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中小企業の経理は人手不足でも回る!実務の道筋と外部・AI活用法

更新日:2025.12.24

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中小企業_経理_人手不足

中小企業の経理は、採用難・高齢化・紙中心の運用が重なり、「人を増やしたくても増やせないのに仕事だけが増える」という状態に陥りがちです。請求書処理や経費精算に追われ、法改正対応や経営数字づくりまで手が回らない。この手詰まり感を解消するには、①業務の標準化で“ムダな仕事”を減らし②外部人材やBPOで山をならし③RPAや経理AIエージェントで定型処理を自動化する、という3段階で取り組むのが近道です。

→ダウンロード:経理のペーパーレス化って本当に必要?

本稿では、今日から始められるチェックリストとKPIを使いながら、「経理1〜2名でも月次決算を安定して回す」ための実務の道筋と、外部・AI活用の具体策を解説します。

中小企業の経理人手不足Q&A:まず押さえたい4つの疑問

中小企業の経理で人手不足に悩み、「採用も増員も難しいのに、この先どう回していけばいいのか」と不安を抱えている方向けに、まずはよくある4つの疑問にお答えします。この記事全体の“道筋”も見えるので、気になるところから読み進めてみてください。

Q1:中小企業の経理は、人手不足でも本当に“回る”ようにできますか?

A:はい、できます。ポイントは「人を増やす前に、仕事を減らす」ことです。業務フローの標準化と紙運用の削減で“ムダな手作業”を減らし、足りない分を外部人材やデジタルツールで補うことで、経理1〜2名の体制でも月次決算を安定して回せるようになります。

Q2:いま採用が難しい状況で、最初に手を付けるべきことは何ですか?

A:最初の一手は、請求書や経費精算の「紙・押印前提の作業」をやめることです。請求書の受領方法と保存ルールを統一し、電子承認に切り替えるだけでも、承認待ちで滞留していた時間や、出社・紙回覧にかかっていた工数を大きく削減できます。

Q3:RPAや経理AIエージェントの導入は、中小企業にはハードルが高くないですか?

A:いきなり全面自動化する必要はありません。請求書の自動仕訳や経費精算の自動チェックなど、「件数が多く、ルールがはっきりしている業務」を1つだけ選び、小さく試し運用(PoC)するのがおすすめです。処理時間や差し戻し率の変化を測りながら対象を広げれば、安全に効果を確認できます。

Q4:外部委託(BPO・派遣)を使うと、社内の管理が大変になりませんか?

A:事前に「受け渡しのルール」と「責任分界点」を1枚のドキュメントにまとめておけば、二度手間や行き違いはかなり防げます。入力に必要な情報、ファイルの置き場所、締切や質問窓口、SLA(合意する締切や品質基準)を具体的に決めたうえで、小さな範囲から任せていくことが、失敗しない外部活用のコツです。

中小企業の経理人手不足はなぜ起き、どんな影響が出ているのか?

採用難・紙文化・属人化が重なり、定型処理が詰まって残業とミスが増え、経営判断のスピードが落ちています。請求書処理や仕訳入力など定型処理の滞留が、法改正対応や分析業務への移行を妨げます。経理の人手不足は体感だけでなく、調査でも裏付けられています。

例えば、経理担当者調査では、人手不足を感じる回答が約半数で、そのうち“深刻”とする割合も高い結果が示されています。また、インボイス制度・電子帳簿保存法への対応が業務負担増の主要因として挙がる点も見逃せません。本章では現状の手詰まり感を言語化し、どこから手をつけると効果が出るかを整理します。

中小企業の経理人手不足は、「人が足りない」こと自体よりも、その裏側にある“仕事の詰まり方”が原因になっているケースがほとんどです。代表的な原因・現場で現れる症状・今日から打てる対策を、1枚の表に整理しました。

