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新リース会計基準の経過措置とは、適用初年度の負担を軽くするために認められた簡便的な取扱いの総称です。原則は新しい会計方針を過去のすべての期間に遡って適用することです。ただし、過去から新基準を使っていた場合との差額を累積的影響額として適用初年度の期首の利益剰余金で一度に調整し、その期首から新基準を適用する方法も選べます。この方法を選ぶと、前年度分として並べる比較情報を新基準で作り直す必要がなく、リースの識別や期首残高の算定にも複数の簡便計算が使えます。
どちらを選ぶにしても、出発点は既存の契約を全量洗い出し、契約ごとに判定の結果と理由を残すことです。本記事では、企業会計基準適用指針第33号の項番号にそって、経過措置の中身と適用初年度の実務手順を整理します。会計基準の変更点そのものは、新リース会計基準の対応ガイドで整理しています。
●新リース会計基準の対応と変更点に関する記事はこちら
新リース会計基準の経過措置とは
経過措置は、新基準を初めて適用する事業年度、つまり適用初年度に選択する取扱いです。企業会計基準第34号、いわゆる新リース会計基準は、2027年4月1日以後に始まる事業年度の期首から適用されます。2025年4月1日以後に始まる事業年度からの早期適用も可能です。会計基準が変わるときは、通常は過去の財務諸表も新しい方針で作り直します。その負担を減らす仕組みが経過措置です。12
原則は過去のすべての期間に遡及適用する
適用初年度の原則は、適用指針第33号第118項に定められています。「会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができる。」2
会計方針の変更に当たるため、会計上の変更を扱う企業会計基準第24号の遡及適用のルールに従います。遡及適用すると、比較情報として並べる前年度の貸借対照表と損益計算書も新基準で作り直すことになります。すべてのリースについて開始日まで遡り、当時の契約条件と割引率で使用権資産とリース負債を計算し直します。使用権資産はリースした資産を使う権利、リース負債は将来のリース料を支払う義務を表す科目です。契約件数が多い会社ほど、過年度の契約データが揃っているかが問題になります。
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経過措置は期首の利益剰余金で累積的影響額を調整する
第118項のただし書きが認めるのは、過去の財務諸表は直さず、期首で一度だけ調整する方法です。過去から新基準を使っていたと仮定したときの差額(累積的影響額)を期首の利益剰余金に加減し、その期首残高から新基準を適用します。企業会計基準委員会の解説ではこの方法を修正遡及法と呼び、IFRS第16号の修正遡及アプローチに相当します。ただし書きの方法を選んで初めて、リースの識別や期首残高の簡便計算といった個別の経過措置が使えます。23
経過措置は3種類に分かれる
適用指針第33号には、性格の異なる3種類の経過措置が置かれています。
▼ 新リース会計基準の経過措置の3つの種類(企業会計基準委員会「経過措置」解説資料をもとに作成)23
| 経過措置の種類 | 内容 | 適用指針の項 |
|---|---|---|
| 旧基準の経過措置の継続適用 | 企業会計基準第13号を適用したときに認められた経過措置を、新基準の適用後も続けられる。第13号の適用初年度より前に始まった所有権移転外ファイナンス・リースを賃貸借処理のまま続けている場合など | 第113項から第117項 |
| 修正遡及法を適用する場合の経過措置 | 第118項ただし書きの方法を選んだ借手と貸手が使える簡便的な取扱い。リースの識別、帳簿価額の引継ぎ、オペレーティング・リースの簡便計算、開示など。セール・アンド・リースバックと借地権の権利金の一部は修正遡及法の選択を問わず適用される | 第118項から第133項および第136項から第137項 |
| IFRS任意適用企業とその連結子会社の取扱い | 連結財務諸表にIFRSを適用している企業が個別財務諸表に新基準を適用するとき、IFRS第16号の経過措置またはIFRS第1号の免除規定を適用できる | 第134項から第135項 |
旧基準の時代から続くリースがある会社や連結でIFRSを適用している会社では、1つ目と3つ目も関係します。以下では2つ目を中心に見ていきます。2
新リース会計基準の遡及適用と修正遡及法の違い
原則どおり過去のすべての期間に遡及適用する方法を、以下では完全遡及と呼びます。両者の違いは、過去の期間をどう扱うかです。修正遡及法は比較情報を作り直さずに済み、簡便計算も使えるため実務負担が軽い一方、完全遡及は前年度との数値の連続性が保たれます。どちらも会計基準が認めた方法です。自社の目的と手元のデータで選びます。
