるのが、「取引条件の明示義務」です。これは、フリーランスに業務を委託する際に、委託する業務内容、報酬額、支払期日といった重要な条件を、書面または電磁的方法(PDFファイルなど)で速やかに明示しなければならない、というルールです。これまで口頭での発注や、簡単なメールでのやり取りで済ませていた場合でも、今後は法律で定められた事項を網羅した契約書等の交付が必須となります。この義務を怠ると、後のトラブルの原因になるだけでなく、行政からの指導や勧告の対象となる可能性があるため、確実な対応が必要です。

報酬の遅延防止(60日以内ルール)

フリーランスの生活安定を図るため、報酬の支払期日にも明確なルールが設けられました。原則として、フリーランスから給付(納品物など)を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に、支払期日を設定する必要があります。もし、給付を受け取った日よりも先に支払期日を定めていた場合は、その定められた日が支払期日となります。このルールは下請法と類似しており、フリーランスへの資金繰りの負担を軽減することを目的としています。支払いサイクルの見直しが必要な企業は、早急に対応を進めましょう。

一方的な契約解除や減額の禁止

発注者側の都合で、一方的に契約を解除したり、報酬を減額したりすることも厳しく制限されます。フリーランス側に責任がある場合を除き、発注者は契約期間の途中で契約を解除したり、一度合意した報酬を後から減額したりすることはできません。もし、どうしても契約内容を変更する必要が生じた場合は、フリーランスと真摯に協議し、双方の合意を得るプロセスが不可欠です。こうした禁止事項は、フリーランスが安定して業務に集中できる環境を守るための重要な規定です。

募集時の的確な表示義務

フリーランスを募集する広告などにおいても、虚偽の表示や誤解を招くような表示をしてはならないと定められました。例えば、実際には発生しないような高額な報酬を提示したり、業務内容を偽って募集したりすることは禁止されます。募集段階から誠実な情報提供を心がけることが、信頼関係の第一歩となります。

育児介護等への配慮義務

継続的な業務委託契約(政令で定める期間以上)を結んでいるフリーランスから、育児や介護との両立に関する申し出があった場合、発注者側は必要な配慮をすることが義務付けられました。具体的には、業務時間や稼働日の調整、納期延長の協議などが想定されます。フリーランスが長期的に活躍できる環境を整えることも、発注者の重要な役割となります。

参考: freee フリーランス保護法はいつから?発注者が知っておくべき義務についてわかりやすく解説

フリーランス保護新法に対応する契約書の作り方・見直し方

ここからは、本題である契約書の実務について、具体的な作り方と見直しのポイントを解説します。法律で定められた明示事項を漏れなく記載することが、トラブル防止と法令遵守の第一歩です。

契約書に必ず記載すべき「5つの絶対的明示事項」

フリーランス保護新法では、委託する業務内容にかかわらず、必ず契約書等に明示しなければならない事項が定められています。これらを「絶対的明示事項」と呼びます。

絶対的明示事項解説
発注者とフリーランスの商号・名称誰と誰の間の契約なのかを明確にします。法人の場合は正式名称、個人の場合は氏名を記載します。
業務委託をする日契約がいつから開始されるのかを示す日付です。
委託する業務の内容トラブルが最も発生しやすい部分です。「Webサイトデザイン一式」のような曖昧な表現ではなく、「トップページのデザイン制作(PC/SP版)」「下層ページ3種のデザイン制作」のように、成果物や作業範囲をできるだけ具体的に記載することが重要です。
報酬の額消費税込みの金額を明確に記載します。単価や計算方法(例:1記事あたり〇円、時給〇円など)が明確にわかるように定め、後から認識の齟齬が生まれないようにします。
支払期日報酬をいつまでに支払うかを具体的に記載します。「納品月の翌月末払い」のように、起算日と支払いタイミングを明記し、前述の60日以内ルールを遵守します。

これらの5項目は、どのような契約であっても必須です。まずは、現在使用している契約書の雛形に、これらの項目が明確に記載されているかを確認することから始めましょう。

ケース別「相対的明示事項」の記載ポイント

絶対的明示事項に加えて、契約内容に該当する定めがある場合には、それらも明示する義務があります。これを「相対的明示事項」と呼びます。例えば、知的財産権の取り扱いや、秘密保持に関するルールを定めるのであれば、その内容を契約書に記載する必要があります。

