経理DX促進

DX活用の実務戦略|経理が最短で成果を出す進め方と事例【2025年版】

更新日:2025.09.03

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DX 活用

人手不足や法改正対応で逼迫する経理部門では、「DX活用」を単なるデジタル化ではなく、業務設計から見直す変革として捉える必要があります。

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本記事は、経理の現場で実際に効くDXの考え方と進め方を、最新の公的動向と具体事例に基づいて解説します。小さく始めて確実に成果へつなげる手順、AIやクラウドの使いどころ、失敗を防ぐガバナンスまで、今日から実務で使える指針をまとめました。

DX活用とは?経理視点の定義と言葉の整理

DXは単なるIT導入ではなく、デジタルを前提に業務フローと意思決定を再設計する取り組みです。経理では、紙・転記・属人化をなくし、証憑→記録→承認→保存の一連を標準化します。本章では「デジタル化/自動化/変革」の違いと、経理特有の論点を整理します。

デジタル化・自動化・変革の違い

まず「デジタル化」は、紙や手作業で扱っていた情報をデータに置き換えることを指します。レシートをスマホで撮影してAI-OCRで文字起こしをする、PDFの請求書を受領し検索できる形で保管する、といった取り組みが該当します。目的は情報を見える化し、あとから探せる・集計できる状態をつくることです。

次の段階である「自動化」は、データ化された情報を使って定型処理を機械に任せることです。例えば、金額や勘定科目に応じて承認ルートを自動で切り替えたり、旅費規程に合わない申請を自動で差し戻したりします。自動化で効果を出すには、最初にルールを明確化し、例外の扱いを決めておくことが欠かせません。曖昧な業務をそのまま自動化すると、手戻りが増えて逆効果になるためです。

最後に「変革(トランスフォーメーション)」は、業務の流れや意思決定を前提から作り直すことを意味します。たとえば、処理の最終段でまとめてチェックする“事後検知”型から、申請の入り口で規程を自動適用する“事前統制”型へと発想を転換し、証憑→記録→承認→保存の一連をデジタル前提で再設計します。単に手作業を置き換えるだけでなく、締め作業の短縮や誤差の減少、監査対応の容易化など、経営メリットに直結する成果を狙うのが変革です。3つの段階は直線ではなく重なり合いますが、「データ化→自動化→設計の見直し」という順番を意識すると、ムダを残さず前進できます。

経理DXの対象領域(請求・精算・契約・保存)

経理の現場でDXが効きやすいのは、まず請求の受領から支払いまでの領域です。取引先からの請求書をメールや専用窓口に集約し、受領からデータ化、マスタ突合、支払予定の作成までを一気通貫で処理できるようにします。入力の重複や転記のミスが減り、支払漏れや二重計上のリスクも抑えられます。

次に、従業員の経費精算です。申請はスマホで完結させ、レシートは撮影して即時にデータ化します。規程違反は申請時点でアラートを出し、領収書の不足や計算間違いを早期に防ぎます。承認者は通知から内容をすぐに確認でき、差し戻し理由も履歴として残ります。これにより、月末に差し戻しが集中して残業が発生する、といった負担が軽くなります。

契約の管理もDXの重要領域です。契約書の所在と期限、金額、相手先などのメタデータをひとつの台帳で把握し、更新通知や支払条件と会計処理を連動させます。契約条項を検索できるようにしておくと、監査や内部統制の確認が大幅に効率化されます。

最後に保存です。電帳法の要件に沿って、見読性・真実性・検索性を満たす形で証憑を保管し、誰がいつ何をしたかのログを残します。紙とデジタルが混在すると探すだけで時間がかかるため、保存ルールを明確にし、原則デジタルで統一する方針を徹底します。請求・精算・契約・保存は独立した作業に見えますが、実務では互いに影響し合います。個別最適ではなく、入口から保存までを一本のプロセスとして設計することが、DXの効果を最大化する近道です。

効果を測るKPIとベースラインの取り方

DXの成果を確かめるには、指標と現状値を最初に決めておくことが大切です。よく使われるのは、1件あたりの処理時間、差し戻し率やエラー率、紙・郵送・印刷にかかるコスト、申請から承認までの経過時間、証跡の整備率などです。締め作業に関係する場合は、月次決算のリードタイムや仕訳の自動起票率も有効です。監査対応の観点からは、検索にかかる時間や、誰がいつ承認したかを遡れるかどうかも重要な指標になります。