完全遡及と修正遡及法の比較表
▼ 完全遡及と修正遡及法の違い(企業会計基準適用指針第33号をもとに作成)2
| 比較の軸 | 完全遡及(原則的な取扱い) | 修正遡及法(第118項ただし書き) |
|---|---|---|
| 過去の期間の会計処理 | リース開始日に遡って新基準で計算し直す | 過去の期間は直さない。適用初年度の期首残高から新基準を適用する |
| 比較情報の扱い | 前年度の貸借対照表と損益計算書を新基準で組み替える | 貸借対照表と損益計算書の組替えを行わない(第136項) |
| 期首の利益剰余金 | 過去の期間の修正を通じて調整される | 累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する |
| 使える経過措置 | リースの識別や期首残高の簡便計算は使えない | リースの識別の経過措置や期首残高の簡便計算を使える。帳簿価額の引継ぎ、使用権資産の算定方法、第124項の簡便的な取扱いはリース1件ごとに適用できる |
どちらを選ぶかの判断軸
判断軸は4つあります。1つ目は比較可能性です。前年度との財務指標の連続性を重視するなら、完全遡及に分があります。2つ目は過年度データです。リース開始日、当初の契約条件、当時の割引率が契約ごとに残っていなければ、完全遡及は現実的ではありません。3つ目は連結でのIFRS適用の有無、4つ目は監査法人との合意です。自社に合う方法は、既存契約を全量洗い出して過年度データの残り具合を確かめてから決めるのが順番です。2
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修正遡及法を選んだ場合に使える経過措置の一覧
修正遡及法を選んだ借手が使える経過措置は、リースの識別、旧基準の分類ごとの期首残高の算定、特殊な取引の3つに大別できます。帳簿価額の引継ぎと使用権資産の算定方法はリース1件ごとに適用するかどうかを選べるため、会社全体で一律に決める必要はありません。まず全体像を表にまとめます。
▼ 修正遡及法を選んだ場合に使える経過措置の一覧(企業会計基準適用指針第33号をもとに作成)23
| 区分 | 経過措置 | 適用指針の項 |
|---|---|---|
| 借手と貸手に共通 | 旧基準を適用しているリース取引はリースの識別を行わない、旧基準を適用していない契約は期首時点の事実で判断する | 第119項 |
| 借手 | ファイナンス・リースに分類していたリースの帳簿価額の引継ぎ | 第120項から第122項 |
| 借手 | オペレーティング・リースに分類していたリースなどの簡便計算 | 第123項から第124項 |
| 借手 | 会計方針の変更に関する影響の注記を2項目に置き換える | 第125項 |
| 借手 | セール・アンド・リースバックの取扱い(修正遡及法の選択を問わず適用)、借地権の権利金と建設協力金等の従来処理の継続 | 第126項から第130項 |
| 貸手 | 帳簿価額の引継ぎ、オペレーティング・リースを新たなリースとして扱う、サブリースの再分類 | 第131項から第133項 |
| IFRS任意適用企業 | IFRS第16号の経過措置またはIFRS第1号の免除規定の適用 | 第134項から第135項 |
| 借手の表示 | 比較情報の組替えを行わない | 第136項 |
| 借手と貸手の注記 | 比較情報には旧基準の注記事項を記載する | 第137項 |
時間軸の違いを図で確認したうえで、借手に関わる経過措置から順に押さえます。3

リースの識別の経過措置は2つの方法を組み合わせられる
新基準には、契約の中にリースがあるかを実態で判断するリースの識別の定めが新たに置かれました。この判断を過去のすべての契約について締結時に遡って行うと、相当のコストがかかります。そこで第119項は、2つの方法のいずれか、または両方を適用できるとしています。2
▼ リースの識別の経過措置(企業会計基準適用指針第33号第119項をもとに作成)2
| 方法 | 対象になる契約 | できること |
|---|---|---|
| 第119項(1) | 適用初年度の前年度末に旧基準を適用しているリース取引 | 契約の中にリースがあるかの判断を行わずに新基準を適用する |
| 第119項(2) | 期首時点で存在する、旧基準を適用していない契約 | 期首時点で存在する事実と状況に基づいて、契約の中にリースがあるかを判断する |
(1)は旧基準でリースとして処理してきた契約についてリースの判定をやり直さない方法、(2)は賃貸借契約やサービス契約を締結時ではなく期首時点の事実で判定する方法です。(2)を選んでも、期首時点で存在する契約の全量を確認する作業は残ります。洗い出しの進め方は別記事で解説しています。