表:中小企業経理の人手不足の原因×症状×対策

原因現場で起きる症状今日からできる対策の例
経理人材の採用難・高齢化ベテラン1人に業務が集中し、休むと決算や支払が止まりがちになる。業務の棚卸しとマニュアル化で属人化を減らし、誰でも対応できる状態にする。
紙中心の請求書・承認フロー締め日前に紙が山積みになり、承認待ちで滞留・紛失が発生する。請求書の受領方法と保存ルールを統一し、電子承認への切り替えを進める。
業務フローが見える化されていないどこで止まっているか分からず、「急ぎ案件」へのつぎはぎ対応が増えて残業が常態化する。受け渡しの動線を図解し、部門ごとの役割と締切をチェックリストに落とし込む。
法改正対応や改善施策の後回し電帳法・インボイス対応が“つぎはぎ”となり、問い合わせ対応が属人化している。法改正対応のToDoと優先度を一覧化し、3か月単位の計画に落とし込んで順番に着手する。

採用難・高齢化・紙文化が生む“詰まり”の連鎖

中小企業の経理では、経験者の採用が難しく、ベテランに負荷が集中する状況が続きがちです。さらに紙の伝票や押印を前提とした流れが残っていると、担当者が出社しないと承認できない、書類が机上で止まるといった遅延が発生します。業務が個人の記憶や属人的な手順に依存している場合、引き継ぎのたびに品質がばらつき、差し戻しが増えて残業が常態化します。こうした小さな“詰まり”が連鎖し、決算前や支払前に一気に膨らむことで、重要な分析や法改正対応が後回しになってしまいます。

定型処理が経営改善を遅らせるメカニズム

請求書の突合や仕訳入力、経費精算のチェックなど、価値はあるものの繰り返しの作業に時間が取られると、利益改善に直結する予実管理やコスト分析に手が回りません。締め日前に入力が集中し、エラーが見落とされると、翌月以降に修正が雪だるま式に増えます。定型処理の遅れは、支払遅延や与信の悪化、取引先との関係悪化にもつながるため、結果として経営判断のスピード全体を落とします。まずはこの因果関係を見える化し、どの処理がボトルネックなのかを特定することが最初の一歩です。

現場ヒアリングで洗い出す「止まっている箇所」

最も効果的な方法は、現場の担当者に日常の動きを時系列で語ってもらい、書類やデータがどこで止まるかを具体的に追うことです。メールや紙の受け渡し、承認者の不在、システム入力の二重三重といった“待ち時間”を丁寧に拾い上げます。その際、理想の手順ではなく、実際に行われている手順を基準に図解することが重要です。ヒアリング結果は担当者別や取引先別に色分けし、待ち時間と手戻りの回数を数えると、改善の優先順位が自然に浮かび上がります。

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人手不足でも経理を回すために、今日から何をやめて何を揃えるべきか?

標準帳票・命名ルール・承認経路の固定化と、紙から電子への移行で“ムダな手作業”を減らします。ここを固めるだけで属人化がはがれ、外部委託やツール導入も滑らかになります。

標準化3点セット(帳票・命名・承認)

まず、使う帳票と入力項目を全社で統一し、ファイル名とフォルダの命名ルールを決めます。例えば「日付_会社名_金額」のように誰が見てもわかる型に揃えるだけで、探索や照合作業が短縮されます。承認経路は“通常”“急ぎ”“例外”の3パターンに絞り、承認者不在時の代理ルールも同時に定義します。これらは後から外部委託やツール導入に拡張しやすい基盤となり、属人化をはがす強力な一手になります。

紙→電子へ:最初の“出口”は請求書

最初に取り組むと効果が大きいのは請求書の電子化です。受領をメールやポータルに一本化し、PDFや画像を所定のフォルダに自動保存するだけでも、回覧や押印の遅れが大幅に減ります。スキャナ取り込みを残す場合も、部署ごとの保存先を共通化し、ファイル名ルールを必ず適用します。入金・支払の突合や承認履歴が一カ所で追えるようになるため、未着・紛失の発生率が下がり、月次処理の見通しが安定します。