ベースラインは、導入前の運用で実測します。繁忙期と閑散期で差が出る業務は、直近一か月の平均だけで判断せず、過去の同時期と比較して季節要因をならします。件数が月によってぶれる場合は、総量ではなく「1件あたり」や「100件あたり」の指標に変換すると、前後比較がしやすくなります。アナログなストップウォッチ計測に頼らず、承認ワークフローやシステムのログから処理時間や差し戻しの発生時刻を取得できると、測定の手間が減り、数値の信頼性も上がります。

目標は、現状値に対してどの程度改善すれば投資に見合うかを基準に設定します。例えば、経費精算で1件あたりの入力時間を半分にし、差し戻し率を三割減らし、証憑の検索時間をほぼゼロにする、といった具体的な水準です。達成条件はあらかじめ合意しておくと、お試し運用の判定や本格導入の意思決定が迷いません。法対応に関わる領域では、改善幅だけでなく要件の充足率を100%に保つことが前提になります。効果測定を“数字で語る”文化を根付かせることで、DXは一過性の施策ではなく、継続的な業務改善の仕組みとして定着していきます。

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なぜ今DX活用が必要か?人手不足・法改正・統制の観点から

人手不足や高齢化、インボイス・電帳法などの制度対応、監査・統制の要求水準の高まりは、従来運用の限界を露わにしました。背景と外部環境を把握し、社内の危機感と投資判断を整える視点を示します。

制度対応が迫るプロセス刷新

インボイス制度や電子帳簿保存法の対応は、単に様式をそろえたり保存先を変えたりする話にとどまりません。申請・承認・記録・保存の一連の流れの中に「どの時点で何を満たすべきか」をはっきり組み込む必要があります。例えば、電子取引データは受領時点から改ざん防止と検索性を確保しなければなりません。メール添付のPDFを各担当がバラバラに保存する運用では、検索条件(取引先名、日付、金額、伝票番号など)で探し出せず、監査で説明に時間がかかります。入口で共通の受領窓口に集約し、メタデータを自動付与して保存する設計に変えると、要件を満たしつつ後工程の手戻りも減らせます。

また、インボイスの登録番号や適格請求書の形式チェックを承認の前に行う“事前統制”へ切り替えることも重要です。締め間際にまとめてチェックする“事後検知”のままでは、差し戻しが増え、支払遅延や関係者の残業を招きます。制度を守るためのチェックを、業務フローの早い段階に埋め込む。これが今、プロセス刷新を迫られている本質です。

非効率の顕在化とリスク低減

紙やExcelを中心とした運用は、手間がかかるだけでなく、リスクを見えにくくします。担当者が不在だと処理が止まる、締め日直前に差し戻しが連続する、支払予定の最新が誰のファイルか分からない。こうした“あるある”は、データが分散し、承認履歴や原本の所在が統一されていないことが原因です。ワークフローと文書管理を連携させ、誰がいつ何を承認したか、どの証憑に紐づくのかを一画面で確認できるようにすると、二重計上や支払漏れの芽を初期段階で摘み取れます。

さらに、例外処理の扱いを明確にしておくと、現場の迷いが減ります。規程に合わない申請をどう取り扱うか、どこまで現場判断で是正できるか、承認者が不在のときは誰が代行するか。これらをルール化し、申請画面で自動チェックやアラートを出すだけで、差し戻し回数は目に見えて減ります。非効率は放置すると慢性化しますが、データの一本化とログ設計、例外ルールの明文化を行えば、作業時間の短縮とリスク低減を同時に実現できます。

事業継続・人材活用のための基盤整備

人手不足が続く中で、属人化した運用は事業継続の脅威になります。担当交代や急な休職があっても滞らないよう、業務標準書とシステム上の手順をそろえ、権限設計と承認経路を役割ベースに見直します。入力や確認のポイントが統一され、検索すべき情報が決まっていれば、新任者でも短期間でキャッチアップできます。