●リース契約の洗い出し方法に関する記事はこちら
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ファイナンス・リースは前年度末の帳簿価額を引き継げる
旧基準でファイナンス・リースに分類していたリースは、前年度末のリース資産とリース債務の帳簿価額を、そのまま期首の使用権資産とリース負債にできます。リース1件ごとに適用でき、期首以降は新基準で会計処理する形です。ただし帳簿価額に残価保証額、つまりリース終了時の資産価値を借手が保証している額が含まれている場合は、期首時点で借手が支払うと見込まれる額に修正します。2
あわせて2つの継続が認められています。1つは、帳簿価額を引き継ぐ借手が旧基準で利息相当額を区分しない方法などを選んでいた場合です。使用権資産の総額に重要性が乏しいという判断基準を超えていても、期首の使用権資産とリース負債についてはその方法を続けられます。旧基準で重要性が乏しいとして賃貸借処理していたリースも、新基準の短期リースや少額リースの定めにかかわらず、その処理の継続が可能です。2
オペレーティング・リースは残りのリース料から簡便に計算できる
旧基準でオペレーティング・リースに分類していたリースと新たに識別されたリースには、期首残高を簡便に算定する方法があります。リース負債は、期首時点で残っている借手のリース料を、期首時点の追加借入利子率で割り引いた現在価値で計上します。追加借入利子率とは、借手が同じ条件で新たに借入をするとした場合の利率です。使用権資産はリース1件ごとに2つの方法から選びます。旧基準で土地と建物を分けずにファイナンス・リースに分類していた建物のリースにも、この簡便計算を適用できます。2
▼ オペレーティング・リースに分類していたリースの簡便計算(企業会計基準適用指針第33号第123項と第124項をもとに作成)23
| 項目 | 簡便的な取扱い | 適用指針の項 |
|---|---|---|
| リース負債 | 期首時点の残りのリース料を、期首時点の追加借入利子率で現在価値に割り引いて計上する | 第123項(1) |
| 使用権資産の方法1 | リース開始日から新基準を適用していた場合の帳簿価額。ただし割引率は期首時点の追加借入利子率を使う | 第123項(2)① |
| 使用権資産の方法2 | リース負債と同額。前年度末に計上していた前払いや未払いのリース料の分だけ修正する | 第123項(2)② |
| 減損 | 期首時点の使用権資産に固定資産の減損に係る会計基準を適用する | 第123項(3) |
| 少額リース | 少額リースの簡便的な取扱いで使用権資産とリース負債を計上しないリースは修正しない | 第123項(4) |
| 割引率 | 特性が似ているリースをまとめて1つの割引率で割り引ける | 第124項(1) |
| 残り12か月以内のリース | 残りのリース期間が期首から12か月以内なら、短期リースの方法で処理できる | 第124項(2) |
| 付随費用 | 付随費用を期首の使用権資産に含めないことができる | 第124項(3) |
| 延長・解約オプション | リース期間とリース料の決定に、リース開始後に得た情報を使える | 第124項(4) |
方法1と方法2の違いは、期首の利益剰余金に何が乗るかです。方法1では、リース開始日から新基準を適用していたと仮定した過年度分の減価償却等に相当する差額が、累積的影響額として期首の利益剰余金に加減されます。方法2は計算が軽い反面、方法1より使用権資産が大きく残り、その後の減価償却費が増えます。具体的な計算手順は、別記事で数値例つきで解説しています。23

●使用権資産の計算手順に関する記事はこちら
セール・アンド・リースバックと借地権と建設協力金は従来の処理を続けられる
売った資産を借り戻すセール・アンド・リースバック、借地権の権利金、店舗の出店時に差し入れる建設協力金の3つには、新基準の適用前の処理を引き継ぐ定めがあります。このうちセール・アンド・リースバックの取扱いと、償却していなかった借地権の権利金を償却しないことができる定めは、修正遡及法を選んだかどうかにかかわらず適用されます。2
▼ 特殊な取引に関する経過措置(企業会計基準適用指針第33号をもとに作成)2
| 取引 | 経過措置の内容 | 適用指針の項 |
|---|---|---|
| セール・アンド・リースバック | 売手である借手は、期首より前に締結した取引について、資産の譲渡が売却に当たるかの判断を見直さない。旧基準で繰り延べていた売却損益は、新基準の適用後も継続する | 第126項 |