監査ログを前提にしたフォルダ/権限の決め方

フォルダ構成は「年度→月→業務」の3層を基本にし、だれが閲覧・編集・承認できるかを最初に決めます。重要なのは、アクセス権限を“役職”ではなく“作業役割”で付与することです。承認や修正の履歴が残る仕組みを前提にすれば、後からの監査対応や内部統制の説明が容易になります。権限の付けすぎによる情報漏えいと、権限不足による業務停止の両方を避けるため、四半期ごとに棚卸しを行う運用をセットで定めます。

以下の記事では、請求書受領サービスの種類と選び方を詳しく解説していますので参考にしてください。

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明日から始めるチェックリスト

以下は、経理の“手詰まり感”を生む紙運用を洗い出すためのチェックリストです。各項目の「やめる理由」を確認しながら、未対応/対応中/完了のステータスを週次で更新していきましょう。命名ルール・保存先・SLA(サービス品質保証)など最低限の共通ルールを先に固め、KPI(処理時間・差し戻し率)と併せて進捗を測りましょう。

表:今日からやめる紙運用チェックリスト

チェック項目対応状況
請求書の紙回覧
承認待ちで滞留・紛失リスクが高く、進捗が見えません。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
押印のための出社
承認の遅延要因となり、電子承認で代替可能です。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
メール添付ファイルの散在保存
検索不能・二重計上の温床になります。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
部署ごとの独自フォルダ名
探索コストが増え、命名ルールでの統一が必要です。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
エクセル台帳の個人管理
履歴が残らず、権限管理も弱い状態です。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
紙領収書の後日まとめ提出
締め日前に作業が集中し、差し戻しが増えます。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
口頭・チャットのみの承認
証跡が残らず、監査対応が困難になります。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
PDFの手入力転記
入力ミスが増え、時間も浪費します。読取+自動起票に切り替え可能です。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
例外処理の場当たり対応
属人化して再現性がなく、引き継ぎ時のリスクになります。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
原本郵送の前提運用
紛失・遅延が発生しやすく、スキャン保存+後追い提出に見直せます。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了

次のチェックリストは、社内外の「受け渡し動線」を整えるためのものです。受付窓口・保存先・締切・質問チャネルなどのルールを言語化し、外部委託やAI導入の前提を固めていきます。

受け渡し動線の確認するチェックリスト

確認ポイント対応状況
受付窓口の一本化
請求書受領は専用メールアドレスまたはポータルに限定できていますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
保存先と命名ルール
「YYYYMMDD_取引先_金額.pdf」のようなルールで統一できていますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
締切とSLA
締切・応答時間・再提出期限を文書で定義していますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
質問チャネルの固定
履歴が残るスレッドやチケットに質問を集約できていますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
権限と閲覧範囲
役割別に閲覧・編集・承認権限を分けて設定していますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
例外の定義
何を例外とし、誰が判断するかを明文化していますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
監査ログの取得
操作履歴の自動記録と、必要時の出力方法を確認していますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
バックアップ
復元手順・責任分界・保管期間を関係者間で合意していますか。
□ 未対応
□ 対応中
□ 完了
「失敗事例」にならないための請求書受領システムの選び方

採用だけに頼らず、外部人材やBPOで経理の“力”をどう足し算すべきか?

受け渡し動線と役割分担を整理したうえで、入力・突合などルール化しやすい業務から外部に任せます。BPOや派遣・パート、外国人材の活用は作業の山を一気に平準化します。社外との受け渡し動線(データ/書類)を整えてから範囲を拡大すると、二度手間を防げます。

「任せる前」に整える受け渡し動線

外部に作業を依頼する前に、社内での受け渡しを整理します。入力に必要な情報やファイルの置き場所、命名ルール、締め切り、質問の連絡先をひとつのドキュメントにまとめ、試し運用で抜け漏れを確認します。依頼範囲が明確になるほど二度手間が減り、依頼先と社内の役割分担が自然に定着します。最初は小さな単位で始め、滞りやすい箇所を修正してから対象を広げると、短期間で安定した運用に移行できます。