また、在宅や拠点分散が前提の時代には、紙の回覧や口頭依頼に依存しない運用が必要です。証憑はデジタルで受け取り、原本保管の扱いを明確にし、監査で必要な資料をすぐ提示できる状態を維持します。こうした基盤が整えば、経験の浅いメンバーには定型業務を安心して任せ、熟練者は分析や改善に時間を振り向けられます。

結果として、残業の抑制やスキルの平準化が進み、採用・育成・評価のサイクルも回しやすくなります。DX活用はコスト削減だけでなく、組織のレジリエンスを高め、人材を適材適所で活かすための“働き方の基盤”でもあります。

公的動向にみるDX推進指標とDX銘柄の「評価軸」

自社の成熟度評価は、公的フレームの活用が近道です。IPA「DX推進指標」や、経産省・東証・IPAによる「DX銘柄」の評価観点は、投資対効果の測り方や経営関与の度合いを示します。ロードマップ策定の参考にします。

DX推進指標で現状把握

まずは、社内の“いま”を正しく掴むところから始めます。IPA(情報処理推進機構)が提供する「DX推進指標」は、経営・事業・ITを横断する観点で自己診断できるフレームで、35項目について現在値と数年後の目標を記入し、関係者の目線合わせに使えます。

提出企業には同業他社との比較ができるベンチマークが返ってくるため、自社の立ち位置を客観的に把握しやすく、次にどこへ投資すべきかの議論が進みます。フォームは最新版Ver2.4が案内されており、診断の進め方やガイダンスも整備されています。まずは経理・情シス・事業部のキーパーソンで集まり、現状と目標の差分を言語化するところまで到達すると、その後の設計がぶれません。

自己診断シート(DX推進指標 簡易版:経理向け)

観点(経営/データ/人材/業務/統制)設問(現在の状態を具体的に)現状スコア(1-5)目標スコア(1-5)エビデンス/備考担当者期限(YYYY-MM)
経営DXの目的と期待効果が経営方針に明文化されている
経営決算短縮/事前統制など成果KPIが設定されている
業務請求・精算・契約・保存の標準フローが定義されている
業務例外処理(差異、分割請求、規程外)の扱いが明確
データ受領データに取引先/日付/金額/登録番号のメタデータ付与
データ証憑・承認履歴の横断検索が可能
人材申請者/承認者/経理の教育(eラーニング/FAQ)が整備
統制電帳法(見読性/真実性/検索性)の要件を満たす運用
統制インボイスの登録番号突合と保存要件の運用設計
ITAPI/ワークフロー/AI-OCR等の連携設計が文書化
IT監査ログ(誰が/いつ/何を)の取得と保全が可能
IT権限設計(閲覧/起票/承認/代理承認)が役割ベースで設定

参考:DX推進指標のご案内 | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

DX銘柄2025の評価観点(経営・データ・人材)

外部から見た“良いDX”の基準を知ることは、社内の説得材料になります。経済産業省・東証・IPAが共同で選定する「DX銘柄2025」では、単なるIT導入にとどまらず、経営ビジョンとビジネスモデルの再設計、戦略の策定・推進、組織設計や人材育成、IT・サイバーセキュリティの基盤、成果指標の設定と見直し、そしてステークホルダーとの対話までが評価の射程に入ります。

言い換えると、評価軸は大きく「経営(ビジョン・戦略と成果管理)」「データ/IT(安全で拡張可能な基盤)」「人材(育成・確保と組織運営)」に整理でき、どれか一つでも弱いと総合力が上がりません。経理部門はこの“外部基準”を参照し、投資対効果の説明やロードマップ策定に活かすと、社内合意が取りやすくなります。

参考:「DX銘柄2025」「DX注目企業2025」「DXプラチナ企業2025-2027」を選定しました (METI/経済産業省)

ロードマップに落とすポイント

評価軸を“自社の計画”に変えるには、自己診断で見えたギャップをプロジェクト単位に翻訳し、年次のKPIに結びつけることが肝心です。たとえば、「経営」では決算の短縮や承認の事前統制化を成果指標に置き、「データ/IT」では証憑の検索性・改ざん防止・ログ整備といった電帳法要件を満たす基盤を優先整備します。