相対的明示事項の例記載ポイント
知的財産権の帰属制作物の著作権などが、発注者とフリーランスのどちらに帰属するのかを明確に定めます。特に定めがない場合、原則として制作者であるフリーランスに帰属するため、発注者側で権利の譲渡を希望する場合は、その旨を明記する必要があります。
秘密保持業務上知り得た情報の取り扱いについて定めます。どの情報が秘密情報にあたるのか、契約終了後の守秘義務期間などを具体的に記載します。
契約不適合責任納品物が契約内容に適合しない場合の、フリーランスの責任範囲(修正、代替品の提供、損害賠償など)を定めます。
契約の中途解除・解除権どのような場合に契約を中途解除できるのか、その条件や手続きを明確にします。発注者側の一方的な都合での解除は制限されるため、フリーランス側の債務不履行などを具体的に列挙することが一般的です。
免税事業者との取引における注意点、下請法・独占禁止法

これらの項目は、将来的なトラブルを避けるために非常に重要です。自社の業務内容に合わせて、必要な条項を適切に盛り込むようにしましょう。

【記載例あり】条文ごとの具体的な書き方解説

ここでは、特に重要な「業務の内容」と「報酬」に関する条文の記載例をご紹介します。自社の契約書を作成・修正する際の参考にしてください。

【業務内容の記載例】

悪い例:

第〇条(委託業務)

甲(発注者)は乙(フリーランス)に対し、甲のWebサイト制作業務を委託し、乙はこれを受託する。

これでは、具体的に何をどこまで行うのかが不明確で、後から「これも業務範囲だと思っていた」「それは聞いていない」といったトラブルに発展する可能性があります。

良い例:

第〇条(委託業務)

  1. 甲は乙に対し、以下の各号に定める業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。 (1) 甲が運営するウェブサイト(URL: https://…)に関する以下のデザイン制作業務  ① トップページのデザインカンプ作成(PC版およびスマートフォン版 各1案)  ② 下層ページ(「会社概要」「サービス紹介」「お問い合わせ」)のデザインカンプ作成(各1案) (2) 前号で作成したデザインカンプに関する修正業務(各2回まで)
  2. 本業務の詳細な仕様については、別途甲が乙に交付する仕様書に定めるものとする。

このように、業務の範囲、対象、数量などを具体的に記載することで、双方の認識のズレを防ぐことができます。

【報酬の記載例】

悪い例:

第〇条(委託料)

本業務の対価として、甲は乙に金500,000円を支払う。

消費税の扱いが不明確であり、支払いサイトも記載されていません。

良い例:

第〇条(委託料)

  1. 本業務の対価(以下「本件委託料」という)は、金550,000円(消費税10%込み)とする。
  2. 甲は乙に対し、本件委託料を、乙が第△条に定める納品物を納品した日が属する月の末日締め、翌月末日限り、乙が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。

金額、消費税の有無、支払条件(締め日と支払日)、支払方法、手数料の負担者を明記することで、支払いに関するトラブルを回避できます。

既存契約書の見直しチェックリスト

現在お使いの契約書がフリーランス保護新法に対応できているか、以下のチェックリストで確認してみましょう。

  • □ 発注者とフリーランスの名称が正確に記載されているか?
  • □ 業務委託を開始する日付が明記されているか?
  • □ 委託する業務の範囲や内容が、誰が読んでもわかるように具体的に記載されているか?
  • □ 報酬額が消費税込みで明確に記載されているか?(または税抜額と消費税額がわかるようになっているか?)
  • □ 支払期日は、納品日から60日以内のできるだけ短い期間で設定されているか?
  • -□ 知的財産権の帰属について、明確な定めがあるか?
  • □ 秘密保持に関する条項は盛り込まれているか?
  • □ 一方的な減額や契約解除を可能にするような、発注者に有利すぎる条項はないか?