| 借地権の設定に係る権利金等 | 新基準の適用後は権利金を償却する原則的な取扱いを採る借手が、償却していなかった旧借地権や普通借地権の権利金を期首に計上している場合、その権利金だけ償却しないことができる。修正遡及法を選ぶ借手は、償却していた権利金の前年度末の帳簿価額を期首の使用権資産として残りのリース期間で償却できる | 第127項から第129項 |
| 建設協力金等の差入預託保証金 | 将来返還される建設協力金等(敷金を除く)と、差入預託保証金のうち将来返還されない額について、適用前の会計処理を続けられる。前者に係る長期前払家賃と後者の前年度末の帳簿価額を、期首の使用権資産に含める方法も選べる | 第130項 |
店舗や事務所を多く借りる会社では、借地権の権利金と建設協力金の扱いが期首残高に効いてきます。契約時の意図が会計処理に反映されなくなるのを避けるため、従来の処理の継続が認められました。個々の取引の会計処理は、不動産賃貸借契約の記事で整理しています。2
●不動産賃貸借契約の新リース会計基準対応に関する記事はこちら
貸手とIFRS任意適用企業も経過措置を使える
貸手も修正遡及法を選べます。ファイナンス・リースに分類していたリースは前年度末のリース債権とリース投資資産の帳簿価額を引き継ぎ、分割払いの基準で繰り延べていた販売益は期首の利益剰余金に加算します。オペレーティング・リースに分類していたリースと新たに識別されたリースは、期首に新しく契約したリースとみなして処理できます。賃料が無償のフリーレント期間が終わっている不動産契約を、遡って修正する必要はありません。2
連結でIFRSを適用している企業とその連結子会社は、連結で使ったIFRS第16号の経過措置またはIFRS第1号の免除規定を個別財務諸表にも適用できます。連結向けに算定した期首の帳簿価額をそのまま使えるのが利点です。ただしセール・アンド・リースバックの取扱いは第126項が適用されます。2
新リース会計基準の適用初年度に経理がやること
適用初年度の実務は4つの手順で進みます。既存契約を全量洗い出してリースの識別を判定し、期首の使用権資産とリース負債を算定し、期首の利益剰余金を調整して仕訳を起票し、判定の結果と理由を台帳に残す流れです。経過措置をどう選ぶかは1つ目の手順が終わらないと決められないため、順番を入れ替えないことが大切です。

既存契約を全量洗い出しリースの識別を判定する
経過措置の選択は、既存契約の全量洗い出しが前提です。対象は賃貸借契約やリース契約と名の付くものだけではありません。保守契約や業務委託契約に含まれる設備の使用、店舗の出店契約に伴う建設協力金など、契約書の名称からは見えないものが各部署とグループ会社に散らばっています。
洗い出しの壁になるのは、契約書そのものが1か所にないことです。TOKIUM契約管理は、社内に散らばった契約書を1か所に集めて一元管理し、AIで取引先名や契約期間、自動更新の有無を読み取って台帳を自動作成します。契約書PDFとリースの判定結果を同じ画面で横並びに確認できるため、洗い出しと判定を別々のツールで行き来せずに進められます。4
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期首の使用権資産とリース負債を算定する
洗い出しが終わったら、契約を旧基準の分類で仕分けし、期首残高を作ります。順番は3段階です。まず少額リースの簡便的な取扱いを選ぶ契約と、期首から12か月以内に終わる契約を対象から外します。次に旧基準でファイナンス・リースだった契約の帳簿価額を引き継ぎます。最後に旧基準でオペレーティング・リースだった契約と新たに識別した契約で、残りのリース料の割引と使用権資産の算定を行います。この段階で、複数のリースに単一の割引率を使うか、付随費用を除外するか、延長オプションの判断に後から得た情報を使うかも決めます。
期首の利益剰余金を調整し適用初年度の仕訳を起票する
期首残高が揃ったら、適用初年度の期首に使用権資産とリース負債を載せ、差額を利益剰余金で調整します。何が差額になるかは前の章で見た算定方法の違いで決まり、仕訳の型は次の3つです。3
▼ 適用初年度の期首の仕訳の型(企業会計基準適用指針第33号第120項と第123項をもとに整理)23
| 期首の仕訳の型 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| オペレーティング・リースを使用権資産の方法1で計上 | 使用権資産、利益剰余金(過年度分の減価償却に相当する差額) | リース負債 |
| オペレーティング・リースを使用権資産の方法2で計上 | 使用権資産(前年度末の前払いや未払いのリース料の分だけ修正) | リース負債、前払リース料などの振替 |