「人材」では、経理と情シスの混成チームで運用ルールとFAQを更新し続ける仕組みを作ると、定着度が上がります。毎年の自己診断とベンチマークを決算サイクルに組み込み、達成度を外部の評価軸と照合する運用にすると、施策の優先順位がぶれず、投資判断の透明性も高まります。

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自治体・企業の取り組みから学ぶ最新DX活用事例の要点

現場の生産性向上や市民サービスの高度化など、成果の出るDXは「データ活用」と「運用設計」を両輪にします。行政・企業の最新事例から、経理にも応用できる示唆を抽出します。

行政で進むモニタリング・研修のデジタル化

自治体では、紙で集めていた業務日報や申請状況をダッシュボードで可視化し、遅延や差し戻しが増えている部署を早期に捉える運用が広がっています。集計作業を人手で行うのではなく、受領時点で項目を自動抽出し、担当、件名、金額、期限といった基本情報を共通フォーマットで蓄積することで、管理者は“いまどこで詰まっているか”を一目で判断できます。

研修も同時にデジタル化が進み、短時間のeラーニングと小テストを組み合わせ、申請や承認の“つまずきポイント”を解消する仕組みが定着しつつあります。誰がどの項目で誤りやすいのかを学習履歴から把握できれば、現場の案内文や申請画面の説明を見直す根拠にもなります。運用を支えるのはツールそのものではなく、受け皿となる共通窓口と、見たい指標を最初に決めておく設計です。これが整うと、属人的な問い合わせ対応が減り、現場と管理部門の双方で手戻りが少なくなります。

データ活用と意思決定の迅速化

企業の事例では、受領から承認、支払い、保存までのステータスをひと続きのデータとして扱い、閾値を超えたときだけアラートを上げる“例外駆動”の運用が成果を上げています。全件を同じ密度で追いかけるのではなく、金額やリスクの高い案件に検査強度を集中させる考え方です。例えば、適格請求書の登録番号が見つからない、同一取引先の重複請求が疑われる、承認が規程よりも長く滞留しているといった事象を、ダッシュボード上で早期に検出します。

意思決定は過去の勘や感覚に頼らず、処理時間、差し戻し率、再提出回数、監査ログの欠落といった客観指標に基づいて行います。これにより、月末や四半期末に発生していた“駆け込み対応”が抑えられ、締め後の修正や支払遅延のリスクも下がります。重要なのは、データをためるだけで満足しないことです。どの指標が動いたら誰が何をするのか、役割ごとのアクションをあらかじめ決め、日次・週次のレビューに落とし込むと、現場のスピードは自然と上がります。

経理業務へのトランスファー

これらの取り組みは、経理にそのまま移植できます。まず入口を一本化し、請求書や領収書をメールや専用フォームに集約して受け取り、受領時点で取引先、日付、金額、登録番号などのメタデータを自動付与します。次に、承認前の段階で規程チェックとインボイス・電帳法の要件確認を済ませ、問題のある申請は入り口で止める“事前統制”へと発想を切り替えます。承認ワークフローと文書管理を連携させ、誰がいつ何を承認し、どの証憑に紐づいたのかが一画面で追える状態を標準にします。

さらに、例外処理の道筋を運用設計に組み込みます。たとえば、金額差異が一定以上の場合は自動で二重承認に回す、登録番号の確認が取れない場合は支払い予定から除外して再申請を促す、といった“前さばき”のルールを明文化しておくと、差し戻しの往復が激減します。最後に、日々の運用を支える教育も欠かせません。新任者向けのミニ教材とFAQを用意し、画面内のヘルプやサンプルの入力例を充実させることで、問い合わせは確実に減ります。結果として、処理時間の短縮、差し戻し率の低下、監査対応の迅速化という三つの成果が同時に現れ、DXが“仕組みとして回る”段階に近づきます。

AI×クラウドの使いどころは?経理で効くDX活用

経理AIエージェントやAI-OCR、ワークフロー、文書管理の連携は、例外処理の多い経理にこそ効きます。判断補助と統制強化を両立する設計の勘所を、プロセス別に解説します。