一つでもチェックがつかない項目があれば、早急な見直しをお勧めします。

契約書作成・締結時に注意すべき法的リスクと対策

法改正に対応した契約書を用意するだけでは十分ではありません。その運用においても、法的リスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。

違反した場合の罰則やペナルティ

フリーランス保護新法の義務に違反した場合、国(公正取引委員会や厚生労働大臣など)による助言、指導、報告徴収、立入検査が行われます。それでも改善が見られない場合には、勧告や命令が出され、さらに命令に違反した場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、勧告や命令を受けた事実は公表されるため、企業の社会的信用が大きく損なわれるリスクもあります。罰則が軽いと侮らず、誠実な対応を心がけることが肝心です。

「下請法」との関係性と注意点

フリーランスとの取引には、「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が適用されるケースもあります。下請法は、資本金が1,000万円を超える企業が、資本金1,000万円以下の個人事業主(フリーランス含む)や法人に情報成果物作成委託などを行う場合に適用されます。フリーランス保護新法と下請法の両方が適用される場合、より規制が厳しい下請法のルールが優先されます。例えば、下請法では発注時に直ちに書面(発注書)を交付する義務がありますが、フリーランス保護新法は「速やかに」とされています。自社の取引が下請法の対象にもなるかどうかを事前に確認し、より厳しい方のルールに合わせて運用体制を整えることが、最も安全な対策と言えるでしょう。

トラブルを未然に防ぐための追加条項の例

法律で定められた事項以外にも、想定されるトラブルを未然に防ぐための条項を盛り込んでおくことをお勧めします。例えば、「再委託」に関する条項です。フリーランスが業務の一部を別の第三者に再委託することを認めるのか、認めるとすればどのような条件(事前の承諾など)が必要なのかを定めておくことで、品質管理や情報漏洩のリスクをコントロールできます。また、契約が終了した後の協力義務(例:納品物のバグ修正への対応など)について定めておくことも、後のトラブル防止に繋がります。

契約書管理の効率化が、事業成長の鍵を握る

出典:電子帳簿保存法対応のクラウド文書管理システム

ここまで解説してきたように、フリーランス保護新法への対応には、契約内容の精査や管理体制の見直しが不可欠です。しかし、多くの担当者様が、契約書関連の業務に多くの時間と手間を取られているのではないでしょうか。

紙の契約書管理が抱える課題

紙の契約書による運用は、印刷、製本、押印、郵送といった物理的な手間がかかるだけでなく、保管スペースの確保や、過去の契約書を探し出す際の検索性の低さといった課題を抱えています。特に、フリーランスとの取引が増えれば増えるほど、契約書の数は膨大になり、管理は煩雑になる一方です。どのフリーランスと、いつ、どのような内容の契約を結んだのかを即座に把握できない状況は、法改正への迅速な対応を妨げる要因にもなりかねません。

電子契約システムの導入メリット

こうした課題を解決するのが、電子契約システムです。契約書の作成から締結、保管までをすべてオンライン上で完結できるため、郵送コストや印紙税を削減できるだけでなく、契約締結までのリードタイムを大幅に短縮できます。また、検索機能を使えば、必要な契約書を瞬時に見つけ出すことが可能です。フリーランス保護新法で求められる契約書の交付義務も、電子契約システムを使えば、安全かつ確実に履行することができます。

TOKIUMのサービスで契約から支払いまでを一元管理

TOKIUMが提供するサービスを活用すれば、契約書の管理だけでなく、その後の請求書の受け取りから支払いまで、一連のプロセスをシームレスに連携させ、効率化することが可能です。

例えば、TOKIUM電子帳簿保存は、電子契約で締結した契約書はもちろん、紙で受け取った契約書もスキャンして電子データとして一元管理できます。高度な検索機能で必要な書類をすぐに見つけ出せるため、監査対応や契約内容の確認もスムーズです。契約管理体制を強化することは、法令遵守の基盤を固めることに直結します。

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まとめ

本記事では、2024年11月1日に施行されるフリーランス保護新法に対応するための、契約書の作り方や見直しのポイントについて、網羅的に解説しました。

この法改正は、企業にとって新たな義務が増えるという側面もありますが、決してネガティブなものではありません。取引条件を明確にし、公正なパートナーシップを築くことは、トラブルを未然に防ぎ、優秀なフリーランスに選ばれる企業になるための絶好の機会です。

まずは、この記事のチェックリストを参考に、自社の業務委託契約書を見直すことから始めてみてください。そして、法改正を機に、契約管理や請求書処理といったバックオフィス業務全体の効率化をご検討してみてはいかがでしょうか。TOKIUMは、皆様が法改正にスムーズに対応し、事業成長を加速させるためのお手伝いをいたします。

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