外部活用の守備範囲と情報管理の線引き

外部に任せる範囲は、ルールがはっきりしている入力や突合、一次チェックなどから始めるのが安全です。一方で、契約内容の解釈や取引条件の判断など、企業固有の前提を要する部分は社内で担います。機密情報はアクセス権を最小限に絞り、共有時はパスワードや期間限定のリンクを使います。万一の誤送付や削除に備えて、復元手順と責任分界を合意しておくと、トラブル時の対応が短時間で済みます。

採用と委託の“足し算”で繁忙期を越える

通年の採用だけで人手不足を解消しようとすると、コストと時間がかかります。平常時は少人数で運用し、決算月や繁忙期だけ外部を足す“可変式”の体制にすると、品質を保ちながらスピードを落とさずに済みます。人件費と委託費は、1伝票あたりコストや差し戻し率と合わせて月次で見える化すると、次の投資判断がしやすくなります。

外部委託は「どこまで任せるか」「例外処理をどう返すか」「ログや権限をどう残すか」まで決めておくと、少人数でも破綻しにくくなります。選定の観点や費用感を整理したい場合は、以下の記事を参考にしてください。

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RPAや経理AIエージェントは、人手不足解消にどう効かせればよいのか?

負担の大きい一業務から小さく自動化し、処理時間や差し戻し率の改善を測りながら対象を広げます。いきなり全面自動化は禁物。請求書の自動仕訳や経費精算の自動チェックなど、負担の大きい一点から始め、効果を測って対象を広げます。経理AIエージェントは例外対応の補助にも有効。小さな試し運用で安全に前進します。

AIや自動化は「できること」よりも、権限設計・例外処理・証跡(ログ)まで含めて運用に落とせるかが成否を分けます。ツール選定と定着のポイントを先に押さえたい場合は、以下の記事を参考にしてください。

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どの業務から機械化すると“体感”が出るか

最初の対象は、処理件数が多く、判断が単純で、締め日に集中する業務が適しています。請求書番号や金額の読み取り、仕訳の定型パターン、経費の規程チェックのように、ルール化しやすい作業は効果が出やすい領域です。1つの業務で“所要時間が半分になった”と実感できれば、現場の理解が進み、次の自動化が受け入れられやすくなります。

経理AIエージェントの実務イメージ

経理AIエージェントは、文書の内容を読み取って候補の仕訳を提示したり、領収書の不備を指摘したりする“AIのアシスタント”です。完全な自動化ではなく、担当者の判断を助ける役割として使うと安全に効果を引き出せます。規程や承認フローを学習させると、例外対応の案内や差し戻し理由の説明もスムーズになり、担当者の負担が目に見えて軽くなります。

AIエージェントは、生成AIの回答を“業務の実行”につなげ、24時間365日・並列で処理できる「デジタル労働力」として位置づけられます。以下のNewsPicks対談(YouTube)で語られる「生成AIからデジタル労働力へ」の要点を押さえると、デジタル変革を「ツール導入」ではなく、社内にデジタル労働力を配置する設計として捉え直せます。

以下の記事では、経理AIの具体的な適用例と効果を詳しく解説していますので参考にしてください。

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小さな試し運用(PoC)と指標設計

まずは対象部署と期間を限定し、現行のやり方と新しいやり方を同時に走らせて差を比べます。評価指標は「処理時間」「差し戻し率」「1伝票あたりコスト」「締め日遅延の件数」の4つに絞ると、改善の有無が判断しやすくなります。結果が良ければ対象範囲を広げ、課題があれば設定やルールを見直す。この繰り返しで安全に定着させます。

図:中小企業の経理人手不足解消の実装手順

電帳法・インボイス対応と内部統制を、人手不足対策とどう両立させるか?