仕訳・請求・精算:自動化と例外ハンドリング

仕訳・請求・精算では、まず入口でデータをそろえることが要になります。メールや専用フォームに集約して受け取った請求書や領収書は、AI-OCRで日付・金額・取引先・消費税・登録番号などの項目を読み取り、マスタと突合します。ここで経理AIエージェントが勘定科目や税区分の候補を提示すると、担当者は“ゼロから入力”ではなく“候補を選ぶ”作業に変わります。信頼度が高いものは自動確定し、判断の迷うものや規程に触れる可能性があるものは例外キューに回します。

例外は運用の工夫で負担を減らせます。例えば、金額や取引先ごとに承認の強度を変える、同一請求の重複や分割請求の兆候を早期に検知する、旅費規程に合わない申請は申請画面で即時にアラートを出す、といった“前さばき”が効きます。AIによる候補提示と、ワークフロー側のルール判定を組み合わせることで、軽微な判断は入口で片づき、重要な確認に時間を使えるようになります。最終的に台帳や支払予定へ流す段階では、誰がどの候補を採用・修正したかをログに残し、次回の学習に反映させることで、例外も徐々に“定型化”していきます。

契約・保存:検索性と監査ログ

契約は金額や期間の管理だけでなく、会計処理や支払条件に直結します。契約書をPDFのまま倉庫に置くのではなく、相手先、開始・終了日、更新有無、金額、担当部門といったメタデータを台帳化し、関連する発注書・請求書・検収書とリンクします。更新期限が近い契約はダッシュボードで可視化し、支払や仕訳の発生前に内容を確認できる状態にします。条項検索ができると、監査や内部統制の照会に素早く対応でき、同種契約の条件差の洗い出しにも役立ちます。

保存については、電帳法の見読性・真実性・検索性を満たす設計が欠かせません。受領時点で改ざん防止を確保し、取引先名・日付・金額・伝票番号などで横断検索できるようにします。加えて、承認や修正の履歴を時系列で追える監査ログを標準にすることで、「いつ」「誰が」「何を」操作したのかを説明できるようになります。現場では“探せる・示せる・遡れる”状態が整っているほど、問い合わせ対応や監査準備の時間が短くなり、本来の分析業務に時間を振り向けられます。

RPAとの使い分けと相性

RPAは、手順が固定され画面やレイアウトの変化が少ない作業で力を発揮します。たとえば、毎日決まった時間にポータルから明細をダウンロードし、フォルダへ格納して名称規則に沿ってリネームする、といった単純反復の自動化に適しています。一方で、証憑の形式がまちまちだったり、規程の解釈や例外の判断が必要だったりする場面では、経理AIエージェントのほうが向いています。AIが文脈を読んで候補を提示し、ワークフローがルールで統制し、最後に人が確認すると安定します。

実務では両者をつなぐと効果が伸びます。RPAで“集める・並べる”を機械化し、AIで“読む・推測する”を支援し、ワークフローで“決める・記録する”を標準化します。APIが用意されている領域はRPAよりAPI連携を優先し、どうしても画面操作が必要な部分だけRPAを使うと、故障点が少なくなります。画面変更に弱いというRPAの弱点は、監視と簡易な保守手順を決めておくことで抑えられます。結果として、定型は高速・安定に、例外は早期検知と短時間の判断でさばける運用に近づきます。

使い分け早見表(経理AIエージェント×RPA×ワークフロー×API)

業務シナリオAI
エージェント
RPAワークフローAPI連携理由/注意点
請求書受領・データ化AI-OCR+APIで連携安定。画面操作しか手段がない場合はRPAを補助的に。
仕訳案の生成/補助科目推奨×AIが文脈判断に強い。最終確定はワークフローで権限統制。
旅費規程チェック(事前統制)×規則化しやすい領域はワークフローが主。例外説明はAIが補助。
二重計上/重複請求の検知×データ照合・パターン検知はAI向き。確定はワークフローで。
販売管理から請求明細DL×API最優先。非公開ならRPAで定期DL。
支払消込(銀行明細突合)API連携とルール突合が基本。例外の説明にAIが有効。
契約条項検索/照会×自然文検索はAIが得意。承認や保全はワークフロー+API。
例外処理の受付/一次回答×AIで初期判断。基準超過はワークフローで経路分岐。
経理AIエージェント