| ファイナンス・リースの帳簿価額の引継ぎ | 使用権資産(旧リース資産の帳簿価額) | リース負債(旧リース債務の帳簿価額。残価保証額があれば支払見込額に修正) |
オペレーティング・リースの簡便計算で計上した期首の使用権資産には減損会計基準を適用するため、閉店予定の店舗や稼働率の低い設備があれば減損の要否をこの時点で確認します。2
判定結果と判定理由を台帳に残す
帳簿価額の引継ぎや使用権資産の算定方法はリース1件ごとに選べるため、どの契約にどの経過措置を使い、なぜそう判定したかを残さないと、後から説明できなくなります。判定結果と判定理由が残る台帳がないと、注記に必要な差額の説明も、監査法人への説明も、翌期以降の再測定もできません。洗い出しの段階で作る判定根拠の記録に加えて、次の項目を契約ごとに持たせます。
▼ 経過措置の選択について台帳に残す項目2
| 台帳に残す項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| リースの識別の結果と理由、参照した契約条文 | 第119項のどちらの方法で識別したかを示し、監査法人に根拠を説明する |
| 旧基準での分類 | ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかで、使える経過措置が変わる |
| 適用した経過措置と適用指針の項番号 | 第120項の引継ぎか、第123項の簡便計算かをリース1件ごとに記録する |
| 使用権資産の算定方法と割引率 | 方法1か方法2か、単一の割引率を使ったかを残し、後述の注記の集計に使う |
| 期首の利益剰余金への調整額 | 累積的影響額の内訳を契約単位で追えるようにする |
| 旧基準の未経過リース料の注記に含めていたかの区分 | 解約不能のオペレーティング・リースか、解約可能か、ファイナンス・リースかを分け、後述の注記の差額説明の内訳にそのまま使う |
| 判定日と監査法人との合意日 | 判断の時点を明確にし、担当者が交代しても説明を保てるようにする |
TOKIUM AI新リース判定は、リースが含まれる可能性の判定にあわせてAIが判定理由を示し、根拠とした契約書の条文を同じ画面でハイライト表示します。判定結果と根拠条文はCSV形式でダウンロードでき、リース資産管理システムへの取り込みや監査対応に使えます。567
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新リース会計基準の比較情報の作成と適用初年度の注記
修正遡及法を選んだ借手は、比較情報の貸借対照表と損益計算書を組み替えず、比較情報の注記も旧基準の事項を記載します。代わりに、期首のリース負債に適用した割引率と、旧基準の未経過リース料との差額の説明の2項目を注記します。未経過リース料とは、前年度末時点で支払いが残っていたリース料です。完全遡及を選ぶなら比較情報を新基準で作り直します。
修正遡及法では比較情報を旧基準のまま表示する
第136項により、修正遡及法を選んだ借手は適用初年度の比較情報を新しい表示方法で組み替えません。前年度の貸借対照表にはリース資産とリース債務が旧基準のまま載り、損益計算書の費用も賃借料のままです。3月決算で2028年3月期から適用する会社なら、2027年3月期の数値は旧基準、2028年3月期の数値は新基準で並ぶことになります。前年度と当年度の数値の断絶は、次の項で説明する差額の注記で補います。2

適用初年度は旧基準の事項と経過措置固有の2項目を注記する
適用初年度の注記は、当年度の分、比較情報の分、経過措置固有の分の3つに分けて考えます。当年度の分は新基準が求めるリースの注記です。比較情報の分には、旧基準である企業会計基準第13号と適用指針第16号の注記事項を記載します。そして会計方針の変更に伴う影響額については、企業会計基準第24号第10項(5)の注記に代えて、次の2項目を注記する定めです。2
▼ 修正遡及法を選んだ借手が適用初年度に注記する2項目(企業会計基準適用指針第33号第125項をもとに作成)2
| 注記の項目 | 内容 | 準備しておくデータ |
|---|---|---|
| 追加借入利子率の加重平均 | 期首の貸借対照表に計上したリース負債に適用している、借手の追加借入利子率の加重平均 | 契約ごとの期首リース負債の額と適用した割引率 |
| 未経過リース料との差額の説明 | 前年度末に旧基準で開示したオペレーティング・リースの未経過リース料を追加借入利子率の加重平均で割り引いた額と、期首の貸借対照表に計上したリース負債との差額の説明 | 前年度末の未経過リース料の注記額と、差額の内訳。たとえば新たに識別したリース、解約可能なリースで新たに計上した分、ファイナンス・リースから引き継いだ分、短期や少額の扱いで除いた契約の額 |