電子保存の3要件と権限・監査ログを最初に設計し、後戻りの少ない法対応と運用ルールを整えます。電子帳簿保存法・インボイス制度は、検索性・改ざん防止・保存要件が肝です。導入時に監査ログ・権限分掌・IP制限を同時に設計すれば、後からの手戻りを防げます。猶予措置や最新要件の把握も要点を押さえて解説します。

3要件の真実性・可視性・検索性を落とし込む

電子帳簿保存法の要件は、現場の操作に置き換えて考えると理解しやすくなります。真実性は「改ざんできない記録を残すこと」、可視性は「あとから追える承認や修正の履歴があること」、検索性は「日付・金額・相手先で即座に探せること」です。ツール導入の際は、これらに対応する“具体的な画面や操作”が用意されているかを確かめ、運用手順書に結び付けます。

以下の記事では、電子帳簿保存法の要件を図解で再確認できますので参考にしてください。

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権限と監査ログ:最初に決めてしまう項目

権限は“見るだけ”“入力できる”“承認できる”の段階で割り当て、部署異動や退職時の停止手順を定義します。操作履歴(監査ログ)は自動で残る設定にし、いつでも出力できるようにしておくと、監査や税務調査での説明が短時間で済みます。これらは後からの変更が大掛かりになるため、導入初期に必ず決めておくことが重要です。

電帳法・猶予措置と“今からでも間に合う”進め方

猶予措置の有無や終了時期は、国税庁などの一次情報で最新を確認し、社内周知の文面に落とし込みます。猶予に頼って紙に戻るのではなく、受領から保存までの最短ルートを定め、当面の例外処理を明確にします。段階的に電子化を進めても問題はありません。まずは受領の一本化と検索条件の統一を実現し、改ざん防止と承認履歴は順次拡張する進め方が現実的です。

資金に余裕がなくても、人手不足対策の投資を進めるには公的支援をどう使うか?

自治体や商工会議所の支援策を組み合わせ、計画とKPIを準備して補助金・保証を活用します。資金余力が乏しいほど、自治体・商工会議所・信用保証制度の活用が効きます。支援窓口と連携して原価管理や収益構造を見直すと、経理効率化の投資余力も生まれます。

人手不足は、賃上げや採用難だけでなく「事業継続リスク」にもつながります。帝国データバンクの調査では、人手不足を要因とする倒産が高水準で推移していることが示されており、先送りほど損失が膨らみやすい課題です。公的支援は“攻めの投資”というより、止まらない経理を作るための保険として位置付けると判断しやすくなります。

相談先と使い方:支援策は“組み合わせ”が鍵

自治体や商工会議所の窓口では、デジタル化や人材育成に関する相談を受け付けています。最初に課題の全体像と目標(残業時間の削減や締め日の前倒しなど)を紙1枚にまとめて持ち込むと、適切な制度を紹介してもらいやすくなります。複数の支援策を組み合わせることで、初期費用や教育の負担を抑えつつ、段階的に導入を進められます。

実際に相談に行く前に、以下の「相談概要カード」「相談前チェックリスト」「課題メモ」「費用計画&KPI初期値シート(30・90日評価用)」「申請スケジュール逆算表」に記入しておくと、相談当日の会話が具体化し、採択・導入までの時間を短縮できます。

相談概要カード

相談窓口(例)○○市 商工課/商工会議所 経営支援室
想定制度(例)デジタル化支援補助金/人材育成助成/信用保証
相談目的(例)経費精算・請求書処理の電子化で残業月▲30%を目指す
担当者(例)経理部 ○○/総務 ○○(連絡先・内線)
想定スケジュール申請:YYYY/MM/DD|採択:YYYY/MM|導入開始:YYYY/MM|評価:YYYY/MM(90日)