小さく始めて広げよう!お試し運用設計とKPI、運用の定着

成功の鍵は、対象を絞ったお試し運用と、再現性あるKPI設計です。スモールスタートでボトルネックを解消し、横展開で全社最適へ。教育・FAQ設計、業務標準書の更新まで含めた「運用DX」を解説します。

お試し運用の範囲と評価方法

お試し運用は、最初に「どの業務で、何を確かめ、何をもって成功とするか」を一文で言い切れるレベルまで絞り込むところから始めます。例えば「営業部の経費精算で、AI-OCRとワークフローを使い、申請から承認までの処理時間を半分にできるかを四週間で検証する」のように、対象部門と期間、使う仕組み、改善目標を明確にします。

測定は止まっている時間も含めて捉えると実態が見えるため、システムのログや承認履歴を使い、平均処理時間、差し戻し率、再提出回数、紙や郵送のコスト、検索に要する時間といった指標を日単位で記録します。あわせて、電帳法やインボイスの要件を準備段階で運用に埋め込み、受領時点での改ざん防止と検索性、適格請求書の登録番号確認などを“入口”で満たす設計にしておくと、後半での手戻りを避けられます。最後に、判断基準を事前に合意します。例えば「処理時間が五割短縮、差し戻し三割減、監査ログは欠落ゼロであれば本格導入へ」といった形です。成功か否かを数値で語れるようにしておくと、投資判断が迷いません。

KPIスコアカード(初月〜90日運用向け)

指標名定義(計算式/対象)ベースライン(導入前)目標値現在値(最新)データ取得元(ログ/レポート)レポート頻度(週次/月次)オーナー備考
1件あたり処理時間申請〜承認完了の平均所要時間(分)ワークフローログ週次
差し戻し率差し戻し件数/申請件数(%)ワークフローログ週次
エラー率入力エラー・規程違反の検知件数/申請件数(%)エラーログ週次
紙・郵送コスト印刷/封筒/切手/宅配の合計(月額)購買・経理台帳月次
検索時間証憑/承認履歴の検索に要する平均時間(分)ヘルプデスク記録月次
月次決算リードタイム月末締め〜試算表確定まで(日)決算スケジュール月次
仕訳自動起票率自動起票件数/総仕訳件数(%)会計システム月次
監査ログ整備率操作ログの取得/照会可能率(%)監査用出力月次

教育・定着(FAQ、権限、ナレッジ)

仕組みを入れただけでは定着しないため、使い方を学ぶ場と、迷ったときにすぐ答えにたどり着ける導線を作ります。申請者向けには、レシート撮影のコツや規程チェックの流れを三分程度の短い動画と画面キャプチャで示し、承認者向けには、差し戻し理由の書き方や滞留アラートへの対処を実例で説明します。

よくある質問は、問い合わせが出るたびに一問一答で追記し、申請画面や承認画面から直接開けるようにリンクします。権限設計は「見られる」「起票できる」「承認できる」を役割ごとに分け、代理承認や休日対応などの例外も最初から定義しておきます。運用が回り始めたら、つまずきの多い項目をダッシュボードで可視化し、エラーメッセージの文言や入力補助のヒントを見直します。業務標準書とナレッジは四半期ごとに更新日を明記して改訂し、どの版が有効かを誰でも確認できる状態にしておくと、現場の迷いが減り、問い合わせ対応の時間も短くなります。

横展開のガバナンス

スモールスタートで効果が確認できたら、設定と運用の“型”をテンプレート化して横展開に備えます。部門ごとに配置が変わるのは承認者や金額基準だけにとどめ、受領窓口、メタデータの項目、改ざん防止と検索キー、監査ログの出力方法といった基盤部分は共通化します。展開前には必ずレビューの場を設け、経理と情シスが設定差分を確認し、規程との整合や原本保管の扱いをすり合わせます。

運用が広がるほど変更点は増えるため、名前の付け方やタグの使い方、支払予定の作成ルールなど、組織全体で守る最小限のルールを一枚にまとめ、変更は申請→承認→周知の順で流すことを徹底します。定着度の確認は、部門別のKPIを月次で横並びにして比較し、滞留や差し戻しが増えている箇所を早期に支援する運びにします。新規部門の立ち上げ時には、初月のみ週次レビュー、二か月目以降は月次レビューに移行するなど、負荷を調整しながら全社最適へ近づけていくと、品質を落とさずスピード感のある展開が可能になります。