差額の説明に使う内訳は、判定結果と理由が契約ごとに台帳に残っていないと集計できません。2
完全遡及を選ぶ場合は比較年度を新基準で作り直す
完全遡及を選ぶ場合は、比較年度の期首時点の使用権資産とリース負債、比較年度の減価償却費と利息を新基準で計算し直します。比較年度の取引を新旧両方の基準で記録しておかないと、後から比較情報を作れません。
新リース会計基準の経過措置を選ぶときの注意点
注意点は3つあります。リース1件ごとの選択と会計方針の一貫性、監査法人との事前協議、早期適用する場合の期首と比較年度です。
リース1件ごとに選べる経過措置は方針を文書化する
帳簿価額の引継ぎ、使用権資産の算定方法、第124項の簡便的な取扱いは、リース1件ごとに適用できます。契約ごとに有利な方を選ぶことも制度上は可能ですが、根拠なく使い分けると恣意的とみられます。資産のカテゴリや金額の規模ごとに、どの経過措置を使うかの基準を先に決めて文書に残すのが実務上の落としどころです。基準を決めておけば、期中に新しい契約が見つかっても同じ物差しで処理できます。2
監査法人と事前に協議する項目を決めておく
協議の材料になるのが、適用初年度の手順の章で作った判定台帳です。判定の結果と理由が契約ごとに並んでいれば、グレーな契約だけを抜き出して協議でき、合意した結論をそのまま台帳に戻せます。協議しておきたい項目は次のとおりです。
▼ 経過措置について監査法人と事前に協議しておく項目2
| 協議する項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 移行の方法 | 完全遡及か修正遡及法か。リースの識別に第119項のどちらを使うか。第119項(1)の対象に解約可能なオペレーティング・リースやリースと役務が混在する契約を含めるか |
| 期首残高の算定方法 | 使用権資産の方法1と方法2の使い分け、単一の割引率を使う範囲、追加借入利子率の決め方 |
| 免除規定の範囲 | 短期リースと少額リースの基準、期首から12か月以内に終わるリースの扱い |
| 判定に迷う契約 | 業務委託契約に含まれる設備など、リースの識別で判断が分かれる契約の扱いと根拠 |
| 注記の内容 | 追加借入利子率の加重平均と差額説明の集計方法 |
早期適用する場合は期首と比較年度が前倒しになる
早期適用しても経過措置の内容は変わりません。変わるのは期首と比較年度です。3月決算の会社が2027年3月期から早期適用する場合、適用初年度の期首は2026年4月1日、比較年度は2026年3月期になります。1
新リース会計基準の経過措置対応を契約情報の一元管理から始めるならTOKIUM契約管理
経過措置を選ぶにも、期首残高を作るにも、注記の差額を説明するにも、出発点は同じです。既存契約が全量手元にあり、契約ごとに判定の結果と理由が残っていることが前提になります。
TOKIUM契約管理は、契約書の一元管理と、新リース会計基準に向けたリースの識別のAIサポートを1つの基盤で扱うサービスです。社内に散らばった契約書を、紙は郵送するだけのスキャン代行で、電子データはアップロードで一元収集します。集めた契約書はAIで台帳化し、契約内容をもとにリースが含まれる可能性を判定します。根拠となった条文は契約書PDFにハイライトされ、TOKIUM AI新リース判定ではAIの判定理由と該当条文を同じ画面で照らし合わせられる仕組みです。経理AIエージェントTOKIUMシリーズは累計3,000社以上が導入し、TOKIUM契約管理は上場企業300社以上に導入されています。4568
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導入後の運用を誰が回すかも、選ぶときの判断材料です。資産カテゴリごとの判定基準は自社で設定でき、監査法人と合意した事項を判定基準に反映できます。契約の更新期限が迫ると毎月1日に担当者へメールで通知されるため、適用初年度に作った台帳を翌期以降も見直すきっかけを持てます。使用権資産やリース負債の計算と注記の作成は会計システムや監査法人の領域ですが、その手前の契約の収集とリースの識別を、スキャン代行とAI判定で進められます。新リース会計基準への対応をご検討中の方は、TOKIUM契約管理の資料をご覧ください。47
まとめ
新リース会計基準の経過措置は、適用初年度の負担を減らすために適用指針第33号が認めた簡便的な取扱いです。修正遡及法を選べば、累積的影響額を期首の利益剰余金で調整し、比較情報を組み替えずに済みます。リースの識別、帳簿価額の引継ぎ、オペレーティング・リースの簡便計算はリース1件ごとに使え、代わりに注記2項目を記載する形です。どの方法を選ぶにしても、既存契約の全量洗い出しと、契約ごとの判定結果と理由の記録が先になります。