相談前チェックリスト

準備物内容進捗
現状の課題サマリ(A4×1)滞留箇所・差し戻し要因・紙運用の実態を要約□ 未 □ 中 □ 済
月次KPIのベースライン1伝票処理時間/差し戻し率/遅延件数/1伝票コスト□ 未 □ 中 □ 済
業務フロー図(現状)受領→起票→承認→仕訳→支払の手順と待ち時間□ 未 □ 中 □ 済
見積書・概算費用ツール費/BPO費/教育費(内訳と算式)□ 未 □ 中 □ 済
体制・権限案閲覧/入力/承認の分掌、代理承認、監査ログ取得方法□ 未 □ 中 □ 済
投資効果の試算ROI=(削減工数×時給+削減委託費-月額費)÷月額費□ 未 □ 中 □ 済
申請スケジュール募集開始・締切・採択・導入・評価の逆算カレンダー□ 未 □ 中 □ 済
情報管理ポリシーファイル命名/保存先/アクセス権/バックアップ□ 未 □ 中 □ 済

課題メモ

現状の課題(例)紙の請求書が月○○枚。承認が属人化し締切遅延が月○件。
改善目標(例)90日で差し戻し率▲50%、1伝票処理時間▲30%、遅延0件
対象範囲(例)請求書受領~承認(第1フェーズ)→経費精算(第2)
想定ソリューション受領の一本化/自動起票/電子承認/監査ログ/教育
コストと効果月額費:¥____ / 削減工数:___h × ¥___ = ¥____ / ROI ____%
リスクと対策(例)“紙だけ例外”→期限付き移行/代理承認ルールを先決

費用計画&KPI初期値シート(30・90日評価用)

KPI定義導入前の基準値D30D90目標
1伝票処理時間入力~承認完了の平均(分)   —   —   —▲30%
差し戻し率差し戻し件数÷提出件数   —   —   —▲50%
締切遅延件数締切超過の完了件数   —   —   —0
1伝票コスト{(工数h×時給)+(委託費)}÷件数   —   —   —▲20%
簡易ROI(投資利益率)=(削減工数×時給+削減委託費-月額費)÷ 月額費 ×100

申請スケジュール逆算表

工程内容期限
募集要項の確認対象・要件・補助率・必要帳票を精査YYYY/MM/DD
見積・計画の確定機能要件・範囲・費用内訳・KPIYYYY/MM/DD(締切の-21日)
社内稟議稟議書・体制・権限・リスク対策YYYY/MM/DD(-14日)
書類作成・押印申請様式・別紙・誓約・添付証跡YYYY/MM/DD(-7日)
最終チェック不足書類・数値整合・電子申請テストYYYY/MM/DD(-3日)
提出電子申請/窓口提出(控え保管)YYYY/MM/DD(締切当日)

保証・補助・税制優遇の考え方

資金面の支援は、大きく保証、補助、税制の3つに分かれます。保証は資金調達の後押し、補助は導入費の一部負担、税制は減税で後押しする仕組みです。対象や要件は制度ごとに異なるため、見積書や計画書を早めに整え、スケジュールに余裕を持って申請します。導入の効果が数値で示せる計画は、審査でも評価されやすくなります。

導入後の定着に使う“教育費”の確保

ツールを入れて終わりではなく、現場が使いこなすための教育に時間と費用を配分します。月次での操作復習、質問の集約先、操作マニュアルの更新など、定着を支える仕組みをあらかじめ用意します。補助制度の中には教育費を対象にできるものもあるため、導入前に適用可否を確認しておくと無駄がありません。

経理の人手不足対策の成果は、どのKPIで“数字で語る”べきか?