お試し運用計画書

項目記入例
目的(1文)営業部の経費精算で処理時間を50%短縮できるか4週間で検証する
対象と範囲(業務/部署/件数/期間)経費精算/営業部10名/過去1か月相当/4週間
使用する仕組みAI-OCR、ワークフロー、文書管理(電帳法対応)
KPI一覧(定義/目標)処理時間-50%、差し戻し率-30%、監査ログ整備率100%
計測方法/データ出所ワークフローログ/承認履歴/問い合わせ記録
判定基準(Go/Hold/No-Go)目標達成でGo。未達は原因・改善を整理してHold/No-Go
体制(役割/責任)推進責任者:経理部長/運用:経理担当/設定:情シス/現場:営業代表
スケジュール(Week0-4)Week0準備→Week1設定→Week2-3運用→Week4評価
リスクと対策規程解釈の不一致→FAQ整備/データ不足→サンプル確保
エビデンス保管場所共有ドライブ『/DX/PoC_2025Q4/』に集約
成果サマリ(定量/定性)処理時間△xx分、差し戻し率△xx%、現場満足度など

リスクと法対応(電帳法・インボイス・内部統制)

DX活用は法対応とセットで進めます。電帳法の真実性・見読性・保存要件、インボイスの番号管理・突合、原本管理や証跡の設計など、監査に耐える要件を実務目線で整理します。

保存・検索・改ざん防止の要件整理

電子帳簿保存法では、電子データで受け取った取引情報は電子のまま保存することが原則です。紙に印刷して保管するだけでは足りず、データ自体を一定の要件に沿って保管する必要があります。要件の柱は「見読性(いつでも読めること)」「真実性(改ざんされていないこと)」「検索機能(必要な記録をすぐ探せること)」の三つです。検索は少なくとも取引年月日・取引金額・取引先名の項目で行えるようにし、組み合わせ検索や段階的な検索で目的の記録へ到達できる設計が求められます。

改ざん防止は、タイムスタンプやシステムの訂正削除履歴、あるいは国税庁が示す「訂正・削除を防ぐための事務処理規程」を整備して運用で担保する方法が代表的です。なお、適格請求書を電子で受け取った場合、仕入税額控除の観点だけを見れば紙出力の保存で要件を満たす取り扱いがありますが、同じ帳票は電帳法上は電子データでの保存が必要になるため、実務では「電子で受領したものは電子で保存」を基本方針にすると迷いがありません。

法対応チェックリスト(電帳法/インボイス/内部統制)

カテゴリチェック項目内容対応状況(OK/要対応)証跡/URL最終確認者確認日
電帳法-検索性検索キー取引年月日/金額/取引先名で検索可能(AND/範囲検索)
電帳法-真実性改ざん防止タイムスタンプ/訂正削除履歴/事務処理規程のいずれかで担保
電帳法-見読性読める状態画面表示/出力が可能。レイアウト崩れなし
電帳法-保存保存期間/場所保存年限の管理、バックアップ/災対、電子のまま保存
インボイス登録番号突合適格請求書の登録番号を受領時に確認/記録
インボイス保存要件請求書の保存(電子受領は電子保存が原則)
内部統制監査ログ誰が/いつ/何を操作したかのログを保全
内部統制権限/承認閲覧/起票/承認の分離、代理承認の定義、二要素認証
セキュリティ/個人情報最小権限/持ち出し制御閲覧者の限定、メール添付・ローカル保存の抑止
セキュリティ/個人情報削除・保管期間保存期間の明示と満了時の削除手順

参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁

監査ログとアクセス権限

監査対応では、「いつ・誰が・何を・どの順番で行ったか」を後から説明できる状態が最優先になります。承認や差し戻し、金額・科目の修正、証憑の差し替えといった操作は、ユーザーIDとタイムスタンプ付きで自動記録され、後から改変できないことが望ましい姿です。あわせて、閲覧・起票・承認といった権限は役割ごとに分離し、退職や異動時の権限停止、二経路認証などの基本管理をルールとして定着させます。外部の監査基準や公表資料でも、アプリケーションのロジック変更や権限の不備が内部統制の弱点になり得ることが指摘されています。運用上の小さな抜け漏れが全体の信頼性を損なわないよう、ログの網羅性とアクセス管理を“仕組み”として維持することが、日々の証跡づくりと期末監査の双方を楽にします。