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新リース会計基準の経過措置に関するよくある質問
短期リースや少額リースは適用初年度に修正が必要ですか
修正遡及法を選ぶ場合、短期リースや少額リースの修正は原則として不要です。旧基準で重要性が乏しいとして賃貸借処理していたリースはその処理を続けられ、少額リースの簡便的な取扱いを適用するリースは修正しません。期首から12か月以内に終わるリースも、短期リースの方法で処理できます。少額リースの基準額や短期リースの要件は、別の記事にまとめています。2
中小企業も経過措置の選択が必要ですか
経過措置の選択が必要なのは、新リース会計基準を適用する会社だけです。監査対象法人以外の中小企業は、中小企業の会計に関する指針や基本要領に基づく会計処理を続けられるため、新基準を適用しない限り経過措置の選択は生じません。9
●中小企業がリースを資産計上しない場合の判定に関する記事はこちら
適用初年度より前に契約条件を変更したリースはどう扱いますか
リース負債と、使用権資産を方法2で算定する契約は、期首時点の残りのリース料をもとにするため、過去の条件変更を遡って処理し直す必要はありません。使用権資産を方法1で算定する契約は、リース開始日後の条件変更の定めも適用して計算します。適用初年度以後に条件変更があった場合の再測定は、別の記事で扱います。2
税務にも経過措置はありますか
税務にも経過措置はあります。ただし会計の経過措置とは別の制度です。令和7年度税制改正では、令和9年3月31日以前に契約した所有権移転外リース資産のうち、取得価額に残価保証額相当額を含むものについて、経過リース期間定額法を選定できる経過措置が設けられました。対象資産のすべてに適用し、税務署への届出書の提出が要ります。法人税の取扱いと申告調整は、別の記事で解説しています。9
IFRS第16号の修正遡及アプローチと同じですか
IFRS第16号の修正遡及アプローチと考え方は同じですが、中身は一部異なります。適用指針第33号はIFRS第16号の経過措置をできる限り採用しつつ、旧基準からの移行を考慮して一部を修正しました。とくにリースの識別の経過措置は、旧基準でリースとして扱っていなかった契約の中にリースがある場合があるため、IFRS第16号と異なる設計です。2
貸手のリース会社も経過措置を選べますか
貸手も経過措置を選べます。ただし、リース取引を主たる事業とする会社は、旧基準の経過措置の継続のうち一部を適用できない定めがある点に注意してください。2
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- 企業会計基準委員会「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」(2024年9月13日公表)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針」(2024年9月13日公表)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- 企業会計基準委員会「経過措置」解説資料(2025年3月7日公表・PDF)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- TOKIUM「TOKIUM契約管理」製品ページ(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- TOKIUM「TOKIUM AI新リース判定」製品ページ(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- TOKIUM「TOKIUM AI新リース判定、AI判定の根拠条文をハイライトする機能を追加」(2026年7月30日公表)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- TOKIUM「TOKIUM AI新リース判定、資産カテゴリ別に判定基準をカスタマイズ可能に」(2026年5月15日公表)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- TOKIUM「経理AIエージェントTOKIUM、累計導入社数が3,000社を突破」(2025年12月4日公表)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎
- 国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」D 新リース会計基準に対応する改正(PDF)(最終確認日:2026年9月8日) ↩︎