処理時間・差し戻し率・1伝票コスト・遅延件数・検索性の5指標で、導入前後の改善を可視化します。月次でベースライン→改善幅を比較し、翌期の投資判断につなげます。以下は、経理の人手不足対策の効果を「時間・コスト・品質・検索性」の4軸で把握するためのKPIスコアカードのサンプルです。

表:中小企業経理の人手不足対策用KPIスコアカード

KPI定義計測方法(式)導入前の基準値D30D90目標
1伝票あたり処理時間入力~承認完了までの平均時間総処理時間(分) ÷ 伝票件数  ―  ―  ―▲30%
差し戻し率差し戻し件数の割合差し戻し件数 ÷ 提出件数  ―  ―  ―▲50%
1伝票あたりコスト人件費+委託費の単価{(工数時間 × 時給)+ 委託費} ÷ 伝票件数  ―  ―  ―▲20%
締切遅延件数締切超過で処理完了した件数遅延件数(当月集計)  ―  ―  ―0件
検索性達成率「日付・金額・相手先」で10秒以内に閲覧できた割合(10秒以内でヒットした件数) ÷ (抽出テスト件数)  ―  ―  ―95%以上
※ 導入前の基準値/D30/D90は「実測値を入力する欄」として空欄(―)にしています。必要であれば「0:00」など初期値を入れてください。

導入前の基準値(Baseline)、導入30日後(D30)、90日後(D90)を同じ条件で計測して比較します。簡易ROI(投資利益率)の算式は以下のとおりです。

ROI(%)=(削減工数×時給+削減委託費-月額費用)÷ 月額費用 × 100

まずは4指標:時間・コスト・品質・遵守

最初に見るべき指標は、処理時間、1伝票あたりコスト、差し戻し率、締め日や法要件の遵守状況です。これらは改善の効果が分かりやすく、現場の負担感とも直結します。指標は増やしすぎず、誰もが同じ定義で測れるシンプルさを重視します。

ベースラインの作り方と見直し周期

導入前の1~2か月で、現状の処理時間や差し戻し率を測り、ベースラインとして記録します。導入直後・30日後・90日後の3タイミングで同じ条件で再計測すると、効果の持続性や課題が見えてきます。数値が伸び悩む場合は、手順のボトルネックや教育不足を疑い、原因を特定して対策を打ちます。

ダッシュボードの最低限レイアウト

ダッシュボードは、月次の処理件数と処理時間、差し戻し率、未承認件数の4つを一画面で確認できる形にします。色分けは少なくし、閾値を超えた項目だけが目立つ設計にすると、管理者と現場の双方が迷いません。数値の推移と具体的な改善策を同じ場所に置き、会議の議題にそのまま使える形にしておくと定着が進みます。

中小企業の経理人手不足対策は、どこでつまずきやすく、どう防げるか?

紙の例外運用やSLA不明確、教育不足をチェックリストとFAQで先回りし、運用崩れを防ぎます。「紙が残る」「権限が曖昧」「委託と社内の境界がぼやける」という典型的なつまずきに先回りし、運用ルールと教育で未然に防ぎます。FAQとチェックリストで現場に落とし込むとよいでしょう。

“紙だけ例外”を作らない運用ルール

電子化を進めても、特定の書類だけ紙で回す“例外”を残すと、すぐに混乱が戻ります。例外を認める場合は期限と責任者を明確にし、最終的な保存先は必ず電子に集約する方針を徹底します。現場に理由を丁寧に説明し、移行のスケジュールを共有することが成功の鍵です。

委託先とのSLAと責任分界点

外部に作業を任せる際は、納期、品質、問い合わせ対応時間といった基準(SLA)を合意し、トラブル発生時の初動や連絡手順を文書化します。データの受け渡しや修正の指示は、履歴が残るチャネルに一本化します。責任の境界が曖昧だと、やり直しが増えてコストが膨らむため、契約前にきちんと線引きしておくことが重要です。

現場FAQと教育メニューの作り方

よくある質問を運用マニュアルと別に短いQ&Aでまとめ、検索しやすい場所に置きます。月次の振り返りでつまずきが多い項目を洗い出し、動画や画面キャプチャで手順を補足します。新しい人が入ってもすぐに追いつけるよう、初日に見る資料と30日目に見る資料を分けた教育メニューを用意すると、定着が早まります。

請求書支払業務を取り巻く内部統制・セキュリティコンプライアンスの課題と4つの解決策

実際の企業は、人手不足の経理をどのように“小さく始めて”立て直したのか?