参考:内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の最新実務動向~ 中長期的課題を考慮した検討アプローチ例~ – KPMGジャパン

個人情報と情報セキュリティ

請求書や精算データには氏名・連絡先・口座情報などの個人情報が含まれます。取り扱いを安全に保つには、まず「見なくてよい人が見られない」前提を徹底します。部門や役割に応じた最小限の閲覧権限に絞り、メール添付やローカル保存を避けて、受領から保存までを同一のクラウド環境で完結させます。通信の暗号化やIP制限、持ち出し制御に加えて、保存期間と削除手順も明文化すると、データが際限なく残ってしまうリスクを抑えられます。

外部サービスを利用する場合は、保管場所(リージョン)、暗号化方式、障害・事故時の連絡体制、委託先管理の内容を確認し、社内規程と齟齬がないかを点検しておくと安心です。こうした“当たり前”の積み重ねが、内部統制の強化にも直結し、監査での説明負担を確実に減らします。

電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック 電子帳簿保存法・インボイス制度対応ガイドブック

TOKIUM導入企業から学ぶDX導入成功の秘訣

多様な業種・規模の企業・自治体の事例から、経理DXの勘所を抽出します。数字で語れる成果や運用設計の工夫は、他社展開のヒントになります。

柏市役所:学校給食費の請求処理を2名で運用、年間1,000時間超を削減。手書き対応・郵送受領・柔軟なフロー設計。

柏市は学校給食費の公会計化に伴い、52校分・月600件超の請求書処理を限られた人員で担う必要がありました。入口を共通窓口に集約し、郵送・手書きの請求書も漏れなくデータ化する前提で設計した結果、承認までの道筋が揃い、処理の詰まりが解消されました。導入後は、想定していた月100時間規模の処理が約1/50まで短縮され、年間1,000時間以上の工数削減につながっています。現場や仕入先に新たな負担をかけない運用が維持できた点も、継続性のある成果として評価できます。

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柏市役所
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ENEOSトレーディング:約3,000行の明細データ化と販売管理連携で、月200時間の手作業ゼロ化。BPO撤退を機に可視化と自社管理へ。

同社はBPO先に委託していた請求業務を見直す中で、約3,000行に及ぶ明細入力をシステム化し、販売管理システムへそのまま連携できる体制に改めました。これにより、原本確認のタイムラグやブラックボックス化が解消され、請求処理の進捗や誤請求の有無をリアルタイムに把握できるようになっています。もし社内で手入力していれば一か月200時間相当の作業と見積もられた負荷が実質的に解消され、属人性の低減と運用の標準化が同時に進みました。

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ENEOSトレーディング株式会社
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イオンディライト:紙のやり取りを4分の1に削減。電帳法・インボイス対応、スマホ申請で現場の負担軽減。

本社移転や制度対応を背景に、紙前提の経費・請求フローを刷新し、申請から保管までをクラウドで一気通貫化しました。スマホ申請・承認が現場に浸透したことで、社内便や台紙の貼付といった作業が大幅に縮小し、導入前は年間約50箱届いていたダンボールが約4分の1まで減少しています。電子帳簿保存法の要件を踏まえつつ、原本保管の取り扱いも整理され、監査対応と日常運用の双方で負担が軽くなりました。

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まとめ

DX活用は「ツール導入=完了」ではなく、業務の標準化・可視化→小さな導入→検証→横展開という反復で定着します。経理では、請求・精算・契約・保存の各プロセスでペーパーレス化と自動化を掛け合わせると効果が出やすく、KPIは処理リードタイム、残業時間、紙・郵送コスト、エラー率などが有効です。生成AIや「経理AIエージェント」は例外処理を含む判断補助で力を発揮しますが、法対応・内部統制・ログ設計を同時に整えることが前提です。公的指標(DX推進指標、DX銘柄の評価観点)を踏まえて、自社の成熟度にあったロードマップで進めることが、持続的な成果につながります。

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