請求書の電子化やスマホ経費など“体感の出る一点突破”を起点に、承認スピード・差し戻し率・1伝票コストの改善を可視化。社内の合意形成を得つつ、部門横断へ段階的に展開した4事例の共通点を抽出します。現場の負担を減らしつつ、運用ルールと保存要件を整える手順も具体的に示します。以下の事例を読み込んで、小さな成功を積み上げる道筋を確認しましょう。

秋川牧園:紙運用の壁を1点突破し請求書デジタル化を起点に横展開

紙伝票が多い環境でも、請求書処理の電子化から始めると短期間で効果が出ます。受領の一本化と承認の見える化により、処理の滞留が解消し、経費精算や支払手続きへの展開もスムーズになります。まずは件数が多く、関係者が多い業務から着手し、成果を共有して次の対象へ広げる流れが有効です。

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株式会社秋川牧園

信和ホールディングス:現場負担が大きい経費精算を先に是正し全社展開へ

現場の移動が多い部門では、スマホ申請に切り替えるだけで申請の滞りが減ります。紙の回収や手書きの不備が減るため、確認と起票にかかる時間もまとまって削減されます。部門単位で運用を試し、効果が確認できたらグループ内に横展開する手順が現実的です。

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誠光会:月500~600枚の請求書を可視化し滞留・紛失リスクを先に解消

受領から承認、回収までの流れを画面で追えるようにすると、未処理の把握と催促が容易になります。紙を集める運用では見えにくかった遅延要因が明らかになり、業務の前倒しが可能になります。可視化を土台にすれば、承認スピードや保存ルールの改善など、次の一手も打ちやすくなります。

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トリドールHD:店舗起点で紙郵送のボトルネックを外し1,000超店舗に横展開

店舗から本社への原本郵送をやめ、データで完結する仕組みに置き換えると、処理の早さと紛失リスクの低下が一度に実現します。まずは少数店舗で運用を固め、ルールを標準化してから段階的に対象を増やすと、規模が大きくても安定した移行が可能です。現場での使い勝手を優先した設定にすることが成功の決め手になります。

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最後に、本稿で紹介した対策を「いつ・何から進めるか」を、短期(〜3か月)と中期(〜1年)の時間軸で整理します。全てを一度に実現するのではなく、期間ごとに焦点をしぼって進めることが、現場の負荷を抑えながら定着させるコツです。

表:「短期(〜3か月)/中期(〜1年)」タイムライン

期間主な取り組み
短期(〜3か月)・請求書や経費精算の紙運用を洗い出し、「今日からやめる紙運用」チェックリストで削減を開始する。
・受け渡し動線チェックリストを使い、受付窓口・保存先・命名ルール・質問チャネルを整理する。
・標準帳票・フォルダ構成・簡易KPI(処理時間・差し戻し率)の計測をスタートする。
中期(〜1年)・BPOや派遣・パートの活用により、入力や突合などルール化しやすい業務から外部委託を試験導入する。
・請求書や経費精算の一部でRPAや経理AIエージェントを小さく導入し、処理時間と差し戻し率の改善を測定する。
・電帳法・インボイス対応を前提に権限・監査ログ・バックアップを整備し、必要に応じて補助金などの公的支援を活用する。

結局、中小企業の経理人手不足対策は何から始めるべきか?

経理の人手不足は、紙運用の見直しと業務の標準化から着手し、外部活用とAI導入を段階的に足し算するのが現実的な解決策です。作業を減らす設計(標準化・紙からの脱却)と、足りない力を借りる設計(BPO・派遣・外国人材等)、そして賢く機械に任せる設計(クラウド、RPA、経理AIエージェント)を小さく試して成果を確認しながら広げることで解けます。自治体支援や助成も組み合わせ、法対応と内部統制を土台にKPIで成果を可視化すれば、残業削減と定着率改善、ひいては経営の意思決定スピード向上に直結します。

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